本の蟲

作者:彩取

●本の蟲
 街にある大きな図書館。
 今は使われていない旧館の敷地には、夜な夜なお化けが出るらしい。
 そんな噂を知って程なく、麻弓は懐中電灯を片手に図書館を訪れた。見るからに怖がっている様子だが、反面瞳はきらきらと楽しそうに輝いている。
 すると恐怖を和らげるように、麻弓はスマホの画面を開いた。
 記されていたのは、学校の先輩達から聞いた噂の詳細。
「図書館の旧館に棲むっていう本の蟲、きっといるわ」
 そこには、本の蟲という噂話が綴られていた。
 図書館の敷地にある、一般に開放されている本館と、随分前から閉架となっている旧館。その旧館の方には、本の蟲という妖精が棲みついているという。噂によれば、大きな本を持った小さな妖精のようないで立ちで、本を読む事でお腹を満たせる存在らしい。
「本を読んでお腹を満たせるとか、お化けだけど理想的よね……」
 本の虫である麻弓にとっては、ちょっと共感を感じるお化け。
 皆は所詮噂話だからと言って、話題の一つ程度にしか考えていなかったが、

「いるかもしれないのに、探さずにはいられないわよね……!」
 麻弓は確かな興味を持って旧館の入口まで辿り着き、そこでくらりと眩暈を起こした。そのまま倒れる寸前、麻弓の胸を貫いていたのは、魔女の持つ不思議な鍵。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 魔女の言葉と共に麻弓は倒れ、奪われた興味からこれが生まれ出た。
 一見すると、金で縁取られた装丁が美しい、少し大きめの古い洋書。それは意志を持つかのようにふわふわと浮き上がり、ひとりでにページが捲られていった。
 しかし、良く見るとそうではなかったのだ。
 ページを捲っていたのは、本で隠れてしまう程小さな生き物。
 チャコールグレーの紳士服にモノクルをかけて、無数の文字が蠢く不思議な羽を持つ小さな妖精。それは確かに、麻弓が噂していたお化け――本の蟲に酷似していた。

●ほんのむし
 不思議な物事に強い『興味』をもって、調査を行おうとしている人。
 そんな人の興味が奪われ、ドリームイーターになる事件。
 それを防ぐ為、また興味を奪われた人を目覚めさせる為に、ジルダ・ゼニス(青彩のヘリオライダー・en0029)は集まったケルベロス達に協力を求めた。
 被害者、麻弓の興味から生まれたのは、本の蟲という妖精だ。
「この妖精は、通常であれば自分が何者かを人に問うのです」
 もし、正しく答えられなければその者を殺し、正しく答えれば見逃してくれるという。ただ、ケルベロスの戦闘に限っていえば、答えの成否によって攻撃の矛先が変わる事はない。
 よって皆で協力して、しっかりとその場で倒して欲しい。
 また、このドリームイーターは自分の事を信じていたり、自分の噂話をしている人に引き寄せられる性質があるので、上手く誘い出せば有利に戦う事が出来るだろう。
「旧館の敷地内であれば、外の広場が戦いやすいと思います」
 折角なら、この妖精がどんな本を気に入るかを話して、誘い出すのも良いだろう。自分の舌を満足させるような本の話題をする者がいれば、本の蟲も興味を惹かれて現れる筈。
 そうして一通りの説明を終えると、ジルダはこう口にした。
「しかし、本を読んでお腹が満たされる……噂とはいえ惹かれますね」
 彼女も所謂、本の虫。きっと皆の中にも、共感を得る者がいるのではなかろうか。


参加者
ニケ・セン(六花ノ空・e02547)
森沢・志成(なりたてケルベロス・e02572)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
ロイ・メイ(荒城の月・e06031)
クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)

■リプレイ

●本の話
 図書館の敷地内にある旧館。
 その近くにある広場で、ケルベロス達は話を始めた。
 本の蟲の噂話に絡めた、美味しそうな本の話を。その中で活字が得意ではない――もっと言えば、読むと眠くなるのだと前置いた上で、それでも放って置けないと話し始めたのは森沢・志成(なりたてケルベロス・e02572)である。
「漫画も、立派に本のカテゴリーの一種だと思うんですよね」
 小説が漫画になる事もあれば、その逆もまた然り。
 そんな志成が話す話題は、今週発売の漫画誌だ。
「読んだ人います? 今回のはかなり良いと思うんですよ」
 マンガ好きな志成が、人に勧めたくなるような作品。
「折角絵の話が出たから、次は俺が話をしようかな」
 その話に皆が耳を傾ける中、ニケ・セン(六花ノ空・e02547)の勧めは絵本だった。中々眠らない子供達ひとりひとりにお話をするネズミのお父さんや、ひとりぼっちが寂しくて、階段の上と下を行き来しながら、自分の声にお返事する梟の話。
 どれもほっとしたり、あたたかな気持ちになる優しい話だ。
「本の蟲なら、やっぱり絵本はおさえておかないとね」
「では、この流れに沿って僕も話をさせて貰おう」
 一方、ティユ・キューブ(虹星・e21021)のお勧めは児童書。
 その物語の主人公は、星に会う為に荒野を駆ける虎だという。
 険しい道中を彩るのは、豊かな出会いと多くの難題。
「――そして、最後がまた切なくてね」
 ただ、詳細は読んでのお楽しみ。そう嘯き、再び聞き役に回るティユ。そんな彼女の隣では、ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)が小さく唸っていた。
 お勧めは魔導書――なのだが、如何せん渋味が強い気がする。
「うーん……俺は、ドイツのあの童話集あたりが鉄板かなぁ」
 やがてヴィルベルが口にしたのは、名を馳せた童話集だった。甘く蕩けるメルヘンとは一味違い、酸いも甘いも噛分けて血まで滴り兼ねない複雑妙味のフルコース。
「有名なアレやらコレやらの、本来の味を味わえそうだしね」
 一つ一つの話は短いから、小腹が空いた時などにはうってつけ。
 子供向けのまろやか仕立てもあるが、本の蟲なら本場仕込みも好みそう。その時、本の蟲という言葉に惹かれてメアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)が言った。
「本の蟲ですって。食べちゃうくらい本が好きな妖精さんなのね?」
「噂によるとね。グルメな妖精のようだから」
「――すてき、メアリもご本は大好きよ!」
 ヴィルベルの相槌にご機嫌で微笑む少女。
 メアリベルの好きな本も、人々に愛されている名作だ。
 不思議な世界に迷い込んだ少女の物語や、悪戯好きな妖精が大活躍する喜劇。
「この図書館にでる妖精さんも、あんな外見をしてるのかしら?」
「その話ならば私も知っている。今も日本語に翻訳したものを読んでいる最中だ」
 未だ見ぬ妖精に思い馳せるメアリベル。彼女の言葉に頷いたのは、後に戦闘を控えているが、稀な語らいに楽しさを感じていたロイ・メイ(荒城の月・e06031)だ。彼女は語学勉強として日本の詩集や童話を読んでおり、中でも好きなのは、空を飛ぶ鳥の物語らしい。
 燃え尽きる日を待つ彼女が知った、燃え続ける星となった命の話。
 どれだけの時を費やし、如何すれば成れるかさえ分からないが、
「いつか何かに成れるかもしれない。――読んでいて、そう思える」
 そう語るロイの頭上では、夏の星々が輝いている。すると、カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は噂話の一部分を思い出しながら、ゆっくりとこう呟いた。
「本の蟲の、本を読んでいるだけで満たされるという話は分かる気がします」
 敵としてではなく、本当に本の蟲がいるなら腰を据えて話をしてみたい。
 そんな思いを抱くカルナが挙げたのは、ミステリー小説だ。読み出せば止まらない夜更かしに最適の本。特に本の蟲も満足するだろうと話したのは、双子が主人公の物語である。
 特徴は、章ごとに兄弟の視点が交互に描かれ、事件概要が二転三転する構成。
「ラストのネタばらしは、意外性があって良かったですよ」
 そうして気になる事を訊ねながら、話を続けるケルベロス達。
 すると頃合いを見てクルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351)は言った。
「それにしても皆様、色々なお話を知ってらっしゃいますのね!」
 長い兎耳を澄ませて、楽しそうに話に聞き入っていたクルル。
 やがて彼女は振り返ると、真っ暗な旧館を眺めて、
「……ホラー小説の舞台のように思えますわね」
 静かに嘯き、最後に少しだけひやりとする話をした。
 古い魔術儀式で化け物が召喚される恐怖小説に、読書好きの少女の幽霊が夜な夜な現れる怪談話。中には荒唐無稽な噂話の派生作品もあるが、クルルはこう告げた。
 本とは、過去の知識に溢れた宝庫。それが、月日を重ねたとすれば、
「そこに霊や精が宿ったとしても、不思議ではないのではなくて?」
「――その通り!」
 と、その時である。
 旧館の方から、甲高い少年のような声がした。
 咄嗟に振り返ると、そこにいたのは光を放つ一冊の本。
「ところで人間! キミ達だよ人間君! ねえ、ボクの事をご存じかな!」
 その中から響く問い掛けに対し、ニケとティユは呟いた。
「本当に、本だけがふわふわと浮かんでいるように見えるね」
「どうやらお眼鏡に適ったようだけれど、……どっちで答えるかい?」
 ニケは既に殺界を展開しており、後は答えの成否に関わらず、誰かが動けば戦いが始まる状況ではある。その中で、前に立つ志成がこう返すと、
「あなたは、本の蟲なんでしょ?」
「ご明察! ボクがお腹を空かせた本の蟲さ!!」
 ポンッと音を立てて本が開き、小さな妖精が笑い始めた。
 彼がどれ程ご機嫌なのか。それを見たまま喩えるとすれば、
「御機嫌よう! 本の挿絵から出て来たようなお嬢さん!」
「あら、ダンスがお上手なのね妖精さん!」
 メアリベルの手を取り、くるりとターンをする位! といったところである。

●応酬
「あははは!」
「こいつっ、小さいくせに本当に堅い!」
 見た目がどんなに小さくても、盾役ならではの守りは本物。
 初撃から体感していたそれを再認識しながら、カルナやニケが後方から精度の高い一撃を放ち続ける中で、高速演算による近接の一撃を繰り出した志成。彼が次手へと意識を注ごうとする最中、対する妖精は再び羽を大きく広げた。沢山の文字が蠢く羽。そこから矢のように戦場を翔けたのは、文字で編まれた長い鎖だ。
 狙いは志成。だが、それは直撃の寸前ロイによって防がれた。
「うう、文字がたくさんすぎて、頭痛くなってきた……」
「一概に文字とは言うが、様々な国の物が混じっているな」
 得意ではない活字の乱舞に軽い眩暈を覚える志成。一方、ロイは飛来した文字が英語の一文を成している事に気が付いた。それは嘗て日々を過ごした森――本だけが娯楽のような場所にいた頃、手にした本の中で見た記述に似ていたが、
(「しかし、思い出している暇はなさそうだ」)
 今はただ、心を研ぎ澄まして戦うのみ。
 そうしてロイが流星の煌めきを宿した蹴りを見舞った後、メアリベルは地獄の炎弾を放ちながら本の蟲をじっと見つめた。命を懸けた戦いの間も、お喋りを続ける妖精。
「お嬢さんは踊っている方が素敵だと思うのになあ!」
「手を繋いで踊るのも素敵だけど、お仕事は忘れてないわ!」
 そんな妖精と少女の会話に、ヴィルベルは雷の杖を掲げながらふと思う。
 ある種同好の士とも呼べるべき本の蟲を、屠らねばならない忍びなさ。
 文字だらけの見た目からも、親近感を感じる上に、
「あ、その翼はどこの物語から調達したやつかな?」
「さあどこだろう! 生憎と何冊分食べたかは記憶にないんだ!」
 この一時の応酬を、自分は確かに楽しいと感じている。そうして雷を放ったヴィルベルに続いたのは、虹色を映す泡のように美しいボクスドラゴン―ーペルルに中衛を任せたティユである。火力の担い手として、前列で戦うティユ。彼女が繰り出した炎を伴う激しい蹴りを受けて、妖精は思わず空中でひっくり返った。
「わぁ! ははは焦げちゃいそうだ!」
「聞いちゃいたが、名前の割にゃ可愛いもんだ」
 それでも、相手はけらけらと子供のように笑っている。
 すると、悪戯っ子に諭すように軽く笑み、ティユはこう続けた。
「本を読んでいれば不自由ないって感じの割には、中々おっかない遊びをするものだね」
「人に何かを問うて答えられなければ殺す――そんな類のお話は良く聞きますわね」
 その言葉を継いだのは、月の魔力球を放ったクルル。
 仲間の火力を高めながら、クルルは妖精へと言葉を届けた。
「読書好きとしては、貴方はとても興味深い生態ですわ。ですが」
 知識が増える事も、物語に胸を打たれる事も、全てが心の栄養になる。
 それは本の蟲の話も然り。故に、素敵な伝説には心擽られるお話のままであって欲しいと、クルルは心から思っている。だからこそ、クルルは眼前の夢喰いに宣言し、
「貴方に限って言うなら答えは一つ。わたくしたちの敵、ですわ。覚悟なさってね!」
「あははまだまだ! 物語、戦いの幕は下りないのだよ!」
 お気に入りの一節を高らかに響かせ、妖精は傷を癒した。
 その言葉を聞いて、声を掛けたのはニケである。
「お喋りしようよ、本の蟲なら言葉遊びも好きでしょう?」
「言葉? ボクの鎖で遊びたいなら、後で届けてあげてもいいよ!」
 対し、文字の羽を動かしながらその時を待つ本の蟲。その間も仲間達の攻撃は繰り出され、やがてニケが先に愛用の鎖を前方に撃ち放つと、
「目には目を! 鎖には鎖を!」
 お返しに言葉の鎖が返された。
 それでも、ニケはゆるりと問うていく。
 旧館にはどんな物語が眠っているのかを。
 本の蟲が、どんな物語を好んでいるのかを。そして、
「お腹いっぱいになるのは、意外に戦いの物語――かな」
 敵が紡いだお気に入りの一節から察した考えを語りながら、敵の挙動を冷静に見極めていくニケ。また、共に狙撃を続けていたカルナも穏やかな眼差しながら、目を瞠る程冴え冴えとした一撃を撃ち放っていた。のだが、 
「――わわわ! に、肉弾戦も中々!」
「? これも僕の魔法(物理)ですよ」
 隙あらば繰り出されるのは、間合いを詰めての近接技。
 そうした一同の連撃に疲労してきたのか、本を盾のように立てた妖精。
 しかし、それはあくまで守りの姿勢を示す仕草であって、
「大きい本に隠れて見えないとでも思っていましたか? ――来たれ、雷鳴」
 実際に守りが強固になる訳でも、戦況が変化する訳でもない。それを証明するかの如く、一巡したカルナが召喚した雷雲から巨大な雷が落とされた。高い精度によって火力が飛躍的に伸びた一撃。その流れを絶やさないように、志成はバスターライフルを構えて標的に狙いを定めた。相変わらず文字だらけの敵だけど、この一撃は決してぶれない。
「ちょこまかすばしっこいですけど、そろそろ動けないでしょう!」
 瞬間、ぎゅっと目を瞑って一撃を堪える妖精。
 しかし、再び彼が目を開く寸前、
「――よく見ろ。私を、全てを」
 小さな耳に、ロイの言葉が確かに響いた。
 まるでその言葉に凍り付いたかの如く、ロイから視線を離せない。
 そこに影の如く迫って敵を斬り裂いたのは、ティユの鋭い斬撃だった。
「ほら。一点ばかり見ていては避けられないよ」
 そう嘯くも、ティユに逃すつもりは微塵もない。
 それでも反撃を諦めない妖精を襲ったのは、ニケとミミックの一撃だ。
 エクトプラズムで生成した武器を構え、ぴょんぴょんとジグザグのステップを踏むように駆けるミミック。そこにニケが縛霊手の一撃を重ねると、敵は再び文字の鎖を放ったが、
「折角だし、詠唱よりも文字を描いた方が良いかな」
「よ、よよよくなーい!!」
 それを受けてなお、ヴィルベルは変わらぬ口調で囁いた。
 紡ぎ出す詠唱と共に、文字を記すようにさらりと揺れる彼の指先。直後、招かれた万花の精霊によって生み出された黒薔薇達が、纏わり付くように敵へと襲い掛かった。
 それを嫌がるように、文字の羽根をぶわっと広げる本の蟲。
 すると薔薇と文字が戯れる光景を見て、ヴィルベルは呟いた。
「――こういう奴ばっかりならいいのに」
 倒すべき相手だとは分かっている。
 倒せば夢のように消える存在だと知っている。
 けれど、今宵感じた思いはひとつだって嘘にはならないし、
「本当に、読みたい本が一気に増えてしまいましたわ。ですから――」
 皆から聞いた物語に、触れてみたいという気持ちは残り続ける。そう呟き、満月の力で仲間を癒すクルルの瞳に、ようやく戦いの終わりが映された。
 開いた本にぺたりと突っ伏して、へろへろになって漂う妖精。
 するとメアリベルはビハインドのママが見守る中、斧を構えてこう言った。
「メアリもご本は大好き。でも、メアリはとっても欲張りなの」
 本は好きだけれど、本だけではお腹は膨れない。
 甘い物だって、ほっぺたが落ちちゃうくらい大好きだ。だから、
「活字だけじゃお腹一杯になれない 紅茶とお菓子は読書のお友達よ!」
 そんな思いを発した直後、メアリベルは斧を振り下ろした。斬風が巻き起こる中、直撃を受けてぐるぐると目を回すドリームイーター。そこに、カルナがアームドフォートの主砲を発射すると、本の蟲は閃光と爆炎に包まれて力尽きたのだろう。まるで夢であったかのように、煙が薄れると共に姿を消したお喋り妖精。けれど、彼らは知っている。あれは旧館の入口で眠っている少女の心の中に、あるべき場所に戻る事が出来たのだと。

●本との出会い
「さて、素敵な妖精を生み出した子のところへ行こう」
「そうだね。場所は……旧館の入口だったかな」
 周囲や互いのヒールを終えると、ヴィルベルとニケの言葉に頷き、クルルや志成が歩き始めた。その道中に花咲いたのは、ティユの提案に応じる形で再開した本の話。
 その語らいに耳を寄せながら、カルナは旧館に目を向けた。
「……こっそり入ってみたい衝動に駆られますね」
 秘密の香りが漂う、閉架や旧館という言葉。
 そこで文字の海に浸る心地に思い馳せるカルナの傍では、ロイが本屋に寄る思案をしながら、聞いた本の題名を忘れないように呟いている。メアリベルが振り返ったのは、そんな時だった。瞳に映るのは、先程まで戦場だった暗い広場。すると、彼女は呟いた。
「――メアリも、これからももっとご本を読まなきゃ」
 本の蟲さえ舌を巻く位、立派なレディになる為に。
 素敵な本との出会いは、空っぽの心さえ満たしてくれる宝物だから。

作者:彩取 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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