黙示録騎蝗~束縛のアンカー

作者:なちゅい

●全ては最終作戦の為に
 夏の夜、とある山の中にある岩場にはしとしとと雨が降り続く。
 その雨に濡れながらも集まる一団の姿があった。一見昆虫の姿をした人型の彼らはローカスト達だ。
「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
 この部隊……不退転侵略部隊リーダー、ヴェスヴァネット・レイダーが、声を張り上げる。ローカスト達は現状、敗残兵と成り果てている状況なのは間違いない。
 しかし、この問いに、隊員達は、『否っ!』と声を揃えた。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
「ならば、ゲートなど不要」
 意外にも、隊員達の士気は高い。
 彼らは、太陽神アポロンより、黙示録騎蝗の尖兵となり、今後の戦いの為に必要な大量のグラビティ・チェインの獲得を命じられたのだ。
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
 それは、単騎で人間の町に攻め入り多くの人間を殺して可能な限り多くのグラビティ・チェインを太陽神アポロンに捧げるという、生還を前提としない、決死の作戦であった。
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
 意気軒高な不退転ローカストに、指揮官ヴェスヴァネットも拳を振り上げて応える。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
 このヴェスヴァネットの檄を受け、不退転侵略部隊のローカスト達は、1体、また1体と移動を開始していく。
 降り続く雨の中、不退転部隊の最後の戦いが始まろうとしていた。
 
 ヘリポートへとやってきたケルベロス達。
 そこでは、リーゼリット・クローナ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0039)が、ヘリオンの離陸準備をして待っていた。
「ローカスト・ウォーは本当にお疲れ様。皆のおかげでローカストのゲートを破壊することができたよ」
 これは非常に喜ばしいことだ。有史上初めて、ゲートの破壊に成功したのだから。
 ローカストの新たな侵攻を止めることができたのは大きい。今後の戦いにも弾みがつくことだろう。
 しかしながら、彼女はすぐに神妙な顔をする。
「……ただ、撤退した太陽神アポロンが、ローカストの軍勢を動かそうとしているのが確認されたんだ」
 太陽神アポロンは『黙示録騎蝗』の為に大量のグラビティ・チェインを求めており、不退転侵略部隊を、グラビティ・チェインを集める為の捨て駒として使い捨てようとしているらしい。
「不退転侵略部隊は、1体ずつ別々の都市に出撃して、ケルベロスに殺される直前まで人間の虐殺を続けるようだよ」
 予め、予知にあった場所の住民を避難させると、他の場所が狙われるだけでしかない。それもあって、被害を完全に抑えることは不可能だ。
 しかし、不退転侵略部隊が人間の虐殺を行うのは、太陽神アポロンのコントロールによるものであり、決して彼らの本意では無い。
「不退転侵略部隊のローカストに対して、正々堂々と戦いを挑んでほしいんだ。相手に誇りある戦いをするように説得する事が出来たなら、彼らは人間の虐殺ではなく、ケルベロスと戦う事を選択してくれるはずだよ」
 不退転部隊のローカストはその名の通り、絶対に降伏する事は無く、死ぬ直前まで戦い続け、逃走する事も無いだろう。
「戦いは激しくなると思うけれど、このローカスト達に敗北と永遠の眠りを与えてほしいんだ」
 ローカストが現れる場所は、岡山県倉敷市内のアウトレットパーク内だ。出現時間は昼の2時頃と見られている。
「夏休みに差し掛かっているからね。学生達も多く訪れているはずだよ」
 避難状況に関しては先ほど告げた通りだ。繰り返しになるが、被害は避けられない。それを踏まえて、心してローカストとの戦いに臨んで欲しい。
 この場に現れる不退転侵略部隊の1人は、束縛のアンカーと名乗る。
 一見すると、ハチが2足歩行しているような姿をしているが、腹部をメインに戦闘能力を向上させるような強化手術を施させている。
 戦いでは、腹部の先からアンカーボルトのような杭を射出して、相手を壁に繋ぎとめようとしてくる。
 その上で、同じく尾から毒針を飛ばして敵を弱らせ、強靭な顎で喰らいつくのがこいつの戦闘スタイルのようだ。なお、自重の為か、1メートル以上高く飛ぶことは出来ないが、アンカーで直接殴打しながら強襲してくることもあるので注意したい。
 一通り説明を終えたリーゼリットはヘリオンのタラップに足をかけ、ケルベロス達に乗るよう促す。
「とにかく、すぐに出発しよう。人々を守る為に。そして、このローカストを倒す為にも」
 彼女の決意に応じたケルベロス達は、ヘリオンへと乗り込んでいくのだった。


参加者
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
鈴代・瞳李(司獅子・e01586)
空鳴・無月(憧憬の空・e04245)
石流・令佳(暴走族総長兼社長令嬢・e06558)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
リズナイト・レイスレィ(碧蒼の風・e08735)
マユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)

■リプレイ

●不退転の覚悟に対して
 岡山県某所へと降り立つケルベロス。その表情は険しい。
「種の存続の為にはどんな手でも……恐らく、それはローカストにとって正義なのでしょうね」
 リズナイト・レイスレィ(碧蒼の風・e08735)が語るのは、自分達が討伐すべき相手のこと。
「完全に、捨て駒扱い、だね……」
 空鳴・無月(憧憬の空・e04245)がぼんやりとした表情で小さく呟く。
(「そんなに、死にたいなら、勝手に死ねばいい……。人を、巻き込まないで、ほしい……」)
 犠牲者は避けられないと、はっきり断言されている。無月は表情を変えなかったが、守れぬ人がいることに彼女は体を振るわせてしまう。
「それを許すわけにはいけません。しっかり守り抜いて見せましょう」
 これ以上、被害を拡大させぬ為に。リズナイトは仲間へとそう呼びかけた。

 倉敷のショッピングモールへとやってきたケルベロス達。
 夏休みの賑わいから一変、そこは人々の悲鳴に包まれていた。
 駆けつけてくるケルベロス達は、事前に共通作戦を立てている。それは、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が立案したものだ。
「もう、これ以上殺させない……! ローカストがどうであれ、虐殺はさせないですよ!」
 真理の目に赤いものが目に入る。そして、それに包まれて倒れる人々の姿が……。
「ここは私達が食い止める。落ち着いて避難を!」
 元軍人の鈴代・瞳李(司獅子・e01586)が通る声でここを訪れていた客に呼びかける。逃げ遅れる者の補助をしつつ、円滑に人々の避難へと当たっていく。
 その間に、ケルベロス達は殺戮を行うローカストと一般人の間へと入り込み、その前へと立ち塞がった。
「殺陣号、頼んだぞ」
 石流・令佳(暴走族総長兼社長令嬢・e06558)がライドキャリバーへと指示を飛ばすと、殺陣号はエンジン音を唸らせ、逃げる一般人の盾として動き始める。
 そして、ケルベロス達は改めて敵の姿を見やる。二足歩行のハチのような姿をしたローカスト。膨らんだ腹をメインに、全身が機械に改造されている。
 『束縛』のアンカー。それがこのローカストの名だ。
「……お前達の、不退転の覚悟は、認める。ローカストの戦士」
 最初にそいつへと呼びかけたのは、無月だ。
「けれど、力のない人々を、殺すのが、戦士の誉れだとは、思わない」
 そいつは、自らを遮るケルベロスを睨み付けてきていた。
「ははっ、いい気迫じゃねえか」
 マユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)がローカストの眼力を目にして語りかける。一見シスター服姿にも見える彼女だが、それは戦衣装。周囲には千日紅の花や翼を出現させていた。
「相当の覚悟を承知での襲撃……。ならば、俺達はその意志と誇りに応えたい」
 アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)はバスターライフルを手にする。まだ、相手に銃口を向けないのは、このローカストへと正面から戦いを臨む為だ。
「ケルベロスが一人、アスカロン・シュミット。護るべき者の為に立ちはだからせてもらう」
「ケルベロスにして蛮勇の集い北神連合の長、石流・令佳! 夜露死苦ゥ!」
 アスカロンに続いて、令佳も口上を述べた。
「任務を続けたいなら、アタシらを倒してからにすればいい」
 多少寄り道してもバチは当たらないと、令佳は告げる。……どうせ、終わりは見えているのだから。
「これは個人的な話なんだが……、あんたも闘いに何かを感じるタイプだろ?」
 無月も重量感のある槍を携えてはいたが、やはりその切っ先は下ろしたままでアンカーへと言い放つ。
「お前が、自らを戦士だと、思うのならば……。わたしたちと、戦え」
 そのローカストは、一通りケルベロスの主張を聞こうというのだろう。次に、ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)に視線を向けた。
「不退転、その心意気やよし。ならば、こちらも全力で行かせて貰おう」
 ベルンハルトは、相手の力を、そして、心を推し量ろうと考えながら言葉を紡ぐ。
「後ろに退けねえのは、あたしらも一緒さ。どっちの不退転の覚悟が上か、勝負といこうじゃねえか!」
 マユは清楚な姿に似合わず、荒々しい口調で倒すべき敵へ呼びかける。
「それとも、不退転部隊の名前を自ら捨てるかい?」
 それは、相手へのプライドへと訴える言葉。このまま一般人の殺戮を続けるなら、ケルベロスに背を向ける事となる。マユは不敵な笑みを浮かべ、アンカーを見つめていた。
 不退転部隊は誇りある戦いを望んでいるはず。当初、真理が提案した通り、一行はこちらから攻撃を行わず、正々堂々と戦うよう相手に促していたのだ。
 しばしの間、退治していた両者。
 やがて、避難誘導に回っていた真理、瞳李もローカストの説得へと加わる。
「私はケルベロス、機理原・真理というです……。守るべき全部の為に、勝負を挑みたいのです」
「私はケルベロスの鈴代・瞳李。貴殿が人間を狩る使命を持つなら、その人間を守るのが我が使命」
 瞳李は凛とした態度で、言い放つ。彼の使命と戦士の誇りに賭け、真正面から戦いを挑むと。
「貴殿も軍人であり戦士なら、この言葉に応じられよ!」
 下される命令と己の信念のギャップ。軍人として生きた瞳李には、それが痛いほどに理解できたのだ。ならば、彼女にとって、真正面から挑まぬ理由などない。
 それまで黙っていたリズナイトが静かに口を開いて、ローカストへと訊く。
「命令とはいえ、戦う力を持たない人々の虐殺は貴方の中の戦士の在り方として正しい物なのですか?」
 ローカストとケルベロスが相容れぬ存在であることは間違いない。
 ただ、リズナイトは同じ戦士としてのアンカーに挑戦しようと持ちかけ、彼の誇りと正しく向き合いたいと語る。
「受けるか否か、返答は如何に?」
「ならば、受けて立つより他なかろう」
 ようやく、アンカーは口を開き、そして、決闘の提案に首肯した。
 リズナイトが殺界を展開していき、互いが構えを取る。そして、ローカストが切り出す。
「不退転侵略部隊、『束縛』のアンカー……参る」
 人気が無くなったショッピングモール。そこで両者の戦いが始まる。

●戻れぬ道の半ばで
 説得に時間をかけたこともあり、一般人はかなり遠くまで避難をしている。
 ケルベロス達は、これ以上の被害を気にすることなく立ち回る、が。敵はすぐさま腹の先から鉄のような棒を射出してきた。
 アンカーボルト……建設現場において使われる太い杭。このローカストの名前の元ともなっている。
 それを防いだのは、前に立つ無月だ。その素早いアンカーボルトに貫かれる彼女の後ろから、瞳李が仕掛ける。
(「彼等の心情を推し測れるからこそ、礼儀を持って戦いたい」)
 この戦いを、彼の誇りを敬えるものとし、彼の心にも休息を。飛び上がった瞳李はアンカー目がけて蹴りつけ、敵の足止めを図る。
「……雷よ」
 アンカーボルトの一撃を食らった無月も黙っていない。呟くような一言の直後、彼女は夜天鎗アザヤに雷を纏わせて鋭く突き出す。
 アンカーの体に走る雷撃。敵が痺れを覚えてやや動きを鈍らせたところへ、ベルンハルトが切り込む。
「俺はベルンハルト・オクト、剣士だ。いざ、参る」
 ベルンハルトの戦法は祖父から受け継いだ剣術。若干10歳ながらも大人びた態度で戦いに臨む彼は、敵が昆虫人間……ハチの姿であることを確認し、腹と胸の間を狙って刃を振るう。
 致命傷は避けながらも、立ち回る『束縛』。
 ライドキャリバー、プライド・ワンが炎を纏っての突撃、そして真理が続く。
「私だって、ただ盾になるだけじゃないのですよ……!」
 チェーンソー剣を唸らせる真理もまた、敵の節目を狙って斬りかかる。彼女が繰り出すは、破鎧衝の応用技。敵の主力はその名の通り、腹の先のアンカー射出部だ。ここを切り落とすべく彼女は積極的に狙う。
 バスターライフルを携えるアスカロン。彼にとっては多少不得手な銃ではあるが、その銃身は大きく削られ、取り回しを優先させている。そして、その銃を、アスカロンは左手と左肩で支え……光線を放つ。それは命中したアンカーのグラビティを弱体化させた。
 リズナイトは敵の、そして、仲間の血を見て、徐々に昂ぶり始める。仲間の付けた傷を広げるべく、彼女は惨殺ナイフで切り広げていく。
「声を張り上げな! てめえらの往く道に敵はねえ!」
 マユもまた、血を滾らせて叫ぶ。黙っていれば、清らかな乙女という印象の彼女だが、叫ぶその姿は台無しに思えてしまう。
 それによって鼓舞してもらい、力を得た令佳がアンカーへと問う。
「そういや、オメーらはどっち派だったんだ? 太陽神と統合王」
「……答える義理は無い」
 令佳はそれを聞いて思う。こいつには、葛藤を口にすることすら叶わぬのではないかと。返答があったなら言いたいこともあったが……。
「どっちにしろ、オメーとはしがらみのない形で会いたかったよ」
 全身をオーラで包む令佳。彼女はそれを物質の時間を凍結する弾丸と成して放つ。
 足を凍りつかせるアンカーだが、そいつは腹の先をケルベロスに差し向ける。アンカーボルトを突き出し、尾を振り回すようにしながら飛び掛かり、ケルベロス達へと殴りかかってきた。
「……そうだな」
 それだけを答えるアンカーは、まるで表情を変える様子はなかった。

 不退転侵略部隊、『束縛』のアンカー。
 その攻撃はほぼ、腹の先から繰り出される。アンカーボルトは時に毒針としても放たれることもあり、ケルベロスを苦しめていた。
 だが、ケルベロスもサーヴァントの力を借りて、後方の仲間を守る壁を厚くしていた。
「『独』……悪いがその恨み……使わせて貰うぞ……」
 アスカロンは撒いた紙兵を敢えて互いに争わせ、結果残った1体を相手へとぶつけていく。それによって、『独』……『蠱毒』を与える。
 そして、ベルンハルトが浴びせた一太刀がグラビティ・チェインの力で傷口を凍りつかせていく。
 瞳李はアンカーに向けたアームドフォートの砲門を一斉発射させる。命中して更なる痺れを覚えたアンカーへ、真理のライドキャリバーが近づき、スピンで敵足を轢き潰そうとした。
「アタシらは暴力でしか自己表現出来ないアホだ」
 令佳が敵の懐へと潜り込み、直接言葉を叩きつける。
「……でも、ただ一つのモンだけは、譲るわけにはいかねぇよなぁ!?」
 そして、彼女はすぐさま拳も叩き込み、アンカーの頭をつかんで地面へと投げ飛ばす。だが、相手は崩れた体勢からもアンカーボルトを射出して令佳の体を貫いてきた。
「……凍てつけ」
 逆に、無月が冷気を集中させた槍でアンカーを貫く。槍で穿たれたアンカーは傷口を凍らせ、表情を歪める。
 戦いの最中興奮し、顔を紅潮させたリズナイト。彼女は拳をオウガメタルで包み込み、拳に力を篭めて弱りつつある敵の体へと殴りかかった。
 そして、アスカロンは使っていた銃を背に担ぎ、右腰に装着した刀を左手で抜き払い、仲間の付けた傷口を抉るように斬る。
「得意のアンカーはどうした。狙ってみろよ」
 マユは饒舌に敵を煽る。仲間の盾が厚いことを知ってなお、だ。しかも、彼女はその盾役メンバーをオーロラの光で包み込んで癒す。立ち回りの都合からか、愛用のルーンアックスを使うチャンスが無いのが残念そうだ。
「この程度で……」
 しかし、アンカーは腹の先での攻撃だけではない。アンカーボルトは敵を穿ち繋ぎとめ、弱らせる為の手段。最終的には食らう為にそれを行使する。そいつは大きく口を開いて襲い掛かってきた。
 それを、無言のまま無月が仲間を庇い、敵に食らいつかれる。仲間を守るのが自身の役割。体を張り、彼女はそれを実践していて。
(「硬いのならば、それを上回る一撃を繰り出せば良い」)
 その横から、ベルンハルトが攻め入る。弱るアンカーを仕留めるべく。握る日本刀で相手を叩き潰すかのようにして、力任せに相手を切り伏せる。全力を持って戦い、相手を倒す。それが戦う者としてのせめてもの情けと彼は考えていた。
 ぐらつくアンカーはそれでも倒れない。彼にも背負っている物があるのだ。
「仲間を想うあなたは尊いけれど……。私達にも、守るべきものがあるですよ!」
 真理もまた躍りこんでいく。敵のアンカー射出部を狙い、真理は掌底を叩き込んだ。ついに、破壊されたその部分が崩れ落ちる。
 頼みのアンカーボルトが使えなくなったローカスト。その雄姿もここまでだった。
「皆、済まぬ……」
 そう言い残し、『束縛』のアンカーは戦場に散っていったのだった。

●その雄姿に祈りを
 静けさの漂う、倉敷のショッピングモール。
 他のケルベロス達はショッピングモールへとヒールによる修復へと当たっていた。
 アスカロンは右手の呪具『家守』を戦いによって傷んだ箇所へと差し出すと、それが青白く光る。
「……あんた達の『想い』……どうか、使わせてくれ……」
 理不尽な死による『困惑』や『怒り』。同胞を護る『意志』や『覚悟』。アスカロンは、『犠牲者』達の魂の残滓を綯い交ぜになった感情ごと宿す。そうして、周囲のコンクリートに開いた穴を塞いでいく。
 物陰で熱っぽい吐息を吐き、時間をかけてクールダウンしたリズナイトも魔法の木の葉を舞わせ、戦場跡のヒール作業に加わっていった。
 マユはこの場から避難をしていた人の中から、怪我人へとオーロラの光で包んでいく。
 そして、もう冷たくなってしまった人々に、彼女は視線を下ろした。
 犠牲者に祈りを。マユは瞳を閉じ、両手を組む。
 令佳も一緒になって弔いをしていたが、彼女は倒れたローカストにも祈りを捧げていた。
「敵でも、最後の尊厳は守られるべきです。……次はあの世でお会いしましょう」
「貴殿の誇りに感謝と敬意を」
 周囲のヒールに当たっていた瞳李も黙祷を行っていた。
「俺もその信念を貫く姿勢には、憧れる。今はただ、安らかに眠れ……」
 不退転のローカスト。全てを賭けて戦い抜くその生き様、参考にさせて貰おうとベルンハルトは考える。
(「同胞の為、未来の為、行動原理は理解できる」)
 だが、お前達はその未来を見る事が出来ない。アスカロンは黙祷を捧げながら思う。
「本当にこの道しか……。この理不尽な戦闘しか無かったのか?」
「黙示録騎蝗って……ここまで、しなきゃいけない事なのですかね……」
 真理も同じことを考えていたようだが、彼女は未来の為、次なる手を考えていたようだ。
 死せる者達へと祈ったケルベロス達は再び、修復作業へと戻っていったのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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