蝿の羽音

作者:天木一

「うぇっうぇええっ!」
 洗面台で一人の若い男が吐くように口をゆすいだ水を吐き出す。
「グチュグチュグチュッペッ!」
 何度も何度も口をゆすぎ、ようやく男は顔を上げた。鏡に映る顔は焦燥して青くなっていた。
「はぁはぁはぁ……クソッ! なんでちょっと目を離した隙にハエが入ってんだよ!」
 男は振り返り、親の仇でも見るようにテーブルを見た。そこには食べかけの焼肉弁当が置かれている。その横には咀嚼し潰れた米に混じって、体の潰れたハエがビクビクと痙攣し死にかけていた。
「口の中でブーンてっブーンてよぉ!? 口に入る前に出て行けよな! クソッ! ハエなんて滅びちまえ!!」
 涙目で鳥肌を立てながら、もう一度口に水を含んで悪態と共に吐き捨てた。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 男の背後で楽しげな笑い声がしたと思うと、振り返る間もなくその胸を鍵が貫いた。
「あ……?」
 心臓を貫く一撃。だが血が流れることもなく、男は意識を失いその場に倒れた。その横には人のような大きさの赤い目をした虫が突然現われた。
 虫の背にある羽が高速で動き、ブーンッと耳障りな音を立てる。それはテーブルで死んでいる虫と同種、巨大な蝿の姿をしていた。
 
「皆さんは苦手なものがあるでしょうか?」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が集まったケルベロス達に尋ねる。
「そんな苦手なものへの『嫌悪』を奪って事件を起こすドリームイーターが現われたようです」
 男子大学生の『嫌悪』を奪ったドリームイーターは既に去ってしまっている。
「その奪われた『嫌悪』を元に現実化された、怪物型のドリームイーターが事件を起こそうとしているようです」
 このままでは怪物型のドリームイーターは人を襲い、被害者が出てしまう。
「皆さんには他に被害が出る前にこのドリームイーターを退治し、『嫌悪』を奪われてしまった被害者も助けてあげてほしいのです」
 ドリームイーターを倒せば、意識を失った被害者も目覚めさせる事ができる。
「敵は2m近いサイズのハエの大きさをしています。ハエの特徴を得ているようで、素早い動きや、感染病を持ち、タンパク質を食べようとするようです」
 大きくともその素早さは衰えていない。ハエといえども注意が必要だろう。
「ハエは被害者の男性のアパートを中心に行動を開始するようです。すぐに現場に向かえばアパートで発見できる可能性が高いです」
 敵は死骸や弱い生き物といったものを狙って襲う。周辺の人が襲われる前に倒してしまいたい。
「嫌いなものは誰にでもあると思います。ですがその感情を奪ってもいいとは思えません。ハエという生理的に嫌悪感を覚える敵ではありますが、放っても置けません。どうかよろしくお願いします」
 説明を終えたセリカも敵の姿に少し嫌そうな顔をする。誰も好き好んで対峙したい敵ではない。だがそれでも人々を守る為と、自らを奮い立たせてケルベロス達はヘリオンへと乗り込んだ。


参加者
ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)
絶花・頼犬(心殺し・e00301)
灰木・殯(釁りの花・e00496)
ジョージ・スティーヴンス(偽歓の杯・e01183)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
夜刀神・煌羅(龍拳の聖・e05280)
トープ・ナイトウォーカー(影操る戦乙女・e24652)
サラキア・カークランド(アクアヴィテ・e30019)

■リプレイ

●アパート
 住宅街が続く道で夏休みの子供達が遊んでいる。
「口に蝿が入るわドリームイーターに目をつけられるわ、男子学生は災難だなぁ」
 杖を突いて歩くヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)は、ずっとニヤニヤ笑いを浮かべながら災難続きの被害者に同情する。
「まぁ、後者は我々がどうにかすれば良い話だ」
 災難の元が居る学生が住まうアパートを探す。
「蝿ですかー。実際口の中に居たら気持ち悪いですし、極当たり前の感情ですよね?」
 そんな感情にまで付け込むのかと、サラキア・カークランド(アクアヴィテ・e30019)はドリームイーターのやり口に呆れる。
「……かなりトラウマものだよね……心抉ってくるなぁ」
 蝿を口にする場面を想像した絶花・頼犬(心殺し・e00301)は、怖気のように鳥肌が立つ腕を擦った。
「蝿は魂の運び手と敬われたそうですね。子を成す事を願って魂の運び手を嚥下する習慣すらあったとか」
 だがそんなものは既に過去の事であると、絶えず笑みを浮かべ続ける霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は容赦なく叩き潰す心積もりだった。
「厄介なドリームイーターが12も控えているとは……」
 憂鬱そうに灰木・殯(釁りの花・e00496)はこれからの事を思い溜息を吐く。
「大きな事件を起される前に討ちたいものですが、そう簡単にはいかぬのでしょう。まずは此度の件を終息させねば。まったく、気長な治療となりそうです」
 それでも必ず治療してみせると顔を上げた。
「ここか、しかし蝿が相手とはな……だが油断はすまい」
 アパートを見上げたトープ・ナイトウォーカー(影操る戦乙女・e24652)が帽子を被り直した。
「やれやれ、覗きみたいなことはしたくないんじゃが」
 飛行した夜刀神・煌羅(龍拳の聖・e05280)が双眼鏡を使って窓からアパートの部屋を覗く。そこには倒れている男性と、前足を擦り合わせる巨大な蝿の姿があった。
(「嫌悪を奪う、か。……奪われるだけの感情があるってのも羨ましい話だな」)
 皮肉っぽく口の端を上げて笑い、ジョージ・スティーヴンス(偽歓の杯・e01183)は躊躇う事なく部屋へと向かう。
 そこでケルベロス達は二手に分かれる。片方は階段を上り玄関へ、片方は空を飛び裏側の窓へと向かう。
 互いに携帯でやり取りし、タイミングを合わせて作戦を開始した。

●巨大蝿
「あまり器物破損はやりたくないの」
 だが仕方あるまいと、煌羅は窓を破り中へと侵入する。そして着地する勢いで床を転がり蝿に肉薄する。下から掬い上げるような拳が蝿の腹にめり込んだ。
「まったく、常識はずれな大きさだな」
 同時に入り口を蹴破り侵入したヒルダガルデは、敵の進路を塞ぐように真ん中を駆け、飛び蹴りを浴びせた。
 敵を挟むようにケルベロス達が部屋へ侵入する。
「うわぁ……すぐに避難させるよ」
 大きな蝿に思わず唖然としてしまった頼犬は、すぐに気を取り直し意識の無い男子を担ぐように部屋の外へと運ぶ。それと同時に一般人が近づかないように殺気を放って人払いをした。
「ケルベロスだ。アパート内でデウスエクスが出現した。申し訳ないが避難してくれ」
 それを守るように入り口を固めるトープが、殺気に当てられたアパートの住人に向けて避難勧告をした。着のみ着のまま住人達が逃げ出していく。
「蝿が口の中に、なんて考えたくもないですねー。でもこのサイズならそんな心配も要らないですね」
 サラキアは纏う金属の装甲からオウガ粒子を放出し、味方の感覚を研ぎ澄ます。
「まずは目先の脅威を摘出せねば!」
 殯はポケットから取り出したカプセルを投げつける。敵に当たって割れた中からウイルスが漏れて感染し、蝿の治癒力を下げた。
「趣味のいいデウスエクスなんざお目にかかったことはないが、こいつはまた、大したもんだぜ」
 冷めた表情でジョージが鼻で笑い飛ばす。すると怒ったように蝿の羽が激しく振動する。ブォンと耳障りな音が近づく者達の動きを止めた。仲間を庇おうと前に出たテレビウムが衝撃に吹き飛ばされる。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 詠唱と共に絶奈の前に多重魔方陣が描かれる。そこから現われるは巨大な光。その光は槍となって放たれた。閃光は部屋を傷つず、蝿の体だけを溶かし、蝿はもがくように苦しんでいた。
「ギチッヂュ」
 異様な音を口から漏らし、ブーンと羽ばたいた蝿が急接近してくる。
「思い通りにはさせません。奪った感情、取戻させて頂きます」
 蝿の口が殯の肩肉を抉る。殯もすれ違い様に蝿の背に触れた。すると蝿は力を失い止まる。振り向いた殯の手には氷でできた真紅の花。それは蝿から奪った生命力で作ったものだった。やがて幻であったかのように花は砕け散る。
「蝿と蚊は嫌な虫じゃのう。しかもでかくてキモイとくれば、もう駆除するしかないの」
 煌羅が頭上で大鎌を回転させて投げつけた。回転する刃が蝿の体を刻む。
「ギヂヂュッ」
 傷を負った蝿は宙に逃れようとする。
「室内とはいえ、飛び回られると厄介ですね」
 ならばまずは動きを止めようと、絶奈の腕から広がった黒い液体が蝿の全身を呑み込み動きを止めた。
「やれやれ、こんな奴を逃がさないようにしけりゃならないとは、素晴しい仕事で泣けてくるぜ」
 そこへ皮肉を飛ばしながらジョージが青黒いオーラを纏って突進し、体当たりで敵を撥ね飛ばすと扉への道を塞ぐように位置取った。
「燃え上がれよ、羽虫」
 ヒルダガルデは杖を引き抜く。すると中から刀身が現われ、回り込みながら炎を纏わせた刃で胴を斬りつけた。
「蝿は! 炎で燃えろ!」
 続けて避難を終わらせて戻った頼犬が、入り口から杖を向け火球を放った。炎える蝿は室内を飛び回る。
「避難は完了した。これより戦闘に参加する」
 飛び込んだトープが刀を抜き宙に弧を描くように振るう。すると刃が蝿の体を捉え後ろ足を一本斬り飛ばした。
「ヂヂュッギギヂッ」
 蝿が高速で羽を動かす。ブーンと耳障りな音が脳を揺らすように部屋に響いた。頭に響く不快な音に最も近くにいたトープが膝をつく。
「羽音だけでも気分が悪くなってきますねー」
 サラキアがオーロラのような光の帯で味方を包み込み、耳に残る羽音を消し去った。
「ギヂッ」
 蝿が高速飛行で突っ込んでくる。
「そんな図体で暴れては迷惑だよ。ほら、大人しくしないか」
 ヒルダガルデは杖を突いて宙に舞う。そして蝿の突進を回避すると上から踏むように蹴りつけた。蝿は地上ギリギリで耐え、もう一度空中に戻る。
「俺、蝿は害虫かな? くらいしか思ってなかったけど、今回のこれでころしてもいいやって思えるようになったよ。ドリームイーターのせいだけど」
 頼犬の周囲で発生した冷気が螺旋の渦を巻き、蝿を凍りつかせて落下させた。
「この者は明確に居て良い存在ではない。一刻も早く、排除せねば」
 そこに接近した殯は手の爪を硬化させ、鋭く貫手を突き入れた。そのまま中を抉り取るように引き抜く。
「ギヂヂヂッ」
 蝿は不快な音を漏らしながら飛びついてその前足を殯に擦りつける。すると接触した部分が紫色に変色し腐敗していく。
「病原菌はまずいの、触らずに攻撃するとするかのう」
 煌羅は手に集めたオーラを弾丸のように撃ち込み、蝿を引き剥がした。
「ヂュッ」
 蝿はゆらゆらと飛び頭上から襲い掛かってくる。
 それに対し無造作に近づいたジョージは、蝿の牙を腕で受けながらナイフを腹に突き立てた。
「知り合いに生物は何でも調理する国の料理人が居るが、こいつを見せてみるか?」
 冗句を言いながらナイフを捻り傷口を広げる。蝿は前足を擦り付けながら宙へ戻った。
「動きだけは一人前ですね……では、当てやすく致しましょう」
 ならばとサラキアの放つ粒子が仲間の動きを鋭く苛烈にさせる。
「ギヂッ」
「一見ローカストに見えんこともないが……蝿そのもので二足歩行でないから違うのだな。しかし、これならローカストの方がまだ愛嬌があるな……」
 向かってくる蝿にトープは縛霊手を嵌めた腕をカウンターで顔面に叩き込む。拳から放たれる霊力が蝿の体に絡みついた。
「願いの為に飲み下したとは言ってもそれは古代の話。現代の感覚では不快と感じるのも仕方ありません」
 絶奈が狙いをつけるように指先を蝿に向ける。すると噴出すように伸びた黒い液体が先端を尖らせ、蝿の胴に突き刺さった。傷口から液体は侵食し蝿の体を黒く染めていく。

●羽音
「ギチギチギチッ」
 蝿が口を動かし、捕食者が獲物を狙うように宙を飛びながら狙いを定める。
「虫が厄介なのは小さいからだ。その大きさではいい的だな」
 剣に炎を宿したヒルダガルデは、迎え撃つように刃を振るい蝿の顔を燃やす。
「BS漬けにしてさっさと倒しちゃおう! ただでさえ気持ち悪いのが、巨大になって手がつけられなくなる! 前に!」
 これ以上好きにさせないと、頼犬は影から生み出した弾丸を羽に撃ち込んで穴を空けた。
『ヂヂッ』
 蝿は方向転換に失敗して壁にぶつかる。
「どんな病気を持っているか判りません。炎で消毒しましょうか」
 拳に炎を宿らせた殯は、思い切り蝿の腹を殴りつけた。体液を撒き散らし蝿が壁に叩き付けられる。
「おいおい、炎で害虫駆除だなんて、ニュースになっちまうぜ?」
 シニカルな笑みで軽口を叩きながら、ジョージは燃える蝿にオーラを纏った拳を叩きこんで壁にめり込ませた。
「蝿はすぐ増えるから困るの。まぁウマバエみたいに人間に寄生しない部分はましかもじゃが」
 こんな大きな蝿が繁殖したら堪らないと、煌羅は大鎌を振るって蝿の背に斬りつける。
「ヂュッ」
 蝿は羽をブブンと鳴らし、怯ませた隙に煌羅の肩を牙で抉りながら空中に舞い上がる。
「そう何度も飛び回れば、動きを読む事も容易いですね」
 その蝿の進行上に絶奈が黒い液体を広げた。咄嗟に蝿は方向転換をしようとしたが、傷ついた羽では間に合わずに液体に突っ込み捕えられる。
「そのまま巨大化した蠅がここまで気色悪いとはな。仮に害がなかったとしても不快性で討伐に値するぞ……」
 ゾクッと悪寒を覚えながら、壁を蹴って跳躍したトープはオーバーヘッドキックで蝿を打ち落とす。
「蝿って肉食なんですねー蝿を口にするのも嫌ですが、口にされるのも嫌ですねー」
 サラキアが魔力の籠もった強い光を放つ。それは煌羅の傷口を癒し、力を与えた。
「ヂヂギヂッ」
 命の危機を感じた蝿が最も速く飛び上がり逆さに天井に貼り付いた。
「自らの影に貫かれて逝くがいい」
 トープが蝿の足元にある影を見る。すると蝿の形をした影が独自に動き出し、その牙で本体に噛み付いた。蝿は逃れようと動き回るが、影法師を取り除く事はできない。執拗に噛みつく牙が蝿の肉片を食い千切った。
「ヂッ」
 術者を狙おうと蝿はトープの顔目掛けて飛ぶ。
「そういえば、コイツは戦闘後は跡形もなくなるんだったな。アフターサービスだけはよくできてるもんだぜ」
 ジョージは蝿の突進を自らの体で受け止める。鎖骨が折れたような感触。だが堪えて動きを止めたところで目にナイフを突き刺した。吸い上げるように体液が漏れ出て、ジョージの傷を癒す。
「ヂヂッ」
 蝿は四方八方へと飛び回り壁にぶつかっては方向を変える。
「モノの生き死にが苦手になったと言ったな……あれはちょっと撤回する!! 蝿は死んでいい!」
 頼犬が縛霊手の掌を向ける。縦横無尽に飛び回る蝿を、点ではなく面で潰そうと、狭い部屋一杯に光の弾を撃ち出した。一瞬の輝きが部屋に満ちる。窓が割れ光が収束すると、目が眩んだように蝿が地面に撃墜して痙攣する。
「痛いですか、苦しいですか? ふふ、でも止めませんよ」
 サラキアが大鎌で斬りつけ、傷口から生命力を奪い取った。
「終わりは一瞬、塵も残さず消えると良いでしょう」
 殯は炎を纏った貫手をその傷口に突っ込み、手術でもするように綺麗に縦に引き裂いた。火が蝿の体に燃え広がっていく。
「ヂヂッ」
 体を斜めにしながら蝿は窓から飛び出そうとする。
「逃さん!」
 炎の翼を広げた煌羅が立ち塞がり、拳で蝿の羽を打ち抜いた。蝿はバランスを崩して床に顔からぶつかる。
「この場で倒さんと厄介な事になりそうじゃからの」
 そこへ煌羅は渾身の力を込めた拳を打ち下ろし、足を砕いた。
「私の地獄で燃き尽くしてやろう」
 ヒルダガルデの剣が青い炎を帯びる。一閃。蝿を青い閃光が捉え、その頭部を斬り飛ばした。
「ヂュッ」
 頭が転がり火が回って燃え尽きる。だが致命傷を受けた事に気付いていないのか、体だけが動き出す。
「虫の生命力は強靭ですね。なら一片も残さずに消してしまいましょう」
 手を向けた絶奈が魔方陣から光の槍を放ち、蝿の体を消し飛ばした。

●清潔に
「このままでは彼があまりに酷ですからね。ええ、仕事はきちんとこなさねば」
 部屋に戻された男子学生を見て、殯はせめてもの救いにと、部屋にヒールをかけ、荒れた部屋を片付ける。
「俺は人に好かれるタイプじゃないんでな、先に失礼するぜ。また嫌悪に反応されたら困るだろう?」
 片付けの手伝いを終えると、最後まで皮肉った物言いを忘れずに背を向け、ジョージは軽く手を振って部屋を出て行った。
「あれ、俺、いったい……」
「やぁ、災難だったなぁ。まぁそうそうある事でもないだろう、何か美味いものでも食って忘れてしまえよ」
 奪われた『嫌悪』が戻り、目覚めて体を起こした男子の肩をヒルダガルデが元気づけるように叩く。そして事件の説明をして既に解決したと安心させた。
「あ、そんな事があったんですか。そういや、確か、弁当に……」
「……お弁当、は、俺もしばらく、食べたくない、かな」
 思い出して顔を青くする男子同様、頼犬も食欲が無くなったとげっそりした顔をみせる。
「蝿を涌かさないためには、まず衛生的にせねばの」
 煌羅は用意していた消毒液を拭きかけ、綺麗に洗浄した。
「ありがとうございました! これからは部屋の掃除は小まめにします!」
 頭を下げる男子に見送られケルベロス達は日差しの良い外に出る。するとブーンという羽音にトープは思わず刃を向けた。そこに飛んでいるのはゴミ収集箱に集る小さな蝿だった。
「なんだ……普通の虫か」
 巨大な蝿の姿を思い出してしまったトープは、頭を振って刀を納めた。
「しばらくは音を聴いただけで思い出しちゃいそうですねー」
 虫の多い季節は嫌でも虫が視界に入ってしまうとサラキアは周囲を見渡した。
「『神は人間を創り、悪魔は昆虫を創った』とは独逸の諺だそうですが……其れ程までに嫌悪し相容れない存在であるのかもしれませんね」
 生理的な嫌悪に絶奈は業のようなものを感じるのだった。ケルベロス達が立ち去ると、ブーンと羽音が遠ざかった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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