ケルベロス大運動会~ヨガパワーでリフレッシュ!

作者:古伽寧々子

 インドです!
 何がって、そう、栄えある第1回ケルベロス大運動会の開催地。
 ケルベロスで大な運動会が!
 インドで!
 開催されるのです……!!

 その名も『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』!!
 世界中のプロモーターたちが集まり、危険すぎるがゆえに作られなかった危険なスポーツ要塞が、開催地である『インド』の各地に作られている。
 何がステキって、ケルベロスには通常のダメージが効かない。
 つまり、あんなことやこんなことができてしまう。
 『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』で疲弊した世界経済を救うため、このイベントを思いっきり楽しんで、皆で盛り上げよう――!!
 
「でもね、インドでも復興が遅れている場所があるの」
 詩・こばと(ウェアライダーのヘリオライダー・en0087)はぱちぱちと少し大げさに瞳を瞬いて見せた。
 インド政府からの要請もあり、せっかくインドに行くのだから、インド各地のヒールもしちゃおう! ということになったのだ。
「で、皆はリケーシュにご招待しちゃうわ」
「リケーシュ?」
「そ」
 首を傾げる芹城・ユリアシュ(サキュバスのガンスリンガー・en0085)にこくこくと頷くこばと。
 リケーシュ。カタカナで表記するとリシュケシュだったりリシケシだったりもする街。
 ガンジス河の上流にあり、ヨガの聖地でもある。
 『アシュラム』と呼ばれるヨガの道場が複数あり、修行だったり静養だったりに訪れる人も少なくない。
「そういう、宿泊施設が古くなってたり、道路が悪くなってたり。あとは、吊り橋ね」
 ガンジス河に掛かる大きな吊り橋の修理は生活に直結するため、急務だ。
「元々可愛い建物もいっぱいなんだけど……ヒールで素敵にしたら、喜ばれるんじゃないかしら」
 ファンタジックでスペシャルでインドな感じに。
 街もヒールできるし、ケルベロス的な活動の宣伝にもなるし、一石二鳥である。と、こばとは満足げだ。
「それで……」
 ガイドブックをパラパラとめくり、ふむぅ、と考え込むこばと。
 ヒールの後はお楽しみ、ヨガ体験が待っている!
 アロマを焚いて効果を高めつつ、初心者向けのポーズや呼吸法でリラックスするライトなものから、意味わからないくらいぐねぐねになるポーズと本格的な瞑想がプログラムされた本格的な修行まで。
「お食事も制限されたりするらしいわ……」
 ふるる、と震えるこばと。いや、それは超本格的なヤツだけだから!
 とにかく、楽しい運動会を過ごすための準備には余念なく。
「ばっちりリフレッシュしてきてね」
 そう言って、こばとはぱふん、とパンフレットを閉じる。
「うん、英気を養わないとね」
 運動会での皆の活躍が楽しみだ、とユリアシュは笑うのだった。


■リプレイ


 輝くヒールの嵐。
 煌めく翼のドゥーグンの空からのヒールだ。
「皆さんが早く元の生活に戻れますよう」
 手分けをすればそれだけ早く済む。
 ケルベロスたちの活躍で、たちまち、リケーシュの街は生気を取り戻し始めていた。
「これが俺からの処方箋だァ!!」
 激しいノリで元気をくれるヒールをククロイ。
「破壊っぽいヒールの後からッ! 再生がッ! 始まるゥうッ!!」
 それはエスニックでファンタジック。壁には寺院や象、踊る人たちなどが描かれていてヒールを眺めていた人たちも思わず笑顔になる。
 泰地のポージング……もとい、ヒールも決まり。
 他にも壊れている場所は無いだろうか、ときめ細やかな作業が続けられていた。

「凪、ちょっと、行ってみない……?」
 ヒールされた吊り橋の揺らぐ様子を眺めていた瀬奈が訊ねれば、凪は瞳を輝かせて頷いた。
「ちょっとドキドキですね」
 ぎゅっと手を握って、そーっと渡る。
 不意の大きな揺れに悲鳴を上げて、顔を見合わせ笑うのも同時。
 景色を見渡せば、清流のガンジス川、緑の山々。カラフルな建物が木々の合間から覗く。
「大きい……」
 呟く瀬名に、笑顔の凪。
「皆さん笑顔にできるようにヒール頑張るのです!」
「このあとの、ヨガ体験も、楽しまなきゃ、ね」
 心も体も、癒し癒され。

「ナタラージャの飾り窓とかどうだろ?」
 時人のヒールが宿泊施設をより一層輝かせ、功太郎のふりまく葡萄の香り袋が辺りをいい香りで包み込む。
 なんだか一部、和風が混じっているのはたぶん陸井のせい。
 飛んで高い所を修理するリーンに手を振り返しながら、マルティナは満足げに頷いた。


「サイト、どうでしょう?」
 ビハインドのサイトに語り掛けつつ、ぐねぐね、身体の柔らかいリーンが気持ちよさそうに身体を伸ばす、その横で……。
 阿鼻叫喚。
 ヒールの時の癒し感はどこへやら。
 ライトモードなのになんかもう、身体グキグキ。
「ちょっ! あだだだだ痛い痛い!!」
「ど、どうでしょう……これでちゃんと、出来て、いるのでしょうか?」
「やっぱり厳しい。誰か手伝って……いだだだ」
 マルティナ、功太郎、陸井が呻く。これで呼吸しろとか言われても! とぷるぷる震えている。
「だが、慣れてくると結構気持ちいいな。ふむ、悪くない」
「俺も皆もヨガとか柔軟続けた方がいいかもだよね」
 ちょっと涙目になり掛けた時人が、深くため息を吐く。
 継続は力なり、たぶん、きっと。

 メリルディはパルマローザの香りを胸いっぱいに吸い込んで、ヨガレッスンを始めた。
「ぐぬぬー、ちょっと体が固いのがば、れ、る……!」
 なんで先生はあんなに身体がふにゃふにゃなんだろう? 感動しつつ、必死に床に胸を近付けようと反らすクーリンを見、メリルディは瞳を瞬いた。
 ちなみにこちらは身体も柔らか。初心者向けならそこそこおっけー。
「やっぱり……っていうかもうちょっと押してみよっか?」
 ぐい、と軽く押すだけで悲鳴が上がるけれど……それも全て美味しいものの為!
 ジャージは地味かしらと、周りを見渡す佐楡葉。とはいえ本命はヨガ! 初心者コースだけど、難しいポーズも試したい。
(「もう少しで足を首後ろに掛けられ……」)
 キャミソールにパンツ、呼吸法重視で胡坐を組み、瞳を閉じるアリエータはちらり、頑張る佐楡葉を盗み見る。
(「あ、佐楡葉さん柔らかい……」)
 アリエータがそう、思った時。
 ゴキッ☆
「あ」
 小気味いい音と共に腰に激痛。
「ひ、ヒールしますね……?」
「うう、初心者には無理がありましたか」
 そんな時は、フルーツを食べて気分転換。

 合蹠前屈は難しいポーズじゃないはずなのに。
「うう、こ、腰が痛いです……!」
「ベーレ! くっ、親友の分まで私が華麗なポーズを取ってみせ……」
 崩れたエルトベーレの代わりに、慣れてきた灯が見事な柔軟性で背中を反らせる。が、緑の翼が邪魔をしてバランスが取りづらい。
「先生どうしたら!」
 訊ねてもばっさり『翼をしまえ』と。
「それは出来ない相談ですこれは自慢の翼でぐぎぎぎ」
 ばさばさ暴れて変な方向にくきり、と倒れた。唇が小さく『たすけて』と。
「きゃー! 灯ちゃんしっかりしてください傷は浅いですー!」
 その側では、楓もまた悲鳴に似た声を上げていた。
 戦闘では激しく戦うのに、どうにもヨガはぎこちない。
「こんなんじゃ私…、綺麗になれないのかな? でも、諦めたくない……!」
 もう一度、と腰を捻り、身体を反らせるけれど。やっぱり、聴こえるのは悲鳴ばかりなのだった。

「恵くん、ちょう、姿勢いい……!」
 キラキラ瞳を輝かせる父親に、ふふと笑う恵。
 ジムでちゃんと鍛えている恵には朝飯前だ。
 一方、バッキバキ、座りっぱなしが多い和の身体が言うことを聞いてくれる訳もなく。
「痛くなる手前、痛気持ちイイところで止めていいんだぜ?」
「そ、そなの?」
「少し角度を戻して……その状態でキープだ」
「痛た……気持ちい……おおおさっすが恵くん!」
 恵に身体を支えて貰えば、いい感じに身体の力が抜けて、リラックス。
 日本に帰っても、続けていこう。
 張り切るひなみく。楽しそうなタカラバコ。
 それはとても、いいのだけれど。
「郁くん、痛くない? もうちょっと曲げて~」
「うん、まだちょっといけそ……だけど……その」
 手伝うひなみくの息が頬に触れるのに耐えていた郁は、思い切って振り返った。
 と、すぐそこ、唇が触れ合いそうなほど近くに彼女の顔。
「あわわわわ!」
 慌てるひなみくから距離を取る郁。
「ご、ごめん…! 力を抜かないとなのになんか変に緊張しちゃったな」
「でもまあ、程よい緊張は大事だよ…うん…」
 照れ笑いを重ねて、それもまた楽し。

 ばきっ、
 べきっ、
 めきょっ!
「ちょっと待って身体から出るにはヤバい音が!」
「曲がるトコまで曲がればヘーキだって」
 「ぎぶぎぶ!」と纏が床を叩くも、ダレンはいい笑顔で背中を押してくる。が、自宅警備員の固さは伊達じゃない。
「ならば俺が健康な肉体のお手本を見せよう」
 片足で立つ弓のポーズに楽勝だな、と笑って見せるから。
「ラクショー? へー……」
 じとーっとダレンを見て息を吐くと、全体重をかけた軸足を攻撃!
 悶えるダレンに、纏の満足げな笑いが響くのだった。
 難しい、とポーズを取るのに眉根を寄せるファルケを手伝うコンスタンツァ。
(「いざ触ってみると引き締まったいいカラダっスね……」)
 こんなに近付くことはなかなかないから、思わず吐息が漏れる。
「どっスか?」
「ああ、うん」
 手伝いは嬉しいんだけどと前置いてから、ファルケは赤くなった頬を隠すように視線だけを外した。
「さっきから当たってるんだよね……きみの鼻息」
「ちっ違うっス今のはちょっとコーフンして!」
 え? と聞き返すファルケ。
「アタシってばはしたないっスきゃーっ!」
 そんなこんなも、二人の楽しい旅行の一幕で。


 先生のカウントに合わせて吐き、吸う。
(「不思議」)
 普段とは違うリズムに戸惑いながら、けれどウルズラはどこか心満たされるものを感じていた。普段、どれだけ急いで呼吸しているのだろう? 
「この国から、わたくしの方が癒しを貰ったみたい」
 そっと、呟いて。
「……この呼吸法って何かの役に立ちそうですし…こう、コォォォ―ってやるといいんですかね?」
 アロマな空気を胸いっぱいに吸い込む零の姿にゼルガディスは目を細めながら、頷いた。
「ヨガは不思議なポーズが多いが、それぞれきちんと意味があるのには感心」
「……えっと、こんなポーズですかね…? ……じゃあこう…?」
 二人並んで互いに確かめ合いながら、ポーズも綺麗にぴしりと完成。
 身体はゆっくりと、確かに解れていく。

「ちゃんと教えてもらえるのはありがたいよね~」
「って……なごさん、身体めっちゃくちゃ柔らかいな!?」
 無理せずリラックス。とはいえ、普段から考え事をする時にもやっていたりする和はぐんにゃりとバッタのポーズ。
 リーズレットとりかーが思わず並んできょとん。
 リズもセンスはあれど、和ほどまで行くのは難しくて、ムムムと唸る。
「アロマも気になるなー」
 日本とは何か違うのだろうか、と瞳を輝かせるリーズレットに笑み返す和。
「気になるなら後で買いに行く?」
 リラックスタイムはまだ、続く。
 配れるくらいのフレーバーウォーターの瓶の向こう側、お揃いのヨガマットで決めたリコリスとアディアータ。
「え? これ? あってる?」
 紫色のマットの上で、先生と同じポーズとは思えない、と眉を潜めるアディアータに、リコリスは大丈夫です、と声を掛ける。
 硬くても、ポーズを取ることが大事。
「ヨガの呼吸法も取り入れたら、より歌いやすくなるでしょうか」
 運動会はもちろん、歌にも活かしたいと意気込むリコリスだった。

「何よ次のポーズ! 本当に初心者コースなの?!」
「先生一般の人だよねケルベロスじゃないよね?!」
 先生の身体がぐにゃりと曲がるのに、半分キレながらポーズを真似るパトリシア。その隣で、子供らしい柔軟性で何とか形にしているシェーラ。
「フッ、ヨガは向いていなかったようね」
 思わず負け惜しみを呟くパトリシアに、手伝ってあげるとシェーラが手を伸ばす。――無意識のボディタッチ。
 ふるりと首を横に振り、真剣なパトリシアのポーズを手伝う。
 赤くなった顔に、気付かれていなければいいけれど。
「こう……」
「なるほど、これなら私にもできそうです……が」
 先生の指示に従うレーネの指が、キーラの肌の上を滑って指先まで、足先まで、正しいポーズへと誘導してくれる。
 のだけれど。
「あの、レーネ……?」
「なに……? 義姉さん」
 優しい指先がくすぐったく、気恥ずかしくて義妹へ視線を向けたのに、きょとんと首を傾げるレーネに何かを言える、訳もなく。
「いえ……引き続きお願いしますね、先生」
 集中。自分に言い聞かせるキーラの背中に、今度はレーネのふくよかな胸が当たるのだった。
「俺はほぼ全てが硬質なメカニックボディだからな……どこまで生体のように対応出来るのか、非常に興味深い」
「呼吸法一つで色々と効果があるものなのですね……機械部品も使われているレプリカントへの効果、是非とも体感しておきたいです」
 すー……はー……。
 先生に倣い、ひとつの動作を丁寧に行う、マティアスとレイン。
 深い瞑想状態は、心も体もリラックスさせてくれる。
 どうやらレプリカントでも、いい感じになれるらしい。
「ミア、もう少し右。そのまま背筋をまっすぐ」
「ええっ!? ほんと!? どこが!?」
「ダメ、それ逆」
「あ、あれれー??」
 あーでもないこーでもない、わいきゃい元気に試行錯誤するミアとイヴリン。あんまり楽しそうだから、くすくすとこばとが声を掛ける。
「二人とも賑やかね」
「あ……お騒がせして申し訳ない」
「わーん、煩くしてごめんなさい!」
「へーきよ、先生も怒ってないし」
 それに頑張った分だけ、美味しいお茶とフルーツ、お野菜が待っているんだから。


 一方その頃。
 はーどもーどなアシュラムには不穏な空気が漂っていた。

「さて暗夜? 普段怠けているお前のためにすぺしゃるコースを用意したのです!」
「大丈夫です、死ぬわけではありません! 吾々はケルベロス、グラビティさえ無ければ無問題です!」
 だめーじなんてかいむです。……たぶん。
 夜野と鼓太郎、素敵な笑顔×2にがっしり腕を掴まれて、暗夜はぶんぶんと首を横に振った……甲斐もなく。
「そんな体制取れるわけが……おい、何をするやめっ……」
「ギャァァァア!?」
 ぱたり。
「わーい 筋がいいって褒められたの!」
 ポーズ取りつつ無邪気に笑う夜野が気付けば、嫌がっていた暗夜どころか鼓太郎もハードモードヨガに撃沈していた。
 屍どころか、もはや燃え尽きて灰状態。
「……鼓太郎さん? 暗夜? どうかしたんだよ?」
「た、体術は手習い程度なら嗜んでおりますが、これは……アカン奴です……」
 それが最後の言葉となったのだった……。

 息を呑んだ。
「くっ……私が臆するわけにはいきません、先陣を切ります!」
 先生がお手本を見せる、あんまりにもあんまりなポーズ。とても人間業とは思えないけれど――イピナは意を決すると先陣を切ってポーズを決める。
 ……どう見ても涙目だけど。
「わ、わたしも行くよっ……ってあたたたたっ!! これ、なんか変な方向に曲がってそうなんだけどっ!?」
 なんだろう、ウチの旅団の女性陣はアグレッシブすぎやしないだろうか。とはいえ、仲間が頑張っているところ、逃げるわけにはいかない。
 意を決した柚月もポーズを決める。
「ぐ……きっつ……!」
 脂汗だらだら。
 はい、息してーとか言われようものならもう、無理。
 それでも三人一緒にクリアして、そのままばったりと床に倒れ込んだ。
「あ、でも、呼吸法とかはいい感じで学べたかもっ♪」
 シルの言葉に微笑み合う、修行を終えた面々の顔は、何だかとっても晴れやかなのだった。
「風月は余裕だね」
 ユリアシュが感心したように呟く。
 身体を折り曲げ、悲鳴を上げる骨の音まで楽しむようなその態度は、もはやプロ。
「より、本格的なのは食事も制限するのか…次に来た時はそちらを体験するのもありかもしれん……」
「すごいね」
 少し疲れたようにユリアシュは笑って、また来ようね、と呟くのだった。
 勝負に徹する人たちを尻目に、自分のペースで。
 辛夷の動作は優雅でしなやかだ。
「君は余裕じゃないか」
 シロガネもまた余裕で素晴らしいポーズをばっちり決めていく。
 二人なら、もっと上達も早くなりそうだ。

「……アジサイ、意外と柔らかくてキモチワルイです……」
 陣内の言葉に胸を張って見せるアジサイ。柔軟性はもちろんだが、無理なポーズもなかなかに筋力でカバーしてしまう二人。
「あの先生の動きほどまで極めれば、戦闘でも立ち回りにもかなりバリエーションが」
 けれどそこはさらに上を目指して! 真剣に考察するアジサイの隣りで、黒豹が動く。
「あ、これめっちゃ楽」
「……って玉榮貴様!」
 動物変身で豹のポーズを決める陣内……と言うか、もはやただの伸び。
「豹のポーズそれで済ませてんじゃねぇ!!」

「私は~体くねくねだからハードモードでおっけ」
「クロノさんぐねぐねすごーい! こうかな? こうかな?」
 えへん、と胸を張ってポーズを決めるクロノを、スーノが真似る。ハードモードと聞いてちょっと心配だったけれど、何とか皆無事みたいでエトワールは安堵の息を漏らした。
「クルスは平気なの?」
「……正直キツい。まぁ、顔に出てないなら上々だな」
 黙々とこなすクルスがに、と笑い、人を気にするなんて中々余裕じゃないか、と付け加えられたのに、エトワールは慌てて首を横に振った。
「…余裕じゃないよ」
「ぐっぐって背中押してあげようか?」
 そう言ったエトワールに、にんまり笑うクロノ。
「ちょっとまってこれ以上は背骨が痛い痛い痛い痛い」
 顔に出ないだけで、けっこうきつかったのであった。
 厳しい修行も、ハードモードも全て『運動会で目立って女の子にモテモテ作戦』のため!
 きりり、と最初こそ勢い込んだアマルガムだったが……複雑なポーズに硬い身体は悲鳴、瞑想では寝てる。こんなのもう、超本格的な方向で頑張らないとモテない気がする。たぶん。
「ゆ、ユーリ、一緒に地獄もとい修行をしないかっ、ていうか独りはイヤ一緒にやってぇええええ!?」
「これ以上はヤダ。絶体無理。アム、……泣いてもダメだから!」
 一刀両断のち、けふん、と咳込むユリアシュ。
 身体はそれなりに柔らかくても、ハードモードは堪えたらしい。

「なんでこんなところにいるんデスカ!」
 ぷんすか。勢い余って倒立前転しながらゼンにぶつかったクローチェが頬を膨らませる。
「ふざけんなよ! って俺ら一緒に体験してるんだよね!?」
 ゼンの反論を待つこともなく、クローチェは別のポーズ取ってるし。
 仕方ないなぁ、と肩を竦めた全も同じくポーズに入ろうとしたその時――べきっと嫌な音。
 クローチェから火花出るし。エラー出てるし。
「 誰か! お客様の中にウィッチドクターの方はいらっしゃいマセンカ!」
「いや、お前がウィッチドクターやん……」
 なんかもう、ヨガは神秘だと痛感するゼンなのだった。
「ちょっそこ曲げるの!? 折れる折れる折れる~」
 悲鳴にも似たジョルディの声。
 とはいえ男子たるもの、困難から逃げるわけにはいかない。
 ちゃんとプロの指導の下です。念のため。
「すごい! 見てください、こんなところまで曲がるんですよ!」
 心を空っぽにして、基本から一つずつを積み上げてきた。その結果、まるで骨格の存在を忘れたようにぐねぐねになって、瞳を輝かせているのはアシュレイ。
「アシュレイさん、集中していますね……私も頑張らなければ……!」
 負けじとエフイーもくるりんと頭のアホ毛を一回転半。
 極限まで身体を柔らかくし、弾力を持たせる『もにゅモード』なのだー!

「おおう、身体が軽い♪」
 関節がスムーズ。頭もすっきり。
 ヨガパワーを実感して、ジョルディは大きく伸びをする。

 晴れやかな気持ちで、朝を迎える。
 ケルベロスで、大な、運動会はもうすぐそこ。
 スポーツマンシップに則り、正々堂々と戦うことを誓います!

作者:古伽寧々子 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月11日
難度:易しい
参加:60人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 8
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