青行燈(ラストナンバー)

作者:baron

「その昔ね、我が子をとても可愛がった鬼夜叉が居たのさ。町で人を浚っては子に食わせて居た」
 廃寺を蒼く染め上げる光の中、男が講談師のように怪談を続けて居た。
 たった一人の独演会、まあ、本来の妖怪話だけではないし奇妙ではあるが、劇か何かの練習だと思えば言うほどでもない。
 九十七、九十八、……さあ九十九で百物語は打ち止めだと言う所で、講談師は機材を動かした。
 それも録画装置だけではない、サーモグラフに水平分度器などなど、とてい百物語の締めには縁遠いものであった。
「と、まあ。これが世に言う鬼子母神の由来なんだが……夜も遅いし、『次』で最後にしよう」
 百物語りで、本当に百個目を話し始めた。
 諸説あるが、九十九で留めるべきと言われているのに、だ。
「最後に出て来ると言えば、パンドラの箱じゃあ『希望』と相場は決まっているが、肝試しでも実は決まって居るんだ。女房寝静まったころに、逢引きで怪談語った旦那がね、最後に提灯片手に女……おお!」
 男は提灯か何かをぶらさげるパントマイムしながら語っていた男は、計測されていたデータの揺らぎに、振り向こうとした。
 だが、それよりも先に延ばされるのは、何かが刺さる冷たい感触。
『あなたの待ち人ではないのですが、面白そうな話ですね。私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります』
 喜色満面で振り返った男が最後に目にしたのは、冷めた目で見降ろす女であった。
 正確にはもう一人、青色のナニカを持った二人目の女も居たのだけれど……。


「不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようです」
 セリカ・リュミエールが幾つかのレポートと、妖怪物の資料集を持って話し始めた。
 それは良くある妖怪やマイナーなモノも含めた物だ。
「黒幕と思われる『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターにより、事件を起こそうとしているようです」
 現実化した怪物型のドリームイーターによる被害者が出る前に、撃破して下さいとセリカは告げて、地図を資料の隣に並べる。
「敵は青い提灯のような物を持った女性で、青行燈と呼ばれる空想上の妖怪を元にしているようですね。資料によるとこの妖怪は、九十九までしか語るべきではない百物語において、百番目に現われる本来は語られない存在だそうです」
 セリカは資料集の中で、『あ』の付くコーナーを指差した。
 鬼女とも、怒っている女性ともとれる姿で、確かに提灯をぶらさげている。
 もっとも、ぶらさげているから提灯に見えるだけで、デザインとしては行燈の方が近いだろう。
「この妖怪が本物であれば、その場を去ったり、説によれば眠ったふりでも問題ないはずなのですが、今回はドリームイーターなのでそうもいきません」
 いずれ人々を脅かす相手を野放しにできないし、その瞬間は大丈夫でも、何癖つけて襲いかかって来る可能居もあるだろう。
 結局、戦うのであれば正面から闘うのも良いかもしれない。
「決して語ってはならぬ物語りの続きか。確かに興味をそそられる者もいるだろうな。禁忌と言うやつだからか、その先が知りたいだけかの差はあるが」
 柊・乙女(黄泉路・e03350)は目を閉じて知り合いを思い浮かべた後、煙草の灯が懐かしくなった。
 流石にここで吸う訳にはいかないと我慢してると、察したらしいというか時間がもったいないからか、セリカが話の締めに入る。
「そう言った興味を抱くのは問題ないのですが、人々から感情を奪い、化け物を創り出して人を襲わせるのを黙ってはいられません。どうぞよろしくお願いしますね」
 そういって参加を検討する者たちに資料や地図を手渡すと、出発の準備を整えるのであった。


参加者
リリィエル・クロノワール(夜纏う刃・e00028)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)
寒島・水月(吾輩は偽善者であるが故に・e00367)
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
柊・乙女(黄泉路・e03350)
ランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)

■リプレイ


「目の覚めるようなブルーだな。かき氷が食いてえや」
「柊ちゃんが情報を集めてきたドリームイーター……なかなか不思議な感じね」
 相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)がゴクリと喉を鳴らした時、リリィエル・クロノワール(夜纏う刃・e00028)は目を輝かせた。
「どんな姿なのか、気になるかも! 呼んで見る? それとも怖いの?」
「わっ! なんて、ゴメンゴメン、作戦中だったわよね」
 リリィエルは矢継ぎ早やに嵐の様な質問攻勢を掛け、ランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)は突如後ろから声を掛ける。
 足元が今にも抜けそうな廃寺でなければ、ピョンピョンと飛び跳ねそうなその口ぶり。
 まるでワンコが玩具を見つけたかのようである。
「下手にビクついて叫んじまったら予定と違う姿で出てきちまうからな……いや、怖くねぇよ?」
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……一体誰が出るんだろうね?」
 そんな鳴海の様子にシェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)は、肩を抱きながら……『私だけは判っているよ』と割って入り追及を留めてあげた。
 メシでも奢ってほしいなと言いながら。
「怖くねぇよ? ほんとだよ? ただまあ、なんだ。さっさと終わらせて、きゅーっと行くか!」
 鳴海が言い訳がましく強がっていると、くつくつと内に籠る笑い声が聞こえた。
「妖怪なら恐ろしくもあるが、ここに居るのは偽物だからな? いかに見た目が物の怪じみているとして、談じた鬼の正体がデウスエクスではな」
 柊・乙女(黄泉路・e03350)の笑いは苦笑いに変化した。
 何かを思い出すように、フンと鼻を鳴らして溜息をつく。
「まったく……興ざめもいいところだ。まあ、竜殺しの一杯くらいは私が支払っておこう」
「毎度あり。いやー悪いね御二方、奢ってもらってさ」
 やれやれと乙女は澄ました表情のシェイを睨む。
 どうやら、彼女もまた、何かしらの借りか負け分でもあるのだろう。ドラゴニアンに呑ませるには、不適切な銘柄の酒を口の端に載せた。
「負けるの嫌なら、賭け事しなければいいのにね」
「吾輩に向かって言わないで欲しいな。次こそは違うのだよ、次こそは」
 負ける勝負を挑む気の無いリリィエルが艶やかに微笑むと、寒島・水月(吾輩は偽善者であるが故に・e00367)はそれでも挑まねばならぬ時もあるのだと苦い表情で返す。
「まあ、小話はここまでとしようか。そちらはどうであるかな? 幕末よろしく狭い場所で戦いたくないものだが」
「問題ありませんのよ~。ちょっと埃ッポイですけれど、大広間を作ってみました」
 只今お掃除中ですのー。
 水月が一足先に上がり込んだ仲間に声を掛けると、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は箒を取り出した。
 既に障子扉が幾枚か外され、怪談をやったと思わしき部屋を除き、庭まで通してあったのだ。
 これにて準備はよかろう、さてさて、真夏の夜のドリームイーターにお出まし願うとしましょうか。


「LEDの光が駆逐されて……きたきたきた! 夏にピッタリな幽霊騒ぎですよ奥さん!」
 そこは黄金劇場ならぬ、蒼色講談。
 奥の間から延びる、蒼い行燈の光に、鮮やかだったブルーの光が明らかに格負けを起こしていた。
 鮮烈な光が、より淡い光に追いやられていく。
「くぅ~っ! これよ、この雰囲気! 文明の利器では太刀打ちできない力、そう、これこそよ」
 ランジは舌舐めずりしそうな雰囲気で、携帯を夜間モードで取り出した。
 被害者らしき男性は、向こう側に転げ落ちているらしく、足だけが逆さまに見え、もはや懸念事項は無い。
 ならば、せっかく夏人生は一度きりである! 愉しまなければ損ではないか。
「正体見たり枯れ尾花ー、ではありませんでしたけれどもーさりとて正体がデウスエクスであるというのもー、少々風情に欠けますわねぇー」
 フラッタリーは仲間が携帯を取り出すのを見て、ならば自分も楽しもうと枕を用意した。

 そして声を掛ける役を買って出た仲間が前に出ると、騒いでいた一同は少しだけ沈黙。
 ケルベロス達が視線とライトの光を向けると、行燈の遥か後ろにナニカが居た。
 千客は万来せよ、ここに百話目の物語りが始まる!
「誰だ?」
『夜更かし禁止、男女交際はもっと禁止!』
 声が響く。
 声が響く。返される言葉は、投げた言葉よりも饒舌に。
 響いたのは二つ、問うたのも返したのも、どちらも女の声。
「目鼻立ちから何から何まで平均点だな」
 敵の攻撃が炸裂しかけた所で、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)の鉄拳が、強引にその場を引きはがした。
 割って入った彼は、そのまま前衛として立ち塞がる。
 見た処、敵の顔は誰でもあり誰でもない、ようするに何処かで見た印象の残らない無い顔だ。
「時期が時期なだけあって獲物も多いと見込んだのかね? てめぇの目的は……てめぇ?」
 アギトは黒幕である魔女の事を口にしようとして、別口の魔女……というほか無い姿を見てしまった。
 もちろん、物語の最後に出て来ると言う希望の魔女とか本物の青色行燈とかそういうオチではなく、彼に因縁のある女性の姿だ。
 表情こそ変わらぬものの、敵を求めて何でもしそうな雰囲気がある。
「どうやら敵さんの攻撃を食らっちまったみてえだな。『ちっと息苦しいかもしれねぇが……我慢してくれ』何が見えたか知らねえが、何とかするとしますか」
 鳴海は退魔の銀で作られた、鎖で仲間たちの周囲を覆い始める。
 鎖を形造る輪自体が、定型のパターンを織りなして作られる法式によって作られている。
 そこにグラビティを通す事で、掛けられた呪いを打ち破るのである。
「性格悪そうだし、女子高なら往かず後家の鬼婆とでも呼ばれてそう、ねっ!」
「平均的なパーツの組み合わせそのものは、むしろ美人の条件であるがね」
 ランジは剣を床に突き立て、結界を仲間達の周囲に打ち立てた。
 星の輝きが埃をスクリーンに替えるのを見ながら、水月は壁を蹴って三角飛びを掛ける。
「明確な意思主張が無いことが、全てを台無しにしている。誇りさえあれば他は要らぬ、英雄の容貌とは逆だ」
 水月は太刀無い助走を壁を蹴ることで確保、仲間達の脇を越え一足飛びに蹴りつけた!
 撃ち込まれた重力が、敵をその場に縫い止め始める。
「器用貧乏で得意がない子ってわけか。そんなんじゃ、御客さんは寄ってこないぞっ♪」
 リリィエルは軽口叩きながら、ナイフでジャグリング。
 敵の目を引きつけた所で、稲妻のようなステップで急所を抉るが、残念ながらトドメには至らない。
 こうして、ケルベロストドリームイーターとの戦いは、本格的に始まった。


「色んな相手を殴ってきたけど、お化けって殴った事ないんだよね。さて、私の拳と脚は届くかな?」
 シェイは相手の腕を請い、かき抱くようにして掴む。
 女の怖さを知っている彼は、敵が女だからといって容赦をする気は無い。
 鉄拳を顔面に入れると、思いっきり殴り飛ばした。
 そして掴んだ腕を離し、体を翻して蹴りの態勢に入る。腰の灯りが、アクセサリーの様に揺れたと言う。
「枕が当たったのでぇー、実体はあると思いますのぉ。アラ、もう試され……、痛っっ。アハハ!?」
 フラッタリーがワンテンポほどズレた問答をしようと口を開いたところで、モゾモゾと動く天井に気が付いた。
 咄嗟に仲間を庇う彼女を、鬼蜘蛛の爪先が襲う!
 銀の鎖が壁と化すが、構わず押し込んで行った。
「アナtAジャマ、ワタシアナタWo邪魔! 其之形与ヘラレドモ、汝之形デハ在リmAセヌ故」
 銀の鎖で邪な力の侵入を防ぎ、巨腕で仲間への攻撃を反らせたものの、フラッタリーの肩口を爪が切り裂いた。
 考えるのを止めた彼女は、邪魔になるから避けておいた障子を投げつける!
 地獄の炎で呪われた障子扉は、それぞれが紙の兵士として立ちあがった。
 鉄塊のような剣を牙の様に振るう彼女と合わせて、まるで、地獄の修羅たちが蘇るかのようである。
「早速やってるわね『もう少し気張りなさいな。援護したげるから。』それだけ燃えてるなら、もうちょっと燃えても構わないでしょ」
 ランジはウインクすると、フラフラさんに陽炎を灯した。
 そして次に援護する仲間を探しながら、指先を左右に動かして誰にしっよっうかなーと詠い始める。
「さっきはやってくれたな? だが『閉幕にはまだ早いだろ?この程度では、死に届かない』俺もてめもな?」
 アギトは冷徹に怒りを抑え、先ほど攻撃に載せて幻覚のグラビティを撃ち込まれた部分の装甲を修復。
 そして亡者の様な紙の兵士達に並んで、仲間達を守る壁を作り上げた。
 偽る敵の姿に踊らされることなく、状況を有利に進めることを選んだのだ。
「百物語は終わりだ。正体見たり、所詮お前は黒後家蜘蛛の類だよ。幻術を覚えた所でタカが知れる」
 乙女は懐からナイフを引き抜くと、刃に敵の姿を映し出した。
 銅の盾はメドゥーサの顔を映し出し闘う役に立ったと言うが、この刃の役目は別だ。
 敵を映し、その弱みを映し出す!
『私は、私を必要とシロオオ!!』
「百物語りの青行燈もパンドラが逃がした希望も、浮気された奥さんの怒りも、必要とされなくなれば物語りとして成立せぬであろう。だが同情はすまい」
 水月は斧を振りあげると、トラウマに陥る敵に切りかかりはしなかった。
 ルーンの文字が蒼い光を照り返し、力を周囲に振るい始める。

 周囲を埋め尽くす蒼い行燈の光が切り裂かれ、被害者が用意しておいてブルーライトLEDが一瞬だけこの世に帰還した。
「影絵……影絵か!? 言われてみりゃそりゃ、行燈だもんな。あーこりゃあ騙された。実はべっぴんさんってのを期待したんだがね」
「アンタねえ……。でもまあ、灯りの位置だけで変わるんだから、こうなるか」
 鳴海は思わず残念そうな声を挙げ、リリィエルは呆れたような呟きを洩らした。
 何せ、一瞬だけ見えた行燈には蜘蛛や鬼女の姿が描かれている。
 こちらに向けられてはいないが、アラサーな女性の姿も描かれている可能性があるだろう。
 確かに女が遥か後方に居るが、グラビティで作った触手や分身だと思えば、鳴海が悲しそうな顔をするのも仕方あるまい。
「まあいいわ。『海賊っていうのは強欲なの。狙った獲物は逃がさない、ってね♪』行燈だろうが魔女だろうが、逃がさないんだから」
 リリィエルは廃寺の床を滑るようにして、まるで船の甲板であるかのように走り抜けた。
 立ち止まることで崩れた態勢をそのままに、両手のナイフを動かし踊るように行燈を切り裂いたのである。
「まー。そうすっとしますか。巻き込まれちゃいないようだが、あすこで犬神さん家なポーズ決めてる人も気の毒だしよ」
 鳴海は鎖を手繰り寄せると、今度は弧を描いて地面に陣を敷き始める。
 傷ついた仲間を中心に、先ほどは心を守る壁であったが、今度は肉体を守る結界を築き始めた。


『Тэи穣天外、$hI方八法、視得ルワタシノ此ノ景色、伽覧ヨ御覧。煩ワシキ孤之世界』
 フラッタリーは焔纏う鉄塊で行燈を薙ぎ払った後、貪るようにして女の姿に飛びかかった。
 狂気マイナス100%の果てに、理性を越える意思が雄たけびを挙げてグラビティを奪いさる。
「そろそろ回復とか要らなさそうね。一気に決めましょうか」
「いいね『その身、喰い千切らせてもらおうか』そろそろ頃間だ」
 死角に回ったリリィエルが、表に裏にナイフで切り刻んで行くと、シェイの足が行燈を蹴りあげ、貫くままに踵を叩きつける!
 打撃と投げの複合による一撃が、廃寺の床を叩き割った。
「ぬ、来るか。だがどんな幻覚だろうと……」
『私やオレ達に囚われる必要は無いわ。もう楽になっても良い頃でしょ。だって薄情な貴女には、また使い捨てる新しい連中が居れば良いものなア?』
 もしそれが敵の考えた恨み事ならば、乙女はきっと耐えられたに違いない。
 だが、トラウマを思い付くのは自分である。
 いつか自分もという決意に隠れた、心の片隅にある許されたいと言う願いが、乙女自身を浅ましい物として糾弾した。
「違うんだ! 違う違う! 私は私は……!」
「何の幻覚を見てるんだ? 僕ですよ。僕らがいます。怯むことはありません」
 ばん! と乙女は肩に掛る水月の手を跳ねのけて、一層傷ついた表情をした。
 キョトンと一瞬だけ訝しく思った物のトラウマは他人には見えない、そこで水月は、その手を取って気力を移せば。
 錯乱は、そこで止まった。
「……悪い。もう、大丈夫だ。後少し、留めを刺すとしようか『逃がさない。』決してな」
 乙女は自らの肌を苛む百足を呼び起こすと、その違和感と嫌悪感を力に替えた。
 体を這いずるのに見えない彼らは、かつて京都で龍神すら追い詰めたと言う。
 皮肉なことに、それを仕留めた必中の矢の呪いを、ここに顕現させた。
「信じるものは巣食われる。幽霊を信じるのであれば幽霊が生まれてしまうのかもしれないな。特に、頂上の力を使うケルベロスであるのならなおのこと。さて、かたずけるか」
 アギトは敵と味方の動きから、トラウマを巧みに突くやり方に口笛を吹いた。
 口笛とは本来、退魔の力を持つと言う。
 彼の持つ口笛とは、盛んに歯鳴りを立てる、チェンソーの事である。
「惜しいけど、怪談はここまで」
 最後にランジがトドメを刺した。
 形見の剣を突き立てて、蒼行燈を完全に粉砕する。
「ちょっくら叩き起こして忠告に行くとすっか。こんな機材持ち込んで廃寺で一人芝居するような筋金入りが、ちょっと脅かされて止めるとは思えねぇけどよ」
「そうしよっか。にしても、すごい機材ね」
 鳴海が肩をポキポキ鳴らしながら修復を開始すると、ランジは手伝いつつどっちかというと膨大な機材に興味深々。
「霊能よりデータ重視はゴーストハンターであるな。果たして百物語の何にそんなに興味があったのか聞いてみたいものだが」
「説明がつくだけで事実そうだったとは限らないものだ。体験してみないと判らない事もあるだろう」
 水月が簡単に解説を始めると、自身もデ-タを収集するアギトも連れだって作家を叩き起こす列に並ぶ。
「ふふっ……柊ちゃんの情報のおかげでまた一人、助けられたわね!」
「……無事に終わらせられたのは、お前たちの力あってこそだろう」
 リリィエルの快活な声に対して、乙女の声が少しだけ低いのは気のせいだろうか?
 そんな思いを打ち消すように、陽気さを促す言葉が掛けられた。
「さて、一運動したらちょっとお腹空いたね。何か食べていくかい?」
「賛成ですけれど―ここを綺麗にして御泊りも楽しくありません? 修学旅行とか経験ありませんの」
 シェイの言葉にフラフラさんが頷くと、ここでか? と誰かが答えたりそれを見た誰かが笑い始めた。
 怪談の最後は笑って去るのが様式美なのかもしれない。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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