星霊戦隊の復讐~蒼星一タビ去リテ復タ還ラズ

作者:一条もえる

 かすみがうら市市街地、深夜。
 星霊戦隊アルカンシェルの生き残りであるスターブルーは、『それ』のひとつひとつに視線を巡らせ、小さく頷く。
 呼び集めたのは、彼らが力あるオーズの種を利用した攻性植物。合わせて10体。
「やっと準備が整った。長かったな、ルージュ」
 一見すると穏やかだが、その内には煮えたぎるような怨嗟の感情が渦巻いていて、その興奮は口調にも漏れ出ていた。
 先の戦いで、ケルベロスどもの策にのせられてしまったことが、口惜しい。
 特にスターノワールは、スターブルー自身が見捨てたようなものだ。彼は襲い来るケルベロスどもを引きうけ、生還の見込みのない戦いののちに、倒れた。
 しかも、スターノワールに託された戦況の立て直しもままならず、スターローズとスタージョーヌをも失ってしまったのだ。
 その怒りは、傍らのスタールージュにも伝わったであろう。
「あぁ長かった。だが、今こそ、仲間の仇をうつ時だ!」
 スタールージュもまた大きく頷き、ふたりは『オーズ兵器』を率いて進軍を開始する。
 ところが。
 慌てた声が、それを押しとどめた。
「先輩達、なにやってるんですか! オーズの種の反応が大量に出てきたので見に来てみれば……。勝手にオーズの種を使用してオーズ兵器を生み出すなんて、契約違反になりますよ!」
「これは、俺達の復讐だ、お前もアルカンシェルならわかるだろう? スターヴェール」
 スタールージュがそう言うからには、姿を見せた新たなエインヘリアルの少女も、アルカンシェルの一員なのだろう。
 緑の鎧をまとったスターヴェールはなおもふたりを押しとどめようと、
「わかりませんよ! そりゃ、先輩達が倒されたのは悲しいけど、だからといって、こんな……」
 と、ふたりの前に立ちはだかるが。
 スタールージュは「煩い黙っていろ」とばかりに剣を振るう。
「ルージュ先輩!」
 無造作に放たれた星座のオーラは当たりもしない程度のものでしかなかったが、スタールージュの殺気を感じたスターヴェールは、一度退いた。
「しょうがありません、今は退きます。でも、マスターブランに報告しますからねっ!」
 ふたりの生き残ったアルカンシェルと10体のオーズ兵器による進撃が、開始される。

「星霊戦隊アルカンシェルが、再び現れたみたいよ!
 みんなもう、集まってる?」
 姿を見せた崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)は、なにやら大量の箱をテーブルにおいて話し始めた。
 何かと思えばお持ち帰り用のお好み焼き。さっそく開けて頬張りながら、一同を見渡す。
「もぐもぐ……。さ、みんなも食べて。腹が減っては戦はできぬ、よ。
 前の戦いで生き残ったスタールージュとスターブルーは、オーズの種を埋め込んだ攻性植物……『オーズ兵器』を従えて進撃を開始しようとしているわ。
 オーズ兵器は合計10体! 壮観よね」
 苦笑いした凛は、コテを使って巧みに切り分けていた最後のひとくちをゴクリと飲み込む。
 次の箱を開きつつ、話を続ける。説明することも食べることも、休んでいる暇はない。
「もぐもぐ……。
 連中はかすみがうら市を起点として、土浦市、つくば市を目指して進撃するつもりみたい。……そのまま都心まで来るつもりかしら?
 かすみがうらの人たちはすでに避難済み、土浦の避難も間に合いそうだから、その間で迎撃ってことになるわね。
 みんなは、スターブルーの相手をお願いね」
 強敵よ、と凛はコテを弄びながら呟いた。
 凛は次々に空箱を量産していく。
「もぐもぐ……。
 迎撃は、国道6号線土浦バイパス周辺。
 オーズ兵器は周辺の市街地を破壊しつつ、アルカンシェルのふたりは国道をまっすぐ進んで来そうよ。
 スタールージュが先陣、スターブルーが中陣といった感じかしら。
 先行するスタールージュに、あとから合流するつもりみたい。
 スターブルーとスタールージュとが連携すると厄介だから、それは絶対に阻止しないとね」
 相手は『策士』だから……。
 と、凛は口の端についたソースを舐めとり、苦笑いする。
「スタールージュは、みんなをつり出す囮かもしれないわね。
 つり出されたところに自分が合流して、一気に撃破する算段なんでしょう。
 とはいえ、前線に出たくて出たくてウズウズしてるって感じはするわね。そこから逆算したみたいな作戦」
 仲間の復讐で頭がいっぱいなのかもしれない、と凛は言った。
「そうそう思うとおりにはさせないわよ。
 戦場となる国道は見通しがいいから、先行するスタールージュの接近にはすぐに気がつくでしょうけど。
 でも、絶対に手出しは厳禁! たとえ辺りが破壊されても、決して見つからないようやり過ごしてね。
 遅れてやってくるスターブルーが、みんなのターゲットよ」
 ここに限った話ではないが、どこかの戦線が崩壊すれば、ケルベロスを撃破した敵は他の戦場へ乱入し、さらに苦戦することにもなる。
 スターブルーは間違いなく、先行するスタールージュと合流するだろう。
「……そうそう。どうもこの作戦、エインヘリアルの『上』のお許しはもらってないみたいだから。長引くと、暴走を留めよう新しい敵が現れるかもしれないわ」

「スターブルーはさっさと撃破して、スタールージュと戦ってるみんなを助けてあげるくらいの気持ちでお願いね。
 簡単に言っちゃうけど」
 微笑んだ凛は、切り分けたお好み焼きを「あーん♪」と差し出してきた。


参加者
天津・千薙(天地薙・e00415)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954)
ノイアール・クロックス(魂魄千切・e15199)
秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)
千里・雉華(君代の桜紋・e21087)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)
楠久・諷(オラトリオの鹵獲術士・e28333)

■リプレイ

●標的
 住民も避難した土浦市の一帯は、野良犬さえ恐れたのか動くものはない。
 彼方で聞こえるのは、オーズ兵器どもが暴れる音だ。
「もうまもなく、姿を現すはずっす」
 ノイアール・クロックス(魂魄千切・e15199)は目を凝らし、闇の先を見通そうとした。
 降下前に確認した限りでは、アルカンシェルは確実にこの道をやってくる。
 ただ、互いの距離がどの程度かは、降下前の状況しかわからない。
「仕方がねぇ。スタールージュを狙う班と交戦が始まるまでは、距離は詰めてこないと思うしか、な」
 と、地図を確認した千里・雉華(君代の桜紋・e21087)は渋面を作る。
「しッ! 誰か来ましたよ!」
 楠久・諷(オラトリオの鹵獲術士・e28333)が小さいながらも鋭い声で告げると、ケルベロスたちは身を屈め、闇の中で気配を殺す。
 相手は分かり切っている。
 スタールージュだ。
 ミカ・ミソギ(未祓・e24420)はデジタルカメラを構えて、その動画を撮影した。映像は、スタールージュを待ちかまえる仲間たちとも共有されているはずだ。
 しかし、情報収集することよりもやり過ごすことの方が重要だ。ここで見つかってしまっては、全てが破綻してしまう。
 破壊を続けつつ進むスタールージュが剣を振るうと、街灯は細い木の枝のようにあっさりと斬られ、セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)の鼻先数センチに倒れてきた。
「~~ッ!」
 漏れそうになる声を、なんとか押しとどめる。
 幸いに、彼らは見つかることなくやり過ごすことができた。
「スタールージュが通過……そして、スターブルーが現れました。なぎたちはこれより、攻撃を開始します!」
 天津・千薙(天地薙・e00415)は片目を閉じ、他班に告げた。
「スターブルー!」
 羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954)と秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)とが、その進路を阻むように飛び出す。
「ケルベロス! 待ちかまえていたのか」
「そうだ! これ以上好き勝手させるもんか。ここで僕たちが止めてみせる!」
「さぁ、ショーの始まりよ!」
 彼方は地を蹴って飛び込む。その隙に結衣菜は光をねじ曲げ音を歪め、スターブルーの背後に忍び寄った。
「……ッ!」
 彼方の蹴りは命中したものの、相手は両腕を交差させてそれを受け止め、ダメージは大きくない。しかしながら結衣菜の『無明凶襲』はスターブルーの脇を裂き、地面に血が滴った。
 だが、その程度で倒れる相手ではないことは重々承知している。
 反撃して結衣菜に手傷を負わせたスターブルーに、さらに攻撃を仕掛ける。
「ごめんなさい、あなたはここで終わりです! ……もう、抑えられないんです!」
「格上だろうが、こっちが勝つ前提は変わんねぇんだからよ!」
 千薙の左腕を覆うように霧の爪が形成された。鋭い爪は跳び下がったスターブルーの太股を裂き、出血を強いる。
 傷はさほどではないが、込められた呪いが、スターブルーの足を止めさせた
 そこに雉華の蹴りが襲う。纏った炎が、青い鎧を灼く。
 さらに、
「振り切る! 光閃の先へ!」
 ミカが、全身を光に包みながら突進する。
 しかしスターブルーはケルベロスたちの猛攻を受けてもなお、ゆとりがあり、ミカの『光翼新星』さえもひとつ跳び下がっただけで避け、体勢を整えた。
「くッ……やるじゃないか」
「そんなゆとりのある台詞が、いつまで吐けるかな!」
 スターブルーがナイフを構えて斬りかかってきたが、
「させません!」
 セレナが割って入り、刃と刃とがぶつかり合って火花を散らす。
「騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
 しかし『サイコフォース』は命中せず、
「大言壮語もほどほどにしておけ!」
 スターブルーは手にしたナイフを妖しく光らせて、襲いかかった。
「あぁッ……!」
 忘れたい過去の記憶が形となって、セレナを苛んでいく。
「ははは、怖いか、恐ろしいか? さぁ、地べたに這い蹲れ!」
 ジグザグの刃が、襲い来る。
 そこに飛び込んだのはノイアールと、そのサーヴァント。ミミックの『ミミ蔵』だった。
 ズタズタに切り裂かれ、声にならない悲鳴を上げてミミ蔵は倒れた。
「ミミ蔵ッ!」
 その身を案じながらもノイアールは、
「ここ、壊れちゃったっすね。弱点みーっけ!」
 と、鎧の破れたところに突きを入れた。スターブルーの顔が苦痛に歪む。
「ヤタガラス!」
 その間に彼方のライドキャリバー『ヤタガラス』が主の意を受けて、セレナの体を抱えるようにして後退する。
 隙を見て蹴りを放とうとしていた諷だったが、急ぎ『スヴェル』に切り替えてセレナの傷を癒す。
「太陽の前に立ちし物、輝く神の前にたつ楯……!」
 これで襲い来るトラウマも消え失せたであろう。
 それをよそに、
「網を食い破られ、引き裂かれるのは貴様らだ!」
 スターブルーは、ノイアールに狙いを定めて飛びかかってきた。
 惨殺ナイフが煌めき、ノイアールを血達磨にしていく。鮮血を浴び、スターブルーは凄絶に笑った。
 まずい、まずい、まずい。出血が多い。衣服が瞬く間に、血を吸って重くなっていく。
 敵を引きつけたのはいいが、この攻撃を受け続けるのは、まずい。
 それでもなんとか足を踏ん張り、
「自分、逃げないっすよ。アンタとは違うっすから!」
 と、先を急ごうとしたスターブルーを睨んだ。

●お前に終焉を
「そうよ、今度こそ勝負しましょ」
 と、結衣菜が立ちはだかった。
「お久しぶりね、あのときの手品師よ。スターノワールを討ち取った、ね」
「スターノワール殿は、敵ながら天晴れだと思います。あの方は最期まで戦ったのに、あなたは逃げるつもりですか?」
 結衣菜の『禁縄禁縛呪』に鷲掴みにされたスターブルー目がけ、セレナの剣が襲いかかる。蒼の鎧は肩を砕かれ、破片が飛び散った。
 しかしスターブルーはその痛みよりも、
「逃げる、だと?」
 と、憤怒の表情を浮かべる。
 雉華はそれに怯むことなく怒鳴った。
「そうだ、青いの。手前で手前のことをちぃともわかってねぇから、言ってやる!
 お前は英雄でもなんでもなくて、ひたすら人殺しして……我が身かわいさに仲間も死なせたくせに、のうのうと生き残ってるただの大量殺人犯だ!
 この、ヴァ~カッ!」
 吐き出すように叫びつつ、チェーンソー剣を振り下ろした。
 しかし敵は懐に飛び込んで、やすやすとそれを避けてしまった。そして、雉華のわき腹に深々とナイフを突き立てた。手首を返し、ジグザグの刃を内臓まで突き立てて抉り、傷つける。
「黙れ」
「かはッ……」
 血を吐いて倒れる雉華だが、それでも口は止まらない。のどの奥からこみ上げてくる大量の血で胸元を汚しつつも、罵る。
「いくらでも……言ってやらぁ! 使命だなんだと理屈を付けて、責任を地球とアタシらに押しつけてるだけじゃねーか!」
「そろそろしゃべるのやめてくださいよ。本当に死にますよ?」
 諷が魔導書を開いて詠唱した、禁断の断章。それは瞬く間に傷をふさいでいくが、深手には違いない。半ば、意識を失っている。
「誰が逃げたって?
 確かに、貴様らの策に乗ぜられ、ノワールまでも捨て駒としておきながら。仲間を救えなかったふがいなさには腸が煮えくり返るがね!」
 スターブルーは目を伏せ、歯をかみしめる。
「彼にとっても、大切な人だったのでしょうか……」
 それを見た千薙はわずかに表情を曇らせたが、同情するわけにはいかない。すれば、仲間を失うのはこちらだ。
「貴様らに背を向けて逃げるなど、するはずがない!
 我々アルカンシェルがそろえば、無敵! ルージュとともに、貴様ら全員を血の海に沈めてやる!」
「仲間が死んだ程度で」
 ぽつりと、諷が呟いた。
「一方的に侵略してくる蛮族だというのに、仲間が死んだ程度で復讐にかられるのですね。
 それを言い出したら地球など、いったいどれほどの人があなたたちに殺されてきたか。
 復讐を口にする権利は、あなたたちにはありませんよ」
「誇り高き戦士と、貴様ら有象無象。同列に語れるものか!」
「人類を、有象無象と呼んではばからないのか」
 ミカはわずかに口元を歪め、ガトリングガンを両手に構えた。
 『ガトリングデストラクション』! 圧倒的な物量、圧倒的な破壊力! 無数の銃弾がスターブルーを襲う。
「だったら俺は、人類の先鋒となろう」
 銃弾は次々とスターブルーに降り注ぎ、さすがのアルカンシェルもそれに貫かれて無数の傷を作る。
 それでもスターブルーは怯むことなく間合いを詰め、目でとらえ切れぬほどの太刀筋でミカを切り裂いた。
 しかしミカも簡単にやられたりはせず、ギリギリのところで急所だけは避ける。すぐに体勢を整え、
「人に勇気と幸運を。お前たちには冥府と終焉を。それこそがケルベロスだ」
 と、高らかに宣言した。
 背水の陣で臨む敵に、逃走の意志は無さそうだ。
 となれば、あとはスタールージュとの合流を防ぎつつ、足止めして倒すだけのこと。
「もっとも、それが十分すぎるほど大変なんっすけどね」
 ふらつく足を叱咤するようにぴしゃりと叩き、ノイアールは一度、大声で叫んだ。

●切っ先
「相手も必死ですね。でも、なぎも負けられないんです!」
 強く地を蹴って放つ、千薙の跳び蹴り。それを胸板に受けてよろめいたところに、彼方が飛びかかる。
 同じところを狙って、ルーンアックスを叩きつけた。
「それが、どうした!」
 それでもスターブルーは怯まず、ナイフを煌めかせる。トラウマが襲いかかり、
「うわ……!」
 と、彼方は尻餅をついた。
 追撃を阻まんと、深手を負っているノイアールと雉華も己を奮い立たせ、魂を食らう一撃を、そして卓越した技量からなる一撃を打ち込む。
 しかしスターブルーはナイフでそれを防ぎつつ跳躍し、かえって斬撃を放ってきた。
「みなさんは守ります!」
「できると、思っているのか?」
 立ちはだかったセレナの太股をナイフは滑っていき、スターブルーは飛び散った血を全身で浴びる。
 崩れ落ちるセレナのそばに、最後方……すなわちスターブルーの針路方向に陣取っていた諷がすかさず駆け寄り、
「手荒いですが、勘弁してください」
 その腕をつかんで、後方に放り投げた。治療はその後だ。
 凄絶な笑みとともになおもナイフを振るうスターブルーめがけ、ミカの『ニートヴォルケイノ』が炸裂した。
 噴出する溶岩にはさすがのスターブルーもたまらず、一歩下がる。
 そのとき、双方に奇妙な膠着状態が生まれたが。
 それは、千薙の呟きで破られた。
「……撃破、したと」
 と、片目を閉じた千薙が。他所で戦っているケルベロスたちから、オーズ兵器を撃破したという知らせが届き始めたのだ。
「片づき始めたぜ、英雄気取り!」
 雉華がことさら嘲るように笑い、死の記憶を孕んだ影を自らの右腕にまとわりつかせる。
「土を、噛めッ!」
 雉華の一撃を受けたスターブルーは胸を押さえて膝をついた。そこに、
「策士策におぼれるといいますが。あなたはただ、無能なだけですよ」
 諷が、表情を変えぬままに辛辣なことを言う。
 しかしスターブルーは、奇妙なほどに平静で。
「……そうだな。認めないわけにはいかないようだ、ケルベロス。
 万全の策かと思ったが、お前たちは俺を上回る策と、力とを持っていたということか」
「さぁ、どうする? スタージョーヌみたいに命乞いでもするかい?」
 彼方が嘲ってみせたが、スターブルーは仄かに笑う。
「ジョーヌか……あいつは確かに、お調子者だったが。
 たとえ敗北の屈辱を味わうことになろうと、必ず生き残ろうとする。……そういう奴だったのさ」
 鼻白んだ彼方は鼻をかいた。
「……野暮なことを言っちゃったな。取り消すよ。
 全力でお前たちを止めてやる! それでいいんだ! アメノヌボコ、来いッ!」
 上空に巨大な矛が出現し、それは一直線に飛んでスターブルーの肩を貫いた。
 傷口が凍りつき、スターブルーを苛む。
 しかし敵はかまうことなくナイフを一閃させ、とっさに交差させた彼方の腕を切り裂いた。
「その強い意志……仲間を守りきったスターノワール殿といい、敬意を払うべきだと思います。
 だからこそ、全力をもって!」
 立ちはだかったセレナが、剣を振るう。スターブルーの傷ついていた左腕を狙い、皮を、筋肉を、骨を、断ち切った。
 しかしスターブルーはナイフを右手に持ち替えて斬りかかる。腹を割かれ、セレナは膝をついた。
「無念、です」
 スターブルーの鎧もすでにあちこちがひび割れて、流れ出た血によって染め上げられ、深紅へと変わっている。
 それでも、スターブルーは前進をやめない。
 ミカが伸ばしたブラックスライムを跳躍して避け、ナイフを滑らせてその脚を切る。
 庇いに入ったノイアールも、刀身の煌めきにやられてたたらを踏んだ。
「なんて強い意志……。でも、なぎも譲るわけにはいかないんです!」
 余所の戦場では、親友も戦っているはずだ。大切な者を失うわけにはいかない。
 千薙は渾身の力を込めて、大斧を両の手それぞれに持って振り上げる。大斧はスターブルーの両肩に深々と食い込み、負った傷をさらに拡大させた。
「まだだ……ルージュと、合流しさえすれば」
 左腕を失ってもなお、スターブルーは立ち上がった。
「させないよ!
 音も光も、そして拍手もないマジックショーは、これで閉幕よ!」
 気配を殺し、スターブルーの懐へと飛び込む結衣菜。
 突き出した剣は、スターブルーの心臓を刺し貫く。
「……あ、そうだ。
 彼は最期まで、信じてたよ、スターブルー。ほかでもない、あなたをね」
「ふ……」
 スターブルーが笑う。そのナイフは、結衣菜の首筋にはわずかに届かなかった。

「我が事、成らざり」
 スターブルーの巨体が仰向けに倒れた。もはや指の1本さえ動かすことは能わず、その生命の火は燃え尽きるのを待つばかり。
「マスターブラン、それにスターヴェール。
 これは、俺たちが私怨に染まって行ったこと。故に、仇討ちは不要……!」
 虚空を見つめ、わずかに唇を動かす。
「力不足だった、ノワール」
 それが、スターブルーの最期の言葉。
「今回の過激な作戦は……スターノワールの期待に応えられなかった、自身への憤りの表れだったのかもね」
 と、剣を杖にしてかろうじて立ちながら、結衣菜はその遺体を見つめた。
「せめて、安らかな眠りを」
 千薙が目を伏せる。
「ざまぁみろ。大事なのは、負かせ方よ……!」
「彼の怒りは仕方ないとも思うんすけど……わかりたくはないっすね。わからないままでいたいっすね」
 大きく息を吐いて悪態をついた雉華と、頭を振ってため息をついたノイアール。
 ふたりは安堵から力尽き、大の字になって転がった。諷が慌てて駆け寄る。
 いつの間にか、辺りには静寂が戻っていた。
 復讐の時は、終わったのだ。

作者:一条もえる 重傷:セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887) ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199) 千里・雉華(終焉紡ぐ兇犬・e21087) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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