「うーん、なかなか見つからないなぁ……」
八月に入りますますその日差しを強くする太陽の光を遮る木陰の下、少女はペットボトルを片手に足を止め、周囲をぐるりと一望する。
目に入るのは視界いっぱいの木々と、ともすれば見失ってしまいそうな細い林道だけ。
心地よい風が吹き、緑のにおいを胸いっぱいに吸い込みながら、少女はよしと気合を入れなおし、再び歩き始める。
「楽しみだなぁ、ウサギ穴」
少女は呟きながら、ポケットから取り出した雑誌の切り抜きに目を落とす。
信憑性のない噂話やオカルト記事ばかりを取り扱うことでその手の筋に有名なその雑誌の記事を少女は熱心に読み返しては興奮に頬を染める。
「時計を持ったウサギさんとかいるといいなぁ」
夢見がちに呟く少女は蝉の鳴き声や木々の揺れる音に耳を傾けながら、まだ見ぬ何かを探してずんずんと林道を進む。
ふと少女は視界の端に映る木の影から覗く黒い布の端に気づく。
駆け足で少女の駆け寄ったその先には、黒いローブを身に纏う、人影が手斧ほどの大きさの鍵を掲げて待ち構えていた。
驚きと困惑を隠せない少女の胸元に鍵が突き立つ。
その一突きで少女は傷を負うこともなく、ただ眠りにつく。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
言葉と共に引き抜かれた鍵と共に、少女の傍らになにかが形を成す。
それは二本の足で立つ、服を着た白い兎、あわてるようにその兎がその場を立ち去ると、少女の体だけがその場に残されていた。
「兎といえば皆さんは何を連想しますか? 童話、因幡、月等々、あげだすときりがないとは思いますが――」
やってきたケルベロス達に紅茶を配膳しつつ、ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は水色と白を基調としたエプロンドレスを翻し、首を傾げた。
「まぁニアが何を連想したのかはさておき、ここ最近起きている不思議なな物事に興味を持つ人がドリームイーターに襲われる事件により、また新たなドリームイーターが生まれてしまいました。
というわけで皆さんにはこのドリームイーターが明確な被害を出す前に、倒してきて欲しいわけです」
ティーポットを置いたニアはそのまま席には座らず、手元の端末を眺めながら説明をはじめる。
「被害者となった少女は、とあるゴシップ雑誌に影響されて大きな兎の穴を探していたらしく、現れたドリームイーターは二足歩行をする兎の姿をしています、詳しい外見についてはデータを送っておくので確認しておいてください」
端末を操作しながらニアはこのドリームイーターの特徴について説明を続ける。
この白い二足歩行の兎は人を見つけると時間を尋ねてくるという特性を持っており、正確な時刻を教えられなければ襲い掛かり、正しい時刻を教えればそのまま慌てて走り去って行くのだという。
「なんだかかわいそうですけど走り去って行くところを後ろから強襲なんてのも、まぁ作戦として使えないこともないでしょう。良心がすこぅし痛みますがね?」
目を細め悪戯っぽくニアは笑みを浮かべた。
「敵の使用するグラビティはいやらしいものが揃っていますね、時間の巻き戻しによる回復、魔法で作り出す落とし穴、それに爆発する分身を身代わりにする等々、なんだか急に憎らしくなってきますね? 不思議なものです」
ニアは目標についての説明を終えると、しばし端末に映る兎の姿を満足気に眺めたあと顔を上げる。
「見た目はかわいい兎さんでも中身は結局ドリームイーターですし、心置きなくボコボコにしてあげてください。そうすれば意識を失ったままの被害者の方も目を覚ますはずです。皆さんの活躍期待していますよ」
参加者 | |
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春日・いぶき(遊具箱・e00678) |
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107) |
鳴無・央(緋色ノ契・e04015) |
暁・万里(紅蓮の飼い猫・e15680) |
スピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678) |
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469) |
アウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848) |
ゴルディエル・グランナッゾ(銀眼王ゴルディエル・e29079) |
●
市街地から随分と遠い木々の茂る林の中は眩しいくらいの緑に溢れ、時折吹く風は涼やかで街中に比べると幾分過ごしやすい。
揺れる木漏れ日と共に、風に吹かれる季節はずれのマフラーを飛ばされぬよう、丁寧に手で押さえながら鳴無・央(緋色ノ契・e04015)は広大に広がる林の景色に視線を彷徨わせている。
「大きな兎の穴は何処かしら? ここら辺に在ると聞いたわよね」
アウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848)はそう言葉を発しつつ、央と同じ様に、あたりを注意深く観察しながら歩いていく。
「ウサギ穴ねえ……」
興味深そうに表情を和らげているアウレリアに対しスピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678)はどこか皮肉めいた表情を浮かべつつ、掌の中でコインを弄ぶ。
「雑誌に載るってことはだいぶ曰く付きの場所だよな」
「いったいどこに繋がってるんだろうね。穴の先が不思議の国だったら面白いのにな」
「さすがにそんなことはないと思いたいがね」
スピノザと暁・万里(紅蓮の飼い猫・e15680)は言葉を交わしつつ、笑みを浮かべているもののそんなことがあり得るなどとは思ってはいない。
彼らケルベロスがこうして一堂に会し行動を共にするその理由はデウスエクスが出現したからに他ならない。
他人の興味から生まれたというドリームイーターをおびき寄せるために、彼らはこうして周囲を探索しつつ、その標的についての噂話を続けていた。
「しかし、そんなに大きな穴にすむウサギさんは、きっと大きくて可愛らしいのでしょうね」
「その上時計をもっているとなると、愛らしいという言葉では表現しきれないかもしれません……」
事前に知らされていた情報から、敵の姿を想像する春日・いぶき(遊具箱・e00678)と朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)の二人が身振り手振りを交え、頬を緩ませつつ話す横で、ゴルディエル・グランナッゾ(銀眼王ゴルディエル・e29079)はその立派な顎鬚を撫でつつ、ふむと一つ息を吐いている。
「動物も今や時間を気にせねばならぬ時代ということなのじゃろうか、世知辛い世の中じゃ……」
「たしかに今の世にはなんともマッチした姿だな」
ゴルディエルの呟きにクオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)は小さく笑いを漏らしつつ、彼の顔から視線を下げ、ふとわきに目をやったところでピタリと足を止めた。
それに気づいたケルベロス達も、どうしたものかとそちらへと視線を投げて固まる。
彼らの視線の先、飛び跳ねる大きな影がこちらへと向かってきている。
大きな時計と杖を脇に抱え、チョッキを着た大きな白兎がまるで冗談のようにケルベロス達の前までやってきてその足を止めた。
兎はその場で足踏みするかのように飛び跳ねつつ、口元ももごもごと動かしていて落ち着きがない様子だ。
「大変だ、遅刻、遅刻してしまう! そこの君達今はいったい何時だい?」
早口で捲くし立てるように兎は問いかける。
あまりに慌てすぎて、小脇に大事そうに抱えた自らの時計のことなど忘れてしまっているようだ。
「おお、お前さんが兎か……」
兎の慌てた様子とは対照的に、ゴルディエルはゆっくりと言葉を返す。
じれるように兎は足踏みを速くする。
「時間? はて、何時じゃったかの……陽の傾きを見るに、夕方くらいかのぅ……」
首を傾げもったいぶりつつ、木々に阻まれはっきりとしない太陽の位置を確かめるようにゴルディエルが答えると、兎は自由な片腕をぶんぶんと振り上げて飛び跳ねる。
「貴重な時間を浪費した上に何たる不正確! もうよい主は下がっておれ!」
ふいとゴルディエルから視線を逸らした兎は、ニコニコと笑みを浮かべたままその様子を見ていたいぶきへと詰め寄るとすがるように問いかける。
「もし、そこの君、今何時か?」
「十四時をすこしまわったところですね」
「おぉ! それは何たる吉報! 刑に処されずすみそうである。済まぬ若人、助かった」
いぶきが何かを返すよりはやく、兎は飛び跳ね林の中へと向かっていこうとする。
しかし、ふと何かに気づいたように足を止め、今更ながらに小脇に抱えた時計を両手に持ちなおし、それをしげしげと眺めると、突如ぴょんと高く飛び跳ね、すぐさまいぶきの前へと駆け戻る。
「そこの若人! 何が十四時過ぎか! もう十六時をまわっておるでないか!」
地団駄を踏みつつ兎が叫ぶのを気にした様子もなく、笑みを崩さずいぶきは涼しい顔でかえす。
「えぇ、そうですね」
「笑顔で平然と嘘をついた上に悪びれもしないとは恐ろしい! ひっとらえて裁判にかけてやる!」
杖を振り上げ、兎がこれ以上ないとばかりに怒りをあらわにすると、忽然といぶきの足元の地面が消失する。
真っ暗な穴が口を開け、足場を失ったいぶきの体が重力にひかれ落ちて行く。
「いぶき掴んで」
その体が暗闇に飲み込まれるよりも早く、万里の伸ばした漆黒の鎖がいぶきの腕に絡みつき、いぶきが掴んだのを確認すると、万里は一気にいぶきの体を引き上げる。
ぴょんぴょんと楽しそうに飛び跳ねていた兎は、その光景に手にしていた杖をぽとりと落とす。
そんな兎の様子に、ほんのすこしだけ躊躇いをみせつつも口元を引き結んだほのかは掌を向け、意識を集中する。
「戦いを始めます」
頭の中のスイッチを叩くように、言葉とともに彼女の纏う雰囲気が鋭く冷ややかなものへと変わる。
掌から顕現した幻影の竜はようやく事態を理解し始めた兎の体を丸呑みにし、その視界を炎で埋め尽くした。
●
「ま、まさか、貴様らは悪名高い番犬……!?」
白い毛並みと高そうなチョッキに焦げ痕のついた兎は怯えるような目でケルベロス達を見る。
「だとしたらどうするんだ?」
好戦的な笑みを浮かべ、大剣と槍を構えたクオンが脅しかけるように自らの体に地獄の炎を纏わせると、兎はびくっと高く跳ね両の前足で頭を抱え、目線だけを彼女に向ける。
「そ、それは……」
「それは?」
「逃げるに決まっているであるー!?」
驚いた拍子に手放した杖と時計を拾い上げ、臆病な兎は文字通り脱兎の如く逃げ出した。
「ま、そんな都合よく逃がすわけがねーんだけどよ、それ以上は進ませねーぜ?」
スピノザのリボルバーから撃ちだされた銃弾は狙いを違わず兎の体を撃ち抜く。
それがただの野兎であればその一発の弾丸でケリがついていたであろうが、あくまで目の前の兎はドリームイーターであり、スピノザもそれを重々に承知している。
だからこそ、普通の弾丸など放つわけもなく、よろけた兎の体は、急激に変化した重力により鼻先から地面へと叩きつけられる。
滑る事も転がることもなく、柔らかな林の腐葉土に顔をめり込ませた兎は必死にじたばたともがき脱出を試みるものの、その間にケルベロスたちにあっさりと囲まれてしまう。
土を払い落とすために兎がぶるぶると頭を振るのにあわせ、可愛らしくその耳が揺れる。
そして顔を上げた兎はすっかりと周囲を囲まれているのに気づいて今度は体をぶるぶると震わせた。
「お、おおおお、おちつくであるよ!」
慌てふためきケルベロス達を宥めようとする兎を前に、ジリジリと彼らは距離を詰め、包囲を狭める。
「そうですね、おたがいのんびりといきましょうか」
笑いながら近づくいぶきの姿に、ホッと胸をなでおろそうとした兎はしかし、その手に握られた毒々しい色と禍々しいマークのついた投射用カプセルに気づき目をむいた。
「や、やはり貴様は嘘吐きであるな! なんであるかその禍々しいカプセルは!」
「ご心配なく、痛みはありませんので」
「絶対嘘であるー!!」
いぶきの細められた目の奥、怪しく光るその色に気づいた兎は慌てていぶきから距離を取ろうと飛び上がる。しかし、カプセルから噴出されたガスの範囲外へと逃げることは到底出来ず、目元と鼻先をしきりにかきつつ、兎は包囲するケルベロス達の間を抜け逃げようとする。
「逃げないで、じっとしていて」
行く手を阻むように立ちふさがったアウレリアの腕から、主の命を受けたブラックスライムが大きく口を開いて、兎へと襲い掛かる。
スライムの顎が音をたてて閉じられると腰から上を失った兎の体がモザイクの断面を晒し、ころりと地に転がる。
あっけない幕引き、等ではない。
強い光を発したその兎の半身に気づいた央は咄嗟に紙兵を周囲に展開。
それとほぼ同じタイミングでクラッカーのような気の抜けた音が響き、兎の半身が爆発する。至近からのその爆発にまともに巻き込まれればケルベロスと言えども痛手を受けることは間違いなかったが、収まった粉塵から現れたアウレリアに目立った外傷はない。
変わりに彼女の足元には、央が展開した紙兵が焼け焦げ地に落ちていた。
「平気か?」
「大丈夫よ、ありがとう。それよりも……」
軽く咳き込みながら、アウレリアは木陰からこちらをこっそりと覗いていた兎の方を睨む。すると兎はすぐさまそこから飛び出して逃走を開始する。
「やれやれ、あやつを追いかけた先には何があるんじゃろうの?」
「兎の穴は沢山みることになりそうだね、王様」
ゴルディエルと万里のそんなやり取りを耳にしつつ、ケルベロス達は兎に誘われるように林の奥へと走り始める。
●
逃げる兎の背に、ゴルディエルの振り下ろした斧の一撃が深々と突き立つ。
縦にさっくりと割れたと思われた兎の体は次の瞬間、その脇に抱えていた時計が一瞬光り輝くと、時を巻き戻すかのように兎は、ゴルディエルの背後に数秒前の姿で現れる。
「や、やはり番犬は野蛮で恐ろしい存在である」
「子供らしい微笑ましい夢を奪う外道など、儂の斧の錆にしてくれるわ」
ゴルディエルの振り向きざまの一閃が兎の耳の先をかすめる、ぺたんと耳を倒した兎はついには四本脚で駆け出す始末だ。
「逃がさない」
すぐさまほのかの放ったオーラの弾丸が逃げる兎を追い込むように誘導し、着弾。ころころと転がった兎が顔を上げると、目の前には炎を纏った大剣を振りかざしたクオンが待ち構えている。
咄嗟に分身と入れ替わり、穴へと潜り込もうとした兎よりも早く、クオンの一閃が唸りを上げる。
「その攻撃……叩き斬るッ!!」
一文字に振りぬかれた斬撃は分身を断ち切り、その奥の兎の本体にも浅くない傷を負わせる。
地を転げ、炎に焼かれ、真っ白だった体毛も煤け、土に汚れまだら模様になった兎は、もはやその赤い瞳に涙を浮かべて逃げ回るので精一杯だ。
「傍から見たらどっちが悪者だかわかったもんじゃないな」
苦笑しながらスピノザはそう呟くものの、ケルベロス達は追撃の手を緩めることはない。
スピノザの放った矢が兎の体を貫き、息つく暇もなくいぶきが迫る。
「お忙しいところ恐縮ですが、僕ともっと遊びましょうよ」
「絶対にいやであるー!?」
退路を塞ぐように立ちはだかられた兎は泣きそうな声で叫びながらいぶきの振るう両のナイフを必死でかわす。しかし繰り出される斬撃は徐々に正確さをまし、兎の体にいくつもの傷を刻んで行く。
そうしていぶきが兎を足止めしている間に、央は魔法の詠唱を終え、生み出した白銀の武装を手に兎へと切りかかる。
咄嗟に兎は央の足元に大きく口を開く深い穴を開くものの、その切っ先は既に兎を捕らえている。
兎の胸元に突き立った刃から文字とも記号のともとれぬそれらの羅列が兎の体へと流れ込み、その足元をまるで鎖のように締め上げる。
それと引き換えに央の体は底も見えぬ暗闇へと落下を始める。
冷静に受身を取るべく身構えていた央であったが、その衝撃はあまりにも早く、横方向からやってきた。
ゴルディエルが央の体を弾き飛ばし、代わりにその穴の底へと落ちていく。
「王様!」
すぐさま穴の縁へ駆け寄り万里がその中を覗き込むもののゴルディエルの姿は見当たらず、呼びかけに対する返事もない。
ケルベロス達の心配もつかの間、ゴルディエルの体は遥か上空から木々の枝をへし折りつつ、戦場のど真ん中へと落ちてきた。
すぐさま万里が治療のため駆け寄るとゴルディエルは頭を振りつつ起き上がる。
「不思議の国はお気に召さなかった?」
「侵略者共がおらんかったからの」
その軽いやり取りに、他のケルベロス達は内心胸を撫で下ろしつつ、目前の捉えられた兎へと意識を戻す。
あがけども央の施した呪縛はその体を地へと縛りつけ、逃げることを許さない。
じたばたと暴れる兎の前に、アウレリアが一歩進み出る。
「少し悪戯が過ぎたわね」
突き出した杖に手を添え、兎を見据える。
「御伽の世界にお還りなさい」
その短い言葉と共に、兎の体に線が走る。
右腕、脇腹、左脚、左耳、胸元、そして首。
どこからともなく現れた真っ白な鳥が、アウレリアの構えた杖にとまる。
それを合図としたかのように、兎の体中にひかれた線を境に、その体がバラバラに分解される。
普通の生物であれば噴出す筈の血を持たないそのドリームイーターは、断面のモザイクを晒しながら地に落ちると、そのまま散り散りのモザイクとなって虚空へと溶けて消えていった。
●
日も傾き始め一足早く暗くなり始めた林の奥、意識を取り戻した少女最初に目にしたのは指先から血を滴らせ薄い笑みを浮かべる息吹の顔であった。
「目が覚めましたか?」
「あ、はい……」
立ち上がる少女は、ほんの少し頬を染めながら見覚えのない辺りの景色をきょろきょろと見回す。
「先程まで悪いものがおったが、もう大丈夫じゃよ」
屈みこみ目線をあわせるゴルディエルに少女は一瞬驚くものの、その温かみのある声色と態度に少女は緊張を解いて首を傾げる。
そんな少女に事情を説明すべく、万里が口を開こうとしたところで、ほのかがその服の裾を軽くひいて、首を小さく横に振る。
「その、終わったことですし、あとから怖い思いをする必要はないと思うんです」
「……それもそうだね」
一つ頷いた万里は、ゴルディエルと同じ様に少女と目線を合わせると笑みを浮かべて口を開く。
「僕等は実は兎の穴を探しに来たんだ、君もそうなんだろう?」
万里のよく回るその口に、スピノザは苦笑しつつも、口裏を合わせるように、少女に声を投げる。
「暇なら俺達と一緒にウサギ穴、見に行ってみるか?」
頷き返す少女の顔は喜色満面で、もはや自分が眠っていた経緯など気にした様子もなく、今にも歩き出しそうな勢いだ。
少女のその嬉しそうな態度に、クオンは優しげな視線を向けたあと、肩を竦め央とアウレリアに向けて視線を送る。その意味を理解し二人は小さく頷きを返した。
クオンとアウレリア、央の三人は少女に見つからないようにこっそりと林の奥へと消えて行く。
少女の夢を壊さぬため、大穴一つと兎の足跡だけを残し、他の数え切れない沢山の戦闘の傷跡だけを綺麗に消し去るために。
作者:雨乃香 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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