真夜中の廃校舎

作者:波多蜜花

 お化けが出るからと、近所の人間は誰も近寄らない有名な木造の廃校舎。手入れのされないグラウンドには雑草が生え、より陰鬱な雰囲気を醸し出している。
「ふっふっふー、ここが有名なお化けが出る廃校舎なんだね!」
 その場に似つかわしくない、楽しげな少女の声が響く。
「このネットで見た噂が本当なら、髑髏のお化けが出るらしいけど……写真に写るかな?」
 写真部に所属する好奇心旺盛な彼女が、首から提げたカメラを構えようとしたその時、少女の心臓に大きな鍵が突き刺された。
 手前から突き刺されたそれは、少女の胸を確かに貫いてはいたが血の一滴も零されてはいない。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 その声は、既に意識を失って崩れ落ちた少女には届いてはいなかったけれど、そんなことは鍵を手にする白い女――第五の魔女・アウゲイアスには関係のないことだった。
 

「集まってくれてありがとな、早速やけど事件や。とある廃校舎にお化けが出るって噂を聞いて、興味を持って調査に行った女の子がドリームイーターにその『興味』を奪われてしもたんよ」
 信濃・撫子(サキュバスのヘリオライダー・en0223)がそう切り出すと、ロゼ・アウランジェ(時空詩う黎明の薔薇姫・e00275)が頷く。
「私がお伝えしていた怪談の噂ですね?」
「そうや、今回の予知はロゼから聞いてたお陰でわかったんよ」
 ありがとうな、と撫子が軽く頭を下げるとロゼが穏やかに首を横に振った。
「興味を奪ったドリームイーターは既におらんくなってるけど、奪われた『興味』を元にして現実化した化物型のドリームイーターが事件を起こそうとしてるみたいなんや」
 このドリームイーターを倒す事ができれば、被害者の少女も目を覚ますはずやと撫子が分厚い手帳を捲る。
 周囲に他の人間はいないが、被害にあった少女が廊下に倒れている事。そして廃校舎である為、戦闘には不向きだろうと撫子は言う。
「校庭まで誘き寄せるんがええやろね。敵は怪物型……髑髏のドリームイーターのみや、大きさは2メートルくらいみたいやよ。それから、こいつは自分の事を信じとったり、噂してる人がおるとそっちへ引き寄せられる性質を持っとるようや」
 そして、この怪物型のドリームイーターは人間を見つけると『自分が何者であるかを問う』ような行為をし、正しく対応できなければ、殺してしまうらしい。
「ま、どっちみち倒す相手やから、あんまり関係あらへんと思うけどな!」
 ぱたん、と手帳を閉じて撫子が前を向く。
「夏の風物詩みたいなもんやけど、その興味を使って化け物を生み出して人を襲わせるなんて許せへんからな」
 頼んだで、と撫子が微笑んだ。


参加者
御籠・菊狸(水鏡・e00402)
ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)
六連星・こすも(ヤクトフロイライン・e02758)
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)
村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)
ノア・シャーロット(紫銀の妖・e28201)

■リプレイ

●噂、だよ
 空には月、そして僅かに流れていく雲。気温は風が吹けば涼しいと感じるくらいで、絶好の肝試し日和と言ったところだろうか。そしてロケーションはと言えばお化けが出ると噂の廃校舎だ。肝試しに来た者なら、完璧だと思うことだろう。けれど今ここに集まっているのはケルベロス達だ。依頼を完遂すべく、校庭に集まった彼らは誰ともなしに円を描くように立っていた。
「廃校舎、廃墟、廃病院、廃がつくと途端に雰囲気が変わる」
 愛用のギターでおどろおどろしい曲を奏でつつ、アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)が校庭から子ども達が学び、遊んだのは過去の事と成り果てた廃校舎を見上げる。
「夜の校舎か……」
 暗いし怖いし学校にいい思い出なんてないし、と続けそうになったのを飲み込んで八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)がなるべく視界に入らないようにと廃校舎に背を向けて視線を落としたけれど、すぐに気を取り直したように顔を上げて噂話を切り出した。
「骸骨お化けが出るんですか?」
 それは怪物型のドリームイーターを誘き出す為の作戦、すぐに村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)も合わせるように語りだす。
「そうだ、ネットの話を詳しく調べたら校舎内を徘徊する髑髏の姿を見たり、がしゃがしゃと骨がぶつかるような音を聞いたって話が結構出てくるんだよ」
「……あ、わたしも……しってる、の。おしりあい、の……サキュバスから、きいたとってもおおきくて……おそくまでのこってるひと、おそう……って」
 頷きながらロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)も同意するかのように話を合わせると、提灯お化けを模った提灯を手にした葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)が、
「何の髑髏なのかな? 人? 動物? もしかしたら、デウスエクスの髑髏なのかも!?」
 と、場を盛り上げるように笑って提灯を揺らすとグラウンドに落ちる灯りと影も揺れる。はい! と手を上げて御籠・菊狸(水鏡・e00402)が聞いた話だけれど、と口を開いた。
「たぬきたちに聞いたんだけど、だーれもいない学校で、おっきい影を見たとかって言ってたんだよなぁ、ほんとかなっ! 白っぽかったとか言ってるからもしかしたらホネホネおばけかもっ!」
「うわ、やだなー怖いなー絶対無理無理会いたくない。一緒にホネホネダンスとか無理ですって!」
 たぬき……とは思ったけれど、それはまた別の話だと東西南北が骨のお化けに怖がってみせると、六連星・こすも(ヤクトフロイライン・e02758)が楽しそうに笑って、
「ホントにいるのかなぁ?」
 と、廃校舎を一瞥すると窓際に白い何かが見えた気がして、こすもはもちろんいるって信じています! と力強く頷いた。
 それまで相槌を打ちながら聞いていたノア・シャーロット(紫銀の妖・e28201)も何かの気配を察知したのか、静かに唇を動かす。
「……髑髏のお化けは……自分が何者か聞いてくるらしいよ」
「へえ……気になるね。でてきてくれないかな?」
 静夏が廃校舎の玄関を見据えると、アルメイアがふっと口角を上げた。
「振り向けばすぐそこに……いるかも知れんぜ?」
「またまたー、やめてくださいよ……え?」
 ハハハと乾いた笑いを浮かべた東西南北が、カタカタという音にゆっくりと背にしていた廃校舎を振り向けば、そこには――確かに髑髏の怪物が、いた。

●お化け退治
「で、でたー!!」
「おいでなすったな!」
 東西南北が思わず叫んだその声にアルメイアが帽子を片手で直しながら呟けば、それはケルベロス達が臨戦態勢を取る合図となった。現れた髑髏の怪物は骨格標本を大きくしたようなもので、所々に幾つもの頭蓋骨が貼り付いたような姿をしている。
「出てきてくれたみたいだね! 記念写真でも撮ろうか?」
 静夏がどこか楽しげに笑いながら、道路標識にも似たルーンアックス――標識斧【たおす】を構え、地獄の炎を纏わせて髑髏へと勢いよく叩き付けると、続いて柚月が金属錬成の力を秘めたカードを発動させた。
「穿て銀の閃光! 顕現せよ! メタルバニッシュ!」
 手にした惨殺ナイフの刃を流体のようにしならせ、まるで鞭のように操って髑髏を殴打し、
「髑髏なら殴って砕いとけばいいだろ?」
 と、不敵に笑ってみせた。その隣では、東西南北がテレビウムの小金井に今までのも叫び声も全部演技で本気でぶるってる訳じゃないとかなんとか言いながら、髑髏に向かって黒色の魔力弾を放つ。小金井はといえば、彼の言葉を聞いているのかいないのか、凶器を振りかざして髑髏を滅多打ちにしている。
「とっとと叩き潰させてもらうぜ、悪いがな」
 アルメイアがそう言うやいなや、卓越した技能を持ってして髑髏へ鋭い一撃を繰り出すと、こすもがアームドフォートを展開するとその主砲を髑髏に向けて一斉射撃を行った。それらの攻撃を受けた髑髏は不気味な声を響かせる。
「答えろォォ……儂が何であるのかァァ、答えろォォォ」
 その問い掛けに菊狸がふむ、と頷いて言い放つ。
「ぐつぐつしたらおいしくなりそうなホネだな!」
 煮込んで食べたら美味しそうだと心底思っている菊狸の答えに、髑髏がカタカタカタとその全身の骨を一斉に鳴らしだす。それは周囲の空気を震わせて、衝撃波となって菊狸を襲った。
「おっと……っくっ」
 ぐっと踏ん張ってその衝撃波を受け止めると、くらりとして膝を着く。
「きくり、だいじょぶ?」
「だいじょぶだいじょぶ、へーきだよ!」
 ロナの声掛けに菊狸が笑って答えると、ロナが自身に魔法の木の葉を纏わせてジャマー能力を高めていく。そして立ち上がった菊狸が髑髏に向かって目にも止まらぬ速さで鋭い蹴りを喰らわせた。
「お化けを斬るのは久しぶりだなぁ……」
 正確に言えばお化けではなくドリームイーターなのだけれど、ノアからしてみれば髑髏のお化けに他ならない。手にした二刀の斬霊刀を構え、霊体のみを斬るという衝撃波を撃ち放てばそれは確かに髑髏の化け物にダメージを与えていた。
 夜の廃校舎のグラウンドに髑髏の怪物の姿をしたドリームイーター、対するは8人のケルベロスと一体のサーヴァント。お化け退治と言っても過言じゃないねと言ったのは誰だったのだろうか。

●消え去りしは
 月明かり煌く校庭で、幾度目かの切り結ぶ音と閃光が走る。光源を用意してきた者もいる為、白く浮かび上がる骸骨のドリームイーターの姿を見失う事もない。
「大分ヒビが入ってきたように見えるな」
「ほんとだね、もうちょっとってところかな?」
 柚月が髑髏を見据えてそう言うと、静夏が髑髏へ向かって間合いを詰めた。
「ハードな西瓜割りの時間だね」
 髑髏を目の前にして、にやっと笑うとその上半身を大きく反らし、凄まじい勢いで髑髏の頭蓋骨へと頭突き――『一頭両断西瓜割り』を決める。
「……夏だけに、か」
 ぼそっと呟いた柚月が達人の域に達した一撃を放ち、東西南北がケルベロスチェインを二重螺旋の如く絡み合わせ天へと伸ばし、巨大な火柱と鎖が生み出す不死鳥の幻影をを出現させて髑髏へとぶつけると、
「そんな問題じゃないと思いますけど!?」
 と、叫んだ。小金井はといえば、そんな彼の後ろで応援動画を流している。
「じゃあ、それはキャンプファイヤーってとこかな?」
 笑いを含んだアルメイアの言葉に、東西南北が違いますー! と叫んだ。その声に少し笑ってから表情を引き締めると、アルメイアが星空が散りばめられた蒼いギター、『Starlight Himmel』を爪弾いた。その重く響く旋律は彼女の歌声と共に夜空を駆け、傷を負った仲間を癒していく。
「でしたら、私のは花火といったところでしょうか!」
 こすもが自身の周囲に光の粒子を展開させていく。それは花のような形となり、それから無数の光弾となって敵へと降り注いだ。その光景は美しく、思わずロナが溜息を吐くほど。しかし、その攻撃を受ける髑髏からすれば己を害する厄介な攻撃だ。カタカタカタと骨を鳴らし、取り出した骨の刃をノアへと向けた。
「……っ」
 禍々しい骨刃が自分へと繰り出されようとしているのを見て、ノアが咄嗟に防御するかのように構えると東西南北が髑髏の振るう凶刃の前へと躍り出た。
「させませんよ! 骸骨お化けがなんですか、ガリガリ具合ならボクだって負けません! 見てくださいこの肋骨の浮いた貧弱ガリ痩せボディ!!」
 パーカーとシャツを捲ればちらりと覗くガリガリチキンボディ、略してガリチキを晒しながら攻撃を受け止める。途端、彼の脳裏に走馬灯の如く中学時代のアレコレが浮かんでは消え、ちょっとした奇声を上げて膝を抱えて座り込むと、小金井が慰めるように応援動画を流した。
「『神』にこの歌を捧げましょう。愛しき民も、仇なす者も、全て儚き夢の世界へ」
 ロナの顔付きがどこか神聖なものへと変わっていく。それは姫巫女の御霊を憑依させ、『神』をも魅了する聖歌を紡ぐ彼女が敵へと与える甘美なる毒だ。
「もぐもぐ!!!」
 髑髏の視界を奪い、菊狸が高速の一撃を見舞う『ぶらっくほーる』を放つと、髑髏の動きが鈍る。
「トラウマ、お返しだよ!」
 のほほんとした声だったけれど、それは確かに彼女からのお返しの攻撃だった。髑髏の動きが鈍ったのを見逃さず、ノアがすかさず刀を振るう。
「……この一刀、宿るのは『裁き』……戦いの女神は、君に死の罰を下す……さぁ……断罪の時だ」
 死の因果を集約した呪いの一撃は髑髏に触れた瞬間、その内側から斬撃を開放させて切り刻んだ。ピシピシと、髑髏に細かい亀裂が増えていく。そこに静夏の標識斧【たおす】が髑髏の脳天を割るかのように叩き付けられる。
「お前はあってはならない現実だ……今ここで、消し飛ばす!」
 ダメ押しとばかりに柚月が惨殺ナイフの刃をジグザグに変形させると、骨という骨を斬り刻むかのように斬り付けた。髑髏の全身に走った亀裂は、夜空に乾いた音を立てて広がり――やがて髑髏は崩れ、消え去った。

●廃校舎と肝試し!
「撫子が言ってた、倒れてる女の子かいしゅーするついでに学校はいろっ! なっ!」
 菊狸が嬉々として皆を誘う。女の子を回収するのも本音だが、要は肝試しがしたいと言うことらしい。一応と、ヒールをしていたロナも校舎の二階で倒れているという女の子を気にしていたようで、こくりと頷く。
「そうだな、襲われた少女も気になるし……俺は構わない」
「……こんな所に、1人では可哀想だしね」
 柚月の言葉にノアが頷き、アルメイアがまたおどろおどろしい旋律をギターで奏でながら、
「どれ、困ったフロイラインを回収してくるかな」
 と、歩き出した。帰ろうとしていた東西南北は、こんなところに1人で置いていかれては完全な死亡フラグだと仲間の後ろに隠れつつ付いていく。もちろん、その後ろからテレビウムの小金井もてくてくと付いていった。
「夜の廃校舎……雰囲気があって素敵です!」
 こすもがキラキラとした目を隠そうともせず、わくわくした様子で進んでいく。静夏は生まれて初めての肝試しに、どんなものかと興味津々だ。取り敢えずは二階を目指そうと、階段へと向かう。電気が通っていない中、頼りは静夏の持つ提灯とアルメイアの持つ携帯照明のみ。
「……僕はそこまで怖くないけど……やっぱり、お化けって皆怖いのかな……?」
 ノアがふとした疑問を口にすると、様々な反応が返ってきた。
「まっくらや、おばけ……ちょっと、こわい……でも、みんながいるから、へいき……」 
「だいじょぶだいじょぶ、おばけとかなぐればへーきへーき!!」
 ロナの手をそっと菊狸が握って、にぱっと笑う。
「お化けなんて全然怖くないですよ! 生きてる人間のほうが万倍怖いですから!」
 完全に強がりではあったが、女性の前では強がってこそだと東西南北が言い放つ。
「チキチキ心霊ツアー、楽しいです!」
 お化けがいる事は知っているし、とこすもが笑えば柚月が階段を上りながら、
「普段からお化けみたいなのと戦っているからな」
 と、笑う。それよりも、彼としてはこんな時間に女の子が1人で出歩いている事の方が危険だと呟いた。静夏も同意見のようで、躊躇う様子もなく前を歩いていく。
「あ、あの子じゃないかな?」
 静夏の視線の先には、倒れている女の子が居た。助け起こそうと近寄れば、目を覚ましたようで起き上がって少し吃驚したようにケルベロス達を見ている。
 咄嗟に肝試しをしに来たら君が倒れていたと口裏を合わせ、危ないから良かったら一緒にどうかと誘うと、少女は嬉しそうに頷いた。
 廃校舎の探索も、夏の夜もまだまだこれからが本番のようだった。

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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