星霊戦隊の復讐~リインカーネーション

作者:カワセミ

 深夜のかすみがうら市、市街地。
 異形の植物達は、次々にその枝葉を夜闇に伸ばしていた。
 その中でも一際美しく咲く大輪の花。
 鮮やかな蒼色の花は、見ているだけで心奪われるような、幻想的な色をしている。
 その花の名はリィ・イン・カーネーション。
「やっと準備が整った。長かったな、ルージュ」
 やがて集まった十体のおぞましい植物を見上げ、青い鎧のエインヘリアル――スターブルーは静かに呟く。
 その声を受けた赤い鎧のエインヘリアル、スタールージュは力強く頷いた。
「あぁ長かった。だが、今こそ、仲間の仇をうつ時だ!」
 ――そして、十体の攻性植物と二体のエインヘリアルは進撃を開始する。
 全ては復讐のために。

「五人組のエインヘリアル、『星霊戦隊アルカンシェル』との交戦があったことは記憶に新しいだろう。
 彼らの内三体の撃破は既に完了している。……そして今、残る二体、スタールージュとスターブルーの新たな動きが確認された」
 集まったケルベロス達を見渡し、ロロ・ヴィクトリア(レプリカントのヘリオライダー・en0213)が事件の説明を始める。
「白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)が危惧していたように、スタールージュとスターブルーはオーズの種を利用し攻性植物を兵器化、戦力を拡充していた。
 オーズの種を埋め込んだ十体の攻性植物と共に、市街地を破壊しながら進軍するつもりのようだ」
 軍勢はかすみがうら市を起点として出発。隣接する土浦市、つくば市を目指して進軍する。
 つくば市に到着した後は、つくばエクスプレスの線路伝いに都心部を目指す可能性が高いと考えられた。
「要は、ケルベロスを誘き出そうと言うわけだ。
 都市が蹂躙されるとなれば、当然我々ケルベロスが黙ってはいない。迎撃にやってきたケルベロスの撃破、それがスタールージュとスターブルーの目的だ」
 現在、かすみがうら市の一般人の避難は完了している。土浦市の避難も間に合う見込みだ。
 かすみがうら市と土浦市の間で、エインヘリアルと攻性植物の軍勢を迎え撃つことになるだろう。
「スタールージュとスターブルーが強敵なのはもちろんだが、オーズの種によって強化された攻性植物――オーズ兵器もまた手強い相手だ。激戦になることは言うまでもない。
 余裕をもって敵を撃破できたなら、苦戦しているチームの援護に回ってほしいが……敵も決して容易い相手ではない。まずは自分達の戦う目標を確実に倒すことを考えてほしい」
 逆に、敗北したチームが出た場合は、その敵が他のチームの戦場に乱入することもあり得る。そうなれば連鎖的に危機が拡大する可能性もあることを留意してほしい、とも説明があった。

「進軍してくるオーズ兵器を迎撃しつつ、スタールージュとスターブルーを撃破することが今回の目的だ。
 今話を聞いてくれている君らには、オーズ兵器の内一体の撃破を頼みたい」
 戦場は、かすみがうら市から土浦市に向かう、国道6号線土浦バイパス周辺の市街地。
 オーズ兵器は市街地を破壊しながら進んでくる。無人となった市街地に潜んで、進軍してくるオーズ兵器に一斉に攻撃を仕掛けることになる。
 なお、アルカンシェルの二体は国道6号線をまっすぐ進んでくるようだ。
「君らに迎え撃ってもらうのは、青い花の攻性植物『リィ・イン・カーネーション』。
 強力な催眠作用のある花粉で人を誘い、触手を突き刺して捕食しようとする花だ。自己治癒能力も備えている」

 説明の区切りに、ロロはひとつ溜息をつく。
「これは、アルカンシェルによる復讐なのだろうな。仲間を奪ったケルベロス達に対する。
 彼らにも絆があったことは想像に難くない。……しかし、人々の被害を省みぬアルカンシェルの行動を見過ごすことなど不可能だ。それは今も変わらない。
 ケルベロスが現れない限り、アルカンシェルとオーズ兵器は市街地の破壊を止めることはない。どうか一刻も早く、連中の蛮行を食い止めてほしい」
 開いていた資料を閉じたロロは、改めてケルベロス達の顔を見上げる。
「最後にもう一つ。今回のスタールージュやスターブルーの復讐は、一種の暴走とも言えるものだ。この動きに気付いたエインヘリアルが連れ戻しに来る可能性がある。
 戦いがあまりにも長引けば、新たなエインヘリアルの戦力が戦場に現れるかもしれない。……長期戦は避けてくれということだ。気をつけてほしい」


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
ドロレス・ハインツ(純潔の城塞・e00922)
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)
マリオン・オウィディウス(響拳人形・e15881)
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)
卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
エルディス・ブレインス(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e27427)

■リプレイ


 破壊されたかすみがうらの市街地。
 夜空の下。その異形の花は、ケルベロス達の前で蒼然と咲き誇っていた。
「リインカーネーション、『転生』を意味する名ですわね」
 対するカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)の立ち姿は、さながら真紅の薔薇。
「オーズ兵器として利用されて不幸でしょう。
 貴方を、もっと優しくて綺麗な花に『転生』出来る様に――ここで終わらせてあげますわ」
 ゾディアックソードで地に描いた守護星座が光を放つと、薔薇色の髪が風を孕んで膨らむ。光は前に立つケルベロス達を包み守護し――それを合図と見たかのように、オーズ兵器「リィ・イン・カーネーション」が動き出した。
 その花弁はみるみる青く輝きだしたかと思えば、淡い光を纏った無数の花粉が風に乗って流れだす。
 一見幻想的な光景を闇夜の中に繰り広げながら、花粉は後ろに下がったケルベロス達を屠らんと襲いかかる。そこへ素早く飛び出し、後衛のケルベロスとの間へ滑り込んだのはドロレス・ハインツ(純潔の城塞・e00922)だ。
「催眠の花粉とは、厄介な……。しかし、させません!」
 特注のプリンセスクロス「神衣鉄血」の袖で口元を覆いながら、異形の花粉を身に受けるドロレス。その身を蝕んでいく痛みは常識的な花粉を逸脱していたが、しかしドロレスの両足はこの程度で崩れ落ちはしない。
「エル、折角私が庇うんだから。君のとっておき、しっかり撃ちこんでくれないとね?」
 ドロレスと同時に、小柳・玲央(剣扇・e26293)も仲間を守りに動いた。エルディス・ブレインス(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e27427)の前に立ち、鉄塊剣を扇のよう振るい光の花粉を打ち払う。
 剣舞の如き艶やかさで、自分を守る友の背中。頼もしく思ってエルディスは微笑んだ。
「お任せあれ。人々を脅かす不届きな敵は、私が悉く撃ち抜いてあげますよ」
 カトレアも仲間を守り、催眠花粉の直撃を受けたのはドロレスのウイングキャット「ブラッキー艦長」のみ。早い段階で前衛に変調耐性を付与できたことは、良い方向に働きそうだ。
 エルディスの小気味良い返答にふっと笑ってから、玲央は武装を素早くバスターライフルに持ち替え、青い花弁の中心目掛けて凍結光線を放つ。その光条に続きエルディスが流星の如く飛び出し、精密な蹴撃をオーズ兵器に叩きつけた。
「仲間の復讐……。その心意気は否定しませんが、ケルベロスとして譲れないものもあります。
 その企み、打ち砕かせて頂きましょう」
 エルディスの呟きに、メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)も頷く。
「小手先の策を弄している時間はありません。短期決戦、いきます!」
 彼女がそう叫んでオーズ兵器の前へ躍り出た途端、瓦礫と化した市街地に無数の花々が咲き誇る――否、これは幻影だ。
 白黒の薔薇と天竺牡丹の花が瑞々しく花開き、リィ・イン・カーネーションへと絡みつき――薔薇と牡丹の花弁は硝子のように砕け散り、敵を切り裂いていく。
 白黒の薔薇と、天竺牡丹。それは、メリーナがかつて、このかすみがうらで手に掛けた攻性植物の花だ。
 少年少女の悲惨な姿と、それに手を下した自分の姿が脳裏に過る。メリーナの横顔に一瞬だけ差した暗い影も、リィ・イン・カーネーションを裂き終えた頃には消え、元の明るい表情が戻っていた。
「……ふふ、今は感傷に浸るのもなしです。忙しいのも悪いことばかりじゃありませんね!」
「ええ、調子が戻られたようで何よりです。――かなり効いているようですね」
 メリーナの様子と、攻撃を受け苦しむオーズ兵器を見比べ微かに笑んでから、ドロレスは胸に手を当て瞳を閉じ、自らの肉体を鼓舞する。
「――我は無敵なり、我が鉄壁を破れるものなし、我が城塞は不落なり」
 力強い言葉は、ドロレスに盾としての役割を果たさんと鉄壁の力を与える。
 目を開けたドロレスの目配せを受けたブラッキー艦長は、前衛のケルベロスの傍を飛び回り清浄の翼で仲間を癒していく。
「夜の戦いは眠くて大変、なんて言ってられないよね」
 ブラッキー艦長の下を擦り抜けて、卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)がオーズ兵器の元へ飛び出していく。
 十一歳のサナにとっては、当然ながら夜は眠る時間だ。そのどうにもならない眠気はインソムニアで一時的に克服した。エアシューズ「超軼絶塵」を纏ったサナの飛び蹴りが、巨大なオーズ兵器目掛けて叩きつけられる。
「方針速攻、奇襲無し! 正々堂々倒してみせるの!」
 正確無比な一蹴は見事に命中し、リィ・イン・カーネーションが咆哮と共に触手を震わせる。一撃を加えた手応えを確かめると、サナは素早く後退した。
「リィ・イン・カーネーション……まだ生き残りが居たのですね」
 激戦の中、ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)は一際厳しい表情でオーズ兵器を睨み据える。
 彼女とリィ・イン・カーネーションには浅からぬ因縁があるのだった。
「しかもオーズの種で強化されている……。しかし、やる事は変わりません」
 今のゼラニウムの使命は、かすみがうらを脅かすオーズ兵器の殲滅。素早く意識を切り替えて、ゼラニウムは右手を伸ばし、雷と共に自らの魔力を拡散した。
 閃光と電撃がリィ・イン・カーネーションを包み、オーズ兵器の力の「核」となる部分を探す。しかしその電撃は、目標を発見する前にバチンと弾かれてしまった。一瞬だけ悔しげに歯噛みする。
「『核』が……周りのグラビティが多すぎて特定できない!」
 「核破壊」の成功は運次第となるだろう。しかしこの事態を見越していたゼラニウムは、巫術師のグラビティで戦う用意も万全だ。冷静な表情で敵と対峙する。
「落ち着いていますね、ゼラニウム。……さて、では私も」
 宿敵を前にしても動じない様子に、マリオン・オウィディウス(響拳人形・e15881)は密かに感心していた。
 その視線はすぐにオーズ兵器の方へと向けられ、マリオンは淡々と手の中の爆破スイッチを押下する。
「怨嗟の火種は片づけさせていただきますよ、リィ・イン・カーネーション。……早急に頼みます、皆さん」
 仲間達へ願う声と同時に、前衛のケルベロス達を鼓舞する色とりどりの爆煙が戦場に吹き荒れる。
 一切の出し惜しみないケルベロス達の攻勢。怒りと苛立ちを露わにするかのように、リィ・イン・カーネーションはその青い花弁と触手を震わる。地響きの如き唸りが辺り一面に広がった。


 短期決戦として火力に重きを置きながらも、最大限の攻撃ができるように防御や回復も意識した構成。
 ケルベロス達は確実に打撃を重ねていたが、同時にオーズ兵器からの攻撃も着実に積み重ねられていく。
「くっ!!」
「カトレアさん!」
 ゼラニウムを襲う触手を、間に入ったカトレアがゾディアックソードで薙ぎ払う。剣を絡め取った触手はカトレアごと持ち上げ、瓦礫の上へと容赦無く叩きつけた。
「……っ、なかなかやりますわね……」
 自分はまだ戦える。しかし長期戦を想定するなら、ここで後方に下がるべきだろう。逡巡するカトレアのみならず、この場のケルベロス全体が疲弊し始めた頃だった。
「いや、このまま行こう!」
 そんな空気の中、玲央が皆に聞こえるように声を張り上げ、肘から先の機構を高速回転させる。
 陣形の変更に時間を使うのは、短期決戦という方針を捨て持久戦に切り替えるということだ。その必要はない、押し切れる、その手応えは玲央だけでなく皆が感じていた。
 仲間達の頷きの気配を受けて、玲央はオーズ兵器へドリルと化した腕を容赦なく叩き込む。
「自分達の力、信じ抜いてみせますわ。――私の攻撃、受けてみなさいませ!」
 ドリルが生んだ傷口を、カトレアが間髪入れず斬り広げる。
「絆なら、事件の犠牲者にだって……誰にでもあるんです」
 赤と青の鞘から抜き取った二振りの惨殺ナイフ。それを手に蒼色の花へ躍りかかりながら、メリーナはこの復讐の発端を思う。
「……なーんて。守りたい母星の為に壊し合うのはお互い様だから、恨み言はダメかな?」
 皆、譲れないもののために戦っている。ならば自分にできるのはせめて、全てを受け止めたいと願うことだけだろう。
 おいで。受け止めますよ、全部。その言葉は胸の内に秘めたまま、両手は容赦無い斬撃を繰り出す。
「我ら猟犬、弱者の剣であり同胞の盾。――どのような局面でも、それを貫くだけです」
 ドロレスは静かに呟き、オーズ兵器の至近まで臆さず距離を詰める。一瞬で植物の内側に秘められた弱点を見抜くや否や、微塵の躊躇いもなく掌を叩きつけ強烈な一撃を与えた。
「ブラッキー艦長、前へ! 共に仲間を守ってください!」
 ドロレスの鋭い指示に従い、後ろでケルベロス達のサポートに回っていたブラッキー艦長が素早く前に出てくる。
「今なら……! お日様、お月様、お星様……サナに力を貸して下さいっ!」
 敵の足止めは充分だろう。戦況を見たサナは、ゾディアックソード「日月星辰」を構え、空の彼方に祈りを捧げる。刃には闇夜を照らし出す光が瞬く間に集まり――ぐるんと振るった剣戟はまるで蒼き花に吸い込まれていくかのようだった。
「いくよっ! 日月星辰の太刀っ!」
 より大きなダメージを与えるための太刀。避けようもない一撃にオーズ兵器は咆哮する。
「何処にもないこの瞳は全てを見通します故、逃げることは不可能です」
 マリオンは右目を瞑り、閉じた瞼の奥の瞳にグラビティを集中させ敵情報を解析していく。目を見開くと同時に、叩き出されたデータはカトレアに送られると同時に傷を癒す力までをも与えた。
「弱点は見えました。口ではなかなか説明できませんが……上手く狙ってください、エルディス」
「気持ちは伝わりましたよ、お任せあれ」
 データを受け取ったカトレアより先に動くのはエルディスだった。エルディスは事もなげに頷くと、固めた拳をオーズ兵器めがけ高速で打ち込む。
 断末魔のような金切り声が花弁の奥から響き――蒼き花は淡い光を放ち、今にも崩れ落ちそうな自らの体を癒やそうとする。
「まだ生き足掻きますか。パワーバランスを狂わされ、オーズ兵器として利用され……。ですがそれもここまでです」
 だがその自己治癒も微々たるものだ。ゼラニウムは手の中の符に炎を纏わせ、蒼色の花へと全力で放つ。
「ここで会ったのは、奇妙な縁でしたね。――燃え落ちてください、リィ・イン・カーネーション」
 放たれた炎弾は、蒼色の花に火をつける。
 それは見る間に全てを包み込み――リィ・イン・カーネーションは金切り声のような音を立てながら、花弁を散らし、その身を焼き尽くした。


「戦闘で忙しくて、連絡をとる暇がありませんでしたが……他のチームもよく戦っているようです」
 特別な連絡がないのを確認し、マリオンは小さく息を吐く。
「混戦になっているところもあるみたいですけど、徐々に収束に向かってると見て良さそうですねっ!」
 辺りをぐるりと見渡し、戦況を確認したメリーナがぐっと拳を固めてみせる。
「リィ・イン・カーネーションの治癒能力も、特別な様子はなかったよ」
「万が一他のオーズ兵器と合流したら、少しばかり面倒だったのかもしれないですね」
 治癒能力に特別な性質があるのではと警戒し、観察していた玲央が皆に短く報告する。それを受けたエルディスが簡単に能力を分析した。
 ゼラニウムも、別の戦場にいる義妹へ連絡を取り無事を確認していた。
 ほっと胸を撫で下ろす彼女の目に、瓦礫の隙間へ挟まった青い花弁がふと飛び込む。拾い上げた花弁は、風に靡いて揺れていた。
「花弁なのに凄い力が込められている……。その力……使わせて頂きます」
 呟くゼラニウムの傍らで、カトレアは辺りを見渡す。
「街をヒールしたいところですけれど……いつエインヘリアルの戦力が現れるか分からないのでしたわね」
「はい、ここは一旦引きましょう。我々の被害も少なく、見事な勝利と言えるかと」
 ドロレスの言葉にケルベロス達はそれぞれ頷き、素早く撤収に動く。
「ごめんね。今は帰るけど……絶対、直しにくるからね」
 破壊者が過ぎ去った後に残るのは、静寂と爪痕。瓦礫と化した街を振り返り、サナはぽつりと呟いた。

作者:カワセミ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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