●夏休みといえば
青い空。さんさんと輝く太陽。今は夏休み真っ最中、子供達にとっての夢の時間だ。
だが遊びほうけてばかりもいられない。夏休みの宿題がたっぷりあるからだ。
それは今年で小学5年生になる優也も同じこと。
毎年、夏休みの最後に溜まりに溜まった宿題を泣きべそをかきながらやっていた優也であったが今年の彼は一味違っていた。
しっかりと計画を立てて毎日コツコツと宿題を進めていたのだ。
そして8月31日。明日からは新学期であるが優也に焦りは無い。計画通りに終わらせた宿題を前に満足気な笑みを浮かべる。
と、そこに優也のお母さんがやって来て言った。
「夏休みの宿題、遊んでないで早くやらないとダメでしょ!」
お母さんの剣幕にも余裕の表情の優也。得意そうに宿題をお母さんに見せる。
「もう宿題は終わってるよ」
しかしお母さんの剣幕は収まる気配が無い。
「ウソをおっしゃい! 全然終わってないじゃないの!」
「ええっ!?」
驚く優也。お母さんが手にした宿題はまったく手をつけていない真っ白なものだった。
「ええっ……って、夢?」
寝室のベッドから飛び起き、今の出来事が夢であることに優也が安堵の息を吐く。
「まったく、驚いちゃったよ」
「そう……」
突然部屋の隅から聞こえた女性の声。驚いた優也が声のした暗闇に目を凝らす。
するとその闇の中から大きな鍵の先端が飛び出し優也の胸をひと突きする。今度は驚く間も無く意識を失った優也が床に倒れ伏す。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
闇の中から姿を現した女性が倒れた優也の側で楽しそうに飛び跳ねるドリームイーターを見て言った。
●
「勇敢なる戦士たちよ、夜更けの緊急招集に感謝する。貴殿らは魔女と呼ばれるドリームイーターによってビックリした夢を見た子どもたちが『驚き』を奪われてしまう事件が起こっている事をご存知であろうか?」
夜更け過ぎの緊急招集。ヘリオライダーの山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)が集ったケルベロスたちに頭を下げ、事件のあらましを語る。
「その被害者の『驚き』を元に新たなドリームイーターが出現した。『驚き』を奪った張本人は既に現場から姿を消したようだが放っておくわけにはいかないだろう。至急現場に向かい出現したドリームイーターの撃破をお願いしたい」
現場に向かうヘリオン内。ゴロウが更に詳しい説明を行う。
「ドリームイーターは被害者の少年の家の近所に潜んでいる。人間を驚かせたくて仕方が無いようなので、その付近をうろついていれば向こうからやってくるはずだ」
幸いな事に付近に人通りは無い。このまま急いで現場に到着すれば、一般人がドリームイーターに襲われる前に接触できるだろう。
「被害者の少年は『終わらせたはずの夏休みの宿題が終わっていなかった』という夢を見ていたようで、ドリームイーターは巨大な夏休みの宿題のドリルを模した姿をしている」
何とも言えない表情を浮かべるゴロウ。まだ学生であるゴロウにとっても夏休みの宿題は他人事ではないのだろう。同様にケルベロスの中にも身につまされる思いを持つ者がいるかもしれない。
「このドリームイーターは夏休みの宿題を具現化した攻撃を繰り出す。算数の数式や国語の漢字などが襲ってくるので、人によっては精神的にも負担になるかもしれない」
しかしながらこの攻撃に特に精神に影響を与えるような効果があるわけでは無い。対処を間違えなければ問題無く切り抜けられるはずとケルベロスたちに信頼の目を向けるゴロウ。しかし相手はデウスエクス、油断は禁物だ。
「あと、ドリームイーターには人間たちを驚かせようとする性質があり、あまり驚いた様子を見せない者に対して敵愾心を見せるようだ。そういった者はドリームイーターに優先して狙われる事になる」
「貴殿らであればきっと上手くやってくれると確信している。とんだ夏休みの宿題になってしまったかもしれないが……宜しくお願いしますだ」
最後にゴロウがペコリと頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023) |
御門・心(オリエンタリス・e00849) |
エルボレアス・ベアルカーティス(メディカリスト・e01268) |
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513) |
セダ・グランシェ(哀の福音・e25250) |
天変・地異(その正義は幻想ゆえに・e30226) |
●
閑静な夜の住宅街。その路地裏で巨大な宿題が物陰に潜み犠牲者を待ち構えていた
「でさ……」
「……へぇ……だね」
聞こえる男女の声。こちらに近づいてくる足音。
タイミングを見計らいドリームイーターが路地に飛び出す。
そこには連れ立って歩く3人の男女がいた。
「……宿題が二足歩行? あぁ……暑さで頭がやられたんだな、早くお家に帰らないと」
目の前に現れた異形の存在を前に、暑さで幻覚を見てしまったとばかりにセダ・グランシェ(哀の福音・e25250)が目頭を抑える。微塵も驚く様子は無い。
「……」
セダの隣のキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)は、目の前で飛び跳ねる宿題を眉ひとつ動かさずにジッと見ていた。
驚きで硬直してしまったというわけでは無い、全くの無反応の無表情。まるでマネキン人形のようだ。
「そうだ、帰りにコンビニに寄っていくんだったよね。別の道をいこう」
宿題を完全に無視してポンと手を叩いたヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が連れの2人に声をかける。
うなずく2人。クルッと回れ右して3人は来た路地を引き返していった。
「……」
予想外の反応に一瞬動きの止まった宿題であったがすぐに怒ったように3人を追いかける。
「上手く誘いにのったね……単純な敵で良かった」
追いかけてくる敵の様子を確認し、セダと2人は駆け足で逃げる。
「次の角を右で! キリクライシャさんは仲間に連絡よろしくね」
少々こみ入った薄暗い路地。ヴィルフレッドが先頭を走り、迷いなく2人を誘導する。
「……うん、案内はお願いね」
一拍遅れて返事をするキリクライシャだが既に携帯電話を取り出し誰かと連絡を取り合っていた。
「道案内は任せてよ! なにせ僕は情報屋だからね」
今回ケルベロスたちは万が一の事態に備え、敵を人の居ない場所へ誘導してから戦う作戦を立てていた。彼らが向かう先は事前に目星をつけておいた場所なのだ。
必死に逃げる3人に気を良くしたのか敵の冊子のような身体がペラペラとめくれ、具現化した漢字の宿題を3人へと放つ。
「!? ちょっとの間、アイツを足止めするね。先に行って準備をしておいて」
「了解だよ、無理はしないでね」
無防備な背中に攻撃を食らうわけにはいかないと判断したセダが立ち止まり、敵へと振り返る。それが好判断と理解した2人は彼を信じて振り向く事なく先へ先へと進む。
「さあゴールは目前さ!」
少し息を荒げたヴィルフレッドが指し示す先。
そこには――小学校の校門があった。
●
「首尾はどうだ?」
校門前で待ち構えていたエルボレアス・ベアルカーティス(メディカリスト・e01268)がやってきたヴィルフレッドとキリクライシャに声を掛ける。
「……すぐにセダさんが敵を連れてくるわ。……そちらは?」
「既にメンバー全員待機済みだ」
「多分セダさんは怪我してると思うから、治療は頼んだよドクター」
「任せておけ」
3人は同じ旅団の仲間なのだ。軽く会話を交わし急ぎ校内へと消えていく。
それから少し遅れて背後に敵を連れたセダの姿が。セダは一目散に校門を通り過ぎる。
と、流石に何かを警戒をしたのか校門の前で敵が立ち止まった。
「おいおい、この場所が怖いのかよ」
すくむ敵の前に一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)が姿を見せる。
「その中身が真っ白なままじゃ先生に怒られちまうってか?」
挑発するように大仰に肩をすくめてみせる。
「ターゲット確認。宿題は爆破だ、爆破!」
翼を広げ、上空から敵と仲間の様子を伺っていた天変・地異(その正義は幻想ゆえに・e30226)がアームドフォートの砲塔を地上へと向け、トリガーを一気に引く。
――ドォオオン!
砲弾が地面へと着弾し校門前で盛大な爆発が巻き起こる。
威嚇の為の一撃だ。直接のダメージは無いが敵を挑発するには十分だった。
その爆発の中から飛び出してきた敵がこちらに向かってくるのを見て、雄太と地異がきびすを返し校内へと駆けこむ。
「よしっ、作戦成功だな!」
校内へと消えていく敵を確認し物陰から鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)が姿を現す。その手にはキープアウトテープが。
「……上手くいって、正直ホッとしています」
同じく物陰から現れた御門・心(オリエンタリス・e00849)がヒノトの方を向き安堵の息をつく。
「今回は心と一緒だから絶対上手くいくって信じてたぜ!」
「んんん……、皆さんが優秀だったから、です……その、私なんて」
屈託の無い眼差しをヒノトから向けられ心はおどおどしてしまう。普段はぼんやりした雰囲気の心であるが、実はこういった作戦を取りまとめる能力が高い事を顔見知りであるヒトノはよく知っている。今回も仲間の意見のまとめ役として作戦に貢献していた。
「えっと、早くテープを貼って……皆さんと合流しましょう?」
「ああ、そうだなっ!」
2人で協力して素早くテープを貼り終え、仲間を追って校内へと向かうヒノトと心であった。
●
「イタッ! もっと優しく治療してくれてもいいのに……」
エルボレアスの『一撃指圧』を受けたセダが痛みに顔をしかめる。どういう原理かは不明だが敵から受けた傷が癒え、ほぼ万全の状態に戻っていた。
彼らが居るのは小学校の校庭だ。深夜に人が立ち入る心配もなく、戦うには絶好の場所といえた。
と、そこに空から地異がやってきて音も無く地面に降り立つ。
「そろそろだ、準備はいいな?」
その声に表情を引き締めたセダが立ち上がりバイオレンスギターを手に取る。
「みんな揃ってるな……っと」
敵を引きつけ校庭へと入り込んだ雄太が背後からの攻撃を間一髪で避け、敵へと向き直る。
さらに後ろからヒノトと心も駆けつけ、全員で敵を取り囲む。
「夏休み最終日で宿題が真っさらだからって……それがなんだっていうのさ?」
「その通りだぜ! そんなの普通じゃねぇか!」
一歩歩み出たセダが呆れ顔を敵に向けると、その後ろで地異がうんうんと頷いてみせる。
「算数に国語のドリル。そんなのまた解き直せばいいだけの話だろ? 真っさらで怖いのは……そう、絵日記だけさ」
「そうだそうだ……って、それは違うッ! 違うだろォオオオ!?」
宿題は最終日まで終わらなかった派のセダと地異の2人であったが見解に相違があったようだ。頭をかきむしり身悶える地異にセダが苦笑を浮かべる。
「おおー、まだしゅくだいがおわっていないなんて、どうしたらいいんだー」
エルボレアスがあからさまな棒読みで驚いたフリをしてみせる。
その様子に嬉しそうな奇声を上げた宿題のページがパラパラとめくれ周囲に具現化した数式をばら撒いていく。
「みんな大丈夫かっ!」
「僕にかかれば君の弱点なんてお見通しさ……見えたっ! みんなコイツの弱点は――」
数式に呑み込まれる前衛陣の前にヒノトが電撃の壁を撃ち出し、目をキランと光らせたヴィルフレッドがその類まれな観察眼で見つけ出した弱点を『プレゼントウィーク』しかも【壊】verで仲間に伝えていく。
「……敵を引きつけて、リオン」
キリクライシャが愛用の『divider』の鎖で襲い来る数式を切り裂きながら、相棒のテレビウムのバーミリオンへと指示を出す。主人の言葉にバーミリオンがモニターを夜の闇にひときわ明るく明滅させて応える。
「お前なんてさっさと片付けてお家でゆっくり休ませてもらうよ」
それに続きセダが敵の注意を自分に向けさせるように攻撃を繰り出していく。
さらに腰を低く落とした雄太が下から敵の懐へと潜り込み、手にしたナイフをかち上げるように突き出す。
「今だぜ、心ちゃん!」
「合わせ……ますっ!」
敵の頭上。エアシューズで一気に跳躍した心が眼下の敵へと跳び蹴りを放つ。
雄太のナイフの刀身のきらめきと、心の流星の跳び蹴りの軌跡が闇の中を交差し、見事なコンビネーションが炸裂する。
そこに追い打ちをかけるようにエルボレアスが天に掲げたライトニングロッドを振り下ろすと、黒い雷が敵を貫く。
「照準良し」
敵から距離を置いた地異がのぞくスコープの中心に敵の身体に書かれた計算式が拡大されて浮かび上がる。
「オレは算数ドリルが嫌いなんだよッ!!」
強い憤りと共に放たれた砲弾が盛大な爆発を巻き起こした。
●
戦闘開始から数分が経過。敵の攻撃を引きつける役割を担うセダとバーミリオンに狙い通りに敵の攻撃が集中し、少なからぬ消耗が見られていた。
「すぐに治療する! キリクライシャ君も支援を」
「……ええ、了解したわ」
メインの回復役を担うエルボレアスが消耗激しい2人へのヒールと同時に、キリクライシャへと指示を送る。
それに小さくうなずいた彼女がその両の手の平に意識を集中する。
「……照らして、全てを明るみの中へ――」
何かを包み込むような色白の手の中に小さな光の珠が出現。その輝く珠はやがて明るみを増し、昼の太陽のように真夜中の校庭一面を優しく照らし出す。
「『陽光の珠(スベテヲテラス)』」
手の中から弾けた光の珠が前衛陣へと飛び込みその傷を癒していく。
「……サンキュ、これならまだまだやれそうだ」
回復役たちの支援を受け、セダの口元にかすかな笑みが浮かぶ。
「盟約の歌を紡ぐよ――『鋼翼遊戯(アウィス・スケルツォ)』」
セダの口ずさむ歌が刃の翼を持つ『鋼鳥』の眠りを呼び覚まし、暗き虚空へと誘われる。
「さあ……上手に、遊んで魅せて……?」
闇に響くセダの歌。その旋律に身を委ねた『鋼鳥』が敵の周囲を自由気侭に飛び交う。そしてその身体を無慈悲に切り裂いていく。それは無邪気故の残酷さを秘めたものだ。
飛来する数式や漢字をどこか楽しそうに撃ち落としたヒノトが敵へと向き直る。
「雄太、心!」
その声に反応して雄太が敵へと迫る。
「そらっ、自由研究は切り紙細工だ!」
雄太がその手のナイフで敵のページを抉るように切り刻むと、宙に舞った紙片が綺麗な紙細工へと変わっていく。
「頼むぜ、アカッ! こんな宿題なんて楽勝だぜ!」
間髪入れずヒノトの杖がネズミへと変化し、敵へと突進。
敵の足元から駆け上がりチョロチョロとその全身を駆けると、炎が沸き上り全身に広がっていく。
普段は収納している翼を広げた心。
純白の右の翼と暗い地獄の炎が揺らぐ左の翼が闇の中にゆらりとはためく。
「乱れて、咲いて。最期まで――『Call-Linaria(ミダレルコイゴコロ)』」
どこか暗い色を含んだ呟きがその口から溢れる。頭の季節外れのクリスマスローズ――レンテンローズの紅い花びらが闇の中にハラリと舞ったかと思うと、暗き左翼から地獄の炎を纏った羽が放たれ、次々と敵の身体を貫いていった。
●
「情報屋の僕が見るにあからさまに弱っているね、フッフーン♪」
ヴィルフレッドがニンマリと笑みをこぼす。
妨害役のヴィルフレッドとヒノトが積み重ねてきたバッドステータスが先ほどの【ジグザグ】で一気に増大し、敵の動きが明らかに鈍くなっていたのだ。
とはいえ油断は大敵だ。気がつくとヴィルフレッドの眼前に漢字の大群が迫っていた。
「わわっ!?」
驚く彼の前にブラックスライムが。その身で主人への攻撃を弾き返す。
「ブラックスライムくん……キミは最高の相棒、ずっ友だよ」
目をウルウルとさせるヴィルフレッド。
「さあさあ、お次は攻撃だよ。休んでないで早く動いてね♪」
次の瞬間には、ブラックスライムを敵に向けて射出する。
「いたいけな学生を悩ます憎き宿題めッ! この正義たるオレがッ、弱者を救いッ、悪を砕くぜッ!!」
地異の瞳に正義(?)の炎が宿りアームドフォートが展開し馬鹿デカいミサイルが出現。
「正義の一発、いっくぜぇーッ!! どッかーん!!!」
炎を吹き上げ悪(?)の宿題目掛けて突進をするミサイル。その上にはサーフィンをするかのように立つ地異の姿が。
「『ジャスティス☆(キラリ)ミサイル』!!!」
着弾の寸前に空へと離脱。炎を吹き上げ爆発炎上する地面を見下ろし得意げな地異であった。
●
度重なるダメージにボロボロになったドリームイーター。一方のケルベロスたちはまだまだ余裕が見える。
このまま決着がつくのも時間の問題に見えた。
と、突然。敵が雄太へと突進していく。
「チィッ!?」
予想外の攻撃に反応が遅れた雄太に強い衝撃が走る。さらに体当たりの勢いは止まらず校庭の隅にあった鉄棒へと突っ込みその突進が止まる。
今度は背中に走る衝撃と痛み。肺の中の空気が一気に抜けて一瞬意識を失いかけた雄太であったが、即座に気をとり直し目の前の敵へと反撃を試みようと構えを取る。
「……ッ、さっきの衝撃でナイフを落としちまったか……」
先ほどまで手の中にあったナイフの感覚がない。
宙を掴むように動く雄太の手を見て敵が馬鹿にしたように飛び跳ねる。
すると、雄太は背中の鉄棒に腕をかけ、上半身を捻る。衝撃で留め具が吹き飛んでしまったのだろう。いびつに曲がった鉄棒はあっさりと雄太の手の中へと収まった。
「別に武器なんざその場で調達すれば良いんだよ。油断大敵、ってね!」
大きく振りかぶった鉄棒を敵の胴体目掛けて叩きつける。
「お返しだぜ!」
今度は校庭の真ん中へ向かい吹き飛んでいく敵を眺め雄太が不敵な笑みを浮かべる。
「猛ろ! 灼灼たる朱き炎!」
敵が飛び込む先に炎の渦が見え、その白い紙の身体を朱色へと染めていく。
「いくぜ――」
その渦の中心にはヒノトの姿が。ヒノトが胸の前に掲げた両手の間に浮かぶ杖の先へ炎が集い炎弾と化す。
「『フェルカエンテクス』」
鋭い掛け声と共に弾き出された炎弾が敵の身体へと吸い込まれる。
巨大な炎の光と断末魔の叫びが夜の空へと広がっていった。
●
「悪は滅んだ、さらばだ宿題よッ!」
消し炭と化し残り火を燻らせる敵の残骸を見て、地異がやり切った顔で頷く。
「ふぅ、流石に疲れたよ」
やれやれと溜息をつくセダ。今回、囮役を買って出て、戦闘においても常に攻撃を引き受け続けた彼は一番の功労者といえた。
「疲れには糖分が一番だ。糖分はすぐに体に吸収されるからな」
「だったらこの近くに深夜も営業しているスイーツのお店があるよ」
エルボレアスの言葉にヴィルフレッドが反応する。
「……林檎、のスイーツもあるかしら?」
「きっとあるさ。情報屋の僕が言うんだから間違いないよ」
キリクライシャの無表情な顔が少し柔らかく見えた。
「大丈夫でした、か? 一条さん」
「俺は平気なんだけど、こいつはヒールで直るかね?」
近づいてきた心に雄太が頭を掻いて苦笑を漏らす。その視線の先には壊れた鉄棒が。
と、その時。小学校の校舎をじっと見つめるヒノトの姿が目に入る。
「ちょっと、懐かしくってさ」
2人の視線に気づいたヒノトが少しバツが悪そうにはにかんだ。
作者:さわま |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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