野菜の専門店は難しい?

作者:雪見進

「ああ……」
 薄暗い場所で、男が一人ため息を吐く。ここは、厨房がありそして机と椅子が並ぶ場所。しかし、そこは暗く表には暖簾も看板も取り外されている。どうやら、潰れてしまった料理屋のようだ。
「はぁ……」
 再び店主らしき者がため息を吐く。本来なら片付けをしなければならない状況なのかもしれないが、その店主の胸を包む『後悔』が、後片付けをする気力を失わせている様子だった。
「……なんで駄目だったのかな」
 その言葉は疑問というよりは、自分の失敗の再確認。周囲にはまだメニューなどが残っていた。そのメニューを見ると……かなり特長的であった。
『キュウリのぬか漬け』『カッパ巻き』『味噌キュウリ』『丸かじりキュウリ』『キュウリサラダ』
 並んでいるメニューはすべてキュウリ関係。どうやらここはキュウリ専門の料理屋だったようだ。
 キュウリ……瓜科の野菜で皆食べた事がある野菜だろう。夏などは食べれば体温を下げ、涼しさを感じさせてくれる素晴らしい野菜。
 そのまま食べても美味しい。洗ったキュウリに、味噌を少しつけてかじれば、『パキッ』という音と共に、シャキシャキの歯ごたえが口に広がる美味しい野菜。
 そんな素晴らしい野菜なのだが、その専門店を作るのは難しかったのだろうか。
『キュウリ飯』『キュウリ素麺』『キュウリパン』
 比較的新しいメニューを見ると、その料理の方向性が迷走しているのが分かる。メニューだけ見ても何だか意味不明だ。
「どうしてなんだ……」
 再び店主が後悔に言葉を吐き出す。しかし、メニューを見るだけでも、その原因は推測出来る。キュウリは確かに美味しいが、あえて料理屋で食べるようなものでないのだろう。独創的かつ美味しくて、ここでしか食べられない物があれば、料理屋に来て食べる理由になるだろう。しかし、ほとんどのメニューが手軽に自分で食べられる物ばかり。
 後から追加した謎メニューは……まあ、潰れた結果から推測するに、美味しい物ではなかったのだろう。
「こんなに美味しいキュウリなのに」
 そう呟き、冷蔵庫に未だ満載のキュウリを口に運ぶ。そのキュウリは質の良い物なのだろう。ツヤツヤに輝き、そして痛そうな棘が生えている。

 そんな店主の背後に突如現れたのは第十の魔女・ゲリュオン。手に持った鍵で、店主の心臓を一突きします。
「え……?」
 鍵は、心臓を穿ちますが、血も流れず店主は呆然とするだけ。この行為はドリームイーターが人間の夢を得るための行為。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 第十の魔女・ゲリュオンが呟くと、店主の『後悔』からドリームイーターを生み出す。
 その姿は分かりやすいキュウリの擬人化。緑色の身体に割烹着を着た姿であった。
 『後悔』を奪われた店主は、意識を失って崩れ落ちた。
「キューリー!」
 吠えるドリームイーターは、その力で店を再建しお店は輝きを取り戻す……偽りの輝きを……。


「料理屋さんって素敵ですよね……でも、その料理屋さんが潰れてしまって、後悔している人がドリームイーターに襲われたのです」
 そう説明をするのはチヒロ。今回のドリームイーターは『後悔』を奪い、ドリームイーターを作り出したようなのだ。
「それで、ドリームイーターは潰れてしまったお店の中にいます」
 しかし、その潰れたはずのお店はドリームイーターの力で現在は営業中。
「このままだとお店を訪れたお客さんが、どうなるか分からないのです」
 分からないというのは、どうやらこのドリームイーターは、普通にお店に入ると普通に接客して料理を出してくれる様子なのです。そして、そのお店の料理をしっかりと『味わって』くれれば無事に帰れる可能性があります。しかし、食べなかったりした場合には、大変な事になるだろう。
「なので、出来ればお店にお客として訪れて、料理を食べてあげてくれませんか?」
 チヒロはそう提案する。もちろん、相手はドリームイーターなので店に強襲して倒す事も可能であり、それでも事件は解決する。しかし、チヒロはお店にお客として訪れて、お料理を食べ『味わって』欲しいとお願いをする。
「その結果、ドリームイーターが満足すれば、戦いが楽になる可能性があります。さらに、店主さんが前向きになれるかもしれないのです」
 どうやら、お客として訪れてドリームイーターが満足すれば戦闘力が低下し、さらにドリームイーターを倒して意識を取り戻した店主も『後悔の気持ち』が薄れて、前向きに頑張ろうという気持ちになる、説明をする。
「お店が潰れてしまって『後悔』している店主さんの為にも、事件を解決して下さい」
 そう言って、後を託すチヒロだった。


参加者
泉本・メイ(待宵の花・e00954)
イピナ・ウィンテール(折れない剣・e03513)
アレーティア・クレイス(万年腹ペコ竜娘・e03934)
尾中・水香(機人のグルメ・e04981)
馬鈴・サツマ(小物臭漂う植物使い・e08178)
ルイ・コルディエ(菫青石・e08642)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
カスタード・シュー(甘党剣士・e27793)

■リプレイ


「お店が潰れちゃうと哀しいよね……」
 少し哀しそうに呟くのは泉本・メイ(待宵の花・e00954)。
「夢に破れ、さらにドリームイーターの親にされてしまう……。せめて、ドリームイーターくらいは倒して差し上げなければ」
 それに同意するように答えるイピナ・ウィンテール(折れない剣・e03513)。これから向かうのは、潰れてしまった料理屋。
 その料理屋を潰してしまった『後悔』の想いを奪い、ドリームイーターを生み出した。そして、そのドリームイーターが現在、不思議な力で営業しているのだ。
「キュウリの専門店ですか……どんな料理が出てくるか楽しみです」
「そうっすね。どんなキュウリを仕入れているのか興味あるっす」
 そんな潰れてしまったお店はキュウリ専門の料理屋さん。ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)はウサギのウェアライダーだからか、野菜が好きなので、戦闘を抜きにしてもキュウリ専門店の料理が楽しみな様子。さらに馬鈴・サツマ(小物臭漂う植物使い・e08178)は植物が好きなので、野菜などにも興味がある様子だった。
「野菜は旬により質が左右されるのに、夏野菜のきゅうり一つで攻める姿勢はとても挑戦的で好感が持てます」
 そんなキュウリだが尾中・水香(機人のグルメ・e04981)の言うとおり夏野菜だから、他の季節は難しい。それが潰れてしまった原因の一つなのだろう。
「もっとジュースとかアイスとか色々食べられると思ってたのに残念ね」
 事前情報で色々なキュウリ料理(?)があったらしいのだが、今はドリームイーターの力で無理矢理営業しているだけなので、今回は注文出来ない。それが残念に思うアレーティア・クレイス(万年腹ペコ竜娘・e03934)だった。
「でも胡瓜って昔のイギリスとかでは高級食材だったり、昔の日本では完熟した黄色い胡瓜を食べていたって話だね」
「キュウリって、最も栄養が少ないと言われ揶揄される食べ物ですからね」
 ルイ・コルディエ(菫青石・e08642)とティがキュウリ談義に花を咲かせていた。
「一つの食材でも、色々な事があって結構面白いものね」
 ルイの言うとおりである。だからこそ、この店主はキュウリに惚れこんで専門店を作ったのかもしれない。

「これがそのお店か」
 本当は潰れてしまったのだが、今だけはお店に暖簾がかかっている。外見だけ見れば、それが危険なお店だとは分からない。
「周辺の交通整理終了しています」
「ありがとうございます」
 カスタード・シュー(甘党剣士・e27793) がお願いしてきた警察の方が報告をする。これでケルベロスたちがドリームイーターの相手をしている間、この近くに一般人が近寄る事は無い。
 そんな無用な犠牲者が出ない為の処置だ。
「それじゃあ入りましょう。悲劇を防ぐ為に助けなくちゃ」
 ドリームイーターを倒せば店主は目を覚ます。その為に気合いを入れて暖簾をくぐるのだった。


「ごめんください……お店、開いていますか?」
 暖簾をくぐりお店に入ると、そこにはドリームイーターが。その姿は分かりやすく、人型のキュウリが可愛いキュウリ柄のエプロンを付けていた。
「イラッシャイマセ」
 そんなイピナの言葉に反応したのか、そうでないのか判断に困るがともかく、お店は営業している様子。ケルベロスたちが席に着くとメニューが配られるが……。
「キョウハ、テイショクダケデスガ、ヨロシイデスカ?」
 現在はドリームイーターの力で営業しているからか、今日は定食だけの提供。しかし、その定食もキュウリ盛りだくさんの内容だ。
「はい、キュウリ春巻き定食下さい!」
「あ、ご飯大盛りで」
「ゴチュウモンウケタマワリマシタ。ショウショウオマチクダサイ」
 アレーティアだけ大盛りで注文をするケルベロスたち。それにびっくるするほど普通に応対するドリームイーター。そのまま厨房へ入っていくのだった。

 その料理が出てくるまで、軽く店内の様子を見るケルベロスたち。
「色々なドレッシングがあるのですね」
 料理が出てくる間、備え付けの調味料を確認する水香。味噌だけでも三種類、ドレッシングは日替わりの様子、塩も藻塩、岩塩、抹茶塩と種類も豊富だった。
「アンケートボックスもありますね」
 カスタードが見つけたアンケートボックス。しかし、中は空で隣には全く減っていないアンケート用紙と綺麗に尖った鉛筆。つまり、誰も書いてくれなかったのだろう。

「オマタセシマシタ」
 それからほどなくして、料理が運ばれてきた。お盆に載せられているのは、見事にキュウリばかり。しかし、ほぼ緑色だが、色合いにも工夫がされていて悪くない感じだ。
「うん、質の良いキュウリっすね……歯ごたえもさる事ながら、確り味がするっす」
 早速出てきたキュウリ定食を食べ始めるサツマ。まずはキュウリ飯を一口食べる。
 キュウリ飯はキュウリを短冊に切って、炊いた飯と一緒に混ぜたものなのだが、食感はシャッキリサクサク。本来なら水っぽくなりそうなのだが……。
「質の悪いきゅうりだと駄目っすけど、これはかなりの上物っすね」
 そう、キュウリも比較的水っぽくならないように厳選され工夫されている。
 さらに付け合わせ用なのか、小鉢にかつおぶし、ゴマ、刻み海苔、ワサビなどがあり、お好みで味を変えられるようになっている。
「きゅうりの味噌汁は冷たいのね。うん、美味しい!」
 ルイはキュウリの味噌汁を味わう。正直、味噌汁というよりは味噌味ベースのスープ。雰囲気としては冷たい味噌ラーメンのスープのような雰囲気。ちょっと濃い目の味付けは悪くない。具はキュウリと冬瓜で、キュウリがシャッキリとした食感と冬瓜のふんわりな食感が楽しい。
 そしてメインの春巻き。かなり工夫されていて、キュウリ、人参、レタス、ササミなどが入っている生春巻きと、普通の揚げ春巻き。さらに、細めの揚げ春巻きを中心に細切りキュウリ包みで生春巻きで巻いたスペシャル春巻きが並んでいた。
「きゅうりの良さをよく知り、引き出しているのですね」
 やはりキュウリの良さは食感。それを引き出す工夫がされている。
「一度、料理の仕方を教えて欲しいくらいです」
 イピナはそんな手間をかけた春巻きを食べながら感想を言うのだった。
「サラダは……これ本当にキュウリだけ?」
 サラダは見た目が思いの外、彩りがある。緑色で千切りにされたのはキュウリの皮だろうか。それが針のように細く草原のように並び、さらに皮を取って輪切りにされた身が花のように彩り、飾り切りされた皮が葉のように飾られ、そのサラダはまるで花畑のようでもあった。
「キュウリをつかって、ここまでのバリエーション豊富な料理を作り出すとは……やはり情熱が違う!」
「本当です、キュウリ愛、すごく伝わってくるの」
 そんな彩りに思わず感心するティとメイ。そんなサラダをとても笑顔で美味しそうに食べるメイとウサギのように食べるティがとても可愛らしい。
 そんな感想を言いながら食べる中で、早速食べ終わるのはアレーティア。
「美味しかったけど、全体的に物足りないというか、もっと食べたいから定食おかわり!」
 アレーティアは品評とか良く分からない様子だから、素直に自分に正直に定食を堪能している様子。
「ハイ、ショウショウオマチクダサイ!」
 お代わりには対応出来るようで、ドリームイーターはすぐにお代わりを用意してくれた。それも、かな〜り大盛りで用意されていた。
 その量はがっつり三人前くらいありそうだが、当のアレーティアは満面の笑み。さらにおかわり専用なのか一緒にスティックキュウリが山盛りで用意された。ちなみにスティックキュウリの横には店主特選の味噌、塩、マヨネーズが三種類づつ並んでいた。
「わぁお!」
 すぐにおかわりも食べ始めるアレーティアであった。

 そんな褒める処の多い料理ではあったが、改善点はいくらでも思いつく。料理を褒めるのと同時に様々な改善点を説明するが、それに対してドリームイーターは、ほぼ無反応であった……。

(「でも、流石にキュウリが多すぎです」)
(「きゅうりは好きですが、これだけ食べるとしばらくは遠慮したいです……」)
 ルイと水香が心の中で呟いた言葉が何よりの真実だろう。どんなに美味しい料理を出すお店でも再び訪れたいと思う人が居なければお店は成り立たない。
 そんな胸中を察した……訳ではないだろうが、ドリームイーターはケルベロスたちを静かにじっと見つめていた。
「ご馳走様です」
 そんなドリームイーターの視線を感じながらも、全員がキュウリ春巻き定食を全て完食し、丁寧に『ご馳走様』をすると、ドリームイーターの様子が一変し、不思議な雰囲気を漂わせはじめる。その雰囲気を言葉にするなら『満足した』のだろうか。
 このドリームイーターが満足する行動、それはたぶん『完食してご馳走様をする』事だったのではないだろうか。
 ともかく、満足したドリームイーターは食べ終えた食器を片付ける。そんな様子のドリームイーターがなんだか可愛く見えてしまうが、放置して置く訳にはいかない。もし『ご馳走様』をしない客が来たら大変な事になるのだ。
「ふう、ご馳走様でした」
 食後のキュウリ茶で一服してからカバンを開ける。そこにはこっそり隠れていたボクスドラゴンのプリンケプスが顔を出す。
「さーて、食事は終わり。行くよ、プリンケプス!」
 そして戦いは開始された!


 ケルベロスたちの行動で満足していたドリームイーターはかなり戦闘力が低下していた。そんな相手に苦戦するケルベロスたちではない。
 大したダメージも受けずにドリームイーターを追い詰めて行く。
「私の『叫び』、無視出来ますか?」
 水香は拡声器のような部位を形成し、そこから特殊な音波を投射する。
「上手に風を捕まえるの」
 メイが手の平に光を集める。その光をそっと指で触れ、指で空に風を描くように形作れば、出来上がるのは模型飛行機。
「ほら、飛べるよ!」
 光から作り出した模型飛行機のプロペラが風を廻ると、光の軌跡を飛行機雲のように残しながらドリームイーターへ飛来していく。
「キューリー!」
 水香とメイの連続攻撃を受けドリームイーターが叫び声を上げる。それを必勝のタイミングと見たケルベロスたちが一斉に動く。
「これ食べてもう一踏ん張りだ。……バニラとココアどっちがいい?」
「究極にして至高、これぞ馬鈴家三百年、秘伝の芋煮っス!」
 サツマが形成した時間に干渉されずに出来る芋煮会空間。そこで、芋煮を食べ、さらにカスタードの力がみなぎるクッキーを食べる。
 料理屋で芋煮会をして、さらにデザートまで食べる……しかも戦闘中。なんとも奇想天外。しかし、それこそがグラビティの力なのだ!!
「モグモグ、いきます!」
「んっ……はい」
 そんないっぱい食べる支援を受け元気爆発なアレーティア。
「貴方の血も魂も夢も後悔も……全部頂くわ!」
 その言葉と同時に手足の爪を超硬化させるアレーティア。そのまま突っ込むと、硬化させた爪でドリームイーターの身体を突き刺し抉り、魂ごと喰らう。
 さらに、そこへ飛び込むのはティ。機微な動きにフェイントを織り交ぜて距離を詰め、さらにそれを支援するようにボクスドラゴンのプリンケプスがブレスを吐く。
「バン!」
 ブレスの支援を受けながら懐に潜りこみ、グラビティコアをドリームイーターに埋め込む。直後、そのコアが重力崩壊を起こし内部から破壊する。
「キューリー!」
 叫び声というよりは、何か別の声のように聞こえるドリームイーターの反応を無視して突っ込むイピナ。
「きゅうりを愛する人が、新たな一歩を踏み出すために……ここで斬ります」
 重力崩壊収束と同時に、静かに刀を構え呟くイピナ。同時に刀が弧を描くように斬撃を繰り出す。
「キュー!」
 鋭い斬撃はドリームイーターを輪切りにしてしまいそうなほど。しかし、最後のスジが残っていたのか、まだ倒れない。
「ぶち抜くわ」
 そこへ踏み込むルイ。超高温により透明化した炎剣で、ドリームイーターを短冊に切り捌いていく。同時に熱で焼け……そのまま、炭化していった。ケルベロスたちの勝利だ。


「大丈夫ですか? 此度は災難でしたね」」
「あ……あぁ」
 目覚めは悪く無い様子だが、ちょっと状況が分かっていない様子である。しかし、軽く頭を振って目を覚ますと色々な事を思い出した様子だ。
「あんたらが助けてくれたのか、ありがとう」
 無事な様子の店主に色々とアドバイスをしようとする者もいたが、それをイピナがそっと止める。
「一度休んでから、ゆっくりと次にしたいことを考えてくださいね」
 今は休息が必要だとイピナは思ったのだろう。そして、それは今回は正しい様子。
「そうだな……だが、店を潰すなんて俺はダメだよな……」
 少し前向きになったとはいえ、店主の心はまだまだ重い様子。
「飲食店で10年間継続経営出来ている店舗は僅か6%ほどだそうです」
 そんな中で、水香は現実的な話をする。大きな組織であるチェーン店ならまだしも、個人経営で飲食店を続けるのは難しい。それが6%という結果になるのだろう。
「誰もが失敗するものです。失敗を悔やまず、情熱が続く限り挑戦してはどうでしょうか?」
 その言葉に、一瞬だけ惘然とした後、目をパチパチとしてから立ち上がる。
「そうだな、失敗なんて誰でもするんだ」
 今度は、しっかりとした足取りで立ち上がる。
「この後、やりたいことは見つかりましたか?」
 そんな様子の店主にイピナが声をかける。
「そうだな。まあ、分からないけど……まずは片付けだな」
 イピナの言葉に答え、同時に店舗の掃除を開始する。まずはここを掃除して店舗を引き払う必要がある。しかし、店主の表情にはやる気が満ちている。そんな店主の様子を憧れの視線で見つめるカスタードの姿があった。
「お手伝いします」
 だからカスタードは店の後片付けを手伝うのだった。

「やっぱり動くとお腹が減るわ〜」
 後片付けを終わらせたアレーティアたちの言葉に手早く店主が冷蔵庫から何かを持ってきた。
「それなら食べるかい?」
 それは少し微妙な色のアイスと、山盛りのキュウリ。キュウリはアレーティア専用だろう。
「これ、美味しいですね」
 微妙な色のアイスは瓜科の優しい甘みを感じるアイス。しかし、冷たくても感じる甘みはキュウリではないだろう。
「スイカ糖のアイスだよ」
 スイカから作るとても甘い糖。それ以上は何も語らない店主。このアイスには色々な想いがあるのだろう。
 しかし、そんな店主の眼は少なくとも未来を見ている。この店主が新しいお店を出す日が来るのか、それは分からない。しかし、少なくとも後悔で落ち込んでいた人をやる気にさせる事が出来たのだ。
 スイカアイスを食べながら、その結果に満足するケルベロスたちであった。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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