『後悔』と『驚愕』の狭間を揺蕩う想いは 

作者:長野聖夜

●逃げても、逃げても追いかけてくる闇は
 ある絵本の中で、怖い、怖い話があった。
 悪いことをした人は、地獄に落ちてずっと苦しみ続けるというお話だった。
(「私……悪い子になっちゃった」)
 その日彼女……美琴は、友達に酷い事を言ってしまった。
 そのまま、家に帰って来た。
 そんな日の夜。
 友達の女の子……明菜が夢の中に現れた。
「美琴のイジワル! あたしと違って誰とでも仲良くできる癖に、どうしてあたしもそうなんだねなんて言えるの?!」
 痛々しい程に胸を貫く明菜の言葉。
「イジワルな美琴には、あたしがお仕置きしてあげる!」
 そのまま襲い掛かって来る明菜。
 美琴は怖くなって逃げ出した。
 暗い、暗い闇の中を。
 でも、幾ら逃げても明菜は追っかけてくるばかりで。
 美琴は暗い闇の中をずっと、ずっと走り続けて……。
 それでも目の前にまた、明菜が現れて。
「逃げたって無駄だよ? あたしがお仕置きするんだから……!」
「きゃっ……きゃぁぁっ!」 
 悲鳴と共に、ガバリ、とベッドから身を起こす。
 シン、とした空気が辺りを包た。
「……明菜ちゃん……」
 そんなつもりは全くなかったのに。
 夢の中で、明菜ちゃんに怒られて、襲われそうになるなんて。
「……夢、だよね? 今の……」
 ふっ、と生暖かい風が外から入って来た。
 気が付けば、白い鹿らしき獣に乗った少女が目の前に現れている。
 その姿は、まるで御伽噺に出てくる魔女の様で。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 不意にその手に握られた巨大な鍵で、美琴の胸を一突きする。
 そのままベッドに倒れ込む美琴の傍らに、一人の少女の姿のドリームイーターが現れて。
 それに……魔女は薄らと笑みを浮かべた。
 
  
●黄昏を晴らすことは出来るのか
「……逃げても逃げても追いかけられて、追いかけられた先で襲われる夢……大人が見ても、怖くて驚くことがある様なそんな夢を、子供が見たら尚更驚きますよね?」
「そうですね……僕も驚くと思います」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の呟きに、宵月・メロ(人と魔の狭間・e02046)が相槌を打つ。
「実は今回、そんな風に暗闇の中で逃げても逃げても友達に襲われる夢を見て驚いた子供……美琴さんがドリームイーターに襲われて、その『驚き』を奪われる事件が起きてしまいました」
「……それって……」
「はい。貴方の懸念が的中したことになります」
 メロの言葉に、セリカが僅かに顔を俯けて首肯する。
「新しく現れるドリームイーターの名前は、『明奈』と言うそうです。メロさん、皆さん。被害者の『美琴』さんを救う為にも、『明奈』を撃退してきて頂けませんでしょうか?」
 セリカの言葉に、メロとその場に集ったケルベロス達が、其々の表情で返事を返した。
  

●明奈
「明奈は、暗闇の中から突然現れて、相手を驚かすことを好む様です。そして、相手が驚いて動きを止めた所で攻撃します。この性質は、どうやら美琴ちゃんが見ていた夢に原因があるようです」
「原因ですか?」
 メロの問いかけに、はい、と頷くセリカ。
「美琴ちゃんは明るくて友達を沢山作るのが上手な子供です。でも、自分ではその自覚がなく、友達の一人である明菜ちゃんの方がそれが上手だと思っていて、褒めました。でも、明菜ちゃんは本当は臆病で、一人で本などを読むことの方が好きな子でした。だからでしょう。友達を作るのが上手と褒められたことが却って怒らせる原因になり、2人は喧嘩してしまったようです」
「その喧嘩をした日の夜に、明菜ちゃんに襲われる夢を美琴ちゃんが見た、ということですか」
 メロの言葉に頷くセリカ。
「ですから、明奈は相手を驚かし、傷つけることを喜びます。明奈はその被害者となる相手を探して、美琴ちゃんの家の周りを歩いている様です」
 故に、明奈は普通の女の子である。
 影などの暗闇にいるのを好むことを除けば。
「彼女の得意技は、手刀で宵闇から現れて切り裂く斬撃です。他には、暗闇の中でその目を光らせ、相手の動きを封じる力と、鬱屈した想いを爆発させる叫びを使用してくるようです。それと……」
「……暗闇から突然現れても驚かなければ、優先的に狙われる、ですか?」
「はい。その性質を利用できれば……或いは、有利に戦えるかも知れませんね」
 セリカの言葉に、メロ達は首を縦に振った。
「悪気はなかったけれども、相手を傷つけてしまった美琴ちゃん、そして、そのことを驚く夢にまでして後悔している……。そんな美琴ちゃんの驚きを利用して、ドリームイーターを作ることは到底許される事ではありません。どうか、明奈を倒して、美琴ちゃんのことを助けてあげてください。……どうか、お気をつけて」
 セリカの祈りに背を押され、メロはケルベロス達と共にその場を後にした。


参加者
アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)
佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)
宵月・メロ(人と魔の狭間・e02046)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
プラータ・ヴェント(浮世の銀風・e25479)
リリー・リー(輝石の花・e28999)

■リプレイ


「意地張ったりしますが自分が思った子を素直に言えるのは子供の良さであり残酷さなんですよね」
「その素直さがいい方向に向かってくれればもっといいんでしょうけれどねぇ」
 子供達や、老人たちの人間関係を仕事の経験上それなりに見て来たプラータ・ヴェント(浮世の銀風・e25479)が溜息交じりに呟くのに、のんびりと周囲を警戒していた佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)が相槌を打つ。
「それはそうとみのり。そんなくたびれた顔をしていると、折角の可愛らしい顔が台無しだぞ?」
「普通にOLやっていると疲れるんですよねぇ。人間関係とか、色々ありますから」
 口元を覆って疲れた欠伸をするみのりを気遣うのは、アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)。
(「しかし、性格の悪い相手だな」)
「間違いとすらいえない、ただの思い違い。思い違いだと気づかされて後悔して見た悪夢を利用していますからね……。こんなの、あんまりです」
 彼女の考えに同意する様に美琴の家の周り……特に灯りが届かない場所を重点的に探している宵月・メロ(人と魔の狭間・e02046)が、やや俯き加減になりながらそう返す。
「あっ。あそこに、人がいるの」
 メロが見ていた暗がりの向こう。
 近道でもするつもりなのか学生が裏通りの方へと入っていくのを見つけたのは、リリー・リー(輝石の花・e28999)。
「あの辺りにいそうですわね」
 自分を勇気付ける様にグッ、と両の拳を握りしめてリリー達を促したのは、霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)。
(「本当は暗いのも怖いのも得意というほどではありませんががんばりますわよっ」)
「それにしてもさあ、本人のドリームイーターを作る事件ってのは何回かあったけど、別の人を作り出すのって初めて見る感じだね」
「そうかも知れませんね。……モザイクを晴らして何をしようとしているのかも気になる所ですが……無事に美琴様を助けられるよう、頑張りましょう」
 赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)の小首を傾げる様子にリュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)が頷きメロ達と共に、暗がりの中に消えた人影を追って進んでいく。
 程なくして……。
「キャー!」
 暗闇の中で絹を裂く様な悲鳴が木霊した。
 

「ふはははー! でたねドリームイーター!」
 それに誰よりも早く反応したのは緋色。
 空中で華麗に二段ジャンプをして高く飛び上がり、そのまま急襲する様に落下をしつつ袈裟懸けに敵を斬り裂く。
 その奇襲に反応が遅れたか、小学2年生位の何処かぼさぼさ頭の少女が惨殺ナイフの一撃を受けた。
「あうっ?!」
「きゃっ……キャァ?!」
「向こうへ逃げてください。此処は危険です」
 驚いて尻餅をついた一般人の少女を逃がす為、メロが周囲に殺気と剣気を展開。
 その気に呑まれる様に少女がアタフタと立ち上がって逃げ出した。
「一般人の避難はリィ達にお任せなの。だからそっちはお任せするの」
「ほうら……お仕置きよ!」
 暗闇の中、何処かおどろおどろしさを交えた声と共に、明奈がわっ、と暗がりから飛び出し、攻性植物に黄金の果実形態へと変化させていたプラータに襲い掛かる。
「!」
 ビクッ、と肩を竦め、瞬きをして呆然とする振りをしつつ、プラータに放たれた手刀をちさが前に出て片腕で受け止める。
 ミシリ、と骨が軋む嫌な音を暗闇の中で響かせつつ、漆黒の魔力弾を撃ち出すちさ。
「お相手して差しあげますわっ」
 その手を射抜かれながらも臆すことなく、再び闇に溶け込むようにサササッ、と周囲を駆け回る明奈。
「はやいですねぇ。中々手強そうですよぉ」
 みのりが近くの壁に向かってリボルバー銃を射出。
 壁に反射し、思いがけない方角から来た弾丸に気が付き、咄嗟に、手刀でその攻撃を受ける明奈。
「出てくると構えていれば、驚く必要もない」
 みのりに撃ち抜かれながらも、わっ、と飛び出し襲い掛かって来る明奈に、冷静に返しつつ刀型の鉄塊剣を上段から振り下ろすアマルティア。
 鉄の塊が振り下ろされた、としか思えない程に強烈な一撃を正面から受け、そのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる明奈。
「くあっ……?!」
「すまないな、驚かせ甲斐が無くて」
 人を殺せるのではないか、と勘違いする程強烈な殺気を放つ明奈に、申し訳なさそうにアマルティアが返す。
「お前達……私の気持ちを弄んだあいつの味方をする……絶対に許せない……!」
「……ちょっと怖いですわね」
 驚き、というよりも狂気を思わせる明奈の気迫に、リュティスが微かに驚愕の表情を浮かべながら、ブレイブマイン。
 派手でカラフルな爆発が緋色達前衛の背後で発生し、まるでヒーロー戦隊ものの派手さを演出し、士気を高める。
 リュティスと呼吸を合わせて、シーリーが両翼を羽ばたかせて、清浄な風を生み出し爆発の演出の余韻を残しつつ、ちさ達を守る青白い光の結界を生み出す。
 パフが、自らの口から赤いブレスを吐きだしちさの骨の軋みを温めて癒した。
「いっくよー!」
 緋色が身軽に回転しながら、簒奪者の鎌に籠めた『虚』の力を衝撃波にして放つ。
 凄まじい速さで放たれた一撃が、態勢を崩していた明奈を斬り刻むが……。
「邪魔をしないで!」
 悲痛な叫び声を上げる明奈。
 それは、明奈の基とも言える……『明菜』が抱えていた鬱屈した想いの爆発でもあった。
 周囲一帯を振動が震撼させ周囲の建造物ごと緋色達を飲み込んでいく。
「こ、この位で驚いたりしませんわっ」
「この程度の想いに、驚かされる必要もない」
 ちさが緋色を、アマルティアがみのりを庇う。
 慄きとも悲痛とも感じ取れる衝撃に足がふらつくが……。
「ちさ様。これでしたら、少しはお役に立てるでしょうか?」
 リュティスが生み出した心を癒す様な優しき風が、ちさの体を癒していく。
「こういう感じなんですかね」
 再び、攻性植物を黄金の果実を宿す『収穫形態』へと変化させて、アマルティア達を癒す光を生み出しながら、プラータがうんうん、と納得している。
 更にエクレアがその翼を羽ばたかせて風を生み出し、ちさ達の傷を癒していく。
 そして……。
「行ってください!」
 メロの鋭く命じる声と共に、ハヤブサが空を駆け抜け明奈に向かって体当たり。
 更に……。
「リィも、リネットも一杯頑張るのよ。……リィパンチ!」
 キープアウトテープを張り終えたリリーが降魔真拳で、明奈の存在の一部を喰らい、リネットが尻尾の輪を飛ばし、明奈の身の一部を削る。
「これで揃いましたよね」
 先程までよりもやや強い口調でそう呟き、みのりが接近して気咬弾。
 リリーの降魔真拳により喰らわれた体の一部の傷を更に喰らい、抉る。
「みのり、あまり無理をしては、明日の仕事に差し支えるぞ?」
 アマルティアが心配しつつ、炎を纏った回し蹴りを叩きつけ、パフが追随してブレスを吐き出し、明奈を炎に包む。
「絶対に許さない……アンタ達は!」
 炎に包まれながらも明奈が怒りを籠めた苛烈な眼差しでメロ達を見つめた。


「雨降って地固まる、ともいう。その為に先ず目の前のこの雨を止ませなければ、な」
 アマルティアが呟き接近して惨殺ナイフで明奈の腕を斬り裂く。
 斬り裂かれた一撃に、パッ、と上がった血飛沫をその身に受けて傷を癒す彼女を睨み付けながら、明奈が暗闇の中でその目を開き光を放つ。
 放たれた光を遮る様にシーリーが緋色の前に飛び出し、更にみのりを庇ったアマルティアをパフが守った。
「これを食べてもうちょっとがんばりましょう、ふぁいとですの!」
 暗闇から放たれた強烈な光に、眩暈にも似た感覚と、一瞬失神しかねてしまいかねない程の威圧を受けて消耗しながらも、ちさが、頑張って作った一口サイズのクッキーを、えい、とアマルティアに投げつける。
 片手で其れをキャッチして口に放り込んだところで、強く感じていた眠気がおさまるアマルティア。
 更にエクレアが羽を羽ばたかせ、緋色達の前に薄青白い風の壁を形成している。
「シーリー、もう少し頑張って下さいね」
 緋色の背から彼女に攻撃を仕掛けようとするシーリーを宥める様にリュティスが呟き、心穏やかになる風を吹かせる。
 風がシーリーの身を包み、我に返ったウイングキャットは緋色に加勢するべく翼をはためかせた。
「くらえー! いちげき、ひっさーつ!」
 川越市で抽出したグラビティチェインを、惨殺ナイフに纏わせ大ジャンプし、明奈の頭上から投げつける。
 危険を察したか、咄嗟にその惨殺ナイフを躱そうとする明奈だったが、シーリーが鋭く伸ばした爪で引っ掻いてその注意を引き、緋色の惨殺ナイフが左肩に突き刺さった。
「ドッカーン!」
 緋色の叫びと同時に、惨殺ナイフに封じられていたグラビティ・チェインが解放され、特大の花火型の爆発を生み出した。
「く……くぅっ?!」
「明菜さん……貴女が怒った……いいえ、ショックを受けた気持ち、僕は少しだけ分かります」
 メロが呟きながら、素早く呪印を切り生み出したマジックミサイルの光条が、明奈の体を射抜いていく。
「あ……あうっ?!」
(「僕も、明菜さんと同じ様に、友達作りはあまり得意ではありませんから」)
 普通に本を読んだり、何気ない事をしている内に、誰かが寄って来て気が付いたら少し話をする様になる。
 その関係が続くことが『友達』ならば、明菜の友達作りも恐らくそうなのだろう。
 それを、美琴に『友達作りが上手』なんて言われれば、もし自分だったら、美琴に対する怒りよりも、自分を見て貰えていないというショックを強く感じてしまう。
 いや……だからこそ。
「明菜様と美琴様がこれからも仲良くしていられる様に、仲直りしなきゃ駄目なの」
 リリーが想いを口に出しながら時空氷結弾。
 肩を射抜かれその身を凍てつかせていく明奈をプラータが蔓触手形態へと変化させた攻性植物で締め上げていく。
「あんまり、子供の姿の物を傷めつけるのは気分的に良くないですねっ! でも攻性植物の使い方には段々慣れて来ましたよ……!」
「くっ……くぅ……?!」
 締め上げられ苦しげな明奈の呻きに心を痛めつけられるプラータではあったが、一方で自分なりの武器の使い方への手応えを感じていた。
 リネットが尻尾の輪を飛ばして、明奈の体の一部を拘束し、みのりが小さく呟く。
「おいで、雷獣。今日の遊び相手は、あの人ですよ」
 呟きと同時に、みのりの背後から現れた『ロンリー・サンダラー』が突進した。
「ぐ……ぐぅああああ!」
 全身に雷を叩きつけられ、苦痛の呻きを上げる明奈にパフが封印箱に入って体当たり。
 思ったよりも強烈な一撃に、明奈の小柄な体がズザザッと音を立てて後ずさった。


 ――それから数分。
「くっ……どうして……!」
 悔しげに呻きながら、その鬱屈を魔力に変換し暴発させる明奈。
 だが、その攻撃はちさ達ディフェンダーの活躍により、被害を最小限に食い止められる。
 残された力を掻き集めて放った衝撃波で誰一人倒せなかったことに唖然とする明奈。
「さあ、ガンマンごっこの時間ですよ」
 その隙を、プラータが見逃さず指鉄砲を形作る。
 その指鉄砲に興味を示して顔を上げた明奈の胸に魔法弾が放たれた。
 『ハートを撃ち抜く』の名を持つそのグラビティは、その名の通り明奈の心を貫き。
「美琴様の所に帰って貰うの……! リィキック!」
 リリーが電光石火の回し蹴りを明奈の首に叩き込み、リネットが爪で明奈を引き裂いて。
「これで終わりですわねっ」
 ちさが、縛霊撃で明奈を締め上げエクレアがリングを飛ばしてその身を叩き。
「とっどめー!」
 緋色がやれば仲直りできると信じる心を力に変えて、明菜と美琴の未来を感じさせる一撃を叩きつけ。
「美琴さんに覚めない悪夢を見せ続ける貴女の願いも此処までです。……逃さない」
 過去に見た悪夢を思い出し、自分の中で荒れ狂う絶望という感情を魔力に乗せて、真空状態を生み出すほどの速度の風で明奈を斬り裂き。
「行くぞ」
 パフのブレスにその身を焼かれた明奈をアマルティアが刀型の鉄塊剣で撫で斬りにし。
「そろそろ、終わりにしましょうか」
 リュティスが暗闇に紛れるように姿を消し、次の瞬間にはその太股に仕込んだ惨殺ナイフで残虐にその身を斬り裂き既に凍り付いている体を穿ち。
 シーリーがそれに合わせる様に長爪で明奈を斬り裂いた。
「かっ……かはっ……?!」
「これで止めですねぇ。……お休みなさいですよお」
 全身を斬り刻まれ、その身を朱に染める明奈に接近し、みのりがその首筋目掛けて『死』の力を纏った簒奪者の鎌を振り抜く。
 首筋を斬られた明奈は瞬く間に光となって消えて逝った。


「おや、皆様。あの子はもしかして美琴様では?」
 リュティスが建物やちさ達負傷者を癒している時。
 ベランダから、心細げにリリー達を見ている女の子と目が合った。
「無事だったみたいだね」
 緋色が安堵の声を上げる間にも、美琴らしき女の子が見つめている。
 不意にプラータが溜息を1つ。
「すぐに謝らないとどんどん謝れなくなるよ」
 プラータの言葉に目を瞠る美琴。
「多分、明菜さんにとっては思いがけないことを言われたから、泣いてしまったのだと思います。だから、謝って直ぐに仲直りとはいかないと思いますけれど、でも、言わなければずっと後悔しますし、それに謝ればいつか意地悪で言ったのではないって分かってくれますから」
 彼の言葉を引き取り諭すメロに、小さく頷く美琴。
「お友達作りってね、難しい人には難しいのよ。だから、美琴様が明菜様とずっとお友達でいてあげて欲しいの。きっと、ずーっとお二人がお友達でいられることが、明菜様にも嬉しい事だとリィは思うのよ。美琴様は悪い子じゃないの。算数が苦手だったら教えてあげればいいの。それと同じなのよ」
 リリーの言葉に、少しだけ困った様に俯く美琴。
「私……算数苦手……」
「それでしたら、明日にでも謝ってきちんと仲直りして、友達作りのコツを教えてあげればよろしいのですわ、美琴様」
 リュティスの微笑みに美琴がはっ、とした表情になり、やがて照れ臭そうに手を振りながら、コクリと頷いた。
「こどもでも人間関係は難しいモノですねぇ」
 その会釈を背にその場を後にしながら、みのりが誰にともなく小さく呟く。
「またお友達と仲良く過ごせるようになるといいですわね」
「そうだな」
 ちゃんと仲直りできることを祈るみのりの想いを代弁する様にちさが呟き、アマルティアが頷いた。
「お二人がこの先仲良しさんでいられますように!」
「そうですね。僕も、本当にそう思います」
 リリーが祈りを籠めてそう呟き、メロがそれに頷くと、まるでその願いを聞き届けたかの様に、キラリ、と流れ星が一つ流れた。

作者:長野聖夜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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