売れなかったことば

作者:市川あこ

●ことばのお店
 狭い店内には所狭しと、様々な『コトバ』が貼られてあった。
 『傍若無人なおっぱいは今日もピンクの夢を見』『すべての黒歴史はキミと出逢うためのもの』『前世の記憶はすべて捏造』『キミの声は毛布のようにぼくを包むよ』
 それらはすべて、毛筆で書かれてあって、文字として立派な佇まいを見せていた。
 棚の中にも、色々なコトバが額装されている。
 『いつもこころに詩を☆ 1詩1000円〜』壁のポップにはピンク色の文字でこんなことが描かれてあった。
 店の奥では店主の青野・春子が一人座って、うなだれている。
「どうして……どうして……絶対みんな、よろこんでくれると思ったのに……」
 彼女はひくっとすすりあげる。
「何がいけなかったんだろう……。何でこうなっちゃったんだろう」
 ううっ、と春子は声を上げると、その後は子供のように「うえーん」と泣き始めてしまった。
 するとその時、どこからともなく人影が現れる。
 ピンク色の長い髪と、頭部の大きな角。そして手に持つのは大きな鍵。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 そう言うと女は、大きな鍵を振り上げて春子の胸を一突きした。
「——っ!!」
 叫びを上げる暇もなく青野春子はその場へ崩れ落ちる。
 すると、その隣から彼女によく似た姿のドリームイーターが生まれた。
 白いワンピースを着たドリームイーターは、店内をぐるりと見回すとにっと笑う。


「みんな、今日はありがと」
 集まったケルベロスを前に、飴井・ゆゆ(ドワーフのヘリオライダー・en0200)はにこっと笑うと「あのね」と言って話しを初める。
「今回は『後悔』を奪うドリームイーターなんだ」
「後悔か……」
 ゆゆの言葉に、ケルベロスが呟く。
「被害者は青野・春子ちゃん。彼女は下北沢のはずれに念願の『詩のお店』をオープンさせたんだけど、そのお店がこの前潰れてしまったんだ。だからね、春子ちゃんは毎日あらゆることを後悔していたんだけど……。そんな時、ドリームイーターが現れて、春子ちゃんの『後悔』を奪っていったんだ。ドリームイーターは姿を消したけど、春子ちゃんの『後悔』を元にして現れたドリームイーターがいて、そいつが事件を起こそうとしてるんだ。だからね、被害が出る前に、こいつをみんなに倒して欲しいんだ。そしたらきっと、春子ちゃんも目を覚ますから」
 ゆゆは真剣な眼差しでケルベロスたちに言う。
「それじゃ、まずは敵の情報を教えるね。ドリームイーターは一人だけで、配下はいないんだ。使うグラビティは、『心を抉るポエム』、『言葉喰らい』、『恥ずかしいポエム』この三つだよ。お店の場所は、路地裏だから人通りは少ないよ。店の営業時間は朝9時からだから、これ以上被害者を増やさないためにも、早めに店に行った方がいいかな、とゆゆは思う」
「なるほど……」
 ケルベロスは頷く。
「それでね、すぐに戦闘を仕掛けてもいいんだけど、お客さんの振りをしてお店に入って、ポエムを書いて貰ってさ、そのサービスを心底楽しんであげたら、ドリームイーターは満足して戦闘力が減っちゃうみたい。だから、このポエムのサービスを受けてみるのも有りかもしれない。それにドリームイーターを満足させてから倒したら、被害者が意識を取り戻したときに、後悔の気持ちが薄れるみたいなんだ」
 一応頭に入れといてね、とゆゆは笑顔で言う。
「あ、ちなみにこのお店は、『あなたのための言葉を差し上げます』というのが売りのお店で、つまり簡単なポエムを書いてもらうような、そんなお店なんだ」
「それは珍しいな」
 ケルベロスが呟く。
「そうなの。ちょっと変わったお店なんだけど、被害者のためにもドリームイーターを倒して、この事件を解決して欲しいの、お願いっ」
 そう言うとゆゆは、ピンク色のあたまをぺこりと下げた。


参加者
メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)
ソル・ログナー(夜闇を断つ明星・e14612)
水限・千咲(それでも私は生きている・e22183)
ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
エルディス・ブレインス(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e27427)
涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)

■リプレイ


 午前8時半といえども、夏の太陽は容赦なく街を照りつけて、気温をぐんぐん上昇させる。
 店があるのは、住宅街と商店街の狭間の通り沿いだった。
 被害はなるべく出したくない。
 その思いから、8名はまず店の周辺の人払いをすることにした。
「この辺りはこれから戦場になります! 危ないので離れていて下さい」
 水限・千咲(それでも私は生きている・e22183)が初めに声を掛けたのは、犬の散歩をしている老婦人だった。
「あら……それは大変ね。わかったわ」
 彼女はすぐに、千咲の言うことを聞いてその場でUターン、元来た道を戻る。
「ここは危ないから、離れていてね」
 店の裏手で小学生の姉弟にお願いするのは、傍らに崑崙を連れた涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)だった。
 二人の子供は「わかった!」と言うと素直に店とは反対の方向へ駆け出して行く。
 その間にメリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)、ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)も散歩中の親子連れに声を掛けている。
 夏休みのだからなのか、少年が一人、店の入口から中を興味深そうに覗いている。
「此処よりこの場は戦場となる。早々に避難を!」
 ソル・ログナー(夜闇を断つ明星・e14612)は、彼に声を掛けると、「こっちだ!」と、背中を押して店から遠ざける。
 少年は驚いた表情をしていたものの、素直に詩の店から遠ざかっていた。
「もう人はいないようじゃ」
 すると、空から周辺を確認していたアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)が、翼を羽ばたかせながら降りて来た。
 スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)は『立ち入り禁止』と書かれたテープをビッと出すと、電柱にぐるぐる巻きにしてそこからテープを青野・春子の店の壁まで伸ばす。
 そうしてアデレードとメリッサも彼女を手伝って、やがて店を取り囲むように黄色のテープが張り巡らされていった。
「完成ですわね」
 これなら一般人が立ち入ることはないだろう。
 ツェツィーリアは店先の時計に目をやる。
 時刻は8時59分——。
 彼女の青い瞳が扉を見据えたその時、店内の灯りがついた。
 それが開店の合図だった。


「此処は、頼めば自分にぴったりな言葉を紡いでくれると聞いたが……違いはないか?」
 店に入ったソルは、奥に座る店主に柔和な笑みを向ける。
「は、はいっ。何でも、どうぞ。お好きなテーマで、言葉を捧げます」
 ドリームイーターは不安定な声音で彼に答える。きっと嬉しいのだろう。
 店内にはあらゆる言葉が貼られてあった。
『恋心をペットボトルに詰めて』『臆病な運命』『鱗』『囁き』『虚』……などなど。
 内容には節操がなくて、店主の気になった言葉を片っ端から貼り付けているようだった。
 そんな店内を、ソルは微笑みを浮かべて見回している。
「此れは凄い。……さながら、言霊使いと言ったところか」
 ——中身は兎も角。というのは心の中で呟いて。
(「売れなかった……そういう結果が出てしまったのは堪えるでしょうねぇ」)
 エルディス・ブレインス(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e27427)は壁のポエムを眺めながら、店主の心を思う。
 何かしらの未来を示すことが出来れば良いのだが、他人である彼が出来ることは限られている。
 しかし、少なくとも今できることは解っている。それは、ドリームイーターの持つ『後悔』を減らすことだ。
 エルディスは決意も新たに振り返ると、明るい表情でドリームイーターにこう言う。
「これは素晴らしいですね! 気に入りました」
「え……!?」
 薄暗い声で女が言う。
「一つお願い出来ますか? テーマは『月や星が沢山の夜のカップル』です」
「は、はい! 喜んで!」
 女は筆ペンを握ると、机に向かっていそいそと言葉を書き出した。
 待つこと3分弱。
「出来ました!」
『キミの目に映るのは何億光年も前の星の輝きで、もうずっと前からこの夜が用意されていたような気がするけれど、なんて言ったら月に笑われちゃうのかな』
「これは……! 素敵ですね。ありがとうございます。大切にします」
 エルディスは少し大げさなくらいに喜んで見せると、笑顔でカードを受け取る。
「ありがとうございます!」
 女は満面の笑みで彼から千円札を受け取ると、深々と頭を下げて、店を出るエルディスを見送った。
「俺にも頼む。テーマは『夜闇を断つ明星』で。……頼めるか、店主」
 すると今度はソルが店主へ声を掛ける。
「は、はい!」
 彼女は嬉々とした表情で、紙の上に筆を走らせる。その様子を、店に入ってきた茜姫と崑崙、そして千咲も興味深そうにじっと見詰めている。
 そうして、幾人かのギャラリーの中で完成したものはこんな言葉だった。
『どんな闇でもキミという明かりがあれば、僕はもう夜に融けたりしないで済む』
「なるほどな、ありがとう。気に入った」
 エルディスは店主に向けて、満足そうな笑みを見せると代金を渡す。
「即興で作れるって凄いね!」
 そう言ったのは、茜姫だった。
「私、のろまだからなあ。お仕事にまでできるの、すごいね!」
 茜姫は、にぱっと無邪気な笑顔で言う。
「私は『雨』をテーマでお願いしたいな?」
「はいっ!」
 次から次へと注文が入って、店主のドリームイーターは嬉しそうに筆を走らせる。
『ゴリラのような烈しさで、すべてをつんざく雨音。どうか、この私のことも雫で貫いて頂戴』
 彼女は茜姫にこんな言葉を差し出した。
「すごい! 素敵だね!」
 喜んで見せる彼女に、店主は笑って答えるけれど、それも束の間。
「私にもお願い出来ますか?」
 今度は千咲が注文をする。
「テーマはありますか?」
「んー……それでは、私のぱっと見の印象あたりをテーマに! ……よろしいでしょうかっ!」
「勿論!」
 店主は千咲を一度、じぃっと見るとすぐに筆を握ってせっせと言葉を書き出した。
「どうぞ!」
 彼女が差し出した紙には、こんな文字が描かれていた。
『弾む、笑う、跳ねる、愛する。ボールみたいなきみの笑顔を捕まえられるのは誰?』
「わぁ、嬉しいです! 私の印象ってこんな感じなんですね」
 笑顔でありがとうございます、と言うと千咲はその言葉を受け取った。彼女の表情に、店主も嬉しそうに頬を赤らめる。
 店内にはケルベロスたちが出入りしていて、おそらくこの店始まって以来の賑わいを見せている。
「今度はわたしにもお願いします!」
 続いて店主の前に現れたのは、メリッサだ。
「何にしましょう!?」
 ドリームイーターが生き生きとした声で答える。
「『眼鏡』です! 難しいなら『鯖江』でもいいですよ!」
「なるほど……」
「コンタクトだけはいけません。割ります」
「わかりました!」
 店主は鋭い視線でメリッサの眼鏡を見ると、何かを閃いたらしく一心不乱に筆を走らせた。
『もしきみが消失して眼鏡のフレームだけが残ったとしたら、ぼくはそれをきみの身体の一部だと言い張るのだろう』
「素晴らしいです! 私、これ大好きです!」
 出来上がった詩を前にメリッサは大げさなほど喜ぶ。
 勿論ドリームイーターを満足させるためのリアクションだけど、それを差し引いても彼女はこういうのが好きなので割と心から楽しんでいる。
「嬉しいです。眼鏡のフレームは本当に大切なんです!」
 眼鏡真教教主の彼女は若干前のめり気味でそう言うと、詩を受け取ってぎゅっと抱き締めた。
「ありがとうございます」
 満足そうににっこり笑う店主に、今度はアデレードが声を掛ける。
「次はわらわにも書いてもらえぬか? テーマは『正義』じゃ」
 彼女はにっと笑顔で言う。
「正義とは地球人皆の心の中にある熱き心じゃがそれを言葉にするのは恐ろしく難しい。故に! お主の熱き心、言の葉に替えてわらわにぶつけるのじゃ」
「はいっ」
 そう言うとドリームイーターは、ささっと言葉を書き始める。
 少しの間、待って出来たのはこんな詩だった。
『正義は人の数だけ在るものだけど、平和を願う心は同じ。だからお願い、許して私の正義。餃子には絶対チョコレートソース』
「……なるほど。それがお主の熱き心なのじゃな」
 受け取った詩を、アデレードはぐっと熱い視線で見詰める。
 素直なアデレードは意外にもドリームイーターの紡いだ言葉に若干の感銘を受けていた。
 続けざまに詩を6つも書き上げて、ドリームイーターは疲れたらしく溜息を吐いた。けれどその表情はとても穏やかなものだった。
「さて……そうね。私にも詩を一篇お願い出来るかしら?」
 続いてドリームイーターを喜ばせるために現れたのは、スノーだった。
「お題はそうね、私と愛弟の周りから見るイメージを詠んで下さいな」
 店主はスノーを見詰めると「わかりました!」と言って、筆を握って言葉を走らせる。
 一体どんな素敵な詩が詠まれるのだろう。弟への愛に関して過剰なほどの自信を持つスノーは、わくわくした気持ちで詩の完成を待つ。
 そうしてしばらく経って、ドリームイーターが差し出したのはこんな言葉だった。
『キミの目は弟だけを映して、キミの声はいつも弟だけを呼ぶ。溺れるほどの愛情は重く溢れて、眩しすぎて目がつぶれちゃうよ! 早く気付いてドン引きの視線に』
 どうぞ。と渡された紙を、スノーはショックを受けた表情で受け取る。
 自分が弟に愛を注ぐ姿は美しく、それ相応のポエムが届くと思っていたのに。想定外である。
 ふらふらと涙目で店主の前から立ち去るスノーの次に現れたのは、ツェツィーリアだった。
「わたくしにもお願いします。テーマは『月夜の雪原』とでもさせて頂きましょうか」
「はいっ!」
 ツェツィーリアの注文を、店主は嬉しそうに書き始める。
 静謐なる白銀の世界。これをどう現すのか。
 詩を諳んじるほど愛するツェツィーリアは、彼女の紡ぐ言葉を興味深そうに眺めている。
「完成です!」
『一人往く、つめたい道。月の夜。左手に握り締めるは、きみからの手紙』
「成程……。この様な形で紡がれるとは大変面白く」
 ツェツィーリアは店主から詩を受け取る。
 8名分の詩を書き終えたドリームイーターはとても穏やかな顔をしていた。
 後悔の念の減った今、戦闘力は下がっているだろう。
 店の奥には意識を失った本当の店主、春子がいる。
「人が前進するための枷となる、後悔の権化たるお主を許すわけにはいかぬ。覚悟するのじゃ!」
 アデレードは大きな鎌を振り上げると、回転させながら投げつけた。
 刃がドリームイーターの白い服をずたずたに引き裂きながら、元の場所へ戻って来る。
「そうですか……そういうことですね」
 ドリームイーターがゆらりと立ち上がり、戦闘が幕を開ける。


「彼女が言葉を生み出すならば、おれは悪霊をブチ砕く」
 ソルの蹴りが電光石火で店主の脇腹に炸裂する。
 満足感を得たドリームイーターの動きは鈍く、彼の脚は的確に急所を突く。
「重いとか……重いとか……人の純粋な思いを……!!」
 涙目でバスターライフルを構えたスノーは、思い切り魔法光線を発射する。
「ぶらこん……びーむ……」
 ドリームイーターは腹を抑えてよろめいた。
 その隙にエルディスがその腕の祭壇から、紙製の兵士を前衛に向けて大量に撒き散らす。
 紙兵たちに守られ、攻撃の耐性が上がる。ドリームイーターは弱体化している。一気に畳みかけたい。
「暗い夜を越えて、きみに会いたいよ。何度でも抱き締めるよ。目を閉じればきみの笑顔と桜の花。会いたい、会いたい」
 それはどこかで聞いたことのあるような、どこにでもあるような恥ずかしいポエム。
 うっかり真面目に耳を傾けてしまったのはアデレード、だけど紙兵の守りのお陰で催眠だけは免れた。
 更に守りを固めるべく、崑崙はアデレードへ自身の属性を注入する。
「世界に眼鏡を。眼鏡に光を」
 メリッサの言葉と共に、辺りに神々しい眼鏡空間が展開される。
 美しい自然と、遙か遠くには聖地SABAE。数多の眼鏡が舞い散るその空間は、眼鏡真教にとって理想郷そのものだ。
 その眼鏡的光景は戦闘に疲れた仲間たちの心を癒やす。 
 ——さぁ、絶望を焚べなさい。さすれば後悔より生まれし悪夢もまた希望への篝火へと。
 それはツェツィーリアの祈り。彼女は凍てつくような鋭い瞳で、ドリームイーターを見据える。
「撃ち貫くは黒き銃弾、刃折りし衰弱の魔弾」
 ハティは敵めがけてエネルギー光弾を射出し、クソみたいな詩の力を更に弱めていく。
 白いワンピースを着た女はふらついて、何かを言おうとしたけれど、それよりも早く茜姫の脚から星の煌めきを宿した蹴りが炸裂して、後ろにすっころんでしまった。
 『斬撃空間』を手にした千咲がドリームイーターを追いかける。
 剣先が射程圏内へ収まったと踏むが否や、彼女は刃で敵の腹の上に緩やかな弧を描く。
 躊躇いのない斬撃がドリームイーターの時を止め、敵はその場で砕け散った。


「大丈夫ですかっ!?」
 千咲は店の奥で意識を取り戻した春子の元に駆け寄った。
 幸い春子は無傷で、ケルベロスたちに事情を聞くと申し訳なかったと頭を下げた。
「結果はどうであれ、なすべきことをなした。それだけで立派なことじゃと、どうか忘れないでほしいのぅ」
 アデレードが春子に言葉を掛ける。
「言葉を紡ぐ人は前を見なければなるまい」
 諦めるには早い、とソルは首を振る。
「報われずとも決して無駄ではないはずなんです。喜んだ人だってきっといたと思うんです」
 店に貼られた詩を前に千咲が言うと、春子は「そうだといいんですが……」と微笑みを浮かべる。
「ポエム自体は決して悪くはない。次は店の場所をもう少し考えて、本屋のような店の一つのコーナーとして行ってはどうか」
 そう言うとエルディスは春子に「援助です」と言って、封筒を渡した。
「えぇ!?」
 中身を見た春子は恐縮するが、エルディスがもう一度受け取って欲しいことを伝えると「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
「こういう商売は目に触れてなんぼだと思うのです。イベントスペース等に積極的に出店する方がよろしいでしょう。その上でリピーターになって貰えばいいのです」
 メリッサが眼鏡を光らせて言うと、春子は「なるほど」と言ってメモを取る。
 そんな春子へ、店内のヒールを終えた茜姫がポエムを一緒に作ろう、と誘う。
 喜ぶ春子に、涙目のスノーも後でポエムを書いて欲しいとお願いをする。
 ドリームイーターの言葉は信じたくない、だから春子の言葉で。そんな風にスノーは思う。
 店を失うことにはなったものの、言葉を失ったわけではない。
 またやれる。別の形で。
 春子は明るい表情で、詩を紡いでいくのだった。

作者:市川あこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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