悪夢の蛾人間モスマン

作者:塩田多弾砲

「見てろ、絶対にここには何か有る! そいつをハッキリした動画で撮ってやる!」
 ここは、とある森の中。周囲にはうっそうとした木々が生え、昼なお暗く、じめじめとしている。
 道らしい道も無く、藪や下生えに構う事なく、家庭用小型ビデオカメラを構えた高校生くらいの男が進んでいた。
「……映像は撮れてるな。えー、こちらは『不思議探検ちゃんねる』主催、三石です。最近、こちらで翼を持つ、未確認生物の目撃情報があるとの事です。不思議大好きな私共としては、それを確認すべく前人未到……ってわけでもないけど、その現場へと潜入しております!……くそっ、もう電池切れかよ」
 彼……三石小太郎は一旦カメラを止め、電池を交換し、撮影を再開する。
「……よっし。えー、撮影再開します。目撃されたモンスターは、いわゆる蛾男、『モスマン』とよばれるUMAに非常によく似ているというのです。もしもこれが本物のモスマン、もしくは新種の動物だとしたら、私はこれを『モスマン・ジャパン』と命名したく思います! モスマンとはアメリカで60年代から目撃されるUMAで、背中に蝶または蛾のような翼を有して空を飛び人を襲う……あれ?」
 藪を越えたその先にあったのは、不法投棄された粗大ごみの山。その中に混ざっていたのは、背中に蝶の翅を生やした女の子が描かれた大きな看板。
「……ってなんだよー、これが目撃談のオチ? ったく、『不思議探検ちゃんねる』は今回も謎は謎のままに終わりましたが、引き続き我々は調査を……」
 三石の言葉は、そこで途切れた。
「え?」
 彼は知った。自分の胸が『貫かれている』のを。
 それは、大振りの刃物ほどもある『鍵』。そして、それを手にしているのは……黒いボロ布めいた服に身を包んだ、やつれた感のある白髪・白肌の女性。
「……私のモザイクは晴れない、けれど。あなたの『興味』には、とても興味があります」
 その女性……第五の魔女・アウゲイアスは、突き刺した『鍵』を、えぐる様に動かした。
 三石は倒れ、そしてその場に……巨大な『何か』が姿を現した。
 そのシルエットは、『蝶または蛾の翼を持つ人間』に酷似していた。

「……と、こんな事が起こったッス」
 黒瀬・ダンテが、状況を説明する。
「簡単に言えば、不思議大好きな連中が『興味』持って調べに行ったら、ドリームイーターに襲われて『興味』を奪われちまった……って事っスね」
 既にそのドリームイーター自体は姿を消してしまっているようだが、奪われた『興味』を現実化した怪物型のドリームイーターは、すでに生まれ落ちてしまっている。
「この、怪物の形をしたドリームイーターをぶっ倒す事が、今回の依頼内容ッス。こいつをやっつけちまったら、『興味』を取られちまった被害者も、目を覚ますッスね」
 今回戦い倒すべきは、このドリームイーターのモンスター一体のみ。配下らしきものは見当たらないという。
「けど、人間を見つけると『答えよ、我は何者ぞ?』と聞いてくるみたいッスね。で、正しい答えが返ってこないと、殺しちまうそうです」
 ただ……と、ダンテは付け加える。
「このドリームイーターは、自分の事を信じてたり噂してる人が居ると、そっちに引き寄せられる……みたいなんで、その点をうまく使ったら有利に呼び出して戦えるんじゃあないかと思いまッス」
 その姿は、確かに蝶または蛾に酷似しているが……むしろ、それを悪夢で歪めたような、恐ろし気な面構えをしているという。どちらかと言えば、蛾をモチーフにデザインした『怪人』のようだと。
 身長は2m。頭部は巨大な複眼を持ち、赤く不気味に輝いている。全体的に、いかにも蛾をそのまま巨大化させて、人間と混ぜ合わせたかのような姿。手足は人間と変わりないが、やはり昆虫と同じような外観。そして背中からは、巨大な翼が生えており、これを用いて自在に飛行するだけでなく、大量の鱗粉を放つ事もできるという。
「正直、あの鱗粉に包まれたらと思うと、ぞっとしないッスね」
 三石は、倒れた場所に意識を失ったままらしい。そして、ドリームイーターを倒さねば、目を覚まさない。
「ま、何に興味持つかは人それぞれッスが、こういう知的好奇心を持つのは悪くないッスね。けど、こいつらはその『興味』を悪用して、こんなバケモン作りやがった。許せねー奴らっス」
 この怪物を倒す必要がある。その事を悟った君たちは……参加を決め、その意思をダンテへと伝えた。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)
斎藤・斎(修羅・e04127)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
ロイ・メイ(荒城の月・e06031)
アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)
ジェーン・ダンサー(フラグメンテーション・e20384)

■リプレイ

●search1・出発と探索
「……緑が匂う、な」
 結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は、森の中の道なき道を歩きつつ、つぶやいた。威風堂々とした、白き獅子のウェアライダーである彼。だがその眼差しに差すは、不安の影。
 木々の根元に生えている草が地面を隠しているが、レオナルドらケルベロス達が用いている『隠された森の小路』が、歩きにくさを軽減している。
 だが、『軽減』しているだけで、歩きにくさを『解消』しているわけではない。それが証拠に、時おりレオナルドは下生えに隠れた泥濘に足を取られていた。
 それは、周りの仲間たちも同様らしい。彼は、仲間の一人に視線を転じた。
「桑の葉を切らした天蚕農家と掛けましてー、……リストラ候補の人と解きますー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)の、おっとりした口調が森の中に響く。
「その心はー、どちらも『蚕(解雇)の危機』ですー」
 小料理屋の女将のように、微笑みと安心感、清楚さと穏やかさを漂わせている彼女は、額にはめたサークレットが印象的だった。
「まあ、座布団一枚ですね」
 フラッタリーの謎かけに相槌を打つは、金の瞳を持つ銀髪の、シャドウエルフの美少女。
「カイコと言えば蛾ですが、蛾男……モスマンって本当にいるんでしょうかね」
 エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)の言葉に、すぐそばの少女が反応した。
「ほう、ローカストではないのかのう? ……なら、その違いを確かめるため会ってみたいものじゃ」
 小柄な……幼女にしか見えぬ少女が、尊大な口調でエスカに言葉を返す。その少女の口元にあるのは『髭』。
 その髭……『付け髭』の端を撫でつけつつ、ドワーフの少女……ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は周囲へと視線を向けている。
「ううん。モスマン……一体、何マンなんだ……」
 ウィゼとはいささか会話がかみ合わぬ内容の言葉を発しているのは、こちらもまたシャドウエルフの美少女。ただしこちらは、エスカと異なり色黒で豊満な体型。白髪と紫の美しい瞳を持つ彼女の名は、ロイ・メイ(荒城の月・e06031)。
 そんなロイの言葉を受け、長い黒髪と細身の体型、鋭い眼差しを持つ少女が、「へっ」と嘲るようなため息をついた。
「何マン? なんだか知らねーけどよぉ、要は昆虫採集だろ? たかだか虫捕りしてて虫なんざに殺されてちゃあ、世話ねえぜ……」
「2mはあるそうですよ?」
「……え? 2mだぁ?」
 エスカに言われ、一瞬言葉に詰まったのは、アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)。
 そして、その後方にいるのは、長い髪のメガネ少女。
「いやあ、私は別段興味があるわけがないんですが、実際に調べてみると面白い、というか、愛らしいものですね」
 などと言っているが、斎藤・斎(修羅・e04127)は言葉と裏腹に、胸躍る様子を隠しきれていない。その手には、たくさんの付箋が貼られたオカルト雑誌が握られていた。
「この雑誌によると、『モスマン(Mothman)』とは1966年ごろアメリカ合衆国ウェストバージニア州ポイント・プレザント一帯を脅かしたUMAでして、体長はエスカさんの言う通り約2m。目がギラギラと赤く輝く、蛾のような翼を持つ人型UMA……との事です」
 そんな斎の後ろから、ジェーン・ダンサー(フラグメンテーション・e20384)は雑誌を覗きこんだ。
「ふむ……目は確かに大きいが、腕は無いな。見たところ、このイラストのは、蛾に似てるとは言えないようだが」
 歩きながら、ジェーンは自らの青い瞳で、雑誌に掲載された写真を見ていく。オルトロスである彼女の足下には、彼女の相棒であるラージュが。
「まあ、はっきりした目撃証言はまだ無いので、正しいモスマンとはどんな形なのか、いまだ不明なんだそうです」
 得意げにそう答える斎に、
「ふーん。詳しいじゃねえか」
「だな。好きなのか?」
 アンナとロイが、感心したようにつぶやく。が、それを聞いた齋は狼狽えた。
「え? い、いやいやいや。別にそんな事ないですうげっ」
 最後の『うげっ』は、斎が木の根っこに足を取られ、転んでしまった時の声。
「って、なんでこんなところに根っこがあるんですかー!」
「そんなもの見ながら歩くからじゃ。足元に気を付けい」
 ウィゼの言葉に、斎以外の女性は納得するかのようにうなずく。
 それを見て、この中の唯一の男性であるレオナルドは、口元に微笑みを浮かべ……そして、『気づいた』。
 自分の中の恐怖が、ほんの『僅か』ではあったが……和らいだ事に。

●search2・噂話と待伏
 そうこうしているうちに、現地に……不法投棄された森の中のゴミ捨て場に到着。倒れた人間……三石の姿を発見した。
「ふむ、スーパーGPSによると、ここで場所は間違いなさそうじゃな」
「ええ。持参したこの地図と照らし合わせても、ここが件のゴミ捨て場のようですね」
 ウィゼとジェーンが、スーパーGPSと地図とを取り出し確認する。
 木々の間に、三石はぐったりした様子でそこに倒れていた。その手には家庭用の小型ビデオカメラ。エスカはそれを拾い上げて電源を入れようとしたが、反応しない。
「壊れてますね……」
「とにかく、彼をどこか安全な場所に運ぼう。話はそこからだ」
 ジェーンの言葉を受け、レオナルドは三石を抱え上げた。ちょうど大きな岩が近くにあったので、それを背にして寄りかからせる。
「三石は確保できたが、あとは俺たちの問題だな。どこかに『開けた場所』を……」
「見つけましたー」
「そう、見つけねえと……って、マジか!?」
 調子を狂わされたアンナをよそに、フラッタリーはとある場所……ゴミ捨て場に隣接しているその場所を指さした。
 錆が浮いた大きな鉄板やら看板やらが、倒れて、そこに開けた場所を作り出していたのだ。
「ふむ、積まれていた鉄板が崩れてしまい、この地面を『蓋』をしたように覆ってしまったようじゃな。あつらえ向きだ」
 ウィゼが調べながら、鉄板の上で飛び跳ねる。腐食しておらず、ケルベロスたち全員の体重を支えるに足る強度はあるようだ。崩れた際に、小さ目の木や草、灌木は薙ぎ払われて下敷きになってしまったらしい。
「よし。ならみんな、打ち合わせ通り……『噂話』を頼む」
 レオナルドの言葉が終わると……女性七名によるかしましい空間が、その場に出現した。

「なんだか蝶とか蛾の姿をした人型のUMAが目撃されたそうなのです、ほんとにいるなら会ってみたいのですよ~、かなりの興味が有るのです」
「それを聞いて整いましたー。モスマンと掛けましてー、村の村長さんと解きますー」
「その心は?」
「どちらも『蝶々(町長)ではない』ですー」
「……なるほど、確かに村長はチョウチョウではないからな」
 エスカとフラッタリー、ロイの、気の抜けたやり取りの脇では、
「……で、ですね。モスマンはネズミ、またはコウモリのような『キイキイ』という鳴き声を発したとか、第一発見者が車で時速160kmで逃走した際にも、同じくらいのスピードで追っかけてきたりとか、夜に吠える飼い犬の前に巨大な赤い目のモスマンが現れたとか、火薬工場の爆発事件の犯人だとか、様々な情報があるんですよ」
「ふーん、そいつはすごいのう」
 斎とウィゼとが、他愛ない噂をおしゃべりしている。
「こんな姿らしいですけど、蛾というよりはもっと別のナニかですね」
 子供向けの書籍のページを開き、レオナルドもその会話に参加。
 こうやって、『噂話』をすることで、モスマンを誘き出し。出現したら、全員で叩く。
 レオナルドが、頭の中で作戦を確認していたその時、
「……答エ、ヨ」
 その瞬間は、いきなり訪れた。
 やたらと耳障りな、おぞましい響きの『声』……否、声と呼びたくない邪悪な音。それは言葉となり、言葉はケルベロスたちの耳へ、『嫌悪感』を注ぎ込んでいた。

●search3・強襲と攻撃
「……ワレ、ハ……何者、カ?」
『声』の問いかけを理解すると同時に、ケルベロスたちは行動を起こし……。
 全員が、背中合わせに円陣を組んだ。即座に、その鋭い視線が、『声の主』を探り始める。
「……くそっ、見当たらねえ」
 アンナの言う通り、何かが居る気配はするものの、それを視認する事はできない。できていない。
 三石の近くにも居ないようだ。ジェーンは自分でそれを確認していた。
「答エ、ヨ。ワレ、ハ、何者、カ?」
 再び響く、おぞましい響きの声。
 それに対し……。
 五人のケルベロスが、それに答えた。
「お前はモスマンだ!」
 レオナルドの返答に続くは、
「怪人ガ男!」と、斎。
「お主はモスマン、ローカストなのじゃ」
 ウィゼの返答が終わらぬうち、どこかで……何かが羽ばたくような音。
「ああ、知ってるぜ、お前。あれだろ――ニクマンだ」これは、アンナ。
「呪い」こちらは、ジェーン。
 もはや、蛾とも、UMAとしてのモスマンとも関係ない返答。怒っているかのように、動物めいたキィキィ声が響く。
「何者って……さあね。それ、私が答える義理はあるのか」
 とどめとばかり、ロイの言葉が投げつけられる。
「君は……倒されるだけの『敵』だ」
 ロイの言葉が終わると同時に。
 レオナルドの視線の前に、『そいつ』が、その姿を表した。
「……現実に出てきてしまうと、ひどいものですね!」
 心の中で愛らしいと思い描いていたらなおさら。斎は心中でそれを付け加えつつ、リボルバー銃と士魂刀とを両手に握った。
 そいつの姿は、一見すると、『直立した蛾』。人間と蛾とが程よく混ざり合った、おぞましい合成生物。額からは蛾の触覚、両目の巨大な複眼が、ケルベロス達を冷たく見つめ返している。
 背中には、巨大な蛾のそれを移植したかのような翼。くすんだ色合いなれど、奇妙な美しさも同時に感じられる模様が、そこにはあった。翼の角部分には、血のような赤色の丸い模様。
 怪物は、ケルベロスたちを認めると……急降下し、強襲した。

 既に、ケルベロスは布陣を引いていた。
 レオナルドとフラッタリー、ロイとアンナ、この四人が前衛に。
 その後ろにはエスカが控え、後衛にジェーンと斎、ウィゼが控えている。
 レオナルドは、恐怖により身体の動きが止まりそうになっていた。だが、意志の力でそれを堪え。武器を、ガトリング砲を構え、撃つ!
 弾丸が空中を切り裂き、蛾男へと逆に襲い掛かる。その表面に数発の弾丸が打ち込まれるが……。思った以上に飛行速度は速かった。
「キキィーッ!」
 不気味な鳴き声と共にモスマンは、手の爪でレオナルドと、彼に並び立つフラッタリー、二人のクラッシャーの前に襲い掛かる。
「ぐっ!」
「……!」
 すれ違いざま。レオナルドの体を、強烈な斬撃が襲い掛かった。
 だが、それと同時に。
「選ビ、マセ!」
 狂気のうめき声が、フラッタリーの口から迸った。狂乱の獣さながらに、彼女は飛び跳ね、モスマンへと逆に襲撃する。
「……己デ姿ヲ見出sUカ、我ラgA其之身ヲ抉リ刻ムKa!」
 手にした惨殺ナイフの刀身に、モスマン自身の醜き姿が写り込み、その刃が……モスマンの体に、切り込まれる。
「キキィーッ!キィーッ!」
 怪物めいたフラッタリーにより、怪物の左腕が……切断された。悲痛とも思える叫びが、森林内に響き渡る。
 手負いのモスマンは空中へと逃れ、その隙をついてディフェンダーの前衛二人、アンナとロイとが、レオナルドに駆け付けた。
「おい、大丈夫か!?」
「あ、ああ。問題ない!」
 アンナへ、レオナルドは無理をしつつ強がった。震える手を、震える手で無理やり押さえつける。
「来るわ、後ろよ!」
 斎が叫ぶ。それとともに、
「はっ!」
 ジェーンがケルベロスチェインを放った。
 伸びる鎖が、蛇のように宙を舞い、モスマンへと絡みつく。がんじがらめにされたものの、モスマンは鎖に抗い、空中へ逃れんとする。『猟犬縛鎖』により動きを封じられたモスマンを見て、エスカは勝利を確信した。
 だが、攻撃続行しようと考えた、次の瞬間。
 モスマンの翼から、『鱗粉』が放たれ始めた。

●search4・幻惑と逆転
「気を付けるのじゃ! そやつ、仕掛けてくるぞ!」
 ウィゼの警告は、間に合わなかった。モスマンの翼から生じた鱗粉は、濃い粉塵となり、モスマンの周囲を漂った。
 まるで、空間そのものが汚染されたかのよう。鱗粉を含んだ空気は、そのままケルベロスたちへと襲い掛かり、容赦なく包み込んでいく。
「くっ!」
「く、うううっ!」
「げほっ!」
 アンナとロイ、エスカが、鱗粉の雲に包まれてしまった。その息苦しさにせきこみ、空気を求めて喘ぎ、きりきり舞いする。
「がハアッ!」
 フラッタリーもまた、獣と狂気の衝動のままに、鱗粉の中に突っ込んでいったが。肺と心をひっかきまわされ、のたうち回る結果に。
「な、何……これ……!」
 ジェーンもまた、同様に混乱し、恐怖していた。鱗粉の作用で生じた、おぞましき光景に!
 心中を、怪しき想いで満たされていく。気が狂いそうになる想いが、大挙して心中へなだれ込んでいく。
 まずい。すごく、まずい。
 このまま、幻惑され続けると……奴を倒す事ができない。このまま、この地で果てる光景しか、目に浮かばない。
 混乱の中、ジェーンは……。
 エスカを、見た。
「……手繰り、招き顕れよ。そは死を喚ぶ運命の傷なりて!」
 エスカは、『呪い』を、放っていた。それはモスマンに叩き付けられ、呪いはモスマンの全身を苛む。
「これぞ、『拘束術式・死痕(コウソクジュツシキ・シソウ)』! 過去と、現在と、未来の傷。ここに顕現せり!」
 それとともに、モスマンの翼もぼろぼろになり、同時に全身にもあらゆる傷が現れる。
「キキーッ! キーッ! キーッ! キーッ!」
 まさに、断末魔の叫び。
 ジェーンの猟犬縛鎖を受けたまま、モスマンは地面に落下。間髪入れず、復活したレオナルドが、
「くらえっ!『ブレイジングバースト』ッ!」
 爆炎の魔力が込められた、強力な弾丸の嵐を、モスマンへと叩き付ける。
 翼を撃ち抜かれ、胸部を、全身を撃ち抜かれ、それと共に炎が怪物を包みこみ……引導を、渡した。
「……はあっ、はあっ、はあっ……」
 戦いが終わり、再び自分の身体に残る恐怖……それがレオナルドの体を、今再び苛み始めた。

●search5・蘇生と帰還
「……あれ? 俺、一体……」
 モスマンが倒されたとともに、三石が目を覚ました。
 三石が、最初に見たもの。それは、自分に迫るケルベロスたち。
「大丈夫、ですか?」
 フラッタリーの穏やかな言葉に、三石は頷く。
 彼女の方もまた……三石が安全だと知り、安堵を覚えていた。

 後の始末をつけ、一同はその場所から立ち去った。
 森に平穏が戻り、舞う蛾が美しい光景を、そこに描いていた。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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