●ケルベロス大運動会
ケルベロス大運動会――それは、度重なるケルベロス・ウォーの発動によって疲弊を余儀なくされた世界経済を回復する為計画されたおもしろイベントである。
世界中のプロモーター達が危険すぎて使用できなかったという「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」を持ち寄り、巨大なスポーツ要塞を作り上げた。
挑むのは、もちろんケルベロス達だ。彼等なら、通常ダメージを受けても効かないのだから色々安全である。
世界経済の復興の為、計画されたこの大規模なお祭りは、インドで開かれることとなったのだ。
して、インド各地を巡るおもしろ運動会に挑む予定のケルベロス達に、新たな依頼が舞い込んだ――。
●運動会なのだから屋台も出るらしい
「今日もお疲れさま。――じゃあ、始めようか」
招集に応じてくれた皆へと一礼すると、トワイライト・トロイメライ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0204)は資料を手に口を開く。いや、――資料というか、一枚のお菓子引換券付きチラシだった。
その緩さにか、珍しく平和な依頼が出来ることにか、緩んでしまう口許を引き締めて改めて彼は説明を口にする。
「大運動会当日のことなのだけれど、日本とインドの国際交流の一環としてケルベロスによる日本屋台村を運営することになったんだ。
料理が得意だったり、面白い企画があるというケルベロスの皆には、是非この企画に参加してほしいんだ。
個人で出店しろということじゃあなくて、日本政府の協賛になる。
食材の準備なんかはあちらでやってくれるし、日本の料理人を人材として回してくれるからずっと詰めっぱなしってわけでもない。
運動会を楽しみながら時間のある時に顔を出してくれればそれでいい、という話だ。
企画、指揮運営、監修――みたいに考えてくれて構わないよ。
この屋台村はいくつか準備されるから、そのうちインドの市民に向けた品を担当して欲しい」
料理が得意ならぜひその腕を振るってほしいし、商品のアイディアがあるのだったらプロの料理人が手伝うからアイディアを形にしよう。その他にも、サクラや呼び込み、関わり方は色々ある。
本人も楽しみながら、誰かを楽しませることが出来るのが何よりだ。
トワイライトが案内する区画は、だいたい予算にして千円程度の屋台を集めたところだという。
近くには大きな川があり、川べりにずらりと屋台村が並ぶ予定だ。
縁日などで並ぶ程度の大きさの屋台を想定してもらえばいいが、イートインスペースを十分取ることもできる。
川に直接水上屋台を浮かべることも出来て、テラスから川を眺めて味わう食事もまた楽しいだろう。
「軽食に甘味など、飲み物食べ物何でもござれ。国際文化交流なのだから、日本食に限られるがこれは和食というわけじゃあない」
そうトワイライトは言葉を足す。日本のラーメンやカレーは既に世界でも有名になった独自の食文化だ。
ファーストフードや何となく和っぽいならオリジナル料理もなどもOK、日本ならではと思う食事をどんどん提供してほしい。大事なのは、国際交流であり日本の食事をインドの人々に楽しんでもらうことだ。
「ただ気にしてほしいのは、豚や牛の使用は一切禁止ということ。文化が違えば、食べ物に気を遣う部分もあるからね。
その代わり鶏や羊、他の食材の可能性を引き出してくれるのを楽しみにしている。
何より、――君達とこんな風にお祭りに参加できるのがとても嬉しい。どうか、頑張って」
いってらっしゃい、と笑うトワイライトはいつもより気安く。
さあ、楽しいお祭りの始まりだ。
●
異国の空気の中で、達也は馴染んだ匂いのオウマ荘特製総ベジタブルカレーを販売中。
素揚げの野菜を乗せて召し上がれ。
「待つ間、海軍カレーの話でもどうだろう」
挨拶は現地の言葉で。誠意も相まって人好きする様子の彼に客は多い。
ポップに書かれた艦の絵を示しての話も好評で。
オウマ荘に興味を持った客も多く異文化交流は順調だ。
『おもてなしメイドとカレーの館☆碧空館』と屋号を掲げた屋台からも、日本式のカレーの匂い。
「不思議がいっぱいの、お水を使ってない美味しいカレーですよー♪」
おっとりとした売り文句で提供される無水カレーは、大豆で作った肉もどきの食感が楽しいと評判だ。
八面六臂の大活躍メイド……もといウェイトレスの鈴女は更なるサービス提供に余念がない。
太陽を見上げ思案の後、閃いたでござるとばかりコールを。
「シャッチョサン! スッキリした状態で御主人様気分が味わえて、更に日本風のカレーが食べられて、千円ポッキリ! どうでござるか!?」
呼び込みに惹かれた客の相手をするのは呼び出された白音。満を持してのクリーニングで、汗を掻いていた筈の客がさっぱりすっきり!
どよめくインド人、ともかくメイド女子にサービスされたいインド人。
ほんわり女子の手作りカレーも美味しいとなれば大好評。
「はい…それでは午後からのお仕事頑張ってくださいね」
カレーのシミを消して見送った後は大人しく客を待つ白の猫に寄り添うのは青の猫。
日本のメイドイズムを実践する少女はここにも。
めぐみはメイド服姿で卵を焼いたり、紅茶を淹れたり。
ひとりひとり丁寧に、笑顔を忘れず接客も。
そしてとっておきのサービス。
ケチャップで名前とハートを描いたオムライスを前に花咲く笑みで、魔法の呪文を唱える。
「おいしくなーれ、萌え萌えキュン!」
これも日本のおもてなし。
『トリ・カラ』の屋台からは唐揚げの良い匂い。醤油味で出汁を使った一工夫の鶏の唐揚げは好評だ。
アイドル三人娘の笑顔もあって軽快に売れていく商品達。ポスターやパンフ、販促品も注目を浴びた。
ルチルが鼻歌交じりに口ずさむのは持ち歌BGMなのだが。
「…わたしの歌声、小さくない?」
ノーザンライトの疑問に、レモンを切っていた氷翠の指が止まる。努めて平静を装い。
「のーちゃんの気のせいだよ、多分」
「のーちゃんの声量は普通だよ?」
ルチルの尻尾もそわそわ揺れた。
言えやしない、彼女の声だけ小さく加工してるなんて。
真実が明らかになるのは、販促のミニライブにて。
楽しげに唐揚げの美味しさを歌うルチルとノーザンライト。二人に隠れ気味の気恥ずかしそうな氷翠。
伸びやかな声は三つ揃ったハーモニー、ではない。
ノーザンライトのマイクはオフ。仕方なく地声で歌うも、周囲の空気は取り繕えないざわめき。
「もしかして、わたしって…音痴?」
遠き地、インドにて。
半年も気づかなかった真実を彼女は知ってしまったのである。
「エクセレントシェフの私がインドの人も驚天動地の料理をお見せしましょう!」
胸を張る灯に微笑んで、オルネラはメニューを告げる。
「――ロシアンたこ焼きにしちゃいましょ」
「何故それをチョイスしたのか……」
解せぬとばかりシグリットが首を捻るが、結局妹達が楽しければそれで良い。
「具材を切ってくれる? 大丈夫、手取り足取り教えてあげるわ」
「いいか、猫の手だぞ」
「し、知ってますよ。にゃー!」
料理下手の灯をサポートしつつ、完成品は舟皿に盛られていく。
成る程、船の屋台に舟の皿。
今頃開眼した灯は慌てて首を振る。
「あっ、いえ、私はこの風流さに気づいてましたけど」
「わかったわかった。風流だな」
教えたのだと主張する灯を撫でるシグリット。
しかし、次の瞬間灯の悲鳴が響き渡る。
「ふふ、つまみ食いはいけないわよ?」
世界一辛い唐辛子を仕込んだオルネラがおっとり笑い、シグリットは遅かったかと水を飲ませる。
「えっ、ロシアン、たこ焼き? ……インドなのに」
一皿に一個の地雷を見事に踏み抜いた灯は涙目で呟くのだった。
暑い空気を、卓上扇風機の風が和らげてくれる。
チーズの匂いが食欲をそそる屋台は、オムレツに焼きカレー。
焼いて美味しいカチョカヴァロはオムレツの表面をパリパリに彩り、更にカレーとの味わいも抜群だ。
緑茶とパンを添えたプレートは、色んな食材の魅力を引き出せる日本をアピール。
「おいしいね、タマちゃん」
「ああ、あかりもいっぱい食べろよ」
実はメニューは陣内の好物で、機嫌よく耳が少し風にそよいだ。
なんたって目の前にはあかりのとびきりの笑顔。
運営は任せて、二人だけのランチタイム。
遠い異国で、いつものメニュー。
好きなひとと、すきなものを。
パラソルの下で密やかに笑い合う。
こういうデートもたまには良いよね、なんて。
●
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 日本のうどんはいかがですか? 麺打ちも披露します!」
水着にパーカーを羽織った華が懸命に客引き。役得ですな、なんて見守る振りしながら堪能するクロノも水着に作務衣を羽織る艶姿。
「あっつい夏にひえひえのうどんはどーですか!?」
クロノが細い腕で格好良く麺打ちをする雄姿に、華は華で見惚れたりしながら沢山用意されたトッピングを勧めたり説明したり。
もちもちしこしこ、讃岐うどんは売れに売れる。
店が終わる頃には、クロノ特製のぶっかけうどんを皆で囲んで揃ってのいただきます。
さっそく手を付けた華の目が輝いた。
「うん、とっても美味しいです!」
素敵に幸せなお店を、お疲れさまの時間まで。
幾つかの言葉に『魚』と書かれエンブレムがアクセントののれんは人々の興味を惹くには十分。
ロジオンは〆た真鰯を見事な包丁捌きで千切りにし和えていく。
「ソレはナマスですか?」
「インドの皆様は魚の生食には縁が無いかもしれませんが」
ビスマスの問いに頷く。成る程、さっぱり美味しそうだ。
「さんが焼きバーガーがおすすめとなっております。なますとご一緒にいかがですか」
接客は和装の冬夏。スマイルながら多少ぎこちないのはご愛敬。
「パテに使ったのはさんが焼きと言って、複数の魚を味噌や薬味で――」
「お酒にも合いますし、ドリンクも色々取り揃えています」
助け舟のようなビスマスの愛迸る語り口に感謝しながら添える。
「あっ…このバーガー、お待ちのお客様にお願いします」
指示に従って配膳の傍ら、冬夏がロッドを取り出し動物に変えれば歓声。
異国の魔法喫茶にロジオンが嬉しげに顎を撫でた時。
「あっちのライオンのお兄さんはもっとすごいことできるんだけどね」
「さ、まだまだ作りますよ、……はい?」
期待の眼差しを一身に受けることになるのだった。
ルヴィルが鼻歌交じりに作っているのは、おにぎり。
定番に加えて、シチューにチーズ等変わり種。
意外と手際よく作る彼に良い匂いが届いて、小さく鼻を鳴らした。
この気候で火と向き合うのに嫌な顔一つせず、何処か楽しげにほのかが出汁巻き卵を焼いている。
「おいしそう、だな……」
なんて視線に気づいて、菜箸で取り上げ。
「はい、あーん」
「うん、すごくおいしいぞ~!」
幸せそうに食べる彼を見れば、ほのかもふわりと優しい笑みを浮かべる。
漬物におにぎり、出汁巻き卵。
心づくしの食事は、きっと皆も元気にしてくれる。
「頑張って作っていこう~~!」
「はい、精一杯頑張りましょう!」
暑い日差しを乗り切る、心を込めた料理を召し上がれ。
「あんた格好だけはJapanese SAMURAIっぽくて目立つんだから売り子やってね!」
後、プリンは絶対神で万能でともかく凄い。
幼馴染の無茶ぶりに徒労と知りつつアギトは怒鳴り返す。
「インドならカレーかけりゃいいって訳じゃねぇんだよ!! なんでプリンは万能食材だと思ってやがる!!!」
言うだけ言って肩で息をした。
諦めと共にプリンを鍋に放り込んでみれば、不思議とコクがでるのがカレーの包容力。
看板も作って、和装で客に声をかけるアギトに物珍しさからも客は寄ってくる。
ユキはとろけるプリンを堪能しながら、小さく微笑んでしまう。
「なんだかんだ言って、優しいよねぇ」
細々と手間をかけてくれる面倒見の良さは彼ならでは。
竜の描かれた看板の下、『ドラゴンの肉』と銘打たれた串焼きが売られる。
醤油味の照り焼き肉を笑顔で頬張る子供達を、悠乃は穏やかに眺めていた。
憎悪され拒絶される竜の存在が、今は人の笑顔を作るのに役立っている。
皆が気持ちや繋がり、知識を集めて作り上げた屋台達は、人々と共に在るケルベロスの姿を確かに示していて。
●
「ナマステー」
「なますてー!」
社が首をかくかく揺らすと、シアも左右にゆらゆら。
和む光景に立ち止まる客に、とっときの料理を勧める顔で社は鯛焼きを差し出す。
「騙されたと思って食ってみてくれ」
カレー鯛焼きは勿論、カンデビ風鯛焼きは確かに舌に馴染む甘さ。
「ぴー! カリカリでカリカリ!」
鯛焼きと木の実のカリカリ。初めての味は素敵なコラボ。
幸福そうなシアに客がつられて口に運ぶと零れる笑顔。
「かりかりーあまあまのくいーむー」
極めつけの鯛焼きダンス。
ちょーあまあま、くいーむ!
おとなあまあま、こしあん!
可愛過ぎる売り子にやられっぱなしの客に社は笑って、盛大に声を張り上げる。
「さァ、甘々カリカリのジャパニーズフードだ! 食わなきゃ損だぜ! 寄ってきな!」
香ばしい匂いは、青と白の装いも涼やかな屋台からも。
内装もポップな設えで、果乃が提供するのはモッフルのジェラート乗せ。
「いらっしゃーい! 日本発のスイーツ、モッフルはいかがですかー?」
ベースにジェラート、トッピングも選べる楽しい仕様だ。
暑さに負けず溌剌と弾む足取りで対応してくれる果乃のお陰で店は盛況。
真剣に屋台チェックをしているティリクティアは呼び込みにエルフ耳をぴこぴこ揺らす。
仲間達が提供する屋台はまるで夢の宝箱だ。
鯛焼きとモッフルを両手に一口ずつ。
「やっぱり、和食の甘味は最高ね」
世にも幸福そうな笑みは、は何よりも人の心に響くもの。
つられて財布を出す客だって多い。
知らず、屋台の広告塔になっているのだった。
●
水上屋台は鈴蘭や鈴に彩られている。
「飴屋すず、まさかの海外進出よ」
風情を口々に褒められ千歳は微笑んで。
「これが俺の秘密兵器だ!」
ヒノトが取り出したるはサイコロ型の製氷トレー。転がり出る鼈甲飴は、琥珀の宝石のよう。
勇もいざ飴づくり。丁寧にレシピを見ながら、幾種類もとろりと甘いどんぐり飴が出来上がる。
生姜やシナモンの香りはマニフィカトが作る冷やし飴から。
浴衣姿も涼しげな彼が、くいと呷るのは酒精で割った品だ。
「酒を飲める者ならこちらも是非」
「暑い日にはひやし飴で水分補給はいかがですか?」
実演付きの販売にルルゥがよく通る柔らかい声を添える。
酒は勿論牛乳や炭酸でも割れるとの説明は、心から勧める誠意と笑顔を込めて。
素敵な秘密兵器、可愛いどんぐり飴、喉越し良しの冷やし飴。
千歳は一つずつ、褒めて、頷いて。
「暑いから皆にも冷やし飴を、配ってくれる?」
「はい、休憩がてら一杯どうぞ」
ルルゥとマニフィカトの給仕に喉を擽る甘い涼。
「色んな味が楽しめる、どんぐり飴いかがでしょーか! あっ、えーと、ナマステ?」
勇が堂に入った呼び込みをしてから通訳がいるのだと小さな笑い。
「せっかくのインドだもの、挨拶ぐらい現地の言葉でも良いじゃない?」
千歳もヒノトも声を揃えて、一緒にナマステ。
「さて、折角足を運んでいただいたのだ、他の飴も味わってみないかね」
マニフィカトが示す幾つもの飴、更には千歳の飴細工。
熱く形の無い飴を迷いのない指捌きが繊細に辿れば見る間に象が鎮座する。
「まるで手の中に収まる宝石ですね」
彩る飴を眺めルルゥが白く細い掌をそうっと握る。
大事なものを包むように。
「飴屋すずの飴は絶品なんだぜ!」
つまみ食いしたくなる、と笑うヒノトに頷く勇。
「この調子でどんどん世界進出していきたいね!」
世界進出。その言葉が皆の胸で弾んで、楽しさは広がるばかり。
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 旅団、日進月歩特製のかき氷だぜ!」
「日進月歩特製のかき氷です。美味しいですよー」
賑やかな呼び込みに、淡い色の羽根を揺らすアネリーは鈴を鳴らしてお手伝い。
バロンは『宇治金時販売中』の看板を首から下げて手招きするのはまさしくの招き猫。
「流石に暑いわね…でもこれならきっと宇治金時も喜んでもらえそうね」
うだる熱気にかき氷は向いている。奈津美が並ぶ氷柱を見れば雅也が見事に達人の技を見せていた。
次々と派手に削られていく氷達。
異国のかき氷販売、マティアスには慣れない状況だが仲間達と共になら楽しみの方が大きくて。
「あー、駄目だ、腕が限界。マティアス、次氷削るの変わってくれ!」
「ほぅ……この氷を製造機に合う様に裁断すれば良いのだな?」
頼ってくれる声に、腕を変形させて剣仕様へと展開。一転、慣れた仕事だ。
苦も無く氷柱は豆腐の如く切り裂かれていく。
「…レプリカントの技…ここで披露……する」
天音は腕をドリル回転させ、器に乗せた氷を砕いて見せる。
「これからいっぱい…作ってみるから…」
三種のタルトもつける、そんな売り文句に集まる客達。
奈津美は手早く抹茶蜜と具材を乗せ最後には月と太陽の形に切った赤と黄色のスイカで出来上がり。
「おいしくなあれ!」
宇治金時の仕上げは素敵なおまじない。
「ダンニャバード!」
付け焼刃ながら現地の言葉と身振り手振りと輝くような笑顔でヴィヴィアンが接客すれば、美味しかったと口々に言ってくれる。
「お客さんが美味しそうに食べてくれると、嬉しくなるね~」
「とっても楽しそうですね」
吹雪と視線を見交わし笑うのに、マティアスの表情が知らず和む。
聴こえるのは悲鳴ではなく歓声。誰もが皆、幸せそうで。
客になりたい気持ちを抑える彼や、働き詰めの天音を見てか、奈津美が声をかける。
「休憩に入るの? じゃ、今作るから食べてみてね」
皆の為に作られるかき氷。
「暑いのはちょっと苦手ですよー……かき氷冷たくて美味しいね」
「宇治金時って初めて食べるんだよね」
幸せそうに氷を頬張る吹雪と興味津々のヴィヴィアンにつられて、交代で皆が休憩に。
異国の人達と、夏の味覚を堪能する。
●
「インドの暑さに負けないくらい燃えていきましょう!」
浴衣に法被姿の人々が集う屋形船ではりぼんが飾り付けの音頭をとる。
紅白幕はあちら、団扇は壁に。
祭り提灯と南瓜ランタンを二連繋げたパティは高い位置の助けを求めたら。
「えっと提灯……がこっちで……うちわが……壁に……」
頭にはいつものヘッドドレス、揃いの衣装に嬉しいと喜ぶアルフはあたふたとお手伝い。
「提灯はここでいいべか?」
「はい、ばっちりです!」
ドーピーも加わって助け舟。情緒溢れる屋形船が完成する。
割烹着姿で様子を見守りながら、千薙は調理担当。
金魚鉢に浮くお化けと金魚、色風船を模したお菓子達は目と舌を存分に楽しませてくれる出来。
「こんな感じでいいんだべか?」
「はい、とても綺麗です」
見た目の良さにあっという間に客は集まり。
「アリス! あちらのご家族様へ届けてください!」
「Hi, おまたせっしょ! 金魚すくい2つだぜ!」
あちらこちらと見て回るりぼんと、ちゃきちゃきと動くアリス。
白織はぱちぱち瞬いて、すごい、と呟く。
「一緒に頑張るのは楽しいですね!」
「うん、お運び、するね」
きらきらゼリーを落とさないよう、大事に。
「こちら……水風船に……なります」
ぷるぷる揺れる水饅頭を配膳しながら、アルフも懸命に由来を説明する。
夏祭りの雰囲気まで召し上がれ、と。
「ド、ドービー! どくのだ~!?」
「どでしだ! お菓子っこは無事だべか?」
トラブルは多々ありつつ。
隙あらばお菓子に忍び寄る影はパティのもの。しかし、
「ふふっ、これはお客様の分ですよ。あちらのテーブルまでお願いします」
黒い笑みを浮かべる千薙から滲む威圧感。
「アリスも食べてたのだ!」
「……えっ、ダメ?」
パティが示す先にはアリスがいてちぇーと首を竦める。
「…ね、ね。千薙。これ、あとで、白織たちも。食べたい、な?」
白織もそっとおねだりをしてみたり。
「パティさん! お土産用に綿あめを作ってください!」
綿飴機を準備したりぼんの声かけで、南瓜ランタンみたいな綿飴を作るのは良いのだけどまたつまみ食いで叱られる。
それでも小さな綿飴を配って子供達は大喜び。
「赤くてキレーで…日本のお祭りのてーばんなんだぜ!」
綿飴片手に何度も金魚の意味を問われても、アリスは笑顔を崩さず根気よく接客。
「よく頑張ってくれたのだ!」
そんな彼女達にもパティが労いの綿飴を差し出すと千薙が皆にお菓子とお茶を持ってくる。
「はい、皆さんの分です。今日は一日お疲れ様でした」
わっと皆から歓声が上がる。食べていいと言われ尻尾を揺らして白織はさっそくぱくり。
「嬉しい、ありがと。がんばった、分。すごい、おいしい」
今日は、お菓子を作る日であげる日で――貰える素敵な一日。
作者:螺子式銃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月11日
難度:易しい
参加:45人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 2
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