星霊戦隊の復讐~森を喰らうモノ

作者:りん


 深夜のかすみがうら市。
 その市街地に2つの影が降り立つ。
 その影は2メートル以上あるだろうか、少ない光の中、赤と青の鎧が鈍く光った。
 彼らは周囲を一度だけ見回すと持っていた何かを地面へと放り投げる。
 ぱらぱらと放り投げられたそれはオーズの種と呼ばれるもので……その一つが彼らの手から離れた瞬間、それは攻性植物へと姿を変える。
「やっと準備が整った。長かったな、ルージュ」
「あぁ長かった。だが、今こそ、仲間の仇をうつ時だ!」
 彼らの会話を聞きながら、黒い影がずるりと動く。
 植物ではあるもののその姿は大蛇そのもの。
 その体に練色の花が咲き、暗闇の中に浮かび上がった。


 星霊戦隊アルカンシェルが動き出しましたと告げたのは千々和・尚樹(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0132)。
「前回倒せなかった2人なのですが、白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)さんが危惧していたように、オーズの兵器化をして戦力を補充していたようです」
 彼らは現在、10体の攻性植物と共にかすみがうら市を起点として、土浦市、つくば市を目指して進軍しようとしているらしい。
「つくば市に到着した後は、つくばエクスプレスの線路を辿って都心部を目指すと思われます。皆さんにはこの2体のエインヘリアルと攻性植物たちを迎え撃ってもらいたいのです」
 かすみがうら市の市民たちはすでに脱出しており、土浦市の市民たちの避難もどうにか間に合いそうだと言う。
 だからと言って大人しく市街地を破壊させるわけにはいかない。
「エインヘリアルは強敵です。そして攻性植物たちはオーズの種によって強化されいるようで、こちらも一筋縄ではいかないでしょう」
 10体の攻性植物たちはまとまって行動しており、自分たちが担当する敵を撃破した場合は苦戦している他のチームの援護に回るなどして手助けをしてほしいと告げられ、ケルベロスたちは頷いた。
 援護も大切だが自分たちが敗北しては意味がない。
 そうなってしまえばその敵が他のチームのケルベロスたちに襲いかかり、連鎖的に敗北を引き起こす可能性も大いにある。 
「戦場はかすみがうら市から土浦市に向かう国道6号線土浦バイパス周辺の市街地となります」
 攻性植物たちは無人になった市街地を破壊しながら進んでくるのでケルベロスたちは予め身を潜めておき、彼らに一斉攻撃を仕掛ける作戦になるという。
 アルカンシェルの2人は国道6号線をまっすぐ進んでいくようで、こちらは真正面から戦いを挑むことになるという。
「ここに集まってもらった皆さんにお願いしたいのは攻性植物の群れ……その中でもユグドラシルアグリッサモデルニーズヘッグの撃破をお願いします」
 ユグドラシルアグリッサモデルニーズヘッグは黒い蛇のような体で大きさは3メートルほど。
 闇に紛れるように獲物を狙うそれは体へ巻き付いて締め上げたり、噛みついて体力を吸ったり、多人数にのしかかって敵味方の区別をつけにくくしたりするらしい。
「戦闘開始時に避難が完了するのは土浦市までです」
 そこにたどり着くまでに敵を食い止めなければ大きな被害がでてしまう。
「アルカンシェルの2人は……仲間を殺され、その復讐のためにやってきたのでしょう。ですが、罪のない方々を巻き込むようなことは到底許せるものではありません。どうか、街の人々を守ってください」
 尚樹の言葉に頷きながら、ケルベロスたちはヘリオンへと乗り込んだのだった。


参加者
英・陽彩(華雫・e00239)
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)

■リプレイ


 人気のなくなった市街地を10の影が蹂躙していく。
 避難が完了しているとはいえ、やはり建物が壊れる音は聞いて心地のよいものではない。
 その音を聞きながら、ケルベロスたちは手早く準備を進めていた。
「今作戦の情報の……発信、傍受は……私が、担当する……よろしく」
「ニーズヘッグは私が担当だ。よろしく頼む」
 連絡役のティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)が各班と連絡先を交換して仲間の元に戻ると、仲間たちはそれぞれに灯りの準備を終えたところであった。
「目標、捕捉シマシタ。左前方デス」
 九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)の声にそちらを見れば暗闇の中でずるりと動く黒い影が見えた。
「アルカンシェル……貴様らの思い通りにはさせんよ!」
 彼らが進んでいるだろう国道6号の方角を睨み付けながらワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)がそう呟けば、甘酒を飲み干した神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)はふっと息を吐いて頷いた。
「オーズ兵器ね……。蛇を象るなんてなかなかいい趣味してるっすけど、敵は敵。しっかりと討滅させてもらうっす」
 彼女の言うように今回の敵であるユグドラシルアグリッサモデルニーズヘッグは蛇の形を模しており、黒い体を闇に紛れ込ませている。
 確認した見た目は可愛らしいと言えなくもないが、やっていることは可愛らしいの範疇を超えている。
 目標であるユグドラシルアグリッサモデルニーズヘッグを確認した後に大事なのはもう一つ。
「スズナリは……あそこざんしね」
 それを探し当てた椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)は仲間たちにその場所を知らせていく。
 ここに集まったケルベロスたちの倒すべき相手はニーズヘッグではあるのだが、その近くにいる敵はニーズヘッグと共闘しようとする動きを見せるらしい。
 回復手段があるスズナリと攻撃力が高いニーズヘッグは、できれば合流させたくないものだ。
「……なるべく早く終わらせるわよ」
「援軍が来る前に、綺麗にお掃除してしまいましょう」
 英・陽彩(華雫・e00239)とヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)の言葉に全員が頷き、それぞれ武器を構えたのだった。


 闇の中を駆けるケルベロスたちの気配を感じ取ったのだろう。
 ライトの光のに捕捉されたユグドラシルアグリッサモデルニーズヘッグはとぐろを巻くと、鎌首を持ち上げてケルベロスたちを見下ろした。
 灯りの中に浮かび上がる巨大な影は植物というよりまるで大蛇だ。
「おー、でっかいねー。可愛いねー」
 その影にそう感想を漏らしたのはノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)だ。
 見上げるその動きに反応したのか、3メートルはあろうかという巨体が音もなく動き彼女の体に音もなく巻き付いた。
「っ!!」
 ぎりぎりと細い体を締め上げるニーズヘッグに七七式が匂い袋を投げつけ、そして彼女は掌からドラゴンの幻影を放つ。
 匂いか炎か、はたまたその両方か。どちらに驚いたのかはわからないがニーズヘッグはノーフィアを解放するとケルベロスたちから距離を取った。
「今のウチデス」
「一度下がるざんしよ!」
 オウガメタルのティンクルシオからオウガ粒子を放出しながら笙月がそう叫けば、ノーフィアはその指示に素直に従い後ろに下がる。
 そこへ追い打ちをさせないようにと結里花が力ある言葉を開放すれば、彼女の周りから水が湧き出て八岐大蛇を形成していく。
「大いなる水を司る巳神よ、その身を高圧の槌となし仇なすものを圧し潰し給え!! 急急如律令!」
 結里花が掲げていた手を下ろせば水の八岐大蛇はニーズヘッグへと襲い掛かっていた。
 それに続くのは体勢を整えたノーフィアとボクスドラゴンのペレだ。
「……黒曜牙竜、ノーフィア・アステローペ。恨みとかないけど止めさせてもらうよ!」
 ペレがブレスを吐き、彼女は愛用の鎌を思い切り投げつける。
 回転していた鎌を避けたニーズヘッグであったが、陽彩が呼び出した赤い雷を纏った狼がその軌道に入り込む。
「来来・焔雷! 音速の如し一閃をお見せくださいませ」
 赤い雷が一瞬辺りを明るくし、ニーズヘッグの体に痺れを残せばその隙にとワルゼロムが霊力を帯びた紙兵を前衛の面々に散布し、彼女のミミック……樽タロスがエクトプラズムを具現化していく。
 そのミミックの横に走っていくのはティーシャ。
「……ふっ」
 短く息を吐いて地を蹴り、流星の煌きを乗せた蹴りをニーズヘッグの頭に思い切り叩き込めば巨体は一瞬ぐらりと揺れた。
 その揺れる巨体を見つめるのは宙に浮く乳白色の瞳。
「悪戯が過ぎましたね。夢を見るのはお仕舞にしましょう」
 ヒスイの口から言葉が紡がれ、翡翠色の雷がニーズヘッグを襲った。


 蛇のようなユグドラシルアグリッサモデルニーズヘッグは目や耳が悪いという情報通り、匂いと、そして自分の近くで動く敵に敏感だった。
 目下狙われたのは最初に匂い袋を投げた七七式だ。
 匂い袋は最初の一撃こそ意味があったようだが自ら動くわけではないそれはニーズヘッグにとって獲物と認識されなかったらしい。
 そして事前に同じ匂いを体につけていた動く七七式はニーズヘッグにとっては見つけやすくなる。
 匂いを付けてかく乱するという方法は決して間違いではなかっただろう。
 しかし、その匂いを付けたのが七七式だけであったということが、彼女が集中攻撃される原因になっていた。
 他にも同じように目立つ行動をとるものがいたとすれば、結果はもっと違うものになっていたはずだが今それを言っても仕方がない。
 ディフェンダーであったことから何とかここまで倒れずにいるのだが、彼女を庇ってミミックの樽タロスは姿を消している。
 もう一人のディフェンダーであるノーフィアも七七式への攻撃を肩代わりしているものの、毎回庇いに行けるわけではない。
 メディックのワルゼロムとボクスドラゴンのペレに加え、他のメンバーも回復を行っていくがその分攻撃手は欠けてしまう。
 がりりり、と金属音が響きニーズヘッグが七七式の体力を吸っていく。
「ッ……!」
 この攻撃から解放されたら回復をと考えるが高い位置から乱暴に振り落とされた体は力が入らず、彼女の思考はそのままブラックアウトした。

 七七式が倒れたことによりニーズヘッグは周りを囲む複数の気配に気づいたのだろう。ニーズヘッグは攻撃の主体をのしかかりに変更していた。
 しかし彼女がニーズヘッグの攻撃を一手に引き受けていたということもあり、他のメンバーはほぼ無傷。一撃二撃で倒れるようなことはない。
 だが塵も積もれば山となる。
 ワルゼロムが散布した紙兵たちが状態異常になるのを防いでくれはするのだが、攻撃力までは削いではくれない。
「ぐぅっ……!」
 のしかかる巨体をどうにか押しのけ、結里花は鎌を振るう。
「啜れ、美刃剥命!」
 ざくりと切り裂いたそこから生命力を奪い幾分か体力を回復すれば、笙月のオウガ粒子が前衛全体の傷を癒していった。
「少しですがお手伝いするざんしよ」
 全快するには程遠いが、それでも多少はマシだろう。
 そして中でも特に傷が酷いノーフィアにワルゼロムが溜めたオーラをぶつけていく。
 自分自身への攻撃を受けた上に仲間へ向かった攻撃を受け止めており、彼女から受けたヒールだけでは到底回復しきれない。
 ノーフィアは自身でもオーラを溜め、さらにペレがその傷を癒していった。
 震える足を叱咤しながら陽彩が御業を呼び出せば、半透明のそれはニーズヘッグの体をがっちりと掴み地面に叩きつけていた。
 そこにティーシャの撃ち放った凍結光線が降り注げば、ニーズヘッグの体にぱきりと氷が張り付いた。
「ようやくか……」
 動きを鈍らせることを目的として攻撃を仕掛けていたティーシャは、ようやく自分の狙い通りに行ったことを確信して息を吐く。
 その氷の上からさらにヒスイの放った疑似水晶が動きを制限し、ニーズヘッグは動くたびにばきばきと音を発していた。
 霜柱を砕くような音を発しながら、ニーズヘッグが狙ったのは先ほど自分から体力を奪っていった陽彩。
「っ……!」
 がぱりと口が開きまるで丸のみにするように陽彩の体に噛みついた。
 抵抗をしようとした手はニーズヘッグの口の中、ぼたぼたと地面に赤い花が散る。
「陽彩さん!」
 結里花が呼び出した水の八岐大蛇が体当たりを食らわせるとぱかりとニーズヘッグの口が空き、落ちて来たのは意識のない陽彩の体。
 その体を抱きとめて彼女の意識がないことを確認したノーフィアはぎり、と奥歯を噛みしめると結里花の前に光の盾を具現化させた。
 ペレがヒスイに回復を施せば、ワルゼロムが一番傷を負っていると判断した結里花にオーラの塊をぶつけていく。
「狙い撃つ」
 ティーシャの持つバスターライフルMark9がエネルギー光弾を射出すれば、ヒスイがルーンを発動させる。
 ルーン文字が淡く光っている斧を思い切り振り下ろすとばっくりと大きな切れ目が入った。
 ばきばきと木が折れるような音が響き、ニーズヘッグの体に徐々にヒビが広がっていく。
 そんなことは今まで一度もなかったことで、よくよく見ればその動きはぎこちない。
「あと少しだ!」
 ヒスイの声にケルベロスたちは頷いた。
 痛みを感じているのかいないのか、ニーズヘッグはぼろぼろと崩れていくのも気に留めず、再びその巨体をくねらせて前衛全体へのしかかる。
「ふっ……!!」
 再度の攻撃に結里花にを庇ったノーフィアが膝をつくが、すかさずペレ、そしてワルゼロムが回復を施して彼女の体からいくつかの傷が消えていく。
 回復は十分だと判断した笙月は荒ぶる御霊を解き放つ。
「大地に滴り満ルは水ノ龍、天つ風に轟き満ルは雷ノ龍、地を裂き天を覆い渦巻く業火なる火ノ龍」
 解き放たれた三匹の龍がニーズヘッグを水で、雷で、火で蹂躙すればその体は見る影もなくぼろぼろになっていく。
 それでも動こうとするニーズヘッグの真正面に立った結里花は簒奪者の鎌に「虚」の力を纏わせた。
「終わりにしましょう」
 ゆっくりと振り上げられたその鎌が、ニーズヘッグの首を地面へと落としたのだった。


 バラバラになったニーズヘッグの残骸を見て、ヒスイはひっそりと息を吐いた。
 オーズの種が飛んでいくことを懸念していたが使用済みだったからか今回はそんなことはなく、手分けして探してみたもののそれらしきものは発見できなかった。
「あちらも片付いたようだな」
 ワルゼロムの声に振り向けば、スズナリ班のメンバーがこちらを振り向いているところであった。
 お互いに無傷とは言い難いが無事に倒せたことに安堵しつつ戦場を見回す。
 未だに戦っている場所もあるようだが、様子を見るにすでに他の班が手助けに向かっているようで自分たちの手は必要なさそうだ。
「……手当をしよう」
 ヒスイの言葉と共に戦場に薬液の雨が降り注ぐ。
 その雨が止むころには、きっと戦場に静けさが戻っているだろう。

作者:りん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。