死体のお店のネクロ店長

作者:塩田多弾砲

「……やはり、わたくしの『趣味』は、まともではなかったのでしょうか」
 彼女……狭間黒子は、名前から連想されるような、長い黒髪が美しい、清楚ささえ感じさせる女性。
 しかし、彼女は今……悩んでいる様子だった。
「せっかく、お爺様から受け継いだアンティークショップだというのに……一年とたたずに閉店させてしまうとは……」
 黒子の手には『「借金督促状」狭間黒子様』と書かれた書類が。そして彼女の周囲には……様々な品物が所狭しと置かれていた。
 が、その全てには、『二つの共通点』があった。
 その『二つ』とは……『死体』、そして『グロテスク』。
『剥製』『ミイラ』『ホルマリン漬け』『骨格標本』、それらを模した『家具や雑貨』。そういったものが、この店での取扱品目。
『剥製』『ホルマリン漬け』は奇形動物の死体のものもあり、『ミイラ』も複数の動物を繋ぎ合わせた、インチキ合成生物のものもあり、『骨格標本』も、同様に頭部や手足をあえて増やしたおぞましきものも、大切に店の中に飾られている。
 置かれている全ての物品は、あえて気味が悪く、恐ろしく、不安な気持ちを誘発させ、『死』という概念を強制的に見るものに刻み込ませるものばかり。
 が、黒子はそれら一つ一つを、愛し気に愛撫し……ため息をついていた。
「受け継いでから、『趣味のものを取り扱って構わない』と聞きましたから、そうしたのに……やはり、こういうものの需要は世の中には無いのですね」
 黒子は手近にあった売り物……猿の手のミイラを手に取り、頬ずりする。
「もしもこの猿の手が本物だったら、お願いを聞いてはくれないかしら」
 そうつぶやいた、その時。
「……え?」
 黒子は、『二つ』の点について驚きを覚えていた。
 一つは、いつの間にか現れた『彼女』に関して。
 そして今一つは、その『彼女』が手にしていた大きな『鍵』が、自分の『胸』を貫いている事に関して。
「私のモザイクは晴れないけれど………』
 そんな事を口にする『彼女』を、黒子は見つめた。まるで魔法使いか魔女のような衣装を身に付けており、ところどころにモザイクが。頭から生えるは二本の角。
『……あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 第十の魔女・ゲリュオンはそう言い放ち、『鍵』を回した。
 黒子は意識を失い、倒れ……。
 その傍らに、新たなドリームイーターが現れ、立ち上がった。

「……と、このような事が起こったようです」
 セリカ・リュミエールが、君たちへと説明する。
「自分の店を持つ、という夢を叶えたのですが、それを潰してしまい後悔している人が、ドリームイーターに襲われ、その『後悔』を奪われてしまう、という事件が起こってしまったようなのです」
 この店は、アンティークショップ『ゾンビズガーデン』。
 その名の通り、『死体』を中心とした品物を供している店、だという。
「剥製とかホルマリン漬けの死体標本とか、ミイラとか、骨格標本とか、死体を利用して作った雑貨や家具とか、そういったものを中心に取り扱っているお店のようですね。で、ものがものなだけに、売れるものじゃないからこうなったようですが……」
 問題が起こった、と、セリカは続けた。
「彼女の『後悔』を、このドリームイーターは奪い取り、それを用いて何かを企んでいます。被害が出る前に……このドリームイーターを撃破していただきたいのです。これを倒せば、黒子さんも意識が戻り目を覚ますでしょう」
 敵ドリームイーターは、一体のみ。黒子と同様に、黒いゴスロリの衣装に身を包んだ、少女の姿。
 ただし、その顔や肌は、腐敗し傷み、朽ちつつあるそれ。特に顔は、狂乱したまま死した人のそれ。
 戦い方は、髪の毛。黒子同様に長く伸びた黒髪を、相手に絡ませたり締め付けたりするのみならず、店中にあるミイラや剥製、骨格標本などに絡ませ、操り人形のように手足を操って攻撃させる事もできるという。
 戦闘は、店内。
 店内は、敷地はそれなりに広いが、商品があちこちに置かれているため、かなり手狭な様相となっている。その手狭さを利用し戦う事が重要だと、セリカは付け加えた。
「あと、そうですね……。お店に乗り込み即戦闘も可能ですが、お客として入店し、接客される事を心から楽しんであげると、このドリームイーター……仮名『ネクロ店長』は満足を覚えて、戦闘力が若干減少するようです。そして満足した後で敵を倒した場合も、救出された被害者は『後悔の気持ちが薄れ、前向きに頑張る』気持ちになれるようです」
 そして、その際には……ドリームイーターは『接客』するための『言葉』を離す事はできるが……『交渉』『意思疎通』といった事はできないらしい。
 とにかく……と、セリカは言う。
「『後悔』を奪われてしまった黒子さんのためにも、ドリームイーターの殲滅をお願いします」


参加者
岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
オーネスト・ドゥドゥ(アーリーグレイブ・e02377)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)
マナフ・アカラナ(万象劣化・e24346)

■リプレイ

●dead1:Night・of~
「いらっしゃいませ……」
 店の扉を開くと、そこには『少女』の姿が。
 しかし、その姿は『異常』なそれ。着ているゴスロリ衣装は、肌の露出がかなり多めで、例外なく『腐敗』が見られていた。最初にそれを見た黒狐のウェアライダーの少女、岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)は、驚愕したが……すぐにそれを引っ込めた。
 暗い店内には、『死体』を素材とした商品が『雑然』と並び、同時に奇妙な『整然』も存在する。
「ようこそ……。ワザワザ来客して頂きました故に……皆様は死体に『興味』がお有り……という前提で、接客させて頂きます……」
「……そうだね、よろしく」と、響。
「ふうん……スゴく、魅力的なデザインだね。悪くはない、かな」
 響に続いて店内に入るは、喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)。色黒の肌と赤の瞳を持つサキュバスの美少女は、店内を見回しつぶやく。
「香水の匂い……死臭を隠すためかなっ? そういえばちょっと『臭う』ね」
 アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)、華奢で乙女のような可憐さを兼ね備えた美少年のサキュバスは、店内の澱みが若干ある臭いを吸い込みつつ言った。彼のボクスドラゴン・ドラゴソは、警戒するように彼の足下で震えている。
 三人に続き、更に三人が店内に。
「……『ホルマリン漬け』の商品を、見せてもらいますか?」
 シャドウエルフの少女、シルク・アディエスト(巡る命・e00636)。
「大人数でゴメンナサイ。ちょっと見せてもらっても……いいカシラ?」
 サキュバスの美女、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)。
「いいですね。……死は、『平等に訪れるもの』。それを『美しいもの』と見れるのは、いいと思います」
 レプリカントの、黒髪と漆黒の瞳、眠たげな瞳を持つ女性、アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)。
『少女』……すなわち、『ネクロ店長』が、シルクとパトリシアに向かい、ホルマリン漬け死体の講釈を始めたところに、最後の二人……マナフ・アカラナ(万象劣化・e24346)とオーネスト・ドゥドゥ(アーリーグレイブ・e02377)が店内に。
「ああ、すみません。お邪魔致しますね。私にも、ホルマリン漬け死体についてお聞かせ下さい」
 マナフ……ヴァルキュリアである銀髪の男性も、ネクロ店長の言葉に耳を傾ける。
 その様子を、オーネスト……桃色の髪を持つ、軽薄そうな男は、興味深そうに見ていた。
「俺ぁ、死体なんぞに興味はねぇが……店長さんには別だ。説明や解説を、楽しんでるじゃあねえか」
 心の中で小さくつぶやいた彼は、周囲を見回し……おススメがあったら『買ってもいいか』とも考えていた。

●dead2:Dawn・of~

「……こちらが、ハツカネズミのホルマリン漬けです。大きさや標本としての完成度から、売れ線の一つではあります……」
 ネクロ店長の口調は、うつろだったが……。それでもなぜか、『熱意』が伝わるものだった。
「ホルマリンは、『有毒』です。ですが危険なこの液体は、死体の死後変化を抑える事で、死体を死した状態のままで『保存』する事ができるのです……」
 ネクロ店長の『熱意』に当てられたように、気が付いたら響は、その講釈に聞き入っていた。
 真剣な面持ち……まるで、過去を振り返り思い出してるかのような面持ちになっている。
「ふうん、『死』を『保存』する、か……」
「質問、いいかしら?」
 波琉那が挙手し問う。
「なぜ、『死を保存する』のかしら? 個人的な趣味とか、嗜好が、その理由?」
 そんな波琉那の質問に、ネクロ店長は更に語気を強め、語っていく。
「それもありますが、本質は……『死を意識する事で、現在の生を実感するため』です」
 近くの大きな剥製を指し示し、彼女は言葉を続けた。
「剥製もそうですが、死体を『保存』すると言う事は、生命が死した瞬間または直後を『保存』する、という事でもあります。誰もがいつかは経験し、体験する『死』。『保存された死』をもって、自らの死を覚悟するのみならず……現在の『生』を実感する事も出来る。そこに……意義があるのです」
「それってつまり」と、シルクが口を挟む。
「平たく言えば、死をより見えやすくすることで、死に対する『畏敬の念』を高め、今を生きることのありがたみが感じさせるため、でしょうか」
 シルクのその言葉に、ネクロ店長のおぞましい顔に……どことなく満足そうな笑顔が浮かんだのを、アリスは気付いた。
「まさにその通り! 死から目を背けるより、死そのものを見返す事で、『死』への覚悟と敬意を覚える。死体は、沈黙のうちにそれを語り掛けているのです」
 ネクロ店長の、うつろな、しかし饒舌な口調へと、アトは感心したようにうなずく。
「『朽ちていく、動かぬ機械』。自分は、そういうものを眺める事が好きですが……それに似たものを感じますね。では……これを一つ、いただけますか?」
 そう言って、アトは手近なところのホルマリン漬け標本……ハツカネズミの入った小さな瓶を手にした。
「こちらは、奇形の動物のようですが……元はなんでしょう?」
 マナフも同様に、大きめの標本を手に取り質問する。
「それも、ネズミ、です……。胴体の腫瘍と、第二の頭部で、元の面影が無くなっていますが……」
「なるほど。……いやはや、面白いものですねぇ」

●dead3:Day・of~
「ありがとう、ございました……またの、お越しを……」
 一通りの接客を受け、ネクロ店長からそのような言葉が。
 だが……ケルベロスたちは、店内に留まり続ける。
「……まだ、何か?」
「ん~、さっき仕入れの事とか、色々と聞かせてもらったけどさ~……店長さん自身が『死体』になったら、どうなるのかなって思って……ね」
「その後の、遺品買い取り。多少は世話してあげるワ」と、パトリシア。
 アリスの言葉に、ネクロ店長は……。
 微動だにしないが、『反応』した。少なくとも、そのような態度が……ケルベロス達に伝わった。
 響、シルク、オーネストが前に進み出て、パトリシアが続く。
 その後ろに、波琉那とマナフ、二人のスナイパーと、
 アトにアリス、二人のメディックとが続いた。アリスの足下には、ドラゴソが唸っていた。
『戦い』の意思を、ケルベロス達は漂わせている。
 それを感じとったかのように……。
 ネクロ店長は両手を振り払った。
 否。正確には、両手の先から、自身の髪の毛を掴み、それを周囲に放った。
 髪の毛は、近くに飾られていた骸骨……に似た、人間のミイラにも巻きつく。
 途端に、ミイラは動き出し、立ち上がった。否、ただ立ち上がっただけでなく、ネクロ店長の髪の毛が全身あちこちに絡み、まるで操り人形のよう。
 奇妙なその動きに……ケルベロス達の方が逆に奇妙さ、かつ不気味さを感じてしまう。
 が、そんな不気味な『それ』に対し、動いたのはオーネスト。
「一緒に……地獄に、堕ちようぜ?」
 命の焔(フィアンマ・デッラ・ヴィタ)。地獄絵図めいたおぞましき瞬間が、戦場に爆ぜつつ降臨した。
 ミイラの体が燃え上がり、そして燃えつきた。その様子に、警戒するようにネクロ店長は多少のたじろぎを見せる。
 そして、ネクロ店長は店の壁を素早く這い回り、壁を素早く登っては、天井からもぶら下がり、ケルベロス達を睨み付ける。
 が、店長は見逃していた。ケルベロスたち、彼ら・彼女らの持つ心の強さを。
 予想外の方向から、店内の一方向から、アトの放ったドラゴニックミラージュに襲い掛かられたのだ。
 ネクロ店長の服が、肌が燃えていく。それは、ケルベロスたちが攻めに転じた事を意味していた。

 天井を這い回りながら……、まるでクモのように動き回るネクロ店長。
 すかさず、マナフが熾炎業炎砲を放つ! 炎の一撃は、ネクロ店長にも襲いかかり、その身を焦がした。
 店内を逃げ回るネクロ店長。だが、その姿と逃走は、戦いを避けんとしているのが見て取れていた。
「……確かに、動きにメリハリというか、楽しさが感じられないワネ」
「あるいは、戸惑っている、とか?」
 パトリシアとアリスとが会話する。確かに、そう取られてもおかしくない。
 まるで、店内の事、店の古物を戦いに巻き込まれ全て失うのを避けているかのように。
 最初に『接客』を受けていた事が、これほどまでの効果を上げるとは。ならば……今こそとどめの攻撃を!
「はっ!」
 フロストレーザーが、波瑠那から放たれた。冷気がネクロ店長を襲い、そいつを床に落とす。
 すかさず生じた、わずかな『隙』。そこへと、必殺の一撃が……響から放たれた。 
「『血襖斬り』……ッ!」
 惨殺ナイフの刃が、ネクロ店長へと食い込み……それが止めとなりて朽ち果て、堕ちた。

●dead4:Land・of~
「そうだったの、ですか」
「だが安心を。奴は倒しました。もう大丈夫ですよ」と、黒子へと言葉をかける波琉那。
 ネクロ店長が倒れるとともに、起き上がった者がいた。
 それは、黒子。ネクロ店長が倒されるとともに、彼女も意識を回復させたのだった。
「それで、店の事だがな。もう分かってるとは思うが 趣味と仕事はしっかり分けなきゃ、ってことだな」
 オーネストの言葉が響く。彼に続き、マナフも言葉を。
「そうですね。私としては、なかなかいいお店だとおもうのですがねぇ」
 彼につづいては、アリスが。
「ハロウィンとかそういう時期を狙うとか、あとはお化け屋敷に売り込むか、いっそ、ここをお化け屋敷にしちゃうとか? そういうのもまた、あっても良いんじゃないかって思うんだ」
「……検討してみますね」
「黒子ちゃん。あの、あのね……」と、波琉那。
「?」
「素敵な夢を、応援してるよ。また遊びにきていいかな?」
 波琉那から頬に口付けされ、
「……ええ、もちろんです」
 黒子はそう言って、微笑んだ。
 その後、店はなんとか持ち直し。黒子も商売のやり方を学び、かろうじて経営を続けられる状態にまでになった。という。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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