ケルベロス大運動会~デリーでヒールでショッピング

作者:遠藤にんし


 これまでに行われてきた『全世界決戦体制』(ケルベロス・ウォー)により、世界経済は疲弊していた。
 経済状況の悪化を解決するためには、楽しいイベントで収益を上げる必要がある――その結果、『ケルベロス大運動会』は催される。
 通常のダメージを受けないケルベロスたち相手なら、危険さを理由に使用出来なかった『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』も使用可能。
 世界中のプロモーターたちがそれらを持ち寄って作り上げた、巨大にして危険なスポーツ要塞こそがケルベロス大運動会の会場。
 第一回ケルベロス大運動会の会場は、インドが選ばれた。
 インド各地にあるアトラクションを巡ることで、経済状況は上向く。
 そして何より、ケルベロスたちの楽しむ姿こそが、世界中に励ましを届けることだろう。


「ケルベロス大運動会、楽しみだね」
 微笑む高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)は、インドのヒールをお願いする。
「インド政府からの要請があったんだ。ヒールの後、インド観光をしても良いかもしれないね」
 冴がお願いしたいのは、デリーでのヒール活動。
「主要な建物は無事なんだが、道路や新しく出来たショッピングモールに破損があるみたいだ。これを直して欲しい」
 ――そして、ヒールが終われば観光が待っている。
「大きな街だから、ショッピングや博物館の見学が出来そうだね」
 調べてみれば、他にも色々な施設があるだろう……調べればたくさん情報は出てくるはず。
「せっかくインドに行くんだから、たくさん準備をして、楽しく過ごしたいものだね」
 言って、冴は楽しそうに笑うのだった。


■リプレイ


「カモン! 俺のドローンちゃん達!! そしてゲストは! コード『オラトリオ』ォッ!!」
 生まれる光はオーロラに似て、泰地は輝きを見上げながら筋肉アピール。
 癒しの波動によって、大穴の空いた地面も瞬く間に塞がった。
「よし、ここはもう大丈夫か? さて次は……」
 中近東のバザール風に、鉱石結晶が加わる街。
 街灯はタージマハルの屋根に輪がついた形で、幻想が陽光に映えた。
 噴水は街に涼感を加え、ビビッドカラーの象や虎の飾りが生まれる。
 買い物に行こうとする陣内は、周囲の怖がるような視線を訝る。
「インドでは猫は好かれていなくて野良猫も殆どいないって兄が言っていました」
 市にも猫モチーフは見当たらない。
「こんなに可愛いですのに!」
「黒豹だって」
 笑う鞠緒に返す陣内。
 ――イメージアップ作戦を提案する陣内は、歌か音楽をとリクエスト。
「それでは猫の国のマハラジャが二匹の幸福の使者を連れてやってきた歌を!」
 サリーを買ってもらい鞠緒は上機嫌。歌う鞠緒を連れ、陣内は翠鳥ノ羽根。
「ほら、おいで」
 猫とヴェクサシオンも誘っての踊りに、周囲は癒される。

「行こ行こ♪」
「もう……相変わらず物怖じしないのね」
 返事も待たずに歩き出すメリルディに引っ張られるユスティーナが止まったのは、パンジャビドレスの前でだった。
 生地を飾る刺繍は繊細で、レースとパールピーズがあしらわれている。
「……じゃあ、メリルも同じの着なさい」
「可愛いユナがもっと美人さんになってくれたらそれがいちばんなんだよ」
「いーえ、認めないッ。メリルの分も買いますから」
 メリルディのびっくり顔はすぐに笑顔に変わる。
「今までだったらそんな風に言えなかったもんね、えらいえらい」

「さてどれにしようか……」
「インドらしさ全開にデコっちゃお!」
 考えるヒルダガルデに睦は言い、シアはサリーを手に取る。
「思い切って濃いピンクも良いかもしれないわね」
 果乃は試着した黄緑色のサリーと、魚や薔薇のワッペンを購入。シアと共に、アクセサリーコーナーへ移動した。
 黒地に炎の模様を纏うクリスに歓声を上げる爽は白地に金刺繍。ガーネットを見ると、爽は手元のアクセサリーを持って近付く。
「これつけてみ」
「何がいいのかはよくわからないが、爽に任せる」
 ターバンなどを身に着けるガーネット。
「皆様大変身、ですわね」
 シアの腕飾りは果乃とお揃い。
「どうだ、似合うかね?」
「華やかでよいのではないかと」
 ヒルダガルデの問いに答えるのはガーネット。
「みんなイケてるね!」
 睦は新鮮な思いでシャルワニ姿を見つめるのだった。

 ――朔耶は話しかけてくる店員とも簡単なヒンディー語と基礎英語・身振り手振り混じりの日本語で会話をし、ジョークで笑い合う。
「あたしも着てみようかな♪」
「女性物じゃない、マハラジャ風味の衣装というのも面白そうです!」
 佳奈江に人ごみに流されかけていた文香が言う。
 まぐろが選ぶのは、背中の大きく開いた大胆なサリー。
 古書を買いに行っていたアメリアも赤いサリーを着る。
「いっぺん着てみたかったんよ」
 瀬理が未来と共に好みのサリーを探す間に、まぐろの着替えも完了。
「どう? 似合ってる?」
 背丈や体格的に残念感はあるが、瀬理は楽しげにステップを踏む。
「一緒に踊ろーな!」
「あ、あたし、写真撮るよー♪ みんなでサリー着て、記念撮影しよ!」
「写真ですか? お願いします~」
 白のクルタを着た文香は跳ね、思い出が写真に残る。
「またみんなでこようねー」
 苺もスナップを撮った。

 ――香辛料とシーシャを買ってから、ラトウィッジとキリクライシャは化粧品を見る。
 話しながら商品を選んでいたラトウィッジは、思い付いたようにキリクライシャに向き直る。
「やっぱりアタシより、キリィに似合うの探したいなー」
 キリクライシャはピンとこない様子だったが、肌質を確かめるためにと触れるラトウィッジの指先を受け入れる。
 そして、キリクライシャが布製品を見繕う番。
「……シュシュに、どうかしら」
「アタシ、お裁縫そんなに得意じゃないから……」
 作って欲しい、というお願いにキリクライシャは頷くのだった。

「この柄はどうかな?」
「格好いいよ、似合ってるぜ」
 楓が選んだのは、柄のない青色のドーティー。
「少しシンプルなのを選んでみたよ」
「楓は甘いマスクしてるし褐色の肌と薄い青色がよく似合ってるよ」
 着替え、巌は食事に行こうと提案する。
「インドと言ったら、カレー! 俺はナンが食べたいぜ!」
「食べに行ってみようか。本場のカレーは楽しみだね」
 笑い合い、二人はレストランへと向かう。


 愛畄が買ってきたのはビンディ……既婚女性が額に貼るシールだ。
 交際を始めてからは1年も経っていないし、結婚出来るまでは5年もある。
「俺のひとつの意思表示として、えっと、喜んでもらえると嬉しいな」
 インドにいる間だけでも夫婦を名乗りたい愛畄。
「私も貴方と同じ気持ちです」
 喜びの表明として、プラスマリーは言う。
「出会ってからの期間の長さも将来への期間の長さも関係ありません。私は貴方に惹かれ貴方と共に生きる事を望んだのですから」
 告げられる想いに、愛畄は抱きしめてしまう。
 愛畄の腕の中、プラスマリーは口づけを返すのだった。

 アリスは甘い声でミルフィに言う。
「インドの女性の民族衣装を着てみたいです……♪」
「それでは、ブティックの方へ参りましょうか、アリス姫様……♪」
 ――ほどなくしてアリスは可愛らしいサリーを見つけ。
「これがいいです……買ってくださいな……♪」
「とても良くお似合いでいらっしゃいますわ……♪」
 ミルフィは大人っぽいサリー。
「お腹すいちゃいましたね……ミルフィ♪」
「ではアリス姫様、本場のインド料理のレストランに参りましょうか……♪」

「ラクダまで歩いてんぜ!」
「象も歩いて来るなんて……」
 ぽかんとなるマクスウェルと光咲。
 ラクダに駆け寄る潤は、羽を甘噛みされて笑い声を上げる。
「わーストップすとーっひゃ、あははははっ!」
 くすぐったさに笑い転げる潤。
「とっても賑やかだね!」
 サイクル・リクシャーを眺める恭臣の瞳はキラキラ輝いている。
「衣料品やジュエリーのお店は予想しておりましたが、電化製品や眼鏡なども売っているのでございますね」
 ロジオンは眼鏡屋を覗き込み、那岐は買い物をする。
「予算考えて買ってね?」
 手を繋ぐ瑠璃に言われつつ、那岐はお揃いの腕輪や瑠璃の服を買っていく。
 金細工、寺院、動物……混沌とした雑踏に、恭臣は思わず呟く。
「地球ってやっぱりすごいなー、こんなに色々あって、色々な生き物や人が生きてるんだもんね」
「良い星(とこ)だろ?」
 尻尾を揺らすマクスウェルの足取りは浮き立ち、声音にも楽しさが滲んでいた。

 クリスティーネが躓きかければ、手を繋ぐ沙雪が引き戻す。
「ここがインドですか~……」
 ベルタとシアも辺りを見渡す。
 四名が買ったのはサリー。クリスティーネは普段とは異なる装いに自信がなさげだったが、沙雪に褒められて悪い気はしないらしい。
 沙雪が手に取ったのはストール。どれが似合うかと問われ、クリスティーネはびっくり顔。
「ど、どれが似合いそうか? ですか?」
 クリスティーネは、結局自分の好みで沙雪のストールを選ぶ。
「ベルタ君もサリーがとっても似合いますのよ」
 シアと共に、ベルタはアクセサリーを選ぶ。
「あ、この耳かざりキレイです♪」
 ベルタが手に取ったのは、金の象のイヤリング。
「ベルタ君の色のも見付けたわ」
 同じデザインのピンク色を見つけ、二人は購入することにした。

 龍伍は憂妃と靴選び。
「でもォ、靴もいいけど折角インドにいるんだしィ、服もほしいしアクセサリーもほしいナ?」
 溜息をつく龍伍に、憂妃はピンクのスーツに赤のシャツと白いネクタイを合わせる。
「すっごおい、トータルの値段も安いわよ! ねえこれになさいな、世界一のイケメンになれるわよ!」
「お前、壊滅してんな……」
 皆まで言わない紳士さに、肘打ちの淑女さを返す憂妃が選んだピアスは派手なデザイン。
「お前にはこういう可愛い方が似合う気もするんだけどな」
 龍伍が別のピアスを手にして言えば、少々の沈黙。
「可愛い方が似合うなら、まあ、じゃあ」
 憂妃は派手なピアスを棚に戻すのだった。


「智十瀬にしては洒落た物だな」
「俺にしてはって失礼だな、飲ませてやらねぇぞ」
 言いつつ、恭典と茶葉を買った智十瀬も入店。
「象の置物みたいなでかいもん買うなよ?」
「ん? 俺はこの象の置物を――え、駄目なのか?」
 インドといえば象だ、と真剣に抗議する恭典。
「止めないけど運ぶのは手伝わないからな」
 智十瀬はそう返し、バングルを買う。
「良いじゃないか」
 後は食事と、二人はカレー屋へ向かう。
「刺激が強そうだな……お子様の味覚で耐えられるか?」
「辛いの平気だっての、恭典こそ残さず食えよ」
 言い合う二人の腕には、揃いのバングルがあった。

 淡雪はサリーを熱心に見つめていたが、結局棚に戻す。
「私ならすぐ脱げて全裸にになりそうだから……」
「そんなに簡単に脱げないとは思うけど……」
 淡雪だから油断ならない、とアガサも重々しく頷く。
 サリーの隣のレヘンガを、淡雪はうっとり見つめる。
 アガサが確認したところ、これは婚礼衣装のようだ。
(「1人で着るのもなんだか可哀想な子みたいで……」)
「ってアガサお姉さんその可哀想な子を見る目を止めるのです!?」
 しばし検討し、アガサ自身もシャルワニを着ることに決めて淡雪を試着室に送る。
「お手をどうぞ、お姫様」
 アガサが手を差し出せば、淡雪は表情を明るくし。
「帰ったら皆に自慢するのですわ!」

 憂女は、ヒメへと白い刺繍のサリーを差し出す。
「これとか似合うと思うのだけど……どう?」
「あ、これも綺麗で良いわね。白も普段からよく選ぶし」
 ヒメの手には、青いサリーとチョリ。
「えぇ、似合ってるわ。肌白くて綺麗だから青色もとても映えるわね」
 憂女が目に留めたのは、深い青に金と白を織り込んだ絢爛たるサリー。
「ちょっと着てみたいけど……普段着じゃないわよね」
「ボク達が着るなら普段着扱いでは無いし良いんじゃないかな?」
 ヒメは憂女の体にサリーを合わせ。
「うん、髪の紅も映えるし似合っているわ」
「……うん、たまにはいいのかもしれないわね」
 憂女はヒメに微笑みかけるのだった。

「あああ、可愛いですぅ!」
 弔花を着せ替え人形にするメリーナの叫びが響く。
「基本に忠実にサリーとか、シルエットが映えるスーツないかな……あ、魔女服売ってる。これどうよ?」
 ノーザンライトはいつも通りの魔女服姿。
「はしゃぐのはいいが水分補給はしっかりな。生水は止めておいて、それから帽子も日光避けにかぶった方が……ノーザンライト嬢、大丈夫か?」
 飲み物を差し出す弔花に並ぶのはメリーナ。
「……ダメだ裾引きずるぅ!?」
 メリーナは手にしていた子供服をそっと後ろ手に、涼しげなチューリヤーンをミルティに差し出す。
「シャラシャラしたのどう? こっちはセクシーすぎる? あ、魔女服売ってる。これどうよ?」
 ベリーダンスのセクシー衣装も、ミルティが着ればキュート。
「せくしーなの? きゅーとなの?」
 ベリーダンスを披露するミルティを、拍手が包む。

「あっ、リンさんっ。次はあのお店に行くのはどうでしょう?」
「ふふ、次は何処行きますですか? 一緒なら何処でも楽しいのです♪」
 尻尾を振るリリーナはリンの顔を見つめて、照れたように笑いかける。
「えへへっ、リンさん、大好きですっ」
「私も大好きです! 愛してますですよ♪」
 言葉を返し、二人はキスを交わす。

 雪斗はスパイスを選ぶ。
「菓子作りでも使うしなぁ」
 つむぎは変わったスナックに目を輝かせ、瑠架は紅茶の試飲をしながら思案中だ。
「うぅん……ダージリンとアッサムは買うとしてフレーバーティーも気になります……」
「ヘナタトゥーあるよ! ヴィくん似合いそう。やってもらおうよ!」
 お菓子を買ったつむぎに引っ張られ、ヴィは興味津々な様子。
 アロマを見るつむぎのそば、雪斗は香りに目を細める。
「ええ香り」
 象のシャツは似合わなかったので、雪斗が買ったのは食べ物ばかり。
 試着した服を褒められてつむぎは購入。ひと段落したところで、チャイを飲んで休憩することにした。
「おー、これは美味しいと思う!」
 甘い物もスパイスも好きなヴィは絶賛、雪斗も買い物の疲れが癒されたよう。
 瑠架も帰国して荷物を開ける時を楽しみに思うのだった。

「結構な長さを使うンだなァ、サリーって」
「ほらほら、シンマンクン。とっても綺麗ですよ」
 シンマへと、エウジェニオは布を体に巻いて見せる。
「……サリーって、女性用じゃなかったっけ……」
 だが、艶やかさの前にはそんな疑問も吹っ飛ぶ。
「……とっても似合っとるし、良いかー……」
「せっかくだからシンマクンが選んで下さいナ♪」
 シンマが選んだのは、瞳に似合う韓紅のサリー。
 とりどりの刺繍のあるチャッパルを合わせるシンマに差し出されたのは、夜空のような一枚だ。
「キラキラ星が瞬いているみたいですよ」
 きっと似合います、という確信の籠ったエウジェニオの声に、シンマは嬉しさを隠しきれずに呟く。
「……似合うだろう、か」


 サリーに着替えたそよぎは八柄にぺたりと引っ付き、問いかける。
「どうでしょうか? ムラムラしますか?」
「お、おう……ムラムラはしないけど、似合ってんじゃないか?」
 照れ臭さを押し隠して観光へと急ぐ八柄。

 桜は、人ごみの苦手なヴィンセントに休憩を提案する。
「このお菓子、甘いみたい、ですよ。食べてみましょう!」
 甘いパルフィを差し出す桜。
「あんまりたくさん食べられないので、お兄さまに半分さしあげます」
「これは……桜、もういらないのか? いらないならもらう、けど」
 ヴィンセントの表情はあまり変わらない……でも、桜なら彼が喜んでいることなどお見通しだろう。
 二人は、変わった物を買おうと市を眺める。
 桜が手に取るのは、願い事を書いて入れておく筒。
「いつかお兄さまに、大事な願い事ができたら使ってください」
 ヴィンセントは桜にロドライトを差し出す。
「おもしろそう……だから、桜に、あげる」
 想いを籠めたプレゼントは、日差しよりもずっと温かい。
 
「ほらほら、周囲を見るのは構わんが、逸れんようにな」
 リェトは言い、キアラはブロックプリントのハンカチをお土産に買う。
「マイヤちゃんにはピンクと紫の花のダリアの大花の2つと……」
 目移りするキアラ。
 セレスが選んだのはチュニックだ。
「よかったら私からプレゼントするわよ?」
 言われ、マイヤとキアラは目を丸くする。
「プレゼントしてくれるの? ありがとう!」
 キアラがマイヤのを買えば、三人でお揃い。
 自分も何か贈りたいとマイヤはストールや巾着を見つめる。
「おー、やっぱりいくつになっても女性は買い物好きだな」
 言うリェトの肩には、付き合いきれないと言わんばかりのラーシュの姿があるのだった。

「わああ、インド、すっごいね!」
 トイカメラを手にはしゃぐステラへと、翌桧はベールを被せる。
「うーん、やっぱ女の子らしくピンクとかの方がいいかな」
 問えば、リシアは肯定的にひと声鳴く。
 後押しを受け、翌桧は上下一式を揃えてやることにした。
「ええっ、でも……!」
 慌てて遠慮するステラだったが、瞳の奥の憧れは隠せない。
 ステラが気になったのは、翌桧が自分の服を買っていないこと。
「俺はいいって、俺が着飾って誰が喜ぶっつーんだよ」
「私もリシアも喜ぶのに。ねー?」
 根負けして頷く翌桧に抱き着くステラの笑顔は、どこまでも明るい。
「おじさん、ありがとね!」
「はいはい、どういたしまして」
 自分に娘がいたら――そんな思いに浸りつつ、翌桧はステラの頭を撫でるのだった。

「あ、これ一緒に買いませんか~?」
 舞花が選んだのは、金物細工の栞。
 対になった片翼を買えば、舞花は嬉しそうに笑った。
「良い思い出になったぜ」
 照れ臭く笑う虎次郎。
 ――移動の車中では運転手から慰霊碑の話を聞き、少ししんみりとした空気にもなる。
 観光に伴う光と影。忘れてはならない、と二人は心に刻みつける。

「街並みも商品も、日本とは全然違うのだわ」
 原色の街に息吹は言い、首飾りを首に当てる。
「普段使いには悩むけど……こういう国に来ました! って感じ」
 倖夜は答え、鮮やかなショールやサリーにも興味を示す。
 許可を取って撮影すると、ふふ、と倖夜は微笑する。
「こういう格好もお姫様みたい、じゃない?」
「これで王子様も射止められるかしら? なぁんて」
 息吹の肩にはストール。倖夜からのプレゼントをそっと撫で、息吹はくすくす笑うのだった。

「リリ。沢山お買いものするわよ。持って帰るのに困るくらいにね」
「お、お姉ちゃん、持って帰れない程買ったら帰れなくなっちゃうよ……?」
 そんなことを言いつつ周が選んだのは、サリー。
「赤は花嫁さんの色って聞いたことがあるけれど、こっちで生活するわけじゃないし。リリの好きな色、好きなアクセサリーを選びましょ」
 説明を聞きつつ、リリックが選んだのは青色。
 アクセサリーはお揃いにして記念撮影すれば、大事な思い出の出来上がりだ。

「……あ。ちょっ、こら」
 ナンロールを頬張った所を撮られて亮は何か言おうとしたが、アウレリアの楽しそうな笑い声につられてしまう。
 寺院通りを歩くなら手を繋いで。宮殿みたいという亮にアウレリアは頷き、穏やかな言葉に口元を綻ばせる。
「アリア、これ食べてみる?」
 差し出されたのは綿菓子風のお菓子。アウレリアの口には、カルダモンの清涼な風味が広がる。
「……美味しい!」
 頬を緩めるアウレリアの姿こそ、亮にとっては一番のお土産だった。

「せっかく現地に来たのだ、現地の衣服を入手しておこう」
 迷子にならないように、とイルはジヴリールの服の裾を捕まえる。
「お手手つながないの? じゃあ僕からつなぐー! こっちのが安心だよ!」
「……し、仕方がないな、全く」
 ジヴリールと手を繋ぐことを拒みはせず、イルは青系のサリーの試着を促す。
 自分に選んだのは紫のパンジャビ。綺麗だとはしゃぐジヴリールは、でも、と続ける。
「リタとおんなじの着る! 青いぱんじゃびー!」
「では揃いで着よう」
 ベールの下、イルは微笑する。

「お菓子用のスパイスですか……できたら分けてくださいね?」
 香辛料を買うロゼに智親は言い、周囲を窺って二人を護衛。
 実麻も楽しそうにスパイスを買い込み、次はビンディやサリーを買いに行く。
「え? あれ? サリーってもっと身長の高いお姉さまが着ないと似合わないの?」
 試着してみたサリーがあまり似合わずしょんぼりな実麻へと、ロゼは赤いパンジャビを差し出す。
「綺麗だし、インテリアにどうですか?」
 言いつつ、智親はすれ違う人へと流し目をプレゼントするのだった。

 アクシャルダム寺院を訪ねた藤次郎は、紫睡に問う。
「和泉さんはどう? 実際に見たら圧倒されたりしない?」
「色は少ないのですが、それでも補って余りある細工と神秘性が凄いです……」
 写真とは段違いだと圧倒された後は、予定を考える。
「あれこれ周る感じですね」
「昼になったらグルメエリアに行ってみようか?」
 藤次郎は言い、良かったら、と手を差し出す。
「ちょっと気恥ずかしいですが、その、なんだか嬉しいですね」
 紫睡のことを考える時間も増えた――温もりを感じつつ、藤次郎は言う。
「それが良いのか悪いのか、わからないけどね」
「いえ、私も藤次郎さんの事はよく考えてますよ」
 そして、二人は歩き出す。
 普段以上に賑わう、インドの街を堪能するために。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月11日
難度:易しい
参加:85人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。