星の海に泳ぐ

作者:犬塚ひなこ

●イルカの夢
 其処は蒼と漆黒と水の世界。
 穏やかな水面に星が映り、煌めきが反射して更なる輝きになった。
 囁く星の聲に耳を澄ましせながら水鏡の光に手を伸ばす。ぱしゃりと水飛沫があがった方を見ると星を纏ったイルカが愛らしい声で鳴いた。
「イルカさん、こんばんは。あなたも星を眺めに来たの?」
 海辺に足を浸していた少女が挨拶をすると、イルカもきゅいきゅいと鳴いて答える。その様子があまりにも可愛く感じた少女はおいでおいで、と手招きをした。
 だが、徐々に近付く影は見る間に形を変えていく。
「え? 何……そんな……っ!?」
 イルカだと思っていた物は鋭い牙を持ったサメに変化し、少女を襲おうと迫った。必死に逃げようとするが、足元が泥に絡みつかれているように重くなって動くことが出来ない。そうしている間にも牙は間近まで近付き――。

「きゃああああっ! ……あれ? 夢だったの?」
 ベッドから飛び起きた少女は今しがた見た光景が夢だと気付き、ほっと胸を撫で下ろす。だが、安堵に目を瞑っていた彼女は気付けなかった。目の前に魔女ケリュネイアが振るう魔鍵が迫っていることに。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 胸に突き刺した鍵で夢を覗いた魔女は小さく呟いて去って行く。
 後に残された少女は深い眠りに落ち、その代わりとして新たなドリームイーターが生まれた。その姿はきらきらと光る星を周囲に纏うイルカのように見える。
 しかしそれは見せかけに過ぎない。偽イルカは一度口を開けば一瞬で凶暴なサメの姿に変わって標的を襲うのだ。
 そして、星のサメイルカは驚かせる相手を探す為に部屋を飛び出してゆく。
 
●星を纏う牙
「許せないわ。イルカはあんなのに可愛いのに」
 アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)は掌を握り締め、ドリームイーターが起こす事件に憤りめいた感情を抱いていた。
 そうして、仲間達が集ったことに気付いたアリシスフェイルはこほんと咳払いをする。
「皆も『驚き』が奪われる事件は知ってるでしょ? ある女の子が夢に見たイルカ……ううん、サメが元になったドリームイーターが現れたの」
 ヘリオライダーが予知した情報を語った彼女は皆に協力して欲しいと願った。
 事件解決に動くことに異論はないと判断したアリシスフェイルは薄灰の髪をさらりとかきあげ、敵や周辺の情報を語っていく。
 敵はサメイルカ型ドリームイーターが一体。
 少女の部屋から飛び出した敵は、誰かを驚かせようと狙いながら近隣の浜辺をふわふわと浮かびながら飛び回っているらしい。
「夜だから砂浜には誰も居ないみたいよー。それに敵は誰かを驚かせたくて仕方ないようだから、特に誘き寄せらしい行動もしなくて大丈夫」
 敵が目の前に現れたならば後は全力で戦って倒せばいい。
 相手はそれなりの力を持っているが、皆で協力しあい、連携や互いの補助を心掛ければ勝てない相手ではないはずだ。
 また、ドリームイーターは自分の驚かせが通じなかった相手を優先的に狙ってくる。このサメイルカは最初は愛らしいイルカの姿をしているが、急にサメに変化することで驚かせようとして来る。出会い頭に驚かなかった相手を狙う敵の性質を利用できれば有利に戦えると話し、アリシスフェイルは説明は以上だと告げた。
「怖い夢だとしても夢はただの夢よ。無邪気な夢を奪って怪物に変える事件なんて放っておけないもの。皆、偽イルカは絶対に倒すわよ!」
 アリシスフェイルは小さく微笑んで想いを言葉にする。
 勝気な気質が窺えるその蜂蜜色の眸は、勝利という揺るがぬ未来を見据えていた。


参加者
リリア・カサブランカ(春告げのカンパネラ・e00241)
メルキューレ・ライルファーレン(青百合レクイエム・e00377)
灰木・殯(釁りの花・e00496)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)
一羽・歌彼方(槍つかいの歌うたい・e24556)

■リプレイ

●イルカと星
 夜の海辺に響くのは静かな波の音。
 群青から漆黒に染まる天涯を振り仰げば、星々のちいさな輝きが見える。
 こんなに綺麗な夜にイルカと一緒に星が映る海を泳げたら素敵なのに。そう考えながら、溜息を吐いたアリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)はこれから起こる出来事を想像する。
 この砂浜に居れば、イルカの姿をした鮫が驚かせに現れるという。
「いいわよ、驚かされにいってあげようじゃない!」
 夢喰いへの複雑な思いを噛み締めたアリシスフェイルは掌を握った。仲間達と共に浜辺を歩きながら、メルキューレ・ライルファーレン(青百合レクイエム・e00377)もランプを片手に辺りを見渡す。
「海と星空と、空を舞うイルカ。……絵にはなるのですけれど」
「驚かない子を襲ってくるって、変なドリームイーターなのです」
 ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)はウイングキャットのヴィー・エフトと首を傾げ、小波の行方を目で追ってゆく。
 そのとき、ケルベロス達の背後に怪しい影が現れた。気配を感じて立ち止まった灰縞・沙慈(小さな光・e24024)は胸をどきどきさせて、そっと振り返る。
「イルカさん……?」
「イルカが来たの?」
 アリシスフェイルも振り向き、思わず瞳を輝かせる。
 しかし――予知されていた通り、星を纏う幻想的なイルカの影は一気に変化して牙を剥いた鮫の姿に変わった。
「あわわー、どーん、って来た……!」
「きゃあっ! な、なんで。イルカじゃないの!?」
 沙慈がぴょんと飛び上がり、リリア・カサブランカ(春告げのカンパネラ・e00241)が思わず少女に抱き着いて驚きを示す。
 リリア達がぎゅっと抱きしめあう中、一羽・歌彼方(槍つかいの歌うたい・e24556)も口元に手を当てて、きゃっと叫びながら後退った。更にメルキューレが驚いて逃げる素振りを見せながら距離を取り、愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)も警戒して身構える。
 だが、ヒマラヤンは驚かない。例えドリームイーターがイルカ型から鮫型になっても、寧ろ魚類だと見做してごはん的な意味で嬉しいからだ。
 同じく灰木・殯(釁りの花・e00496)も驚かぬよう冷静に務め、敵を見据える。
 夢喰い鮫は全員が驚くかと思っていたらしく、動じない者を睨みつけて牙を更に見せ付けるように近付いてきた。
 瑠璃は敵の狙いが防護役の二人に向いたと察し、鋭い眼差しを向け返す。
「ロッカー、パンクス……も、勿論アイドルも……ミュージシャンは人に驚いて欲しくて曲を作ってんのよ。それを奪うなんて絶対許せない行為なんだから!」
 返してもらうわよ、と告げた瑠璃に続き、歌彼方も思いを言葉に変えた。
「折角綺麗な星空だっていうのに、ちょいと無粋な怪物さんですね、と。さて、それじゃ……いっちょう、悪夢退治と洒落込みますか!」
 仲間の意気込みを耳にした殯は深く頷き、目の前の夢喰いを瞳に映す。考え方を変えれば、驚きを得ようと泳ぎ回る姿こそ愛らしく感じられた。
「貴方が夢喰いでなければ微笑ましいで済むのですがね」
 だが、相手は滅すべき存在。思う所はあれど、まずは夢返しの施術と参りましょうと口にした殯の双眸が鋭く細められた。
 ――あるべき場所に、驚きを還すために。星空の下、海辺の戦いは巡り始める。

●襲い来る牙
 夢喰い鮫が口を大きくあけ、此方に狙いを定めて突進する。
 来るわ、と皆に呼び掛けたアリシスフェイルは敵の姿がちっとも愛らしくないことに憤りめいた感情を覚えていた。
 その標的が自分達に定められていることを確かめたヒマラヤンは身構えたまま、体当たりを真正面から受け止める。細身の体が勢いに弾き飛ばされそうになるが、堪えたヒマラヤンは地面に魔鎖で守護の陣を描いていく。
 ヴィー・エフトが清浄なる翼を広げる最中、ヒマラヤンは敵を見つめた。
「イルカは哺乳類ですが、鮫は魚類なのです。つまりお魚なのです。お魚になったと言う事は、食べても問題ないのですよね……?」
 まるで獲物を狩るような目で鮫を見ている彼女の目は不穏だ。しかし、デウスエクスは基本的に食べられない。
 問題あるわよ、と首を横に振った瑠璃はウイングキャットのプロデューサーさんに呼び掛け、バスターライフルを敵に差し向けた。
「鮫とイルカって似てるけどよく考えると魚と哺乳類で全く違うものね……。性質も全く違うからそれが変身するってけっこーな悪夢よねえ」
 相棒猫と共に攻勢に移った瑠璃は鋭いエネルギー弾を素早く撃ってゆく。歌彼方も具現化した悪夢の形を見据え、自らの力を解き放った。
「悪夢を、現実の惨劇なんかにはさせない為に――いきます、全身全霊で!」
 立ち止まらず戦い続ける者達の歌を奏でた歌彼方。其処に続いたメルキューレがブラックスライムによる一閃を重ねていく。
「空を泳ぐイルカなんて、夢のある話ですね」
 だが、人に害をなすならそれは夢ではなく厄災。大蛇を模した黒液が敵を捕食しようと迫るが、その一撃は鮫の牙によって打ち破られてしまった。
 手強いと感じたメルキューレは怯むことなく次の一手に移ろうと動く。
 リリアは宙を泳ぐ敵の動きを目で追いつつ、小さな溜息を零す。
「あーあ。綺麗な海が目の前にあるのに……依頼だから仕方ないけど……」
 可愛いイルカだと思ったら怖い鮫だったなんて。驚くのも当たり前だと肩を落としたリリアは、手にした槍で稲妻めいた突きを放っていった。
 その背を支えるようにして沙慈がウイングキャットのトパーズと一緒に援護に回る。魔力が籠った折り鶴を手にした少女は息を吐き、それをリリアに向けて飛ばす。
「――少しでもリリアさんたちの力になりますように」
 願いを込め、沙慈が解き放った加護に合わせて翼猫も守護の力を広げた。トパーズもも何だか共闘できることが嬉しそうだと感じ、沙慈はやる気を漲らせる。
 後方からの支援は充分に巡っていた。殯は未だ癒しは不要と判断し、敵の生命力を喰らう地獄の炎弾を放つ。
「ロマンチックと謳うには些か物騒な怪物でしょう」
 牙を見せ付けるように泳ぐ夢喰いへの感想を零した殯は、すぐに次なる攻撃が来ることを察した。狙われているのはメルキューレだと悟った殯は自分が庇うと告げ、その前方に立ち塞がる。
 牙を受け止めた彼の勇姿に視線で賞賛を送り、アリシスフェイルは力を紡いだ。
「追いかけられる夢だって驚くような夢だってあるけれど、意図的に見せられて嬉しいものでもないのよ。ましてや奪われるためだなんて」
 冗談も大概にして欲しい、とドリームイーターへの思いを力に乗せたアリシスフェイルは青と灰の光が絡み合う棘の槍を解き放つ。
 それが夢喰いに痺れを与えていく様に好機を覚え、補助の力を巡らせていたヒマラヤンは攻撃に移った。
「コード・トーラス! これで殴られたら痛いですよ!」
 纏ったオーラをガントレットに変え、ヒマラヤンは敵を殴り倒す勢いの一撃を解放する。大きな衝撃が与えられ、リリアは敵が次に癒しを行うだろうと読む。
「簡単に回復はさせないのよ」
 解き放った殺神ウイルスで癒しの力を間接的に封じたリリアは視線を送った。
 今の内に、という合図を受けた沙慈は爆破スイッチを押すことで色鮮やかな爆風を巻き起こしていく。
「こっちも、負けていられないから……!」
 仲間を鼓舞する煙が戦場を覆う最中、沙慈は皆を支える決意を抱いた。
 援護に感謝を伝えた瑠璃は銃口を再び敵に向ける。プロデューサーさんが煙を引き裂くようにして爪を振るった瞬間に合わせ、瑠璃は凍結光線を発射した。
「可愛い物や、無害なものに化けて油断を誘って本性を表すって神話とか物語にもよくあるやつだけど、人の弱みに付け込むのって卑怯ですきになれないわね!」
 敵の火力を削ぎながら体力をも削る。それが自分の役目だと理解している瑠璃は決して手を緩めなかった。
 メルキューレも敵の動きを少しでも鈍らせる為、稲妻の突きで以て攻め込む。
「見た目が可愛かった分、残念ですね」
 愛らしかったイルカも今やただの凶暴な鮫でしかない。メルキューレの放った突きは鮫の鰭を縫い止め、更なる痺れを与えた。
 されど敵とて黙ってはいない。自らを癒しつつ攻勢に移り、ヒマラヤンや殯を執拗に狙って来ていた。
 痛みを堪えた殯は自らに魔術切開を施して耐える。
「わざわざ夢を起こすなど無粋極まる。それが彼らの生業だとしても、です」
 殯が思いを言葉にする中で歌彼方は力ある文字の発動を急いだ。敵の力は強く、このままでは誰かが倒れてしまう。
 その前に、と拳を握った歌彼方はひといきに敵との距離を詰める。
「折れよ槍剣、砕けよ爪牙。我等に仇なす刃に罅を――」
 歌彼方は小さく笑み、此処からは自分達のペースだと感じ取った。そして、夢喰い鮫の牙が殴りつけられる。
 その瞬間、片方の牙が鈍い音を立てて砕け散った。

●さよなら悪夢
 牙が折れても尚、夢喰い鮫は敵意を緩めずにいる。
 残った方の牙で此方を噛み砕かんとして迫る様は容赦がなかったが、ケルベロス達とて気圧されずに戦い続けていた。
 殯が防護を続け、メルキューレと瑠璃は攻撃と阻害を担う。
 ヴィー・エフトにプロデューサーさん、そしてトパーズ。三匹の翼猫達も其々の役割を果たそうと動き、果敢に立ち回っていた。その姿に沙慈が微笑みを浮かべ、アリシスフェイルも元気を貰えるような気持ちを感じる。
 そしてアリシスフェイルは砂を蹴って跳躍し、一気に攻め込んでゆく。
「これとこれは驚かせられた彼女の分と無邪気な夢に横やりを入れた分!」
 鮫も悪くはないがイルカが良かった、と八つ当たり気味に放った流星の蹴りが連続で敵を貫いていった。更に其処へヒマラヤンが放った幻影竜の炎が迸り、ドリームイーターの身を焼き焦がす。
 リリアは今が好機だと感じ、沙慈に微笑みを向けた。
「わたしたちの力を魅せてあげましょう」
「皆が頑張って戦ってくれてるんだ。トパーズと一緒に頑張って、支える、よ!」
 沙慈はこくりと頷き、今一度の援護に回る。最後まで癒しに徹することが皆の助けになると信じた沙慈の折った鶴が夜空に舞い飛び、リリアも狙いを定めた。
「罪には裁きを、そして赦しを願いなさい」
 詠唱と共に放たれた光の矢は真っ直ぐに飛翔し、鮫の身体に刺さった瞬間に爆発を起こす。かなりの衝撃が敵を襲ったがその傷は癒されようとしていた。
 歌彼方は敵のヒールが巡った様を見据え、首を振る。幾ら回復されようとも此方だって負ける気はなかった。
「もう一度、何度でも、叩き込めばいいだけでしょう!」
 凛と言い放った言葉はまさに戦乙女と呼ぶに相応しく、歌彼方は旋刃の蹴りを敵へと見舞う。刹那、烈しい電光石火の衝撃が鮫の身を斬り裂いて迸った。
 メルキューレは終わりが近付いていることを察して召喚術の詠唱を紡ぐ。
 其は風で舞う、混じりなき唯一の白。雪は穢れし無垢な花。氷は時の流れを拒絶する棺。嘆け、呪え、絶望しろ。全てを死で埋め尽くすまで。
「最初の姿のまま、氷像にしてしまっていたほうが愛でられるでしょうか?」
 零した言葉が叶えらえることはないが、喚び出された氷の精霊は対象を柩に閉じ込めるようにして冷たい衝撃を与えた。
 最早、夢喰い鮫は反撃すら出来ずに回復を繰り返すだけ。
 その癒しすら効かぬようになっている姿は何故か哀れで、殯は首を振る。より驚きを欲しているのかもしれないがタネの割れた手ほど鮮度は落ちるもの。
「大人しく、星の海に還ると良いでしょう」
 刹那の邂逅に彩りを、と告げた殯は己の生命力で編んだ幻想の桜枝を突き放つ。枝が敵の生命力を吸い、紅き桜吹雪として霧散していく。
 瑠璃はその美しさに双眸を細めながら一気に攻め込むべきだと判断した。
「鮫だってでっかくても所詮は魚よ! 猫が天敵のはずだからプロデューサーさん、やっちゃいなさい!」
 呼び掛けと同時に振り上げた魔斧は光り輝く呪力を纏い、一瞬で下ろされる。翼猫の尻尾輪が舞い飛び、敵の傷を更にひらいた。
 其処へリリアが鋼拳を振るい、ヒマラヤンが戦籠手で殴りつける。痛みに震える夢喰い鮫を見つめたアリシスフェイルは再び柩の青痕を発動させた。
「終わらせてあげる。最後のこれは……私をがっかりさせた分よぉぉぉ!」
 凍えるような怨念を孕む微睡みが宙を泳ぐ夢喰いを縫い止め、その力を奪い取る。地に落ちた鮫が戦う力を失ったと悟ったヒマラヤンは目を輝かせる。
 だが――。
「え、やっと食べられると思ったのに何で消えちゃうのですか、ちょとまってさきっちょだけでも……そんなー」
 伸ばした手も虚しく、悪夢の欠片は跡形もなく消え去った。

●海と星の彼方
 ドリームイーターの消滅と共に波が砂浜を浚う。
 戦いが終わったことに安堵を覚えた歌彼方は弾けた波飛沫を指先で払い、振り返りながら仲間に問いかけた。
「皆さん大丈夫ですか?」
 その先にはメルキューレと瑠璃が居り、皆が無事であることを確認している。
「ええ、平気です」
「これで一件落着ってところね」
 勝利を喜びあう仲間達の中、ヒマラヤンは何処となくしょんぼりしている様子。せっかくの大きな魚が、と残念がる少女だったが、元々食べられないものは仕方がないと瑠璃達が慰めてやった。
 危機が去った夜の海は穏やかで、リリアは星が揺らめく波間を眺める。
 沙慈を誘い、波打ち際をゆるりと歩けば水飛沫がきらきらと月明かりを反射して光っている光景が見えた。沙慈が水の冷たさにはしゃぐ中、ふとリリアは貝殻や珊瑚の欠片が落ちていることに気付く。
「見て。この形、イルカにそっくり!」
「わー、ホントだ! キラキラだー。皆にも見せてあげたいねー」
 手に取った欠片を沙慈に差し出したリリアは淡く微笑んだ。
「そうね、持って帰ってみんなに見せてあげましょう」
 良いお土産が出来たと笑みを交わしあい、二人は海辺の夜を楽しんでいく。
 やさしい笑顔の花が咲く様を見守っていた殯の口許も微かに緩んだ。辺りに満ちていくのは不思議と心地好い静寂。波の音すら空気に融け込むように思えた。
「星空の浜辺とは、中々贅沢な報酬ではありませんか」
 満点の煌めきに感じうる驚きというのも悪くないかもしれない、と感じた殯は夜空を見上げる。そうして仲間に倣ったアリシスフェイルも星空を仰いだ。
「……私もイルカと泳ぐ夢が見たいわ」
 もちろん鮫なんかにならない素敵な夢が良い。どうやったら想ったままの夢を迎えられるのかを考え、アリシスフェイルは砂浜にちいさな足跡を残してゆく。
 流星に乗ってイルカと共に星の海に泳ぐ。
 いつか、望む夢と出逢えることを願った少女の瞳は煌めく星を映していた。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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