夏の陽射しに立ち向かえ

作者:質種剰


 初秋とは名のみの本格的な暑さに、人々が辟易し出す七月某日。
「あぁっづぅ〜〜!!」
 安アパートの一室では、たった今外から帰ったばかりの女が、扇風機の前に寝そべっていた。
「ああもう何でこんな暑い時に買い物行かなきゃいけないんだろ……かといって夕方頃行ったらろくな刺身や揚げ物残ってないし……」
 人が見ていないのを良い事に着ていたシャツでバサバサと空気をかき混ぜてまで涼を取る女は、心底夏の暑さ――ギンギンと照りつける陽光に参っているらしい。
 狭い部屋には女の汗の臭いが蒸れこもっていて、彼女が炎天下の中どれだけの距離を歩いたか想像するには容易い。
「あー……夏なんて無くなっちゃえば良いのに……」
 寝転んだままミネラルウォーターをボトルごとガブ飲みして、女が呟いた、その刹那。
「うっ……!?」
 女は突如、人形の糸が切れたかのように床へぐったりと沈み込み、動かなくなった。
 意識は失っているも、女に外傷はなく、死んでもいない。
 いつの間にか室内に現れた第六の魔女ステュムパロスが、『鍵』で女の心臓を穿った為である。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 ステュムパロスは笑い声を立てると、女から奪った『夏の強い陽射しへの嫌悪』を用いて、新たなドリームイーターを生み出す。
 そのドリームイーターは、鉄を熱したかのような赤々と光る身体を持ち、自らの体温で周りの空気をゆらゆらと揺らめかせていた。


「皆さんは、苦手なものとかおありでありますか? ゴキブリとか嫌いな方は多いでありますよね……そういう苦手なものへの『嫌悪』を奪って、事件を起こすドリームイーターがいるみたいでありますよ」
 小檻・かけら(サキュバスのドリームイーター・en0031)が、ケルベロス達へ語り始める。
「『嫌悪』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようでありますが、その奪われた『嫌悪』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターにより、事件が起こりそうなのであります」
 そんな訳で、今回は怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、奴を見つけて撃破して欲しい。
「このドリームイーターを倒す事ができれば、『嫌悪』を奪われてしまった被害者も、目を覚ましてくださる筈でありますよ」
 かけらはそう請け負った。
「怪物型ドリームイーターは、赤く光る球体から光の尾が房のように垂れ下がった外見をしていまして、その光る房が手足らしく球体を支えているのであります……何というか、夏場には見たくない暑苦しい繊維の塊に感じるでありますよ、ボサボサで」
 灼熱ドリームイーターは、とある住宅街の道路を這い回り、道行く人へ飛びかかって覆い被さり、その身に宿した灼熱で焼き殺してしまうという。
「フレイムグリードとナパームミサイルに似た攻撃を使い分けてくるのでお気をつけくださいませ」
 幸いにも被害者女性のアパートの位置が判明している為、ドリームイーターが道路へと這い出てくるのを待ち伏せて襲撃をかければ、一般人の被害も防げるだろう。
「生理的に嫌なものはどなたでもおありかと存じますし、そんな気持ちを奪ってドリームイーターにするなぞ許せないであります。皆さん、どうか討伐を宜しくお願いします!」
 かけらがそう皆を激励する傍ら、
「やれやれ、また暑苦しい敵か……」
 村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)が、涼しげな面に億劫そうな色を浮かべて呟いた。
 何故なら、この灼熱ドリームイーターの存在は、彼の調査によって判明したものだからだ。


参加者
エイン・メア(ライトメア・e01402)
ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
揚・藍月(青龍・e04638)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
草間・影士(焔拳・e05971)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
リディア・アマレット(蒼月彩雲・e13468)

■リプレイ


 とある住宅街の一角、アパート前にて。
「夏の暑さは理の一つではあるけどね。俺としてはあまりくうらあとやらはお勧めはしないかな」
 揚・藍月(青龍・e04638)は、この炎天下でも涼しい顔で、灼熱ドリームイーターが出てくるのを待ち構えていた。
 長く青い髪と切れ長の眼を持つドラゴニアンで、その理知的な表情は年齢以上に落ち着いている美青年。
 また、彼に付き従うボクスドラゴンの紅龍は、藍月へ全幅の信頼を寄せている。
「きゅあっきゅあきゅあ」
 今も何やら鳴き声を発して、藍月へ語りかけていた。
「ん、紅龍は暑いのは嫌いではない? 属性が火なのだから、さもあろうな」
 納得してひとり頷く藍月。
「暑苦しい、か。僕の育った森は東北の方だから、涼しい方だとは思うけど」
 そう呟く源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)は、額に汗を滲ませつつ立入禁止テープを張って回っている。
 ドリームイーターとの戦闘中に一般人が戦場の道路へ入ってこないよう気遣ってだろう。
「都会は暑いよね。気持ちは分かるかも。こういうのにもドリームイーターが付け込むんだから厄介だよね」
 汗を拭い顔を上げる瑠璃。
 故郷を追われたり母との死別という辛い過去を持つ彼だが、義姉と過ごした日々が瑠璃の精神を健やかに育んだらしい。
 年より大人びた表情や澄んだ紫の瞳に、彼の誠実そうな心根が表れている。
 しっかり者として義姉のサポートに回る少年は、心身共に成長期真っ只中だ。
「誰にだって嫌いなものってありますよね。それを元にドリームイーターさんを生み出すなんて悪趣味です!」
 一方、小さな両の拳を握り締め、ステュムパロスへ憤慨するのは、土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)。
 綺麗な緑の髪と浅黒い肌がどことなく華奢な雰囲気を際立たせている、とても優しそうなオラトリオの青年だ。
 彼は心が躍るワクワクする瞬間をかけがえのない宝石と称し、それらに沢山出逢って心の中の宝石箱をいっぱいにしたいという爽やかな大望を抱いている。
「もさもささんを倒して女性をお救いしましょう」
「うむ、わしも出来る限りの事はしよう」
 回復の準備万端な岳は、同じメディックのガイバーン・テンペスト(ドワーフのブレイズキャリバー・en0014)と頷き合った。
「暑苦しいと、思う気持ちは理解できますが、夏が無ければ、秋の実りも存在しませんからね……」
 北方や寒冷の地に住まう方からしてみれば、贅沢な悩みです。
 リディア・アマレット(蒼月彩雲・e13468)は、柔らかな口調ながらも至極もっともな意見を述べた。
 内面の優しさや女性らしさがよく浮き出ている端整な顔立ちで、それを少しでも勇ましく見せようと、左の頬に戦化粧を施しているリディア。
 それでも、夏の風にふわりと靡く緑髪や、眩い陽射しに細めた金の瞳の美しさは、隠しようが無い。
 欧州の隠れ里めいた山村出身で、少々おっとりした綺麗なお姉さんである。
「うむ、夏の暑さを嫌悪する気持ち、まあ分からんでも無いが、それでこんな事になるのは何とものう……一般人もわし等のように、防具特徴の温熱適応が使えれば良いのにのう」
 と、妙に年寄り臭い物言いで溜め息をつくのは、ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)。
「何分、今回は敵が敵じゃからの。戦闘中にしろ戦闘後にしろ、かなり気温が上がりそうじゃから、かくいうわしも一応暑さ対策に用意してきたわい」
 サラシを巻いた胸を張って、クールスタイル由来の温熱適応を誇るガナッシュだが。
 実際、彼女自身とて周りからすれば非常に暑苦しく見える装いをしていたりする——何せ。この真夏の炎天下に黒い学ランを着ているのだから。
 尤も、季節問わず学ランを纏えなくては熱血番長を名乗る資格が無いのかもしれない。
 さて。
「夏は暑い、それは仕方のない事です。自然の摂理には逆らえませんから」
 だからと言って夏がなくなってしまえば良いなんて、穿った考えなのですっ。
 ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)は、いつものように巧みな弁舌を披露する。
「暑いからこそ楽しめるレジャーやイベント、暑いからこそ美味しくいただけるグルメがあるのです。例によってその認識、論破するのですっ」
 だが、そこまで説いたところで、ガイバーンにトントンと肩を叩かれた。
「……えっ、相手はビルシャナさんではなくドリームイーターさん? ……失礼しましたー……」
 どうやら、いつものようにビルシャナの信者を説得するものと勘違いしていたらしい。
 素直にぺこりと謝る様が可愛らしい——最近ダイエット目的の走り込みに凝っている——クラシックな格好のメイドさんである。
 一方。
「んむんむーぅ……もわーぁっとした暑さとは、随分と悪質な嫌がらせをするドリームイーターさんですーぅ」
 エイン・メア(ライトメア・e01402)は、独特の間延びした語り口でドリームイーターを非難した。
 紫の長い髪とつぶらな金の瞳が愛らしいサキュバスで、どんな服装でも使い方の差はあれ赤色を好んで着る美少女だ。
「『嫌悪』の魔女さんがお見えにならないのは残念極まり無いですが」
 そう洩らす様からは、エインの信条——自らを愉しく蔑み他者を楽しく羨む——特にデウスエクスとは如何なる手段を以てしても対等であらんとする、歪んだ平等精神が垣間見える。
「とりあえずこのモップもどきを片すのが第一! ですねーぇ♪」
 断言するエインの視線の先には、今しもアパートから這い出てきた灼熱ドリームイーターが。
 まさに赤熱した光の繊維を纏う巨大モップといった趣である。
 しかし、エインは景色が揺らぐ程の熱さを受けても一切顔を顰めず、ただドリームイーターを喰らう事だけを愉しみに肉薄。
「マッドプライズ『ザ・ドラゴン』~ぅ♪」
 ドラゴンの眷属より鹵獲した力を快楽エネルギーを以て開放、翼と腕の一部を魔力で一体化して、ドリームイーターの全身を握り潰さんと力を込めた。
「グゲェェエエ!」
 そのぐにゃぐにゃした感触から手応えは感じられずとも、灼熱ドリームイーターは明らかに痛がって光の房を振り乱している。
「なるほど、嫌悪が元になっただけの事はある姿をしている」
 草間・影士(焔拳・e05971)が、その異様な巨体を見やって、納得した声を出す。
 立入禁止テープで道路の封鎖が終わるまでは一般人の往来を、今はドリームイーターの攻撃が人家へ行かない様、注意深く観察していた彼だ。
 漆黒の長髪を無造作に流した美青年でその佇まいに隙は無く、ワイルドな顔立ちに生き生きとした表情を与える瞳が今は鋭く光っている。
「ただ、俺が嫌悪するのはその程度の低い化け物屋敷の様な姿じゃなく。その後ろにある、人を足蹴にする事をなんとも思わない見下げ果てた性根だがな」
 影士が嫌悪感を顕わにして言う間にも、灼熱ドリームイーターは焼夷弾に似た火球をばら撒いて攻撃してきた。
「グギャギャギャギャギャ!!」
 赤い炎がバラバラと飛び散り、エインやニルスを炎に巻こうとした刹那。
「そうはさせんよ」
 藍月と紅龍がそれぞれ手分けして、クラッシャーの女性陣を庇い、代わりに火傷を負った。
「夏には少しうっとおしい暑さだ。少し涼しくしてやるか」
 前衛陣が被弾する様を見て、すぐ反撃に出る影士。
 チェーンソー剣の刃でぼさぼさと嵩張る光の房を斬り裂き、傷口を広げた。
「元はケガレを祓う術だが……今回は今の状況を覆す為に使わせて頂こう!」
 藍月は即座に己がグラビティで生み出した水を展開。
 前衛の仲間へ迫る不浄に対抗する障壁と為すべく、青龍水域を造り上げる。
「きゅあっきゅあきゅあきゅあっ!」
 紅龍も、藍月と息の合ったタイミングでボクスブレスを吐き出し、ダメージを与えた。
 藍月に言わせると、
「貴方自身が暑いのが嫌いなようですが残念ながらもっと暑さを味わっていただきましょう……だとさ」
 戦闘中盛んに鳴いていた紅龍は、灼熱ドリームイーターへかような挑発をしていたそうな。
「ううん……物凄く暑苦しい見た目だから、早く倒したいね」
 と、整った面へ苦笑を浮かべるのは瑠璃。
 半透明の『御業』を降ろすと同時にけしかけて、灼熱ドリームイーターの巨体を鷲掴みにした。
「いくら他者を嫌悪させても決して満たされることはありませんよ。貴方の心から生まれた自然な感情ではないのですから」
 ……そう生まれ落ちさせられた貴方には、止める術はないのでしょうけれど。
 ドリームイーターを複雑そうな声音で諌める岳は、ビリビリと飛ばした電気で雷の壁を構築。
「雷光の守護を!」
 ディフェンダー陣の体力を回復すると共に、彼らの酷い火傷をも治癒した。
「ん……『もふもふ』は、年中もて囃されている気がしますが……こういう物は、駄目なのでしょうか?」
 リディアはおっとりした性格故か、他の仲間達ほど灼熱ドリームイーターの見た目に不快感を抱かぬらしく、マイペースに首を傾げている。
 流星の煌めきと重力宿りし飛び蹴りを炸裂させて、ドリームイーターの機動力を奪う際も、その身のこなしは軽く、暑さを感じさせない。
「この姿形……小さくしてストラップのマスコットにすれば、結構受けそうですね」
 すとんと着地してからも、妙にモップもどきへ好意的なリディアだ。
「今回は敵もジャマーじゃし、面倒になる前にこれを掛けておくぞい」
 ガナッシュは縛霊手の祭壇から紙兵を撒き散らして、前衛陣の怪我を治すと共に彼らの異常耐性をも高めた。
「日頃のトレーニングの効果を見せるのですっ」
 大地をも断ち割るかの如き、強烈な一撃を繰り出すのはニルス。
 彼女のライドキャリバーであるトライザヴォーガーも、全身に炎を纏って突撃、灼熱ドリームイーターの火傷を更に重くした。


 灼熱ドリームイーターとの暑苦しい戦いは続く。
 ケルベロス達はデウスエクスだけでなく夏の暑さをも敵に回し、何人かを除けばそれこそ汗みずくで立ち回る羽目になっていた。
「暑すぎても自然の理に乱れが生じる。何より貴殿もそれでは辛いだろう、すっかりと涼むがいい」
 それでもやはり涼しい顔のままな藍月は、縛霊手の掌から巨大光弾を発射。
 御霊殲滅砲は真っ直ぐに灼熱ドリームイーターを撃ち貫いて、少なくない衝撃に全身を竦ませた。
 紅龍はボクスタックルをぶちかまし、灼熱ドリームイーターの体力を着実に削っている。
「うん、ちょっと重いけど、行くよ!!」
 その傍ら、瑠璃は自らに秘められし太古の月の女神の力を、一振りの大きな剣へと顕現。
 灼熱ドリームイーター目掛け一気に振り下ろし、その段違いな威力を見せつけた。
 大き過ぎる力を無理やり剣にした為に扱いが難しいそうだが、今はスナイパーの命中力に助けられて、無事に攻撃を当てる事ができた。
「グギギギギ……!」
 灼熱ドリームイーターは苦悶の叫びをあげながら、敵の生命力を吸い取る炎弾を発射してきた。
「ポジティブに考えるのですっ、暑ければたくさん汗をかいて体脂肪も落ちる。そしてドリームイーターさんもやっつけてまさに一石二鳥なのですっ」
 それを喰らったニルスが、汗だけで到底済まぬ火傷を負いながらも、彼女らしい前向きさで強がりを言ってみせた。
 射出するは、グラビティを中和して敵を弱体化するエネルギー光弾。
 ゼログラビトンの威力は大きく、赤々とした光の房をボロボロに引き裂いた。
 トライザヴォーガーはギャギャギャと激しいスピンをかけて、ドリームイーターの光の尾を少しでも多く轢き潰そうと頑張っている。
「よしよし、今回復するのじゃ」
 ガイバーンは小型無人治療機を操り、ニルスの火傷を消し去って弾傷も塞いだ。
「皆さんの幸せの為に負けられません! この地球に沢山の笑顔の花を咲かせるんですから!」
 思い切り大地を叩いて地脈を操り、光の衝撃波を見舞うのは岳。
 撃ちつけた拳は大地の力の象徴たる宝石——橄欖石の輝きを放って、幸せや豊穣の概念秘めし光の奔流が、大地を砕き割りながら灼熱ドリームイーターへ襲いかかった。
「さて、覚悟しとけよ」
 影士は灼熱ドリームイーターの光の尾をガッと片手で掴んでは僅かに引き寄せ、バスターライフルの銃口を向ける。
 ズドンッ——!
 威圧感に満ちた魔法光線が、モップもどきの光の房を容赦無く焼き尽くして激痛を齎した。
「グギャアアアアッ!」
「そんなに暑いなら、たっぷり冷やしてやるわい! こいつは追加じゃ!」
 チェーンソー剣を抜き払い、卓越した技量からなる達人の一撃をぶちかますのはガナッシュ。
 鋭い刃風と太刀筋で、灼熱ドリームイーターへ宣言通りに手酷い凍傷を残した。
「遠慮するな、まだまだいくぞい」
 ニヤリと笑う彼女の言葉は頼もしい。
「んむーぅ、まだまだ行きますよーぉ♪」
 エインは、光輝く『聖なる左手』で灼熱ドリームイーターを鷲掴み。
 ——ゴスッ! ドカッ! バキィッ!!
 力任せに引き寄せては漆黒纏いし『闇の右手』で何度も何度も殴りつけ、恐ろしい程の打撃でモップもどきをぶちのめす。
「グラビティ・チェイン、収束開始。照準補正完了。射線クリア。R-1、発射します!」
 凛とした声音でアームドフォートに接続した二対四枚の集束翼を展開するのはリディア。
 周囲のグラビティ・チェインを集束圧縮したのち、砲身から高出力の破壊光線を発射し、灼熱ドリームイーターの巨体へ大きな風穴を開けた。
 この武装、正式名称を『Under the MoonLight System Refine mk-1』というらしい。
「ギ…………!」
 もはや声もなく地面へ崩れ落ちるドリームイーター。
 空気を揺らめかせる熱さが次第に収まっていく。
 それこそが、灼熱ドリームイーターの絶命した証拠であった。
(「大地のゆりかごでどうか安らかに……」)
 消え逝く遺骸を前に、岳が黙祷を捧げる。
「やれやれ、何とも暑苦しい敵じゃったのう」
 ガナッシュは、無事に討伐し終えた安心から、ふっと表情を緩めて。
「それにしても『夏の強い陽射しへの嫌悪』でドリームイーターが出るのなら、冬になったら、冬の寒さの嫌悪でドリームイーターが出てきそうじゃの」
 そんな事を言った。
 藍月は、高熱で抉れた地面やや戦いの痕跡を修復すべく、青龍の水域を使用。
「夏の暑さは日本の誇る風物詩さ。とはいえ熱中症等で身を崩す者も多い。皆気を付けるといいだろう」
 何より……こういう時は水を楽しむ時期でもあるね。
 彼が呟く通り、水の障壁は見た目にも涼しそうだ。
 その隣では、火属性の紅龍がいさかさか躊躇いつつも属性インストールを施している。
 炎を用いたヒールでは気分が余計暑く感じはすまいかと、気を遣っているのかもしれない。
「地下のガス管、水道管は無事な様ですね。後は、通電線と電話線ですが……」
 リディアや瑠璃は、倒れた電柱をヒールで建て直したりと、アパート近辺のライフラインを気にして重点的に点検している。
 さて、被害者女性を心配してアパートの住まいへ突撃するのは、エインとニルス。
「女の人は意識戻ってますーぅ?」
「お届けものですーっ」
 ニルスは、冷え冷えのアイスコーヒーと夏野菜のカレー、そして『夏を楽しむガイドブック』なる書籍を、呆然とする女性へ差し出した。
「え……?」
 女性の方は唖然とするばかりだが、彼女が呼び鈴に応じて扉を開けた時、エインとニルスの顔に安堵の色がありありと浮かんだのは、言うまでもない。
「暑くて大変でしょうけど、それでも夏を嫌いにならないで下さいね」
 いきなり押しかけて食料を差し入れ、更には団扇でぱたぱた扇いでくれるニルスへ、女性は不思議がるばかり。
「んむ、色んな意味で部屋の惨状はさて置き、スポドリをプレゼントしときますーぅ!」
 あ、しっかりと塩分も摂るんですよーぉ?
 エインは、魔窟一歩手前の散乱した部屋の中を見回してから、スポーツドリンクを数本彼女へ進呈するのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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