輝きの百合

作者:白鳥美鳥

●輝きの百合
 早朝の山の中、優香は花を探していた。
「……この山に間違いないわ。これは……普通の山百合ね。普通の山百合はそれなりに見たのだけれど……あれは確か一見、山百合に見えるけど傍にいけば……」
 それから優香はうっとりした顔になる。
「山百合の形の水晶……。この目で一度見たいのよね。話によれば一度見たら消えてしまうらしいけれど……とっても綺麗みたいだから、やっぱり絶対見たいわ」
 そんな優香の前に第五の魔女・アウゲイアスが現れて手に持つ大きな鍵で、優香の心臓を一突きした。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 優香はそのまま意識を失い崩れ落ちる。そして、その横に美しい輝きを放つ百合のドリームイーターが現れたのだった。

●ヘリオライダーより
「綺麗なものが好きな人って多いよね?」
 そう言ってデュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)はケルベロス達に話を始めた。
「あのね、不思議な物事に強い『興味』をもって実際に自分で調査を行おうとしている人がドリームイーターに襲われて、その『興味』を奪われてしまう事件が起きてしまったみたいなんだ。この『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているみたいなんだけど、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターが事件を起こそうとしているみたいなんだよ。このドリームイーターによる被害が出る前に、みんなに撃破して欲しいんだ。それと、このドリームイーターを倒す事が出来れば『興味』を奪われてしまった被害者も目を覚ましてくれるからね」
 それからデュアルは状況について説明する。
「場所は山百合が多く咲いている山。姿形は綺麗で百合みたいな姿らしいよ。大きさは人間くらいあるみたいだね。このドリームイーターは『自分が何か?』って問うみたいなんだけど、正しく対応出来なければ殺してしまうんだ。このドリームイーターって自分の事を信じたり噂している人がいると、その人の方に引き寄せられる性質があるみたいだね。それを上手く使うと良いんじゃないかな。攻撃方法は……花を光らせる『輝き』、眠りを誘導する『虹色』、優しく光で自分を包む『ベール』の三つみたいだね」
 デュアルはケルベロス達に力強く励ましの言葉を送る。
「綺麗なものが好きな人は沢山いる。そして、一瞬の美しさはもっと綺麗だと思う。そんな興味でこんな事になるなんて不条理だよね。みんな、頑張って欲しい。応援しているからね!」


参加者
天壌院・カノン(オントロギア・e00009)
レナード・アスコート(狂愛エレジィ・e02206)
リタ・クインズタルト(万華卿・e04028)
藤林・シェーラ(コットンキャンディ・e20440)
フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)
ゼロ・アルカディア(戦慄の暴将・e27691)
エイル・サダルスウド(星愛ディーヴァ・e28302)
氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)

■リプレイ

●輝きの百合
 山百合の形の水晶。それが咲いている場所は山の中。そして、時間は早朝だ。
「余を見失わない様についてくるのだぞ」
 リタ・クインズタルト(万華卿・e04028)は翼を羽ばたかせて舞い上がり、山道と先を見ながら、仲間達を誘導する。
 今回の相手のドリームイーターは人間と同じくらいの大きさの百合の姿をしているので、一見すれば直ぐに分かるだろう。
 勿論、飛ぶ速度は仲間達が見失わない速度。見失わない様に、と念のために言葉をかけているが、そんな事を起こすようなミスは起こさない自信をリタは持っている。
「皆さんのお手伝いをしますね」
 天壌院・カノン(オントロギア・e00009)は隠された森の小路を使う事で、山に生える植物たちが避けてくれる。それで山道を進む事がずっと楽になった。
「スイショーユリって植物なのか? それとも鉱物なのか?」
 レナード・アスコート(狂愛エレジィ・e02206)は、そう言って話をかける。噂話をすれば寄って来る可能性が高いからだ。
「エイルすいしょうもゆりもだいすき」
 喋り方は淡々としているが、エイル・サダルスウド(星愛ディーヴァ・e28302)は嬉しそうにしている。彼女は宝石が大好きだ。それに彼女のボクスドラゴンのメルクも属性は水晶と氷だったりする。
「水晶百合ってどんなのだろうね? 噂だけだとすごく綺麗そうだとしかわからないし、見付かると良いなぁ」
「水晶百合って綺麗らしいですから見てみたいですよね。」
 藤林・シェーラ(コットンキャンディ・e20440)とフィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)も、そんな話をしながら山道を進んでいく。
「水晶の百合とは中々に心惹かれるものですね。欠片を持ち帰ったりできないものでしょうか」
「一度見たら消えてしまう山百合の形の水晶だなんて儚いですけど、まるで雪のように美しい伝承ですね。カノンさんの言う様に欠片でも持ち帰る事が出来たら、それも素敵ですよね」
 カノンの言葉に氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)も、そう答える。沙夜の髪に咲く花も百合。それもあるのか百合が好きなのだ。
 一方で違う事を考えているのがゼロ・アルカディア(戦慄の暴将・e27691)だ。彼の頭の中ではドリームイーターを自らの手で倒す光景が浮かんでいる。とにかくトドメを刺したくて、そちらの方に思考が行っていた。
「リタ、様子はどうかな?」
 シェーラは頭上を飛ぶリタに呼びかける。
「……そうだな。……ん? 何か居る気配がするな」
 ドリームイーターかもしれない。リタは一旦、仲間達の元に降り立った。
 リタが降り立った事で、ケルベロス達に緊迫感が張り詰める。
 そして……光を浴びた綺麗で……しかし不自然な大きさの百合が現れた。
「私が何者か……分かりますか?」
 百合の為か、その声は綺麗に響く。しかし、相手はドリームイーターだ。
「偽りのバケモノ」
「アナタはきっとアマリリス。だれかの血をすったら。これからあかくなるかも。ね」
 リタとエイルはドリームイーターへそう答える。その言葉に対するドリームイーターの雰囲気がピリピリとして怒っている事が感じられた。
 ここからが本番、ドリームイーター退治だ。

●水晶百合のドリームイーター
 ドリームイーターは、花の名前どころかバケモノ呼ばわりしたリタに何より怒ったらしい。水晶百合のドリームイーターは怒っているにも関わらず、その輝きは美しく輝く。その光はリタに命中した。
「くっ、余に盾突こうとは、貴様、いい度胸だな」
 背丈ほどある大きな斧槍を使ってリタは攻撃を受け止める。しかし、自らの武器を握る力は抜けていくのを感じていた。
「私に力を……」
 カノンの全身に紅蓮の炎が包み込む。それが、彼女の力を大きく溜めていった。
「お前の正体なんて関係ない……ドリームイーターである事だけで十分だ。刈り取ってやるぜ」
 レナードは簒奪者の鎌を構えるとドリームイーターへ向かって思いっきり斬りつける。それは言葉通り、刈り取る様に。
 エイルはレナードに力を与え、メリクはリタに属性インストールを施した。
「皆を護るですよ」
 フィアルリィンは、カノン達に雷の壁を作り上げて護りを固めていく。シェーラは重ならない様に星の加護をゼロ達に与えていった。
「余に攻撃するとは良い度胸だ。相応の罰は覚悟してもらうぞ」
 先程の攻撃でリタの力は鈍っているが、誇り高い彼女にとってはそんな事は些細な事。リタはドリームイーターの急所へ向かって鋭い蹴りを放つ。畳みかけるようにゼロが爆破攻撃を叩き込んだ。
「皆さんに、星の守護がありますように」
 沙夜は星の輝きをエイル達に重ねていく。同時にリタの異常も治療した。
 力を上げたカノンは氷の弾丸をドリームイーターへと撃ち込む。
「見惚れちまったら命はねぇぜ」
 レナードは指先の動き、視線、言葉のひとつひとひらによってサキュバスの本能、本性を前面に出してドリームイーターの生命力を吸い取った。
 ドリームイーターも美しく輝く。それは目を奪われる様な美しい七色の輝き。それにカノンは目を奪われそうになるが、エイルとメリクが共に彼女を庇った。
「エイルさん、ありがとうございます」
「だいじょうぶ。カノンがぶじなら、それでいい」
 心配するカノンにエイルは優しく微笑んだ。その間に出来た隙を狙ってフィアルリィンはドリームイーターへと攻撃する。
「好きにはさせないですよ。その動きを封じさせてもらうのです」
 ケルベロスチェインを用いて、ドリームイーターを縛り上げた。それにリタも続く。自信を讃えた笑みを浮かべて。
「ええい、鬱陶しい! 首を刎ねよ!」」
 茨がドリームイーターを縛り上げ、薔薇の刃が斬りつけた。
「皆に力を与えるよ」
 シェーラはカラフルな爆発を起こして、レナード達の攻撃力を上げる。
「ドリームイーター、消えて貰います」
 ゼロも続いてドリームイーターへ向かい、草剣、海剣と名付けた斬霊刀を用いて衝撃波を次々と放った。
「エイルさん、回復します」
 沙夜は緊急手術を施す。そして、エイルの傷を治療すると同時に彼女の異常を癒していった。
「レナードさん、一緒に攻撃しましょう」
「分かった、オレに任せろ」
 まずはカノン。地獄の炎を武器に纏わせるとドリームイーターへ次々と攻撃を叩き込む。そして続いてレナードの鎌が斬り裂いた。
 ドリームイーターが綺麗なベールに包まれる。それは、美しい祝福の様に。そして、ドリームイーターは美しい輝きを取り戻していった。
「回復されるのは困るのです。ですが、この薬は効きますですよ」
 回復されてしまったのだが、彼女はそれでもどこか嬉しそうに微笑みを浮かべて、フィアルリィンはドリームイーターへとウイルスを撃ち込む。
「皆、頑張って!」
 シェーラはオウガ粒子を放って、リタ達の命中率を高くしていった。それを受けたリタはドリームイーターの急所を狙って蹴りを叩き込む。更にゼロがグラビティ・チェインを乗せて強烈な一撃を打ち込んだ。
 一方、沙夜は星の加護の力を用いてレナード達へと護りを重ねていく。
 水晶百合のドリームイーターは、美しい七色の輝きを放つ。それは沙夜を照らそうとした。だが、そこもエイルが身を呈して防ぐ。
「だいじょうぶ?」
「はい、ありがとうございます」
 エイルの声に、沙夜は感謝の言葉を伝えた。その間にカノンは攻撃に移る。
「禁忌の果実を摘み取って、栞の詩を紡ぎましょう」
 カノンは本の間に挟んでいる「蒐の栞」を抜き取り、挟まれていた頁までの記録と栞の力がドリームイーターへと叩き込まれていき、レナードも生命歪曲を使って生命力を奪っていった。
「ゼロさんに力を与えるですよ」
「ありがとうございます、フィアルリィンさん」
 フィアルリィンはゼロに向かって雷による力の底上げを図る。続けてシェーラはリタ達の力を上げていった。
「醜き美の真似事とは、万死に値するぞ」
 ドリームイーターの弱り具合を見てリタは楽しげに微笑む。繰り出すグラビティは女王陛下の絶対裁判。茨がドリームイーターを捕らえ、薔薇の刃が斬る。
「緑の怒りを知るがいい、オールグリーン」
 そう言ってからゼロは草剣を構えた。
「緑一色」
 そう叫ぶと共に草剣から光の一撃を放つ。その一撃はドリームイーターを貫き、水晶が砕かれるように美しい光を放って消えていった。
「水晶のおはなでも。散ってしまうときがくるのね」
「どうか安らかに」
 その光景を見ながら、エイルは哀しそうに呟く。そして、カノンは散っていった魂に祈りを捧げた。

●山百合を探して
 ドリームイーターを倒し、シェーラやフィアルリィン達はヒールを行ってから、山の散策をしていた。
 山にしかない植物も色々と見受けられる。珍しいものを見つけると、その花を観察したりした。
「この花も珍しいですね。小さくて可愛らしいです」
 カノンは花を見つけては微笑みを浮かべる。
 でも、やはり一番見つけたいものは。
「折角ですから山百合を眺めたいですね」
 沙夜の言葉にフィアルリィンは頷きながらも、少し疑問の表情を浮かべた。
「水晶の山百合って本当にあるですか? 少し興味あるですね」
「さて、どうであろうな? もしかすると本物の水晶の百合が拝めるやもしれぬ」
 リタは楽しそうに、そう言って微笑む。
「水晶百合、もしかしたらホントにあるかもしれないよね。見付からなくても山百合は見れるだろうし、そっちも楽しみ!」
「ほんものがそばにあったら。一晩中みつめてしまいそう」
 シェーラは楽しそうに笑い、夢見るようにエイルも微笑んだ。
「でも、綺麗な山百合が見れるだけでも満足ですよ」
 そう言って沙夜が笑うと皆も微笑む。
「山百合、楽しみですね」
「うん、綺麗な山百合があると良いね」
 フィアルリィンとシェーラは楽しそうに笑った。
「それじゃあ、山百合、見つけに行こうか」
「山百合、持って帰っても大丈夫でしょうか?」
 レナードとゼロもそんな事を言いながら、散策はまだまだ続く。綺麗な山百合を探して。
 水晶の百合。それはとても幻想的だけれど……そんなものなんてあるだろうか。
 でも。それに出会う事を夢見る事くらい良いと思う。
 それはとても綺麗なものなのだから――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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