黙示録騎蝗~非道効率

作者:柊透胡

 ――注いだグラビティ・チェインは、孵化に足る最小限。
 目の前のコギトエルゴズムが、徐々に変化していく様を、蟷螂型のローカストは感情篭らぬ複眼で眺めていた。
 ――――!!
 緑深い森に雄叫びが轟く。掌に乗る程度の宝石から、蟷螂ローカストを見下ろすに至る長躯に孵ったのは、簡単に喩えるならば『鎌首もたげる水晶百足』。
 ――モット。
 地を這うような、剛岩が軋むような唸りが、森閑としていた空気を震わせる。
 ――モット、グラビティ・チェインヲヨコセ!
「欲しければ、自分で奪ってくるのだな」
 長躯の髄まで干上がった底知れぬ飢餓感に任せ、今しも暴れ出さんとしたローカストを、音もなく現れた一群が取り押さえる。
 ギチギチと口惜しげに牙鳴らす水晶百足を見下ろし、蟷螂ローカストは冷徹に言い放った。
「ここから、暫し下山した先に山小屋がある。そこに群れる地球人共を襲うがいい」
 ローカストが鎌を振って顎をしゃくれば、水晶百足を取押さえていた一群は、やはり無言のまま、その方向へ長躯を追い立てる。
 ――オノレ、イェフーダー。ワシノハラガミチタアカツキニハ、タダデハスマサンゾ!
「……」
 イェフーダーと呼ばれた蟷螂ローカストは何も答えない。だが、水晶百足の姿が視界から消えるに至り、吐き捨てられた言葉は更に非道なるものだった。
「タブラウル、残念ながら、お前が奪ったグラビティ・チェインは、全て、太陽神アポロンに捧げられるだろう」

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 集まったケルベロス達を見回し、都築・創(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0054)は静かに口を開く。
「ローカストの太陽神アポロンが、次の作戦に着手した模様です」
 創の表情はいつものと変わらず冷静そのもの、というには眉間の皺が深い。それでも、淡々と現状を解説していく。
「不退転侵略部隊の侵攻をケルベロスの皆さんが防いだ事で、ローカスト……アポロンは大量のグラビティ・チェインを得る事が出来ませんでした。それで、新たにグラビティ・チェインの収奪を画策したという訳です」
 その作戦とは――コギトエルゴスム化しているローカストに、最小限のコギトエルゴスムを与えて復活。そのローカストに人間を襲わせてグラビティ・チェインを奪うというものだ。
「ローカストを放つという点は、これまでもよく見受けられたケースですが……復活させられるローカストは、戦闘力は高いがグラビティ・チェインの消費が激しいという理由で、コギトエルゴスム化させられていた類のようです」
 故に、最小限のグラビティ・チェインしか内包していないといっても、侮れない戦闘力を持つ。
「更に、グラビティ・チェインの枯渇による飢餓感から、人間を襲う事しか考えられなくなっている為、復活ローカストが反逆する心配もありません」
 そして、仮に、復活ローカストがケルベロスに撃破されたとしても。最小限のグラビティ・チェインしか与えていない為、損害も最小限――効率的だが非道な作戦だ。
「この作戦の指揮官は、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』率いる、イェフーダーというローカストのようです」
 まずは、復活させられたローカストを迎撃する必要があるが、何れは、イェフーダーと直接対決する必要があるだろう。
「皆さんに向って戴くのは、長野県と山梨県の境にある八ヶ岳。この辺りは火山地帯の為、多くの温泉が出ますが、復活ローカストはこの山奥にある温泉宿の1つを目指しています」
 その姿を喩えるなら「水晶百足」。水晶の如き透明で堅固な装甲に覆われ、鋭い水晶牙を具えた巨大百足だ。
「タブラウルと呼称されており、全長は3m、といったところでしょうか。単独の出現ですが、その戦闘力はけして侮れません」
 八ヶ岳は迫力ある眺望と四季折々の景観が素晴らしく、絶好の登山シーズンである今頃は訪れる者も少なからず。このまま温泉宿を襲われては、けして見過ごせぬ被害が出る事になるだろう。
「ヘリオンの演算により、タブラウルの進行ルートは判明しています。皆さんは、ヘリオンからの直接降下でタブラウルの進行を阻み、撃破して下さい」
 タブラウルは水晶の牙で敵を食い破り、腐食の毒を撒き散らす。又、水晶の如きその長躯に光を乱反射させ、敵群を炎上させる事も出来るようだ。
「タブラウルにとって、最優先は生命維持の為のグラビティ・チェインの奪取。とても理性ある会話が出来る状態ではありません。グラビティ・チェインが枯渇しているとはいえ、油断せず必ず撃破して下さい」
 太陽神アポロンの卑劣な作戦は、何としても阻止しなければならない。
「皆さんの武運を、お祈りしています」


参加者
佐竹・勇華(パルメザンパルチザン・e00771)
清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)
シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・e02527)
物部・帳(お騒がせ警官・e02957)
馬鈴・サツマ(小物臭漂う植物使い・e08178)
餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298)
軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)

■リプレイ

●ケルベロス見参!
 ――――!
 狂おしいまでの咆哮が、八ヶ岳に轟いた。
 のたくる長躯は、木々を薙ぎ倒し、茂みを蹴散らし、只管に疾駆する。
 もう少し、後少し――この先に群れる人間共を呑めば、干上がった此の身も潤う筈。
 飢餓の焦燥はグラビティ・チェインを貪婪に求め、暴走は腹が満ちるまで収まらない。
 だが、数多を呑んだ所で、奪う端から総て暴神に捧げられる事を、タブラウルは知らない。
 このまま狂奔が止まる事は無いだろう――誰かが阻まなければ。
「ケルベロスの勇者、佐竹勇華! ここでお前を止める!」
 力強い名乗りと共に、蔓と化した桜の枝がうねり迸る。佐竹・勇華(パルメザンパルチザン・e00771)は、水晶の長躯を力を込めて引き絞った。
 ――――!!
 瞬間、光刃が爆ぜた。立ち塞がる前衛を熱線が舐める。
「っ!」
 即座の反撃は呵責無い。クリスタルレイから、咄嗟に勇華を庇うヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)。ヒールドローンを飛ばそうと身動ぎすれば、火傷の痛みがジクリと疼く。
「全く、酷い作戦だよね」
 ちょっと、否、大分嫌な感じがした。損害最小限の作戦と言えば賢明とも取れようが。到底、『仲間』の扱いとは思えない。
「こんな風に切り捨てるのは、あまりにも冷酷すぎると思うぞ!」
 ヴィの言葉に、小さく頷くシェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・e02527)。
(「……馬鹿げて、ます……こんな……真綿で、首を絞めるような……」)
 助けられる『命』は助けたい――幼いながらも医師の志高い少女は、ふと迷う素振りを見せたが、逸早く、同じくメディックの軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)がサークリットチェインを展開し、物部・帳(お騒がせ警官・e02957)がジャマーの位置からオラトリオヴェールを編む。仲間のヒールを見て取り、自らの治癒力向上を優先する事にした。
「オペを、開始します。速度強化結界、展開!」
 少女が敷いた医療結界は、元より地力の高いヒールを更に確かなものとするだろう。
 その判断の正しさを、餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298)は身を以て実感している。
 元より、範囲型の攻撃は分散する分、威力は低めの傾向にある。ディフェンダーの身で、防具耐性も合致していれば尚の事――だが、双吉と帳の範囲型ヒールを続けて受けても癒しきれぬとすれば、ポジションは恐らく。
「クラッシャー、ですか」
 底知れぬ飢餓感に、搦め手を講じる余裕など皆無だろうが、防御も構わぬ吶喊の威は、けしてけして侮れぬ。
「私がお相手をして差し上げますよ」
 だからこそ、ラギッドは鉄塊剣を構える。単純かつ重厚無比の一撃が、いっそ敵を挑発する。
(「仲間を捨て駒にか……ほんとロクでもない奴を残してしまったっすね」)
 常ならば、下っ端気質全開の馬鈴・サツマ(小物臭漂う植物使い・e08178)も、芋の薬毒で前衛を支援するその横顔は、打って変わって真剣そのもの。
「可哀想だとは思うが、だからといって殺させる訳にもいかないんでな」
 ――――!!
「腹減ってんなら握り飯の一つくらいほどこしてやれるけどよー、人肉は喰わせてやれねぇんだよっ!」
「俵藤太伝説の再来、といったところでありますかな? 最後の矢まで放たずとも倒せるよう、精々頑張るとしましょうか」
 獰猛な雄叫びにも怯みもせず、双吉と帳は士気高く頷き合う。
「でっかい多脚やな……ダブラウル、アラビア語で『結晶』て意味やっけ。……そのまんまやな」
 全身を地獄の炎で覆い尽くしながら、呆れた風情の清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)だが、実は百足は苦手なのでやや及び腰。
(「ああいうのが、仰山ぞわぞわっていうのは苦手なんよね」)
 敵が単体で良かったと、心底思う。という訳で、仕切り直し。
(「こういう、ぎりぎりになった時の作戦は大体、外道なもんよな」)
 つまりは、こちらも手心不要。眼差し鋭く、身構える。
「この道を修羅道と知り、推して参る」

●狂騒と奮起
 ――――!!
 撒き散らされた腐食の毒が、等しく前衛に降り注ぐ。
 悪臭に、顔を顰めるのも束の間。ぐっと踏ん張った光のトレッキング型エアシューズが、唸りを上げる。
「戦いは足下からやるもんや」
 だが、暴風伴う回し蹴りを浴びても、タブラウルは然して痛痒を感じなかった模様。単体相手に範囲型グラビティは、クラッシャーであってもダメージは薄い。敵に砕くべき強化も無ければ尚更、レガリアスサイクロンの選択は惜しい。
 続いて飛び掛った勇華は高速演算を以て痛撃を繰り出そうとするも、上回るスピードで回避された。
 ――……ヲ……。
 金属が軋るような、くぐもった声音が地を這う。
 ――……グラビティ・チェイン、ヲ、ヨコセェェッ!
(「不退転の虐殺の次は、味方を捨て駒にした作戦だなんて……」)
 渇き切った怨嗟を真っ向から浴び、勇華の表情が険しくなる。
「形振り構わないと言ってしまえばそれまでだけど、無茶苦茶だね……」
 既に温泉宿への避難勧告は、ヴィのアイズフォンで為されている。ヘリオンから降下後、流石にキープアウトテープを巡らせる暇までは無かったが、温泉宿の方角を背に敵の進路を阻むよう布陣している。
 必ずや、ここで止めねばならない。万が一に突破されて犠牲者が出るなど、けして許さない!
「行きはよいよい帰りは怖い……中には二度と帰れぬ場所もあるそうで」
 さり気なく、登山道に出る方角を塞ぎ、巫術用リボルバー銃『捕鳥部万』を構える帳。
「いやはや、なんとも可哀想な話でありますなあ」
 轟く銃声。水銀の弾丸を呼び水に、丹生に座す女神が燃え盛る真紅の沼を水晶百足の下に創出する。凄絶なる禁則地が、その硬質な装甲に何処まで通じるかは文字通り神のみぞ知る。
 やはり範囲攻撃が厄を齎すには枷ともなろうが、ジャマーの厄は掛かりさえすれば重い。
「神に死毒を、人には糧を!」
 見た目に違わぬ水晶百足の硬さは、初撃からも窺えた。長期戦を覚悟して、サツマはもう暫く、馬鈴式戦陣農園を展開して前衛の援護に徹する。人を癒すと同時に神を殺す芋の毒で、戦況を優位に変えるべく。
「攻撃対象捕捉。目標を破壊する」
 続いて、ヴィが水晶装甲を爆破せんと碧眼よりメーザーを照射するも、タブラウルは同時にクリスタルレイを掃射。不可視のマイクロ波を相殺した。
「無駄に硬いは炎は出すは、本当に嫌になりますねぇ」
 思わず、顔を顰めるラギッド。敵は、相当にしぶとい。与ダメージを量るにも、水晶百足は常に激昂状態。弱点の有無を始め戦闘力の詳細を見極めるのは、却って難しい。
「しかしながら、炎を出せるのはそちらだけではないのですよ。倍にして返します!」
 意気軒昂に山肌を蹴るや、ローラーダッシュの摩擦熱が炎と化す。ラギッドのグラインドファイアが百足の装甲を幾許かでも砕いたのは、命中率を考えれば僥倖であっただろう。
「……っ」
 だが、ジワリと身を灼く毒の不快感に、ラギッドは小さく唇を噛む。その僅かな変化も見逃さず、シェスティンは柔和な薄紅の瞳を翳らせた。
 ケルベロスの眼力を以てしても、敵味方のダメージの明確な数値化は叶わない。それでも、シェスティンのメディックとしての経験が、仲間の負傷を推し量る。
 恐らくは前衛全員、まだ軽傷程度。少女のヒールなら可能な限り癒せるだろうが、生憎と範囲型ヒールは用意していない。
「任せろ、こっちの光は優しいぜ」
 視線の意図を察し、双吉は肩並べる少女に頷き返す。
「速度強化結界、展開!」
 再び敷かれたシェスティンの医療結界が、双吉の治療速度を高める。そうして、サツマの芋の薬毒でも癒しきれぬ前衛の怪我を、双吉のオラトリオヴェールがヒールし、腐食毒をも掃った。
(「ネフィリア戦じゃあ、役に立つ前に糸に沈んだ。戦争でも途中で前線から退いた。もうこれ以上、虫公共相手に遅れをとれねぇぜ!」)
 ラギッドやシェスティン、かつて一緒に戦った2人の勇姿は否応もなくネフィリア戦での不覚を思い出させる。
 もう倒れないし誰も倒れさせない――眼鏡越しの眼光鋭い双眸に、奮起と決意を込めて。

●光明は己が手で掴むもの
 戦いは続く。
 ――――!!
 雄叫びが轟いた。のたくる長躯をたわめ、水晶牙で喰らい付くタブラウル。
「くっ!」
 ラギッドのオウガメタル、妖鎧『黒薙』が主を護らんと蠢くも競り負けた。すかさず、シェスティンのウィッチオペレーションと双吉の分身の術が、相次いでダメージを癒す。
 ――グラビティ・チェインヲ、ヨコセェェッ!
(「正直、この百足も気の毒だとは思う。思うから、出来る限り早く終わらせる!」)
 絶対に人を襲わせたりなんてさせない! ――痛ましげな表情も束の間。両の鉄塊剣を握り直したヴィは、十字の斬で地獄を顕現せんと。
(「先の戦争でのローカストの強さは、故郷と同胞の為に死力を尽くす士気の高さだった。確かにこいつは死に物狂いではあるが……お前達は自分達の最大の武器を手放したぞ」)
 内心で吐き捨てながら、サツマはファミリアシュートを放つ。ラギッドも応酬のジグザグスラッシュを奔らせた。
「ぼちぼちやな」
 鉄塊剣で敵の範囲攻撃を受け流す一方、光は逆手のゲシュタルトグレイブを空へ射出する。
 降り注ぐ槍の雨を縫うように、爪先が描く軌道は三日月の弧の如く。桜花壱式・弧月――水晶百足の頭部目掛けて、勇華はバック転するように下から蹴り上げる。
 ――――!!
 飢餓に狂う水晶百足に、次々と攻撃を繰り出すケルベロス達。だが、その攻撃全てが、効果的だったとは言い難い。
「水晶の体とは、また厄介でありますなあ。銃弾もまるで通りません」
 そんな言葉を嘯きながら、目にも止まらぬ速さでトリガーを引く帳――だが、禁足地の神隠しに続くクイックドロウは見切られた。尤も、回避された原因はそればかりでも無いだろう。
 基本、1対多で戦う事からも判るように、デウスエクスは強い。格上を相手取るならば、例えば、攻撃を引き受けるディフェンダーをメディックが支える間に、スナイパーの足止めを足掛りにジャマーが敵を弱体化、封殺した上でクラッシャーが圧殺する――役割分担、つまりポジションの構成が重要となる。
 だが、今回、反撃の起点となるべきスナイパーはいない。更に、足止め技を活性化しているのはクラッシャーの光のみ。だが、当人はスターゲイザーを使う心算は余り無いようだ。
 一方で、双吉と勇華は捕縛技を準備していたが、メディックの双吉は回復重視であり、敵の回避率を下げるのは、勇華のストラグルヴァインが散発するのみという状況だった。
 どれ程威力が大きい攻撃も、命中せねば無為となる。戦況を優位に運ぶ第一段階は、如何に迅速に『全員の攻撃が当たるようにするか』。その一点は各々の地力任せという、危うい賭けに出ていたと言えよう。
 結果、大半のケルベロス達が目していた通りの長期戦となっていった。
「地の利ぐらいは欲しいもんやな」
 山肌のでこぼこを避け、足場を固めながら仲間と息を合わせて攻撃を繰り出す光。
 早々に、ラギッドが敵に植えた『怒り』は1度の付与でも頻度は高い。だが、タブラウルの攻撃は範囲型が多い。
「この程度で膝をつくような柔なもんやあらへんよ」
 光は強気に啖呵を切ったが、ラギッドが標的であっても、光線が炎上し腐食毒が煙る度、前衛全体に軽くない負担が掛かる。
「貧して鈍したな! テメェが焼いたのは偽者だ!」
 尤も、ディフェンダーが庇えば被害は半減。シェスティンと双吉、メディックらのヒールも前衛に集中出来るので、幸か不幸かの判断は人それぞれとなろう。
「降魔の力を拳に纏って……食らえぇぇぇぇぇ!!!」
 そのヒールを待たず、降魔真拳を繰り出す勇華。既にヴィの目指す短期決戦は叶わぬも、こまめにシャウトしながら倦まず水晶の装甲に刃を突き立てる。
「うーん、流石の戦闘力。やはり生存が懸っていると違いますね」
 飄然とした帳の口ぶりは相変わらず。次の瞬間。愉しげに碧眼を細める。
「ふふふ、罠を張っておいた甲斐があったというものです」
 強力なバッドステータス程、その発動率は低い。その典型は『パラライズ』だ。だが、時間と手数を費やし、厄を積み続ければ――サツマが序盤から重ねてきたエフェクト付与率の向上とジグザグ技の支援の甲斐もあり、弛まぬ根気はとうとう実を結ぶ。
 ――オ、オノレェェェッ!
 真紅の沼に長躯を半ば沈ませ、タブラウルは吠える。その水晶の装甲は今や無数に罅割れ、燃える硫化水銀の沼より発生した亜硫酸ガスと水銀蒸気が、敵の狂乱を封じる。
「さあ、反撃と行きましょうか!」

●長きの果てに
 漸く掴み得た勝利の糸口。後は、放さず貫き通すのみ。
「めでたしめでたし、と参りましょうな」
「よし、キアイ入れて行くぞ!」
 帳の時空凍結弾と同時に、満を持して繰り出されるヴィのタルタロスクラッシュ。今度こそ、地獄の毒を帯びて十字の斬が刻まれる。
 ――グラビティ・チェインヲォッ! グラビティ・チェインサエアレバ!!
「神の為にここまで出来るものなのかな……味方を捨て駒になんて」
 怨嗟を吐き続けるタブラウルを前に、勇華は拳を握り締める。憐れを覚えども、少女にもけして譲れぬ矜持はある。
(「大切なものを守る為、私はどこまでも強くなる!」)
 渾身の降魔真拳は、今、彼女の出し得る最大の一撃。
「こんな下策……必ずやイナゴの佃煮にしてやる。太陽神『アホロン』!」(誤植ではありません)
 気炎吐くサツマのチェーンソーが唸りを上げる。攻撃を被る度、時空凍結に苛まれて絶叫するタブラウルを、双吉は憐れみ篭った眼差しで見詰める。
「来世じゃ、争いのない処に生まれられるようにな」
 祈りと共に本願投影、シアターオン!(詳細略。取り敢えず、敵を幻影で油断させて不意打ちするオリジナルグラビティらしい)
「復活したばかりやけど、これでさよならや」
 散り乱れ、緋色の花を咲かせ――緩やかな動きから一転、風に散華する芙蓉の如く、光の追撃は壮絶にして容赦ない。
「はい、さよなら、です」
 最後まで戦線を支え続けたシェスティンの囁きは死出の手向け。彼女のエレキブーストに賦活され、ゆうらりと立つラギッドから禍つ影が滲み出る。
「岩の下で大人しくしていればいいものを……そろそろいいだろう。百にばらけて屍をさらせ」
 侵略者に同情はしないが、一角の戦士が使い潰されていく現状は、長き戦いの末の勝利の昂揚をも濁らせる。
(「早くアポロンを壊さないとな」)
 地獄化したラギッドの胃袋は不気味極まる歯牙を剥き、獰猛にタブラウルに喰らいつく。幾度も幾度も幾度も幾度も――。
 グギャァアァァッ!!
 煌く水晶片を散らし、大百足は絶叫と共にその巨躯を烈火の沼に沈めた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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