ケルベロス大運動会~やすい、うまい、やたい!

作者:絲上ゆいこ

●疲弊した世界
 度重なる「全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)」の発動は世界経済を揺るがし、大きく疲弊させていた。
 そのような痩せ細った経済状態を、打破すべく提案されたイベント……。
 ――ケルベロスたちはグラビティでしか、ダメージを受けないというのはご存知であろう。
 世界中たちのプロモーターたちが、危険過ぎる故に開催を断念してきた「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」の数々を持ち寄り、巨大で危険なスポーツ要塞を造り上げケルベロスたちに競わせる。
 ――それこそが、ケルベロス大運動会である!
 栄えある第1回ケルベロス大運動会の開催地は『インド』に決定した。
 このイベントは世界から注目され、大きな収益が見込まれている!
 世界経済の危機を救うのも、ケルベロスのキミたちだ!
 さあインド各地に造られた巨大危険スポーツ要塞を巡り、アトラクションに挑戦しよう!
 
●うまい、やすい、インド人もビックリ日本食屋台村
 レプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)は運動会説明の立体映像を閉じると、皆へと視線を向けた。
「と、言うわけで。ケルベロス大運動会の当日に、ケルベロスによる日本食の日本屋台村を運営する事になったぞー」
 この屋台村は、インド市民たちにケルベロスたちが活躍する日本の文化を知ってもらおうという趣旨で、日本とインドの国際交流の一環として行われ、狙いの客層によって4箇所に設置される事となっている。
 そしてこの場所に設置される屋台村の狙いは大衆。
 インド市民に向けた格安屋台である。
「大体、日本で手に入れるとしたら200円前後での料理提供が出来るメニューを考えてくれよなー。安くて美味い、安くてボリュームたっぷり、安いけれど珍しい、安いけれど面白い。……色んなアイディアで屋台を運営して貰えると面白いだろうな」
 日本食と言っても、料理の種類は和食とは限られていない。
 例えば、日本で独自に進化を遂げたラーメンやスープカレーなどは、日本食と言って問題は無いだろう。
 勿論、日本らしい雰囲気があればスイーツやオリジナル創作料理も歓迎だ。
「そうそう、このイベントには日本政府が協賛しているからな。食材の準備や、お前たちが競技に出ている間の、代わりの料理人や店員の心配は必要無い。責任を持って用意してくれるそうだ」
 ケルベロスたちには、時間の余裕がある時に戻ってきてくれれば問題無いとレプスは太鼓判を押す。
「屋台も競技も全力で頑張って欲しい。俺も、飯を食いながらちゃんと応援しているからな」
 俺も遊びに行くのを楽しみにしているんだよな、と笑いながら彼は軽く頭を下げた。


■リプレイ


「そこ行く麗しいお嬢さん! 本場の味の出張だ、折角のお祭りなんだぜ。損はさせないからちょっと付き合ってくれよ」
 厳しいインドの日差しの元。トーヤの軟派な声かけが響き、客を導く。
 エスコート先は浴衣と甚平が翻る、玄舞紗の社の旅団名物を販売する神社風屋台だ。
「これぞ日本の味! 挑戦してみる人はいねぇか!」
「暑さ対策に酸味を是非っ」
 梅干や納豆のおむすびを勧めるさやかの声かけに、乃恵美はおむすびを握りながら声を合わせる。
「えっと……ご一緒にトン汁などは?」
 勧めに首を傾げた客へ、柚子は張り紙を指さした。
 豚汁。知っている方も知らない方もご安心。カリカリ水牛肉の特製『トン汁』です。
 実は水牛はインドでよく食されているポピュラーな食材だ。
「日本の豆のスープなんだぜ」
「さぁさぁ、如何ですかー!」
 さやかと乃恵美の声掛けに、客は思わず頷き。
 トン汁、おむすび、玄米茶の旅団名物3点定食のお買い上げだ。
「ありがとうございますっ」
 シンプルなわびさびを感じる屋台。
 祝栖の提供するのは、手打ち麺の冷やしかき揚げソバである。
「日本の夏を料理という形でお届けに参りました。是非ともご賞味くださいなのです」
 灰色の尾を揺らし祝栖は瞳を細めた。
 こちらはSkyWaveのお好み焼き屋台。
「売上勝負だし、俺も気合入れていこうかな」
 手際よくピリ辛一口お好み焼きを作りあげ、愛畄は回りを見渡した。
「食べやすいよう片手で持てるようにしてみたぜ」
 手軽に食べられるように。広島風お好み焼きの様に重ねられた生地を巻いたカーネリアのスティックお好み焼き。
「200円でもボリューム十分! これが日本のお好み焼きだぜ!」
 巨大なお好み焼きの前でセラスが胸を張り、何故か甘い香りが鼻を擽った。
「ボクのはみんなと違って女性向け!」
 パールは、イチゴにチョコ、甘いクリーム。予算ギリギリの大ボリュームの――
「パールのクレープじゃん!」
「……これクレープだ!」
 うん、クレープだ。
 真剣な表情。小皿の中身を啜った小梢丸が一つ頷く。
「うん、好みの物を入れていったらカレーが出来上がったよ」
「こずぅはカレー。分かってた」
 お好み焼きじゃないのと突っ込んだセラスも味見する。
「……あ、これ味付けがいつもと違う。インド向けだとっ!?」
 愛畄が困ったように笑い、パールがうーんと眉を寄せた。
「うん。なんか後半ちょっとびっくりするものが混じっていた気がする」
「なんかみんな凄い盛ってるし……絶対売り上げプラマイゼロだよ……」
 ――でも、まぁ楽しいし、いいかなぁ。
 和印折衷の特注サリーを纏ったぽてとがステップを踏み、歌を響かせる。
 鯛焼きによく似た姿の箱竜が看板を持ってぴょんぴょん、モコモコのテレビウムがぽてぽてとステップを追う。
「お買い上げありがとさん。どーも、定番2種も今回限定のTTTもご用意させて貰ったぜ」
 忙しそうに屋台の中で働くカイトが、笑顔で言った。
「こっち優先で焼きつつ、あんま手は止まらないようになァ」
「小倉焼き上がりました」
 店長の龍河が周りを見ながらも手を動かし、春臣が頷きひたすら焼き続ける。
 限定メニュータイカレー鯛タイ焼き――通称TTTをひっさげた彼岸茶屋の屋台は、人が途切れぬ盛況を見せていた。
「龍護ォー、ちっと来い間に合わせんぞー」
 洗い物を裏でしていた龍護に声がかかり、
「うお……、そっち暑そうだけど氷のカード使」
「だめ」
 鉄板の温度が下がる、と春臣のストップ。
「オレは料理はそう得意じゃないからなー。こっちの力仕事は任せろ!」
 荷物片手にサムズアップしたハインツに見送られて、焼き場に連行される龍護であった。
 暑い。
 はためくのぼり旗。学ランを着たキジトラの翼猫とオルトロスがぽこぽこと太鼓を鳴らした。
「優しい甘さの小豆餡、ふんわりまろやかカスタード。見た目鯛なら中身も鯛よ、この日限りのタイカレー!」
 ちんどん屋の様に鉦を鳴らす芳尾が述べる軽やかな口上。その横でアイズフォンを閉じた迅龍。
「どうやら屋台は盛況みたいだね。……後は差し入れは何にしようかな」
 ぐるりと見渡せば口上に集まる客達と、魅力的な屋台達。
「声掛けも上々らしいぜ、……しかし突然インドとは」
「……いやー、祭り事だし、やらなそんじゃねェかァ?」
 カイトと龍河の頬に押し付けられた冷たいラッシー。
「お疲れ様、これ飲んでもうひと踏ん張りよ☆」
「助かるぜ、さてと、もう一回気張っていくか!」
 ぽてとの差し入れを一口。ハインツが皆に声を掛けた。


 かんから町の和食TKG屋台では、威勢の良いアルヴァの声が響く。
「さあさあ、寄ってきな! 日本伝統のファストフード、卵かけご飯! 日本以外じゃ滅多に味わえないぜ!」
 付け合せ豊富な卵かけご飯。
 しかし生卵を食べる文化の無いインドの客の反応は芳しくは無いようだ。
「なにかあったら呼べ、俺が責任をもって駆けつけよう。だから食ってみろ。うまいぞTKG」
「今回持ち込んだのは全て日本産の鶏卵ですよ。味、品質、安全性、全てを保障します」
 ムスタファがウィッチドクターであることを明かして動画を流し、クロハとアルヴァが実食を行ってみせるが、未だ踏ん切りのつかない様子の客達。
「無論生卵が海外において忌避される事は理解してるよ」
 龍が頷きながら何やら耳打ちを行うと、客達が屋台に並んだ。
「試しに一口だけ。大丈夫、これはサービスよ」
 サリー姿のリリスが最前列の客に勧め、
「……旨い」
 でしょうと微笑むリリス。
「気に入ったなら是非食べていってね」
「オススメはゴマ油と海苔入りです」
 クロハの推しTKGだ。
 客が徐々に訪れだした屋台。
 ピータンTKGをつまみ食いしていた龍と、売上を摘もうとしていたアルヴァを捕え、ムスタファは瞳を細めた。
「油揚げと、言えば……狐、なのです」
 エプロンと狐耳をつけた雅が、パンズの間に鰹出汁薫る厚揚げと野菜とチキンを挟む。その名もあつあげサンドだ。
「和洋の、混在した。不思議な、風味を……ご賞味、下さい」
 グンマー県人会のアイクルと風太郎は使命感に燃えていた。
「グンマーの魅力を世界中に知らしめるため、コンニャク料理で勝負にゃ!」
「インドをグンマーにしてしまえッ!」
 蒟蒻を全面に押し出したメニュー提供を行うスチパン風の屋台の前で、グンマーのご当地アイドル(自称)のアイクルが踊って歌い、風太郎は屋台の汽笛を鳴らす。
「グンマー!アイドル!コンニャク!ニンジャ!」
 尚グンマーと群馬県の関係は未だ不明だ。
 元祖キュッキュウリン漬本舗の屋台の前は、キュッキュリーン★な雰囲気に包まれていた。
「キュッキュリーン★身体が冷えて塩分補給もできちゃうキュッキュウリン漬はいかがですかー★」
「いらっしゃいませーキュッキュリーン★」
 敬重は俺アラサーなんだけどきつくない?? な気持ちを押し殺してキュッキュリーン★する。
 冷しキュッキュウリン・キュッキュウリン漬とは、レピーダの母星ヴァルキュリ星の挨拶にちなんで生まれた冷やし胡瓜と胡瓜漬だ。
「あの日本で超有名な! 人気アイドルの手作り冷やしキュッキュウリンですよー★」
 迅はただの胡瓜ではという疑問にノリだけで押し切ろうと答えていた。
「いらっしゃいませーキュッキュリーン★冷やしキュウリにつける味噌もありますよー★」
 味噌も在ることをクエスがアピール。
「今ならスーパーアイドル(予定)のレピちゃんと握手もできちゃいますよ★」
 レピーダはアイドルなので、この屋台も所謂アイ活である。
「なんと今回はキュッキュリーン★な胡瓜にオマケとしてレピさんのライブチケットが付いてなななんと200円!?」
「あの有名なアイドルがやってるきゅうり売りっすよー! 冷しきゅっきゅうりーん★いかがっすかー。一緒に一二三の初インドライブ【河童の恋流れ】チケットもいかがっすか☆」
 ミュラが大げさに驚いてみせ、ドサクサに紛れて自分の宣伝も行う一二三も真剣な表情だ。
 なおライブはそこらへんでやるそうです。
「インドのお客様、キュッキュウリン漬★はいかがですか? ほらこの通り味もボリボリッボリ」
 その横でエピは味見をひたすらしていた。とても沢山食べている。
 迅はその様子を眺め、何故か満足気に頷いていた。


「肉は肉でも魚の肉に興味はありまして?」
 氷の器を片手に、アルヘナが声をかける。
「更に今なら日本のサムライ文化も見れますわよ」
「――はあっ!」
 ナギサトの一閃。箱竜のスーが投げた鮪が一瞬の内に捌かれ、拍手が起こる。
 ホルム商会の涼しげな屋台では、解体ショーと共に向こうが透けるほど美しい刺身と寿司を提供していた。
「……ふう」
「疲れたか?」
 氷の器作りと接客を担当していたアルヘナの溜息に、スレインが愛に接客を変わらせる。
「よーし俺もおしごとがんばります。じゃんじゃんじゃーん」
 愛が意気込み、魚容器の醤油を片手に接客を始める横で、
「しかし、氷の器は……、そうだチェスター。丁度よい所に」
「……スレインもやってくれるよね? 勿論やるよね?」
 チェスターが食い気味に言い、スレインが瞳を細めた。
「仕方あるまい、負荷分散の為だ……」
「流石スレイン!」
「うわ。チェスターさんが働いている……。よーし、僕も精一杯ぼっ……、稼がなきゃね」
 蒼月が何かを言いかけて止め、刺し身を盛り付け始める。
「お刺身薄っ」
「口の中で消えてなくなる程の儚さも日本では古くから親しまれてますのよ」
 と、アルヘナ。物は言いようである。
 たこ焼き屋台、おにのこのす。インド出張店。店員二名。絶賛長蛇の列。
「今日は忙しくてんてこ舞いですが、私達にはレイカさんがいますっ! この日の為に特訓した日々を思い出して、――全てやってもらいます」
 くしなが監督応援する中、令佳が歌って踊って焼いて接客を行う。
「何で通訳さん断ったんですかー!?」
「肉体言語で語って下さいませ! 今だ必殺技だっ」
 これまでの修行があれば。――令佳の苦難は続く。
「櫻、お願いします」
 ビハインドの櫻が客に商品を手渡す。
 こちらの屋台では大豆ミートに枝豆と豆腐を使用したメンチカツを提供中だ。
「さ、もう一頑張りですよ!」
 月の言葉に頷いた桜色の少女はぴょんと跳ねた。
「焼きそヴぁパンだよ!美味しいよー!」
 シロガネの力作看板の元尻尾ふりふり元気の良い声。
 いつきがふかふかコッペパンに焼きそばを挟み提供し、屋台の前で早速かぶりつく客が旨いと漏らせば、
「父さん美味しいって! やったねー!」
 シロガネが尾も手も振り振りいつきに伝える。
「おォ、焼きたてパンは最高だからな」
 いつきの幸せはシロガネの幸せ。シロガネの幸せはいつきの幸せ。
 顔を見合わせ2人はにっと笑い合う。
 ほろ苦抹茶に甘い餡。もっちり白玉冷やしぜんざい。皮は熱々パリパリ中はひんやり、小豆とバナナの揚春巻き。
「日本の美味しいスイーツはいかがですか?」
 カラクレの和スイーツ屋台に冷たくて美味しいメニューが並ぶ。
 女給さん姿のプルトーネが試食を客へと手渡すと、気に入ったのかそのままお買い上げだ。
「へへっ、毎度あり!」
 ヒノトが手早く手渡すと、丁度客の列が切れた。
「ふー、ちょっと着物は暑いよね」
「みんな、熱さは大丈夫? 頑張るのよ」
 風届けーっとエルピスが団扇で皆に風を送り、ヒノトが水を皆にプレゼント。
 その時ぐうとお腹がなった。
「お、俺じゃないよ、いまのゆうれいさんの腹の音だから!」
「味見の仕事のうちだよなー」
 善哉が慌てた様に言うと、ヒノトがにんまり笑って善哉の口へと試食を放り込む。ゆうれいさんも一緒に試食のつまみ食いだ。
「わっ、つまみ食いはだめ!」
 エルピスが慌てた様に止めに入るのであった。


「今日のROSA'Sキッチンはお団子とお茶であります」
「インドの皆に美味しいお団子をお届けっ!」
 茶屋風の屋台でジャミラとカイリがコールを行う。
「団子を練るだけならなんとかなるだろ。おらおら!」
 料理師弟の2人の横でご近所さん代表のカイリはジャミラの指示に従い力強く粉を混ぜる。
「ミス・高科はなかなか思い切りの良い手際で超いい感じでありますね」
「ね、ロサちゃん。これお団子の水分にほら、このお酒とか使ったらさ、大人味っぽい感じで美味」
「今なんと?」
 ジャミラの視線は勝手なアレンジを許さない教官の瞳。
「ひっ、鞭だけは……、彩音ちゃん、た、助けてーっ」
「自分でなんとかしてくれ」
 茶屋ROSA'Sキッチン、絶賛準備中です。
 梁山泊の屋台では日本式シーフードカレーが、レクスの目の前の大鍋でぐつぐつと炊けていた。
「ま、カレーは得意な部類だし適度に頑張るかね」
「この珈琲も入れちゃって良いの?」
 レクスにさくらが尋ね、レクスが頷く。隠し味に珈琲を少々。
「七星さん、料理できたんですか!? いや、なんかお酒のイメージしかなくて……」
 志成が驚いている間にも仕込みは完了。
 そしてさくらによるジャパニーズヤマトナデシコ大作戦も発動だ。
「艶やかな浴衣姿で日本っぽさをアピールしつつ、おもてなしの精神で接客よ!」
「おかしくありませんか……?」
「お似合いですよ! 女性の浴衣は良いですね、僕もつい目が惹かれますよ。眼福眼福」
 気つけられた浴衣を心配するカナメに、志成は太鼓判を押す。
「いらっしゃいませ♪」
「梁山泊特製、シーフードカレーはいかが?」
「インドのものとは全く違う料理になっているので面白いと思ってもらえると思います♪」
 トルテとさくらの笑顔が客を出迎え、浴衣の上に割烹着を羽織ったヴァルリシアが言葉を次ぐ。
「日本のカレーも美味しいので楽しんで食べていってくださいね」
 トロトロ卵の上に刻んだ沢庵が乗ったカレーをレクスが盛りつけ手渡す。
 インドに日本の文化が少しでも楽しく伝えられるように。
 愛情たっぷりのカレーでのおもてなし。
 お揃いのハッピで忙しく動く2人。掲げる看板は祭屋だ。
「鉄板超熱い……」
 ヒメは会計、樹はかき氷とたこ焼きを忙しく調理し続け。
「やっと落ち着いたわね……」
「……という訳で、一杯どーぞ」
 客の切れ目、樹の用意したかき氷で一時の休憩時間。
「んっ……冷たくて気持ち良いわね」
「こういう風に、ずっと一息つければいいんだけれどね」
「……ありがとうね、樹。さ、もう一頑張りよ」
「……おー」
 インドの熱い一日はまだまだ続くのだから。
 瓔珞の屋台にはたい焼きにお団子、味も色々。普段からお店に出している和菓子が並ぶ。
「いらっしゃいませー。柔らかいお団子に、焼きたてのたい焼きをご用意してますよー」
 ちりりと風鈴が涼しげな音を立てた。 


 本日アリルのなんでも屋さんは、アリルのナンでも屋さん。
「そこの奴らカレー食っていきやがれ、です」
「今限定のお店だぜ」
 ラギッドが腕を振るった様々な風味の和風ナンと、瀬理の作ったカレーソースを提供中だ。
「インドの人が慣れ親しむカレー。日本のアレンジを加えるという作戦は、まさに和とインドの織りなすハーモニー……よーし皆、ガンガン売って大儲けだよ!」
 声掛けが響く中。アリルがお金の匂いにうっとりと。
「なんでも屋だけに、ナンでも……ね」
「インドの方にもこの面白さが伝わるといいのですが」
 悠月が喉を鳴らして笑い、ラギッドがナンを焼き上げながら相槌を打つ。
「普通やったら豚や牛でコクを出すんが日本式やねんけど……。結構苦労したで、日本の味を出すんは」
 満足気に寸胴鍋をかき混ぜる瀬理のカレーをクラリスが手早く盛りつけ、
「だんにゃばーどー」
 賄い分は残ってくれるだろうか? ナンでも屋さんの面々は減りゆくナンにお腹を鳴らす。
「ほっくりと濃い旨みと甘味があり、揚げ物なのに健康に良くヘルシーで美味しいんですよ」
 箱竜のナメビスが看板をふりふり。
 ビスマスの提供するメニューは、シログチのなめろう風唐揚げだ。
「おひとつ如何です?」
 暁天の星の屋台に並ぶのはお星様達。
 金平糖に大判焼き。星形の和菓子がきらきら、色とりどり。
「めーちゃんの和菓子はやっぱり美味しそうだね~」
「うん、とっても可愛い!沢山の人に見てもらいたくなるわ。ほらこの金平糖もとっても綺麗!」
 春乃とルシェルの視線はきらきら金平糖の引力に引き寄せられ。ぱちんと重なる2人の視線。
「1つくらい味見しても……いいよね?」
「ちょ、ちょこっとだけ……」
 エフェメラがくすくすと笑う。
「あら、ルシェもはーちゃんも味見をご所望? うふふ、ほどほどにね?」
 許可が降りれば優しい甘さの味見会。エフェメラも一粒ぱくり。
 可愛くて甘くて素敵なお星様がインドの人たちにも気に入ってもらえるように。
「いっぱい、みんなにおほしさま配ろ!」
 スバルとヒナキの屋台は白玉団子をご提供。
「いらっしゃいませ、甘い白玉はいかがですか?」
「冷たくてもちもちで美味しいよー!」
 2人の声掛け。
 まるで人形のような和装のヒナキに目を引かれた客に、スバルが手早く白玉団子を用意する。
「……こんな感じでしょうか?」
「バッチリだよ」
 客を見送り、頷くスバル。
「なー、後で他の屋台も見たいな!」
「そうですね、気になります」
 後の約束。神楽の花が揺れた。
 オウマ式激安カレーうどんからは、スパイシーな香りが漂う。
「さ、日本式のカレーの食べ方を試してみてくれ!」
 泰地の隣人力を最大限に活かしたスマイルと野菜カレーかけうどん。香りに惹かれて客が集まり行く。


 うどんを使用した広島式お好み焼きが香ばしい香りを立てる。
「インドのお客さんに楽しんでもらえるよう全力を尽くさせて貰うさ!」
 本職のコテ捌きに驚く客に、哀音は笑みを深めた。
「さ、熱々のウチにめしあがれ」
 インド人もびっくりするようなおにぎりを。
「いらっしゃいませ、ナマステー。……インドの方はあまり驚かれないのでしょうか」
「くっ」
 征十郎が真顔で呟いた言葉に、春が思わず吹き出した。
 首を傾ぎ、お菓子のようなおにぎりを握り続ける征十郎。
「あ、征十郎さん、それうまそう。……あーん」
「売り物ですから。……味見という事で一口だけですよ?」
「ん。うまい」
 へにゃっと春が笑い、征十郎が瞳を細めた。
 お昼はおにぎり片手にカレーにしましょうか。
 ぷかぷか浮かぶシャボン玉。
 カラフルな飴にゼリー、ラムネにスナック菓子。
 日乃屋の屋台には、日本と同じく駄菓子がたっぷりと並べられていた。
「さあ、お好きなのを選んでください」
 紅旗がひたすら綿飴を作り、ギリアムがストローに息を吹き込むと虹色のシャボン玉が風に流れて割れる。
「ようこそ! 一番オススメは冷たーい瓶ラムネとできたて綿飴だよー! 綿飴は10円追加毎に大きく出来るからねぇ!」
「美味しくって楽しい駄菓子よ、あなたも少し見ていってみない?」
 ざくろの声は遠くまでよく響く。
「食い物に見えないかもしれないが、まずは食ってみる事! 絶対驚くと思うぜ」
 物珍しさに集まった客たちに智十瀬が綿飴の説明を始めていると、ポンと大きな音が響いた。
 冬夏の手元には、お米がぷっくりと膨らんだお菓子が沢山。
「製法は企業秘密ですが、これでポン菓子の出来上がりです」
「音も派手でいい宣伝になりますな」
 ギリアムが笑っていると、そろそろへろへろになりだした紅旗。
「長谷地さん、百鬼さん、ヤマネコさんがお疲れのようですよ」
「やまねこさん、お疲れ様!」
 ざくろが団扇で仰ぎ、冷えたラムネを一本頂く紅旗。
「インドは暑いねぇ……」
 安くてチープだけど日本の楽しいお菓子をインドの人たちへ。
 自分の手から、皆の笑顔が広がってゆく。インドの皆に、安くともおいしくて幸せな日本は伝わっただろうか。
 太陽の位置はまだ高い。
 ケルベロスたちの、日本の味のおもてなしはまだまだ続く。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月11日
難度:易しい
参加:80人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 3
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