ケルベロス大運動会~作って食べよう、インド料理!

作者:沙羅衝

「インド!? 私、行った事がないわ。大丈夫かしら?」
「オレ、行った事あるぜ! ただ、オレ実は飛行機が……苦手で、ね。いよぉし、今から船で行くぜ! そうと決まれば、準備準備……」
「ふふ……電車で大陸を横断するってのも、悪くないんだぜ」
 あるケルベロス達が集まっている場所が騒がしくなっていた。
 というのも、『ケルベロス大運動会』が行われる為であった。
 ここ一年で「全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)」が3回も発動され、世界経済が大きく疲弊してしまったのだ。その経済状況を打破する為に、行われるイベントこそ、『ケルベロス大運動会』なのである。
 『ケルベロス大運動会』では、ケルベロス達に通常ダメージが効かないことを利用し、世界中のプロモーター達が、危険過ぎる故に使用できなかった「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」の数々が執り行われる事が決定された。
 そして、その開催国が『インド』の各地なのだ。
「ああ……。忙しい忙しい……。次は……なんやったかな……」
 その騒いでいたケルベロス達の傍で、宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、金髪を揺らしながら、大慌てで何やら準備をしている姿があった。
「ん? どうした絹。そんなに慌てて」
 通りがかったリコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)が、絹に問う。
「あああ……。あれ、リコスちゃんか。いやな、大運動会が行われる事になったんよ」
「みたいだな。それは知っているが……」
「んでや、うちはその大運動会の一つのスペースを取り仕切ることになったんや」
「……それの準備で忙しい訳だな」
 説明を聞いたリコスは、その絹の様子を見ながら、骨付きの鶏肉をかじる。じゅわりと口の中に広がる肉汁と、鼻に抜けるスパイスの香り。リコスはその味に満足しながら咀嚼する。
「で……、絹は何をするんだ? もぐもぐ……」
「それや、リコスちゃん!」
 絹がリコスのほうをさっと指差す。
「私!?」
「ちゃうちゃう。その手に持っているもんや」
「これは……たしかタンドリー……なんとかというやつだが?」
 絹はその受け答えに微笑みながら、頷く。
「タンドリーチキンな。うちはその大運動会で、あるランチスペースを提供する事になった。うちのスペースは、名づけて『みんなで作って、そして食べよう! インド料理』のコーナーや!」
「作って……食べる?」
 鼻息を荒くして、どや顔で説明する絹に対し、リコスはまだ、良く分かっていない。
「せっかくインドに来たんや。インド料理はな、米や野菜。それに、今リコスちゃんが食べているような、スパイシーな料理で有名や」
「おお……」
 その言葉に、思わず手に持ったタンドリーチキンを見るリコス。
「うちはその為に、皆が料理するためのキッチンスタジオを用意してるところや。後は、食材の確保やな」
「成る程……。食べるだけではなく、自ら作る……のか」
 リコスの声に絹が、良く出来ました、と頷く。
「インド料理のお弁当を自作して食べたり、大量に作って皆に振舞ったり、友達の作った創作インド料理を堪能したりするわけや。ランチの為に準備するから、朝からかかったりもするやろう。でも、ケルベロスなら、本場のインド料理に負けないインド料理も目指せる筈や」
「盛り上がりそうだな……。でも、私はやはり……食べる係だな」
 そう言いながら、リコスと絹は笑う。そういえば、あまりこうして笑うことも無かったかもしれない。
「食材は現地の市場やスーパーマーケットで手に入れられるし、巨大冷凍コンテナで日本から直接持ち込むことも出来るように手配したわ。美味しいランチで体力を補給して、みんなで最後まで大運動会を楽しめたらええな。じゃあな!」
 絹はそうして、また準備に戻っていったのだった。
「インド料理……か。さて、皆は一体どんな料理を作るのだろうな。……それとも、私のように平らげる専門。という奴もいるのかもしれんな」
 リコスはそう言って、再びタンドリーチキンを口に運んだ。


■リプレイ

●笑い声とスパイスの香り
 ここは絹の用意したキッチンスタジオである。午前の部を終えたケルベロス達が、続々と集まっていた。
 インド料理を調理しようか。

●シエルとモンジュ
 シエルとモンジュは作る料理を話しあっていた。
「サモサ! いいわねー。私も大好き」
「具を小麦粉で作った皮で包んで揚げるだけ。簡単楽々だろ?」
 そう言って二人は分担を決めていく。どうやら、メインはモンジュのようだ。
「出来上がったらすぐ食うよな?」
「勿論、すぐに食べるわ。出来たてアツアツ……火傷しちゃいそうっ」
 二人は笑いながら、作業に取り掛かっていったのだった。

●メリルディとスケキヨ
 火の入ったタンドールを、二人のカップルが興味深げに確認していた。
「あれ、リル緊張してるのかい?」
「う、うん。南瓜さんの前で作るのは初めてだから」
 スケキヨの声に答えながら、深呼吸をするメリルディ。
 ダルカレーとナン、タンドリーシュリンプ。それに、ドーサというクレープを作るつもりであった。
「頑張るね」
 メリルディの姿に、心臓を打ち抜かれるスケキヨであった。

●【色町】
「すまない紫睡、水分を飛ばす、とは、どの程度のことを言うんだ?」
「ん、具がもっさりする感じぐらいで良いかもしれません……」
「……もっさり!?」
 イスクヴァがタンドリーチキンを仕込んでいた紫睡に、アドバイスを貰いながら、ぎこちない手つきでサモサの具を用意する。
「れれれれっどぺっぱー、ままのますたーどしーどー♪」
 エメリローネが目を閉じてスパイスを検索しながら、ご機嫌に歌う。
「エメリローネさんは、包丁と火傷に気を付けてくださいね。猫の手ですよ」
「はーい♪」
 楽しい雰囲気が伝わってくる。きっと、楽しい思い出となるだろう。

●【シンボル】
「そうそう、リューはこねるの上手だね」
「えへへ、なんか粘土みたいで楽しいねー♪ おっきいのも作っていい!?」
 フリューゲルと蒼志がナンを楽しそうにこねている。その隣では、ルイがカレーとアチャール、それにバルフィというお菓子を準備していた。
「おやおや……味見もいいですが、折角なら美味しいのが食べたいでしょう?」
「鈴蘭、抜け駆けはダメだよー!」
 ボクスドラゴン『鈴蘭』が、出来たラニチキンと、ルイを交互に見つめていた。
「ルイさんに味見をねだって邪魔しちゃダメだよ」
 鈴蘭とフリューゲルの頭を撫でる蒼志。ラッシーとチャイの準備も万全だ。

●【雛菊の庭】
「あっ玉ねぎ痛い! 目痛い!!」
 スバルが玉ねぎを切りながら目を擦ると、更にその手に付いた玉ねぎの汁が目に入り悶絶する。
「さて、なんだが気合いが入りますね。あ、スバルは放っておきましょう」
 ヒナキはそう言いながら、ラッシーの準備に取り掛かった。
「ええと、材料のカットとかはもう出来てる……のかな。それじゃボクはスパイスを合わせて、と……」
 ヒメはスバルが切った野菜を確認し、カレー用のスパイスをぺろりとなめた。
「あ、味見したい! 超したい!!」
「あ、俺も味見するぞ~!」
 ヒメが持っていたスパイスをスバルとルヴィルが口に含むと、即座に彼らの顔色が変わっていく。
 それを見て呆れつつも、くすりと笑うヒナキ。
「楽しいですね」
 彼女の言葉に、他の三人も釣られて笑うのだった。

●【竜狐】
 熱したフライパンを眺めながら、片手にスパイスの袋を持つガロンド。おもむろに、むんずとその大きな手を袋に入れた。
「えっと、ひとつかみ……」
「ガロンドさん! 『ひとつまみ』です! 『ひとつかみ』じゃないです!」
 チャナ豆と鶏肉のカレーとカチュンバルサラダを作っていた宵一が慌ててガロンドの腕を押さえる。
「あっぶね……。なあ、ガロンド。碧人とチャパティ作ってくれよ。焼くのはいけるだろ?」
 ミツキはそう言いながらも、段取り良くタンドリーチキンの準備をしながら、片付けれる物は片付けておく。
「そうですね、ガロンドさん、一緒にやりましょう!」
 碧人が足元でじゃれつくフレアを、軽くあしらいながら、手早く調理を進めていく。
「みんな……手際いいんだねぇ。うん、火加減は、任せて」
 頷くガロンドの口からは、炎がちらりと見え隠れしていた。

●アリアとシェーラ
 アリアはレシピのメモをシェーラに見てもらっていた。
「シェーラちゃん、食べれないやつある?」
「んー……そうですねえ」
 シェーラはそのメモを見ながら受け答えしている。二人は何とか3種類のカレーを作るつもりだった。
「店長さんにお任せしますが、……辛さは控えめでお願いします」
 頷きながら、にっこりと微笑むアリアであった。

●アルノルトとヒストリア
「……うん、アル上手だぞ」
「上手? 嬉しいな」
 良く似たヴァルキュリアの兄弟であるアルノルトとヒストリアは、ドクラとチャイを作っていた。
 他愛も無い話をしながら、とても楽しそうだ。
「この短期間で、アルはすごく色んなことができるようになったな」
「少し前まで外に出るのも怖かった筈なのにね」
 頷くヒストリア。互いに笑いあう。幸福感が二人を包んだ。

●日仙丸と静久
「あ……おい! 大雑把すぎんだよ、もっと少しずつだな……」
「む……料理とは奥が深いものでござるな」
 日仙丸と静久が夫婦漫才よろしく、カレーを作っていた。
「さて、初めての共同作業の出来栄えはっと」
 味見をする日仙丸に、きょとんとする静久。そして一人、顔を赤らめる。
「静久、どうしたのでござるか?」
「う、うるさーい!」
 微笑む日仙丸。楽しい思い出となるだろう。

●スノーエルのインド菓子
 スノーエルがグラブ・ジャムンに挑んでいた。
「コアって何かな!?」
 絹が、インドの濃縮乳であるコアを紹介する。
「え? これ? ふぅん、こんなのがあるんだねぇ」
 そう言いながら、楽しく調理を楽しんだ。

●【*緋兎*】
「こんなもので、よろしいかしら? さて、カレーのほうは……」
 カトレアはこねていたナンの生地を丸めて置き、メンバーのほうを確認する。
「切るのは得意だぜ!」
 犬太郎はまな板に乗せられたナスやジャガイモを、包丁で素早く切り刻む。そのナスを掴み、熱したフライパンにぶち込んでいく恭平。
 油のはねる音が響く。
「ここで、スパイスを投入するんだな……」
 恭平はテーブルのレシピ本を見ながら、スパイスを振りかけた。
「まあ、簡単ではあるが味は悪くない、はずだ、うむ」
 一人で納得しながら頷いている恭平の横で、朱雀・翼が隣で調理している陽葉に話しかけていた。
「ケバブと言うのは、これで良いのじゃろ?」
 翼は四角くカットした鶏、豚、羊の肉が串に刺す。そしてたっぷりとスパイスを振りかけた。
「んー。ごめん。今集中してる……」
 陽葉はフライパンで米を炒めていた。
「陽葉君。それはプラーオだね? そこから水を足して炊けばいいよ」
 プラータは陽葉の様子を見ながら、川魚のカレーを手際よく作っていた。スパイスの調合も、良いものに仕上がっていた。
 やってみると頷く陽葉の横を、ゆったりとした動きでモラトリアスがカトレアに話しかける。
「タンドール? っていう窯はいつで使えるみたいよ……」
 その言葉に頷くカトレア。
「カレーが出来たら、いよいよナンを焼きますわよ!」

 テーブルには焼きたてのナンと料理が並べられていた。
『いただきまーす!』
 一斉に口に運ぶ一同。
「あぅぅ、か、辛い……」
 辛いものが苦手なモラトリアスは目を白黒させている。
「はい、モラトリアスさん」
 フォルトゥナが彼女に、白く冷たい液体を渡す。フォルトゥナと遥彼は様々な果物を使い、ラッシーを準備していたのだ。
「辛いものは好きなのだけれど、あまり強くはないからやっぱりラッシーを作って正解ね」
「ええ」
 フォルトゥナと遥彼はそう言いながら、ラッシーを口に入れた。
「ん、おいし……♪」

●【ケバ部】
「うん。流石ですね。芙蓉殿、アディアータ殿」
 ターバンを巻いたソファはそう言いながら、3種のタンドリーチキン、バターチキンカレーとグリーンカレーを食べ比べる。
「任せなさい! 和の香辛料とケバブ屋台の香辛料、そして本場のスパイスで攻めてみたわよっ」
 ソファに褒められ、胸を張る芙蓉。
「クミンは少し多めに。あと……色々と、ううん。なんでもないわよ!」
 微笑みながらアディアータは、カレーを口に入れる。
「とってもインドなソファちゃん。これはなに?」
「サモサです。食べてみてください」
 ソファの言葉に、サモサをほおばるココ。
「シーチキン!」
「マッシュポテトにシーチキンをたっぷり入れました。……お好きでしょ?」
 こくこくと頷き、ココは口いっぱいにサモサを頬張った。

●【まぁ待てよ】
「……という感じでクルフィを作ったんだ。宮元君も後で……と、もう出来たがったらしいな」
 クルフィを冷やしている間、絹の搬入を手伝っていた晟がテーブルに戻ってきていた。
「神崎様、遅いですよ! 槙野様のカレーも刺激的で美味しいですし、有枝様のナンも焼きたてですよ!」
 ラギッドが自ら作ったサモサをテーブルに並べながら、晟を誘う。
「フッ、これが彼女いない歴イコール年齢の本気の自炊力というものだ……!」
 清登が少し格好をつけながら、弥奈の焼いたナンを頬張る。
「ナンというのは、なんだかんだで時間がかかるのだな。うん、中々美味しいのではないのだろうか」
 弥奈もそう言いながら、頷く。
「喰う専門ならまかせろー! 辛い! 美味い!」
 その横では、もぐもぐと勢い良く食べているミハイル。そして一つのサモサを手に取った。
 ラギッドの目がキラリと光る。
「いかん、罠だ!」
 晟がミハイルを静止するが、既にミハイルはラギッドの仕込んだ激甘サモサを口に入れていたのだった。

●【庭園】
「ふふっ。皆さんで作った料理を囲むのは、やはり楽しいですね」
 凛子がそう言いながら、カレーを口に運ぶ。
「凛子とガラムは流石だね。それに、シオリのナンも良く出来てるよ」
 自分で作ったサモサの出来にも納得しながら話す明莉。
「私の灰色の脳細胞が蓄えた知識をもってすれば、料理なんて楽勝です!」
 明莉の言葉を聞いたシオリが、得意げな顔を向ける。
「あら……汗が出ていますよ、シオリさん」
 ガラムがそう言いながら、たゆんと胸を揺らしてハンカチを差し出す。
「なんとかなって、良かったですね、シオリさん」
「は、はは……」
 にこりとした凛子の声に、ドキリとするシオリ。ナンが焦げる寸前だったのは見抜かれていたようだ。
「それに、ゆかりさんのキールも、個性的で美味しいですよ」
「凛子さん……」
 すこし涙目になるゆかり。ゆかりはキールを作っていたのだが、うっかり焦がしてしまったのだ。
「皆さんとの料理、大切な思い出となりました。嬉しいです」
 その凛子の微笑みが、仲間に心地よく伝染していくのだった。

●ラウルと小町
「バルフィって甘い!」
 小町はラウルの作ったカシューナッツやピスタチオが入ったバルフィを食べて驚きの表情を浮かべる。
「小町の作ったタンドリーチキンも、美味しかったよ」
 ラウルは終始笑顔だ。
「海外って言葉も文字も違うし緊張しちゃう、困った時は助けてくれる……?」
 ラウルは変わらない表情で頷いた。
 その頼もしい笑顔に、釣られて笑う小町であった。

●【殲団】
「見てあかりちゃん! ジュージューいってる!」
「本当だ! 美味しそう……まだかな?」
 オーブンを覗き込むアイリとあかり。中では、チキンティッカがスパイスの香りを纏い、脂が少し爆ぜた。
「そろそろかな? 熱いのは任せろ」
 セイヤはそう言って、オーブンを空けた。熱気と共に、広がる香り。その香りにヒスイが関心して頷く。
「皆さんお料理がお上手なのですね……。セイヤの腕も見事ですが、あちらも、なんと繊細な作業でしょうか」
 彼の視線の先には、ムギと炎酒が野菜を炒めている所であった。その野菜は、なんと星や動物の形に切ってある。
「よっしゃ炎酒、ガチでいくぞガチで!」
「おう。でも料理には遊び心も必要ってな」
 二人は細かい工程で、甘口のカレーを煮込む。かなりの出来栄えのようだった。
 そこへ、なんともおどろおどろしい声が響き渡る。
「我こそはカレーの邪神様、カリー・デア・マルシェである。儚き者達よ、己が味覚の脆弱さに震えて眠るがいい」
 半裸にターバン、そして腰布を身につけたヴォルフガングが、カレー鍋をかき混ぜていた。良く見ると、少しふらふらしている。
「おやさいとおにく。にえた?」
 ナンを焼いていたエイルが、サラダを準備していた蓮に問いかける。
「今は、小父様にお任せなの!」
 蓮がそう言った時、エイルが見た先は、更に大量のスパイス類を投入するヴォルフガングの姿だった。
「あっ。キャプテンいれすぎ……」
 しかし、それを誰も止めない。止められない。
「ボクは、辛いの苦手だから、ムギお兄さんのカレーをいただくわ♪」
「え!? どうしよう」
 その少し慌てるエイルに、ムギと炎酒が話しかけてきた。
「大丈夫だ。全部俺達が頂くつもりだ。笑顔でな!」
「祭りやし、何事も楽しんだもの勝ちってな」
 果たして、3種のカレーは完成した。
 そしてその鍋は、数刻の後に見事に空になっていたのだった。

●ヴィと雪斗
「……ん、おいしい!」
 マトンカレーの味見をしたヴィが、もっと食べていいかな、と口に出す。
「ちょっとだけね?」
 ヴィの反応に満足そうな雪斗。
「ヴィくんと一緒やから美味しく作れたんよ!」
 ヴィはそうかな、と照れながら、そうだね! と続ける。
「軽食とラッシーも準備しておいたから、お昼からの競技も頑張ろ!」
 二人はまた、大運動会に挑んでいったのだった。

●【コズラン】
「ロディさん、教わりながらですけど、色々……出来ました! えっと……あーん、です!」
「そ、それじゃ。あ、あーん……」
 大勢が集まっていた一角では、エリティエールとロディがお互いに頬を染めつつ、出来たカレーを食べさせあう。
 すると、その様子を見ていた神宮・翼が、ロディにむけて口を空ける。
「はい、あーん☆」
 と言いつつ、エリティエールに向けていたロディのスプーンを強引に口の中に入れる。その様子にエリティエールが頬を膨らます。
「んー、お祭り最高ってカンジだな! 運動会万歳!!」
「セシルさん、はい、あーん♪ テラコズミックおいしいよ!」
「おお、あーん♪」
 こすもがそう言って、ビールを片手に盛り上がっていたセシルに赤黒いカレーを口に投入した。
「スパイスの調合は任せてよ! 傷薬を作ったりするのによく調合してたから……」
 白兎がスパイスを乳鉢で調合する横を、駆け抜けるセシル。その隙に、白兎の鍋に何かを投入する美衣子。
「カレーなら、適当に作ってもたぶん、大丈夫よ! ……あれ?」
 鍋の変化に顔色を変え、そそくさと、その場を後にする美衣子。
 入れ替わるようにくしなが白兎の横に立つ。
「兎の肉ってカレーに合いそうですよね……」
「もう! ジビエじゃないって!」
 くしなにそう言いながら、調合していたスパイスをさっと炒め、そのまま鍋に入れる白兎。
「ふふ……そこです! シューっ!」
 くしなはそう言うと、素早くその鍋の液体をスプーンを使い、照れながらも幸せそうにあーんをしていたロディの咽の奥目掛けて飛ばす。
「!!」
 ロディが口を押さえてセシルが駆け抜けた方向に走っていく。
 その様子を見ていたタエコは、一人鶏肉の入ったコルマを作り、美味しそうに食べていた。
「ボッチなおひとり様は片隅で寂しく食べるですよ。……この、臭い」
 タエコが卓のほうを見ると、エールが何かを広げていた。
「石油王が日本馴染みの味のくさやを持ってきてやったぞ」
 阿鼻叫喚の様相のテーブル。
「最高に、ロック……です」
 タエコはそう言い、コルマを掬って口に入れた。

●【すーぱーふぁーむ】
「インド料理かー、面白いよな……」
「ええ……スパイス多めの料理は夏の暑さに負けずに食欲をもたらすことが出来ますし」
 八尋と功太郎は、サーグ・パニールというほうれん草とカッテージチーズを使ったカレーを楽しんでいた。
「すげー美味いな。ほうれん草とチーズって結構合うんだな……」
 八尋はぱしゃりと料理を写真に収めたのだった。

●【ロストリンク邸】
「おお! これは、辛いのぅ!」
 ドルフィンがカナネの作ったカレーを食べ、その余りの空さに、横を向いて火を吐く。
「かっらーーい! どれもいい香りがして、もう堪んないよー!」
 アーシィも、その辛さの中の美味さを堪能する。
「箸休めにサラダもどうぞ……わ、遊鬼さんのカレー、美味しいです。後でレシピのデータをお願いします」
 ミオリがサラダを勧めながら、遊鬼が作った、チングリ・マライカリーとラムを使ったケバブの一種である、シャーミー・カバーブを柔らかめに作ったナンではさむという創作料理を食べて言う。
「あら、そうなの? おねーさんもいただくわ」
 カナネもその料理に舌鼓を打つ。
「こうやって色々と珍しい料理を食べるのは楽しいですね」
 遊鬼が頷きながら、用意された料理を全て食べていく。
「うむ。皆、どれも美味いぞ。カッカッカ!」
 そう言うドルフィンを中心に、笑い声がはずんでいったのであった。

●リズナイトと龍之介
「はむはむ……ジューシーでスパイシー! 止まりません!」
 リズナイトが凄い勢いでタンドリーチキンを平らげていく。
「はは……杞憂だった、な」
 大量に作ってしまったチキンを心配していた龍之介が、一つを口に入れる。
 その様子にハッとしたリズナイト。
「また……」
 満足そうに話かける龍之介。
「……どこか行こうな?」
 彼女の顔がぱあっと花開く。
「はい!」

●ローレライとオイナス
「見た目はあまり良くないけど……」
 ローレライは作ったバターチキンカレーとナンをテーブルに並べた。確かにいささか香ばしすぎるようだ。
「ボクはケバブを作ったのです!」
 それは見事な焼き加減であり、スパイスが程よく香る。
「ロー、食べ比べしたいのです!」
 オイナスは彼女の手に絆創膏が複数貼られている事を見逃さなかったが、それには触れないで笑顔で返した。
 彼女の一生懸命さが、嬉しかった。

●夕雨とユタカ
「具材を炒めた後にオーガニック、ガラムマサラ、砂糖を投入致す!」
 ユタカの手の甲のメモ書きを一瞥する夕雨。
「オーガニックですか……」
 そこには、『ターメリック』と書かれてあった。
「最後に塩を入れて、完成でござー!」
 瓶には『Suger』の文字。
「塩……」
 暫くの後、勢い良く蓋を開けると、中でオルトロスのえだまめが寝ていた。
「インドってすごい……」
 謎の感動に包まれた二人であった。

●【ひたはび】
「ふぃー。お腹も舌も限界気味だぜ」
 買い込んだカレーやタンドリーチキンを食した後、レミはそう言って、作ったラッシーを口に入れる。
「レミさんの作りましたラッシーも、とっても美味でごくごく飲んじゃいましたですじゃ」
 莉音のラッシーが入っていたグラスは既に空となっていた。
「ん、出来るもんだな」
 煉三は、皆で作ったクルフィを口に運ぶ。牛乳に砂糖とスパイスを使った硬いアイスを堪能する。
「うむ。甘いものは良い物だ」
 グラビティで冷やす役目を担当したクロセルも、満足そうだ。
「クロセルちゃんと莉音ちゃんが手伝ってるから大丈夫かと思って手伝いそびれたけど、お主ら、やりおるな……」
 その美味さに、頬が緩むレミであった。

●アンリとリコス
「はい、どうぞー」
 アンリがワゴンでガジャルハルワというお菓子を配っていた。
「一つ貰おう」
 通りがかったリコスが、ひょいと一つつまむ。
「口の中をリセットしたかった所だ。有難う」
「お口にあって、良かったです!」

 それぞれが作り、食べた。その賑わいの後、また、ケルベロス達は各地に散っていった。
 さあ、大運動会の再開だ。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月11日
難度:易しい
参加:89人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 9
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