ケルベロス大運動会~ファッショナブル・ケルベロス

作者:こーや

 鎌倉奪還戦、東京防衛戦、そしてローカスト・ウォー。
 度重なる『全世界決戦体勢』の発動により、世界経済は大きく疲弊してしまった。
 好ましくない経済状況を打破する為、『おもしろイベントで収益を挙げようぜ!』ということになった。それが、ケルベロス大運動会だ。
 ケルベロス達に通常のダメージは効かない。
 それをいいことに世界中のプロモーター達は、危険過ぎる故に使用できなかった『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』の数々を持ち寄り、開催地の各地に巨大で危険なスポーツ要塞を作り上げたのである。
 栄えある第1回ケルベロス大運動会の開催地に選ばれたのはインド。
 インド各地を巡り、アトラクションに挑戦しよう!

 空港はかつてないほどの賑わいを見せている。
 その多くが通訳も含んだ報道陣だ。それもそのはず。じきに到着するのはケルベロスだ。
 ケルベロスは世界の最先端。新聞ブームが起きているインドで、新聞社が彼らのコメントを求めないわけがない。
 日々、最先端たるケルベロスのファッションを追っている『インドファッション新聞』はこの機を逃してなるものかと息まいている。
 カメラマンは入念にカメラのチェックをし、新聞社の偉い人は記者へ次々と指示を飛ばす。
「小物、色、模様、なんでもいい! コーディネートの拘りを聞き出せ!」
「はいっ!」
「個性と調和に富んだ服なら写真を欠かすな! 次の流行の指標になる!」
 そんな中、ついにケルベロス達が姿を見せた。
 報道陣がすぐさまケルベロス達を取り囲む。
 果敢にもインドファッション新聞の記者は人の海をかき分け、目当てのケルベロスにレコーダーを向けた。
「ケルベロスさんっ! お話良いですかっ!? コーディネートの拘りを教えてくださいっ!」


■リプレイ

●空港にて、その1
 アウトローな印象の服装にサングラスの英・虎次郎と、ふわっとした森ガールスタイルの卯月・舞花は並んでロビーに降り立った。
 手を繋いだ2人に記者が駆け寄ると、舞花は虎次郎に身を寄せて微笑んで見せた。
「ば、ばかっ、何やってんだよ……!」
 虎次郎が焦っていることにはあえて目をつぶる舞花。
 パシャリ、パシャリとシャッター音が響く中、質問に答える舞花に焦れた虎次郎が早く行くぞと促した結果。2人で倒れるなんていうハプニングがあったのはご愛敬。
 颯爽と現れた『名無しのサーカス』。
 7人全員が黒服を纏いサングラスをかけているが、それぞれに個性がにじみ出ている。
 ガーネット・レイランサーはハットをかぶり右手にはキャリーバッグ。
 八剱・爽は小物こそないもののメンバーの中でも特に質のいいイタリア製のスーツでビシっと決めている。
 クリス・クレールは、小柄であるが為に動きが細かくなることに加え、頭に乗せたヒルデちゃん人形も相まって、他の面々の中にあってなんともいえない違和感がある。
 危険な雰囲気に記者はごくりと身構えた。それでも果敢に突撃、インタビューを敢行すると――。
「ウチらサーカス団です!」
 黒いドレスとヒョウ柄のストールを身に着けた光宗・睦がキャハッと笑うと、他の面々もネタばらし代わりの笑顔を見せる。
「ホストっぽいとか言うなよ? 自覚はあるんだから」
 なんて爽の軽口に記者も笑みを零す。すっかり緊張がほぐれたようだ。
 想定以上の暑さに閉口していたガーネットはああいう感じがホストなのかと妙な感心をしている。
 そこへスーツの上に毛皮のコートを着たヒルダガルデ・ヴィッダーが仲間に目配せ。すると、クリスが頭に乗せたものと同じぬいぐるみを仲間達が取り出してポーズ。
 厳ついスタイルの集団が可愛らしいぬいぐるみを取り出すというのはなかなかにシュールな光景である。
 日本で流行っているキャラだと言いながら記者にぬいぐるみを手渡す睦。正確に言えば『仲間内の間で』がつくのだがそこはあえて伏せておく。
「我々、名無しのサーカスは自警団も兼ねている。有事の際は是非、ご指名を」
 記者がヒルダガルデから名刺を受け取っている横で、カメラマンがピントを合わせる。
 自身の身長を考慮したゼルガディス・グレイヴォードが一歩身を引き、代わりにクリスとシア・メリーゴーラウンドが前に出て立ち位置を調整する。
 伏し目のままポーズをとるシアの、タイトなパンツスーツから覗く赤いピンヒールが眩しい。インドの民族衣装シャルワニを着たゼルガディスの金の刺繍は後ろにいても色褪せない。
 カシャリ、カシャリとシャッターを切っていると、ふいにクリスが何も持っていない両手から綺麗な花を咲かせるという手品を見せ、写真に彩を添えた。
 記者に呼び止められたソフィア・フィアリスはジャージ姿だ。
「実はこれ、娘の着ていたジャージなんですよ」
 子供が成長して親元を離れても繋がりがあるという暖かさは素晴らしく尊いもので。だから、家族の絆として娘のジャージを着ている――なんて綺麗に盛ったが、単純に娘が着なくなったものが勿体無くて着ているだけだったり。
 アシンメトリーにパッチワークされたカラフルな白衣を着たミゼット・ラグテイルは、明らかに記者の勢いに押されていた。
 こちらを向くレンズにビクビクしていて受け答えも出来ていないミゼットを助けたのは空波羅・満願だ。さっとミゼットを背に庇う。
「あ、そいつ怖がりなんであんま撮らないでやってくれ。怖がってるから」
 さらにコクヨウ・オールドフォートも前に出て弟分と友人を庇う。
 上下揃いの高級感のある黒スーツにベストが、コクヨウの頑強な体を際立たせ威圧感を醸し出す。
 白いロングコートに黒のシャツとパンツの満願。丈があってないのをファッションと主張する弟分に視線を向けながら、コクヨウも質問に答えた。
「拘り? 無いな。強いて言うなら黒が一番楽だ。血の汚れも目立たんし」
 実用性重視という訳である。
 そこまで引き出した記者は、コクヨウの威圧感に押され早々に他のケルベロスのもとへ向かったのであった。

●空港にて、その2
 鎧塚・纏と阿守・真尋にも記者が駆け寄る。2人とも和を全面に押し出した浴衣だ。
 真尋は黒字に青い撫子柄の浴衣。落ち着いた雰囲気は自然と目で追いたくなる。
 モチーフはあるのかという質問に纏がふふっと茶目っ気を含んだ笑みを浮かべた。
 記者とカメラマンが首を傾げる。通訳も考えてはいるが答えは出ない。
「そう、日本の代表食、ミソ・スープよ!」
 袖と裾を朱に染めた白地の浴衣。白と茶、深緑を用いた棗柄に白線漂う薄茶の帯。
「まあ、味噌汁がテーマだなんて吃驚したわ! 小物まで全て、完璧じゃあないの」
 記者は驚く真尋に賛同しながらも、2人の言葉を一言一句漏らさぬようペンを走らせた。
 神凪・癒月は近づいてくる記者の姿に驚きつつも苦笑を零した。インタビューにはすらすらと言葉を紡ぐ。
「赤を主体に、露出度は低めに。ただ時期が時期だからな」
 個人的な拘りは動きやすさを重視し、横ではなく前にスリットを入れたこと。胸元を開放することで涼しさを確保したことと添えながらその場でくるりと回ってみせたものの、多くを答える前に人の波に呑まれて姿を消してしまった。
 空港の喧騒など気にした素振りもなく、おっとりと丁寧に受け答えしているのはルチル・ガーフィールド。
 つば広帽とスニーカー、シンプルなニットにスカンツという露出の少ないゆったりとした服装だ。肩を影で覆い隠せるほどの帽子に尋ねられるとにっこり。
「つばが広いと長い耳まで影に入れますし~、気に入っております♪」
 『いちごハウス』の面々も目立つ存在だった。赤いドレスを着た赤堀・いちごを中心としたメイド服の集団なのだから。
 いちごを女性だと思い込んでいる記者からの質問に、赤いドレスを着たいちごは目をぱちくりさせる。
「私ですか? 私の名前がいちごなので、苺の飾りをつけてみたんですよ」
「ご主人様の赤いドレスはとても可愛らしいのじゃ、装飾も丁寧で細かいしのう」
 そう言ったのは清水・冬。メイド服を着た面々の中で唯一の和服。黄色の無地の着物にエプロンの女中姿だ。
 着物は案外動きやすいと語る冬は、自らの言葉を証明すべくその場でくるりと一回転。
 続けて質問を振られた榊・凛那は、表面上は冷静だが内心あたふたとしていた。というのもフレンチメイド服を選んだ理由が、幾つかの候補の中で一番動きやすそうだから、な訳で。
 記者に答えられずにいると、アシンメトリなメイド服を着た六道・蘭華がそっと凛那を抱き寄せてにっこりと笑い、そのまま2人で左手薬指のペアリングを見せた。
「この姿はお嬢様と伴侶を守る誇り、その源ですわ」
 近くにいた蒼樹・凛子は楚々とした立ち姿のまま質問に答える。
「仕事着なので無駄な装飾は省き、清潔感を出すように、と」
 機能性を重視している凛子が他のメイドから聞いた方がいいかもしれないと添えた途端。
 ずずいっと緋薙・敬香がその横に並び立つ。凛子のクラシカルなメイド服に対し、敬香はフレンチメイド服が標準装備だ。
「機能性よりは主様にハグした時に柔らかい感触を与えることをメインに……しないよ? 今日ここではしないよ?」
 クノーヴレット・メーベルナッハは長袖ロングスカートの、やはりクラシカルなメイド服。
 仕事着だから華美さよりも実用性を重視していると答えると、ずいっといちごを押し出した。
「目立つのは、あくまでご主人様でなければなりませんから♪」
 クノーブレットの言葉にこくりと頷いたネスアメル・クレマグトリスにも記者は質問を投げる。
 前後でアシンメトリなメイド服の上に白衣を着たネスアメルは、自分のことかと小首を傾げてから質問に答えた。
「ネスはメイドの他に医者ということから、白衣を上着として着ているな。あと、聴診器を首にかけるようにしている」
 インタビューを終えた後、最後に全員並んだ姿をぱしゃり。8人は笑顔で手を振り、空港を後にしたのであった。

●『インドファッション新聞』より、その1
 独特のコーディネートは言わずもがなであるが、小物や靴、メイクを際立たせているケルベロスも数多く見受けられた。まずはそちらを紹介したい。
 『アートヒール』の3人は靴に主眼を置き、鮮やかな靴を我々に披露してくれた。
 ヴィヴィアン・ローゼットのレザーのヒールサンダルは、女神をイメージしたものとあって金の細工に色とりどりの石が散りばめられており、非常に華やかなでありながらインドらしさと涼しげな印象を受けた。
 舞い降りる魔法少女をコンセプトとしているシア・アレクサンドラのブーツは羽の飾りでアクセントを効かせることで可愛らしいものとなっていた。白い翼のオラトリオの雰囲気に実によく合っている。
 一風変わった靴を見せてくれたのは遠之城・鞠緒だ。側部に刺繍があるタイツと共に見せてくれた靴は、ゾウの顔を模していて長い鼻がヒールになっているという個性的なデザインだ。
 もう一人、個性的なアイテムを見せてくれたのはウィゼ・ヘキシリエンだ。女性でありながら、男性のドワーフの間で流行している付け髭を着用。
 付け髭は紳士の象徴と語ってくれた。落ち着きと自信を共存させた態度で我々に答えてくれた彼女には実にぴったりのアイテムであったと言える。
 夜月・双と罪咎・憂女の衣服そのものはシンプルで落ち着いた色合いであったものの、その分アクセサリが我々の目を引いた。
 双が身に着けた三日月と龍の翼のカフリンクス。憂女がアスコットタイとして着用した濃淡が美しい桃色のストールと山茶花の髪飾り。これらは恋人同士である二人がお互いに贈りあったものらしい。
 アイテムがアクセントになるようにとコーディネートを整えたというのだから、外の気温に負けず劣らずの熱さを見せつけてくれた2人であった。
 ミア・プレッツェルはアイテム以上にメイクが輝いていた。
 母国であるドイツの民族衣装ディアンドル。ネイルとアイシャドウはスカートの裏地に合わせており、見事な調和を見せてくれた。
 競技中は着替えるそうだが、残されたネイルとアイシャドウのネオングリーンが我々の目を引くことは間違いない。
 エルネスタ・クロイツァーもディアンドルであったが、こちらはゴシック調にアレンジされていた。
 その鮮やかな赤もさることながら、彼女について特筆すべきは下着や水着のデザイナーをしているという点だ。
 下着もファッションの一部である。ファッション文化のさらなる飛躍の為にも、今後の彼女の仕事に注目したい。
 ヴィヴィアン・ウェストエイトとロイ・メイはいかにも有名人といった体で、サングラスが大きなアクセントになっていた。
 ヴィヴィアンのラフな赤いシャツとロイの青を基調としたマキシワンピースという色合いは対照的でありつつも違和感を与えることはなく、颯爽と歩く姿は一枚のようにしっくりと馴染んでいる。
 我々の取材に対して多くは語ってもらえなかったものの、ウィットに富んだ答えも含めてスタイリッシュであった。

●『インドファッション新聞』より、その2
 やはり流石ケルベロスと言うべきだろうか。実に個性的な姿が目立った。
 クローチェ・テンナンバーとゼン・ヴァイシュミットは日本で人気のコスプレを見せてくれた。
 馬の着ぐるみをユニコーンへと改造したきぐるみを着たクローチェと、男性でありながら純白の清楚な雰囲気のワンピースを着たゼン。2人で一つのファッションなのだとクローチェは語る。
 胸筋が主張されるほどにタイトなワンピースと、角ににんじんを刺したユニコーンというコミカルな姿はケルベロス独自のセンスと言えるだろう。我々もつい笑い声を漏らしてしまった。
 その上で我々の文化を尊重し、踊りを見せてくれたのは実に喜ばしい出来事であった。
 新条・あかりと玉榮・陣内もそうだ。
 あかりを片腕に抱き、肩にウィングキャットを乗せているというだけでも目立ったが、無論それだけではない。
 2人は我がインドの文化を非常に尊重してくれていた。
 陣内はシャルワニ風に仕立てたネイビーのジャケット。あかりは銀糸の刺繍が素晴らしい翡翠色のレヘンガ・チョリ。
 饒舌とは言えないまでも、我々の民族衣装の美しさと拘りも語ってくれた。
 最後に2人の関係を聞いてみたところある答えをもらったが、その言葉はあえて伏せておく。掲載した写真から感じ取ってもらいたい。
 風藤・レギナエも素晴らしかった。
 彼も我らの民族衣装である青いサルワールを着ていた。極楽鳥のような色合いの羽も相まって、華美という言葉が実によく似合う。
 我が国のファッション文化を高く評価してくれたレギナエの店は、我が国と日本のファッションを繋ぐ架け橋となってくれるだろう。
 『文月探偵倶楽部』も実に個性的であった。5人全員がきぐるみ。
 茶色いマフラーを巻いたナマケモノの着ぐるみはコンキリエ・リガーテだ。両足にはスマートフォンのケースを備えており、可愛らしさと実用性が両立されていた。
  香祭・悠花の、ライオンとも犬とも言い切れないフォルムのきぐるみはオラトリオの特徴である花と翼がアピールされたデザイン。
 青いスカーフを巻いた黒猫のきぐるみを着た文月・蒼哉の合図で見せてくれた5人の踊りは、興味深いの一言に尽きる。
 もふもふとしたフォルムでありながらキレのある動き。きぐるみの素材と加工技術の高さが垣間見えた。
 茅乃・燈はまだ熊のきぐるみを着慣れていないらしく、動きはぎこちなかったがそれゆえの愛らしさがあったと言える。
 ボストンテリアのきぐるみの天崎・ケイは1人、よく分からない踊りになっていたがそれもまた一興だろう。
 皆が好きで可愛いと思ったきぐるみを着ることが重要だと志穂崎・藍は語ってくれた。白猫のきぐるみを着た彼女は、きぐるみの素晴らしさを広めてきぐるみ旋風を起こしたいのだという。
 天女がモチーフだという阿良々木・蘭は涼しげな姿だった。我が国の水の妖精と言えばイメージしやすいだろう。
 日本の巫女の服装に水色のシースルーの羽織とグラデーションのベールの透明感が暑さを感じさせることはなかった。
 自慢の足を魅せることを重視した黒峯・咏のファッションからはシルエットへの強い拘りが見えた。
 尻尾の縦縞に合わせたモノトーンのストライプにショートパンツ。アクセサリやネイルからはさりげない高級感を感じた。シンプルだからこそチャームポイントが際立つファッションだと言える。
 今回、空港で非常に多くのケルベロスの姿を見たが、その全てを記事に出来ないことが悔やまれる。
 大運動会では彼らのファッションにも着目してもらいたい。

作者:こーや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月11日
難度:易しい
参加:48人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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