星霊戦隊の復讐~万物を侵食する力

作者:天枷由良


 深夜、かすみがうら市市街地。
 赤色と青色の鎧をまとった二人のエインヘリアルが、力あるオーズの種を利用して攻性植物を次々呼び集めていた。
 その内の一つが呼び出される時、かすみがうら市全域にまで及ぶのではないかという地鳴りが響く。
 現れたのは、超大型攻性植物と言うしかない枝葉の塊。
 中央の寄り固まった部分から生える四つの脚らしき蔦と、巨大な果実を幾つも備える超大型攻性植物は、一度歩み始めれば大地そのものを食い荒らしてしまいそうであった。
 それを含めた10体のオーズ兵器を前にして、星霊戦隊アルカンシェルの生き残り、スタールージュとスターブルーが口を開く。
「やっと準備が整った。長かったな、ルージュ」
「あぁ長かった。だが、今こそ、仲間の仇をうつ時だ!」
 オーズの種を埋め込まれ、戦闘力を大きく増加させているオーズ兵器たちと共に、進軍を始めようとした二人。
 そこへやって来たのは、緑色の鎧を纏うエインヘリアルの少女。
 二人の後輩戦士である少女はスターヴェールと呼ばれ、暫しの口論を経たあと、スタールージュに軽く追い払われる。
「ルージュ先輩! しょうがありません、今は退きます。
 でも、マスターブランに報告しますからねっ!」
 撤退するスターヴェール。遮るものはいなくなった。
 改めてオーズ兵器と共に、進軍を始めるアルカンシェルの二人。
 超巨大攻性植物『ユグドラシルイロウションモデルダイン』も、巨体を揺らし進みだす。


「先の戦いで3体を撃破した5人組エインヘリアル『星霊戦隊アルカンシェル』の、
 逃がした残り2体が動き出したようなの」
 ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)は険しい顔で、集ったケルベロスたちへ語りだした。
「彼らは白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)さんが危惧していたように、オーズ兵器による戦力補充を図っていたようね。オーズの種を埋め込んだ10体の攻性植物を支配下においた彼らは、市街地を破壊しながら進軍しようとしているわ」
 2体のエインヘリアルと10体の攻性植物は、かすみがうら市を起点として、隣接する土浦市、つくば市を目指して進んでいるようだ。
 つくば市に到着した後は、つくばエクスプレスの線路伝いに都心部を目指す可能性が高いだろう。
「現在、かすみがうら市から市民は脱出しており、土浦市の方も避難は間に合いそうよ。
 それを踏まえて、かすみがうら市と土浦市の間で、エインヘリアルと攻性植物の軍勢を迎撃してほしいの」
 2体のエインヘリアルは勿論強敵であり、攻性植物たちもオーズの種によって強化されているため、かなりの激戦が予測される。
「敵の撃破に成功したチームは、苦戦しているチームの援護にまわったりして、
 連携して戦闘を行うようにして頂戴ね」
 逆に戦闘で敗北したチームが出てしまった場合、そのチームが受け持っていた敵が他の戦場に乱入することも考えられる。
「そうなれば、危機は連鎖的に拡大していく可能性もあるわ。
 絶対に油断しないで、注意を払うのよ」

 戦場は、かすみがうら市から土浦市に向かう、国道6号線土浦バイパス周辺の市街地。
「攻性植物は一団となって市街地を破壊しながら進んでくるから、無人となった市街地に潜んで、進軍してくる攻性植物に一斉に攻撃を仕掛ける作戦になるわ」
 アルカンシェルの2人は、国道6号線をまっすぐ進んでくる。
 こちらは、正面から戦いを挑む事になるだろう。
「そして、あなた達に受け持ってもらいたいのは、
 超巨大攻性植物『ユグドラシルイロウションモデルダイン』という個体よ」
 その大きさは他の追随を許さず、進軍してくる軍団の中では遠目から見て一番発見しやすいだろう。
 一般的に「埋葬形態」と呼ばれる、地面と接する身体の一部を大地に融合させて侵食する攻性植物の能力を大幅に強化した攻撃を得意とし、通常ならば進化の効果がある光を放つ「黄金の果実」も巨大化した上で、実を落とした部分から汚染する効果を持つという。
 更には、巨体に任せての踏み潰し攻撃も用いる。
 耐久性も高く、まさに蹂躙する植物の要塞。超攻撃型攻性植物である。
「市街地を破壊しながら進軍してくる攻性植物の群れとの戦い。避難が完了している土浦市までで食い止めなければ、どれほど大きな被害が出るか分からないわ。『モデルダイン』も他の攻性植物も、そしてエインヘリアルの二人も生半可な相手ではないけれど、必ず撃破して。頼んだわよ」

 そこで説明を終えようとして、ミィルはもう一つ大事な事があると言葉を継いだ。
「スタールージュやスターブルーの行動は、暴走ともいえるもの。これに気付いた新たなエインヘリアル勢力が、彼らを連れ戻しに来る可能性もあるのよ」
 長期戦となれば何が出てくるかわからない。
 粘り強く戦うような作戦は避けるべきだと付け加えて、今度こそ説明は終わった。


参加者
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
ヤクト・ヴィント(ハンター・e02449)
糸瀬・恵(好奇心は猫をも殺す・e04085)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
椿木・旭矢(雷の手指・e22146)
祝部・桜(残花一輪・e26894)
ホルン・ミースィア(見た目は巨神っ頭脳は子供・e26914)

■リプレイ


「お、大きい……!」
「本当に城塞みたいだ……」
 祝部・桜(残花一輪・e26894)と、ホルン・ミースィア(見た目は巨神っ頭脳は子供・e26914)。
 そびえ立つ敵に圧倒される二人の言葉を聞きながら、アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)は暗視機能を作動させた多機能眼鏡型スコープ越しに、その姿を見た。
「ユグ……なんやったっけ?」
 惚ける佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)。
「ユグドラシルイロウションモデルダイン、だ」
 拳を固く握って返したヤクト・ヴィント(ハンター・e02449)が見据える先で、主の居ない家屋がまた一つ飲み込まれていく。
「……まぁ、とにかくアレ止めたったらええねんな」
「えぇ。厄介な相手ですが、負けられません」
 ヤクトの只ならぬ雰囲気を察しつつ簡潔に目的を述べた照彦に、灯りを点けながら糸瀬・恵(好奇心は猫をも殺す・e04085)が頷いた。
「目立つから早く倒さないと、増援が心配だね」
「せやな、短期決戦の構えや。……気張れや、テレ坊」
「ルナも、しっかり頼むよ」
 ホルンと照彦は共に従えるサーヴァント――ウイングキャットのルナとテレビウムのテレ坊にも、この戦いで目指すべき所を伝える。
「後ろは任せろ。……誰一人、倒れさせやしない」
 白い袋の御守りを握りしめて、呟くのは椿木・旭矢(雷の手指・e22146)。
 その決意が禍々しい呪紋となって旭矢の身体へ憑依していくのに呼応して、風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)が刀を抜き放った。
「……行きましょう」
 刃が空気を裂き、凛とした音が響く。
 弾かれるように、ケルベロスたちは侵食の化身へ立ち向かっていく。


「ここで必ず倒します!」
 桜は黒塗りの鎌を携えて、風峰・恵と並走する。
 巨大な相手に対して打ち込むと決めたのは斬撃、しかし眼力は必中と呼ぶに心許ない数字を示していた。
 それは風峰・恵も同様で、攻めの両翼を担う二人によぎった僅かな不安を照彦が取り除く。
「『Zacharias Ida Emil Ludwig Eins=Bahner_06』」
 合成音声による詠唱で放出された微細な機械たちは二人の武器に取り付き、その扱いを補助して正確さを加えた。
 まず一撃。
 左右に展開した桜と風峰・恵は、敵の両前脚に斬りかかる。
 桜は光沢のない刃を幽鬼の如く揺らめかせて、熟練の庭師が手がけるように美しく。
 風峰・恵は暗闇に刀で三日月を描き、脚の中で一際太い枝を裂いた。
 モデルダインは斬られた脚を振って払いのけようとするも、二人はアーニャが撒いた小型無人機に守られながら敵の真下を潜り抜けていく。
「――ファイヤッ!」
 緩慢な動きのモデルダインにホルンが狙い澄まして主砲を斉射し、ヤクトはまだ遠い間合いから回し蹴りを放った。
 風の魔剣を再錬成したエアシューズ『魔剣ブレイドダンサー』に包まれた足が、敵を直接捕らえることはない。
 しかし軽く撫でられた空気が氷結の螺旋によって極北の地から吹き荒ぶ風となり、モデルダインを枯らすべく襲いかかる。
 その風に乗って、高く飛び上がった糸瀬・恵は足先に重力を込めた。
「これだけ大きいと何処に当てれば機動力を奪えるか分かりませんね、っと」
 氷風に煽られて少し萎びた敵の脚部を蹴りつけ、反動で飛び退く。
 このまま一気呵成に。
 前のめるケルベロスたちは、そこでようやく、自身らが立つ地面が変色していることに気づいた。
「――っ!」
 咄嗟に跳躍して、風峰・恵は空中で身を捻る。
 反転する世界で見えたものは、先程まで己の身体が有った場所を刺し貫くように伸びる太い蔓の束。
 侵食。その二文字を体現した攻撃は前衛の者たちを飲み込んでいく。
「桜っ! 照彦っ!」
 目の前で消失した仲間の姿を探して、旭矢は生え続ける蔓を星辰の剣で切り払った。
 程なく見えた大きな蔓の塊を裂くと、中から小型無人機に囲まれた照彦とテレ坊が吐き出される。
「大丈夫か!?」
「……今んとこはな」
 口の中に入った土を吐き出して答える照彦。
 少し離れた場所で蔓が吹き飛び、桜は紫電に似た魔力を纏って自力で這い出てきた。
 攻撃に全力を尽くしていた桜は、守りに意識を置く照彦たちよりも大きな傷を負っている。
 すぐにアーニャが駆け寄って魔術を用いた緊急手術を行い、テレ坊は応援動画を。
 旭矢はバイオレンスギターを手に戦い続ける者たちの歌を奏でて、桜のみならず前衛陣全てを癒しながら奮起させた。
 ルナも癒しの風を送ろうと羽ばたきを強め――。
「ルナっ!」
 ホルンの叫びに見上げる間もなく、ウイングキャットの小さな身体は地面に圧着される。
 鞭のようにしなやかな、そして柱のように堅牢な脚部による踏み潰し。
 脚を持ち上げるモデルダイン。そこにルナの痕跡は塵ほども残っていない。
 圧殺。進む道に己以外の存在を許さない敵の力を前にして、ケルベロスたちは生唾を飲む。
 しかし気圧されてはならない。
 照彦が少しでも敵の力を削ごうとバスターライフルからグラビティ中和弾を放つと、ヤクトは踵落としを浴びせ掛けて、強烈な衝撃を与えつつモデルダインの一端を燃え上がらせた。
 炎は蔓の塊が動く度に、少しずつではあるが勢いを強めていく。
「影に潜む狩猟者よ、我が呼び声に応じて来たれ!」
 糸瀬・恵が唱え、喚び出したのは狩猟の精霊。
 影を渡り歩く不定形の犬の姿をしたそれは、瞬く間に敵を引き裂いて闇に溶けた。
 代わって、ホルンが光を散らしながら超高速の槍撃を繰り出す。
 風峰・恵も雷の霊力を帯びた刀で合わせて突くと、戦場に響く音が旭矢の奏でる勇猛な行進曲から、桜の稚児じみた歌声に変わった。
 それは母恋しさを抑えきれぬ幼子が、行き場のない想いを残虐性に転じてしまう童歌。
 幼子は母が帰るまで無邪気な殺戮を続ける。桜も、敵か己のどちらかが滅ぶ時まで鬼哭啾啾と謡い続けるだろう。
 ならば、小娘の息の根ごと止めてしまうまで。
 モデルダインは雑音をかき消すべく、再び大地を己が領域に変えた。


「さすが、超攻撃型と言われるだけありますね……っ!」
 狩猟の精霊を放ちながら、糸瀬・恵は敵を睨めつけて歯噛みする。
 モデルダインは身体のあちこちに裂け目を作り、炎を上げて、より鈍くなった動きで、しかし変わらず目の前にそびえていた。
 人とは余りにもかけ離れたその姿から、一体どんな感情が読み取れようか。
 不気味な攻性植物とは対称的に、荒れた戦場を奔走して仲間たちの盾になり続ける照彦とテレ坊の疲労は色濃い。
 アーニャと旭矢が絶え間なくヒールグラビティを行使し続けても、完治しないダメージが積み重なっていく。
「せやかて、まだまだぶっ倒れるわけにはいかへんのや……!」
 自身でも光の盾を張り出しつつ、敵の攻撃に備える照彦。
 霊力で生み出した風を刃に纏わせた風峰・恵が、持てる力の全てを込めて敵の脚部を深く貫くも、嘲笑うかのように身体を揺らしたモデルダインからは輝く巨大な果実が幾つも放り返された。
 それは果敢に攻撃を繰り替えす恵や桜、ヤクトらを歯牙にも掛けず、アーニャや旭矢の頭上へ飛ぶ。
「あかん!」
 癒し手の喪失は絶対に避けなければならない。
 照彦は震える脚を一叩きして、テレ坊と共に降り注ぐ果実へ身を投げ出した。
 万物を破壊するような衝撃、そして砕ける実から散った液汁による汚染。
 身体の内外に生じた痛みを堪えつつ、何とか踏みとどまった照彦にモデルダインは只々無慈悲であった。
 大地が揺れ、太い蔓が伸びる。
 果実に続く足元からの攻撃は後衛を襲って、照彦とテレ坊は癒し手の二人を庇ったままモデルダインの領域に飲み込まれていった。
「っ! ……展開! 切り裂けぇぇっ!」
 なおも侵食を続ける蔓を千切って、ホルンはチェーンソー剣で敵の前脚へ吶喊する。
 纏う大きな鎧へ草汁を血しぶきのように浴びて、確かな手応えを感じた直後。
「!? しまっ――」
 些細な驚愕の台詞も許されず、その身体は新たに湧き出た蔓の群れに包まれた。
「……不味いな」
 魔剣ブレイドダンサーで鋭く密やかに蹴りつけたヤクトが零す。
 蔓が引いていった後、伏したままの照彦とホルンは寸分足りとも動く気配を見せない。
 二名の戦闘不能。
 残るケルベロスたちは、ここで残存戦力のみでの敵撃破を不可能と断じた。
「救援要請を!」
 旭矢に指示されたアーニャが、開きっぱなしのアイズフォンを通じて四方に呼びかける。
「モデルダインと交戦中のアーニャ・シュネールイーツです! どなたか応答願います!」
『――こちらエニィプス討伐班、リコリス・ラジアータです。何かありましたか』
 さほど間を置かずに返ってきた女性の声。すがるように、アーニャは捲し立てた。
「二名が戦闘不能に追い込まれ、敵の撃破が難しい状況にあります! すみませんが救援をお願いします!」
『……! 了解しました、少しだけ持ちこたえてください。方角は――いえ、確認しました。すぐに救援に向かいます』
 ケルベロスたちを蹂躙する敵の巨体が皮肉にも役立ったか、リコリスはすぐにモデルダインの姿を見つけたらしい。
 通信を終えて、アーニャは仲間たちに救援要請が受諾された事を伝える。
 戦闘方針は援軍到着までの持久戦へと変わり、風峰・恵は桜と共に敵から間合いを取って意識を守勢に傾け始めた。
 全身全霊で攻撃を行っていた二人が、息を整えて守りの態勢へ入るには多少の時間を要する。
 それは通常ならば大きな隙を作ってしまうため、不利な状況しか生まない。
 しかし、敵を押しとどめながら援軍の到着まで粘るには、照彦、テレ坊、ルナの盾役三枚を全喪失した状態は致命的。
 耐え忍ぶ事が勝機に繋がる現状に限れば、攻め手を削ってでも守りを固める行動に意義はある。
「救援が来るまで、私達が凌ぎます!」
 呪詛を施した短刀を握り、モデルダインに鋭い眼差しを向けて言い放つ桜。
 身の内で渦巻くデウスエクスへの強い殺意に守勢と決めた心が揺り動かされるが、親しき者から授かった白黒の衣を掴むと、荒ぶる気も幾らか鎮めることが出来た。
 

 頭上から墜ちてくるモデルダインの脚。
 刀で突き返して堪えた風峰・恵の意識を、またしても足元から湧いた蔓がさらっていく。
「恵お兄さまが!」
 自身も蔓に絡め取られながら、悲痛な声を上げる桜。
 倒れた風峰・恵に代わってヤクトが守勢に転じ、また二枚になった盾を二人の癒し手が懸命に支える。
 その間、ほぼ唯一の攻撃手段となった糸瀬・恵は、槍撃や精霊の召喚で反攻を試みていた。
 ヤクトの与えた炎も敵の巨体に広がって体力を削ぎ続けている。
 あと少し凌げば。
 包帯のように巻き付いてきた旭矢のヒールグラビティ、アーニャからの魔術的手術で傷を癒やした桜は白刃を構える。
 その頭上が僅かに暗くなり、モデルダインから脚が降ろされた。
 直撃。桜は肺の空気全てに、血を混ぜて吐き出す。
 ――ああ、こんな蔓草の塊、今すぐに捻じ殺してしまいたい。
 堪えていたデウスエクスへの憎悪が瞳に集まっていくが、身体は動いてくれない。
 空中に浮いたままの脚が追撃をかけようと、再び桜の身体に――。
「させませんッ!」
 降ろされる間際、飛び込んできた青い燐光がモデルダインの巨体を蹴り飛ばした。
 バランスを崩した敵にまた飛び蹴りが浴びせられ、敵とは違う攻性植物が伸び、降魔の力が込められた一撃が炸裂する。
「……あ」
 援軍、か。
 理解した桜の元へ、落ちてくるはずだった敵の脚に代わって新たに大量の小型無人機と、ドラゴニアンの女性――アトリが駆け寄ってきた。
「少し、我慢してね……!」
 アトリが身体に触れると、桜の身体に苦痛とは違う刺激が走る。
 アーニャから何度か受けたものと同じ類の、魔術による緊急手術だ。
「とりあえず、もう立てると思う……助けに来たよ」
「ありがとう、ございます……」
 ふらつきながらも、立ち上がる桜。
 その周囲に、何処からか喚び出された剣が漂い始めた。
「まだ立てる方はいらっしゃいますか? 可能なら、助力を、お願い致します」
 剣の主、歌夜の声に応えて、アーニャがバスターライフルを掲げる。
「やれます。……皆さんに、守り続けて貰いましたから」
 旭矢も頷き、糸瀬・恵は槍を、回復した桜も短刀を構えて戦意を示す。
「これ以上、何も飲み込ませやしない……!」
 脚に力を込めたヤクトは敵の巨体に向かっていち早く駆け出し、問いへの答えとした。


 救援に加わったケルベロスたちが、苛烈な攻撃を浴びせていく。
 耐え忍ぶため止む無く折ることになった牙の役目を、彼らは存分に果たしてくれていた。
 負けじとヤクトも敵を鋭く蹴りつけ、恵は槍で貫き、桜は怨嗟を込めて謡う。
 更に傷を増やしたモデルダインは篝火のように炎を上げながら、それでもケルベロスたちを飲み干さんと大地を侵食した。
 足元から伸びる太い蔓の束に、援軍のケルベロスたちからも驚きの声が上がる。
 しかしアーニャがアトリと共に薬液の雨を降らせ、旭矢が星座の陣を描き、リコリスが黄金の果実から光を放って、前衛のケルベロスたちが受けた傷はすぐに埋められた。
 そのまま次の攻撃に転じようとした時、モデルダインが鎖で縛られたように止まる。
 ケルベロスたちが与えた攻撃の数々が、巨体から一瞬、行動の自由を奪ったのだ。
「あと一息です! 押し切りましょう!」
 糸瀬・恵が叫び、渾身の力を込めて喚びつけた狩猟の精霊が駆け出すと同時に、アーニャがグラビティ中和弾を放った。
 ヤクトは敵を燃やし尽くさんと踵落としを浴びせ掛け、旭矢も回復不要と見て電光石火の蹴りを。
 桜も短刀を閃かせ、ずたぼろの蔓を抉り取るように斬り刻んでいく。
 そして援軍のケルベロスからスズナが刀で斬りつけた時、モデルダインの身体がぐらりと揺れた。
 脚を振り上げ、それを落とす先を探し、そして見つけられないまま、轟音を響かせて倒れていく。
 超巨大攻性植物の侵食は、ついに止まった。

 糸瀬・恵は纏う闘気を集めて、モデルダインの遺骸に向ける。
 それは嘗ての事件の折、オーズの種が飛翔していった事を思い出しての行動だったが、種が姿を現すことは無かった。
 モデルダインは時計の針を一気に進めたように枯れ果て、塵となって消え失せる。
「……すまない、助かった」
「いや、無事でよかったっす。間に合って、よかったっすよ」
 ヤクトの礼に、マルガが返す。
 倒れていた仲間たちも、手を借りて起き上がりつつあった。
 恐らく他のオーズ兵器たちも撃破されたのだろう。火急の事態を報せるものはない。
 強大な敵、その力を警戒するあまり他班の手を借りることにはなったが、ケルベロスたちは課せられた使命を一先ず、果たしたのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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