チーム黄巾、攻性植物に死す!

作者:紫堂空

●殺人植物はドウグに含まれますか?
 夜も更けた午後十時。
 廃墟となったホテル、その敷地に十数名の若者のチームが二つ集まっていた。
 もちろん、仲良くスイーツを味わうためではない。
「スッゾコラァアアア!!」
「ガガッデゴイヤァアアアアアア!!」
 不良達の円の中心には、二人の少年。
 殺気立った面々の中でも一際頭に血を上らせている彼等は、互いのグループの代表選手なのだ。
「ダラッシャアアア!!」
 ドウグ無し、ルール無用のデスマッチ。
 勝ったのは、黄色い布を頭に巻いた『チーム黄巾』の少年だ。
 負けた方の少年は顔面を強打され、意識は無い。
「へっ、どうやらウチのチームの勝ちみてぇだなぁ、ああああん? おら、さっさと尻尾巻いて逃げ出しな! お前らの『ナワバリ』は俺達が有効に活用してやるからよ!?」
「――まだだ、まだだよぉおお! おい!!」
 相手チームのリーダーが、物陰に向かって声をかける。
 しゅるる、しゅるる……。
「ああああん? テメェエエ、何を――」
 人とも獣とも違うその音に、黄巾の長が訝しげな声を上げる。
 現れたのは――巨大な動く植物。
 それからチーム黄巾の全員が植物にすっかり喰われてしまうまで、三分とかからないのだった。

●知らない実を不用意に食べてはいけません
「茨城県かすみがうら市をご存知ですか?」
 セリカ・リュミエールは、集まった面々にそう切り出す。
「最近急激な発展を遂げたこの街には若者も多く、幾つもの不良グループが生まれお互いに争っているのです」
 漫画かなにかの影響を受けたのか、自分達の支配地域『ナワバリ』を賭けた代表者同士の『タイマン』を行っているのだ。
「それだけなら微笑まし――くはないですが、ケルベロスが関わるものではありません。
 ですが最近、あるチームのメンバーがデウスエクスである攻性植物の果実を取り込んで異形化したのです」
 チームの争いに投入された『彼』は、敵対グループの全員を殺してしまうのだという。
「放っておけば、その被害はとどまることなく広がり続けるでしょう。『彼』による最初の犠牲者が出る前に、攻性植物の撃破をお願いします」
 標的となるのは、攻性植物一体。自律行動する巨大植物だ。
 その攻撃手段は三つ。
 近くのもの一体に喰らいつき、毒を流し込む捕食形態。
 同じく近場の一人に絡みつき締め上げる蔓触手形態。
 光を集めて放つ、光花形態――こちらは遠距離まで届くので注意が必要かもしれない。
「続いて現場の状況です。事件が起きるのは、住宅地から離れた山中の廃ホテルです」
 夜間であり、不良のたまり場になっていることも地域の人間はみんな知っている。
 事件に巻き込まれる不良グループ以外に出くわすことは無いだろう。
「彼等はただの人間ですので、脅威となることはありません。攻性植物との戦いが始まればすぐに逃げていくでしょう」
 戦闘後にのこのこ戻ってくるほど愚かならば……今後のために、少々教育してあげてもいいかもしれない。
「先だっての戦争とは関わりの無い案件ですが、確かな脅威を見過ごしてはおけません。皆様、よろしくお願いします」


参加者
ラーダ・ナーザ(煙竜・e00864)
緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)
相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)
マリア・ヴァンガード(メイドオブホーネット・e04224)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
伊集院・忍(ゲーセン大好き・e04986)
男女川・かえる(筑波山からやってきた・e08836)
東雲・時雨(東雲流剣術の使い手・e11288)

■リプレイ

●廃墟の夜と攻性植物
「うーん、なんか茨城県内でヤンキーが攻性植物に寄生される事件が増えてるよねー」
「変な物は食うなって思うんだが、やっぱ力ってのは欲しい物なのかねぇ」
 ランタンを手に山道を歩く男女川・かえる(筑波山からやってきた・e08836)の発言に、相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)が若者の暴走を憂いて嘆く。
 夜道を照らす灯りは、着実に目的地へと近づいていく。
 夜間であり目的地が廃墟であることから、それぞれ持ち運びが出来て地面に置いておける照明器具を持ち込んだのだが、移動にも役立つとは嬉しい誤算だった。
(「わうっ、殴り合いだけなら笑っていられたけど、攻性植物が絡んでいるなら他人事じゃないね。きっちり燃やしたいかもっ」)
 緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)がひとり、事件解決への熱意を見せる。
「ウチの方まで来る前に、なんか対策とりたいけどどうしたらいいのかなー」
「やれやれ……? 攻性植物の種子をばらまいている奴がいるのか――周期的な大量発生なのかどうか。調べる必要はあるだろうね」
 かえるの心配げな声に、ラーダ・ナーザ(煙竜・e00864)も事態の深刻さについて考えをめぐらせる。
「あるいは、なにか大掛かりな企みが隠されているのかもしれません」
 以前にも攻性植物を退治したことがあるというマリア・ヴァンガード(メイドオブホーネット・e04224)は、それぞれの事件に繋がりがあるのではないかと強く疑っている。
 共に事に当たるケルベロス達にその疑念を話したところ、幾人かは興味を持ったようで、このように山道を歩く間の話題として活用されているのだ。
「ま、実際のところはともかく、今回の事件を起こすデカブツを始末する方が先だがね」
 ラーダが言うとおり、なにはともあれ、今回の件を無事に終わらせなくては話にならない。
「おや、ちょうどいい頃合のようですね」
 ようやく目的地の廃ホテルに着いたケルベロス達だが、状況は分かりやすい。
 ヒートアップしていた不良連中が、一斉に歓声を上げている。
『タイマン』の決着がついたのだろう。
 離れて見ていれば、負けたチームのリーダーがちらりと物陰に視線を送ったのが分かる。
 おそらくはそこに、今回の標的である攻性植物を潜ませているのだろう。
「――やれやれ、喧嘩のルール一つも守れないんですか?」
 戦い全般で必要なのは、先手を取ること。
 不良達のもとへ進み出た東雲・時雨(東雲流剣術の使い手・e11288)が、攻性植物側のリーダーへ呆れたような声をかける。
「餓鬼の喧嘩は素手で一対一じゃァねえといけねえ。妙なドウグに頼るなァちょいと頂けねえ」
 茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)もずずいっと前に出る。
 博徒たちを束ねていた経験から、彼女なりの美意識があるのだろう。
「この喧嘩、預からせて頂きやすぜ」
「な、なんだお前ら! この俺を、『チーム黄布』の張角サマと知っての『カチコミ』かぁ!?」
 突然の乱入に、殺される側のチームのリーダーが凄んでみせるが、ケルベロスにとっては滑稽なだけである。
「……ガキ共、巻き込まれたく無けりゃ、この場から立ち去りな」
 玄蔵が、状況把握の出来ていない不良達に忠告する。
(「……ふむ」)
 その横に立つマリアは戦闘後に不良達から情報収集をしようと考えており、彼らの人数や顔の把握にいそしんでいる。
(「DQNは嫌いだが、攻性植物よりかはマシだしな……」)
 仕方ない。そんな風に諦めながら、伊集院・忍(ゲーセン大好き・e04986)は魔人降臨を発動させ、その異様な姿で不良達を脅かし逃げ出させようとする。
「お、おおぉっ!?」
 驚き、どよめく一同。
 その騒ぎに触発されたのか、攻性植物が物陰から姿を現す。
 完全な異形の存在に、再度湧き上がる驚きの声。
「さて――」
 不良達の視線が一点に集まったタイミングで時雨が剣気を開放し、不良連中にここから離れるように指示を出す。
 もっと指示を細かく融通をきかせられればやりやすいのだが、無いものねだりをしても仕方ない。
 不安といえば、戦闘後に彼らに接触出来るのかだが――。
「でもまぁ、大丈夫じゃないかなー?」
 かえるが指差す先には、置き捨てられた無数のバイク。
 ここまで来るのに使っていたのだろう。
 ふらふらと徒歩で立ち去る彼らは、おそらく正気に戻った時点で取りに戻ってくるのではないか。
「おっと。お前の相手は私達よ?」
 動くものを優先して狙おうというのか、最も近い不良の方へと動き出す攻性植物。
 その注意を引き付けるために、敬香が攻撃を仕掛けつつ前に出る。
「……残念です」
 攻性植物の動きから、宿主の意識は完全に無いと察したマリアが悔しげに漏らす。
 会話が可能であれば色々と有力な情報が得られたかもしれないが、そううまくはいかないようだ。
「さて、邪魔なお子様達は居なくなったな」
 不良達が戦場を離れたのを確認し、玄蔵が殺界形成を発動させる。
 これで、戦闘終了まで邪魔が入ることは無いだろう。
「戦いの時はきた……」
 体を構成する蔓を動かし戦意らしきものを示す攻性植物を前に、忍は一人呟く。
「Temps pour le lit(お休みの時間よ) ……さぁ、番犬の牙で食い破ってあげるわ」
 眼鏡を外し戦闘モードへ切り替えた敬香が言い放ち、攻性植物とケルベロス達との戦闘が始まった。

●生きてる植物は意外に燃え辛い
「おいたはそこまでよ!」
 開幕の一撃。
 敬香がフォートレスキャノンできついお灸をすえようとするが、攻性植物は音に反応するオモチャのようにゆらゆらと動き、砲撃を回避する。
「煙に巻かれて踊りな」
 ラーダが愛用の煙管から煙を吐き出すと、生き物のように殺人植物へ絡みついて視界を遮る。
「焼き払います」
 煙によって生まれた死角から接近したマリアが、禍々しさをみせるエアシューズに地獄の炎を纏わせ背後から蹴りつける。
 だが、音か、空気の流れか――あるいは両方か。
 相手は視覚だけに頼っているのではないらしい。
 寸前で回避されたマリアの炎は、攻性植物のごつごつした表皮を軽く炙るにとどまる。
「マリアちゃん、どいて!」
 声をかけつつ、かえるがアームドフォートの主砲をぶっぱなす。
 マリアが攻撃範囲を離脱した直後に砲弾が通り、攻性植物の幹を抉り飛ばす。
「こうなってしまった以上は斬る以外他ないのでな、悪く思うなよ」
 時雨が傷口狙いの絶空斬を放つが、斬撃は空を切る。
「ぐぅっ!」
 逆に変化した右触腕に、攻撃後の隙を狙って喰いつかれる。
「どこを見ている、おらおらぁ!」
 忍が、自身を奮い立たせながら攻性植物の間合いに踏み込む。
 注意を引きつけ時雨への追撃を防ぎつつ、螺旋の力をこめた掌打でもって相手の足元に実った異形の果実を打ち砕く。
「旦那、おいたはいけやせンぜ」
 反撃に動く攻性植物へ、三毛乃のクイックドロウ。
 空いた右手を器用に動かし、西部劇のガンマンじみた早撃ちで殺人植物の武器蔦を穿つ。
 攻性植物の捕食から開放された時雨へ、玄蔵がウィッチオペレーションによる緊急手術。
「助かった」
「後ろは任せな、思う存分暴れてくれや」
 にやりと笑う源蔵。
 見せる歯の白さよりも、灯りを跳ね返すつるつる頭の方がはるかに眩しいのだった。

●光と光
「来やすぜっ、光花形態!」
 攻性植物が貪欲に光を集める。
 その動きに一瞬早く気付いた三毛乃が大声を上げて注意を促すが、タイミングが悪い。
「ちぃっ!」
 攻撃終わりの隙を狙うように放たれた破壊の光。
 三毛乃はかえるをかばって、その光線を体で止める。
「目を開いて良く見やがれ! この俺の頭をなぁっ!」
 大きな傷を負った三毛乃へ、玄蔵がすぐさま禿頭光波衝を発動させる。
 頭皮に当たったのを増幅した膨大な光は、その神々しさでもって安らぎを与える!
「そう簡単に、搦め手が成功するとは思わないことね?」
 碧涼剣風一閃。
 敬香が放った碧く淡い炎が、前に出て戦う五人の身を蝕む悪しき効果を食らい尽くす。
「行くぞおらぁっ!」
 ヒットアンドアウェイ。
 忍が、冷たく鋭い達人の一撃で相手の出鼻をくじく。
「お返しだよっ!」
 かえるは、自身の攻性植物を蔓触手形態に変えて相手に絡みつかせる。
「いただきます」
「そら、こいつはどうだい?」
 動きの鈍った攻性植物へ、マリアが地獄の炎弾を放ち生命力を奪い。
 ラーダが石化光線を放ち、殺人植物の胴部に直撃させる。
「追い討ちをしかけるぞ!」
 さらに動きが衰えた攻性植物へ、時雨が駆け寄る。
 手にした妖刀彼岸花の刃をジグザグに変え、出来たばかりの傷を広げにかかる。
 度重なる攻撃を受け、攻性植物は苦痛で軋んだ音を上げる。
「いける、一気に叩くっ! ペース上げていくぞっ!」
 元不良少年、現殺人植物が弱ってきているのを感じた忍が、そう叫んで前衛を鼓舞する。
 どうやら、決着の時は近いようだ。

●今宵の攻性植物はよく燃える
「さっさと大人しくしな!」
 しぶとく反撃を繰り返す攻性植物に、ラーダが激しい炎を吐いて追い詰める。
「私の炎で薙いであげる!」
 同じく敬香も、エアシューズで生み出した炎を浴びせて焼き払いにかかる。
「沈めぇっ!」
 蔓触手から開放された忍が、降魔真拳を叩き込む。
「押し切るぜ」
 ここまで来れば、回復よりも攻撃。
 先に倒してしまった方が被害は少ないと、回復役の玄蔵も黒影弾で援護射撃。
「ここは正念場、ですね」
 マリアも自力回復を後回しにして、よりダメージを与えることを重視する。
 地獄の炎を宿した蹴りが、水分を失った攻性植物に追い討ちをかける。
「そぉら!」
 合わせるように三毛乃も、炎を纏った銃底を金槌の如く叩きつける。
「かえるは なかまを よんだ!」
 苦痛に悶える攻性植物を追い込む、かえるの鳥獣戯画。
 兎、猿、蛙の形をした弾丸を無数に作り出し、連続で撃ち出す。
 生き物の形をとる故か使い手にも読めない動きを取る弾丸は、それでも下手な鉄砲なんとやら、何発かは命中する。
「速さなら――こちらの方が上だッ!!」
『奥義「壱の型 神速抜刀」』
 最後の足掻きにと繰り出された触手を掻い潜り、時雨の神速抜刀術が胴体を両断する。
「供養はしてやる……せめて安らかに眠れ」
 ゆっくりと近づいた時雨が、まだかすかに動きを見せる上半身、その頭部に刃を突き立てる。
 こうして、ケルベロス達は宇宙からやってきた寄生植物の脅威を退けることに成功したのだった。

●役に立たないから『不良』
「終わったねぇ、敬香ちゃん」
「わうっ、みんな無事で何よりです」
 戦闘が終わり、ケルベロスは二つのグループに分かれていた。
 かえると敬香は、今回の事件が終わったとのんびりする側。
「ああ、灰は落とさんさ。攻性植物を燃やすんでない限りねえ。かっかっかっ! 」
 ラーダも、愛用の煙管をふかして一服としゃれ込んでいる。
 興味を持ったかえるが近づき、色々質問したりするのにも気安く相手をしてやっている。
 玄蔵と三毛乃も同様に、一息ついてゆっくりしている。
「この植物は一体どこで手に入れたんですか?」
 違うのは、のこのこと戻ってきた不良連中に相対する三人。
「ああぁん!?」
 時雨の質問に、リーダーは敵意を隠しもしない声を返す。
 それを見たマリアがプラチナチケットを使い、いかにもな『不良』を演出して仲間を装うことで口を開かせる。
「ああ? 知らねーよ。ロキの野郎がどっかから拾ってきたんだよ。あいつ、食い意地が張ってやがるからな。
 大方、そこらに生ってんのをとってきたんじゃねぇのか?
 まぁ、さすがに腹壊すどころかバケモノになっちまうとは予想外だったけどよぉ」
 ロキというのは、攻性植物に寄生された少年のことらしい。
 さらに色々と訊ねてみるが、どうやらそれ以上を知っている者はいないらしい。
(「人数や容姿も、戦闘前から変化無し、怪しい動きを見せるものもいない……ですか」)
 有益な情報皆無という結果に落胆するマリア。
 これ以上は、独自に追跡調査をする必要がありそうだ。
「二度とこの地に足を踏み入れるな」
 これ以上話しても意味はない。
 忍は魔人化して、不良達を追い立てにかかる。
 その脅しを、鈍い頭でも『忠告』でも『警告』でもなく『最後通告』だと感じ取った不良達は、各々バイクにまたがり一目散に逃げ出していく。
 こうして、一部思い通りにはならなかったものの。
 攻性植物の起こす事件は無事、事前に防ぐことが出来たのだった。

作者:紫堂空 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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