怪奇浪漫喫茶

作者:柚烏

 淡々と読経のBGMが鳴り響く中で、白装束姿の女性は絶望に打ちひしがれていた。
「はぁ……私の夢と希望の詰まったお店も、もうお終いなのね……」
 昼なお暗いその場所は、一見すると廃墟となった古民家のようであった。しかし、本当は違う――此処は古き良き日本の怪奇を再現し、恐怖とスリルを味わいながら寛ぐことの出来る喫茶店『怪奇浪漫喫茶』なのだ。
 ――つい、先程までは。何だかコンセプトが矛盾している気もするが、もう閉店する羽目になってしまったので、あまり気にしてはならない。
「夏真っ盛りだし、これから需要があると思ったんだけど、何がいけなかったのかしら。立地条件……はまぁ、怪奇の館が堂々と建っているのもおかしいから、路地裏にあるのは良いとして」
 廃墟の雰囲気を求める余り、極力掃除をせずに埃や蜘蛛の巣をそのままにしていたのが悪かったのか。照明もほとんど点けず、外からはお店なのか空き家なのか分からない所為もあったかもしれないし――いざ入っても、地の底から響くような読経のBGMと、ずらりと並んだ日本人形やら武者鎧やらこけしやらに見つめられては、居心地が悪く感じるひとも居たかもしれない。
「で、でも、メニューだって凝ってたしね! ね!」
 と、メニュー表を片手に般若の面に語りかける女性は、既に涙目だ。そう、実際ネーミングは一工夫していたのだ。乙女の生き血(トマトジュース)とか、毒蜘蛛の巣(わたあめ)とか、悪魔のはらわた(ホルモン焼き)とか――が、そのレパートリーは祭りの屋台と大差なかった。
「……ぐすっ。笑っちゃうほど、お客さん来なかったなあ」
 ――で、お値段もそれなりだったので、全くお客は寄り付かず店は潰れてしまって。後悔ばかりが募る女性の胸をその時、突如として現れた鍵が一突きした。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 うたうように囁く、鍵を持つ魔女の名はゲリュオン。そのまま女性は意識を失って倒れ、その隣にはゆらりと――彼女の『後悔』を具現化したようなドリームイーターが生み出される。
 いらっしゃいませ、と恭しく客人を迎える仕草をするそのドリームイーターは、店長の女性のような白装束を纏った、女幽霊の格好をしていた。

「僕も昔、趣味で小物や雑貨を扱う、ちいさなお店を開くことに憧れたかな……ひよこグッズとか」
 自分の店を持つという夢を、一度は抱くひとも多いかもしれない――エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)が予知したのは、そんな夢持つひとが犠牲になってしまう事件だった。
「でも、その夢を叶えたのに、色々あってお店が潰れてしまって後悔しているひとが居て。今回のドリームイーターは『後悔』を奪ってしまったんだ」
 この『後悔』を奪ったドリームイーターは、既に姿を消しているらしい。しかし、この奪われた『後悔』を元に現実化したドリームイーターが、更なる事件を起こそうとしているのだ。
「だから皆には、被害が出てしまう前にこのドリームイーターの撃破をお願いしたくて」
 それに、このドリームイーターを倒す事が出来れば、『後悔』を奪われてしまった被害者も目を覚ましてくれる筈と付け加えて、エリオットは予知の詳細について説明をしていった。
「潰れたお店は『怪奇浪漫喫茶』と言って、古き良き日本のホラーを味わえる喫茶店だったみたいなんだけど……」
 ――しかし、立地条件も悪いことに加え、斬新過ぎるアイディアは迷走しまくり、お客が寄り付かないまま店じまいする羽目になったようだ。
「取り敢えずお店はボロ……いや、趣があり過ぎてね。メニューの名前にはこだわりがあったみたいだけれど、屋台みたいな品揃えで、その……えっと」
 ――ぶっちゃけると学園祭の出し物の、手作りのお化け屋敷みたいなお店だったのだと、エリオットは苦笑した。しかし、そんなお店もドリームイーターの力で営業を再開し、入店すると女幽霊の格好をした店主のドリームイーターが出迎えてくれるのだと言う。
「お店に乗り込んで、いきなり戦闘を仕掛けることも出来るけど……お客さんとしてサービスを受けて、心から楽しんであげると、敵は満足して戦闘力が減少するみたいなんだ」
 今回の場合は大袈裟に怖がって、皆できゃあきゃあ楽しむのが良さそうだ。またこうして倒した場合、意識を取り戻した被害者も後悔の気持ちが薄れて、前向きに頑張ろうという気持ちになれる効果も期待出来るそう。
「敵は1体。トラウマやら金縛りやら、恐怖を植え付ける攻撃をしてくるみたいだから、心を強く持って戦ってね」
 そうして深呼吸をひとつしてから、エリオットは顔を上げる。夢破れてしまうことは哀しいけれど、ひとは新たな夢を見つけることも出来る――しかしそれも、生きていてこそだから、どうか被害者を救って欲しいと。
「皆が楽しむことが、希望を与えることに繋がるから。折角だから肝試しをするみたいに、思いっきり楽しんで来てくれると嬉しいよ……!」


参加者
ルーチェ・ベルカント(深潭・e00804)
天矢・恵(武装花屋・e01330)
天矢・和(幸福蒐集家・e01780)
三村・美衣子(美少女探偵・e02815)
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)
リリー・ヴェル(君追ミュゲット・e15729)
花唄・紡(宵巡・e15961)
十朱・千鳥(ローズロワ・e19159)

■リプレイ

●怪奇喫茶へようこそ
 怪奇浪漫喫茶――それは古き良き日本の怪奇を再現し、恐怖とスリルを味わいながら寛げる斬新な喫茶店であった。けれど、後悔の念から生まれたドリームイーターが潰れた店を再開し、知らず入店した人々が犠牲になってしまう。
「なるほど、ボロ……いや、雰囲気あるなぁ」
 陽炎が立ちのぼる路地裏、その一角にぽつんと佇む古びたお店を見上げて、エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)はしみじみと呟いた。
 確かにお化けが出そうな雰囲気はばっちりなものの、やはり一見して喫茶店だと分かりにくいのが難点だったのかもしれない。
「それでも、一風変わった喫茶店……夏にはぴったりだと思うんだけどなぁ」
 涼しくなるからお化け屋敷に行ったりするのと同じだよね、とエーゼットは頷くが、残念ながらお店の経営は夏を目の前に成り立たなくなってしまった――。
「わたくし、ニホンの……おばけ、やしき? に行くのは初めて、で」
 ふわりとした真白の髪を揺らし、小首を傾げるのはリリー・ヴェル(君追ミュゲット・e15729)。もし彼女が廃墟に佇んでいたら、忘れられた骨董人形のように見えるかもと思いつつ――ルーチェ・ベルカント(深潭・e00804)は澄んだ光の如き美声を響かせる。
「日本のホラーって、独特な雰囲気があって面白いよねぇ」
 そわそわとした様子で青の瞳を瞬かせるリリーへ、安心させるようにルーチェは微笑んでみせて。こういうのを喫茶店に取り入れる発想は、好みだと頷いた。
「あたしも今までオバケ屋敷に縁がなかったから、どんなものか見てみたかったんだ。楽しみ!」
 一方の花唄・紡(宵巡・e15961)は物怖じをする事無く、沢山怖がるぞと早くも意気込んでいる。ホラーな物事には耐性がある彼女だが、こう言うのは全力で楽しんだ者勝ちだと思うのだ。
「ふふふ、怪奇猟奇と言えば……名探偵の出番だよね!!!」
 と、其処で自信たっぷりに三村・美衣子(美少女探偵・e02815)が胸を張り、知的な仕草で眼鏡を押し上げてポーズを決めた。
「いや、殺人事件は起きないんじゃないかと思いますけど」
「……ん? なんかちょっと違う? ま、細かいことは気にしないの」
 見た目は可愛らしい少女だが、ドワーフである美衣子の心は立派な大人。そんな訳で、年長者にきっちりと敬語を使って十朱・千鳥(ローズロワ・e19159)はツッコミを入れるが、さりげなく美衣子は大物の風格を漂わせてスルーをする。
「ま、あたいもこういう雰囲気は嫌いじゃないから、サービスは受けてせいぜい楽しませてもらう事にするわ」
「うん、コンセプトはいいし、面白いと思うんだけどねぇ……」
 ふわふわと、のんびりとした笑みを浮かべる天矢・和(幸福蒐集家・e01780)が本来の目的を忘れないよう監視、いや見守りつつ――彼の息子である天矢・恵(武装花屋・e01330)はガラガラと、立て付けの悪い引き戸を開けてお店へ入ろうとした。が――。
「ひっ、今顔面にひやっとした何かが……!」
 無造作に一歩を踏み出した和が、びくっと身体をすくめ――彼に飛びつかれた恵は眉間に皺を寄せて、天井でぶらぶらと揺れている物体を無造作に掴む。
「……こんにゃくだ」
「何だ……って、演技だよ?」
 恵にだけ聞こえる声でぼそっと和は呟くが、恵は無言で和の首筋にこんにゃくを押し当ててから、罠にかからないように皆を護りながら店内を進んでいった。
「な、何だか妙な寒気が……」
 ――ところが数歩と進まない内に、奥の暗がりからぬっと、白装束を纏った長い黒髪の女性が現れたのだ。
「きゃああああああ!!」
「うひゃあ、恵くん、幽霊! 幽霊!」
 ここぞとばかりに紡が悲鳴を上げ、和も恵の服を引っ張るが、当の恵は冷静な態度を崩さなかった。
「親父、そいつが件の店長じゃね? ……ああ、いい雰囲気は出てるぜ。本格的じゃねぇか」
 けれど微かに口の端を上げ、何処となく楽しそうな恵の様子に、店長のドリームイーターは満足げにうふふと笑う。そのまま女幽霊の格好をした店長は、皆を店内へと案内し――どうしたら良いのか分からないリリーを見た千鳥は、彼女の手を引いて恭しくエスコートした。
「俺の隣にどーぞっ、女子供を守るのは男の役目!」
 ――さあ、いざ全力で怪奇浪漫喫茶を楽しもう。心から楽しむことが敵を弱らせ、被害者に希望を与えることに繋がるのだから。

●恐怖のおもてなし
 わ、わと紡は、先ず店内に張られた蜘蛛の巣へ積極的に引っかかりに行っていた。彼女の魔女帽子はたちまち蜘蛛糸に塗れ、ぶわりと舞う埃にもびっくりしてみる。
「……いや何も見てねぇぜ? ここは怖ぇ場所だ」
 一方の恵は地面に転がっている埃の塊を見つけ、そっと視線を逸らし――ルーチェは店内に響く無機質な読経のBGMへ、興味深そうに耳を傾けているようだ。
「成程、これが日本のレクイエムなのかな。日本のってじわじわ這い寄ってくるような演出が楽しいね」
 故郷ではスプラッタ表現が多いからと彼は言って、店内に漂う『静』の恐怖をじっくりと味わっていた。無表情ながら、此方をじぃっと見つめているような日本人形にこけし――それと壁にかかる能面たち。
「わぁ、随分雰囲気のあるお店ですね。俺、お化け屋敷とか大好きだからわくわくします!」
 今にも動き出しそうな武者鎧を見た千鳥が爽やかに微笑み、お化け屋敷初体験のリリーはと言えば、何処で驚くべきなのかと皆の様子を慎重に窺っている様子。
(「……よしっ」)
 其処でちょっぴり悪戯心を出した紡は、水で冷やした手でリリーを触ってヒヤッとさせようとする。――が、これが恐怖体験であると気付くのが遅れたリリーは、ワンテンポ遅れてから『……あら、まぁ』と棒読みっぽいリアクションを返したのだった。
「うん、確かに人を選ぶかもしれないけど、僕はたまにはこういう所もいいと思うよ」
 スカートに埃がつかないように気を付けてエーゼットは進み、ちょっぴり恋人と来てみたかったかも――などと考える。
(「でも彼女、こういうの好きかなぁ……。僕は、廃墟っぽい雰囲気は好きなんだけど」)
 そんなこんなで悶々としつつも、折角だし楽しんでいこうとエーゼットは気合を入れた。やっぱりこんな形で後悔を利用するなんて、許せないと思ったから。
「あ、よければ複数で相席したいなぁなんて……いいかな?」
 と、そのエーゼットの申し出にドリームイーターは頷き、一行は大きめのテーブル席へと案内される。其処には幾つもの蝋燭が揺らめいており、皆でテーブルを囲めば百物語でも始まりそうだ。
「うわぁ、メニュー凝ってるぅ……!」
 早速席についた和は、古文書風のメニュー表を広げ――これとこれ、と個性的な名前の軽食を次々に注文していった。
「ヤタイのリョウリみたい、とのことですが……食べたことがなくて。これも、あれも……ええと。どれを頼みましょう?」
 名前だけを見ても、どんな料理なのか想像もつかないリリーは色々目移りして迷っていて。折角だし全メニューひとつずつ注文する? と紡は皆に目配せをし、面白そうだと笑う美衣子も片っ端からメニューを頼んでいった。
「後でお金払わなきゃいけないんでしょうけど、仕方ないわよね。泣く泣く払ってあげる!」
 そんな感じで覚悟完了した美衣子たちの元へ、早速喫茶の料理が運ばれてくる。最初は乙女の生き血――いわゆるトマトジュースだ。
「う、生き血は嫌だなあ……」
 恐る恐ると言った感じで紡がグラスに口をつけると、反対側では千鳥が大袈裟にびっくりして、続けて運ばれてきた悪魔のはらわた(ホルモン焼き)に魅入っていた。
「悪魔のはらわたかぁ……何だか呪われそう」
「あ、僕食べたことないから、気になるなぁ」
 不気味な名前に反して美味しそうな匂いを漂わせる料理を、ならばと紡はエーゼットに押し付ける。そうして一緒に熱々のお肉を口に運んだ和は、なるほどと言うように舌鼓を打った。
「はらわたがホルモン……確かにその通りだね」
「うん、なんだか俺まで悪魔やらお化けになった気分!」
 もぐもぐと食べる千鳥も楽しそうだったが――甘いものが苦手な彼は、続けてやって来たジュースをリリーに勧めてみる。
「これはどうですか? 魔女の秘薬~ヒキガエルの卵入り、だそうで」
 ――と、見慣れぬ景色、其処に飾られている沢山の人形たちをゆっくり見回していたリリーは、ふと我に返って目の前のグラスに視線を落とした。
「ヒキガエルの、タマゴ……? あ、タピオカです、ね」
 それはタピオカの粒々が混ざった、マンゴージュースのようだ。ひとくち飲めばマンゴーの甘さが一杯に広がって、リリーの相貌がふんわりと和らぐ。
「甘いものは他にないかなぁ。……って、これは」
 スイーツ系のメニューはないかとテーブルを見ていたエーゼットだが、妖蟲の琥珀と銘打ったお菓子を見つけてその笑みが不自然に歪んだ。
 ――それは飴の中に虫が入っている、随分前に流行ったような気がするお菓子で。何でもありの様相を呈してきた料理でも、皆は大袈裟に驚きながらも次々と食していった。
「地獄の大目玉……まさか本当にあるとは思わなかったけど」
 そして美衣子の前にでんと置かれたのは、ダチョウの卵を使ったと思しき巨大な目玉焼きだ。
「ありえないわ~! 何かここまで来たら自棄のようなものを感じるわ~!」
 思ったことを素直に口にしてしまう彼女だが、基本的に悪気は無く、喜んでいるのが伝わってくる。一方、ひんやり吸盤なる正体不明の料理を注文した恵は、氷漬けになったたこ焼きがやって来たのを見て――和に視線を送り、皿ごと押し付けていた。
「……斬新だね」
「……食うか?」
 ――ぐいぐい。
「恵くん、食べ物を、粗末にしてはいけないよ?」
「いや、親父の好きなもの奪えねぇぜ」
 そう言いながら互いに皿を行ったり来たりさせていたが、結局和が食べることにしたらしい。もぐもぐとひんやりしたたこ焼きを食べた後は、食後のデザート――毒蜘蛛の巣なるわたあめだ。
「ふふ、縁日みたいで楽しいな」
「ああ、出てくるものが解らねぇってのは、意外性があって楽しいぜ」
 和から差し出されたわたあめを、ひと摘みした恵は美味ぇじゃねぇかと言って微笑んで。賑やかな喫茶でのひと時を眺めていたルーチェは、深紅の瞳を和らげて吐息を零す。
(「凝ったメニューも雰囲気も、きっと作った方自身が楽しんでいるんだろうね」)
 彼も創作活動をする身だから、そういうのを感じると何だか嬉しくなる――やがて皆は出されたメニューを全て平らげ、千鳥が満足そうに大きく伸びをした。
「俺、B級グルメとかも好きだから満足~。DKの胃袋は無限大!」
「あ、千鳥くんは学生さんか。……っと、ごちそうさまでした。面白かったよ」
 そっとお代を置いた和は立ち上がり、やがて此方の様子を窺うドリームイーターを見つめて表情を一転させる。いつの間にかその手には、使い込まれたリボルバー銃が握られていた。
「だけど……後悔がなかったら人は進歩しないんだよ。……返して貰うよ」
 和の言葉を皮切りに、皆も其々に戦闘態勢を取る。そして残虐な本性を露わにしたドリームイーターへ、素早く斬り込んでいく恵が冷然と告げた――本当にこのひと時は、夏祭りには違いないと。
「楽しい時間だが、永遠に続かねぇ刻――夢の時間は終わりだ」

●後悔の霧は晴れて
「さーて、腹ごなしにひと暴れしちゃうぞー!」
 不敵な笑みを浮かべる千鳥は、大人しく倒されてくれと言うように、摩擦を利用して炎を生み出し――深紅の尾を引いてドリームイーターを蹴りつけた。
 そして死角から忍び寄るようにして恵が迫り、鋭い蹴りを叩きつけて敵の機動力を削ぐ。続く和は素早く銃の引き金を引いて、呪いをもたらそうとするその腕を砕こうと迫った。
「コンセプトは面白いと思うんだ。だけど……飲食店だよ? 雰囲気は大事だけど掃除はしないとだし、電気位点けた方がいい」
 ――もう君も、分かってるんだよね? その問いに答える事無く、偽りの店長は呪いをかけようと五寸釘を振り下ろす。しかし、お店を心から楽しんでくれた皆によって彼女の心は満たされ、本来の力を振るえずにいた。
「さて、あんたを倒せば事件解決ね?」
 盾となった和のビハインド――愛し君に庇われた美衣子は、すかさず紙兵をばらまき霊力によって仲間たちを守護していって。一方でボクスドラゴンのシンシアと前線に立つエーゼットは、勇敢なる者への標を高らかに歌い上げ、勇気を奮い立たせてその力を高めていく。
(「敵であるならば、僕は任務を果たすだけさ」)
 切れ味の増した刃をルーチェは華麗に操り、禍々しい刀身は獲物を残酷に切り刻んで――その身に付着した異常を更に増やしていった。力を封じられたドリームイーターは、尚も鏡で呪いをかけようとするが、それも的確に施術を行うリリーによって阻まれる。
「本当は怖がらせる方が好きだから、気持ちもわかるよ。だからほんと、運が悪いというかなんというか……」
 夢奪われた店長を思い、顔を曇らせるのは紡だった。何の力にもなれないけれど、せめてその想いがこのドリームイーターに奪われないように――そう願って放たれた降魔術は、嘆きの乙女の幻影を生み出して全てを奪う口づけを落とす。
 ――それが、終焉となった。後悔より生まれた存在は、まるでその念が晴れたように、はらはらと宙に溶けて消滅していった。

「こーゆー風に思いっきり、キャーキャーできるのも楽しかったよ、ありがと!」
 別れの言葉を紡が投げかけ、戦いで破壊された店内にエーゼットや恵がヒールをかけていく。もう閉店するにせよ、形は残したいと思ったからだ。そして目を覚ました店長を和が介抱し、未だ状況が上手く呑み込めていない彼女にそっと、千鳥が労いの言葉をかけた。
「俺、こうゆー遊び心ある店、結構好きですよ」
 けれどもうちょっと、戦略的思考を身に着けた方がいいかもと付け足しつつ、それでも夢を諦めないで欲しいと千鳥は励ます。
「客を楽しませる工夫は悪かねぇ。本物を追求し過ぎて快適にもてなす心意気を忘れてはいけねぇ」
 そして――続く恵のアドバイスに、店長は憑き物が落ちたようなさっぱりした表情で頷いていた。何だか新たな夢に向かって歩き出せそうと彼女は微笑み、負けてはいられないなと和も苦笑する。
「それにしても……身につまされるねぇ……。よぉし、帰ったら特訓でもするかな」
 ――そんな皆の様子を見守りながら、ルーチェは思う。失敗は成功への基礎工事みたいなモノなのだと。
「……後悔だけじゃ何も生み出さないから。元店長さんが改めて一歩を踏み出せるといいなぁ」

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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