鋼の犀角

作者:綾河司

●好きな動物
 暗い暗い、どことも分からぬ草原を男の子は歩いていた。不思議と不安もなく進んでいると、
「わぁ……」
 目の前に大好きな動物が現れて、彼は目を輝かせた。
「サイさんだぁ!」
 どっしりとした大型のサイが男の子に気付いて、草から顔を上げる。何の疑問も持たず、駆け寄る男の子。その時、サイが一声鳴いて、紅く目を光らせた。
「えっ!?」
 足を止める少年の前でサイの皮膚が裂け、その内側から更に巨大な機械のサイが姿を現した。
「ひっ!!」
 少年が悲鳴を上げる間も無く、サイは搭載した重火器を乱射して、爆炎で少年を包み込み――。

「うわぁっ!?」
 跳ね起きた男の子が慌てて周囲を見渡す。そこはいつもの自分の部屋のベッドの上で。
「夢だったの?」
 安堵した男の子が自分の手で胸を撫で下ろそうとして固まった。胸に何かが突き立っていた。視線でその何かの先を追うと、それはいつの間にかベッドに腰掛けていた少女の手に握られていた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 少女――ケリュネリアがそう呟くと、男の子が意識を失って崩れ落ちる。彼女が視線を窓の外に向けると、具現化した機械のサイがその誕生を示すかのように大きく咆哮を上げた。

●真夜中サファリ、ロボ風味
「ケルベロスの皆さん、こんにちは。天瀬・月乃です」
 ブリーフィングルームに壇上に上がった天瀬・月乃(レプリカントのヘリオライダー・en0148)は集まったケルベロス達にペコリと頭を下げた。
「ビックリする夢を見た子供が、ドリームイーターに襲われ、『驚き』を奪われてしまう事件を予知しました」
 月乃が、子供の頃ってビックリする夢を見たりして飛び起きたりしますよね、と続けながら立体スクリーンに現場の位置情報を展開する。
「『驚き』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『驚き』を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしています。現れたドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して下さい」
 ドリームイーターを撃破する事が出来れば、『驚き』を奪われてしまった被害者も目を覚ます。
「接敵は住宅街になりますが、幸いな事に近くに学校があります。グラウンドを使えるよう手配しますのでそちらに誘導すれば周囲の心配をせず、思い切り戦う事ができます」
 住宅街で戦闘する事も可能だが、住民の避難も完了していない為、被害が建物以外にも及ぶ可能性が高い。また、このドリームイーターは自分の驚きが通じなかった相手を優先的に狙ってくる傾向がある為、それをうまく利用すれば誘導も難しくはないだろう。
 立体スクリーンを敵の情報に切り替えて月乃が続けた。
「敵の外見はロボット化したサイです。搭載した重火器を用い、突進しながら周辺一帯を爆撃してきます。装甲は固く、火力が高いです。自身で回復はしませんが、注意して下さい」
 月乃の纏めたデータでは敵前方の危険度が格段に高い。
「前方への圧力は相当なものだと予測されます。しかし、その反面、脇が甘いので側面をつくのは有効だと思われます。危険を伴いますが、相手の注意を引き、側面を突くのも効果的かもしれません……立ち回りは現場の判断にお任せします……あと」
 真面目に聞き入るケルベロス達を見回し、月乃が言い放つ。
「名前が無いのも呼びにくいので、都合上……敵の名前を『サイボーグ』と命名します」
 ブリーフィングルームが静まり返った。汗かき表情を引きつらせるケルベロス達もちらほら。周りの反応を知ってか知らずか、月乃は再度ぺこりと頭を下げた。
「子供の無邪気な夢を奪い、覚めない眠りに落とすなんて、絶対に許すわけにはいきません。被害者の子供が再び目覚められるよう、皆さんどうか『サイボーグの撃破』をよろしくお願いします」
 


参加者
七種・酸塊(七色ファイター・e03205)
鏡月・空(三千世界に屍を晒せ・e04902)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
除・神月(猛拳・e16846)
藤林・シェーラ(コットンキャンディ・e20440)
ミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765)
ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)
ルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392)

■リプレイ


 真夜中の住宅街はひっそりと静まり返っていた。殆どの家に明かりはなく、等間隔の街灯のみが道標になっている。
「動物好きです、おにく大好き。でも夢は食えないし、機械も食えないもんでしてね」
 時折そよぐ風の音に耳をピクリと震わせながら、板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)は闇の先を見据える。そこはサイボーグが出現すると予測されている地点。出現に備えているのは鏡月・空(三千世界に屍を晒せ・e04902)とボクスドラゴンの蓮龍、そしてルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392)の合わせて3人と1匹。
「サイかー見たことないけど、機械自体は見慣れてるしなぁ……あんまり新鮮な感じしないや」
 ルカにしてみれば、今回のターゲットは日常に根ざしていて驚く要素が見当たらない。誘導にはうってつけだと我ながら感じていた。
「さて、時間ですね」
 闇の先を見ていた空が目を微かに細める。一瞬間を置いて大きなサイが姿を現した。空が奥歯を2回鳴らす。それは驚かない手段として彼が用意したルーティーンであり、3人と1匹の作戦開始の合図となった。
「いきましょう」
 空に促されてルカが頷き、えにかも事前に地図で確認した道を頭の中で反芻する。戦闘は仲間達の待機する校庭までは行わない。
 3人と1匹はその視界にサイボーグを捉え、サイボーグもまたその紅く不自然な瞳に彼らを映した。驚かせようとしたサイボーグの咆哮が夜の闇に響き渡り、周りの住宅が一気に騒がしくなる。だが、
「あんたみたいなの、ダモクレス探せば沢山いるよ? それよりもさぁ、そんな重そうな体で動けんの?」
 ルカがなんでもないように肩を竦めて見せた。
 周辺が慌しくなるのは好都合だと、空が思考を巡らせる。反応のないこちらをサイボーグにより印象付けることができるからだ。蓮龍も主に習ってか、サイボーグなどまるで興味を引くことなく首を動かしている。
 サイボーグは確実にケルベロス達に意識を傾けた。敵を見据えたまま、えにかが呟く。
「サイの旦那は、まーサイの旦那で、まー……」
 その場の空気が凍りついた。敵も味方も置き去りにしたえにかは「うん」と自ら頷いて、
「触れない方がいいですね」
 と、行き場を失った空気をぶった切った。まるで相手にされてないと感じ取ったサイボーグが再び咆哮を上げて走り出した。
「きたきた」
「作戦開始ですね」
 ルカと空が後退の姿勢を取る。3人と1匹は十分サイボーグを引き付けながら夜の街を走り出した。

 一方、校庭に待機していたケルベロス達の耳にもサイボーグの二度の咆哮は届いていた。
「ところで『サイボーグ』が正式名称で良いの? ダモクレスに居そうじゃない?」
 小首を傾げる藤林・シェーラ(コットンキャンディ・e20440)。月乃の残念なネーミングセンスが気にかかっていたが、彼は咆哮を追いかけるように空を見上げ、そっと目を閉じて耳に意識を傾ける。戦闘音や時間などを基準に誘導班の動きを掴もうとする。
「名前はともかく、『驚き』を奪うドリームイーターか。それを具現化するのは厄介だな。派手に暴れられる前になんとしても止めるべきだろう」
 ミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765)が唇に指を当てて思案する。それに七種・酸塊(七色ファイター・e03205)が首肯した。
「たまによく分かんねえ夢って見るよな……」
 突拍子もない夢など、それこそ誰もが見るものだ。おそらく際限がない。
「よほどサイとミサイルが好きだったんだな、その子」
「確かに、言葉も似ているしな」
 ミーシャが唸ると、その横にいたドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)も頷いて見せた。
「サイという動物は聞いたことがあります。体は大きく、皮膚が硬化した角を持っているとか……少年の好むには易く、それゆえにさぞ驚いたことでしょう」
 ユウタの事を察して、ドゥーグンが表情を曇らせた。
「人の感情を奪うなど、決して許せませんわね」
「寝ちまったままのユウタは助けてやんなきゃな!」
 酸塊が笑みを浮かべるとドゥーグンが頷く。そこへ現れた除・神月(猛拳・e16846)が笑みを浮かべ、指の骨を鳴らした。
「サー、いっちょ暴れてやるとすっカ!」
 その表情は戦うことが楽しみでしょうがないといったバトルマニアのそれ、そのものだ。
「おーイ、シェーラ、どうヨ?」
 肩に肘を乗せてもたれかかって来る神月にシェーラはこの人も派手に暴れるんじゃないかな、と思わなくもなかったが、その耳に確かな感覚を捕らえて目を開けた。
「……きた」
 シェーラの言葉に空気が引き締まる。校門の方角――誘導班の侵入経路へ意識を集中した。闇を割いて、仲間の3人と1匹が校門をくぐる。その後をサイボーグが地鳴りのような足音を響かせながら追いかけてきていた。


「ウオッ!? なんだよあのサイ、ロボットかヨ! ビビらせんじゃねーヨ!」
 明らかに普通のサイより大きなサイボーグを見て、大声で驚きつつも興奮する神月。
「すごい! 犀だ! ロボだ!」
 続いてシェーラも驚いてみせる。驚く振りをすることでよりディフェンダーに狙いを集める作戦だ。だが、この作戦はディフェンダーの消耗が激しい。できることなら短期決戦が望ましい。その為には怯まず挑み続ける事。
「ドゥーグン、除! 出るぜっ!」
「やってやル!」
 大きく翼を広げた酸塊がサイボーグの側面へ回り込むように飛び出すと神月もそれとは逆の方へ飛び出した。
「お任せくださいませ、前衛の皆様はわたくしが支えてご覧にいれます」
 ドゥーグンの展開した雷の壁が前衛を包み込んで異常耐性を引き上げる。その感触をミーシャが握りこんだ手の内で確認した。
「任せた、ドゥーグン。さて、私達も行こう」
 視線をシェーラに向けると彼は頷いて見せた。
 展開した仲間の動きを確認した空がサイボーグとの距離を再確認する。
「二人とも、やりますよ!」
 空の合図で3人と1匹が急ブレーキを掛けて振り返る。サイボーグがそれに気付いて一気に加速した。
「おおっと、サイの旦那! お車での乗り入れはここまででサー!」
 勢いのままに飛び上がってケルベロスコートを脱ぎ去ったえにかが目にも止まらぬ速さで礫をサイボーグへ投げ放つと、連携した空も牽制の気咬弾を撃ち放つ。
『ブオオッ!』
 ほぼ同時に着弾した攻撃を突き抜けて、サイボーグがルカに襲い掛かった。
「避けるなよ?」
 低めの真面目トーンでそう呟いたルカが腰を落として構える。犀角が直撃する刹那、自らも渾身の稲妻突きで相手を穿つ。攻撃はほぼ同時に命中したが、
「ルカ様!」
 サイボーグの圧力に弾かれたルカが跳ね飛ばされて宙を舞った。思わず声を上げるドゥーグンの前に空中で体勢を整えたルカが着地する。
「あぶないあぶない」
 息を吐き、額の汗を拭うルカ。正面からの力押しは命懸けだ。
「大丈夫ですか?」
 寄り添うドゥーグンにルカは頷いて返すと直ぐに構え直した。
「ほれほれ、追ってきてみなよ、ほれほれ」
 ルカの挑発に乗ってサイボーグが前足で地面を掻く。側面を突くのが有効なら尚の事、自分は真正面に立つ。そうすれば攻撃役がより側面を突きやすくなるのだ。
「ハアァァ!!」
「すっげー重装備だよナ! ぶっ壊し甲斐のある野郎で良かったゼ!」
 酸塊と神月が同時にサイボーグの脇へ飛び込む。そのまま電光石火の蹴りが両脇の急所を突き上げて、サイボーグが苦悶の声を上げた。
「こちらなら装甲も薄そうだよねェ」
「一気に削り取らせてもらう」
 回り込んだシェーラの轟竜砲が火を噴き、サイボーグを足止めすると、間を置かず光の粒子と化したミーシャが駆け抜けて、相手を破壊する。
「今です、蓮龍!」
 空の声に反応して、蓮龍が溜め込んだボクスブレスを吐き出すとサイボーグについた傷がより押し広げられた。
『ブオオ!』
 怒りを孕んだ咆哮が校庭に響き渡り、サイボーグが向きを変える。ケルベロス達は作戦通りディフェンダーが正面を陣取れるように移動し、それ以外の者が脇へ回り込むように移動した。


「ミサイル、来るよ!」
 後部ランチャーの駆動音を捕らえたえにかの声に前衛が身構える。
「任せろ! 神月さん、ミーシャさん」
「蓮龍!」
 ルカと空に指示された蓮龍が攻撃手の二人の前に陣取ったのとサイボーグのミサイルが大量に吐き出されたのはほぼ同時だった。
「皆様!」
 爆炎と共にディフェンダー達が煙に巻き込まれる。ドゥーグンは腕で砂埃を払いつつ、視界を確保した。
「この程度じゃやられませんよ」
「休憩にはまだ早いってね!」
 自身で回復していく空とルカ。同じく己を回復していたえにかがドゥーグンにサムズアップすると釣られて蓮龍が一声鳴いた。
 仲間の逞しさに表情を綻ばせたドゥーグンがライトニングロッドを持ち直す。ディフェンダー陣のダメージは確実に蓄積されていた。それを感じさせないのはひとえに彼らの心の強さ。だから仲間を守るためにも彼女は杖を構えた。
「その動き、止めさせていただきますわ。酸塊様、ミーシャ様!」
 雷光を放つと同時にドゥーグンが声を上げると酸塊とミーシャが連動して動き出した。
「自慢のその箱、頂いとくぜ?」
 酸塊の捕食モードと化したブラックスライムがミサイルの発射口を包み込めば、
「わたしがこれを使うという事は貴様が必ず倒れるということだ」
 ミーシャの手に圧倒的なグラビティが集中する。抜けば必ず誰かを死に追いやると言われる伝説の魔剣。それと同じ名を冠するグラビティがサイボーグの脇腹を直撃し、重力の奔流が機械の体を押し潰していく。身をよじる巨体を今度は神月とシェーラが追い込んだ。
「テメェの突進とあたしの拳、どっちが強ぇか試してやるヨ!」
 神月が光と闇に染まる拳を構える。引き寄せられた相手の鼻先へ重い一撃が突き刺さるとサイボーグが悲鳴を上げた。
「ほら、どんどん行くよ!」
 動きを止めたサイボーグにシェーラの氷結の螺旋が次々と降り注ぐ。
『ブフォッ!』
 ケルベロス達の攻撃を嫌ったサイボーグが後退した。
「そろそろ幕を引こうじゃないか!」
 構え直したシェーラが地面を蹴ると同時にサイボーグの目が赤い輝きを増した。
『ブォロロ!』
 前面へ迫り出したガトリングガンを唸らせて、サイボーグが走り出した。標的目掛けて一直線に。狙われたのは、
「空様っ!?」
 ドゥーグンの前に立っていた空。しかし空は構えるでもなく、サイボーグを一瞥すると欠伸してみせた。乱れ飛ぶ銃弾の雨の中、微かに目を細める。驚かない相手を優先的に狙うその性質をついた振りだったのだが、
「御しやすいですね」
 見る見る近づいてくるサイボーグ。空は迎え入れるように体を前へと滑り込ませる。掠めた銃弾が空の頬を裂き、血が宙を舞った。
「はっ!」
 突撃してくるサイボーグを受け流し、その勢いを利用して交差するように達人の一撃を叩き込む。さらに、
「重装甲が何ぼのもんじゃー!」
 空の背後から飛び出したルカが高速回転した自らの腕をサイボーグの眉間に叩きつけた。装甲がひしゃげ、ダメージを受けたサイボーグが前のめりに倒れ込む。
「今だっ!」
 チャンスと見てとったミーシャが地面を蹴ってエクスカリバールを振り抜いた。飛び出た釘が幾重にもサイボーグの傷を押し広げていく。
「君は春を告げる風、一条煌めく星、朝焼けにたったひとつ鳴り響く厳かなる鐘の音!」
 手をかざしたシェーラの背後に白馬を駆る戦乙女が姿を現す。
「戦場を鮮烈に駆け抜けて、君の愛を刻もうじゃないか!」
 シェーラの言葉を合図に白馬が高く嘶いて大地を蹴ると疾走した戦乙女が手にした槍でサイボーグを突き刺した。
「一見さんは派手にメカメカさせてりゃー驚いてくれるかもしれないけど、うちじゃーそういうの流行らないんでねぇ」
 雑とも取れる仕草で槍を構えたえにかがサイボーグに狙いを定める。先程ダメージを負った眉間に寸分狂いなく稲妻突きを突き刺すとサイボーグがもがき苦しんだ。さらに今度はドゥーグンが遠間から狙いを定める。
「少々お痛が過ぎましたわね……」
 発射されたエネルギー光弾がサイボーグのグラビティを中和して弱体化させていく。それでも立ち上がるサイボーグに神月が飛び込んだ。
「あたしのサイキョーっぷリ、その身体に直接叩き込んでやるヨ!」
 鋭い蹴りが胴へめり込む。そのままブレイクダンスのように回転を加えた神月が躍動し、一つの竜巻となって蹴りを連続させていく。
「ハアアア!」
 勢いを増すたびに威力と速さを増していく蹴りは次第に重量を誇るサイボーグの体を浮かせ、終の一撃で高々と宙へ打ち上げた。
「どうヨ!」
「高く飛んだなぁ」
 ドヤ顔を見せる神月に酸塊が上空を見上げながら笑みを浮かべた。重力に従って落下してくるサイボーグを確認すると酸塊はグラビティを全身に漲らせる。
「驚いたか? お前を倒すくらいこっからでも行けるんだぜ!」
 爆発的な力で大地を蹴った酸塊がサイボーグへと一直線に飛び上がる。
「残像が見えるほど遅くねえッ!」
 翼の羽ばたきで更に加速した酸塊が猛スピードでサイボーグへと突っ込んだ。その胴体をぶち抜き、真っ二つに砕くと力を失ったサイボーグはそのまま地面へ激突し、跡形もなく消滅していった。


「はぁ、すっきりしたゼェ」
 思いっきり運動を楽しんだかのように汗を拭う神月にケルベロス達の表情が和む。
「皆様、お怪我はございませんでしょうか?」
 ドゥーグンが仲間達の体を気遣って回る。今回の戦闘はそのダメージの殆どをディフェンダーで受け持っていたため、自然とダメージが偏っている。
「私は大丈夫です。むしろ無茶をした空さん辺りがピンチかも」
 のんびり適当な感じで話を振るえにかに空が自分を指差した。
「え、ええ!? 私ですか!?」
「大丈夫ですか? 空様」
 ドゥーグンの丁寧な治療に空も抵抗できないで身を任せる。
「さて、と……」
 辺りを見回したシェーラがため息をついた。サイボーグが暴れた校庭は所々荒れ果てている。それでも市街地で戦闘するよりか被害は小さいのだろうが。
「ヒールしていかないとね」
 明日からはまた学生達が使用するのだ。そのままにはしておけない。
「うむ、手伝うぞ」
「皆でやれば早いよね」
 ミーシャとルカが頷いて、そこに酸塊も加わった。
「どうした? ドゥーグン?」
 遠くを眺めたままのドゥーグンに酸塊が声をかける。
「ユウタ君は大丈夫でしょうか」
 心配そうに表情を曇らせる彼女に神月と酸塊が顔を見合わせた。
「どうせ、ユウタの家の近所までヒールしていかなきゃならねぇだロ? 付き合うゼ」
 いい笑顔で返してくる神月にドゥーグンの表情が普段の柔らかさを取り戻す。校庭が終われば今度は歩道をヒールして。行きつく先にはケルベロス達が守った少年の健やかな寝顔がきっとあるはず。

作者:綾河司 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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