星霊戦隊の復讐~鈴生りの恐怖

作者:白石小梅

●花群進撃
 夏の夜。眠る街。かすみがうら市。
 誰もいない街中に、青い鎧と紅い鎧の男が二人。
 その周囲に浮かぶのは、光り輝く『楽園樹オーズ』の種子。
(「来たか……」)
 ごとりと、地面のアスファルトが、ひびを描いて盛り上がる。
 ゆっくりと伸び上がる、一枚の葉もない樹。捩じれるように幹を絡ませながらしなり、一斉にその枝を広げる。幹の頂点にぷつり、と一輪、白い花。はらりと散って膨れ上がり、巨大な白果を実らせる。
 捩じくれた樹は、低い唸りのような音を響かせながらオーズの種子を絡め取り、幹の中へと取り込んだ。
 瞬間、樹は反り上がるように幹をくねらせ、枝先から根元まで一斉に花開いた。花々は狂おしく咲き乱れ、瞬く間にその身を散らす。
 やがて、花吹雪の向こうから現れるのは、たわわに実った房、また房。身をかき抱く裸婦のような幹。白く輝く大果の頭を、口付けを落とすように垂らした妖樹……。
 見れば周囲にも、満ちた力に誘われた花と木々の化物たち。
「やっと準備が整った。長かったな、ルージュ」
 それらを前に、青い鎧の男が囁き。
「あぁ長かった。だが、今こそ、仲間の仇をうつ時だ!」
 紅い鎧の男が結ぶ。
 現れた仲間の静止も振り切り、妖樹の群れを引き連れて、星霊戦隊は進み始める。
 都心部へ。
 いや。
 来るべき、復讐の時へ向けて。
 
●復讐戦
「緊急事態です。分断作戦を生き延びた星霊戦隊が動きました」
 望月・小夜(サキュバスのヘリオライダー・en0133)は早口にまくしたてる。
「状況を説明いたします。彼らはかすみがうら市に出現。白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)さんが危惧していたように、オーズの種を攻性植物に埋め込んだ生物兵器……通称『オーズ兵器』十体を支配下に、進軍を開始しました」
 敵は市街地を破壊しつつ、隣接した土浦市、つくば市を目指して侵攻中。つくば市到着後、つくばエクスプレス線路伝いに都心部へと向かうと考えられるという。
「すでにかすみがうら市の避難は完了。土浦市民の避難もどうにか間に合いそうです。そこでかすみがうらと土浦の境に防衛線を構築し、星霊戦隊とオーズ兵器群を迎撃します。星霊戦隊の目的は復讐戦。皆さんと激突すれば、進軍を停止し殲滅戦に移行するはずです」
 地図上に赤線を書き込み、小夜は向き直る。
「星霊戦隊の実力は知っての通り。また、オーズ兵器は恐れられていた強大な攻性植物を素体に、オーズの種で強化を施したもの。その力は『かすみがうら事変』の実験体を遥かに超えると目されます」
 ただで勝てる相手ではない。敵の撃破に成功したなら闘いの続く近場の戦場へ援軍に向かうなど、上手く連携する必要がある。
「ですがそれは、敵も同じです。いずれかの迎撃班が敗北した場合、その敵が他の戦場へと雪崩れ込み、防衛線全体が連鎖崩壊を起こす可能性もありえます」
 現場は、苛烈を極める戦場となるだろう。
「敵は強大です。くれぐれも、お気をつけて」
 
「戦場となるのは国道6号線土浦バイパス周辺の市街地です。無人となった市街地に潜み、進軍してくるオーズ兵器群に一斉攻撃を仕掛ける手筈となっております」
 出した写真には、おぞましい攻性植物。
「皆さんの担当はオーズ兵器『スズナリ』。果実から黒い放射線を放ち、赤熱した果実を叩きつけるなどしますが、真に厄介なのは黄金の果実を始めとする再生浄化能力です」
 スズナリは他の攻性植物と共生的関係を築く種。戦闘が始まると、近辺の敵と合流しようとするという。
「他者を援護し獲物を屠らせ、その血を啜る化物です。連携を許せば、戦線は崩壊を免れません。何としてもそれだけは食い止めてください」
 
「敵は復讐に燃える指揮官と、餓えた生物兵器です。土浦市で撃破出来なければ、どのような被害がでるかわかりません」
 それから、と、小夜は付け加える。
「今回の襲撃は星霊戦隊の独断専行のようです。闘いが長引けばエインヘリアル側もこの動きに気付き、彼らの暴走を止めようと追加戦力が現れる可能性があります。その点も、気に留めておいてください」
 それでは出撃準備をお願い申し上げます。
 小夜はそう言って頭を下げた。


参加者
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)
天谷・砂太郎(今日も残業明日も残業・e00661)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
御簾納・希(不撓不屈の拳・e16232)
ドラーオ・ワシカナ(キタサンブラック・e19926)
神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)

■リプレイ

●復讐、開幕
 深夜、かすみがうら市。国道六号線沿いの閑静な住宅地に、百人に届こうかというケルベロスの群れが迎撃の陣を敷いていく。
「復讐か……エインヘリアルといえど仲間を思う気持ちはあるのじゃな」
 竜人の姿ではなく、地球人と同じ老人の姿で腕を組んでいるのはドラーオ・ワシカナ(キタサンブラック・e19926)。
 その視線の向かう先では、破壊されていく街並みが土煙を上げている。
「私も復讐に生きる身……そんな私に彼らの行動を批難する資格があるか……それは分かりません。ですが、それでも無辜な人達が傷つけられるのを黙って見過ごすことはできません!」
 ぬるい風に混じりフィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)の頬を打つのは、破壊されていく街の破片だ。
 敵群は近い。今や煙い臭いも感じる復讐鬼の軍勢に合わせ、番犬たちも横に広がっていく。
「ああ。敵討ちってのには理解も共感もできるけど……ね。生憎、こっちもはいそうですかとやられるわけにもいかないんだよね」
 エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)が振り返れば、背にはもう一班が同じように戦闘準備を整えている。隣あって闘うことになるのは、対ニーズヘッグ迎撃班。
「今作戦の情報の……発信、傍受は……私が、担当する……よろしく」
「ニーズヘッグは私が担当だ。よろしく頼む」
 フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)が、橙色の髪のレプリカントと言葉を交わす。他班との連絡の手筈は整い、準備は万全だ。
「前回、オーズの種は回収できなかったが今度こそは倒して終わらせよう。其の為にも、確実に仕留めないとな……」
 天谷・砂太郎(今日も残業明日も残業・e00661)の言葉に、頷くのは水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)。
「何だか妙な敵だよね。身体大きいのに回復メインって言うのが中々……」
 共に、今回の敵に想いを馳せるのは神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)。
「だからこそ、他の班に合流されると厄介よねー。しっかりとここで倒しちゃわないとね。さて、頑張るわよー」
 その傍らには、テレビウムのテレ蔵君。同じくサーヴァントであるウィングキャットのスピカと頷き合う。
 そう。今回の敵は、絶対に討ち漏らしてはならない相手だ。
 破壊の轟音はすぐ側まで迫り、すでに土煙はもうもうと立ちこめている。ニーズヘッグとスズナリ。それぞれと対峙する班は背中合わせに動き始め、御簾納・希(不撓不屈の拳・e16232)がそっと地面にランプを置いた。
「さあて、行こか! 合流は絶対にさせないようにせえへんとなぁ」
 刹那、破壊の爆音と共に民家が倒壊し、その後ろから現れる、鈴生りの妖樹。
 対ニーズヘッグ班が反対側から現れた樹蛇へと向かって行くのを目の端で見届け、番犬たちが跳躍する。
 星霊戦隊の復讐が今、始まったのだ。

●鈴生りの妖樹
 民家を破片と散らして現れたスズナリに、即座に躍りかかる前衛。攻撃の要は、エリシエルとフィルトリア。
「さってと、そんじゃあ伐採開始といきますかね!」
「この樹はただの破壊の権化……ならば、却ってやりやすいというものです……!」
 初手は外さぬと、二人の乙女が息を合わせる。炎を纏った蹴りが二閃。妖樹を押し戻したと同時、雪崩れ込むように続くのは砂太郎と純恋主従。
「乾坤一擲、一発必中! やっちゃえ、テレ蔵君!」
 矢を放った純恋の指示に合わせたわけではないにせよ、デストロイブレイドとテレビフラッシュが果実の幾ばくかを叩き潰して相手を挑発する。
「戦いを長引かせる気はないんだ、さっさと終わらせる……!」
 砂太郎の言葉の通り。今回の布陣に、メディックはスピカ一体のみ。残る後衛、ドラーオと蒼月は共にスナイパーだ。
「厄介な合流などさせぬ! ここで朽ちよ腐乱の果樹!」
 老武者の鎖が弾け飛び、突然の襲撃に態勢を立て直そうともがく根を絡め取って見せる。
 螺旋の氷弾を次々にその幹へ穿ち込みながら、蒼月はちらりと後方を振り返る。激戦の最中、後ろを顧みるのは難しいがニーズヘッグとの闘いも始まったようだ。
「他の仲間と合流したがるって言う習性も珍しいというか……自身を守らせる生存本能とかなのかな?」
 フローライトが蒼蛍石を通した特殊な波長を散らす準備をしながら、それに答える。
「人間から見れば……破壊と繁茂の権化……でも、その内には……多様性を秘める……それが、攻性植物」
 その性質を誰かが利用しようとも、それを物ともしない生物的なタフさこそ、攻性植物の本質の一端なのかもしれない。
 スズナリは突然の奇襲にたじろぎながらも、すぐさま反撃に移る。前衛に向けて弾けた果群は、黒い放射線を散らして体内を侵食する。
「スピカ、回復は頼むで……!」
 蹴り込みながら、希が従者へ指示を飛ばす。フローライトの石の加護が前衛を癒し、スピカが体内の侵食を浄化する。
「パラライズ漬けになるんはどう? 行かせへんからね」
 希の蹴りは痺れを伴って妖樹の全身を縛る。
 攻撃的布陣による、ほぼ全面的な攻勢。並の攻性植物ならば、すでに流れを番犬たちが掴めていたかもしれない。
 だが、スズナリはその中央の白い大果を、花のように開いてみせる。その内側には、無花果を開いたようにびっしりと成った小果実。
「うげっ、気色わるっ……」
 大器晩成撃を叩きつけていたドラーオが、一瞬、素を出して顔をしかめる。
 共鳴しあった白銀の輝きが傷を塞ぎ、穿った呪いは瞬く間に祓われていく。それは、番犬たちの攻撃を無に帰さんとせんばかりの回復力。
「全く……鈴生りに生るのは食べられる実とスズランなんかの花だけで十分だってのに!」
 押し留めようとする努力を踏み躙られて、エリシエルが毒づく。稲妻突きで幹を抉るも、まるで振り出しに戻された気分だ。
「回復に劣るこっちを、持久戦で磨り潰す……ってところか? 生憎、タフさ比べ用の技も用意しててな」
 砂太郎に呼び出されるのは、紅く光る鬼のような手。切り裂いた果実の養分が、砂太郎の傷を塞いでいく。
 そう。
 これは、命を懸けた根競べ。
 やがて精魂尽き果てるのは、果たしてどちらか……。

●乱戦
 闘いが始まって、五分。
『モデ……ンと交戦中……です! どなたか……応答……!』
 市街に鳴り響く爆音の中、通信機に走ったノイズ。
「……!」
 変色した殺神ウィルスを撃ち込んでいたフローライトの表情に、わずかな揺らぎが走る。激しく打ち合う激戦の最中では、集中できず音が遠い。
『こちら……班……』
『すでに……戦闘不能……状況に……ます! ……救援を……願い……!』
「……救援要請? ……っ!」
 一瞬、乱れ飛んだ電波の流れに足を止めたフローライトを、テレ蔵君が跳ね除ける。突進してきたスズナリは、ちかちかと画面で挑発するテレ蔵君に向き直ると、怒りのままにその果実を叩きつけた。
 赤熱した果実が弾け飛び、その体が光と散る。
「テレ蔵君! 仇はとるわよ……オウガメタルちゃん、よろしくねー!」
 純恋がオウガメタルを輝かせて前衛を支えさる中、達人の一撃で氷を放っていた希が、フローライトに向き直る。
「通信やね……! どこかの班に、何かあったん?」
「情報……錯綜中……詳細、不明」
 ニーズヘッグ班を振り返る。目に映るのは、互いに手傷を負いながらも、未だ崩れることなく果敢に蛇に向かって行く仲間たち。
「後ろはまだ崩れておらん! わしらの役目は、まずはこいつよ!」
「同意……スズナリ撃破が……最優先」
 ニーズヘッグへ向かおうと試みるスズナリの根に、ドラーオが再び大器晩成撃で氷を這わす。足掻く根を大剣が切り裂いて、足を取られたスズナリはその持ち主へと向き直った。
「どうした……お前を怒らせてる奴なら、もう一人ここにいるぜ。無視して行く気か?」
 幾度となく黒の放射線に晒されながらも、砂太郎が手招きする。怒り狂った妖樹は、果実を振り下ろして彼に向かう。
 怒り、痺れ、氷。そして殺神ウィルス。
 スズナリのリズムが、ゆっくりと乱れていく……。

 時が、経った。
「ぐっ……う!」
 赤熱した果実の追撃を喰らい、地面に叩きつけられたのは、砂太郎。血まみれの体は、もはや何をしても言うことを聞かない。彼は荒い息を吐きながら、倒れ伏した。
 戦場には、電波が乱れ飛んでいる。
『グ……ゴ……ット……伐完了――』
『こちら、ト……イパー討伐班……力、及ばず……どうか――』
 通信機から漏れ聞こえてくるのは、撃破の報。悲痛な要請。
「砂太郎くんも限界……私も、もうすぐかも。時間、掛かっちゃったわねー……他の場所はどうなってるのか、気にはなるけど……」
 怒りの呪縛から解き放たれ、スズナリは仲間のところへと突進する。邪魔立てする前衛を蹴散らさんと振り上げた腕にしがみつくのは、純恋。その体は弾き飛ばされても、巨体に出来た隙を仲間が見逃すはずもない。
「もう間に合わんぞ、腐乱の果樹よ。お前の合流はな。くかかかかっ! さあ、喰らうがいい! 差し詰め『妃の剣』ってところかのぉ?」
 月が眩く輝いて、ドラーオが天より降り注がせた光の柱が、純恋を弾いて態勢を崩したスズナリを押し倒した。
「回復は……決して、させない……」
 フローライトが打ち込み続けた殺神ウィルスは、その回復を目に見えて抑制してきた。そして。
「何度だって邪魔したります……!」
 希の旋刃脚が幾度となくその行動を阻害する。
 ひたすらに繰り返される、同じ攻め。回復するなら、その度に。動くのならばその度に。例え幾度浄化されても、同じことを繰り返す。
 そう。
 これは、命を懸けた根競べ。
 そして音を上げたのは、スズナリだった。
 苛立ったスズナリは、白果に代わって残った果実を黄金に輝かせ、穿たれる呪いに耐性をもたらさんとする。
「待ってたよ……読みあい騙しあいの通じない相手ってのはあんま得意じゃないんだけど……焦ってブレたね。そいつは失策だよ!」
 銀閃が、閃いた。エリシエルの刃が果実の生る枝を斬りおとし、生じ始めた耐性が霧散する。
「……!」
 合わせて飛び込む蒼月が撃ち放つのは、螺旋の氷。浄化をし損なったせいか、幾度となく撃ち込んでいた種が満を持して発芽するように、妖樹はもがきながら身を凍らせていく。
 氷の呪いの特徴は、対象が攻撃を受ける時、発動するということ。解呪される前に攻撃される限り、その威力を発揮する。
「さ、終わらせよ! 今だよ、とどめを!」
 上空に、月を背負って跳躍しているのは、フィルトリア。
「貴女は自然に還りなさい。貴女に罪を背負わせた男たちは……」
 妖樹から滲むのは、素朴な恐怖と怒り。生存のための純自然的な負の感情を吸収し、乙女の手から黒炎が放たれる。
「……私たちの仲間が、断罪するでしょう」
 氷と爆炎に包まれた妖樹は、その果実を破裂させながら萎びていく。
 おぉぉぉん、という嘆きのような咆哮をあげながら、助けを求めるように伸ばされた枝の先。
 振り返ればそこに、森を喰らう蛇樹ニーズヘッグが土煙と共に倒れ伏していた。

●復讐の終幕
「さて……! いつもなら撤収だけど、今日は必要ならばもう一戦よー。って、その前に回復しないとね。大分ひどくやられちゃったし……テレ蔵君、呼び戻すだけの時間は……ないか」
 純恋が、スピカと共に仲間たちのヒールに奔走している。ニーズヘッグ迎撃班の面々も、少なからず打撃を受けているようで、現在は二班ともに戦力の再編成中だ。
 それでも、スズナリとニーズヘッグは崩れ落ちた。
 問題は、戦場全体がどうなっているのかだ。
「周囲の部隊はどうでしょう? 救援に向かうべき場所はありますか? 何度か、連絡が届いていたようですが」
 フィルトリアの問いが向かうのは、フローライト。
「現状は概ね……良好……二班が押し切られるも……救援が間にあい……迎撃に成功……オーズ兵器は……壊滅しつつある……模様」
 未だ響いていた爆音も、こちらの救援準備が整うのを待たず次々と沈黙していっている。別の戦場にて闘う姉も、互いに無事だと連絡がついた。
 錯綜する連絡の中で状況を整理しながら、フローライトがほっとため息を漏らす。
「メディックがスピカだけじゃ、態勢を整えるのに少々時間を取られますなぁ……でも、援軍にはヒールしてから行かなあかんし。あ、砂太郎さんはここで……な?」
 スピカと共に仲間を癒していた希が向き直ると、砂太郎は頷いて首を振った。
「わかってる。俺は残るよ」
 彼は、敵の合流を阻んだ一番の功労者。だがもはや連戦に耐えるだけの力はなく、回復を待つには時が要る。
 となれば。
「出来ればこの間に、オーズの種を回収しておきたい、と、思ってるんだが……さっきからどこにも見当たらない。前みたいに、逃げたわけじゃないはずだが」
 砂太郎と共に、蒼月も僅かな時間を利用して痕跡を調査しているが、その存在は影も形もない。蒼月が、肩をすくめて首を捻った。
「……もしかすると、オーズの種って使ったらなくなるものなのかも。かすみがうらの不良たちは、それこそオーズの種を育てるための苗床だったのかな」
 攻性植物の謎については色々と気になる所を残している。
 エリシエルが迷いを払うように一つの小さな果実を拾い上げ、立ち上がった。
「今は思案をするより、この闘いだ。こっちは万端整ったよ。どこが残ってる? この様子じゃ続けて行くとしたら……敵大将か」
 その視線の先は、闘いの音色を最後まで奏でている場所。
 国道六号線。
「うむ。が……奴らもここまでのようじゃがな。復讐か……気持ちはわかるが、こちらとてその為に滅ぼされるわけには行かぬのよ」
 先んじて戦場を眺めていたドラーオが、ため息を落とす。
 引き連れた巨大兵器を次々に撃ち落とされながらも、二人のアルカンシェルは未だ雄々しく闘っていた。
 だが、闘いの流れはすでにケルベロスたちに傾いている。仮に今、奇跡のような逆転劇が起こったとしても、数分後には自分たちを含めた全ての残存戦力が、国道に殺到するだろう。追加戦力が来たとしても彼らを助けるにはもう遅すぎる。
「彼らの復讐は……潰えつつあるのですね」
 フィルトリアの囁きを、ぬるい風が運んでいく。
 やがて、ケルベロスらが国道へたどり着いた時。
 そこには、星霊戦隊を討ち果たした仲間たちだけが、立っていた。

 ……星霊戦隊、復讐戦。
 十体のオーズ兵器を迎撃したケルベロスたちは、二班が押し切られるも、迅速な救援と機転の利いた迎撃が間に合い、最終的にその全てを殲滅。
 オーズの種は、オーズ兵器化に使用されたことにより消失。
 スタールージュ、スターブルーも共に撃破され、オーズの種工作任務を行っていた星霊戦隊は、ここに全滅が確認される。
 予知された、二人の生き残りを残して……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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