夢に出てきたどうぶつさんは?

作者:狐路ユッカ

●可愛い可愛い
「うふふ、待って待って~」
 小学生のナナミは、お花畑の中を走っていた。視線の先には、猫の身体にロップイヤーの耳、背中に蝶の羽が生えた可愛らしい薄桃色の生き物である。ぴょんこぴょんこと跳ねながら、『うさねこちょうちょ』はナナミと追いかけっこする。
「つっかまーえた! よしよし♪」
 やっと追いついて抱きかかえると、その生き物はナナミの腕の中できゅんと鳴く。次の瞬間だ。むくむくとその生き物の身体が巨大化していくではないか。
「え? ええ!?」
 あっというまにナナミの身長を超えるサイズになった『うさねこちょうちょ』は、ナナミに向かって前足を振り上げた。
「い、いやああぁあっ!」

 汗でびしょぬれになって、ナナミは飛び起きる。
「……ゆ、夢か」
 ホッと胸を撫で下ろし、ナナミは呟いた。
「うさねこちょうちょちゃんが本当にいるわけないもんね……」
 その時、ナナミの後ろでくすくす、と笑い声が聞こえた。振り返る間もなく、ナナミの心臓を巨大な鍵が貫く。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 そこにいたのは第三の魔女・ケリュネイア。ドサリ、とベッドに倒れ込み再び悪夢へと誘われるナナミの横に、巨大な『うさねこちょうちょ』の姿のドリームイーターが現れた。

●驚きを奪う者
「子供の頃って、変な夢をよく見たような気がするんだよね。ありえない、夢だろって普通わかるはずなのに、びっくりして夜中に飛び起きちゃうような」
 秦・祈里(ウェアライダーのヘリオライダー・en0082)は困ったように笑うと、説明を続けた。
「夢なら、いいんだけどさ……。今回はそのびっくりする『夢』を見た子供の『驚き』を奪うドリームイーターが現れたんだ。『驚き』を奪うドリームイーターは既に姿を消しているけれど、その『驚き』を元にして生まれたドリームイーターが、事件を起こそうとしているんだ。そいつを倒せば、子供……ナナミちゃんも目を覚ますけど」
 サラサラっとスケッチブックに予知したドリームイーターの姿を描くと、祈里はそれを掲げて見せる。
「現れるドリームイーターは、ナナミちゃんが色鉛筆でスケッチブックに描いた架空の動物『うさねこちょうちょ』ちゃんが巨大化したものだよ。大きな足で踏み潰そうとしたり、噛みついてきたり、モザイクの鱗粉を振りまく危ない奴なんだ。場所は、函館市の市街地にあるナナミちゃんのおうちのすぐ近く。誰かを驚かせたくて仕方ない奴だから、向こうからやってきてくれるだろうね」
 ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)は一つ頷く。
「なるほど、誘き寄せるまでもないのですね」
「うん。あ、ついでに言うと、このドリームイーターは驚かなかったケルベロスを優先的に狙う性質があるみたいだよ。なにかに活かせるかな?」
 スケッチブックを机に置くと、祈里は頭を下げた。
「子供が見た無邪気な夢を奪うなんて、酷いよね。ナナミちゃんが無事に目を覚ますように、どうか事件を解決してほしい。頼んだよ」


参加者
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)
エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)
燈家・陽葉(光響凍て・e02459)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
エレオノーラ・ウィンダム(剥がれ落ちし翼の欠片・e03503)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
メリッサ・ルゥ(メルティウィッチ・e16691)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)

■リプレイ


 ケルベロスたちはヘリオライダーから聞いた住宅街へと降りると、あたりを見回した。木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)はドリームイーターが現れるのに先駆けて、自分のボクスドラゴンであるポヨンにスケッチブックを開いて一枚の絵を見せる。
「今日戦うのはこんな感じのやつだ。驚かないようにな」
 描かれていたのはちょっとリアルにしすぎたせいか化け物じみた容姿になってしまっている『うさねこちょうちょ』だ。ポヨンは驚いたように目を見開く。
「あ、いやちょっと違うかもだ」
「私も小さいころはこのような謎の生物を思い描いたものです」
 エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)はスケッチブックをのぞき込むとふわっと笑う。
「リアルに描いたら妖怪みたいになっちまったが、たぶんもっとファンシーなやつを想像するといい」
 納得したようにポヨンがうなずいたのを確認すると、ケイはどこからドリームイーターが現れるか周囲に注意を向ける。夜の住宅街、出歩いている人は見受けられないがジェミ・ニア(星喰・e23256)は念のためにとナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)へ声をかけた。
「お願いします」
「はい」
 短く言葉を交わすと、ナズナは殺界を形成する。エレオノーラ・ウィンダム(剥がれ落ちし翼の欠片・e03503)は、ナナミの家の周囲にキープアウトテープを張りめぐらせた。その時、ナナミの家から薄桃色のふわふわした何かが飛び出してくる。
『きゅう!』
 愛らしい声で鳴きながら、『うさねこちょうちょ』がケルベロスたちの前に立ちはだかったのだ。
「こいつは合成魔獣……キメラってやつじゃないか!? やばいぞ!」
 ケイが驚きの声を上げる。うさねこちょうちょは、巨大な猫の口をぐわっと開いて見せた。
「餌は人間なのかよ!」
「なにこのキメラ。なんでもくっつければいいっていうわけじゃないんだよ!」
 燈家・陽葉(光響凍て・e02459)は驚きに目を見開きながら、前衛へと躍り出る。
「……しかし思いの外大きいな、これは。このようなものも具体化するのか」
 冷静な声色ではあるが、瞳に驚きの色を浮かべてディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)はうさねこちょうちょの頭から垂れ下がる大きな長い耳を見つめた。
「なんだか見ためがものすごいキメラですが子供らしく夢があっていいですね!」
 全く驚いた様子を見せずにエイダは余裕の笑みを見せた。うさねこちょうちょは不満そうに彼女を睨んで唸り声をあげる。
「こんな動物さんがいるなんて! なんて大きい肉球なんでしょう! すごい鋭い歯ですよ! 翅もキラキラして凄いです!」
 土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)はもふもふしたい衝動を抑えながら、瞳をキラキラさせてうさねこちょうちょを見上げる。驚かすことができたと得意げなうさねこちょうちょに、メリッサ・ルゥ(メルティウィッチ・e16691)は近づいてわぁっと声を上げた。
「とっても大きいですの! こんな不思議な動物、見たことないですの!」
 口々に驚きを口にするケルベロスたち。その中に、全く驚かない者が二人。
「……子供って想像力豊かだよねえ、だけど生憎、私は驚いてあげられないなあ」
『きぃ……』
 うさねこちょうちょは歯ぎしりをすると、エレオノーラを振り返る。
「さ、こっちにおいで!」
 エレオノーラの声につられるようにして、ドリームーイーターは高く飛び上がるのだった。


 どかっ、と大きな音を立てて、ドリームイーターの巨大な足がエレオノーラを蹴飛ばす。豪快に後方へ飛んだエレオノーラは痛みに眉をひそめた。
「凍てつけ!」
 陽葉は凍てつく気を集中させた奏氷の薙刀でドリームイーターの追撃を阻む。
「小さい方だったらまだ可愛げがあったはずなのに……!」
 彼女の攻撃を受けてもなおもびくともしないのは、その巨大な体躯のせいもあるのだろうか。続けて、メリッサがエアシューズを走らせ、スターゲイザーを叩き込む。ドリームイーターのふわふわの背中に、流星の重力をはらんだ一撃が直撃した。
『みぎゃぁぁっ!』
 怯んだ隙を狙い、ディディエが簒奪者の鎌を振り下ろす。
「……さて、如何か」
 ざく、と前足に突き刺さる鎌の感覚に、ドリームイーターが悲鳴を上げる。もがきながら、毒々しい色の羽をばさばさとはためかせた。
「ふふーん! まだまだですねっ」
 その程度じゃ驚きませんよ、とエイダがディディエを庇うように滑り込む。鱗粉をまともに浴びたエイダは、小さくうめくとつぶやいた。
「ヘリオライダーさんのおっしゃる通り、かわいい顔してえげつない攻撃ですね」
 そして、急ぎ前衛の仲間にスターサンクチュアリを施す。その後方から、入れ替わるようにしてケイが現れた。その斬霊刀を勢いよく突き刺せば、雷の霊力が一気にドリームイーターに流れ込む。
「夢に出てくる分には構わないが、夢から出てきちゃいけないよな!」
『ぴぎぃいっ!』
 振り払うように、ドリームイーターがその前足を大きく振り上げる。ケイの前に躍り出たポヨンがその一撃を食らい、地に叩き付けられた。
「ポヨン……!」
 ジェミは、心の中ではもふもふだ。可愛い。なんて思っていたが、そうも思っていられない。キッとうさねこちょうちょを見据えると、ジェミは意を決してその日本刀を抜き放つ。
「君を倒さないとナナミさんが目を覚まさないし、どんな被害が出るともしれないから……ごめんね!」
 弧を描く切っ先で耳を切りつけると、ドリームイーターは痛みに悶えるようにして転げまわる。暴れながら飛び散らせる鱗粉を浴びて、エレオノーラが苦し気にせき込んだ。
「戦いの力を!」
 岳はトポを振りかざすと、エレオノーラヘとエレキブーストを施す。噛みつこうとドリームイーターが大口をあけたところへ、ナズナがクイックドロウを撃ち込む。その間に、フェンリルは前衛へと清浄の翼を施した。大きく震えた直後、ドリームイーターは大きく飛び上がる。
「……余り動いてくれるなよ。当て難くなる」
 ディディエは己めがけて振り下ろされようとする前足にひるむことなく、静かに、低く言葉を紡ぐ。
「……現し世へと至れ、是れ偉大なる妖精の女王。汝の恩寵を、此処へ」
 天妖女公の音の一つ一つが持つ力がドリームイーターを苛む。陽葉の奏氷の薙刀が稲妻を帯びるのが分かった。続くようにして、その稲妻の一撃をドリームイーターの胴にねじ込む。
『ぴぎぃあぁぁっ!』
 どたどたと足を鳴らしながら、ドリームイーターは口を大きく開けて陽葉へと噛みつこうとした。
「!!」
 その口に飛び込むようにして、フェンリルが庇いに入る。鋭い牙にかかり、フェンリルはそのまま消えてしまった。


 ぼたり、ぼたりと口からモザイクの唾液を垂らしながら、かわいかったはずの『うさねこちょうちょ』は低くおぞましいうなり声をあげる。
「念仏を唱えな。それとも、辞世の句でも詠んでみるかい?」
 ケイが桜吹雪とともに放つ一閃が、鋭くドリームイーターを切り裂く。
(「純粋な子供の夢を狙うだなんて許せませんの!」)
 メリッサは気を集中させると、ターコイズブルーの翅を持つ幻想蝶を舞わせる。光をまといながら、ふわりふわりとドリームイーターへと近づくさまを見ながらメリッサはにっこりと笑った。
「えへ、この子とお友達になってくれますか?」
 痛みに跳ね回りながら、ドリームイーターは吠える。もふもふに触れてみたい、と思っていたエイダも、いよいよそれは叶わないと小さくため息をついた。そして、指先をおもむろに唇へと運ぶ。
「身も心も熱くなるような接吻をアナタに……♪」
 魔力を込めた虞美人草の口づけがドリームイーターの体力をじわりと奪う。どたどたと暴れながらドリームイーターはエレオノーラへと牙をむいた。
「ぐっ……! やらせるもんかっ!」
 腕に食い込む牙に歯を食いしばりながら、エレオノーラは時空凍結弾を放つ。その軌道はドリームイーターの羽を掠めた。
「エレオノーラさん!」
 ナズナのステルスリーフが、エレオノーラを包み込んだ。ジェミは無言で日本刀でドリームイーターを切りつける。
(「終わらせる……!」)
 ぴくぴくと震えながらなおも大きな目を見開き、何かを探すように首を巡らすドリームイーターへと歩み寄り、岳は静かに告げる。
「いくら他者を驚かせてても決して満たされることはありませんよ。貴方の心から生まれた自然な感情ではないのですから」
 だんっ、と地を勢いよくこぶしで殴りつけ、岳は光の衝撃波を生み出す。
「……そう生まれ落ちさせられた貴方には止める術はないのでしょうけれど」
 大地を叩き割りながら襲い掛かる衝撃波になすすべもなく、ドリームイーターは消えゆくのだった。


「哺乳類同士はわかるとして、昆虫と混ぜるとは思わなかった。……これが幼児の発想力!」
 ジェミは呟きながら、戦いで荒れてしまった周囲にヒールをかける。うんうんとうなずきながら、メリッサも彼に続いた。
「それにしてもうさねこちょうちょとは、ナナミちゃんの将来性を感じます」
「あの子が夢見た可愛いどうぶつさんのままなら歓迎したかったがな」
 ケイは苦笑いを浮かべると、皆のヒールが終わったのを確認してくるりと踵を返す。刀剣士として、函館の地に思い入れがあるのだ。寄りたいところがある、と告げ、ねぎらいの言葉を交わしあうと彼は去っていった。
 ディディエが、ふと口を開く。
「……ナナミの、様子を確認して行きたいのだが」
 メリッサが大きく頷いた。
「そうですの、無事に目覚めたか確かめたいですの!」
 岳は、ナナミの家の呼び鈴を鳴らす前に『うさねこちょうちょ』がいたその場所へ手を合わせる。
「大地のゆりかごでどうか安らかに。また夢でナナミちゃんと会えますよ……きっと」
 どこかで、『きゅう』と何かが鳴いたような、気がした。

 事情を話し、ナナミの部屋へ入ると丁度彼女が起き上がったところだった。眠そうに目をこすり、少しおびえたような顔でこちらを見る。
「……気づいたか」
 ディディエの気だるげな声は、ナナミを怖がらせることなく静かに部屋に響く。こくんと小さくうなずいたナナミを確認すると、一同は安堵のため息を漏らした。
「こわいゆめを、見た気がするの」
 俯くナナミに、ジェミは優しく笑いかける。
「大丈夫? 怖いやつはもうやっつけたから」
 うん、とナナミはうなずくも、不安げに自分が『うさねこちょうちょ』を描いたスケッチブックを見つめた。
「ナナミさん……」
 そっと、スケッチブックを拾い上げ、ナズナはナナミに渡す。もし、自分が描いた絵のせいで怖い夢を見てしまったのだったら? それで、『何か恐ろしいもの』がほかの人を襲わせてしまったら? そう、ナナミが感じてしまったら……。その不安を取り払ったのは、ジェミだった。
「絵が上手なんだね」
 スケッチブックをのぞき込み、心からの賛辞を伝える。彼女の描いた『うさねこちょうちょ』は、かわいらしかった。そっと、ジェミはその手を伸ばして、ナナミの頭を優しく撫でる。
「これからも素敵な絵をいっぱい描いてね」
「……! うん!」
 嬉しそうに、大きくうなずく。そして、ナナミはスケッチブックをぎゅっと抱きしめた。
「よかったぁ……」
 エイダは、目を細める。そして、思いついた、とばかりに尋ねた。
「あ、ところでナナミさんには格好良くて優しいお兄さんとかいませんかね?? 親戚のお兄さんでも可ですよ」
「エイダ」
 ディディエの静かにいさめる声が響く。誰からともなく、小さく笑いが起こった。
「小さい子が怖い思いをしない、平和な世界にしなくちゃね」
 エレオノーラの言葉に、一同がうなずく。
 無邪気な夢を、驚きを、二度と壊されることがないように。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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