箱詰め悪魔にお仕舞いを

作者:飛角龍馬

●プレゼントボックスの悪夢
 おぼろげな夢の中で、パジャマ姿の少年はいつの間にか公園に立っていた。
 よく遊びに行く、馴染みの公園だ。
「なんだろう、あれ……」
 少年の視線の先、園内の中心には、本来ならあり得るはずのないモノがあった。
 1メートル四方ほどもある大きなプレゼントボックスである。
 リボンの付いたそれが、公園の真ん中に置かれているのだ。
 少年がガタゴトと揺れるそのプレゼントボックスに近付いてみる。
 恐る恐る箱に手を伸ばしかけた次の瞬間、箱の蓋が吹き飛ぶように開かれた。
『フホホホホホホホ! フヒャハハハハハハハハ!!』
 びっくり箱さながらに飛び出してきたのは、不気味な口裂けピエロだ。
「ぎゃあああああ!!」
 思わず叫び声をあげる少年。
『プレゼントに欲しいものは何かな? 怪獣かな爆弾かな? まずはこれをお試しあれ♪』
 口裂けピエロは甲高い声でまくしたてると、手にしたリモコンのボタンを押した。
 少年を包むように、何もない空中でカラフルな爆発が巻き起こった。

「わああああっ!!」
 悪夢から目覚めた少年がベッドから飛び起きる。
 そこが自分の部屋であることに気付くと、少年は額の脂汗をぬぐって息を吐いた。
「夢……?」
 言うや否、気配を感じてハッと顔を上げた。
 瞬間、鍵のようなもので心臓を突かれ、意識を失う少年。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 声の主――第三の魔女・ケリュネイアは言うと、傍らを見やった。
 ひと抱えほどもある大きなプレゼントボックスが、ガタゴトと不気味に揺れていた。
 
●イントロダクション 
「小さい頃ってよくわからない悪夢を見るものですよね。それで夜中に飛び起きたりして」
 そう切り出して、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が集まったケルベロス達に事件の説明を始める。
「そんな悪夢を見た男の子の『驚き』が、ドリームイーターに奪われるという事件が発生してしまいました」
 手を下したのは、第三の魔女・ケリュネイアと呼ばれるドリームイーターだ。
「ケリュネイアは既に姿を消していますが、奪った『驚き』の感情から、新たにドリームイーターを作り出したようです」
 今回、生み出されたのは、びっくり箱型のドリームイーターだ。
「便宜上、モンスターボックスと呼びましょう。このドリームイーターが現れるのは、夜の公園です。『驚き』から生み出されたためか、どうやら人を驚かせたくて仕方がないようで……近づくものに、突然、襲いかかる性質があるようです」
 公園内は、少し広めであること以外、これといった特徴はない。
 夜更けなので、人払いは最低限で構わないだろう。
「モンスターボックスはびっくり箱のように箱から中身を飛び出させて攻撃を仕掛けてきます。飛び出す中身は、口裂けピエロなど自身の攻撃に適した形態を取り、爆破スイッチ、ブラックスライム、ボクスドラゴンのものに似たグラビティを使用します」
 それと、これも押さえておいて頂きたいのですが――セリカは続けて、
「モンスターボックスは人を驚かせたくて仕方がないという性質から、驚いてくれない相手を優先的に攻撃する傾向にあるようなんです」
 そこを上手く利用すれば、戦闘を有利に運べる可能性がある。
「戦闘の際に箱から飛び出してくるのは、口裂けピエロの他に、ゾンビ化したクマ型の怪獣、触手を操るタコ型の怪物の全部で3種類のようで……その姿や動作に皆さんが驚いた振りをしたり、驚かない素振りを見せたりすれば、攻撃の矛先を制御できるかも知れません」
 驚いた演技をしたり、驚くのを我慢したりなど、やり方は色々ありそうだ。
「このドリームイーターを倒さない限り『驚き』を奪われた男の子の意識は戻りません。皆さんの力で、是非、事件を解決して下さい。よろしくお願いします」
 最後にケルベロス達に一礼して、セリカは説明を締めくくった。


参加者
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)
玄乃・こころ(ナイトメアハンター・e28168)
葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)

■リプレイ

●びっくり箱の悪魔
「見たところ問題なさそうだが……念のためだな」
 ケルベロス達が訪れた時、夜の公園に、やはり人の気配はなかった。
 雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)が、出入り口を中心にキープアウトテープを張っていく。
 それを横目に見ていた古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)は、自身の体に固定したライトに視線を落として呟いた。
「今のところ、点ける必要はなさそうね」
 園内には点々と街灯が立っているが、もしもの時には必要になるかも知れない。
「あれ、でございますか」
 ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)の視線の先には、園内の中央で不審に揺れるプレゼントボックス。
「ビックリ箱のドリームイーター、見間違えようもありませんね」
 夏の夜風に赤いリボンをなびかせながら葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)が応じた。
 電灯の光に照らされるプレゼントボックスは、まるで悪趣味な物語から出てきたようで、
「興味に驚き、夢喰いの跳梁跋扈……鬱陶しいわね」
 ガランを足元に従えた玄乃・こころ(ナイトメアハンター・e28168)が冷たく言い捨て、侮蔑するような眼差しを向ける。
「ガタゴトしてますねー」
「やはり、こちらからの接触を待っているようだな」
 ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)にファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)がそう返す。フレイヤとクリスチーナ、二体のボクスドラゴンも主人と共に様子を見ていた。
 やがて達也が戻ってくる。
「待たせたな。さて……まずは予定通りに、か」
 落ち着いた口振りの達也。その言葉が意味することに、ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)が唾を飲み込んだ。
「それじゃ真ん中はあたしがー。きっと驚かない自信があるのでー」
「任せよう」
 挙手したウェンディにファルゼンが応じ、こころとギヨチネも先頭になって箱に近づく。
 そんな中、るりがぽつりと言った。
「どうせ口裂けピエロなんでしょう、って言いたくなるけど。付き合ってあげましょうか」
 るりの言葉に、ヴィヴィアンが何度も頷いて、
「そ、そうだよね、もう中身は判ってるんだから……!」
「でも、嫌な予感がひしひしとしてきますね」
 さらっと混ぜ返す風流。
「嫌な予感……!?」
「いえ、箱が開いたら正面衝突するみたいな。……こんなことを言っていると、本当に」
 言い終える間もなく。
 目の前で爆発するように箱が開け放たれ、口裂けピエロが飛び出した。
『フヒョホホホホ!! ヒャハハハハァァァァ!!』
「ふわああっ!?」
「うぉあっ!?」
 本気で悲鳴をあげるヴィヴィアン。同時に達也の素っ頓狂な声が響き渡った。
「おー!」
 るりがピエロに驚く演技を見せ、ぱちぱちと拍手する。
「これが……」
 一応、驚いたように身構えておく風流。
「怖い怖い怖い……!」
 口裂けピエロの声やくねくねした動きに震え上がるヴィヴィアン。
「……驚いたな」
 と、達也の反応を目撃してしまったファルゼンが、ぼそっと呟いた。
「ご、誤解するなよ! 今のは演技でだな!」
 一方、真正面にいたウェンディは、表情一つ変えることなく目をぱちくりさせただけ。
「なるほど。概ね聞いた通りでございますね」
 ギヨチネのように、眉一つ動かさない者もいた。
「……で、その虚仮脅しで何がしたいの?」
 こころが冷然と言い捨て、口裂けピエロを睨む。
 あからさまな怒りの表情を浮かべて、道化師が驚かない三人を見下ろした。
 強く敵意を視線に込めて、こころが告げる。
「伽藍開封、武想顕現」
 足元で、ミミックのガランがエクトプラズムの武器を浮遊させた。
 こころが武器の群れに包まれ、夜闇に光るバトルガントレットとルーンアックスを握り締めて構えを取る。
「お、脅かしてくれるじゃないか。だが俺も、俺の『地獄』もこの程度では怯みはせんぞ!」
 地獄化した腕の炎を燃え上がらせて、達也が巨大剣と槍を向けた。
『おお何と恐るべき地獄の炎! 爆発地獄に化物地獄、地獄は一つじゃありますまい?』
 対するピエロは、単に言葉をもてあそぶだけ。
「……少年の心には、様々な驚きが刺激となり、糧と成り得ましょう」
 夢を奪われた少年を思いながら、ギヨチネがライトニングロッドを構え、告げた。
「無限の可能性を奪うドリームイーターには、私共が鉄槌を下しましょう。お覚悟を」

●道化師と二体の怪異
『フホホホホ! レディースエンドジェントルメン! まずはこちらをご堪能あれ!!』
 口裂けピエロが起爆スイッチを押した途端、爆発が巻き起こる。
『ヒャハハハハハ! 今夜は地獄の大火事だ、でもおかしいこんなに燃える筈は?』
 爆炎はいつの間にか、それを上回る紅蓮の炎に包み込まれていた。
「地獄の炎とはこういうものだ。見ておくがいい」
 達也の地獄の因子により生じた炎が、勢いづけるように前衛を覆い尽くしていた。
 ギヨチネ、こころ、ウェンディの三人が炎を纏って敵に迫り、
「防ぎ切ったわね」
 るりが呟き、魔導書を広げて詠唱。虚空より放たれた魔法の光線が道化師に殺到する。
「さて、どの程度効果があるものか」
 後方のファルゼンは、味方の動きと呼吸を把握。重(カサネアワシ)と称される特殊な技法で前衛を回復しながら後方支援を開始。 
 怖がってばかりもいられないと、ヴィヴィアンが明るく希望に満ちた歌を唄い始める。
 空に輝く七色の交響曲。その名の通りにケルベロス達を七色の光が包み込み、鼓舞する。
「余裕を見せていられるのもここまでです」
 風流が斬霊刀を振り上げると、びっくり箱の足下から溶岩が噴出。
 ウェンディの御業が炎を放ち、口裂けピエロを燃やした。
『ギャァァアア! アツイアツイアツイ! 数的不利は圧倒的、寄ってたかって何たる暴威、でも残念、誰かの体に爆弾を仕掛けたぞ!』
 スイッチを押した瞬間、ギヨチネを爆炎が襲う。
「アネリー、お願い!」
 アネリーが支持に従って属性インストール。煙の中から、防御の構えを取ったギヨチネが現れる。
「よもや……これしきの攻撃で倒れるなどと考えておいでですか?」
 怯んだピエロに、達也が漆黒のコートを翻しながら迫る。
 クリスチーナとフレイヤがブレスを噴いて援護する中、ファルゼンも服を翻して跳躍。
 炎を宿した二撃の空中回し蹴りが、口裂けピエロを連続で捉えた。
 吹っ飛んだ道化師はしかし炎に包まれながらも不気味に笑う。
『道化の前座はひとまず終わり、ここからはもっと怖い怪物をご覧あれ!』
 叫び、起爆スイッチを押して箱のなかに逃げこんだ。
 七色の爆風が巻き起こり、霧散した直後、
『グルルアアァァァァ!!』
 飛び出したのは目玉の濁った血まみれの、毛皮が剥げかけた熊型ゾンビだった。
「おー」
 るりが、その悪夢的でどこかありきたりな異形に一応驚きを見せてやる。
「ほう、これが二番目の姿ですか」
 一方のギヨチネはロッドを構えながら、少しも動じた様子はなく。
「それで? そのつまらない芸で何を伝えたいのかしら?」
 こころの冷たく刺すような一言に、熊型ゾンビが叫びをあげて突進した。
(「そう……私を狙いなさい、夢喰い」)
 こころは跳躍すると、すれ違いざまに熊型ゾンビの肩に指を触れ、気脈を絶つ。
「箱から出るより、何もない空間から出るほうがびっくりでしょう?」
 電撃を受けたように震える怪異に、るりが虚空から招来したおぞましい触手を放った。
 熊型ゾンビが狼狽しながら振り払おうとするが、触手は更に締め付け、絡まるばかり。
「がら空きですよー」
 連携したウェンディが槍を振り抜き、稲妻を帯びた突きで胴体を貫いた。
 巨体が痺れたように震えるが、直後に吐いた毒々しい緑のブレスがウェンディを襲った。
 ヴィヴィアンがすぐさま桃色の霧でウェンディを癒やす。
 クリスチーナが敵を引きつけ、フレイヤが突進。
 ファルゼンが敵との距離を詰める。
『ガァァオオォォ!!』
 両手を上げて牽制する熊型ゾンビ。
「おわっ、びっくりした」
 言いながらのけぞったかに見えたが、それは体重移動に過ぎない。
 炎を纏った脚で、重い蹴りを叩き込むファルゼン。
 悲鳴をあげて呆気なく箱に逃げ込む熊型ゾンビ。
 回転しながら突っ込んでくるびっくり箱に、ギヨチネが弾き飛ばされるが、受け身を取って立ち上がる。
 回転の止まった箱の中からは、真っ黒な触手を持つ一ツ目のタコが這い出してきた。
「うわああ、出たぁぁっ!!」
 ギヨチネを桃色の霧で癒しながら、ヴィヴィアンが思わず声をあげる。
『フシュルルルルル……』
 次の瞬間、ケルベロス達に凄まじい勢いで無数の触手が襲いかかった。

●箱詰め悪魔にお仕舞いを
 立て続けに迫る黒い触手に、攻撃を引き受けた守り手が果敢な防戦を見せる。
 こころは襲い来る触手を後方に跳んで引きつけ、ウェンディは槍で切り払い、ギヨチネがロッドと体にきつく巻き付いた触手を気合いを込めて引きちぎり、攻勢に転じる。
「私の回復は無用よ。この程度ならね」
 は、と短く気合を入れ、るりが自身の傷と状態異常を消し去った。
「回復できる人は手伝って!」
 ヴィヴィアンが桃色の霧を作り出して傷の深い者から癒やし、
「任せてくれ」
 達也が掌に気合いを溜めて回復を支援、一旦下がったウェンディが物語を語り始める。
「お願いなんでも、叶えちゃいましょうねー……」
 それは、とある不幸な少女のお話。【導く白鳩】(フェアフルフト・プリンツ)。
 紡がれる物語を背に、ガランが触手に噛みつき、風流が唸りを上げる砕塵機械剣『飛翔空砕』と、斬霊刀を手に、二刀で襲い来る触手を切り払う。
 その間に達也が肉薄、炎を宿した脚で巨大な箱を蹴り飛ばした。
「……これで!」
 続くファルゼンが稲妻を宿した槍を振り抜き、奇怪なタコの一つ目を突き穿つ。
『!?』
 奇声をあげて箱の中に逃げる怪異。
 ファルゼンは距離を取ると一息ついて、
「驚いたな、まだ戦えるようだ。……しかし」
 炎の延焼や氷結、石化を始めとした状態異常は、確実に敵を責め苛んでいる。
「がら空きですよ!」
 と、隙を突く形で風流が跳躍。
 上空から剣を振り下ろそうとした――その時だった。
 勢い良く箱の蓋が開け放たれ、中から飛び出してきたピエロに風流が弾き飛ばされる。
 ……ごつんと、物凄い音がした。
『蓋を開ければ頭に衝撃、もしや何かにぶつかった?』
 不意の頭突きにおでこをぶつけた風流が、目尻に涙を浮かべたまま二刀でメッタ斬りにし始める。
『ぎゃあぁぁぁぁ!?』
 思わず箱に逃げ込んで飛び退くピエロ。
 そっと蓋を開けた時、ピエロは再び情けない悲鳴を上げた。
「驚きって素敵なものだと思うけど……きっとこういう事じゃないわ」
 るりが虚空より呼び出した触手が、箱を包んで中にまで入り込んでくる。
 ピエロがびっくり箱さながらに飛び出し、狼狽しながら起爆スイッチを押した。
 爆発が起こるが、
「相手を驚かせる行為も、繰り返せば陳腐に堕すもの……」
 爆炎の中、傷だらけのギヨチネが歩み出し、威圧するように問うた。
「そろそろ、品切れでございましょうか?」
「さんざん脅かされたんだから……お返しだよ!」
 ヴィヴィアンが放った黒色の魔力弾がピエロの胴体に命中。
『何故だ……何故驚かない……何故だぁぁぁぁ!?』
 ファルゼンは手の中の『なにか』を掴み、冷たい視線を送った。
 道化師はついぞ気付かない。味方の呼吸を読み、攻撃に合わせて十重二十重の仕込みを放ち、気付かぬ間にダメージを増加させる重(カサネアワシ)の効果を。
 情けなく叫び続ける道化師に、るりが小さく吐息して、
「びっくりさせた後、箱の底にでも相手を喜ばせる贈り物を入れておく。それが本当のプレゼントボックスというものよね」
 声と共に、るりの左右――何もない虚空に神々しいまでの槍が出現。
「……だから、これは嘘。嘘で驚かせるだけの趣味の悪いモンスターボックスだわ」
 神槍ガングニール――そのレプリカと言えど、放たれたそれは、狙い過つことなくプレゼントボックスに突き刺さった。
「お前はお仕舞いよ、粗大な箱らしく潰れなさい」
 機を逃さず、こころが疾走。
 バトルガントレットからジェットが噴出、更に加速。
「武想開封、墳進炸裂拳……ハァァァァァッ!」
 超硬度の拳がモンスターボックスに直撃。
 確かな手応えとともに叩き潰し、ピエロもろとも空中で霧散させた。

●戦いを終えて
「うう、トラウマになっちゃいそう……」
 びっくり箱のドリームイーターはかくして潰えたが、あの不気味なピエロが夢に出そうで、ヴィヴィアンが額を押さえた。
 同じように風流もおでこを押さえていたが、こちらは少し意味合いが違う。
「大事ないか?」
 ファルゼンが風流にそれとなく声をかける。
「ええ……。まさかタイミングを読み違えるとは」
 ウェンディはと言えば、ヴィヴィアンのヒールで修復されていく遊具を眺めていた。
 ベンチやスプリング型の遊具は、前よりファンシーになっているように見える。
「上手く行ったな」
 隣りに並んだファルゼンに、ウェンディが頷いた。
「無事に終わりましたねー」
「これで少年も意識を取り戻しましょう」
 言ったギヨチネは、いつの間にか小さな箱を手にしていた。
「ん? なんだその箱」
 達也が気付いて尋ねる。
「これでございますか?」
 差し出した瞬間、中からお決まりのピエロが飛び出した。
 びっくり箱だ。
「うぉあっ!?」
 達也が思わずのけぞり、ウェンディは相変わらず無表情で小首を傾げる。
「……驚きだな」
 ファルゼンがぼそっと呟くと、達也は慌てて、
「す、すぐに驚けるよう練習した成果でな! まだ抜けてなかったようだ!」
 これでなかなか大変だったんだぜ? とアピールする達也。
「人の感情を悪しき形に具象化する魔女……」
 こころは事件の解決と、その裏で暗躍する者に、吐息を一つ。
「……少年に爪痕が残っていなければいいのだけど。少し気になるわね」
 次なる事件に向けて何か手がかりが掴めないかと、考えを巡らせる。
「驚きって、嬉しい報せとか、世界が広がっていく感覚とか……そういうのよね」
 ファンシーになったスプリング遊具の馬に手を触れて、るりが言った。
 少年の悪夢から生じたモンスターボックスが、人を脅かすことはもうない。
「今頃、男の子も目を覚ましてるのかな」
 今夜は、いい夢が見られますように。
 ヴィヴィアンが空を見上げて、祈るように言葉を紡ぐ。
 そして、ぽつりと付け加えた。
「……あたしも悪夢見ないといいな」

作者:飛角龍馬 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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