ケルベロス大運動会~意気込みを一言!

作者:キジトラ

 度重なる「全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)」の発動。
 これによって世界経済は大きく疲弊した。何らかの経済対策が必要なのは誰の目にも明らかであり、早急に効果的なものが求められていた。
 そして、発表されたのがケルベロス大運動会!
 おもしろイベントによって収益を挙げようということになったのだ。
 で、その内容だが。
 ケルベロスたちに通常のダメージは効かない。つまり、世界中のプロモーターたちが危険過ぎるが故に使用できなかった「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」にも耐えることができるのを活かし、開催国である『インド』の各地にそういったものが数多く集められ、巨大で危険なスポーツ要塞が造り上げられた。
 こうして、インドの地にケルベロスたちが集結することになったのである――。

 オリンピックの報道を思い返して欲しい。
 それはトップニュースになる素材であり、今回も多くのマスコミが少しでもケルベロスたちの情報を得ようと空港に詰め寄せたのは当然のことであった。
 ましてや、今回行われるのは誰も見たことのないビッグイベント。彼らの意気込みたるや語るまでもないだろう。加えて、いまインドでは新聞ブームが起きていた。発行部数は伸び続け、互いに更なる売り上げを狙ってしのぎを削る状況だ。
 その中のひとつであるスポーツ新聞の記者2人も、ケルベロスたちを待ち構えていた。
「もうそろそろだな」
 壮年の男性が、隣の若くどこか頼りなさそうな女性に語り掛ける。
「……そうですね。でも、大運動会の競技って、どんな競技か想像しにくいんですよね。何を重点的に取材すればいいんでしょうか?」
「ケルベロスと我々一般人では次元が違うからな。が、とにかく凄い競技であることは間違いないから、パーッと派手な記事になるようにな」
「曖昧ですね、でも頑張りますよ」
 そう言って、頷く女性記者。
「……まあどうせ聞くことなら事欠かないさ。何せ、ケルベロスたちだぜ。ひとくくりになんて出来るような連中じゃねえ。秘策のひとつや二つは持ってるだろうし、どんなパフォーマンスやアクションが飛び出るか分かったもんじゃねえ」
「ああ……ありそうですね」
「おっと、ケルベロス様の、お出ましだ。行くぞ!」
「えっえっ? 待ってください」
 一斉に移動を始めるマスコミ。
 向かう先は入国手続きを終えて出てくるケルベロスたち。
 さあ、明日のスポーツ新聞を彩るのは誰だ?!


■リプレイ

●飛行船、到来
 空港はざわめきに包まれていた。遂にケルベロスたちの乗った飛行機が降り立ったこともあるが、次いで降りてきた魚のような飛行船に報道陣が色めき立っている。
 その搭乗口から現れたのはヴィクトリア朝の頃を想起させる装いの者たちで、赤ずきんを彷彿とさせる女性や、目を引くほどの豪華な装飾を散りばめた衣服をクールに着こなす男性、はたまた令嬢と思わしき麗しい女性、ぴしっとスーツを着こなしてゴーグル風のサングラスを掛けた女性と様々だ。悠々と歩いてくる姿に目を奪われぬ者など――いや、視線はすぐさま彼らへと駆け寄る記者の『波』へと移った。
 驚いたのはケルベロスたちも同様で、
「……え? どういうことですか?」
「皆さんが飛行船で来られることを知った連中が居たようで」
 説明しながら割って入る警備員――そしてあっという間に波に飲み込まれていく。
「役に立たないのか!?」
 恐るべき報道陣。
 されど、この程度で怯むケルベロスでもない。
「はーぁい、ケルベロスのエインメア、インドさんに到着いたしましたーぁ♪ お暑い中での歓迎、ありがとうございますーぅ!」
 詰め寄る報道陣に話し掛けると、即座にカメラのフラッシュが視界いっぱいに広がる。「その期待に十二分にお応えいたしますのでーぇ、どーぉぞ応援よろしくお願いいたしますねーぇ♪」
 エインが朗らかに応えている間に、仲間にもカメラやマイクが向けられ、
「秘策は我らが母船かな。詳細は船長アイラノレから……」
 応えながら零冶は記者の注目を飛行船へ、そして後ろの女性へと向ける。
「あの子……エフィジェのことが訊きたいんですか? 勿論お答えしますとも!」
 本来の取材とは少しずれているが、記者としても興味は十分。異論など出ようもない。
「あの子は我が愛する蒸気飛行船です。外装内装余すところなくスチームパンクがそのまま形になったような、その落ち着いた魅力は他の船にはそうないだろうと思っており――」
「今日はそんな事を話しに来た訳じゃございませんよ」
 逸れた話をアウラが修正しようとするも、アイラノレも記者たちも多少水を差された程度では話が終わらない。それどころか船内見学に話が進みつつあり、
「これはエフィジェの魅力を存分に紙面で表現して貰うしかありませんね……」
 船内へと報道陣を誘導するアイラノレの後を追って、彼女もタラップを上り始めた。

●さあ、第一号は?
 滑走路の一部で騒ぎが起こっている間に飛行機で到着したケルベロスたちは無事に入国手続きを終え、姿を現そうとしていた。いくつものTVカメラがその姿を捉えようと出入り口に向けられ、カメラを持つ記者の手もシャッターに添えられる。
 そして、遂に常葉と沙門が姿を見せ、視線が集まる一点で華々しくポーズを決めた!
 一斉に浴びせられるフラッシュ。
 決まったと、常葉と沙門がそう確信したところに、クレムの声が耳朶を打つ。
「あ、マジでポーズ取るんだ。ごめん何も考えてきてなかった」
「「……」」
 ポーズを決める2人、横ではどうしたものかと困っているクレム。更にその後ろでは他人のフリをしている夕雨が……。
「すまんな、期待を裏切って。つーか人数的にバランス悪くね?」
「あかんやろ、ケルベロスは世界のヒーローや。期待は裏切られへん」
「って、夕雨は何をしているのだ? ポーズぐらい決めなければ、歓迎してくれる者達に失礼ではないか!」
 順にクレム、常葉、沙門と口々に喋って、早くもカオスな予感が……。
「ええと、あなたたちはケルベロスでよろしいのでしょうか?」
 見かねたひとりの記者が後ろで他人のフリを続ける夕雨へとマイクを向ける。
「あ、そうですケルベロスです」
「あちらの方々はお知り合いでしょうか?」
「いえいえ、あちらのケルベロス3人組は知り合いではないですよ。同じ飛行機に乗り合わせただけの赤の他人です。今はケルベロスだらけですから」
 他人と言い切ったところで、クレムが急接近。
「なんか知らない人とか言ってるけど、この柴犬つれた狼のウェアライダーも仲間です」
「ええと……?」
(「離せ」)
(「逃がさん」)
 戸惑う記者を前に暗闘する2人。
 と、そこにざわめきが起こった。
 口々に上がる声と指が示す先にはロビーを駆けるカメレオンのマスクを被った男。全力疾走で駆けていく様は明らかに不振者であり、後を警備員が追いかけている。
「なんだあれは?」
「さあ……」
「心配するな、あれもケルベロスである。そう、デモンストレーションなのである」
 妙な乱入者に一時騒然となったものの、沙門が大見得を切ると注目が再び集まる。
「ええと、ですね。腹筋が割れてる方はまずケルベロスと見て間違いないです」
「ああ、腹筋が割れとる」
 夕雨が適当なフォローを入れると、常葉が真顔でうなずく。
 それを皮切りに、
「そこの釈迦なケルベロスは見たままやし、そっちのウーパールーパーが本体のケルベロスも割れとるし、この左目中二病なケモミミケルベロスも割れとる(自称)んやで」
「自称とは失礼な。晒した事ないだけでちゃんと沙門さん並みに割れてますとも。……あ、いえ知り合いではないです」
「まだ言うか?! というか、腹筋割れてる一般人もいるだろ。まあ、俺、割れてるけど」
「夕雨はともかく、割れてると言いつつ晒せないクレムはきっと割れてないのである。見栄っ張りである」
 みんな口々に言って収拾がつかない。
「まあ腹筋のみならず、ケルベロスは負けず嫌いも多いですね。ですから勝利を目指して頑張ります故、応援よろしくお願い致します」
 何とか、夕雨が綺麗に締めようとするがもう何もかも遅い!
 というか……これ記事にできないよ、と記者たちはこっそり思った。

●いよいよ取材本番
 先ほどの混乱はようやく収まり、ロビーには次々とケルベロスたちが現れている。
「おーっス、お待ちかねのケルベロスが来たゾ!」
 声を上げたのは小さなリュックを背負った軽装の女性、神月。
 陽気な声に記者たちが目を向けると手を振って応える。さすれば、注目が集まるのは自然のことで、格好の獲物を見つけたとネタを求めて記者たちが群がる。矢継ぎ早に浴びせられる質問の数々、それに答えながら神月は楽しそうに笑い、
「確か電車を止めるって競技もあるみてーだシ、見てナ」
 近くにある銅像を手で掴むと軽々と持ち上げて、その力を見せつける。
「とにかくあたしを見てろロ、損はさせねーゼ!」
 盛大なパフォーマンスに記者たちが盛り上がる。
 そこに女性の声が響いた。
「ドワーフのフィジカルを甘く見るなってトコ、全世界に見せてやるぜ」
 声の主はキサナ。
 彼女は恋人の琢磨と腕を組み、その様は新婚旅行から帰ってきた芸能人のようだ。
「大会で注目するケルベロスに迷ったら、オレと琢磨に注目するのも面白いかもしれねーぜ? ケルベロス随一のラブラブカップルが、スポーツで真剣勝負のガチマッチだ!」
 フラッシュが浴びせられると、キサナは組んでいる方の手を密かに固める。
(「――もらったぜ、一面トップ! こういう場は目立つことに意義があるからなっ!」)
 思い通りに進んだ余韻に浸りながら、記者たちが集まってくるのを待つが……来ない。見れば、こちらの様子を……正確には琢磨を警戒しているようだ。
 そう、琢磨の眼光はあまりに鋭く、近づきにくいオーラを放ち、夏だというのに紫のマフラーを巻いてる。つまりは、怪しい風体の男に記者たちは戸惑いを見せているのだ。
「いや、どんどん質問に来てくれていいんだぜ!」
「そうです。どんな質問にも、精一杯一つ一つ、丁寧に答えていこうと思います」
「……意外にまとも?」
 記者の声を聞いて、キサナが琢磨のせいだと肘で小突く。
 もう、この頃にはケルベロスたちがロビーのあちらこちらで取材を受けていた。そのひとりである永凛も女性記者の取材に話が弾んでいるところで、
「イベントを楽しんで、成功させる事。最終的には、それがデウスエクスに対する秘策になるわよね」
「なるほど素晴らしい考えです。ちなみに貴方自身はどうですか?」
「個人としてなら、そうね……色仕掛け、とか?」
「えっ……?」
 永凛はラブフェロモンを放ち、コートを捲って薄手の白衣一枚の姿をちらりと見せる。
「今のインドは暑いって聞いてたし、医者が真っ先に熱中症で倒れるわけにもいかないから、この格好で来たんだけど……」
「その、待ってください……こ、困ります」
 迫る永凛、顔を赤らめて後ずさる女性記者。
 ちょうどその時だ、ロビーに大きなざわめきが起こった。
 原因は入国手続きを終えて出てきたばかりのケルベロスたち。マフィアの構成員を思い浮かべる装いで、中央にいる幼い少女を守るようにメンバーが展開している。
「……すいません。あなた方もケルベロスなのでしょうか?」
 そんな彼らに話し掛けたのは、まだまだ新米の女性記者。おそらく上司であろう男性が心配そうに成り行きを見守っている。
「僕らにもインタビューかい? 報道陣の皆さん、お疲れ様だね」
 ミカルがにこやかに笑い、ケルベロスであることを肯定すると、
「わっ、お願いしてもいいですか? 特ダネ取って来いってデスクに言われてるんです」
「取材だって? 俺たちがどういう者か判って言ってるんだろうな?」
 歓喜の声が漏れたのも束の間、リュカがソフト帽を指で押し上げながら鋭い眼光を向けるれば、すぐさま笑顔は恐怖に変わった。
「驚かせると可哀想だよ。ほら、インタビューぐらいいいよね?」
「仕方が無い……それなら代表してこの三人が答えよう。その代わり他の者を煩わせることは一切許さない」
 再びリュカが睨みつけると記者の首がコクコクと何度も振られる。
 そこに、カメラのフラッシュが光った。おそらく先ほどの遣り取りを記事にしようとシャッターを押したのだろう。リュカはそれを行なった記者へと足早に近付いていく。
「お前、今ボスの写真を撮ったな?」
「ひぃ……助けてください」
「お可愛らしいから撮りたくなる気持ちも解るが駄目だ、データを寄越して貰おう……」
「へっ!?」
 続いた言葉に意外な一面を見て記者は目を白黒させる。
 そんな遣り取りやミカルの温厚な対応に記者たちも少しずつ彼らの周りに集まり出した。取材が始まれば、素っ気ないところはもあるものの、きちんと答えてくれる。ならば、このネタを放っておく手はないと記者たちが更に集まっていく。
 そして、こういったことが初めてであるレスターにもマイクが向けられた。
「どうしてミルポワルファミリアにきたかって?」
「はい、出来れば詳しく教えて頂けると」
「俺はもともとエインヘリアルに仕えるヴァルキュリアでね。……とても口にできないような汚れ仕事を命じられてきた。ケルベロスの活躍でやっと解放されて自由の身になったものの行き場がなく、裏社会をさまよっていたところをリュカに拾われたんだ」
 語られる経緯に質問した記者はどう言ったものかと二の句が告げられない。
「でも、今は充実してる。ファミリアの皆はよくしてくれるし……マフィアは世間的にはよく言われないけど、俺みたいな行き場のない者の受け皿になってくれる組織も必要じゃないかなって」
「いい話ですね」
 傍らで聞いていた記者が感想をつぶやくと、
「マフィアって聞くと逃げちゃう人が大半だけど、そう言う存在だって思ってもらえたら」
 ミカルがうなずきながらそれに応える。
 記者が周りを見れば、律儀に答えているリュカの姿や、ルービックキューブの腕前を披露するレスターの姿が映った。
「はい、頑張る貴女へ一輪の薔薇を。ふふふ、インタビューありがとね」
 ミカルもまたスカーフから薔薇を出す簡単な手品を披露する。
 こうして、ミルポワルファミリアの取材が終わる頃には他のケルベロスへの取材も粗方終わり、騒がしかったロビーもようやく落ち着きを取り戻した。

●そして、新聞記事
 いよいよ間近に迫ったケルベロス大運動会。
 参加するケルベロスたちも続々と到着している。本誌ではその第一陣のインタビューに成功、その多様さの一面を捉えることができた。
 まず、報道陣を騒がせたのは飛行船エフィジェだ。その船体の見事さもさることながら、アイラノレ・ビスッチカ氏の好意で見学が許された。詳しくは別紙の『これが飛行船エフィジェだ!』をご覧頂きたい。そして、所有する飛行船で乗り込んで来るほどの意気込みからも分かる通り、船員たちの熱意も高いものであった。「ハイパー……なんだっけ? どうせ大したことないスポーツなんだろ」と嘯く時浦・零冶氏や、「狙うは勿論優勝です! 優勝してこの船の良さ、そしてスチームパンクをもっと広く知ってもらうのです!!」とアイラノレ氏も豪語していた。
 次いで報道陣を騒がせたのは旅団『しろんち』の4人組だ。特に唐繰・沙門氏は仏教徒のような装いであったため、記者たちから好印象を持たれていた。彼らに勝利の秘訣を問うと、答えは『お金』。「お布施(金)があれば何でもできるのである」「え? イメージ悪い? でも金やろ???」となかなか現実的な側面を見せてくれた。なお、ケルベロスウォーの資金援助はいつでも受け付けているとのことだ。騒がせたというのならミルポワルファミリアの面々も捨て置けない。裏社会の人間である彼らが何を見せてくれるのか? インタビューに答えてくれた善知鳥・リュカ氏は「ふん、ファミリアの絆があれば他には何も要らん。……まあ多少『俺たちだけにしか出来ない仕事』もやらんでもないがな」と謎めいたコメントを残してる。
 他にも除・神月氏のように「勝つにゃあ細かい作戦なんて必要ねーゼ! あたしみてーな強ぇ奴が勝ツ、分かりやすくて良いだロ?」と豪語するものや、キサナ・ドゥ氏のように「オレを応援するか、琢磨を応援するか。さあ、新聞読んでるてめぇはどうすんだ?」と挑発的なコメントも頂いている。一方で、ミカル・アバーテ氏のように「競技は一般人には凄く危険なものもあるみたい。だから当日はあまり近づかないよう安全なところで取材してね?」と報道陣や観客の心配をするもの、弓月・永凛氏のように「私はそれほど強くないし、優勝なんて大それた事は考えていないけど……ケルベロスが一人でも多く参加すれば、それだけ元気になれる人が増えると思って」と心が温かくなるようなコメントも頂いている。
 なお、多数のケルベロスと報道陣で空港がごった返したことにより、いくつかの混乱も見られたようだ。カメレオンのマスクを被って入国したレオン・カメルダ氏が注意を受けたり、一部でやや破廉恥な行為も見られたようである。
 それでは紙面も尽きてきたところで今回快く取材に応じてくれたケルベロスたちにこの場を借りて謝意を伝え、彼らの奮闘を祈ろう。

作者:キジトラ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月11日
難度:易しい
参加:16人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。