深い闇に覆われた、真夜中のかすみがうら市市街地。
そこに赤と青の鎧を纏った二体のエインヘリアルが、闇に紛れるように暗躍していた。
彼等の手の中に握られているモノは、オーズの種だ。これまで多くの事件を起こしてきた災厄の種が、次なる惨劇を呼び寄せる。
刹那――彼等の傍らに聳え立つ一本の樹木が突如蠢き出した。身をくねらせるように幹が捻じれて、やがて異形の存在へと形を変えていく。
その姿はまるで見目麗しい、色香漂う女性の姿を成していた。
植物と人間が融合したような、背徳的な美を感じさせるその攻性植物は、更なる力を求め欲して、艶めかしい笑みを浮かべて手を差し出した。
魔性の種が彼女の中に取り込まれたこの瞬間――新たな大禍の芽が産み堕とされた。
こうして彼等の元に集まった10体のオーズ兵器達。それらを前にして、二人の戦士――星霊戦隊アルカンシェルの生き残り、スタールージュとスターブルーが口を開いた。
「やっと準備が整った。長かったな、ルージュ」
「あぁ長かった。だが、今こそ、仲間の仇を討つ時だ!」
ケルベロスに仲間を殺され、復讐心に燃えている二人がオーズ兵器を率いて進もうとした時だった。進撃を食い止めようと緑色の鎧の少女が行く手に立ちはだかった。
少女は現れるなり二人と言い争うが、彼女の願いは到底聞き入れてもらえない。
「これは、俺達の復讐だ。お前もアルカンシェルなら分かるだろう? スターヴェール」
頑なに我を貫き通すスターブルー。緑の少女、スターヴェールも譲らず食い下がるが――スタールージュが我慢の限界だとばかりに、彼女を払うように力尽くで押し退ける。
「ルージュ先輩! しょうがありません、今は退きます。でも、マスターブランに報告しますからねっ!」
少女が諦めて場を去った後、復讐の鬼と化した二人は、オーズ兵器と共に破壊への進軍を開始するのだった。
「以前の戦いで、5人組のエインヘリアル『星霊戦隊アルカンシェル』のうち3体を撃破することができたけど、残りの2体がついに動き出したよ」
玖堂・シュリ(レプリカントのヘリオライダー・en0079)はヘリポートに集まったケルベロス達に、アルカンシェルが再び活動を始めたことを話す。
白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)の進言による、オーズを兵器化させて戦力補充を行なっているという危惧が予知されたのだ。彼等はオーズの種を埋め込んだ10体の攻性植物を支配下に置き、市街地を破壊しながら進軍を目論んでいる。
「アルカンシェルの2人とオーズ兵器達は、かすみがうら市を起点とし、隣接する土浦市やつくば市を目指して進むみたいだよ」
そしてつくば市に到着した後は、つくばエクスプレスの線路伝いに都心部を目指す可能性が高いだろう。
「現在の状況だけど、かすみがうら市の人達は全員脱出し、土浦市側の避難も間に合いそうだから、かすみがうら市と土浦市の間で敵の迎撃をお願いしたいんだ」
もし敵の撃破に成功した場合は、苦戦しているチームの援護に回るなど、連携して戦闘を行うようにしてほしいとシュリは伝える。
仮に戦闘で敗北してしまったチームが出た場合は、その敵が他のチームの戦場に乱入することも考えられる。そうなれば、連鎖的に危機が拡大する危険性もあるので注意が必要だ。
かすみがうら市から土浦市に向かう、国道6号線土浦バイパス周辺の市街地が今回の戦場となる。敵は市街地を破壊しながら進んでくるので、無人となった市街地に潜み、進軍してくる攻性植物に一斉攻撃を仕掛ける作戦だ。
アルカンシェルの2人に関しては、国道6号線を真っ直ぐ移動しているので、そちらは正面から戦いを挑むことになる。
「ちなみに今回キミ達が戦うのは、オーズ兵器の一体『カスパエル』という攻性植物だよ」
カスパエルは上半身が妖艶な女性のような植物の姿で、大きさも人間と殆ど変わらない。
敵の攻撃方法だが、鋭く伸びた爪で攻撃を喰らうと、毒が浸食して身体中を蝕んでいく。
それ以外にも、蔓を鞭のように絡めて締め付けてきたり、更には魅惑的な花の香りを振り撒いて相手を魅了する。そうして虜になった者達は、彼女を傷付ける連中を排除しようと、仲間を攻撃するようになってしまう。
相手を嬲りながら精神的にも肉体的にも追い詰めていく、嗜虐的な性質があるらしい。
「カスパエルは罠を仕掛けるのが趣味で、見た目で相手を欺き油断させたりすることもあるみたいだけど。市民の避難は終えているから、今回に限ってはその心配はないよ」
つまり現在の状況下であれば、正攻法で戦いに臨めば問題なさそうだ。
とはいえ敵はオーズの種で強化された攻性植物だ。通常の攻性植物以上に戦闘力が高く、一筋縄では行かない相手であることは間違いない。
「……仲間を殺された復讐とはいえ、罪もない人々を巻き込むことは許せないと思うんだ」
ケルベロス達の手で被害を食い止めて、この哀れな復讐劇に終止符を打ってほしい――。シュリは祈るような気持ちで、死地へと赴く戦士達を見送った。
参加者 | |
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犬江・親之丞(仁一文字・e00095) |
クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052) |
九道・十至(七天八刀・e01587) |
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795) |
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540) |
カイウス・マビノギオン(黒のラサーヤナ・e16605) |
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270) |
鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334) |
●災厄の街
ケルベロスに殺された仲間達の仇討ちの為、復讐鬼と化した星霊戦隊の生き残り達。
怨嗟の念に憑かれた不毛な復讐を食い止めるべく、ケルベロス達は市街地に侵入して迎撃作戦の実行に移る。
仇を討つ、という星霊戦隊の所業に対し、鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)の心境は複雑だ。自らも両親を殺した宿敵を討ち取った経緯から、その心中は察するものがある。
とは言え罪なき一般人を巻き込むような復讐は、尚更止めなければならない。雅貴はふと目を伏せた後、決意を固めて武器を持つ手に力を込める。
「さて……幕引けるよう、尽くそうか」
犬江・親之丞(仁一文字・e00095)は星霊戦隊のスタージョーヌと実際に戦って、倒したメンバーの内の一人だ。
「僕もあいつらの仇になるけど、仲間の為に仇を倒したいって気持ちは、正直判るな……」
遠くを見つめるように空を仰いで一呼吸置いた後、気持ちを切り替えて前を向き直す。
聞けば自分達が戦うべき敵は、罠を張るのが趣味だとか。カイウス・マビノギオン(黒のラサーヤナ・e16605)は何かしらの罠や奇襲等に警戒しながら、周囲を見渡した。
「まだ敵の気配はありませんが……それにしても、凄まじい状況ですね」
足を踏み入れた先で目にした光景は、建造物が軒並み破壊された見るも無残な街並みだ。
住民は全員避難を終えているので、人々に危害が及ぶ心配はないものの。崩壊した建造物群の残骸は、静寂に包まれた闇夜の中にあって不気味な雰囲気だ。
敵の進行方向を先回りして、まだ無事な建物の陰に隠れて襲撃に備えるケルベロス達。
接近を警戒しながら待機していると、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)が覗く暗視スコープに一つの影が映り込む。
上半身は裸体の麗しい女性だが、下半身は植物その物で――人間と植物が融合した異形の存在は、背徳的な美しさを醸し出していた。
「(奇襲なら、元暗殺者のわたしの得意分野だからね……)」
リーナは敵の位置を仲間に伝え、奇襲を試みようと身体を屈めた瞬間――オーズ兵器『カスパエル』は、艶やかに口元を歪めて彼女の方を振り向いた。
「――漸く獲物に出逢えましたわ。嬲り甲斐のない鉄クズの相手ばかりで、退屈でしたの」
その微笑みに、ケルベロスは誰しもが寒気を感じて、畏れを抱いた。ただ気付かれただけでなく、語りかけてきたことに。たった一言で、奇襲は封じられたも同然だ。
この攻性植物にとって破壊活動は二の次であり、嗜虐を求める彼女にとってケルベロスという存在は、正に探し求めていた獲物であった。
「……ここは覚悟を決めて、一斉に仕掛けた方がいいかもね」
敵から仕掛けてくる様子は今のところなさそうだ。それなら自分達から動くしかないと、鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)は提案をする。
「そうと決まったら早速戦闘っすよ! レッツ伐採っす!」
参加メンバーの中で最年少の鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)が、元気一杯はしゃぐように戦意を鼓舞する。
「しんどいのは苦手なんだがな。終わったら一本奢ってくれる約束、忘れねぇでくれよ」
片や最年長の九道・十至(七天八刀・e01587)はやれやれと大きく溜息を吐き。帽子の鍔を親指で軽く押し上げながら、敵の姿を確りと見据える。
「――こちらも突入を開始します。では、お互いにご武運を」
クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)がヘッドセット通信機を用いつつ、他班で活動しているアンクと連絡を取り合っていた。戦闘前の最後の通信を終了し、後は敵の撃破に全力を注ぐのみである。
歪んだ復讐劇に終止符を。地獄の番犬達とオーズ兵器の戦いの幕が、今開かれる――。
●嗜虐の女王
攻撃してくる素振りを見せないカスパエルに、ケルベロス達が一斉に飛び掛かる。彼等が戦闘領域に踏み込んだ時、どこからともなく甘い花の香りが漂ってきた。
「苦痛を与えるのが好きなんて……見た目に反して醜悪な性格してるみたいだね……」
誰よりも先んじて、リーナが最初に突撃をする。小太刀に宿る霊力をより高め、電光石火の如き速度でカスパエルを斬りつける。
「貴女の身体、興味がありますが……。余り悠長にはしていられませんからね」
人の姿をした攻性植物ということもあり、クノーヴレットはその構造が気になりつつも。今は戦うことに専念し、漆黒の槍と化した神々の残滓で植物の部分を薙いでいく。
「犬江親之丞、此処に在り! 悪いけど、早目に倒させてもらうよ!」
先手必勝とばかりに、親之丞が斬霊刀を手にして斬りかかる。繊月の如く澄んだ刃に空の霊力を纏わせて、振り抜いた刃は負わせた傷を重ね広げる。
この後も、仲間達の攻撃が彼等に続くかと思われた矢先――。雅貴が不穏な表情で、雷を帯びた日本刀を突き刺した。ところが刃を向けた相手は倒すべきカスパエルではなく、仲間であるはずの親之丞だった。
背後から思わぬ不意打ちを受けて呻く親之丞。もしや先程の花の香りが原因かと推測しているところに、次なる刺客が牙を剥く。
魔性の花に魅入られ判断力を狂わされたカイウスが、親之丞を狙い撃ちして冷気を凝縮させた弾丸を射出する。しかしミミックの『シュピール』が盾となって凍結弾を分散させる。
「自分を犠牲にしてでも仲間を護るだなんて、とても健気な下僕ですわね」
ミミックの献身的な行動をカスパエルは嘲笑し、蔓の鞭を撓らせながら宝箱の生命体に打ちつける。彼女の振るった一撃で、シュピールは力尽きて消滅してしまう。
カスパエルの見下した態度にクノーヴレットは憤り、険しい形相で異形の攻性植物を睨み返した。
「美しい女にゃトゲがある……ってぇレベルじゃねぇなァ。ありゃ」
こいつァもう二本追加しねぇと割に合わねぇ、十至がぼやきながらパチンと指を鳴らすと――。仕込んだ爆弾がカスパエルの足元で大きく爆ぜて、地響きする程の爆発音が戦場一帯に轟いた。
「とにかく目を覚まさせないと……仲間同士で殺り合ったらいけないよ!」
美沙緒が地面に星座を描くと癒しの光が溢れ出し、雅貴とカイウスの邪気を祓って守護の力を付与させる。
自らは手を下さずに同士討ちを誘う。カスパエルの卑劣なやり方に、ケルベロス達は怒りを抑え切れずにはいられなかった。
「おっす! あちきっす! そしてこいつは羽猫のマネギっす! 二人揃えば人呼んで、『黒斑一家の不沈空母アンド艦載機』っす!」
張り詰めた緊迫感の中でただ一人、五六七だけが何の脈略もなく空気も読まず、ふくよか過ぎるウイングキャットを頭に乗せて名乗りを上げる。
「おねーさんおっぱい大きいっすね! よーしぶちのめしてやるっす!」
手にした百円玉を高く放り投げると、時空を割って線路を走る小さな列車が召喚される。五六七は列車に飛び乗り玩具で遊ぶように操縦し、カスパエルに向かって突撃をする。
双方が衝突した瞬間に爆煙が巻き起こり、素早く脱出した五六七は、華麗に着地しながら笑顔でダブルピースを決めるのだった。
「清楚な花ならまだしも、嗜虐の化物に付き合ってられっかよ。こいつはお返しだ」
不覚にも魅了されてしまった不甲斐なさに雅貴は苛立ち、昂る感情が竜の幻を造り出す。そして燻る気持ちをぶつけるように、カスパエルを紅蓮の炎で包み込む。
「本当なら長く直接お前を愛していたい所だが、生憎と時間が無い。直ぐに終わらせよう」
こちらも甘い罠に掛かってしまったカイウスが、湧き上がる激情を押し殺しながら冷淡を装って、氷で生成された弾の礫を浴びせ続ける。
他人を嬲るのが趣味の敵なら、自分達も状態異常攻撃を重ね合わせて、嬲るように体力を削いでいこうと意趣返し的な算段で臨んだケルベロス達。
ただしオーズの種で力を増したオーズ兵器が相手とあって、現状では想定していた程の効果を得られていなかった。
思惑通りに事が進まず、ケルベロス達の顔に少しずつ焦りの色が滲み出る。カスパエルはそんな彼等を蔑み、弄ぶように責め立てる。
猛毒を秘めた魔性の爪が、クノーヴレットに伸びて襲いかかってきた。そこへ十至が押し退けるように身を挺して彼女を庇うが、爪は十至の身体を容赦なく掻き抉る。
「これでも元妻帯者さ。女の扱いにゃ馴れてるさ……ま、浮気癖は治らんかったけどなァ」
「タフな殿方は嫌いじゃありませんわよ。だって……その方が、ずっと甚振られますもの」
毒に侵されながらも苦痛に耐えてニヒルに笑う十至に対して、カスパエルは愉悦に浸った表情で微笑み返し、爪に滴る血を啜るように舌で舐った。
「こんな性悪女に、好き勝手はさせないんだよ!」
美沙緒が居ても立っても居られないといった様子で、声を張り上げながら会話を遮った。
両手で包むように魔力を集中させると大きな光の球となり、十至に向けて放った魔力の球は、月のような淡い光で毒の浄化と癒しを施した。
「……あなたのいのち……刈り取る、よ……」
リーナが闇夜に紛れるように忍び寄り、僅かな隙を突いてカスパエルの背後に回り込む。正確無比な動作は身体に染み付いた暗殺術によるものか。手に握られた漆黒の短剣を稲妻状の刃に変形させて、精密機械の如く敵を斬り刻んでいく。
●激闘の果てに
例え如何なる強敵が相手だろうと、地獄の番犬達は決して諦めることなく立ち向かう。
「……僕にもなすべき事があるから――この命だけは譲れない!」
親之丞はここでやられるわけにはいかないと、純白の護り袋に篭めた『仁』の想いを胸に秘め。『柔』の闘気を重ねて眩い光の球を作り出す。
「我らに勝利を――犬江流二刀術、金赤反魂煌――!!」
二本の刃を交わせ光を集め、聖なる槍の如き一条の雷轟が放たれて、カスパエルの胴体を一直線に穿ち貫いた。
「禍の芽も禍根も、一つたりとて残さぬように――叩き斬ってやる」
雅貴は普段の気さくな姿を心の奥に仕舞い込み、カスパエルを眼光鋭く睨みつけていた。
「因縁に終止符を、そして此の地に平穏を。だから――オヤスミ」
囁くように詠唱すると影が闇に溶け込んで、見えない刃が縦横無尽にカスパエルの全身を斬り裂いていく。剣術と魔術を錬成させた独自の技を繰り出す彼の背中には、両親の面影が朧気に浮かんで見えた。
攻撃の手を緩めず積極的に仕掛けるケルベロス達。手数で勝る彼等の勢いにカスパエルは若干押され気味になり、戦況は次第に番犬側へと傾きつつあった。
ここでカスパエルは消耗した生命力を回復させようと、蠱惑の花香を撒き散らして後衛陣を取り込もうとする。回復役の美沙緒やマネギが花香の虜にされてしまい、彼女達がカスパエルに治癒の力を使えば、状況は圧倒的に不利となる。
「お前の思い通りになど、させはしない!」
敵の狙いを察知したカイウスが、全身から神秘的な光を発して後衛陣を包み込み、花香の魔力を消し去り美沙緒達は正気を取り戻していった。
「余計な真似を……薄汚い番犬如きと戯れるのも、もう飽きてきましたわ」
今度は一人ずつ葬って、絶望を味わせてあげましょう――そう唇を動かしたカスパエルの表情から笑みが失せ、冷たく昏い眼差しでケルベロス達を凝視する。
手始めに妨害した邪魔者からと、殺気の篭った蔓の束をカイウスに伸ばしたが。クノーヴレットが咄嗟に割り込み、身代わりをなって鞭の洗礼を受け止める。だが彼女の身体に絡みつく力はただ締め上げるだけでなく、引き千切らんとする程の凄まじさがあった。
「やらせないっす! あちきのとっておき、お見舞いするっす!」
五六七が小柄な体躯で手筒型のバスターライフルを担いで魔力を充填させる。そして号砲と共に冷気の光線が発射され、蔓を根元から撃ち抜き凍結させていく。
今までとは一変して力で捻じ伏せようとするカスパエルの変貌ぶりは、余裕の無さの表れだと美沙緒は感じ取っていた。それなら一気に畳み掛けるべきだと判断し、一転して攻勢に出る。
「建御雷神よりさずかりし、悪神を斬り伏せる剣よ。ここに!」
護符に重力を篭めると剣の形に変化して、振るう刃は敵の魂までもを斬り祓う。
「仕方がねぇ。ちょいと本気で付き合うぜ。……但し、1分だけ、な」
できりゃ使いたくなかったが。十至がそう呟きながら、帽子を脱ぎ捨て隠していた天使の翼を顕わした。白と炎の六枚翼を羽ばたかせ、解き放たれた力が全身を駆け巡る。
『天』の名を冠した日本刀で一閃――滾る力の全てを注いだ渾身の一振りが、この身を抉ったカスパエルの片腕を斬り落とす。
「ぐあっ……!? よくも……わたくしの美しい手を……!」
片腕をもがれて声を震わせるカスパエル。肉体的な痛みのみならず、自尊心をも傷付けられて、理性の箍が外れて激しい殺意と憎悪に囚われる。
破壊の化身に堕ちた彼女は、残った片腕を振り回し、十至の身体を掴んで爪を突き立て、捻じ込むように引き裂いた。
守り手として負担を背負ってきた十至だったが、蓄積した損傷は肉体の限界を超えてしまい、後は任せたとクールに笑って崩れ落ちていく。
「うふふ、捕まえました……♪」
クノーヴレットが淫靡な笑みを浮かべながらカスパエルに抱きついて、魔力を篭めた指先で全身を弄り始める。
「さぁ、私のこの指で奏でて差し上げますから、素敵な声で歌ってくださいね……♪」
身体をなぞる彼女の指使いは絶妙かつ巧妙で、次第に甘い吐息が漏れ出し、荒ぶる感情を鎮めて快楽の世界に導いていく。
カスパエルはクノーヴレットの行為にすっかり恍惚状態だ。戦意を削がれた今が好機と、カイウスが持てる力の全てを放出させる。
「星の息吹よ我が身より開け。焼き尽くせ―――光翼よ、日輪を抱け!」
首に掲げた十字架に手を添えて。炎の翼は光を纏い、増幅した魔力は焦熱の矢と化して、煉獄の焔がカスパエルを灼き尽くす。
「貴女の存在を許さない……わたしの全てを以て討ち滅ぼす……!」
これまで表情一つ変えなかったリーナだが、彼女の中で何かが弾けたか、感情を表に出して強い口調で言い放つ。
戦場に溢れる魔力の奔流を自身に集束させて、内に眠る力を引き出していく。魔力は破滅を齎す黒刃と成り、彼女に惹かれるように呼応する。
「集え力……討ち滅ぼせ――黒滅の刃!!」
月の光が一瞬リーナを照らし出し、漆黒の刃が闇夜に舞って。煌めく軌跡の一撃が、永き死闘に終止符を打つ。
嗜虐に塗れた魔性の花も、最後は醜く枯れ朽ちて――オーズの種と一緒に命を散らした。
やがて通信機からの連絡で、全ての戦場においてケルベロス達の勝利が伝えられてきた。
狂気に駆られた復讐劇は幕を閉じ、戦い終えた戦士達に暫しの安息が訪れる。
オーズの種も消えた今、心の底から安堵して互いの労をねぎらった。
大きな任務を成し遂げた彼等の顔は、何れも清々しく晴れやかだった――。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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