「ここが件のトンネルね……」
まだ幼さの残る少女が呟き視線を送るのは、山中に存在する長いトンネル。時刻は深夜、あたりは薄暗く、トンネル内も不気味な明かりが明滅しており、いかにも何かが出そうな雰囲気だ。
「私は今最近噂になっているトンネルへとやってきています」
しかし手にしたカメラへと向かい喋る彼女の顔に浮かぶのは恐怖などではなく、笑顔。
「ここには吸血鬼が出るとのことで、果たして本当に吸血鬼が出るのか、調べてみようと思います」
言い終えると、レンズをトンネル内へと向け彼女は歩き出す、淡い光が弱く照らし出すトンネル内に彼女の足音だけが響く。
しばらく歩いて彼女は足を止める。
「あれって……」
笑いそうになる口元を隠す少女のカメラに映るのは、トンネルの中央に佇む人影。
ゆっくりと足音を殺し近づこうとする少女の目の前で、その人影は突如掻き消える。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
「え?」
突如背後から響いた声に少女が反応するより早く、その体から力が抜け、カメラが手から滑り落ち、乾いた音をたてた。
少女の胸を背後から一突きにした鍵が抜きとられる、吹き出るはずの血代わりにそれは薄暗いトンネルの中、霧が集まるかのように具現化する。
白い髪と病的なまでに白い肌。真っ赤な瞳と鋭い牙をもつそれは、少女が捜していた吸血鬼に他ならない。
少女の体がその場に崩れ落ちるのを気にも留めず、吸血鬼はマントを翻し、長い牙をのぞかせ笑みを浮かべた。
「不思議、オカルト、ミステリー、なんとも心くすぐられる言葉ですねぇ……ニア達がそう言うのはちょっとどうかなって気もしますがね?」
ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はやってきたケルベロスと自分自身を交互に指差しながら、軽く笑みを浮かべ、彼らに椅子を勧め、すぐに本題へと移る。
「なんでも最近、不思議な物事に興味を抱いている人が、その興味をドリームイーターに奪われる事件が発生しているようで……今回皆さんに担当してもらうのもその事件の一つとなります」
ニアの説明によれば既にその興味を奪ったドリームイーターは現場から姿を消しており、奪われた興味を元に現れたドリームイーターが事件を起こそうとしているので、その目標を殲滅して欲しいとのことだ。
「目標はどうやら吸血鬼を模したドリームイーターらしく、山中のトンネル内で単独で得物となる人を待つようですね。そうして得物が現れると牙を見せつける等の行動で、吸血鬼である事を誇示し、にんにくやら銀の聖印やら、吸血鬼の弱点といわれるものによる撃退行動等をとってきた相手はあえて見逃し、それ以外の得物は殺してしまうみたいですね……しかしなぜトンネルに吸血鬼なんでしょうね? そこは幽霊だと思うんですが……」
深夜の不気味なトンネルということで人があまり来る心配はないでしょうとニアは言いながら、敵の戦闘能力について説明する。
「吸血鬼の模倣ということで、吸血攻撃や魅了、小動物の使役等を行ってくるようですね、出て来る場所はアレなのに、変なところで凝ってますね? ちなみに、このドリームイーターはその存在を信じているものや、噂している人に引きつけられる修正があるようで、トンネル内で不都合があるようでしたら他にこの周辺であれば誘き出すことも可能でしょう」
説明を終えたニアは携帯端末から顔をあげ、ケルベロス達に笑みを向ける。
「どれほど出来がよかろうと所詮は偽者に過ぎませんから不死だったり銀の武器しか効かないなんてことはありません、遠慮なく転がして被害者さんが夏風邪を退く前に起こしてあげましょう」
参加者 | |
---|---|
サルヴァトーレ・ドール(赤い月と嗤う夜・e01206) |
ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243) |
月織・宿利(ツクヨミ・e01366) |
恋山・統(リヒャルト・e01716) |
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993) |
相馬・碧依(こたつむり・e17161) |
比良坂・冥(ブラッドレイン・e27529) |
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) |
●
長い間捨て置かれ、もはや用をなさなくなった街灯が点在する山中の狭い道路。
時刻は深夜、虫達の鳴き声すら聞こえない、静かな夜。
月と星の明かりのおかげで足元を確かめるのに不自由こそ無いものの、所々にぽっかりと口を開ける藪の暗闇は深く、ガードレールを一つまたげばその先には異界が広がっているのではないかと、そんなばかげた不安すら浮かぶ。
そんな山中の車道からやや外れた森の暗がりに、数人のケルベロス達が待機していた。
「吸血鬼、ねえ……」
恋山・統(リヒャルト・e01716)は視線の先、不気味な暖色の明かりが明滅するトンネルのぽっかりと開いた口を見据えながら、小さく呟いた。
夜な夜なトンネルに現れるという吸血鬼、そんなありえないような噂に惹かれやってきた一人の少女の興味から生み出されたというドリームイーターを討伐するために彼らはこの場に集まっていた。
「昔から話の途絶えない怪異の一つだな。噂だけで何事もなく済めばよかったものが、余計なことをしてくれたやつがいるもんだぜ」
言葉遣いこそ乱暴なもののサルヴァトーレ・ドール(赤い月と嗤う夜・e01206)の表情は柔らかく、愉快そうに口の端を歪めている。
その隣で端末を片手に相馬・碧依(こたつむり・e17161)は予め調べてきておいた吸血鬼に関する資料や噂に目を通しながら、膝に抱えたウイングキャット、ララの銀と黒の毛並みを優しく撫でている。
「実際のところ吸血鬼なんて存在はいるんだろうか……今回みたいに昔からデウスエクスの介入でそれらしい何かが存在していたのか……」
「ラウル君はそういうの信じるタイプ?」
ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)が思わず口から漏らした考察を隣で聞いていた月織・宿利(ツクヨミ・e01366)は、少し悪戯っぽく笑みを浮かべながらラウルへとそんな質問を投げる。
「吸血鬼を信じてるわけじゃないけれど……どうせ噛まれるなら宿利みたいな可愛い子がいいかな」
「ふふ、私に噛まれたいの? 私が吸血鬼になったら、ラウルくんの血、一滴残らず全部吸っちゃうかもね……。
なんて、冗談」
少し恥ずかしげに呟いたラウルに対し、宿利は笑いながら余裕をもって返し、すぐに表情を引き締めトンネルの前へと視線を向ける。
「そろそろ時間だな」
二人のやりとりを見て、おかしそうに笑みを浮かべたサルヴァトーレもそう呟くと、同じようにトンネルの前に集まった三人の仲間達の方へと意識を向ける。
●
「ここでいいんだよね?」
大きくほの暗い口を開けるトンネルの前、振り返ったルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)の動きと共に、彼女の赤い髪と腰に吊られたランタンを模したライトが揺れる。
「あぁ、まちがいないねぇ」
一拍をおいて、煙草の白い煙を吐き出しながら比良坂・冥(ブラッドレイン・e27529)はどこか楽しげに答えを返すと、口元へと再び煙草を運ぶ。
「昔、ここで玉突き事故があったとかでねぇ、現場を調べにきた警官が不思議な死体をみつけちまったんだよ。すっげぇ火が出たのに火傷ひとつない美人の死体をさぁ……気味悪く思いながら捜査を続けてたんだけどよ、気づいたら一人いねぇんだ。で、残った警官が手分けして探すと、トンネルから吊り下げられた同僚の死体が見つかった、その死体からは全身の血が抜かれていてなぁ……。
何かがおかしいと思って応援をよんだ警官が現場に戻ると美人の死体がなくなってた、それがこのトンネルに出るって言われる吸血のきの噂」
饒舌に語る冥の噂話に耳を傾けるプラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)とルージュの二人はしかし、とくに怖がるようなこともなくただその話の出来に感心しているようだった。
冥の方もただ喋りたかっただけなのか、そのリアクションを気にした様子もなく、新しい煙草を取り出すと、その先端に暗闇に浮かび上がる火を点す。
「吸血鬼って視線で魅了してチューチュー吸うんでしょ? えっちだよね。ちょっと親近感」
「ああ、昔から吸血鬼は人間の生き血を啜り、血を吸われた人も吸血鬼になるとされているね。もし本当にいるのなら、被害者が出ていないといいんだけれど」
プランと言葉を交わしながら、ルージュはやや難しい表情を浮かべつつ胸元の銀の十字架を弄ぶ。目標を誘き出すためとはいえ、こうしている間にももしかしたら被害者の少女が生み出されたドリームイーターに襲われているのではないかという不安が彼女の頭を過ぎっていた。
「まぁ、噂は噂、だよ。本当に吸血鬼がいるっていうなら、ぜひこの目で確かめてみたいもんだねぇ」
灰を灰皿に落としつつ、軽い調子で冥は呟きつつ、ルージュから視線をトンネルの方へと移す。
「そうかそうか、それ程興味があるのなら、じっくりと目を合わせて我を観賞するがよかろう」
振り向いたケルベロス達の目の前で、それは闇の中から溶け出すように湧き出でた。
長く伸ばされた白髪を一まとめに結い、闇に溶ける漆黒のマントを翻し、微笑むその口元には鋭く尖った犬歯が覗く。
怪しく輝く真っ赤な瞳を細めながら、笑みを作るその姿はまさに吸血鬼。
「あなたが吸血鬼? とってもきれいね」
「いかにも、我こそが夜を統べる怪異、吸血鬼よ。もっと恐怖し、命乞いをしてもいいんじゃぞ? ん? ん?」
プランの言葉に、薄い胸をはってふんぞり返る吸血鬼はチラチラと視線をルージュへと送る。敵のおかしな様子になんとなく事情を察したルージュは、首元から下げた銀のケルト十字をつまみ上げ、吸血鬼へと向けた。
「くっ、や、やめろ……! それをこちらへ向けるな」
頭を抱え込むようにして苦しみ始める吸血鬼であったが、その演技力はあまりにも低く、その場にいるケルベロス達もまた頭を抱え込みたい気持ちに襲われる。
「ふ、フフっ、貴様そこの女、お前は見逃してやろう。ただし、この小娘は我の得物としていただくぞ」
先程までの演技から一転、吸血鬼はプランを背後から抱きすくめるように拘束し、長い真っ赤な舌と牙をのぞかせながら口元をプランの首元へ寄せ、会心の笑みを浮かべる。
「一応聞いておこう。君は……君のその行動に命を賭すだけの誇りや信念はあるのかな?」
ルージュの凛とした声が静かな闇の中に響く。
「同族以外は皆所詮家畜、我らが他社の血を吸うのに何の理由が要る? 我は吸血鬼だ、それ以外に言葉は必要か?」
吸血鬼の形を模しただけのドリームイーターはそう言い放つ。自らを生み出した興味に忠実であるべく、自身が吸血鬼であると何よりも強く主張し、実現しようとする、それが彼女にとっての信念なのだろう。
「そうか……それなら、せめて吸血鬼として相手をしよう」
呟きながらルージュは構えをとり、吸血鬼を見据える。
「ほう、やるというのかこの我と、面白い。不死の怪異を倒せると思うのならかかってくるがよい、夜明けまで遊んでやろう」
対して余裕たっぷりに口元を片手で覆い、笑いを堪える吸血鬼に対し、答えを返したのは、囚われたままのプラン。
「それじゃぁ、一緒にあそぼ?」
吸血鬼が予想外の返事に視線を落とすと同時、彼女の魔力を秘めた瞳と吸血鬼の瞳が真っ直ぐに見つめあう。同種の力を持つ吸血鬼は一瞬でその正体を見抜き、すぐに視線を逸らすが、それが隙となる。
その横っ面を、冥が鞘ごと振りぬいた刀が殴打する。
よろめいた吸血鬼の手中からプランの体を体を引き戻した冥は口に咥えていた随分と短くなった煙草を、地に転がった吸血鬼に向けて吐き捨てると、新しい煙草に火を点しながら口を開く。
「吸血鬼望むコの興味を喰ったから吸血鬼やってんの? 律儀だねぇ。
俺の喰ったらどんなのでるか興味あるわ」
●
「なんじゃ貴様ら……ケルベロスであったか……」
吸血鬼が立ち上がり、周囲を見回せば彼女をぐるりと取り囲むように八人のケルベロス達が包囲を完成させている。
「まさか怖気づいたなんてことは無いだろ? シニョリーナ」
「言うではないか小僧、この我が怖気づくなどありはせん!」
サルヴァトーレのからかうような言葉に吸血鬼は牙をむき出し笑い、マントを翼のように翻し、先程屈辱的な行動をしてくれた冥へと迫る。
踏み込みから間合いへ入るまではほんの一瞬、振り上げた腕を吸血鬼は躊躇いなく振り下ろす。
赤く尾を引く鋭い爪の一撃は、咄嗟に割りいった統が変わりに受けていた。
狙った獲物をしとめられなかった彼女は舌打ちをしながら一歩退く、その鼻先をルージュの拳が掠める。
続けざまに蒼い炎を宿した拳が吸血鬼へと繰り出される、対して吸血鬼はそれにあわせるように爪による斬撃を繰り出し、闇の中に青と赤、対照的な光の筋が幾度となく浮かび上がり交差する。
「少女の夢……いや興味に徹するその姿勢は評価するが、お前には分不相応な代物だ還してもらうぜっ!」
もつれあうルージュと吸血鬼、位置を定めず動き続ける二人を見据え、放たれたラウルの弾丸は見事に吸血鬼だけを打ち抜き、その脇腹に銃弾を叩き込む。
続けざまに宿利の放つ刀による一閃が吸血鬼の足を浅く凪ぎ、よろめいた吸血鬼の胸元に、ルージュの蒼い炎を纏う拳が力強く叩きつけられた。
大きく後ろに跳び退った吸血鬼は体の具合を確かめるかのように軽く四肢を振る。
「なかなかどうして、やるじゃないか」
呟きながら両の爪に付着した血を舌先でゆっくりと舐め取りながら、吸血鬼は妖艶な笑みをケルベロス達へと向けた。
「思ったよりタフだねー、まるで本物の吸血鬼みたいだね」
気だるげに言う碧依はその態度とは裏腹に、ララと共に仲間を治療しつつ、援護に回り敵の動きを見逃さないよう目を光らせる。
「いい加減、本物であるとみとめたらどうじゃ!?」
叫びと共に、深紅の瞳を輝かせた吸血鬼はその魅了の視線をサルヴァトーレへと向ける。強く精神を揺さぶるその視線にサルヴァトーレは一瞬よろめくものの、予め碧依とララが施してくれていた耐性もあって、その誘惑を振り切って前へと踏み出す。
「あんたが人間だったならそのテンタツィオーネに乗っても良かったが、そうも言っていられないからな」
よほどその魅了の術に自信があったのか、何事もなく襲い掛かってくるサルヴァトーレに対し吸血鬼の対応が一瞬遅れる。逆手に握られた剣にグラビティを込め、サルヴァトーレが吸血鬼の首元を狙い一閃。
咄嗟に吸血鬼の突き出した左腕の半ばまで刃は到達し、その傷口からはモザイクが覗く。
「大人しく我の駒になっておればよかったものを、後悔するぞ」
吸血鬼の傷口からあふれ出したモザイクが蝙蝠の形を成し、雪崩をうってサルヴァトーレへと襲い掛かる。
「悪いけど、先約があるんだ。変わってくれるかな?」
サルヴァトーレの返事を聞くまでもなく、入れ替わるように前に出た冥は押し寄せる蝙蝠の群れを刀で殴り、叩き落とし、その侵攻を食い止める。
その闇色の奔流の中、流れに逆らうように襲い来る蝙蝠の姿を吸血鬼は見逃さない、攻撃の手を緩めモザイクの蝙蝠を迎撃へとまわすことでプランの操る蝙蝠を撃退しその手元へと退かせる。
「貴女と私似てるね、血を吸うことはできないけど」
使い魔の蝙蝠を抱きとめたプランと吸血鬼は視線を交わし、互いに笑みを向ける。
「互いに古き伝承より伝わる怪異、しかして定命に縛られたその力では我を倒すには足るまい」
「それは試してみないとわからないんじゃないかな?」
ルージュの放った銀色の矢が闇を裂き、真っ直ぐに吸血鬼へと飛来する。モザイクの蝙蝠を迎撃に無かわせるものの、そのこと如くが打ち落とされ、吸血鬼は再び左腕を突き出し、掌で矢を受ける。
威力を殺しきれず、弾かれた左腕は先程サルヴァトーレから受けた傷の部分からちぎれとび、藪の中の闇へと消えていく。
「さあ、行こうか、お嬢さん」
失われた腕を自然、目が追ってしまうのは致し方のないこと。ルージュの作り出したその隙に乗じて、統の振るったチェーンソーが吸血鬼の胸元を袈裟に切り裂く。
深く抉られた傷跡に広がるのは血肉の赤ではなく、やはり、モザイク。
「フフ、銀のチェーンソーであったら危なかったやもしれぬ、な?」
傷口を押さえながら、なんとか倒れることなく踏みとどまった吸血鬼は自らの体に違和感を覚える。まるで石になったかのように体が動かない。振り返ることが出来れば原因である、統と共にあるビハインドの姿が彼女にも視認できたであろう。
「好奇心は猫を殺す…とも言うけれど、貴方達が人を傷つけて良い訳ではないのよ」
「覚悟しなっ!」
だが動くことの出来ない彼女の目に映るのは、ラウルと宿利、二人が構える武器の輝きだけだ。
続けざまにラウルが引き金を引き、銃声が幾度となく木霊する。無数の弾丸は地を、街灯を、トンネルを跳ね、吸血鬼めがけ四方から飛来する。瞳や心臓を銃弾に貫かれ、吸血鬼が苦悶の表情を浮かべるものの、痛みに体をよじることすら今の彼女には出来ない。
その体を宿利の振り上げた縛霊手の爪が引き裂き、地に落ちるより早くその肉体はモザイクとなり、闇の中に溶けて消えていった。
●
戦いが終ると、ケルベロス達は周囲の修復をあとへと回し、トンネルの中へと急ぎ向かう。
足音の反響する薄暗いその道を中ほどまで進んだところで、ケルベロス達は道の真ん中で眠りこける少女の姿を見つけ、急ぎ駆け寄る。
碧依がその体をかるく揺り動かすと少女はすぐに目を開いた。
「あれ、吸血鬼は……?」
目を覚ましたばかりの少女は倒れる前確かに目撃した人影を探し、周囲を見回す。
「あら、私を探しているの?」
そんな少女をからかうように、プランは吸血鬼の真似をするように犬歯を見せるような笑みをつくりながら、少女の目を覗き込み魅了しようとする。
「起きたばかりの子をあまりからかうのは感心しないよプラン」
そういいつつ、ルージュがプランの頭に手を載せると、プランは最後に熱っぽい視線を一瞬だけ少女に送り、素直に身を引いた。
「立てるかいシニョリーナ?」
その様子に苦笑しながらサルヴァトーレが少女に手を貸し、その体を抱き起こす。
少女には外傷もなく、特に服が汚れているということもなかったものの、彼女があわてて確認したカメラには決定的瞬間を捉えた映像は残されていなかった。
そのことに少女は酷く落ち込んだように俯いている。
「よかったら、オジサンの知ってる吸血鬼の話聞く?」
「そういうのが必要なら、ボクもいくつか知ってるよ」
「ほんとですか!?」
先程まで打って変わった少女の食いつきに、碧依は少し驚きつつ、冥は煙を吐き出しながら口の端を吊り上げる。
彼らは喋りながらゆっくりと出口を目指し歩いていく。
最初から最後まで、ずっと同じ場所から眺めていた蝙蝠の存在に気づかぬまま。
作者:雨乃香 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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