●
深夜、かすみがうら市市街地。
赤色と青色の鎧をまとったエインヘリアル――星霊戦隊アルカンシェルの生き残り、スタールージュとスターブルーが散らしたオーズの種に惹かれて攻性植物たちが集まってきていた。
オーズの種を体内に取り込んで、中には体長や体高が数メートル以上にのオーズ兵器となるのもいる。
植物版の百鬼夜行……というにはいささか数が少ないが、見るものに与える恐怖は決して引けを取らないだろう。
一行の末端で、突如として大地が吹き上がり、天まで届く土柱が立った。
パラパラと砂や小石が注ぎ落ちる中、竜の足かと思うような木の根がうごめながら大地に穿った穴より這い上ってきた。
続いて現れた巨大な蔦や茎が、空中で互いにぶつかり合い、出合いのよろこびをくり返しながら、渦巻くように絡まりあっていく。
こすれあって傷ついた表皮から、粘液質の赤い液体がにじみ出て絡まりあう蔦や茎の隙間を埋め、長く長く太い胴を作り上げた。
血の色の筋を引く胴に白き破滅の花が咲き乱れ、邪悪な光を発す。
召喚者たちの頭上で朱い玉目をぎらつかせ、もそりと鎌首をもたげたそれは、巨大な植物の蛇だった。
渦まきながら地を這い、すべてを飲み込み破壊するもの。
その名をトレントバイパーという。
こうして集められた10体のオーズ兵器を感慨深げに眺めまわしたあと、スタールージュとスターブルーは口を開いた。
「やっと準備が整った。長かったな、ルージュ」
「あぁ長かった。だが、今こそ、仲間の仇をうつ時だ!」
2体がオーズ兵器を率いて進軍しようとしたとき、盛り上がりに水を差すかのごとく、緑色の鎧のエインヘリアルの少女が現れた。
スターヴェールだ。
単身、2体の暴挙を止めに来たらしい。
トレントバイパーは赤い舌を出して夜気にさらした。
アルカンシェルたちの争いなどどうでもいい。彼らに呼び出された理由すら取るに足りぬもの。
本能の赴くまま、目に映るものすべてを巻き込み、壊し、グラビティ・チェインを喰らいたかった。
このまま動かぬのなら、いっそのことアルカンシェルたちごと飲み込んで――。
トレントバイパーがしびれを切らしかけたその時、スタールージュがスターヴェールを軽く攻撃して追い払った。
「さあ、行こう!」
どろりとした熱い闇の中を、復讐を誓うエインヘリアルと攻性植物の一団が進みだした。
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「『星霊戦隊アルカンシェル』の生き残りから、迷惑千万なラブコールが届いよ」
ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)はケルベロスたちを前にして、大げさに溜息をついて見せた。
「前回の戦いで、5人組のうち3体を撃破する事ができたんだけど、生き残った2体のエインヘリアルが動き出したみたいなんだ」
彼らは白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)が危惧していたように、オーズの兵器化をして戦力を補充していたらしい。
現在、オーズの種を埋め込んだ10体の攻性植物を支配下においた彼らは、市街地を破壊しながら進軍しようとしていると、ゼノはうんざりとした様子で告げた。
「2体のエインヘリアルと10体の攻性植物は、かすみがうら市を起点として、隣接する土浦市、つくば市を目指して進軍するよ。実は、かすみがうら市民はもう街を脱出していてるんだ。土浦市の避難も間に合いそうだし、かすみがうら市と土浦市の間で攻性植物の軍勢を迎え撃って」
攻性植物の軍勢はつくば市に到着後、つくばエクスプレスの線路伝いに都心部を目指す可能性が高かった。
あらかじめ当たりをつけたうえで、ゼノはケルベロスたちをヘリオンで運ぶという。
「2体のエインヘリアルは勿論、攻性植物たちもオーズの種によって強化されているのでかなりの激戦が予測される。最初に当たった敵の撃破に成功したら、苦戦しているチームの援護にまわってほしいんだ。逆に、巻けてしまったら……その敵が他のチームの戦場に乱入するかもしれない。だから、確実に素早く、敵を倒せるようにみんなで力を合わせて戦ってね」
戦場はかすみがうら市から土浦市に向かう、国道6号線沿いの市街地。攻性植物たちは市街地を破壊しながら土浦市に向かって進んでくる。
「全12チームが無人の市街地に潜んで、進軍してくる2体のエインヘリアルと攻性植物たちに一斉攻撃を仕掛ける作戦だよ。それでボクたちが戦う相手は――」
認識名はトレントバイパー。森林地帯に潜み、周辺の生物を無差別に浸食・吸収してきた巨体な攻性植物だ。
「トレントバイパーは蛇の様な巨大な体躯と身体能力を持っているよ。モノレールなら1車両ぐらい、軽くひと飲みにしちゃうぐらい大きいんだ。食欲と破壊の権化みたいなやつで、無差別な浸食を続けてながら街を進んでいる」
蛇のように蛇行して進んでいるため、広範囲の建物が破壊されているという。
頭から尾の先まで長さはゆうに18メートルをこえ、頭を起こせばその高さは4メートル近くにもなるらしい。ビルの3階に相当する高さだ。
確認されている攻撃の種類は4つ、とヘリオライダーは指を立てた。
一つ上げるたびに指を折っていく。
「捕食形態、棘手形態、埋葬形態、光花形態……あと、体が長くて大きいから、首や尻尾の振りにも気をつけてね。攻撃の詳細ははいまから配る紙に書いてあるから、移動中に目を通して」
ゼノはヘリオンに乗り込んでいくケルベロス一人ひとりと目を合わせながら、資料を手渡しした。
「トレントバイパーは125号線の手前まで進んでいる。市営団地群の目の前だよ。つくば市への侵攻を許してしまうと大きな被害が出ちゃうから、市民の避難が完了している土浦市でがんばって食い止めなきゃ。まず、トレントバイパーを確実に、そしてできるだけ早く倒して。厳しい戦いだけど、みんななら勝てるって信じてる」
参加者 | |
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アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426) |
戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743) |
狗上・士浪(天狼・e01564) |
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990) |
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716) |
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147) |
柚野・霞(玄鳥の魔術師・e21406) |
折平・茜(群れない羊は葡萄に触れない・e25654) |
●開戦
「大きさだけならドラゴン級ですわね。これは気の抜けない相手ですわ。それにしても……何もありませんわね。困りましたわ」
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)は、歩道橋からあたりを見回した。
怪力無双を発揮して即席の遮蔽物を作ろうにも、炎と黒煙をあげる家々を背景に畑を突っ切ってくるトレントバイパーとの間に身を隠す遮蔽物となるものが何もない。
「さすがにこれを壊して使うわけにはいかねえよな」
日本刀の柄に左手を掛けた峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)が、右の親指で肩の後を指し示す。
ケルベロスたちの後に市営団地が建っていた。
「そうね。ヒールで直せる、といっても元の姿に戻るわけではないし。自主的に我が家を離れた人々のためにも、壊さなくて済むものはそのままにしておきたいわね」
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)はスマホをハンズフリーにした。
柚野・霞(玄鳥の魔術師・e21406)は気配を殺したが、敵との距離が目と鼻の先になったいまではほぼ意味がなかった。
「それじゃあ、もう明かり、つけちゃいますね」
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)がライトのスイッチを入れる。
樹木の大蛇――トレントバイパーは巨大な曲線をえがいてとぐろを巻いたり、道のわきに立つ樹の幹よりもまっすぐに頭を起こしたりしながら進んでいたが、突然灯った明かりに気づくと、激流の勢いで突き進んで来た。
「なんて強大! なんて強烈! ゾクゾクするぜ、こういうの」
戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)が武者震いする。
「全員準備いいな?」
「……ここで倒れてもらいます」
折平・茜(群れない羊は葡萄に触れない・e25654)が惨殺ナイフを手に前へ進み出る。
歩道橋の手前で大蛇は立ちあがり、ケルベロスたちの頭上で鎌首をもたげた。
狗上・士浪(天狼・e01564)は巨大な三角形の頭部に狙いをつけて右足を引いた。
「おっ始めようぜ、蛇モドキ。どっちが捕食者か、ハッキリさせようじゃねぇか」
言葉が通じたのか、巨大な朱色の目が細められた。刹那に口が開かれ、太い歯牙があらわになる。
「Get-ready! Attack!」
将の合図とともに戦いの火ぶたが切って落とされた。
●激戦
迫りくる牙を睨みながら、レーンは右腕を砲身に変化させた。大気中の荷電粒子を誘導してフィールドを生成し、砲身内部で分極させて巨大なエネルギーを生み出す。
『原子レベルに撃ち砕く! 喰らいなさい、超収束荷電粒子砲!!』
高速発射されたレーザーが、夜気に含まれる水分と反応して青白い光を放ち、突き進む。
大蛇は牙を一本折られて頭をのけぞらせた。
尾の先まで一直線に薙ぎ払うことはできなかったが、強烈な先制攻撃だ。
「やったか!?」
「いいえ、まだこれからですわ! このまま一気に攻めましょう!」
「オッケー。無駄にデカく育った雑草の除草作業開始だ!」
雅也が大蛇の喉に達人の一撃を放つ。冷気をまとった不可視の斬撃が、樹の皮を切り裂き、太い蔦を断ち切った。
大蛇は歩道橋の下へ頭を落とした。体長十五メートル、胴回り二メートルのが体をうねらせる。
「手ごたえあり!」
大蛇がぶつかった衝撃で、歩道橋の支柱が折れ曲がった。歩道橋全体が歪みながらゆっくりと崩れていく。
『『小さき鍵』の名の下に、増幅の円陣よ――開け!』
霞は魔導書を開くと、唸り声を上げる銀狼の足元に魔法円を作り上げた。
小さな蝶の群れにも似た赤い火の粉が、ゆらゆらと光の筋を引きながら舞いあがり、逆襲を誓うスナイパーの体に溶け込む。
火花を散らすエアシューズで光る星屑の道筋を残しながら、士浪が倒れた歩道橋の上へ駆け登る。
「喰らえ、蛇モドキ!」
サビの浮いた手すりを踏みつけて高く飛ぶと、白い花から発せられた破壊光線の間で右足を鋭く振り抜いた。
落ち始めた体を大蛇に残った牙が狙う。
「私の目の前で――やらせるものか!」
かぐらが熱光線でえぐられた脇腹を庇いつつ、アームドフォートからの一斉発射で援護する。
熱光線は他の仲間たちの体も傷つけていた。
『ゲルセミちゃん……お願い……!』
アリスは宝花樹ゲルセミの果実を天に捧げた。ハート・オブ・プラチナから、仲間を癒し守る黄金の光があふれだす。
「Nice,Alice! よし、いくぜ。オレのターン!」
将はさっと腕を薙いで宙で光るカードを起こした。体内のグラビティ・チェインを使って場に出ていた孔雀王のコストを支払う。
『願いと祈りを心に宿し! 未来の扉を今開け! ……ライズアップ!』
孔雀王のカードからエメラルドグリーンの光がほとばしり、濃淡を描きながら霧状に広がった。
大蛇も、眼前で急速に膨れ上がる気に反応して埋葬形態をとった。
浸食され、大蛇の体の一部となった大地が荒れ狂う波となってケルベロスたちに襲い掛かる。
孔雀の羽根を広げた甲冑戦士は燃える剣を抜くと、大地の大波を飛び越えた。
「知っているか? 孔雀は毒蛇の天敵なんだぜ!」
炎の剣で樹木が絡み合たような蛇の体を焼き切っていく。切り口からから汁が染み出てきて、遅れ火にあぶられて音をたてた。
もうもうと立ち込める煙の向こうで、ぼうっと朱い光が二つ浮かび上がる。
変身を解く最中の無防備な体を刺し貫かんと、大蛇の巨大な棘手が煙の幕を破り出てきた。
「危ない!」
茜はとっさに動いて将の前に出た。
急な行動ゆえに防御が取れず、棘手で胸の下を貫かれてしまう。
「ぐっ……ぶふっ!」
翡翠の目を苦痛で曇らせ、白い顎を己の血で汚しながら、意地で惨殺ナイフを棘手に突き立てる。
歯を食いしばり、腕を引いて、棘手を切り落とした。大蛇の血液を頭から浴びて傷の回復を図ったが、流れ出ていく血のほうが多い。
(「ああ……」)
孤高の羊は遠くに仲間たちの悲鳴を聞きながら、頭をふらりと揺らしたのち、横倒れた。
●崩壊
「下がれっ! 一旦下がって戦線を立て直すんだ!」
将は倒れた茜に駆け寄ると、背の後ろに回って脇の下から手を差し込んだ。抱えるようにしてぐったりとした体を起こし、腰を吊り上げ、後ろへ引きずる。
「援護しますわ」
レーンが走り込みながら刃を回転させたチェーンソー剣を振り回し、大蛇の追撃を退ける。
剣に弾かれて横に振られた大蛇の顔へ、横から雅也がブレイズクラッシュを叩き込んだ。
重傷者を引きずった将が、かぐらの横を通り過ぎていく。
『ドローン起動。集中モードで展開』
かぐらは体内のグラビティ・チェインを利用してドローンの群れを操り、茜の治療を始めた。
霞はGoetiaのページを繰って、禁断の断章のページを探した。
(「見つけた。汝、精霊たちよ。我が願いを!!?」)
頁の上にぽたりと落とされた滴は、草をすりつぶしたようなどす黒い緑で、臭いもまさに草の臭いそのものだった。
恐る恐る顔を上げてみた。途端――。
「ひっ」
思わず上げた悲鳴は、大蛇の喉の奥へ滑り落ちていった。
霞は歯を食いしばり、真っ暗な中でぬめる舌の上で激痛の源へ腕をのばす。
毒牙が太ももを貫いていた。
「すぐ助けるぜ!」
雅也は日本刀に夜気を纏わせると、大蛇の口を切り広げにかかった。
真空の刃が大蛇の頬を切り裂く。
それでも大蛇は口を開かなかった。頭をそらして逃げにかかる。どこかでゆっくり咥えた得物を飲み込むつもりらしい。
「行かせるか! 口を開けろ!」
士浪はオウガメタルを拳に集めながら、大蛇に駆け迫った。
『只管に喰らい尽くせ』
渾身の力を込めた突撃と共に、腕の血管をはちきれんばかりに浮き上がらせた怒湊の連撃を放ち、大蛇の太い胴を砕かんとする。
「うおぉぉぉぉっ!!」
銀狼の猛撃を受けて、大蛇はついに口を開いた。
「霞さんを取り戻すまで、口は閉じさせないんだから!」
アリスが手を叩くと、半透明の蔓草がアスファルトを割って生え広がり、長く伸びて大蛇の体を縛り上げた。
御業を振るい続けて、大きく口を開けたままになっている三角の頭の前まで、透き通る蔓草の階段を編み上げる。
将は意識を取り戻した茜をアリスに託すと、階段を駆け上がった。
ためらうことなく大蛇の口の中へ踏み込み込むと、霞の体の下に腕を差し込んで高く抱えあげ、貫く牙から太ももを引き抜いた。
安否の確認もそこそこに、急いで口を出る。
上牙と下牙が、目の前で音をたててかみ合った。
禁縄禁縛呪が解けて自由を取り戻した大蛇が反撃に出る。
限界まで開き切った花弁を増幅板にして、樹木の大蛇の全身に咲く白い花から一斉に太い熱光線が放たれる。
熱光線は次々とケルベロスたちの体を貫きながら焼き、道路をズタズタに砕いた。
さらに、大きくうねった蛇体が歩道橋の瓦礫を押しながら迫る。
いち早く大蛇の動きを察した雅也が警告を発した。
「飛べ!!」
雅也は押し寄せてきた瓦礫と大蛇の胴を飛び越えながら、日本刀を突き立てた。
かぐらは踏みとどまった。
霞を抱えた将と、まだ身動きできない茜を背にして、重心を落とし構える。
「駄目です、飛んで!」
「飛べ、かわすんだ!」
レーンと士浪が同時に声を上げる。
それでもかぐらは動かなかった。
両腕で土砂と木の津波を左右に割り広げ、幾分押し返されながらも大蛇の太い胴をとめて、後ろを、仲間を、全力で守り抜いた。
守り抜いて、力尽きて。
誇り高き鎧装騎兵が、すっと膝から崩れ落ちていく。
「よくも――」
雅也は大蛇の胴の上で踏ん張ると、突き刺した日本刀を力任せに振り上げた。
切り裂かれた樹皮や蔦とともに、黒緑の樹液が夜空に飛び散る。
大蛇は絶叫を上げて尾を振り、雅也の背を叩いた。
背骨の折れる鈍い音が、暗い団地の壁に当たって落ちる。
「か、は……」
地に伏せた雅也を見て、将は唇をかみしめた。
歯の下から、赤い血が流れ出る。
戦線を立て直すべく、後退の指示を出したタイミングは適切だったはずだ。そこから持ち直せず、崩壊の一途をたどってしまったのは、敵が想定よりも強かったから。
「ああ。そうだな。しかし、前にやりあったときはここまでじゃなかったぜ。俺たちは、オーズ兵器……オーズの種の力を見くびっていた」
固めた拳を体の横で震わせた士浪の言葉に、将は目蓋を伏せた。
「撤退する。他班に連絡を!」
その時、レーンのアイズフォンに勝利報告が飛び込んできた。
●誘導、そして撤退
(「グロウリングゴブレット討伐完了――」)
あ、と短く声を上げてレーンは辺りを見回した。
報告の声はレッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)だろう。使命を果たした達成感や髙揚感が、総毛立つような興奮とともに耳に伝わってくる。
「どうした?」
士浪はレーンを気にしながら、倒れた仲間を担ぎ上げて大蛇から遠ざかった。
「連絡は取れたのか?」
「グロウリングゴブレット班が撃破に成功したそうです」
そうか、と言った将の声は堅かった。
「彼らは俺たちより南にいたな。よし、あっちで仕留めてもらおう。125号線の上を誘導していくぞ」
のたうっていた大蛇が、急におとなしくなった。
「まずいぜ! 埋葬形態をとる気だ」
士浪が唸る。
半数が自力で動けなかった。動ける者も負傷者を庇って、やはり身動きがとれない。
「ヴァナディースさんのお力を吸収したオーズさんの種……これ以上……ひどい事に使わせません……!」
アリスは毅然として顔を上げ、鮮やかな手つきでカードを切った。
『♪Flowery Princess Heart Style♪――チェンジ・ハートスタイル……!――♪Heart Strike♪』
スペードのAをスラッシュすると、ハート・オブ・プラチナが鎧化した。黄金の光を放ちながら、トランプの刃で竜巻を作りあげて飛ばす。
大蛇は埋葬形態を解いた。
「いまです!」
レーンは頷くとアイズフォンに手を当てた。
「撃破、おめでとうございます」
祝いの言葉が細かく震えた。
アリスの必殺技で怯んだトレントバイパーだったが、進撃の勢いは止められなかったようだ。
大蛇は口を大きく開くと、都営団地に横から噛みついた。首を振ってコンクリートの壁ごと鉄骨を引きちぎると、首振りの反動でうねった巨体が団地にぶち当たった。
団地の倒壊音とそれに伴う激震が、空気と地面を震わせた。ガラスが砕け散る音が響いていたが、震源範囲はもうもうと立ちこめる粉塵で視界ゼロの状態であり、ケルベロスたちは立っているのも容易ではない状態に陥った。
限界だ。
「こちら、トレントバイパー討伐班……残念……ながら、力、及ばず……」
堪えていても声に無念がにじみ出る。
レーンは唇をかみしめて気を取り戻すと、淡々と通信相手に敗北を告げた。
「戦闘不能者が過半数の四名に達しました。これより撤退いたします。グロウリングゴブレット班、そちらへトレントバイパーを誘導いたします。どうか――」
最後は掠れて、潰れて、声にならなかった。
(「了解した。こちらも迎撃準備を進める」)
レーンは感謝の言葉をつぶやいて通信を切った。
「よし、行こう。レーンはかぐらを、アリスは茜を頼む。俺と士浪は」
「俺たちはいい……」
腕を士浪の肩に回したまま、青い顔で雅也が言う。
アリスに起された茜も同じことを言った。
「かぐらさんと霞さんは、わたしたちが連れて行きます」
瓦礫の中からトレントバイパーか頭を出す。
「いって、早く!」
たしかに。負傷者を抱えたまま大蛇を誘導するのは困難だ。
アリスは黙って黄金の果実を掲げると、仲間の傷を癒した。
「ヘリオンで会おう!」
再会を誓って八人は二手に分れた。
負傷者たちに食いつこうとした大蛇に、レーンが地獄の炎弾を放つ。
生命力を食われた大蛇は振り向くなり、シュッ、と威嚇の音を吐いた。
「こっちだ! ついてこい、蛇モドキ!」
駆けだした四人を、大蛇が身をくねらせながら追いかけていく。
ケルベロスたちは時折、大蛇に攻撃を加えながら六号線の手前まで南下した。
将は道の左右に林が広がる場所で足を止めてしゃがみこんだ。膝の前で手を組んで輪をつくる。
「俺たちの役目はここで終わりだ。次の攻撃で奴がひるんだすきに左右の林に駆け込こめ。……士浪、別れの挨拶はお前に頼むぜ」
士浪はふっと口の端を緩めると、将が作った手の輪に足をかけた。
「いけぇっ!」
将は全身をばねにして伸びあがった。
士浪の体が空を飛ぶ。
「すまんな。俺は、俺たちは――」
お前との決着を捨てて、仲間と生きる明日を選んだ。
「あばよ!」
空で回した脚の先で、ローラーダッシュが炎を吐く。
まっすぐ飛んだ炎の玉が、大蛇の右目を焼いた。
(「あとは頼んだぜ」)
後ろに感じた気配に背を向けたまま、士浪は上げた腕を一振りすると、仲間たちを追って闇に消えた。
作者:そうすけ |
重傷:氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716) 峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147) 柚野・霞(瑠璃燕・e21406) 折平・茜(モノクロームを通って・e25654) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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