●自分を映す鏡
「この部屋だな」
男はホコリを被ったドアノブを握ると、ゆっくりと扉を開く。
「……あった。本当の自分を映しだすって言う姿見。……かなりのアンティークだな。カーテンを開けて月の光を当てれば、自分も知らない本当の自分が映し出されるんだよな。これが本物なら、動画に撮って……」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
男の耳にその声が聞こえた時には、『魔女』の持つ鍵が背中から心臓を一突きにしていた。
何が起こったか分からず、ゆっくり倒れる男。
その傍らには、全身を鏡で覆われた巨漢が立っていた。
●自分を見つめ続ける戦い
「本当の自分なー。鏡に関連した噂って多いよなあ」
資料を眺めながら、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は呟くと、予知の元となった情報を持って来た、グラム・バーリフェルト(撃滅の熾竜・e08426)に視線を送る。
「本当の自分なんて映し出されたら、自己嫌悪に陥る可能性が高いと思うけど、どう思う?」
「いい悪いの問題では無く、興味を持ってしまったのだろうな。確かめなければ気が済まない、そう言う者も居るのだろう」
グラムが落ち着いた口調で雄大の質問に答える。
「怖いもの見たさってのもあるのかもな。まあ『魔女』が関わっている以上、解決しないとな。よし! みんな! お仕事の説明始めるぞー! 集合!」
ヘリポートに雄大の声が響くと、ケルベロス達が少しずつ集まる。
「「魔女集団『パッチワーク』の魔女の一人『第五の魔女・アウゲイアス』に『興味』の感情を奪われた者が出た。依頼内容は、被害者の『興味』から生まれ現実化したドリームイーターを討伐し、『興味』を失った事で意識不明になってしまった被害者の救出になる」
アウゲイアスの姿は既に無く、討伐対象は生まれたドリームイーターのみであることも雄大は付け加える。
「現場は、古い洋館の一室なんだけど。被害者の男が興味を持った対象って言うのが、この洋館にある『月の光を当てると本当の自分が映し出される姿見』なんだ。勿論、噂でしか無かったんだけど、アウゲイアスの力でその噂を元にしたドリームイーターが実体化した訳だ」
そこで雄大は一つ息を吐く。
「今回の撃破対象の姿は全身が鏡で覆われた2m程の人型だ。その体表を覆う鏡はドリームイーターが死ぬまで割れることは無く、戦闘中、常にドリームイーターの身体に映った自分を見ながら戦ってもらうことになる」
普段なら、戦いの中に身を投じている自分の姿を見ることは無い。
鏡に映り続けると言うことは、敵に対する憎悪や怒り、そんな感情を表に出した姿を目にしながら戦わなければいけないと言うことだ。
鏡の中に映る姿は紛れも無く自分自身なのだから。
「ここに居るグラムのお陰で、ドリームイーターが洋館を出る前に現着出来るから、確実にこの洋館内でドリームイーターを撃破して欲しい」
撃破に失敗した場合、ドリームイーターは洋館を飛びだし、鏡の噂話をしている人達やこの洋館に興味を持っている人達を無差別に襲うとのことで失敗は許されない。
「ドリームイーターは『自分が何者であるか?』と言う質問をしてくるけど、これの答えは『自分を映す鏡』がどうやら正解っぽい。でも、当てても外しても特に戦闘に影響は無いみたいだな」
ドリームイーターのリアクションは変わるだろうが、ドリームイーターが紡いで来る言葉には特に催眠効果などは無い様だと雄大は言う。
「ドリームイーターの戦闘方法について行くな。まず、単純にグラビティを乗せたパンチもしくは蹴りでの攻撃。次に、モザイクを飛ばして一気に複数の相手を包み、ある種の行動制限を与える攻撃。で、最後のが一番厄介なんだけど。体表の鏡からグラビティを込めた光を発する事で、相手の忘れたいと思っているトラウマを呼び覚ます精神攻撃だな」
鏡に映った自分を見ながら戦うことで、良い意味でも悪い意味でも自分自身の事を考えながらの戦闘になるだろう。
普段なら思い出さない様なことも思い出してしまうかもしれない。
「鏡に映るのは、もう一人の自分とは言うけど、自分を一番知っているのは自分自身だと俺は思ってる。だから、鏡に映る自分がどんな姿だったとしても自分を信じて戦い抜いて欲しい。魔女の企みを阻止する為にも、しっかりと撃破して来てくれ。よろしく頼むな!」
言って雄大は月を見上げると、ヘリオンへと駆けて行った。
参加者 | |
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ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604) |
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725) |
ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872) |
守屋・一騎(戦場に在る者・e02341) |
スヴァルト・アール(エリカの巫女・e05162) |
イリュジオン・フリュイデファンデ(堕落へ誘う蛇・e19541) |
葛西・藤次郎(シュヴァルツシルト・e22212) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
●月光
「……本当の自分を映し出す鏡……ですか。面白そうですね」
件の洋館に入り、そう口にしたのは、ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)である。
「鏡に映る本当の自分かぁ……俺だったらどうだろう、失敗や喪う事を恐れる臆病な自分あたりかな?」
軽く答えるのは、葛西・藤次郎(シュヴァルツシルト・e22212)。
「何しろ一度大きな失敗をしている身だからね。それとも、仲間に必要とされたい頼もしい自分とか……ふう、考えると疲れるや」
そう言って、藤次郎は、一度思考を止める。
「本当の自分ね。そんな物知ってどうするんだか。興味を持つ人の気が知れないな」
本心からそう思っているのか、緩く言うのは、櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)だ。
「俺はホラ、純心で底の浅い男だから。本当も嘘も表も裏も無く、日々是適当? 今回も気楽なものさ。ただの鏡だし、つまらん相手さ」
飄々といつもと変わらない曖昧な笑顔を浮かべながら言う千梨。
「この部屋ですね。扉を開けたら、イリュジオンさん、お願いしますね」
目的の部屋のドアノブを握り、スヴァルト・アール(エリカの巫女・e05162)がイリュジオン・フリュイデファンデ(堕落へ誘う蛇・e19541)に視線を送る。
「分かっておりますわ。イヴ、被害者様をすぐに室外に出して下さいね」
ふわりとした笑顔を浮かべながら、イリュジオンがビハインドのイヴに優しく言う。
(「それにしても、鏡のドリームイーターですか。年甲斐も無くワクワクしていしまいますわ。戦いに身を投じる私を見ながら戦う事が出来るなんて、うっとりしてしまいそうですわ」)
そんな心の内を一切表に出さず、イリュジオンはたおやかに微笑む。
そして、スヴァルトの手で扉が開けられると、月明かりが照らす室内に、全身が鏡で覆われた巨漢が月の光を反射していた。
●問答
「……さて、俺は一体なんなの、だろうな? お前は答えを知ってるか?」
バイザーを目深に下げ、ドリームイーターに問う、霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)。
「お前が誰かは、私を見れば分かる。逆に質問だ。私が何者か分かるか?」
「『望みを叶えるもの』っスかね?」
無邪気に答えるのは、守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)。
「人間、見たいものしか見ねーっスから。鏡で見えるものだって当然そうっしょ?」
鏡に映っても、見たいものしか、見ない物も居る。
ある、一片から見れば、一騎の答えも間違ってはいない。
「違うな。私は己を映す鏡だ。本当の自分を映す。今の……そして、過去の自分を映す鏡。例えば、そこの獣人……お前には何が見える?」
「本当の自分って言うのは、あまり考えたことはないな」
ドリームイーターに問を向けられた、ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)が静かに答える。
「けれど……少なくとも、デウスエクスに教えてもらうようなモノじゃない」
ディクロの言葉と共に放たれるブラックスライムが捕食の形で、ドリームイーターを襲う。
「私も質問に答えさせてもらいますね。あなたは『壊したい物』ですよ」
ヒスイの、乳白色の瞳から零れ落ちた光は、やがて眩い翡翠色の光を纏う雷となり、ドリームイーターに衝撃を与える。
「……本当の姿を映すなら、本当のお前は、そこにいるのか? 鏡は『鏡自身は映せない』筈だから」
ドリームイーターの存在を否定する様に言いながら、カイトが炎を纏った蹴りを放つ。
ボクスドラゴンのたいやきは、カイトの耐性を高める為に自分の属性である『鯛焼き』をあんこのオーラとして注ぎ込む。
「イヴ、そちらの男性を外に出して差し上げて」
ゆったりと微笑みながら、イヴが動いたのを確認すると、イリュジオンは、マインドリングを盾として、ディフェンダーである一騎に付与する。
(「戦線が崩れてしまえば、私が優雅に戦う姿をゆっくり鑑賞できませんものね」)
イリュジオンが、そんな事を考えていると、背後でカラフルな爆発が起こる。
「自分の嫌な部分と相対する……気が進まないなぁ」
言いつつも爆破スイッチを握った右手の獲物を妖精弓に変える、藤次郎。
「殺界は、張っておいたから、思いっきりやっちゃって大丈夫だからな。まあ、俺も……自分の仕事はするがな」
言うと、千梨は御業を縄の様に編み込み、ドリームイーターの脚を絡め取る。
「被害者さんは、イヴさんに任せて大丈夫ですね。それであれば、中々に厄介ではありますが――お相手せねばなりませんね」
後衛のスヴァルトが精神力を高めると、ドリームイーターの脇腹が爆発を起こす。
その時だった。
スヴァルトとドリームイーターの間に一瞬、道が出来た。
ドリームイーターの身体が輝き、走る閃光。
スヴァルトが直撃を覚悟した時、俊敏な動きでその間に割って入った者が居た。
……一騎だ。
血縁者……祖父達は、そう言う名の檻だった。
自分はその檻を壊したかった。
満月の夜に自分を閉じ込めるモノを全部ぶち壊した。
『物も人も嫌い。全部壊したい。全部壊した何もない世界がいい』
後悔は無い……自分でそう決めたから。
けれど満たされない……欠けた三日月の様に、埋まらない……永遠に苦しむ自分は……月。
「その世界で、誰か俺を壊して!!」
一騎の絶叫が洋館に響いた。
●鏡像
「自我を失う程のトラウマって、どれだけ深層まで効果があるんだよ。ヴァイス、君はなるべくドリームイーターの行動を制限してくれるかい?」
相棒のミミックに指示を出しながら、藤次郎は一騎に自身のオーラを注ぎこむことで、一騎に理性を取り戻させる。
それでも、一騎はまだ荒い息づかいで膝をついていた。
「こちらを狂わせる気なら……あなた、をこの曲で――存分に狂わせて差し上げましょう」
そう言うと、イリュジオンは美しい歌声にグラビティを乗せ、仲間達の耳には流麗に、ドリームイーターには不協和音として響く様に歌を紡ぐ。
ドリームイーターが半歩下がったタイミングをケルベロス達は見逃さなかった。
スヴァルトの御業が炎となってドリームイーターを襲えば、ヒスイの右腕にオウガメタルが集まり、強力な拳となる。
カイトが流星の様な蹴りを決めれば、千梨が影に溶け込み鋭利な一撃をドリームイーターに与える。
ディクロが獣の拳をドリームイータに撃ち込むと、その腕をドリームイーターに掴まれる。
離れることも出来ず、見せられる幻影。
その日、義兄が死んだ。
それは、運命だったのか……その後、ケルベロスとなった。
そして味わう、ケルベロスとしてのリスク……暴走。
数多の色の糸に絡め取られ、醜く歪んだ獣……自分自身だ。
『醜い、醜い、醜い、醜い、醜い……』
『煩い、煩い、煩い、煩い、煩い……』
『汚い、弱い、脆い…………』
「煩い、煩い!」
ディクロの心からの叫びにブラックスライムは、反応すると、ディクロの尻尾と同化し、巨大な二本の尻尾と成りて、ドリームイーターを締め付ける。
「君は過去で、僕は未来だ」
ディクロが、ドリームイーターをきつく睨みながら言う。
(「君よりはマシになったと思うよ、多分ね」)
ディクロが幻影を見ていた間も、ケルベロス達の攻撃は続いていた。
ヒスイのマインドソードが奔れば、千梨の氷の騎兵の槍がドリームイータを貫いていた。
ケルベロス達もその巨体からは想像出来ない程俊敏なドリームイータの拳を受けていたが、イリュジオンから放たれる、桃色の霧がそれを癒していた。
「近寄るな」
一騎の拒絶は黒い何かへの拒絶……薄暗い感情に呼応したそれは、今の一騎の心を映す様に膨れ上がり、一騎に拒絶された事でドリームイーターに襲いかかる。
「カイトさん、ヒールを飛ばすよ。ヴァイス、武装具現化」
ヒールを飛ばしながら、ヴァイスの方をちらりと見る。藤次郎。
「ありがとよ……スヴァルト!」
一歩下がった、カイトがヒールを受けていると、達人の如き一撃を放ったスヴァルトがドリームイーターの光線を真正面から受けていた。
鏡に映っているのは自分……サーミの青と赤を纏い、不安げな姿。
幼いまま、14歳で時が止まったであろう自分自身。
己を蝕むのは、腹部より発芽した功性植物。
『ヤドリギ』デウスエクスの苗床たる、恐怖、不安、嫌悪……少女はその感情に蝕まれていた。
「その痛みも、悲しみも、俺が壊してやる」
スヴァルトの耳にカイトの声が響いた。
気付いた時には、スヴァルトの身体はカイトの作りだした癒しの氷で包まれていた。
そして、氷が一瞬の元に粉砕されると、スヴァルトの思考もクリアになる。
「……私は過去に留まりません。今この時に臨みます! 世界は新たに構築される」
スヴァルトの言葉が合図になって、血煙りの様な赤い霧が意志持つ生き物の様にドリームイーターへと襲いかかる。赤は次第に濃くなり、やがて闇色へと変貌していく。
そして巻き上がる。旋風となって昏い炎を纏って消えると、ドリームーイーターの怒りを表すかのように、ドリームイーターの攻撃的グラビティ・チェインが上昇した。
●悔恨
思い出すのは幼い頃の修行の日々。
自分は泣き虫で、実践であれば死ぬぞと祖父に言われた。
心を乱すなと、繰り返し叱責されては、失望された……。
親が死んだのも、ケルベロスになったのも、感情を表に出せなくなったのも、俺が選んだ訳じゃない……望んだ訳でもない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、もう嫌なんだ。
そう言って逃げ続けて、守りたい人を守れず、何も出来ず失った。
因果応報……逃げ続けた自分への罰……。
だから誰も俺を信じないで……ただの適当な嘘吐きでいいから……。
「千梨様!」
イリュジオンの生きる事の罪を肯定する呼びかけで、千梨は自分がトラウマに捕らわれていた事を知る。
「千梨様、すぐに戦線へ。私は、籐次郎様もヒールをしなければ。戦線が崩壊致しますの」
ヒスイ、ディクロ、スヴァルト、一騎が攻勢に出ていたが、比較的攻撃の被弾率の高かったカイトの動きは鈍っていたし、藤次郎に至っては、動きが止まり両膝を付いている。
「はい、了解。……いつもの俺だな。本当の俺なんていらない。適当な俺。……それでいい」
呟くと、千梨はドリームイーターへと一気に駆けた。
「見えざるものを」
千梨の不可視の刃はドリームイーターの身体を傷つけ、グラビティ・チェインを搾取するが、ドリームイーターも負けじと、モザイクのヴェールをケルベロス達に浴びせる。
その頃、藤次郎はある戦場に居た。
その場に居るのは、己だけ。
旅団の仲間は皆死んだ……。
自分のミスだった……。
それでも、仲間達は仕方ないと笑って息を引き取った。
その言葉は救いではあったが、自分がもっと慎重であればと言う思いも膨らませた。
彼等は最後に、何を思っただろう……畏れ……それは、自分を恨んで死んでいったかもしれないと言うこと……。
藤次郎の視界がパッと広がった。
そこには、光り輝く盾。
イリュジオンが張ったものだが、彼女は既に次のヒールの体勢を整えている。
「……それでも歩み続けると誓ったんだよ」
藤次郎は床板を踏みしめ立ち上がると強く言う。
「栄光ある竜の同胞よ、我らに誇りを、立ち塞がりし者には畏れを」
藤次郎の号令と共に、無数の竜の群れが召喚され、一斉に咆哮をあげる。
「今がチャンスでしょうか?」
攻撃の機とばかりにナイフを振り被るヒスイの目に、鏡に映った自分が映る。
(「あはは、やはり作り笑いを見ながら戦うのは、気持ちが悪いですね。しかし、ある意味自分を打ちのめせると思うと心が躍ります」)
気持ちの悪い笑顔を浮かべる自分を切り裂く思いで、ヒスイがナイフを振る。
だがその刃が届く前に。構えていたかのように、ドリームイーターからヒスイに向けて閃光が浴びせられる。
主人を殺める筈だった……命令だからだ。
だが主人は、私に殺されず……私を庇って死んだ。
後悔はしている……けれど。
「嬉しいな。……ずっとあの当時の俺を殺したいと思ってたんだ……ふふ……。他人にトラウマばかり見せてないで貴方もご覧になってはいかがです?」
身体を反転させると、ヒスイはナイフにドリームイターの鏡像を映し出す。
「つーか本当の俺っつったって、所詮一部分っスし」
嫌なものを見せられた……一騎にとってそれはその程度だ。
確かに心を抉られた、それでも……。
「変わらないよ。お前のまま俺は生きていく。そう決めたから」
過去の自分に言い聞かせる様に言うと、一騎は刃の鋭さを持った蹴りを放つ。
それに続く様に、ディクロとスヴァルトが、グラビティでダメージを与えて行く。
ドリームイーターの動きが鈍り、ケルベロス達が勝利を確信した時、最後衛のイリュジオンへと、ドリームイーターの光線が放たれた。
その喪失感は、計り知れないものだった。
その穴を埋めるのは音楽しか無かった。
それでも、デウスエクスに連れ去られた我が子への思いを埋められずにいた日々……。
無力な自分……話に聞くケルベロスだったなら……。
デウスエクスに畏怖する事が無かったのなら……。
我が子を救う光となったのは、ケルベロス……。
そして……今は自分も。
「戦う私も美しい……。あなたに映る私は、美しく戦うケルベロスの私ですわ」
ブラックスライムを鋭い槍に変えて放つと、イリュジオンは優美に力強く言った。
「これだけ、みんなのトラウマ抉ったんだ、潔く死ね」
バイザーを深く被ったカイトは、ドリームイーターへの死刑宣告を行うと右手をドリルの様に回転させ、ドリームイーターの強固な鏡を撃ち抜いた。
力を失っていく、ドリームイーターが口を開く。
「…………最後は君だ」
呟くとドリームイーターは、一際強く輝き、カイトに閃光を浴びせる。
ガラス玉の様な瞳……。
喪服に壊れた傘……。
彼がダモクレスとして生きていた頃……。
だが……その、もっと奥に映る彼……。
……誰だろう?
…………黒髪の人間?
「カイトさん! 大丈夫かい? 終わったよ」
藤次郎に声をかけられれば、ドリームイーターはカイトの前から消えていた。
「……終わった……よな。……なんで、アレが見えたんだ。もう、俺は……あんなんじゃ、ない筈なのに」
呟いて、たいやきを見れば心配そうに足に身体を擦り付けている。
「…………最後のは誰だったんだ?」
誰に聞くでもなく、カイトは静かに呟き首を傾げた。
ヒスイやディクロが声をかければ、意識を失っていた男も目を覚まし、デウスエクスの被害を受けた事を告げられる。
好奇心も程々にと言われた男は、すっかりかしこまり『二度と不用意な事はしない』と約束した。
鏡が映したのは、本当の自分か、デウスエクスが見せた幻か、それこそ……神と言われるデウスエクスにしか分からない事だった……。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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