●夕闇の学園
薄暗い廊下に足音が反響する中、少女は身震いした。
下校時刻をとうに過ぎた学校の雰囲気が怖い訳でも、よくある学校の怪談とやらに怯えている訳ではない。首を左右に振った彼女が嫌悪感を覚えるのは、先ほど忘れ物を取りに行ったばかりの理科室だ。
「人体模型も骨格標本も、ホルマリン漬けも……あんなの気持ち悪くて無理!」
思い出すだけで気分が悪くなる。
少女は忘れ物のノートをぎゅっと抱き、憤りと厭悪交じりの溜息を零した。
「理科室に忘れた私もだけど、忘れ物が準備室に保管されるなんて馬鹿みたい!」
気持ち悪い、ともう一度呟いた少女は、様々な理科の実験道具や器具が並ぶ部屋の光景を思い返す。ただでさえ理科系のものが嫌いだというのに、この学校は何故か妙に器材や資料が充実していた。
模型や標本から始まり、何だか分からない生き物のホルマリン漬けや、妙な色の液体が入ったフラスコや試験管。解剖の為に飼育されているカエルの水槽。
「はあ、もう最悪。さっさと鍵を返して帰っ……え?」
理科室から続く廊下を抜けた少女が職員室に向かおうとした、そのとき。彼女の胸を大きな鍵が貫いたかと思うと、別の声が響いた。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど……」
その声の主は魔女、ステュムパロス。少女の心を覗いた魔女は胸元から鍵を引き抜きながら、くすくすと笑った。
「あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
そして、少女は廊下に崩れ落ちる。魔女が去った後、その場に佇んでいたのは骸骨型の骨格模型。骨の隙間からは人体模型のものらしき臓物が詰まっている様が見え、周囲にはホルマリン漬けの謎生物や怪しい液体が詰まった試験管が浮いている。
それは少女の『嫌悪』が具現化した、新たなドリームイーターだった。
そして、骸骨は自らが居るべき場所、理科実験室へと向かう。臓物と歯を揺らした骨がカタカタと哂う様は、奇妙で不快な雰囲気を纏っていた。
●理科室実験ショウ
苦手なもの、嫌いなもの、嫌悪するもの。
誰にだってひとつくらいはあるはず。今回はその気持ちが利用された事件なのだと話し、雨森・リルリカ(オラトリオのヘリオライダー・en0030)は説明を始めた。
「むむむ。たしかに、理科の実験道具って気持ち悪いものが多いかもしれないです」
特に骸骨や人体模型が苦手な人は多いだろう。
或る少女から奪われた『嫌悪』もまた、そういった物の形をしている。しかもただの骸骨や模型を模しているだけではなく、気持ち悪さが格段に上がった見た目のドリームイーターになっているらしい。
「心臓や内臓は本物みたいな見た目で、骸骨さんはカタカタ動きます。敵は幻影のホルマリン漬けや謎の薬品を投げたり、更にカエルさんの解剖を見せて来るのです!」
すごくいやです、と顔を覆ったリルリカは首を振る。
すべては嫌悪から生まれた魔力が作り出す存在だが、その外見や攻撃方法はまさに気持ち悪いもののオンパレード。
理科の化身とも呼べる怪物は現在、廊下奥の理科実験室に潜んでいる。
今は未だ誰にも被害がないが、翌日になれば学生や教員達がドリームイーターの餌食になってしまうだろう。
「学校への許可は取りましたです。皆様、どうか今夜中に敵を倒してください!」
敵は一体のみだが、戦いは激しいものになると予想される。
特に謎の薬品攻撃はくらうとべたべたするので、物理的にも気持ち悪くなってしまう。気を付けてください、と告げたリルリカは皆を応援した。
理科室にいる敵さえ倒せば、廊下の隅で眠らされている少女も無傷で助け出すことが出来る。彼女はただ、苦手で嫌いなものがあるだけ。
「嫌な物はずっと嫌で苦手で仕方ないままかもしれません。でもでも、だからってその思いが利用されるのは許せません!」
けれどきっと、ケルベロスならば事件を解決してくれるはず。
ぎゅっと掌を握り締めたリルリカは、仲間達に厚い信頼の眼差しを向けた。
参加者 | |
---|---|
アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119) |
生明・穣(サキュバスの自宅警備員・e00256) |
望月・巌(一日千秋・e00281) |
エルナ・トゥエンド(主求めし機械少女・e01670) |
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574) |
リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497) |
ツー・ダオレン(紫電・e17931) |
マリアンネ・ルーデンドルフ(断頭台のジェーンドゥ・e24333) |
●理科室怪奇
夕闇が滲む薄暗い部屋の中には静寂が満ちていた。
夜の学校は独特の雰囲気があり、それが理科室となれば不可思議さは更に増す。
エルナ・トゥエンド(主求めし機械少女・e01670)は興味津々に、そっと踏み入った理科室を見渡した。
「ここが……理科……実験室?」
エルナにとって、こういった場所に入るのは初めてだ。
対する嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)は学校というものの懐かしさを噛み締めている。実験室の備品を使って悪戯してたなあ、と彼が呟く傍ら、望月・巌(一日千秋・e00281)は慎重に周囲を見遣った。
「動く骸骨とか学校七不思議の定番だよな。さぞかし怖かろうに」
傍目から見ると巌は平静を保っているが、付き合いの長い陽治には分かる。
「……巌、何時もの威勢はどうしたよ?」
にやにやと笑った陽治の言葉に、何でもないと首を振った巌は誤魔化そうとする。しかし、そのとき――窓際の紗幕めいた黒カーテンが微かに揺れた。
「!?」
驚いて飛び退いた巌に微かな笑みを向け、生明・穣(サキュバスの自宅警備員・e00256)はカーテンを動かした張本人である骸骨を指差す。
「ドリームイーターの御出ましだよ、巌」
穣は敵の出現を仲間に報せ、ウイングキャットの藍華に注意するよう告げた。
姿を現した骸骨模型はホラーと言うよりグロテスク。それも臓物を投げ付けて来るというのだから少々考えものだ。
「ウワッすげえ骨が動いてる! モツ蠢いてる気持ち悪ッ!」
ツー・ダオレン(紫電・e17931)は感じたままを素直な言葉に変え、ぐっと身構える。照明がついていることによって骸骨の造形と中身はあらわになっており、アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)は思わず口許を押さえた。
「厭よ厭よもなんとやら、というが……」
ボクスドラゴンのパフも心なしか敵の見た目に辟易しているようだったが、アマルティアの呼び掛けによって凛と佇まいを直す。
カタカタと歯を鳴らすドリームイーターは今にも襲い掛かって来そうだ。
ツーとアマルティアが静かに構えた最中、リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)は敵との距離を詰め、戦い易い布陣に付く。
「嫌悪というのは欠落して困るものか疑問だけれど、それもまたひとつの感情とか、危機意識とかそういったもので大事なのかもしれないね」
嫌悪が具現化した存在を見据えたリルカは、目下の問題はその自分が持ってない嫌悪を他者に撒き散らすこのロクデナシの対処なんだけど、と肩を落とす。
刹那、骸骨が謎の薬品を投げ付けて来た。
とっさにエルナが仲間の前に立ち塞がり、パフと藍華も防護の構えを取る。マリアンネ・ルーデンドルフ(断頭台のジェーンドゥ・e24333)は自分の代わりに薬品を被ってくれたエルナに礼を告げ、炎の力を漲らせた。
「少女の嫌悪はこの刃にて打ち砕いてみせましょう。力なきものの刃となるのがわたくしの役目でございますゆえ」
決意の言葉と共に、首の傷から溢れる炎がマリアンネの全身を包み込む。
拡がった焔は強く揺らぎ、敵への思いを宿しながら燃え盛った。
●実験骸骨
理科室は一瞬の間に戦場と化し、緊張感に包まれる。
ツーは空気が変わったことにも気圧されず、強気な印象の双眸を鋭く細めながら小型治療無人機を展開した。
「ビックリはしたけど蹴れない斬れないモンじゃない。だいじょぶだいじょぶ!」
ほら行くよみんな、と呼び掛ければドローン達が仲間の盾になってゆく。ツーの援護が巡って行くことを感じ、巌は気を取り直す。
「いいか、あれはドリームイーターだ。霊的なもんじゃねぇ」
そう自分に言い聞かせた巌は視界の端に見えたホルマリン漬けに一瞬は怯んだが、攻撃手としての役目を全うしようと心に決めた。
解き放たれた銃弾が骨を穿ち、衝撃を散らす。続けて行動した穣は戦闘中の巌は大丈夫だと判断し、自らも援護に移った。同様の事を感じたらしき陽治と目配せを交わしあった穣は敵に目掛け、青い光を放ってゆく。
「藍の結晶となりて歩みを止めよ」
穣の詠唱と同時に敵の動きが鈍くなり、其処に大きな隙が出来た。
「まあ、邪魔をさせてもらう。私は、お前たちが好かなくて、な」
更にアマルティアが刃を振るい、冷ややかな眼差しを向ける。藍華が清浄なる翼を広げる中、リルカはアームドフォートの主砲を一斉発射した。着弾音が激しく響くが、敵も反撃としてカエルの解剖実験を実演してくる。
思わずマリアンネが薄く眉をひそめたが、それは恐怖からでも嫌悪からでもない。そのようなものを具現化する敵への思いがマリアンネをそうさせていた。
されどエルナは少しでも仲間に嫌な光景を見せまいと懸命にジャンプする。
「……GFOS……起動……」
そして、エルナは放たれた魔力を受け止めながら己の力を解放した。
光の翼が全身を覆うように展開してバリアを形成する。癒しと防護の力が前衛に漲り、更なる盾となった。
アマルティアは身に纏っていたオウガメタルを鋼の鬼へと変え、拳に纏う。その際に口にしたのは敵への感情だ。
「人の心はその人の物だ。……デウスエクスが好きにしていいものではない」
何を嫌おうとも、何を厭おうとも心は唯一のもの。
人の心を好き勝手するデウスエクス相手への憤りを込め、アマルティアが突き放った一閃が骸骨の一部を削りながら迸った。
陽治も癒しはサーヴァント達が行ってくれると察し、攻勢に移る。
「どうしたって受けつけないモンは誰にだってあるがよ。そいつを引き出して具現化する方がよっぽど趣味悪ィぜ」
仲間に同じく、己の思いを零した陽治は雷杖を掲げた。其処に装着された金輪の武器飾りが揺れた刹那、激しい雷撃が敵を貫く。
ツーは彼の見事な杖捌きに小さく笑み、床を大きく蹴り上げた。
「どんどんいくよ!」
明るい声が理科室に木霊し、電光石火の一閃が骸骨の頭を穿つ。ツーには未だ恐怖と涙を知らない。理解は出来ても共感できないのだ。しかし、嫌な物が具現化された現状を黙って見ているような心は持ち合わせていない。
強く敵を見据えたツーの視線を追い、マリアンネは更なる焔をその身に纏った。
「血も腐臭も纏わぬならば、現実味の薄い模造品。わたくしの刃を阻むほどのものではございません」
尤も本物であれど見慣れたものだと口にしたマリアンネは次々と地獄の炎を解き放っていく。それによって臓物が炎に撒かれ、妙な匂いが辺りに充満した。
口元を手で覆ったリルカは半眼で敵を見遣り、焦げた空気を吐き出す。
「あんなにグロいとかやってくれるよ、本当。もうちょっと考えて生み出して欲しいね」
そうして、黒色の魔力弾を紡いだリルカはひといきに一閃を撃ち込んだ。悪夢には悪夢を、と巡った一撃は敵に幻を魅せる。
それにしても、思いの数だけ具現化するものが有るならば際限が無くて厄介だ。
「嫌悪も人それぞれだし。ん、理科準備室は寧ろ宝の……」
何かを呟きかけた穣は咳払いで誤魔化し、ブラックスライムに攻撃を命じる。鋭い槍の如く伸ばした一閃が敵を貫き、毒を与えていく。
その隙を狙った巌は即座に情報を発信し、何やかんやで敵を追跡する鋭いビームを撃ち出した。周囲は既に敵が放った色んなものが飛び散っているが、巌はちょっともいっぱいも汚れるのに変わりはないと気にしない精神でいる。
「汚れたら後で陽治が綺麗にしてくれる筈だからな」
「……うん」
皆を庇い続けるエルナもこくりと頷き、旋刃の蹴りを放った。
迫るホルマリン漬け、見せつけられる解剖、弾ける薬品。様々な攻撃が敵から放たれたが、エルナに精神的衝撃はほぼない。
そのうえ、敵の攻撃の度に陽治やパフ、藍華が援護に回っていた。任せておけ、と仲間に告げた陽治は癒し手として立ち続ける決意を固める。
そして、アマルティアは続く戦いの中で敵の死線を垣間見た。
「断ち――――斬るッ!!」
凛とした声と共に放たれたのは、七剣星・天幾。斬り下ろし、横薙ぎ、叩き潰し。地獄の力を借りた身体加速で以て敵の眼前に躍り出たアマルティアが放つ数撃が繰り出されたのは一瞬のことだった。
更なる剣閃は神速にも似た疾さと鋭さを宿し、骸骨のあばらを斬り裂いた。
●自分だけの感情
大打撃を受け、骸骨標本の身が揺らめく。
しかし、ケルベロス達はまだ決定打に辿り着いてはいないと悟っていた。
アマルティアがチェーンソー剣を振るい、ツーが破鎧の衝撃を放ち、リルカも幾重もの銃弾を撃ち放っていく。
マリアンネは敵が万が一にでも逃げ出さぬよう出入口を背にし、骸骨との距離を縮めた。その際に薬品が身を汚そうとも、マリアンネはたおやかな佇まいを崩さない。
「わたくし自身はどれだけ汚れようとも構いませんわ」
――血に汚れた過去に比べればこの程度は安いもの。言葉にしなかった思いを一閃に乗せ、マリアンネは光の翼で敵を切り裂いた。
そのとき、骸骨が穣に向けて試験管を投げ付けようとする。逸早く敵の動きに気付いたエルナは、それが相当な威力を持つと察して跳躍した。
「エルナの……いる……戦場で……地球人……を、倒す……事は……許されない」
自らも傷付きながら、身を挺したエルナは手痛い衝撃をくらう。だが、少女が倒れそうになる所へパフと藍華の癒しが巡った。
巌はエルナが倒れなかった事に安堵を覚え、全幅の信頼を寄せる。今の自分がすべきことは心配ではなく、敵を屠ること。
「護ってくれるという心意気を無駄にしないのが漢ってもんよ。くれぐれも言っておくが、怖いからじゃねぇぞ?」
「そうだな、巌は怖がってなんかいないよな」
さりげなく弁明する彼に陽治が悪戯っぽい笑みを浮かべてからかう。全て見透かされているような気がした巌は、ペインキラーで恐怖も消えねぇかな、と呟いた。
その遣り取りに双眸を細めた穣は、視線で合図を送る。
すると陽治と巌が頷き、三人は同時に床を蹴った。息ぴったりの動きで三方に分かれた彼等はほぼ同時に攻撃を行ってゆく。
「覚悟すると良いよ」
「精々踊ってくれや」
穣は炎を纏う蹴りを、巌は炎上光線を、そして陽治は森羅の気咬弾を放つ。
「喰らいつけ!」
焔とビーム、龍の気弾が敵を其々に穿ち、その力を大きく削り取った。ホルマリン漬けの謎生物は相も変わらず謎だったが理系男子としては興味津々。確かに気色は悪いが、この知識が人助けに役立つと知っている。
アマルティアは刃を斬り返し、徐々に弱りはじめた敵を見据えた。
「そろそろ、その不快な見た目も終いだ」
一瞬、デウスエクスに抜かれた自分の心臓を目の当たりにした記憶が過ぎったが、アマルティアは首を振る。次の瞬間、弧を描いた刃が敵の骨を圧し折った。
体勢を立て直したエルナも謎の薬品のベタベタ感に口をへの字に曲げながらも、降魔の一撃を振るう。
リルカはあと僅かで敵を倒せると察し、骸骨標本をしかと見つめた。この程度ならば昔から見慣れている。ただ、これを生み出した魔女は死ぬほど気に入らなかった。
「逃げられると思うなっ!」
威勢良く叫んだリルカは大量にばら撒いた弾丸を跳弾させ、一箇所に集束させる。かなりの衝撃が敵を襲っていく最中、ツーも更なる一撃を見舞いに向かった。
それが動く筈の無いものという点は、骸骨も自分も似たようなものかもしれない。
でも、と稲妻を纏ったツーは迅雷の如く駆ける。
「あたしの手が届くものを『生かしたい』って思考回路はあたしだけのもの。それを誰にも否定させない!」
躍る紫電。翔る刀刃。連撃が撃ち込まれていく光景に、マリアンネは敵の最期を感じ取った。いまさら骨も臓物も脅威に感じないが、目を背けたくなるほどに忌避するものがあることは理解できる。
それを他人を脅かす道具として利用されるならば猶更、望まぬことのはず。
「悪辣な魔女の手管、打ち砕いて御覧に入れましょう」
――勤勉なる処刑人は、世界の如何なる闇をも逃さない。
囁くような言の葉を紡いだマリアンネは白銀の刃で鋭い斬撃を放った。その軌道は避けることは能わず、罪業を斬り裂くように迸る。
刹那、妖しく蠢いていた骸骨は動きを止め、乾いた音を立てて崩れ落ちた。
●そして日常へ
戦いは終わり、理科室には元の静けさが戻ってきていた。
散らばった臓物や薬品はドリームイーターの消失と共に綺麗になっていたが、ケルベロス達に付いた汚れは何故かそのままだ。
アマルティアはパフを丁寧に拭いてやり、陽治は仲間達をクリーニングしてやる。
「うへーべっちょべちょ。陽治い、あたしも綺麗にしてー!」
「エルナも……お願い……」
ツーがぱたぱたと腕を振って主張すると、エルナも手を上げた。勿論だと応えた陽治は手際よく皆に能力を行使していく。穣も藍華を撫でてやった後、懐に忍ばせていた飴を仲間達に振る舞った。
「はい、皆の気分がすっきりすると良いね」
「すまない、助かる」
アマルティアが穣に飴の礼を告げる中、リルカは静かな思いを馳せていた。
「あたしが嫌悪するとしたら、標本じゃなくて魔女のほうだよ。もし会うことがあったなら、踏みにじる。徹底的に」
人の精神性を侵す夢喰いを嫌悪してやると決め、リルカはそっと瞳を閉じる。
マリアンネは聴こえた声に小さく頷きながら、建物に破損はないかと調べて行った。大丈夫だと判断したマリアンネはそっと立ち上がり、ふわりと微笑む。
「さあ、後は少女を迎えに行くだけです」
「そうだな。安心させてやりた……うわっ、何の音だ!?」
巌が同意しようとした時、急にガタンと何かが動いた音がした。予想外の物音に驚いた彼は思わず傍に居た穣と陽治に飛びつき、力一杯に抱きついていた。
「巌……苦し……」
「そろそろ止め――」
痛いほどの抱擁に陽治と穣が声をあげ、はっとした巌が腕を緩めようとする。しかし、ガタガタ動く何かの音はまだ続いていた。
「!!!」
怖がって再び二人を抱き締めた巌はもう言葉も発せない。陽治は本物の人体模型で驚かしてやろうとも考えていたが、この状態ではそれすら出来なかった。
そんなとき、机の下からエルナがひょこりと顔を出す。
「……おなかすいた」
「エルナさんが落とした飴を拾っただけだったのですね」
謎の音の正体に気付いたマリアンネは淑やかに淡く笑み、立ち上がろうとするエルナに優しく手を伸ばした。
ツーもくすくすと笑い、固まったままの中年三人をおかしそうに見つめる。
「学校潜入調査、ちょっと不気味だったけど楽しかったね!」
早く行こう、と皆を誘ったツーは学校や七不思議への好奇心に思いを馳せながら、夢主の少女の元へと駆けてゆく。
目を覚ました少女に会ったら、まずは笑顔を向けて伝えなければいけない。
怖いものはもう何処にも居ないよ。だいじょうぶ、と――。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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