「此処ね……」
大学の夏休みを利用して、愛媛は瀬戸内海沿いの田舎へとやってきた女性。
かつて平家の落人が逃げてきたその村には、首のない兵士の亡霊が出るのだとか。
「平家の落人伝説か……平家一門の子孫として、しっかり調べ上げなくちゃ!」
おじいさんやおばあさんを訪ねて、むか~しむかしの目撃情報も仕入れた。
結果。
夜、小学校のグラウンドを、これまた首のない馬に乗って駆け抜けるらしい。
「太陽が沈むわ。そろそろね……」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
そんな彼女の前に立ったのは、第五の魔女・アウゲイアス。
「亡霊がしゃべっ……」
声を遮るように、彼女の左胸に大きな鍵が穿たれる。
崩れ落ちる女性の代わりに、鎧に身を包むドリームイーターが現れた。
「はいは~い! 聴いてほしいお話があります!」
今日も元気に、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は呼びかける。
なんだなんだと、数名のケルベロス達が集まってきた。
「みんながねむのお話に興味を持ってくれて嬉しいのです!」
ねむは、強い『興味』を持った女性がドリームイーターに襲われたのだと説明する。
そしてその『興味』を元に、新たなドリームイーターが生み出されたのだという。
「被害が起きる前に、このドリームイーターを倒してほしいのです!」
そうすれば女性も意識を取り戻すのだと、ねむは付け加えた。
「その女性は、平家の落人伝説を調査していたらしいのです!」
故に生まれたドリームイーターは、ぼろぼろだが武士の格好をしている。
得物の長槍を巧みに操って、馬上から敵を打ち滅ぼさんとするのだ。
「戦闘場所は小学校のグラウンドです! 今夜は満月だから、灯りも要らないのです!」
ちなみに。
このドリームイーターは、存在を信じていたり噂していたりするヒトに惹き付けられる。
また、出会い頭に『自分が何者であるかを問う』ような行為をしてくるらしい。
正しく答えられない相手にたいしては、速攻で襲いかかってくるだろう。
だがいずれも上手く活用すれば、戦闘を有利に進められるかも知れない。
「あと、襲われた女性はグラウンドの隅っこに倒れているのです!」
様子を伺うため茂みに隠れていた女性は、その場所で横になっているようである。
「興味はいろんなことの原動力になるから大切です! 悪用するのは許せないのです!!」
だから絶対にドリームイーターを倒してほしいのだと、力を籠めるねむ。
えいえいおーと、ケルベロス達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
神条・霞(魂を喰らいし夜叉姫・e04188) |
舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841) |
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343) |
カナメ・クレッセント(羅狼・e12065) |
夜殻・睡(凍夢の鋭刃・e14891) |
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953) |
茨木・流華(羅城門の鬼・e17756) |
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518) |
●壱
ヘリオンを降り、件の小学校を訪れたケルベロス達。
倒れている女性の安全を確認して早速、作戦を開始した。
「そういえば皆さん、聴かれましたか?」
話を切り出したのは、神条・霞(魂を喰らいし夜叉姫・e04188)である。
亡霊にかんする噂話をすることで、ドリームイーターを誘き出す作戦だ。
「落人という言い方だと、本来は武士に限らないものだが……今回は落ち武者で間違いないようだな……しかし、ここに本当に件の落ち武者がいたのだろうか……」
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)による、言葉の違いについての説明を聴きつつ。
女性から遠ざかるように、グラウンドの中央へと歩を進めていく。
「へぇ、成程な。面白いなぁ、白いの」
相槌を返して、月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)も興味を示した。
ブルーファイアランプで足許を照らし、空いた手はナノナノと遊んでいる。
「平家の亡霊……栄枯盛衰。栄えたものは何時か滅ぶ。わかっていることですが、死んだのなら後腐れなくいきたいものです」
カナメ・クレッセント(羅狼・e12065)が、哀しみに似た気持ちを口にした。
その想いに、惹き寄せられたのだろうか。
『儂は、何者ぞ……』
低く唸るような声とともに、ドリームイーターが姿を現した。
『儂は、何者ぞ……』
「貴様は『ただの化け物』だ。主への忠誠も、戦人としての誇りも忘れ、そのような姿になって弱者に牙を剥くような兵などいない!」
二度目の質問に、舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)はきっぱりと答える。
ディフェンダーである自分へ攻撃を向けさせるべく、わざと挑発的な言葉を並べて。
「……」
「……」
「……」
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)は、傍らで沙葉を見守っていた。
得物に手をかけたうえで、茨木・流華(羅城門の鬼・e17756)も黙っている。
夜殻・睡(凍夢の鋭刃・e14891)も、やはり無言を貫いていた。
3人とも、すぐに動けるよう待機するというスタンスをとっている。
「倒すべき敵の判断すらつかないのだからな……安心しろ、私達が引導を渡してやる」
『そうか……』
沙葉が答え終わると同時に、手綱を引くドリームイーター。
右手に長槍を構え直して、ケルベロス達の中心へと突っ込んできた。
●弐
左右に跳び退きながら、8人と相棒達がポジションを整える。
攻撃は予定どおり、沙葉が受けた。
「平家の落人伝説か……この敵が本当に平家の生き残りかどうかは定かではないが、このような姿になってまで戦い続けることを哀れに思う」
見せられた自らのトラウマに負けず、足許へと星座を描く。
前衛のメンバーへ、バッドステータスへの耐性を付与した。
「ドリームイーターとはいえ、武士は武士……正々堂々と相手をしよう……行くぞっ……」
翼で飛び上がれば、セイヤは全速力でドリームイーターと並走。
側面から、煌めきを纏う重い蹴りを打ち込んだ。
「……ん。仕方ない」
気怠そうに眼鏡を上げて、睡の初手は達人の一撃。
斬霊刀で以て、確実に斬撃を当てにいった。
「夏場には怪談話への『興味』が尽きないな……類似した事件が起きないよう、確実に潰していくか」
ナノナノをぽいっと放って、宝は前衛陣の命中率をアップさせる。
相棒は、投げられた先で宝に向かってひとつ鳴き、ハート光線を放った。
「走れ、魂現拳」
縛霊手に氣を集中させつつ、ライドキャリバーを走らせるヒエル。
炎とともに突撃すると同時に、強化した拳で殴りつける。
「さて、滅びた亡霊を黄泉路に送り返しますか。霞、流華、熱くならずにいきましょう。さぁ、我が剣を受けてみよ!」
妹達に呼びかけてから、カナメはゾディアックソードを振り下ろした。
ドリームイーターと相対しても、冷静沈着に堂々と余裕の表情を見せる。
「任せなって!! テメェの鎧、砕いてやるぜ!」
嬉しそうに応えると、雷の霊力を帯びた日本刀で鎧の背を斬り裂いた。
流華にとって、戦うことは生き甲斐だから、いまこのときが楽しいのだ。
「覚悟してください……この手であなたを……確実に成仏させてさしあげます……! 義嗣も……お願いします……」
眼前に出した縛霊手を、ぎゅっと握り締める霞。
ビハインドがドリームイーターを金縛りにしているあいだに、紙兵を散らす。
第1ターンは、先手こそとれなかったものの、皆がやるべきことをこなしていた。
そのままの勢いで、戦いは次のターンへと進んでいく。
●参
数ターンの攻防を繰り返せば、いよいよ息の荒くなるドリームイーター。
ケルベロス側のダメージは、ディフェンダーに集中していた。
「まずは落ち着け。状態に惑わされず自分の力を最大限に発揮しろ」
語りかけるヒエルの声が、沙葉の平常心を高めさせてくれる。
このかん、ライドキャリバーは主人から注意を逸らすようにスピンを繰り出していた。
「ヒエル、感謝する。まだ、終わりではない……!」
体力の回復を受けて、前線へと戻る沙葉。
潜在能力を最大限に引き出して、斬撃を幾度も喰らわせる。
「じっくり味わいな……」
宝は動いていないのに、ドリームイーターの身体をじわじわと痛めつける魔法。
追撃に唸る身へ、ナノナノも尻尾を刺して毒を注入する。
「喰い千切れ、八つ頭の蛇」
真っ白な冷気を纏う睡の刃は、1秒間のうちに8回もの刺突を放った。
その軌道は伝説にあるヤマタノオロチの如く、睡の手によりうねり踊る。
「源氏に敗れた亡霊……再び眠りにつくがいい。俺の剣に断てぬ者無く、俺の拳に砕けぬ者は無い……神速の刃に散れ……ッ!」
馬の駆ける先へと降り立ち、その瞬間を待つセイヤ。
体内に溜め込んだグラビティを解放して、神速の居合いで斬り棄てる。
「先陣はあたいがいく! 大人しくしなぁ……地獄に送ってやっからよぉ……」
「がら空きです……! 切り裂け、旋風!」
「騎士の誓いと誇りを乗せ、必ずや勝利の二文字を!!」
右手を艮の方位へ向け、集めた悪鬼の気。
音の速さで斬りつければ、流華の刃から傷口へと移り、その身を侵していく。
続けて霞が、斬霊刀を薙ぎ払い、鋭い風を起こした。
広がる傷口へ、ビハインドも手近な石を飛ばす。
連係攻撃の終着点は、カナメ。
斬撃の嵐がドリームイーターを捉え離さず、最期はその左胸を刺した。
暫し、沈黙ののち。
長槍が地へ投げ出され、馬も武者も揃ってぼろぼろと崩れ落ちていく。
ケルベロス達の手によって、亡霊は葬られたのだった。
●肆
ぐるりと見回せば、敵の機動力の所為もあり、比較的広範囲に被害が広がっている。
別れてヒールを実行し、女性のもとで合流した。
「お、気が付いたか? 顔色は……大丈夫そうだな……」
面倒見のよさを発揮して、介抱していたセイヤ。
自分達がケルベロスであること、亡霊は実はデウスエクスだったこと。
女性が納得するよう、だが不安を煽らないよう、セイヤは最低限の事情を説明した。
「今回は事件に巻き込まれてしまったが、興味を持つこと自体は悪いことではない。デウスエクスは、これからもケルベロスが倒していく。これに臆せず探求を続けてくれ」
口下手なヒエルだが、精一杯のフォローを口にする。
折角の行動力や探求心を、この出来事によってなくさないようにと。
励まされた女性の、はい、と言う笑顔に、安堵に少し喜びの混ざる気持ちを感じた。
「確か、平家一門の子孫だそうだな。よければ、この地に伝わる伝説について知っていることを教えてくれないか?」
自身の『興味』はもとより、元気付けようと、沙葉が訊ねる。
ドリームイーターの糧になり得ることは、勿論、理解していた。
けれどもその危険以上に、戦った相手のことを識りたかったのだ。
女性曰く。
この地には壇ノ浦の戦いに敗れた平氏一門8名が、流れ着いたらしい。
命からがら山のなかを歩きまわり、そのうち、昼も夜も分からぬ深い谷へと辿り着いた。
其処で見張りを立てつつ、百姓として3年ほど生活をしていたある日。
白鷺の群れを源氏方の白旗と見誤った落人達は、相談の末、6名が切腹したのである。
残された2名は血を絶やさぬよう近くの集落へ移り住み、一応の難を逃れた。
しかしながら敵襲の危険もあることから、長きにわたりこの谷へは近付けず。
谷の名は、平家谷。
いまではそうめん流しをおこない、夏に多くの観光客を受け入れているのだとか。
ということで。
其処で自害した武者の亡霊が、このグラウンドに現れるらしい。
「隠れてひっそりと暮らしていたところに追っ手が来るなんて……この地には、たくさんの苦しみや哀しみが残されたのでしょうね」
「きっと私達みたいに、家族や誇りのために戦ったのね」
「霞姉もカナ姉も、そんな顔するなよ! あたいが護ってみせるから!」
落人の終焉を自分達に重ねて、肩を落とす霞とカナメ。
そんな姉達の感情を察知した流華が、背後から2人の肩へと腕をまわす。
なにがあっても3人一緒だからと、ピンクの瞳でウインクをしてみせた。
末妹の心遣いが嬉しくて、それぞれ、流華の腕に手を当てる。
肌の熱を感じると、お互いになんとなくほっとした。
「細かいこと気にしねぇで、暗くなったときは海を眺めてみな。心が晴れるからよ。あと俺は、源平より戦国の方が好きだな」
口の端を上げて、グラウンドから見える夜の瀬戸内海を示す宝。
海が好きで、眺めていると気分が落ち着くのだ。
ナノナノを両手で弄りつつ、穏やかな波の音と吸い込まれそうな黒に眼を向けた。
「……ん。怪談、は実在しないからいいものなんだと、俺は思う」
女性恐怖症故に皆から数歩の距離を置いて控える睡が、ほろりと漏らす。
表情は変わらないままだが、吹き抜ける磯の香りに心地よさを憶えた。
無事に総てが終わったことに胸を撫で下ろすと、忘れていた眠気がやってくる。
そうして皆、満点の星空で古の魂へと冥福を祈るのだった。
作者:奏音秋里 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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