懐かしき音をもう一度

作者:雨乃香

「もっと真面目に商売するべきだったんだろうなぁ……」
 初老の男はカウンターの中に立ち、ゆっくりと視線を巡らす。
 周りには沢山の本棚が並び、古いものから新しいものまで沢山の本がそこに納められている。
 自分で淹れたすっかりと冷めてしまったコーヒーを口にしながら、男は振り返り、壁にかけられたコルクボードに視線を向ける。
 そこには飾られているのは幾枚もの写真。カウンターから撮られたその風景には沢山の園児と、顔なじみの保育士の姿が映っている。
「チビどもが来るのが楽しみだったってのに、そのチビどもからは金は取れねぇし……ままならんもんだなぁ……」
 呟きながら男は朗読喫茶と店名の入ったメニューを開く。
 コーヒーや紅茶、ケーキや軽食。どこの喫茶店にでもあるようなありふれたメニューの後、一番最後に書かれた朗読会の文字。
「客に読ませれば手間もなく金になるなんて甘い考え……結局あの保育士のねーちゃん以外は誰も利用しなかった……」
 メニューを閉じ、カウンターに飾られたそれらをまとめてダンボールへと押し込み、残ったコーヒーを飲み干した男の目から、一滴の涙が零れる。
「それがあなたの後悔かしら……私のモザイクは晴れないけれど、その後悔奪わせてもらいましょう」
 誰もいないはずの店内に響いた声に店主が驚き顔を上げた時には、声の主が握る鍵が男の心臓を正面から貫いていた。
 音もなく店主はその場に倒れこみ、代わりに、顔の半分をモザイクで、もう半分を仮面で覆ったスーツ姿のドリームイーターがその場に現れた。
 彼はダンボールに仕舞われたメニューを愛おしそうに抱き上げると、それをもとあった場所へと戻していく。

「お花屋さん、洋菓子店、アパレルショップ……子供の頃将来の夢に店を持つことをあげたことがある人は多いのでは無いでしょうかね?」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はいいながら、くるりと振り返り、皆さんはどうでしたか? とやってきたケルベロス達に問いつつ、各々の反応に相槌をうっていく。
「そんな素敵な夢を叶えたのに、店が潰れ、後悔してしまっている人を狙うドリームイーターが暗躍しているうようですよ?
 そのドリームイーターは既に現場から姿を消していますが、奪われた後悔を元に生み出されたドリームイーターがなにやら厄介事を起こそうとしているようす。皆さんにはこのドリームイーターを退治してきて欲しい、というわけですね」
 今回ケルベロス達を集めた理由を話し終えた彼女は、携帯端末を取り出し被害者となった男性についてまずは軽く説明をしていく。
 経営していたのは朗読喫茶という風変わりな喫茶店で、通常の喫茶店としての営業に加え、なにかしらの注文を取った客への本の貸与と、有料で朗読のサービスを提供していたとの事だ。
「好きな本を共有してほしい、という意図もあったのかもしれませんね。
 このドリームイーターは件のお店、朗読喫茶を占拠し、営業を再開しているようですね。まぁ元々潰れるくらい人の入りが無かったお店ですからお客さんはいないようですが……店の敷地は広いので周辺の被害を考える必要はあまりないでしょうが、店内自体は蔵書量が多く、開放的とはいいがたいです」
 暗い落ち着いた雰囲気のある店内の写真を見せつつニアはドリームイーターの特徴についても語る。
 このドリームイーターは後悔から生まれたせいか、近づくものを客として店の中に引き入れ、強制的にサービスを施すとのことで、迎えいれられた人物は本の朗読を強要され、断れば殺されてしまう。
 逆にサービスを心の底から堪能した客には手を出さないらしい、ということをニア説明した。
「これを上手く逆手に取れば、多少有利な状況で戦えるかもしれませんね?」
 具体的にどうれすばいいかは、わかりませんけどね? と無責任にいい、悪戯っぽい笑みを浮かべ、ニアは端末を仕舞う。
「このドリームイーターを倒したところで、被害者の方の後悔が消えるわけではありませんが……後悔は人を強くするものです、この方の意識を取り戻して、もう一度向き合ってもらうためにも、このドリームイーターをなんともして倒してください」


参加者
メルキューレ・ライルファーレン(青百合レクイエム・e00377)
シルヴィア・アルバ(真冬の太陽・e03875)
屋川・標(声を聴くもの・e05796)
青葉・リン(あふれる想いを愛しいあなたへ・e09348)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
青葉・ラン(もふもふツンデレラ・e11570)
詠沫・雫(メロウ・e27940)
海花櫻・美音(一空・e29511)

■リプレイ


 立ち並ぶ背の高いビルの間に日が沈み、あたりに薄闇が広がる夕刻。
 暑さも退き、徐々に涼しくなり始める時間帯、店の立ち並ぶ通りには人が溢れ、自分に必要な何かを探して歩いて行く。
 そんな通りから外れた路地の入り組む先、空き店舗が立ち並ぶ一角があった。
 大通りから外れた場所にある上、路地も入り組み道もわかり辛く、加えて居並ぶやや離れた位置にあるビルに影を落とされるそこに寄り付く人は殆どいなかった。
 そんな場所に一軒だけ、ぽつんと存在するレンガ造りの喫茶店。
 お洒落というよりは、煤け古ぼけた建物という印象が先にたつ、看板もなく簡素な扉一つあるだけのその店構えは、一目見ただけでは店とすら判断することも難しいだろう。
 現にその場に居並ぶケルベロス達も、その外観にいささか不安を抱いていた。
「本当にこの店であっているのでしょうか……?」
 事前に送られていた地図情報を片手にメルキューレ・ライルファーレン(青百合レクイエム・e00377)は不安げに呟く。
「うん、間違いないね。立地もなかなか悪いねこれは」
 メルキューレと同じ様に手元の端末を覗いていた屋川・標(声を聴くもの・e05796)は顔を上げて苦笑し、件の店をもう一度しっかりと視界におさめる。業種は違えど店を持つ者として、思うところがあるのか、歯切れ悪く言葉を濁す。
「とりあえずどうする? ノックでもしてみるか?」
 窓もなく中を伺うこともできないその店を興味深そうにシルヴィア・アルバ(真冬の太陽・e03875)は眺め、その扉に軽く手を触れさせた。
 その扉が内側へゆっくりと開いたのは、それとほぼ同時だった。
 店内のよく冷えた空気と共に現れたのはスーツ姿の初老の男。
 顔の半分を仮面で覆い、もう半分はドリームイーター特有のモザイクで覆われている。彼こそが今回、ケルベロス達が撃破を命じられた目標。
 初老の男を模したドリームイーターは店の前にずらりと並ぶ八人のケルベロス達に気づくと、驚いたように一歩後ずさって、真っ白な手袋をつけた大きな右手で顔を覆った。しかしそれは一瞬のこと。
 すぐに居住まいを正した男が腕を下ろすと、先程まで無表情だった仮面は半面の笑みへと変わり、シルクハットを片手に頭を下げた男はケルベロス達を招き入れるように開いた扉へと空いた手を向ける。
「入れってこと……ですか……?」 
 イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)の呟きに、男は小さく頷いて肯定の意を示す。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずと言いますし、いきましょうか」
 先頭を切って詠沫・雫(メロウ・e27940)が店内に入るのに続いて、残りの七人のケルベロス達も意を決して店内へと足を踏み入れて行く。最後の一人が足を踏み入れると、男がその後に続いて、丁寧に扉を閉める。
 微かな音と共に、薄いドア一枚を隔て世界が区切られた。


 外観とは打って変わって店内はゆったりとした落ち着きのある雰囲気の木造ので、元は広かったであろうその空間は所狭しと並べられた沢山の本棚で手狭に感じられるほどになっていおり、それに這うように設置されたキャットウォークは複雑に交差し、その光景は本の世界に出て来る巨大な図書館を思わせる。
 そんな蔵書の間を男に先導され歩く中、青葉・リン(あふれる想いを愛しいあなたへ・e09348)そんな光景に目を奪われ、思わず感嘆のため息を吐く。
 その隣を歩く妹である青葉・ラン(もふもふツンデレラ・e11570)は表情にこそ出さないものの、服の裾から覗く尾を揺らし、視線を左右に走らせる。
 さほどの時間もかからず、ぽつんと設置されたカウンター席に座るように促され、ケルベロス達はそこに腰掛ける。
「珈琲をもらえるだろうか?」
 あたりの蔵書に目をやりつつ海花櫻・美音(一空・e29511)がはじめに注文を告げると、この店の今の店主たる男は半面の笑みのままメニューを開き、その一番下、朗読会の部分を指差す。
「こちらが先、ということか」
 美音が聞き返すとすぐに店主は頷き返し、掌を上へとむけ、店内をなぞるように腕を動かし、自分を指差した後に、人差し指を一本立てた。
「この中から一人一冊選べ、ということです?」
 男は親指をグッと立ててリンの理解の早さをやけにフレンドリーに賞賛する。そんな不思議なドリームイーターにやや戸惑いながらも、ケルベロス達は席を立ち、本の物色を始める。
 そうして彼らが席へと戻る頃には、全員の注文を聞いたわけでもないのに、各々の望む飲み物とお茶請けがしっかりと用意されていた。
 それどころか、リンの連れるウイングキャットのタマ、雫の相棒たるボクスドラゴンのメル、そしてシルヴィアのお供、テレビウムのカルピィの分まで食べ物が用意されているという待遇だ。
 いつの間にやら誇らしげなお面へと顔を変えていた男はどうぞ、とでも言わんばかりに両の手を広げ、ケルベロス達を促す。
「それでは私からでいいでしょうか?」
 一番手を名乗り出たイリスにケルベロス達が異を唱える理由もなく、薄い詩集を片手にイリスはやや離れた位置にある低い壇上へと上がる。
 緊張した面持ちで声が発せられ、ケルベロスとドリームイーターの不思議な朗読会が幕を開けた。


 人通りの殆どない場所ということは裏を返せば外の喧騒から隔離された場所であるとも言える。
 そんな静かな朗読喫茶には、今カップとソーサーの音だけが響いている。
 イリスの朗読に続き、リンの異国の悲哀の話の朗読が終わり、皆が余韻に浸っているところだった。
 ケルベロス達に二杯目の紅茶や珈琲を注いでいく男の仮面は満足げな笑みの物となっており、ポットを置いた彼は椅子に腰掛けると、次は誰の番だろうといった感じでケルベロス達のほうへと視線を投げる。
 それを受けて、サンドイッチを胃袋におさめたシルヴィアが席を立った。
 彼女が読み上げるのは、朗読を生業とする少年が、カフェの店主に食事をご馳走になる代わりに、朗読を披露するという、今の彼らに似たような境遇の話だった。
 冒頭を読み終えたところで、シルヴィアは本を閉じて、壇を下りる。男はそれを咎めることもなく、小さく手を叩く。
「続きは? ここまでなの?」
 熱心にシルヴィアの話に耳を傾けていたランは歳相応の子供らしく目を輝かせ、身を乗り出す。
「続きはまた来た時に。次は人間の店主が聴いててくれると嬉しいな!」
 その様子に少しだけ申し訳なさそうにシルヴィアが頭を下げると、ランも少しだけ残念そうにしながらリンに宥められつつ席に腰掛けなおす。
 その微笑ましい様子に目をやりながらシルヴィアが席に戻ると、入れ違いに席を立った標が足を止め口を開く。
「凄くよかったよ、うまくは言えないけれど」
 そういう彼はどこか照れくさそうで、褒められた当の本人であるシルヴィアよりもくすぐったそうに笑っている。
「ありがと、素直に喜ばせてもらうよ」
 シルヴィアは言いながら軽く標の背中を押して、次の彼の朗読を心待ちに静かに目を閉じる。
 標は一編の詩を読み上げる。
 それ程長くはない、穏やかな内容のそれを読み上げる。
 先のシルヴィアの朗読が快活な、聴く者を元気付けるようなそれとは対極的な、ゆったりとした穏やかな声。
 最後の一文を読み終え、広がる静寂を壊すのを躊躇うかのように誰もが静かに余韻に浸る。
「やっぱり標の声を聞いてると落ち着くな」
 席に戻るなりシルヴィアにそう告げられ、標はやはり恥ずかしげに笑みを返す。
 半数の朗読が終わり、軽い休憩なのか、次を急かすことなく男は足を組み椅子に腰掛けている。
「それにしてもすごい数の蔵書ですね。ご自身の好みで収集なされたのですか?」
 メルキューレの質問に彼は首を振って否定した。難解なジェスチャーを用いた説明によれば、沢山の人のニーズに応えられるように特定のものばかりに偏らないように気をつけているようだった。
「なるほど、確かにその方が沢山の方のいろんな朗読が聴けそうですね。私としてはマスターの朗読も聴いてみたいのですがね」
 本好きの店主ならばきっと豊かな感情をこめた朗読が聴けるだろうと、そんな思いをもって口にしたメルキューレの言葉には、男は何も返さず。磨いていたコップを置くと次の朗読者を急かした。


 始まりからどれ程の時間がったのか、窓ひとつないその店内では外の光景から今の時間を知ることは出来ず、時計のない店内では時間の感覚が自然と曖昧になる。
 最後の朗読者である雫が緊張気味に短い童話を読み終えると誰ともなく手を叩き始め、男も穏やかな笑みの半面をつけ、満足気に椅子に腰掛けている。
「……ありがとうございました。落ち着いた雰囲気で、本の世界に没頭できますね。……また来たくなるお店だと思います」
「本当にに素敵な朗読会でした、紅茶もお菓子もおいしくて……」
「次があったらまた来たいくらいにね」
 イリスの言葉に続き、リンとランも素直に感想を述べると、男は最初と同じ様に顔を撫でるように掌で覆うと、半面の笑みを浮かべ、お帰りはあちらです、とばかりにケルベロス達を扉の方へとエスコートしようとする。
 それを拒むようにイリスが首を振る。
「……ですが、このお店を守るのは貴方ではありません! 銀天剣、イリス・フルーリア―――参りますっ!」
 この店をあるべき姿へと戻すため、そしてケルベロスとしての使命を果たすため、イリスが武器を抜き男と対峙する。他のケルベロス達も同様に武器を構え、これから始まるあろう戦いに備え、気を引き締めるのだが、男は驚いたように両の手で顔を覆い、困り顔の仮面をつけて腕を交差させ、戦いを拒む意思を示す。
 それは、美しい朗読で素晴らしい時間を過ごさせてくれたケルベロス達に対する敬意なのか、それとも蔵書や店内が破壊されることへの抵抗なのか、定かではないものの、左右に首を振り、必死な様子で意思表示を続ける。
 そんな敵の様子に、ケルベロス達も少なからず困惑するものの、目の前にいるのはデウスエクスであり、いずれは人々に危害を加える危険な存在であることには変わりない。
 その意思を示すかのように、雫が一歩踏み出した。
「私、 ハッピーエンドが好きなんです。貴方がこのままドリームイーターとして人々を傷つけてしまう……そんなバッドエンド、私は認めない」
 真剣な表情とその声色の響きに、男は諦めたように肩を落とし、悲しげな仮面をつけ、ケルベロス達に向き合う。
 静かな薄暗い店内は一瞬の静寂に包まれ、グラスに残された氷が溶け涼やかな音を奏でる。
 それを合図にケルベロス達は踏み出した。


 それは戦いというには一方的過ぎた。
 ケルベロス達の攻撃が始まって尚、そのドリームイーターは困ったような悲しいような、そんな表情の仮面をつけたまま、積極的に攻撃をすることもなく防戦一方で一身にケルベロス達の攻撃を受け続けていた。
 時折放つ反撃の水晶の剣は雫の振るう戦斧に叩き落され、リンの拳に砕かれる。ケルベロス達の放つ攻撃に対しては回避も防御も満足に行えず、その身を焼かれ、切り付けられようとも、微動だにせず、立派なスーツはボロボロに傷つき、いつの間にやら被っていたシルクハットは無くなっている。
 事前にしっかりと作戦を練ってきていたケルベロス達にすれば拍子抜けと言えるほどにドリームイーターの抵抗は弱々しく、まるで倒されるのを待つかのようだ。
 美音の投げ放った巨大な手裏剣に胸を貫かれよろめいた男の傷を、イリスのの振るう剣が容赦なくなぞり、その傷をさらに広げる。
 傷口から血が噴出し書物を汚す、などということはなく、傷口から顔を覗かせるモザイクが不気味に蠢いて、少しずつ虚空へと溶けて行く。
 再び苦し紛れに召喚された煌く水晶の剣を雫は受け止め、破壊し、ボロボロのドリームイーターを見据える。
 泣いているのか、笑っているのか、判別のつかない複雑な表情を浮かべる面からはその感情は読み取れない。
「例え失敗したとしても、挫けたとしても、人はまた立ち上がれるんです。だからあなたはもうこの場にいる必要はない、人は優しい夢に生きるものではないのです」
 男の仮面がまるで涙のようにポロリと落ちて乾いた音をたてる。
 その下から現れたのは顔の全てを覆う微笑を浮かべたお面。
「いつもは独りで黙々と読む本を、声に出して読むというのもなかなか楽しかったです。貴重な経験をありがとう」
 メルキューレの握る槍が男の胸元を深く貫く、殆ど手応えもなく背中から抜けた穂先は床に触れることなく止まり。男の体はモザイクへと変わりやがて全てが虚空に溶けて消える。
 その後には、彼が最後に身に着けていた仮面だけが残されていた。


 殆どの攻撃をドリームイーターがその身で受けとめていたお陰か、店内に目立った損傷はなく、振動に散らかった本と、ちょっとした傷跡があるくらいのもので、ケルベロス達は店内の修復をあとにまわし、意識を取り戻した本物の店長を助け起こす。
 最初は事態を飲み込めていなかった彼は、イリスから事の次第を聞くと、仏頂面に皺をよせ、少しだけ表情を険しくする。
「迷惑かけちまったな、もう潰れた店だってのに」
 ぶっきら棒に言う店長の言葉にリンは少しだけ悲しげな表情を浮かべ何かを口に出そうとするものの、ランがその肩にそっと手を置いて首を振る、そんなランの耳も力なく伏せられていて、二人のその表情に、店主もまたばつが悪そうに眉を顰めた。
「確かに一度は潰れた店かもしれない。それでも、貴方の「夢」に共感した人はいたのだろう?
 それが只の一人でも、金のとれない子供達だったとしても、その一点に於いて、貴方がこの店を開いた事は間違いではなかったと俺はそう思うがな」
 美音の言葉に店主が思い描くのは、一人の保育士と彼女が連れてきてくれた小さな子供達の姿。
「諦めるなんて勿体無いです、世の中には、きっとこのサービスを喜んでくれる人が沢山居るはずです!」
「それでも、潰れちまったんだ」
 それは覆しようのない事実だ。例えもう一度店を建て直そうと思っても、客入りが同じなら、また同じことの繰り返しに過ぎない。
「だったら今度はもっと上手く商売にすればいい、違うか?」
 美音の言葉に、店主は驚いたように固まって、そして呆れたように笑い出す。
「そうだな、その通りだ……なぁ、どうすれば上手く行くと思う?」
 険しい表情を柔らげ、店主が聞くと、ケルベロス達もまた表情を緩め口々に改善点や宣伝方法を挙げて行く。
 いつも静かで穏やかだった店内は活気に満ち、明るい声が響く。
 再び彼らがこの店に集まり、朗読会を開く日が訪れるのはそう遠くないのかもしれない。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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