頑固一徹☆おやじカフェ

作者:狐路ユッカ

●頑固一徹
 筆で書いた『おでん』『やきとり』の文字、純和風居酒屋の店舗内でケンジは深いため息をついた。
「……はぁ」
 壁には、頑固そうなオヤジ達の写真が貼ってある。そのオヤジスタッフも、次々辞めて行った。その結果、この店は閉店に追い込まれたのだ。
「……頑固おやじカフェ、絶対流行ると思ったのにな……」
 彼が呟いた非常にパンチの効いた名称のカフェは、流行する前にスタッフの欠如で潰れてしまったのだ。
「てやんでぃ! お、おめぇのために作ったわけじゃ、ねぇからな! あ、余っただけなんだからなっ」
 料理を出すときの台詞を言ってみる。虚しく、がらんとした店内に響いた。ため息をもう一つ。
「……っう!?」
 そのとき、ケンジの背後から大きな鍵がケンジの胸を貫いた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 頽れたケンジの背後に立っていたのは、第十の魔女・ゲリュオン。ケンジの傍らに、ケンジそっくりのドリームイーターが生まれる。
「お、おめぇのためじゃ、ねぇんだからなっ☆」
 モザイクのねじり鉢巻きにTシャツにすててこ腹巻のオヤジドリームイーターは、ケンジを店のバックヤードへ移動させると、意気揚々として店の暖簾を出すのだった。

●てやんでい
「自分のお店って憧れるよね~」
 僕も天然石のショップとかやりたいなー、そう呟いて、秦・祈里(ウェアライダーのヘリオライダー・en0082)はハッとする。
「あ、本題に入るね。今回現れるドリームイーターは、お店を持つっていう夢を叶えたのにそのお店が潰れちゃって後悔している人の『後悔』を奪ったんだ。もうそのドリームイーターは姿を消しちゃったみたいなんだけど、奪われた『後悔』が現実化して、事件を起こそうとしているんだよ……!」
 被害が出る前にこのドリームイーターをやっつけなくちゃ。と祈里は手をぎゅっと組む。ドリームイーターを倒せば、被害者のケンジも目を覚ますとのことだ。
「ええと、みんなが戦うのはケンジさんのお店『頑固おやじカフェ』の中だね。ここはもうつぶれちゃったお店だけど、ドリームイーターの力で営業を再開しているんだ。まあ、カフェって言うか居酒屋なんだけど……オヤジ型ドリームイーターはね、ツンデレオヤジになりきって色々攻撃してくるよ!」
 何それ。何それとしか言えない。
「あ、そうそう、いきなり攻撃を仕掛けるんでも良いけど、少しだけ戦闘前に接客に付き合って心から楽しんであげたら、ドリームイーターは満足して弱体化するよ。それに、ケンジさんも少し胸がスッキリするかもしれないよね」
 コンセプトは僕もよくわかんないけど、と言いかけて祈里は首を横に振る。
「後悔は奪っていい物じゃない。それを糧に人は成長するんだもん。だから、皆、どうかドリームイーターを倒して!」


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
アレクセイ・ディルクルム(狂愛月下香・e01772)
ヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577)
市松・重臣(爺児・e03058)
七種・徹也(玉鋼・e09487)
マルガレーテ・ビーネンベルク(銀十字の盾・e26485)
玄乃・こころ(ナイトメアハンター・e28168)
クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)

■リプレイ


 頑固おやじカフェの前に来て、ケルベロス達はうーんと首をひねった。
「なかなかチャレンジャーな店主だな……」
 だがそういうのは嫌いじゃない、と店構えを見つめるのは七種・徹也(玉鋼・e09487)。
「ツンデレおやじカフェ……どの層を狙ったコンセプトなのか」
 アレクセイ・ディルクルム(狂愛月下香・e01772)は頭を抱える。そもそも、頑固おやじはツンデレではないし、キャラがブレまくっている。頑固おやじに需要がないわけではないけれど、要素を詰め込みまくって大失敗してしまったパターンだろうな、とアレクセイは思った。たぶん、その認識は間違っていない。うんうんと橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)が頷く。
「絶対これツンデレオヤジって言葉の意味勘違いしてるわよね……」
 はぁー、とどこからともなくため息が聞こえる。気を取り直し、芍薬はぐっとこぶしを握り締めた。
「ま、目的はドリームイーター討伐だけど、折角なら楽しまなきゃ損よね。ってわけで、いざ頑固おやじカフェ!」
 そう、事前に聞いていた情報から、ドリームイーターを満足させてやることで弱体化させるという作戦だ。
「頼もう!」
 勇ましく店の扉を開けたのは市松・重臣(爺児・e03058)だ。
「よっ! あんたの為に来てやったわよ」
 芍薬が声をかけて、席に着く。くるりと振り返ったおやじ型ドリームイーターが、一本調子なセリフを言った。
「おう、来たか! 何食うんだ!」
 重臣も、傍らに八雲をちょこなんとお座りさせてテーブルに着いた。同じ親爺同士、心行くまで付き合おう。重臣はメニューを見て『おすすめ』と書かれたおでんを注文する。徹也はその横に腰掛けると、常連の客を装ってこう言った。
「おやっさん、いつもの焼き鳥」
「あ、じゃ私もヤキトリの盛り合わせ。ツンデレ多めで超特急でよろしくー♪ 飲み物は……仕事前だしアルコールは止めておくか。オヤジ、ウーロン茶頂戴」
 黙って頷いてカウンターで作業を始めるドリームイーター。マルガレーテ・ビーネンベルク(銀十字の盾・e26485)は非常に微妙な表情を浮かべ、聞こえないようにぽつりとつぶやいた。
「個人的には悪く無いと思うのだけれど……親父カフェ。けれど毎日来たくはないし、そういうことなんだろうね……」
 クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)はというと、ほんのり頬を染めてひそかに胸を高鳴らせている。記憶がなく、人付き合いが難しい状態の彼女だが、本当は人恋しいのだ。そんなところにツンデレのおやじがやってきたとなると、なんだか無性にうきうきドキドキしてしまう。ちらちらと焼き鳥を焼く手を見ながら、クロエは、意外といいかもしれないなんて思い始めていた。
 アレクセイは、なんだか複雑そうな顔でおやじを見つめている。
(「愛しの姫なら大歓迎ですが中年オヤジのツンデレはあまり趣味では……」)
 そこまで思いかけて、首を横に振る。これは仕事……仕方のないこと……。
「いえ、仕方ありません。少々付き合って差し上げましょう」
 小さな小さな声で一人ごちる。そして、おやじに向かって彼も焼き鳥を一皿注文するのだった。


 出来上がった焼き鳥をどんっと机において、おやじは決められたセリフを言う。
「別におめぇの為に作ったんじゃねえぞ!」
 重臣はノリノリで返した。
「別にお前さんの為に来た訳じゃないんだからね!」
 心なしか、おやじ型ドリームイーターはなんだかうれしそうだ。徹也は焼き鳥を頬張ると苦笑して見せる。
「おやっさんには敵わねえなァ」
「これは……よい焼き加減ですね」
 アレクセイが称賛すると、それに同調するように玄乃・こころ(ナイトメアハンター・e28168)が頷いた。
「おじさん、おかわり」
 マルガレーテができるだけ無邪気な子供を装って大きな声で言う。打ち合わせ通り、少し遅れて店に入ってきたのはヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577)だ。
「こんばんはぁ……」
 なんだか疲れた様子で、椅子に座る。
「えっと、おすすめ、何ですか……?」
 今日の彼女は新人OLさんという設定だ。上司に無理難題を押し付けられて疲れ切ったところ、この店を見つけたのでふらりと立ち寄った……そんなイメージらしい。おやじ型ドリームイーターは、黙っておすすめのはり紙を指さした。
「あ、じゃあおでんで……」
 うなずくも、おやじ型ドリームイーターはその場を動かない。
「てやんでい……?」
 元気がなさそうなヒルデガルトの顔を覗き込んでくるではないか。
「実はね、会社で上司と上手くいってないの。……新人だからって甘えてるつもりはないのよ。どう見ても八つ当たりなんよ! いっそ殴っちゃおうかと思うけど、そりゃマズイっしょ。……おやっさんならどうする?」
 おやじ型ドリームイーターはぽんっとヒルデガルトの肩を叩き、待ってましたとばかりに叫ぶ。
「てやんでい!!」
 このセリフが言いたかったのだろう、というか、インプットされているセリフが限られているのだろう。でも、立派に接客ができてうれしかったのだろうか、ドリームイーターを包む禍々しい気が少し、薄れているような気がした。
「ちょっと気が合うかもしれん……とか、思ってないんだからね!」
 重臣はくっと奥歯を食いしばる。意気投合しそうな気しかしていなかったが、きっとこのドリームイーターの元になったおやじとは気が合うに違いない。なんだか、ドリームイーターさえ殴りづらくなりそうでとても辛い。
 すっかりテーブルの上のものを片付けると、重臣は立ち上がった。
「さて、実に愉しい一時を有難うのう」
 うんうんとうなずき、芍薬は笑う。
「謎コンセプトにギョッとしたけど、料理の味は悪くないし良い居酒屋じゃない。オヤジのキャラも面白いし」
「き、気が向いたらまた来いッ」
 重臣はおやじ型ドリームイーターの声に悲しげに眉を寄せる。
「……『また』があれば良かったんじゃが――すまぬな」
 これより儂は鬼になる。
 重臣の声を合図に、戦闘が幕開けたのであった。


「起業の夢を人を害することに利用されては私の姫も悲しみましょう……返していただかねば」
 アレクセイはすっと立ち上がると宵闇の唄を走らせ、スターゲイザーをドリームイーターに叩き込む。間をあけず、芍薬もナイチンゲールを加速させて同じように飛び蹴りを放った。
「ぐぅっ……」
 ドリームイーターは足をもつれさせる。そこを狙い、ヒルデガルトがさらにスターゲイザーをお見舞いした。足止めの嵐に、ドリームイーターは唸る。そして、大きな声を上げた。
「かああぁぁっつ!!!」
「!!」
 プロテクターで覆った地獄化した左腕を大きく伸ばし、徹也はマルガレーテを背に庇う。
「俺が支えてやるッ! 全力で行けェ!」
 びりびりと震える大気のダメージを受けながら、徹也は叫んだ。薄く纏わせた地獄の炎が、仲間たちの力を高めていく。続けてモザイクのビール瓶を振りかざしたドリームイーターめがけ、クロエはぽつりとつぶやいた。
「悪くないコンセプトと接客……でも、所詮君は偽者」
 クロエも小さな店を営むものとしてこの事件は他人事とは思えなかった。だからこそ、受け止めて前に進んでもらうために……クロエは掌からドラゴンの幻影を放ち、ドリームイーターを焼き払う。
「ギャアアァッ」
 その隙に、マルガレーテは徹也へと気力溜めを施した。
「大丈夫……?」
「ああ、助かった」
 痛みに耐え、立ち上がる。
「……っばっかもーん!!」
 その声は、ドリームイーターのものではなかった。重臣だ。なぜかその身をすててこ腹巻のアルティメットモードに変えて、ファミリアシュートを力いっぱい振るっているではないか。親爺同士の視線が絡む。そんな重臣の背後から躍り出たこころが、旋刃脚を放つ。よろりとバランスを崩したドリームイーターは、モザイクのビールをどこからともなく取り出すと、それを一気に飲み干した。
「うい~!」
 芍薬がスパイラルアームで迫るのを、ドリームイーターはぬるりとした動作で避ける。
(「ツンデレも私の姫であれば可愛らしかったでしょうに……」)
 アレクセイは何が悲しくておっさんのツンデレを見なければならなかったのかと半ば嘆きながらペトリフィケイションを放つ。マルガレーテが、高らかに歌った。
「希望するのは絶望するより良い。可能なものの限界を測ることは、誰にも出来無いよ」
 Sword Of Gloryの力が、ヒルデガルトを包み込む。
「正義、執行します」
 ヒルデガルトは拳を握りこむと、閃光とともにそれをドリームイーターへ叩き込む。呻きながらも、ドリームイーターは酒瓶を振りかざした。こころを狙って振り下ろされる酒瓶に、自らあたりに行ったのはたたら吹きだ。勢いを失ってその場に倒れるも、ドリームイーターの攻撃はやまない。次はクロエ目がけて叫び声を上げようと息を吸い込む。
「させぬ!」
 重臣がドリームイーターの真正面に躍り出て、その攻撃のすべてを引き受ける。立っているのもつらいほどの衝撃波を受け、それでも彼は大器晩成撃で反撃し、告げた。
「親爺の意地と気概と将来性を見せてしんぜよう!」
 至近距離で叩き込まれた『やればできると信じる心』は、今回のドリームイーターにどれほど響くことだろう。徹也は、続けて地獄の炎弾を撃ち込む。こころが走り寄り、旋刃脚を放つも、見切られてしまった。まずい、思った瞬間、傍らから飛び出たガランがドリームイーターに噛み付く。
「うぐああぁ!」
 クロエは、めちゃくちゃに振り回された酒瓶に殴りつけられながら、稲妻突きを繰り出す。
「……逃がさない」
 もがきのたうち回るドリームイーターの動きが、止まった。
「エネルギー充填率……100%! いくわよ、インシネレイト!」
 狙いすまして、芍薬が火葬を放つ。
「甘く苦く麗しい罪の記憶。貴方の罪はどんな華を咲かせるのでしょう?」
 アレクセイが咲かせる黒薔薇が内側からドリームイーターを苛んだ。それでも、――まだ。アレクセイはヒルデガルトへ視線を送る。うなずき、ヒルデガルトは簒奪者の鎌を勢いよく振り下ろす。
「貴方はクビよ。もう来なくて良いわ」
 文字通り首を切断すると、ドリームイーターはやがて動かなくなり、消え失せた。その様子を、重臣は涙をこらえながら見送るのであった。


 周囲のヒールを終えると、クロエはバックヤードに視線をやり、静かに言った。
「秦さんも言っていたけれど、後悔なくして人は前に進めないから……」
 返してもらった後悔を、もう一度受け止めて生きていってほしい。その思いを胸に、店長が横たわる場所へとケルベロスたちは向かう。
「ん? ん、俺は一体?」
 首をかしげるケンジに事情を説明すると、ケンジは俺のせいですまなかったと頭を下げる。
「インパクトも料理の味も悪くなかったし惜しい店だったわね」
 ぽん、と芍薬が肩をたたく。じわ、とケンジの目に涙が浮かんだ。重臣は、ケンジと同じすててこ腹巻のままケンジの前に歩み出て笑いかける。
「警備に就きたいぐらいの店じゃったが……どんまいじゃよ。まぁ儂でも何やかんやで何とかなっておるから大丈夫じゃ!」
「うう、あ、ありがとう」
「これに懲りずにまたどっかで良い店開いてよ」
 にこっと芍薬がほほ笑むと、ケンジは自信なさげに視線をさまよわせる。
「で、できるかな」
「起業で得た経験は何事にも代えがたいもの。うまく活かせば次はきっと大丈夫です」
 アレクセイは優しく背を押す。
「で、でも……」
 それでも自信を取り戻せないケンジに、ヒルデガルトが喝を入れる。
「頑固親父には芯が通ってるの。自分の決めた道を貫くのよ」
 ツンデレと頑固おやじは別物よ、と腕を組む。
「失敗しても反省はするけど後悔はしないわ。反省を次に生かして自分の道を貫かないとっ!」
「あ、あう」
「芯が無いから後悔に潰されちゃうのよ。しっかりしなさいよ」
 ほら! と鼓舞してケンジの手を引き、立たせる。
「……個人的には、僕、この店、好き。また、来たい」
 無表情のままだが、クロエがケンジにとってとてもうれしいであろう感想を述べた。
「そう、うん……ありがとう、また、頑張ってみるよ……!」
 自然と、ケルベロスたちから笑顔がこぼれる。
「べ、別にあんたの店楽しみにしてるわけじゃないんだからね!」
 なんてね、と芍薬がいたずらっぽく笑った。
 失敗を生かすこと、後悔を悪いものに堕とさないこと。きっと、ケンジは前を向いて歩んでいくことができるだろう。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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