ア~ア~アカペラ派ドリ~ムイ~タ~♪

作者:荒雲ニンザ

 合唱団で有名な、とある小学校の放課後。
 一人の少年が、暗い裏庭で何かを探している姿が見えた。
「……まったく、あいつら。どうして来ねーんだよ。いたらおもしれーじゃん、一人で5人のハモリができるアカペラオバケだぜ? どうやって歌うのか、メチャクチャ興味シンシンだろそんなの」
 一人で探すハメになったことをぶつぶつ文句垂れているのだろうか、それとも一人で薄暗い山の中を探すのが怖いのか、先程からひっきりなしに言葉が漏れている。
 そんな少年の前に、突然第五の魔女・アウゲイアスが現れた。
「わっ!!」
 女性は次の瞬間、手に持った鍵で少年の心臓を一突き。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 意識を失った少年は崩れ落ち、その横に……巨大な顔に口が5つあるドリームイーターが現れた。

 言之葉・万寿(オラトリオのヘリオライダー・en0207)が、アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)と共に急ぎ足で現れる。
「大変ですぞ! 『一人で5人のハモリができるアカペラオバケ』なるものに、強い『興味』を持った少年が、それを探している途中にドリームーイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまいました!」
 現在、『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようだが、奪われた『興味』を元に現実化した怪物型のドリームイーターが、放課後の学校で練習をしている合唱団を襲おうとしているらしい。
「怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して頂きたいというのが、今回の依頼でございます」
 このドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった被害者も目を覚ましてくれるだろう。

 敵のドリームイーターは1体のみで、配下などはいない。
 ドリームイーターは、自分の事を信じていたり、噂をしている人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質がある。それを利用し、うまく誘き出せば有利に戦えるだろう。
「あと、気を付けて頂きたいのですが、『一人で5人のハモリができるアカペラオバケ』は、人間を見つけると『私のパ~トはな~んだ』と問うてくるようです。そこでこちらが正しい対応をせず、気にくわない返答をすると怒り出し、殺そうとしてくるらしいのです」
 万寿の説明にアバンが加えてやる。
「答えられなかったり、見当違いな対応をしてしまうと、怒りだすみたいだぜ。例えば『口だけオバケ』とか、『ドリームイーター』とか、そういうことじゃないみたいだ。うまい事考えて、切り抜けてくれ」
「都市伝説を探している可愛らしい子供の好奇心を何だと思っているのでしょう。ましてその興味を利用して怪物を生み出すとは。ドリームイーター許すまじでございます!」
 万寿の怒りにアバンも同意した。
「学校にいる人達が危ない! みんな急いでくれ!」


参加者
天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)
一后・鈴蘭(君影草・e00183)
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
シャウラ・メシエ(誰が為の聖歌・e24495)

■リプレイ

●ア~♪
 学校の裏山を中心に、シャウラ・メシエ(誰が為の聖歌・e24495)がウイングキャット『オライオン』を連れて飛行している。
 下から彼女をみつけた子供達が、人差し指を向けて追ってきたのを目に入れ、そこにスウと降り立つ。
「うらやまに、ドリームイーターがいます。危ないからすぐににげてください」
 シャウラと同じくらいの年齢だろう、その小学生は興味深い様子で聞いてきた。
「あなた、ケルベロスでしょ? 裏山って……アカペラオバケを倒しにきたの?」
「あいつ、悪いヤツだったんだ?」
 特に悪さをするでもないはずだったその都市伝説の1つが、急に悪い印象に変わってしまう。
 ガッカリした様子の子供達が避難するのを見送り、シャウラはオライオンに言った。
「歌うこと、楽しいしワクワクします、けど……そこからドリームイーターが出るのは、悲しいです、よね。せめてこれ以上、歌うのがすきな人が襲われないためにも、しっかり倒しておきましょう」
 そこから反対側の通路。学校に向かったのは風魔・遊鬼(風鎖・e08021)だ。
 職員室にいる教員に事情を説明するべく、自分がケルベロスであること、ドリームイーターが現れたので、万が一の為に山側から離れて非難をする事、この2点を伝えた。
 無論市民はケルベロスに協力的だ。問題なく聞き入れられ、校内放送と共に、校内に残る生徒の安全が確保される。
 一方、警戒行動をとっているメンバー。
 被害者の田原裕太少年が現場に倒れていないかも含め、周辺を移動しながらドリームイーターを探す。
 作戦としては、敵をおびき寄せて森の奥へ誘導という方針で動いている。
 よって現在、噂話に花を咲かせているが、遊んでいる訳ではない。
 天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)がボクスドラゴン『アグニ』を横につれて口を開いた。
「『一人で5人のハモリができるアカペラオバケ』かー」
 よちよち歩いてくるミミック『ハコ』の隣、一后・鈴蘭(君影草・e00183)が嬉しそうに話に乗った。
「一人で5人のハモリができるアカペラオバケってすげーよな。今回は興味から生まれたドリームイーターだけど、実際に居たら面白そう!」
「1人で5人のハモリが出来るって……どういう感じだろう……別々のパートをそれぞれの口から……? それとも5人分のコーラス……?」
 首を傾げる四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)に、十夜も続く。
「普通に考えればちゃんと上手なんだろうけど、これで実はハモリが『できるだけで』その実、不協和音しか出せない、すっげぇ音痴とかだったら面白いな!」
 そんな賑やかな3名の話を、ふ~んと聞いているのは神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)だ。
「都市伝説への好奇心っすか。んー自分はあんまり学校とか行かずに巫術の修行ばっかりしてたんで良くわかんないんすけど、こういうのが自分の小学生時代にも流行っていたんすかね」
 アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)の周囲を流動する真鍮色のものは、オウガメタルだろう。筋を引いて彼女のボディラインを流れたと思えば、プツと途切れた玉が熱帯魚の姿を模して隣のラインに着水する。その繰り返しは優雅で、見ていて飽きない。
「アカペラをする方々に対しては、尊敬のような気持ちを持っています。声と音だけで、あんなに素敵な音楽を作り出すのですから。……でも、今回のドリームイーターはいただけません」
 そんな会話をしていると、アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)が皆を止めた。
「シッ……!」
 どこからか、リズムをとる声がする。
 皆が顔を見合わせてから頷くと、十夜が言った。
「ま、それはともかく相手がデウスエクスに変わりはないから、キッチリ倒してこの世からご退場してもらうぜ!」
「まあ、夢食いをきっちりと倒して男の子を救出しますか」
 結里花の台詞のすぐ後、木の陰からドリームイーターが姿を表した。

●ルルル~♪
 白いヒラヒラを着て、ベレー帽、だが顔は巨大。
 そして何より、口が5つ!
 顔には口しかないのであるから、これと夜の山道で出くわしたくない。
 そうこうしているうち、ドリームイーターが例の台詞を口にする。
「「「「「私のパ~トはな~んだ♪」」」」」
 5つの口が同時に動き、そうなぞかけをしてきた。
 周囲の避難対応をしていたメンバーも戻ってきたので、合流して作戦決行。
 こちらの作戦は、問いかけに対して誤答、挑発、煽りを繰り返す事で怒らせ、ディフェンダーであるアバンへの攻撃が増えるように仕向けつつ、学校から引き離すように誘導する。
 もしこのドリームイーターが、そのあたりの嘘を察知できる怪物だとしたら大変なことになってしまうかもしれないので、効果を十分発揮させるため、きちんと考えて答える事も忘れずに行う。
 まずは小さなシャウラが耳を澄ます。
「ずっと歌っていたので、わたしが間違える訳にはいきません、ね」
 少女に歌の才能があるのを察したのだろう、ドリームイーターは5つの口の両端をつり上げて笑っている。
「「「「「ア~♪」」」」」」
 5つの音が同時に流れ、鼓膜を震わせた。
 結里花も、義妹からの音楽知識がそこそこあるので、しっかりと回答を考えている。
「(……アカペラなのでリードボーカル、コーラス、ベース、あとあってパーカッションとかその辺だと思う)」
 その背後から、ひょっこり顔を出して答える鈴蘭と千里。
「TOPコーラス!」
「リードボーカル?」
 突然ドリームイーターの5つの口が歯を食いしばる。
 二人はアバンのフォローの為に答えているので、間違えていても支障がない。
 するとドリームイーターは十夜を指した。
 指名がかかったが、十夜はあえて答えない。
 作戦は誤答をし、ヘイトコントロールするのが目的だからだ。
 彼個人は、『コーラス』系だと読んでいるが。
 ここでアバンが割り込むように話し始める。
「自分で自分の事解らないのか。大笑いだぜ、脳味噌に夢詰め込み過ぎなんじゃね? あ、悪い。口だけオバケのお前には脳味噌なんて無かったか」
 彼は去年の冬に入った依頼で、一緒になった年下の子を思い浮かべていた。
「(確か、相手の心をかき乱す話術……だっけか)」
 同じ手を今回使い、敵のヘイトを自らに向けようというのだろう。
「(すまん、ちょっと借りたぜ)」
 そう心の中で詫びを入れる一方、ヘリオライダーの横で『上手く考えて切り抜けてくれ』などとアドバイスを入れておきながら、これから正反対の事をしようとしてるのはどうなんだと、ちぐはぐな自分を面白く思ってはいる。
 まあ、これはこれ。それも一つの作戦、これも一つの作戦だ。
 案の定、ドリームイーターは答えない十夜から、アバンの暴言に怒りを移動させた。
 この隙に、アイラノレがキープアウトテープを張り巡らせ、山の入り口や道を塞いでいく。
 あとは事を優位に運べるかどうかの試みだ。
 鈴蘭も挑発の流れに乗る。
「ボイスパーカッションは出来ないの? 出来たらカッコイイと思うのになー。結局のところ、答えは合ってるの、どうなんかな?」
 ドリームイーターがいきり立って口を開けた所、アバンは更に敵を小馬鹿にするべく、用意していた激辛食物を口の1つに放り込んだ。
「「「「「ギエーーー!!!」」」」」
 デリケートな歌い手の喉に、容赦なく刺激を与える激辛成分。
「ほら食え食え、折角五つも口があるんだ、一つくらい潰れたって問題無いだろ」
 ウザさを強調するアバンに習い、不真面目な態度で挑発するべくオライオンも笑っている。
 アバンたちがじりじりと山の奥に進んでいるのも気がつかず、ドリームイーターはついに攻撃態勢に入った。
 アイラノレのキープアウトテープもしっかり囲んでいる。
 念には念を入れたのだ、戦闘はこちらが有利で思い切り戦えるだろう。

●ラ・ラ・ラ!
 鼓膜が割れそうな程の高音、地面が震動する程の低音。不安に駆られる不協和音で風のうねりを表し、その場の空気が押し出された。
 盾役である以上、何が何でも味方を守るつもりのアバンが前に出ると、結里花が武器を構える。
「さて、対魔のプロとしてきっちりと仕事をこなしましょうか」
 各々がポジションにつき、敵との間合いを探ると、火力重視の配置が窺える。
 命中率の高さが攻撃の要だ。
 まずは結里花から仕掛けた。
 異国の神が戦いの際に行った逸話を元にした儀式であろう、手早くそれをこなすと、彼女は戦闘モードに切り替わり、卓越した技量から達人の一撃を放った。
「捉えました!」
 アバンは戦言葉で自らの防御を固め、仲間の攻撃を引き受ける用意をする。
 ジャマーの遊鬼はケルベロスチェインをしならせると猟犬縛鎖で敵を締め上げ、こちらに有利な状況を組み立てていく。
 彼の攻撃は、静かに、的確に、執拗にポイントを狙う。
 キープアウトテープでしっかり囲まれている今、戦闘エリアに一般人が近づく可能性はない。剣気解放で追い払う必要性のなくなった千里は、攻撃に専念できるというものだ。
 月光斬で緩やかな弧を描いた剣筋は、敵の腱を見事に断ち切った。
 アイラノレが雷の壁を構築してライトニングウォールを張り、攻撃が頻繁に向くだろう前列にBS耐性をつけてやる。
 十夜の攻撃。
「まずは逆打ツ刻で呪詛をかけて先制させてもらうぜ!」
 パラライズを狙った一撃はジャスト。グッと敵の体力を削った。
 彼のボクスドラゴンであるアグニはディフェンダーにつき、ボクスブレスで敵に焼き目をつける。
 十夜とは熾烈におやつを奪い合う仲だが、攻撃時のコンビネーションはとてもよい。
 ディフェンダーについているオライオンが清浄の翼でBS耐性を後衛に施し、シャウラが冥府深層の冷気を帯びたジュデッカの刃で敵を凍結させる。
 ハコの攻撃は避けられたが、盾の役目はしっかりこなしてくれていた。
 鈴蘭も負けてはいられない。
 ファミリアロッドの先端から、大量の魔法の矢を一斉発射。マジックミサイルが音を立てて敵に当たると、杖を一降りして余韻を残す。
「数撃ちゃ当たる? ガンガン狙って当ててくから覚悟して頂戴な!」
 こちらの攻撃が一通り済んだ後、ドリームイーターの攻撃に入る。
 開けた5つの口の中から、ホオオオオと空洞からもれた空気の音が聞こえる。そのすぐ後、アバンに向けて心を抉る鍵で肉体を斬り裂くと、同時にトラウマを具現化させようと仕掛けてきた。
「「「「「答えが知りたいか~い~……♪」」」」」
 答えを聞こうとぐずぐずしていれば相手に攻撃されてしまう。すぐ様2ターン目に入らねば。
 結里花のドレインスラッシュが敵の体力をガッツリ奪うった後、アバンが再び戦言葉で防御力を上げ、遊鬼のサイコフォース。
 千里の雷刃突、アイラノレがエレキブーストでアバンの回復、十夜は獣撃拳を打ち込むと動じ、コソコソと次の手を仕込んでいる。
 アグニがボクスタックル、シャウラが氷の詩でバッドステータスを付与し、オライオンが清浄の翼を中衛に。
 鈴蘭が時空凍結弾、ハコが武装具現化と続き、2ターン目終了。
 ここまでを通し、バランス的にとてもよい。高い命中率の火力は一撃でかなりの体力を削っていける上、ディフェンダーは実質4枚。揺れる隙がない。
 敵の攻撃はしばらくするとアバンからブレたが、そこはディフェンダー役のサーヴァント達が上手く拾ってくれている。
 敵も高い命中率を保っていたが、盾4枚の前ではどうにも対処できず。
 十夜がヒット&アウェイしつつ仕掛けた見えない爆弾を起爆させ、さほどターンを重ねることもなく、千里の千鬼流 伍ノ型が最期をしめた。
「夢の写し身……虚しき器……その魂は頂こう……さあ、お前も糧になれ……」
 胸に鋭い突きをくらったドリームイーター、だが何事もないように攻撃を仕掛けようとしていた。
「「「「「答えはねぇ~……♪」」」」」
 そこではたと身体の異変に気がついたようであったが、千里は無情に言い放つ。
「気づいたときにはもう遅い……さよなら」
 ドリームイーターは、答えを言わぬまま爆散した。

●謎の答え
 敵と遭遇した場所から被害者の倒れている場所を割り出し、周辺を側索したケルベロスたちは、ようやく田原裕太少年を発見するに至った。
「怪我はありません? もう大丈夫です」
 何がおきたのか分からず、キョトンとしている裕太にアイラノレが軽く事情を説明してやると、少年はキラキラと目を輝かせて聞いてきた。
「すっげー!! 一人で5人のハモリができるアカペラオバケ、見たんでしょ!? どうやって歌ってた!? ねーねーねー!」
 まあ、口が5つついてただけで、そこは大した謎ではなかった訳だ。
「暗いとこで、一人であんまうろうろしちゃだめよ? とゆーかさ、都市伝説とか面白そうなこと、今度は俺も付き合わせて欲しいなっ!! どんな話知ってる?」
 周辺のヒールをしていた仲間達が、鈴蘭と楽しげに会話をする裕太の話を聞きながら考えていた。
 アイラノレが言う。
「先日『後悔』を奪う魔女の生み出したドリームイーターと交戦しましたが、今度は『興味』ですか……12人の魔女『パッチワーク』、彼女たちの目的はいったい何なのでしょう……」
 大きな謎だ。
 だが今、今! この場で最も大きな謎がある。
「しっかし……正解は何だったんだろうなー」
 一人で5人のハモリができるアカペラオバケのパートの謎。
 十夜の台詞に、全員がモヤモヤを誘発させる。
 正解は5つの口の中に封じられたまま、永遠の謎となってしまったのだから。
 ケルベロスたちのモヤモヤが新たなる都市伝説にならないうち、とっとと退散いたしましょう。

作者:荒雲ニンザ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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