「うっわー……気持ち悪ぃ……」
1人の青年がキャンプ場にある水道で顔を洗っていた。
「ったく、夜だから暗くて分かんねぇよぉ……何であんなとこに蜘蛛の巣張ってんだよぉ……しかも虫がビッチリ捕まってるようなさぁ……」
顔を上げて手で水気を払っていた青年は、その光景を思い出して身震いすると、水気を切ったばかりの顔を再び洗い出す。
「!?」
背後から突如衝撃を感じた青年は、そのまま崩れ落ちた。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
崩れ落ちた青年から鍵を引き抜いた少女が笑う。
少女の横には虫がビッチリついた蜘蛛の巣のようなものがふわふわと浮いていた。
「夏になると、羽虫がたくさん張り付いている蜘蛛の巣というのを見かけるようになりますが……見て心地良いものでもありませんし、触るのも遠慮したいですよね……」
祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が若干眉に皺を寄せて話し始める。
蜘蛛は害虫をとってくれる人間の味方のような存在ではあるが、その害虫をとるための巣に困らされている人もいるのではないだろうか、と。
「人間の持つ『嫌悪』という感情……それを奪って現実化し、事件を起こそうとしているドリームイーターがいるようなのです」
『嫌悪』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているが、新たに作り出されたドリームイーターを撃破して欲しいと続けた。
「このドリームイーターを倒せば、『嫌悪』を奪われた青年も目を覚ますでしょう」
時刻は21時すぎ。バーベキューをやったり、花火をやったりしてキャンプを楽しんでいる人々がちらほらいる。
「避難誘導が必要になるねぇ……」
ファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)が小さく呟いた。
「はい。人々のドリームエナジーを奪おうとしますし、一般人を危険に巻き込むわけにも参りませんからね……」
ファランの呟きに蒼梧が穏やかに微笑む。
「ドリームイーターの姿ですが、大きなモザイクでできた蜘蛛の巣に、びっしり羽虫が敷き詰められていまして――」
モザイクでできた糸を使って動きを封じてきたり、催眠状態にする上に、羽虫を大量に向かわせて武器封じをしてくるのだそうだ。
「蜘蛛も巣を張って獲物を捕獲するのは生きる為の術であって、悪い事ではないのですが……キャンプを楽しんでいる方々を襲おうという悪い蜘蛛の巣はしっかり駆除してきて下さい」
参加者 | |
---|---|
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722) |
九折瀬・朽葉(螺子け人・e04306) |
樒・レン(夜鳴鶯・e05621) |
エフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092) |
ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080) |
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977) |
アイシャ・スノウホワイト(ウェアライダーのウィッチドクター・e29594) |
青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474) |
●まずは一般人の避難を!
バーベキューの美味しそうな匂いと、花火の火薬の匂い。楽しそうな人々の笑い声が聞こえる。
「憎悪を現実化か……そういう事も可能とは」
「そうか、ドリームイーターは人の良い夢だけでなく嫌悪なんかの感情も奪うんだな……」
エフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092)が小さく呟くと、その声が聞こえた叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)も難しいような、納得するような顔を浮べた。
「お楽しみのところ、ごめんなさいね」
花火を楽しむ人々に、ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)の穏やかな声がかけられる。
「ちょっといいかい?」
九折瀬・朽葉(螺子け人・e04306)は、バーベキューを楽しむ人々に親しげに声をかけた。
2人はそれぞれ隣人力を使って、警戒されないようにしながらケルベロスである事を名乗ってから避難してもらうように頼む。――つもりだった。
「キャー!」
バーベキューを楽しんでいた1人の女性が何かを見つけて悲鳴を上げる。
誰もがその視線の先を見ると、モザイクでできた大きな蜘蛛の巣――ドリームイーターがふよふよと浮いていた。
「こちらだ」
避難が終わるまで時間を稼ぐ為にと、すかさずエフイーが飛び上がりスターゲイザーを放つ。
『!』
しかし、ドリームイーターはひらひらと舞うようにかわし、モザイクの糸をエフイー目掛けて伸ばした。その糸はエフイーの目の前で上下左右ふわふわと踊り、思考力を奪う。不意打ちのようなドリームイーターの攻撃はエフイーに予想以上のダメージを与えた。
「くっ……今のうちだ」
攻撃が避けられ、カウンターを受けてしまった事に苦々しい表情を浮べたエフイーが、避難誘導をする仲間達に声をかける。
「やれやれ……確かにこれは嫌いな奴には耐えられんだろうな」
びっしり羽虫が敷き詰められた蜘蛛の巣ドリームイーターに眉を顰めたアスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)が、さっと紙兵をばら撒いて前衛の仲間達を守護させた。
「ディア、足止めお願いね。皆さん落ち着いて! 慌てずこちらへ!」
心電図モニターのような姿のテレビウム、ディアに声をかけたノルンは人々の避難誘導を開始する。頷いたディアは手にした凶器で殴りかかった。しかし、風に踊るようにドリームイーターは避けてしまう。
「たしかにちょっと見た目はアレですが……気持ち悪いとか言ってる場合じゃないですよねっ! しっかりして下さい!」
アイシャ・スノウホワイト(ウェアライダーのウィッチドクター・e29594)が、何度も頭を振って思考をはっきりさせようとしているエフイーに気力溜めを放った。
「ありがたい」
「頑張りましょう!」
はっきりした思考に、礼を述べたエフイーに、アイシャは明るく笑いかける。
「足止めさせてもらうよ!」
朽葉が熾炎業炎砲を放った。しかし、まるで炎弾の勢いに揺れるようにふわりと攻撃を避けてしまうドリームイーター。
「キモいものはキモいですからねー。密集系は特に怖いっていうかー……。とりあえず慣れが必要なので心の準備をする時間を……ってもう始まってます!?」
ドリームイーターの姿に眉を顰めてぶつぶつと呟いていた青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474)は、メタリックバーストで前衛の仲間達の感覚を研ぎ澄ませた。更に杏奈のサーヴァントであるテレビウムのレビくんが、応援動画でエフイーの治りきっていない傷を癒す。
「すまん……避難誘導は大丈夫だろうか」
レビくんに礼を言ったエフイーが避難誘導をしている仲間達をちらりと見た。
●ドリームイーターを足止めしているうちに
「こっちへ避難してくれ! 急がなくてもいいから、気を付けてな」
宗嗣が隣人力で好印象を持たせて、すみやかに誘導に従ってもらえるように声を張り上げる。
「きゃ!」
慌てて走り出した女性が、足元を見ていなかったせいで少し大きめの石に躓いて転倒してしまった。
「大丈夫? 暗いから走るのは危険よ。慌てなくても私達が絶対守るから」
転んでしまった女性に駆け寄ったノルンが、優しく微笑んで彼女を立ち上がらせる。
「あ、ありがとう!」
女性は転んでしまった事を少し恥ずかしそうにしながら、ノルンに照れ笑いを浮べて早足で皆が避難している方向へと向かった。
「落ち着いて! 走らなくて大丈夫だから!」
転倒してしまった女性と助けるノルンが目に入ったファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)は、走らないように注意の声を上げる。
「この忍務、必ず成功させよう」
ドリームイーターと足止めをする仲間達を背に、流れ弾が飛んで来ないか注意を向ける樒・レン(夜鳴鶯・e05621)が静かに決意を固めた。
殆どの人々が仲間達の誘導に従ってドリームイーターのいる場所から離れてくれた事を確認すると、殺界形成を発動する。逃げる人々の背を押すように広がる殺気。万が一混乱して戻ってきてしまわないように。
「粗方終わったわね。なんだか少し苦戦してるみたいだし、急いで合流しましょう!」
ノルンが避難誘導に当たっていた仲間達に呼びかけ、皆で急いでドリームイーターの下へ向かった。
●反撃開始!
想像以上に攻撃を当てる事ができないケルベロス達は、どうにか連携を取ろうとそれぞれが無言で仲間達の顔を確認しながらアイコンタクトをする。
『!!』
ケルベロス達が何か企んでいるのではないかと警戒したドリームイーターは、張り付いている羽虫を糸から解き放って朽葉に向かわせた。
「虫なら慣れてるしドンと来い!」
バッと両腕を顔の前で交差させて、まるで細かい弾丸のように撃ちつけてくる羽虫達を全て腕で受け止める。
「これならどうだ」
「そこだ」
ドリームイーターの注意が朽葉に向いている隙に、エフイーが破鎧衝を放った。更にアスカロンの雷刃突が蜘蛛の巣の右端に大きな穴を穿つ。
「これ以上誰の夢も奪わせない……!」
「夜鳴鶯、只今推参」
宗嗣がブレイズクラッシュを叩き込むと、レンから氷の手裏剣が放たれた。
『!?』
右側から宗嗣の炎、左側からレンの氷をほぼ同時に受け、ドリームイーターの体がゆらゆらと何処か苦しそうに揺らめく。
「しっかり害虫退治しないとね!」
ドリームイーターの背後から、回り込んでいたノルンの声と共に強烈な飛び蹴りを受けて前方に飛ばされた。そこへ待ち構えていたディアがテレビフラッシュを浴びせる。
「反撃開始ですね!」
続々と合流して攻撃を畳み掛ける仲間達に瞳を輝かせたアイシャが、朽葉に気力溜めを使いながら笑いかけた。
「ありがと! 腕がジンジンして上手く力入らなかったんだけど、もう大丈夫だ!」
明るくアイシャに笑い返した朽葉が、よし! と拳を握る。
「さーてと……転ばそうにも蜘蛛の巣をどう横にするってんだよ!」
朽葉は文句を言いながらもドリームイーターに突っ込んだ。ふわふわ浮いている蜘蛛の巣。風に揺れているようにも見える。ならば、とドリームイーターに近付いた瞬間、右脚を軸に思い切り左足を振って風を巻き起こさせながら後ろ側から足払いをかけた。
『!?』
朽葉の左脚が当たった部分は糸が千切れ、仰向けに倒れるように横に広がった状態で地に落ちる。
「今か!」
広がる蜘蛛の巣の上に飛び乗ると、飛ばした筈なのにまた大量に張り付いている羽虫にネジの形にしたブラックスライムをいくつか打ち付けた。
「さぁ! バンバンやっちゃってくださいよー!」
杏奈がレンに電気ショックを飛ばして戦闘能力を向上させる。レビくんはディアと同じようにテレビフラッシュを浴びせ、自分達のどちらかに攻撃がくるようにとドリームイーターを挑発した。
「遅くなったね!」
さっとケルベロスチェインを展開したファランは、前衛の仲間達を守護する魔方陣を描く。
「さぁ、一気に反撃といくわよ!」
ノルンがビシっとドリームイーターを指差しながら仲間達を鼓舞した。
起き上がったドリームイーターはふわふわと宙に浮きながらケルベロス達の様子を伺う。ケルベロス達もカウンターを警戒して神経を張り詰めさせていた。
『!!』
先に動いたのはドリームイーター。ディア目掛けて糸を長く伸ばす。
『!』
心電図モニターに大きな波を作ったディアは、体に糸を巻きつけられてしまった。
『!?』
その瞬間、ドリームイーターの体に宗嗣が与えた地獄の炎が燃え上がる。
「もうこれ以上……皆のユメは奪わせない……っ!」
燃え上がる炎に導かれるように、宗嗣が血のような炎でできた異形のオニヤンマ『ほのか』を銃と同化させた。その銃口は異形のトンボの口腔と化し、地獄の業火を纏った砲撃を放つ。
「哀れな。哀しき定めから解放しよう……覚悟!」
砲撃が放たれた瞬間動き出したレンが、周囲のムクゲやサルスベリの花や葉に螺旋の力を込めて数多の分身に変えた。分身達はドリームイーターを包囲し、一斉に連続で全方位から斬りかかる。
『!!!!!!!』
レンの分身が消えると、そこには何もなくなっていた。
●楽しい夜を
「嫌悪……か……」
ドリームイーターが撃破され、周辺をヒールで修復するアスカロンが小さく呟く。
「誰にでも苦手なもの、嫌なものはあるものだな」
同じくヒールをかけていたレンが静かに呟いた。
「あぁ。殆どの人が何かしらに嫌悪を抱いている。しかもそれは人によって異なる」
今後どんな『嫌悪』が具現化されるのかの予想がつきにくい。
「コイツは厄介だな……」
アスカロンは今回の事件の黒幕である魔女を浮べて眉を顰めた。
「さて、避難してる人達を安心させてあげなきゃ」
「あ、僕も行くよ! バーベキューや花火再開してもらおう!」
ノルンが避難している人々の方へ足を向けると、朽葉もその後に続く。
「一応殺虫剤を撒いておくか」
人々が戻ってくる前に、少しでもキャンプを楽しく過ごせるようにと、エフイーが周辺に殺虫剤を撒いた。
「私は『嫌悪』を奪われちゃったお兄さんのところに行ってきます。もう目が覚めるでしょうし」
アイシャはパタパタと水道場の方へと小走りに向かう。
「ん? レビくん?」
杏奈がレビくんのモニターを覗き込むと、戦闘中に録画したらしい蜘蛛の巣ドリームイーターが映されていた。
「ヒッ!」
蜘蛛は益虫で害はないと分かっていても、やはり羽虫がびっしり張り付いた蜘蛛の巣は好んで見たいものではなく、顔を引き攣らせる。
「あ、アンナちゃんもヒールお手伝いしなきゃ!」
杏奈は逃げるようにアスカロンとレンの方へ走って行った――。
作者:麻香水娜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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