スク水ババアでドッキリ!

作者:雷紋寺音弥

●スク水でドッキリ!?
 気が付くと、大山・隆は誰もいない学校のプールに独り佇んでいた。
 周りに他の生徒はおらず、プールにいるのは自分だけ。慌てて辺りを見回すと、視界に入って来たのは、見慣れたクラスメイトの後ろ姿。
「ねえ、美紀ちゃん。このプール、どうして僕達しかいないんだろうね?」
 何の警戒も抱かずに、隆は少女に話しかける。が、次の瞬間、振り向いた少女の顔を見た途端、思わず悲鳴を上げて後退った。
「う、うわぁぁぁっ!!」
 そこにいたのは美紀ちゃんなどではなく、スク水を着たババアだったのだ。しかも、その婆さんは両手を伸ばし、隆を抱き締めようと迫って来るではないか!
「お、お化けだぁぁぁっ!!」
 思わず逃げ出そうとした瞬間……隆は暗闇の中で、唐突に目を覚まして飛び起きた。
「はぁ……はぁ……ゆ、夢……?」
 額の汗を拭い、隆は安堵の溜息を吐く。しかし、悪夢から解放されたのも束の間、今度は謎の鍵が隆の心臓を背中から貫いて、彼の意識は再び闇の中へ落ちて行った。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 気を失った隆を見下ろす、半人半獣のような姿のドリームイーター。その傍らには、いつしか隆の夢に現れた、スク水姿の婆さんが立っていた。

●禁断の融合
「子供の頃は、何の脈絡もなくビックリするような夢を見ることもあるっすけど……正直、これはヤバ過ぎるっす……」
 その日、ケルベロス達の前に現れた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、いつになくやつれた表情で語り出した。
 彼の口から語られたのは、ビックリする夢を見た子供がドリームイーターに襲われ、その『驚き』を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしているという話。それだけであれば、単に敵を探し出して撃破するだけの、簡単なお仕事であるはずなのだが。
「問題なのは、敵のドリームイーターの姿っす。モザイクのスクール水着を着た婆さんの姿をしていて……誰かを驚かせるために、夜の市街地をうろついているっす」
 どう考えても、変質者以外の何者でもなかった。
 ちなみに、敵は先頭になるとハート型のモザイクを飛ばす投げキッスや、モザイクのスク水で相手を飲み込む技、モザイクのスク水を補修して体力を回復させる技などを使って来るのだとか。
「正直、色々な意味で酷過ぎる相手っす……。これ以上、悪夢が現実になる前に、敵の撃破をお願いしたいっす……」
 なお、ドリームイーターは自分の驚きが通じなかった相手を優先的に狙ってくるため、この性質を利用すれば戦いを有利に運ぶことができるかもしれない。
 純粋無垢な子どもの心に、要らぬトラウマを植え付けぬため。是が非でもスク水ババアを退治して欲しいと、ダンテは死んだ魚のような目でケルベロス達に依頼した。


参加者
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
ミセリア・アンゲルス(オラトリオの自宅警備員・e02700)
阿木島・龍城(翡翠宮の剣英・e03309)
レナ・フォルトゥス(森羅万象爆裂魔人・e05306)
分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)
プロデュー・マス(サーシス・e13730)
鵜飼・海咲(粉砕アンカーガール・e21756)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)

■リプレイ

●スク水妖女、現る!
 草木も眠る丑三つ時。
 徘徊するドリームイーターを探し、ケルベロス達は深夜の住宅街を見回っていた。
「スク水ばばあって、人面犬とか、口裂け女とか、そういうのに近い気がする~?」
 スマホを片手に、ミセリア・アンゲルス(オラトリオの自宅警備員・e02700)は、何やら周囲の様子を撮影している。だが、意気揚々と戦いの記録を残さんとしている彼女とは異なり、他の面々の面持ちは微妙の一言だった。
「ドリームイーターとはいえ、夜中の街に水着で登場とは何て元気なお年寄り。しかし……これは怖いというより、変質者というべきでは?」
「すごい夢を見た人もいるんですね。あたしもみたら、びっくりしちゃいそうです」
 ジェミ・ニア(星喰・e23256)と鵜飼・海咲(粉砕アンカーガール・e21756)の二人は、既に色々と引いていた。
 年甲斐もなくスクール水着を着用し、深夜の路地裏を徘徊する老婆。そんな存在を間近で見たら、驚かない方が異常であると。
「スク水ババア……ババアですか。B.B.A……すなわち、ボインボイン姉貴じゃなくて?」
 分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)に至っては、もう色々と後悔の念が頭を渦巻いていた。
 ああ、いったい自分は、ここで何をしているのだろう。どうせ同じB.B.Aなら、ビューティフル・バスト・エンジェルの方に出て来て欲しい。しかし、現実は時に残酷であり、出現するのはスク水姿の婆さんと決まっている。
「本来、あるはずのない組み合わせの妙っていう感じかしらね? 所謂『混ぜるな危険』って奴ですわね」
 まあ、それでも本物を見てみれば全てが分かると、レナ・フォルトゥス(森羅万象爆裂魔人・e05306)が気を取り直して言ったときだった。
「ホロッ……! ホロロロロォォォッ!!」
 突然、奇声を発しながら、電柱の陰からモザイクのスク水を纏った婆さんが姿を現したのである。
「アイエエエエエエッ!!」
 あまりに酷いミスマッチに、クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)、思わず驚嘆。
 正直、覚悟はしていたが、それでもこれは別の意味で刺激が強過ぎる。同じミスマッチでも、動物園のチンパンジーがスク水を着ていた方が、まだ可愛げがあるというもので。
「なにー!! これは予想外ですわ!!」
「びっくりっていうか、きも~!?」
 想像を絶する凄まじい光景に、レナも完全に放心状態。ミセリアに至っては、相手のあまりの気色悪さに、スマホで撮影することも忘れていた。
「ありえない! なんでおばあさんがスク水とか! 夜の市街地とか! TPO……TPOは!? まさか、そういう都市伝説!?」
 驚愕の光景を前にして、ほとんど錯乱状態に陥るジェミ。もっとも、ここで怯んでいては始まらない。姿形こそアレだが、それでも相手は列記としたデウスエクスなのだから。
「平常心だ、平常心……。もっとヒドイのを、ちょっと前に見てきたばっかだもんね!」
 海パン姿のマッチョなジジイと比較しつつ、楽雲は必死に平静を装う。同じく、プロデュー・マス(サーシス・e13730)もまた、スク水ババアに敢えて冷たい反応を返した。
「……で? その次は?」
 単なるミスマッチ程度では、そうそう動じない者もいる。もしくは、日頃から見慣れている者であれば、今さら婆さんの水着姿程度では何も驚くことはない。
「一見して、どこかで見た様な気がしたのでよく思い出してみますと……いつも、実家の宿に海の幸を届けてくれる海女さんを思い出しました」
 そう、阿木島・龍城(翡翠宮の剣英・e03309)が呟くが、しかしそれは、さすがに本職の海女さんに対して失礼であろう。少なくとも、海女さんは海の幸を得るのに必死であり、不要なセクシーアピールなどして来ないし。
「ンホォォォッ!」
 自分の姿を見ても驚かなかったことに、気分を害したのだろうか。
 意味不明な叫び声と共に、腰を妖艶にくねらせながら、スク水ババアがケルベロス達へと迫る。誰もいない深夜の住宅街で、色々な意味でトラウマになりそうな戦いが始まった。

●地獄の谷間
 深夜の住宅街を徘徊する、スク水姿の妖しいババア。どこからどう見ても変質者丸出しの相手なのだが、ここで少しでも背中を見せた結果、背後から襲い掛かられては堪らない。
「ドーモ。初めまして。スク水ババアドリームイーター=サン。クリュティア・ドロウエントにござる。BBA無理すんなでござる」
 とりあえず、まずは相手の気を引こうと、クリュティアが分身しながら一礼した。
 こんな相手でも、戦う前の礼儀だけは、しっかり果たしておきたかったのだろうか。
 もっとも、肝心のスク水ババアは自分の獲物しか眼中にない模様。そのままスク水の胸元を巨大な口に変形させると、楽雲に向かって猛突進!
「ババア、ババアって失礼だぞ! せめて、『スク水おばあさん』って……うわぁぁぁっ!?」
 年齢を重ねているとはいえ、女性の姿をしている敵には変わりない。そう思って紳士的に挑もうと構えていた楽雲だったが、どうやら甘かったようである。
「セェェェク、スゥィィィ、アタァァァックゥ♪」
 謎の技名を叫ぶババアの胸元に、吸い込まれるようにして飲まれて行く楽雲の頭。なんというか、これはのっけから酷い。ナイスバディなお姉さんの胸元ならまだしも、垂れ下がった婆さんの胸元に強制ダイブとか、誰得だよ!
「ふむ……貧弱そうな見た目に反し、なかなか強敵のようだな」
 そんな中、鉄塊剣を振り上げて、プロデューは何ら躊躇うことなくババアの頭に叩き付けた。だが、恐ろしく鈍い音と共にコンクリートの道路へめり込んでも、ババアは楽雲の頭をガッチリ捕まえて離さない。
「お婆さんを殴るのは気が引けますけど……アドミラル! 皆を守ってください!」
 ウイングキャットのアドミラルにフォローを任せ、海咲がババアの尻を思い切り蹴り飛ばす。その衝撃で吐き出された楽雲の身体に、アドミラルが翼から邪気を払う風を送って行く。
「うぅ……世界の狭間が……腐ったバナナが……」
 しかし、肉体的なダメージは回復できても、精神的なショックまでは、残念ながら消えなかったようだ。スク水とババアの胸元の狭間で垣間見てしまった禁断の世界。ある意味では、魔空回廊以上に危険な空気が漂う空間だったのだろう。
「…………」
 衝撃に告ぐ衝撃の嵐に、ジェミは早くも言葉を失っていた。
 これは酷い。あまりに酷い。いくら子どもの見た悪夢とはいえ、具現化していいものと悪いものがある。
 立ち上がろうとしているババアの背中目掛け、ジェミは流星の如き蹴撃をお見舞いする。再び大地を転がるスク水ババア。そこを逃さず、楽雲が縛霊手で殴り付けた。
「ホゲェェェッ!?」
 展開された網状の霊力に捕縛され、ババアの身体が締め付けられて行く。もっとも、実際はスク水姿の婆さんが路上で縛りプレイをされているのと同じであり、これはこれでキモかった。
「新手の都市伝説あらわる、その名もスク水ばばぁ~?」
 殴られ、蹴られ、悶絶するババア。その姿を背後から撮影しつつ、こっそりとスマホを構えて近づくミセリア。そのまま相手の後頭部をスマホの角で殴り飛ばし、思わず頭を押さえて丸くなった婆さんの尻を、再び撮影し始めた。
「え、誰得とか~? 意外とこういうのが好きな人もいるかもしれないし~?」
 いや、そんなもんネットで流したら、間違いなく有害動画認定されますって!
 いくら世の中には特殊性癖の人もいるとはいえ、この光景は世に蔓延る変態達にとっても拷問だ。
「まあ、この手の勘違いしていると思っているモノは、退治しないといけませんね」
 一瞬にして間合いを詰め、龍城が超加速突撃による攻撃を繰り出す。その手に握られし刃の名は、処女宮の名を冠した『祈りの乙女』……なのだが、肝心の敵はというと、どう見ても『呪いの老婆』としか見えないのが皮肉だった。
「何だかんだ来ても、やはりデウスエクスですわね! コマンドシフト、ON!!」
 それでも、未だ倒れる素振りを見せないスク水ババアに、レナもいよいよ本気で殴り掛かる。音速を越えた拳の一撃が敵の身体を吹き飛ばし、スク水姿の幼女……ではなく妖女は、正面から近くの電柱に激突した。

●悶絶ババア
 深夜の街で繰り広げられる、デウスエクスとケルベロス達の戦い。その見た目を抜きにして考えれば、スク水ババアは決して強過ぎる相手ではない。
 だが、それでも戦う度に精神が削られて行く気がするのは、敵の姿形と攻撃手段が酷過ぎるということに尽きるだろう。互いに攻防を繰り返せば繰り返すほど、体力とは別の大切な何かが、音を立てて削られて行くような気がして仕方がない。
「くっ……。あんまり、手荒にゃ戦いたくねえな……」
 敵の顔面を直視しないよう顔を背けつつ、楽雲は螺旋を絡めた掌で敵を打つ。が、視線を逸らしていたことが災いし、婆さんの胸元に掌を直撃させてしまった。
「……ッ!? オロロロォォォッ!?」
「ちょっ……! こっちに寄り掛かって来るなぁっ!」
 おまけに、内部から身体を破壊された衝撃で、ババアが涎を垂らしながら、楽雲の方へとしな垂れ掛かって来たのだから、堪らない。
 どうせ抱くなら、若くてセクシーな美女が良かった。だが、実際は深夜の路地裏にて、顔面崩壊したスク水姿の婆さんと抱き合っているというカオスな状況。
 すみません、もう帰ってもいいですか? 思わず泣き出しそうになる楽雲だったが、しかし敵は未だ健在だ。
「接近戦は、色々な意味でリスクが高過ぎるな。だが……」
 それでも、ここで躊躇っている場合ではないと、ジェミが仕方なく高速回転する腕で敵を斬り裂いた。
 瞬間、モザイクのスク水が盛大に弾け飛び、露わになるババアの貧相な腹部。なんというか、色々と別の意味で放送禁止な光景だ。
「そんな格好しないでくださいっ! 百歩譲ってプールにいてくださいっ!」
 もう、色々と見ているのも限界だと、海咲がアドミラルと共にババアへと仕掛けた。
 飛来する気弾と、尻尾の輪。それぞれ、敵の頭を直撃したところで、ようやくスク水ババアの身体が衝撃で楽雲の身体から離れ。
「見た目に反してタフなやつだな。ならば……これでどうだ!」
 二振りの長剣をそれぞれ構え、龍城が天地を揺るがす程の、超重力の十字斬りを叩き込む。
「ん~、初見のインパクトはそこそこだけど、あとはふつ~?」
「だが、視覚的に破壊力があるな、こいつは。あまり見たくないモノですわね!!」
 攻撃の余波で痙攣しているスク水ババアの身体を、半透明の『御業』で押さえ込むがミセリアとレナの二人。しかし、『御業』が鷲掴みにしている場所にババアの尻が含まれているため、見た目的なキモさはむしろ増していた。
「その首、頂戴致すでござる! 迷わず地獄へゴートゥーアノヨでござる!」
 駄目押しとばかりに、クリュティアがケルベロスチェインで敵の身体を縛り上げる。胸元を揺らしながら鎖を操る彼女だったが、それは更なる悲劇を呼ぶことに。
 少し、冷静になって考えてみて欲しい。全身を痙攣させているスク水姿の婆さんが、見えない力で尻を鷲掴みにされた上、深夜の路上で鎖による縛りプレイを受けている様を。
 それは、紛うことなきクイーン・オブ・変態! しかも、そんな状態になっているにも関わらず、スク水ババアは性懲りもなく、投げキッスをハート型のモザイクとして飛ばして来た。
「ああっと、なげきっすとんできた~!?」
 思わずスマホを盾にして身構えるミセリアだったが、しかし狙われたのは彼女に非ず。鉄塊剣でババアの頭をブン殴り、激昂させていたプロデューの方だった。
「下手に燃やすと大惨事だな! 少しばかり火力を上げるぞ!」
 もっとも、ハートモザイクの直撃を受けても、彼は何ら動じなかった。今はただ、目の前の敵を倒すのみ。そのことだけに専念すれば、視覚的暴力など気にならない。
「応えてみせろ、私の【地獄】!」
 胸元に集約された地獄の業火が、強力な一筋の光線となって放たれる。闇を切り裂き、スク水諸共にババアの全てを飲み込んで、容赦なく燃やしつくして行く。
「ンハァァァン♪ ダメェェェン♪」
 スク水だけでなく、中身まできっちり消滅させれば後腐れもない。少年の悪夢より生まれ出た危険な妖女は、薄気味悪い断末魔を残し、夜の街にて消滅した。

●これはほんの始まりです
 戦いの終わった住宅街は、再び静けさを取り戻していた。
「……やっと終わったか」
 スク水ババアが消滅した空間に軽く視線を送り、プロデューが溜息交じりに呟いた。
 正直、今回の相手は色々な意味で強敵だった。だが、精神的なダメージという意味では、彼はまだマシな方だった。
「……恐ろしい相手でしたね」
「ええ、まったくです……」
 互いに頷きながら、海咲とジェミが楽雲の方へと視線を向ける。そんな楽雲はというと、こちらは完全に放心状態で、我が身の不幸を嘆いていた。
「……もう、お婿に行けない」
 いったい何が悲しくて、自分は爺さんの尻や婆さんの胸に頭を食われねばならないのか。これでガチホモの股間でも揃えば、晴れて『受難の三冠王』の称号を得られるかもしれない……いや、絶対に欲しくないが。
「たまにへんなのが出てくるのは、デウスエクスの感じかしらね? ビルシャナといい、ドリームイーターといいね」
 全てを終えて、レナがどこか納得した様子で呟いているが、それはそれ。
「さて……。そういえば、実家から『稼ぎ時なんで早く帰ってこい』と言われてましたね」
「では、速やかに帰還致すでござる」
 龍城の言葉にクリュティアが頷き、ケルベロス達は帰路に付く。そんな彼らの後ろ姿をスマホのカメラに収めつつ、ミセリアは最後に意味深な言葉を口にして記録を終えたのだった。
「あのスク水ばばぁが、最後の一匹とは思えない~。ドリームイーターがいる限り、スク水ばばぁの同類が、世界のどこかに現れるかもしれない~」
 

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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