午前4時44分44秒のピエロ

作者:陸野蛍

●夜の被服室
『今被服室に居るよー。朝になったらびっくりする報告するね♪』
「メール送信。これでよしっと」
 少女は、夜明け前の中学校に潜りんでいた。
「今が、4時30分でしょ。じゃあ、もうすぐだね。あの噂話、気になるもんね。被服室に現れるピエロ」
 それは些細な噂だった。
 彼女の通う中学校の被服室の一番大きな姿見。
 午前4時44分44秒になると鏡が4次元と繋がって、そこからピエロが現れる。
「自分の学校でそんな不思議体験が出来るかもしれないなら、確かめなきゃ嘘だよね。みんなも来てくれたら面白かったのにな~」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
「え? まだ時間じゃ……!?」
 いきなり背後から聞こえた声に少女が振り返ると、フードを被った『魔女』が居た。
 そして魔女が持つ鍵が自分の胸に刺さっていた。
 少女の意識はそこで途絶えた。
 倒れた少女の傍らでは、奇妙な仮面を被ったピエロが手鏡でジャグリングをしていた。

●早朝の依頼
「みんな、おはよ~う。新しいお仕事だ。集合」
 眠たげな目をこすりながらヘリポートに姿を見せると、大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)はケルベロス達を招集する。
「不思議な物事に強い『興味』を持って、実際に自分で調査を行おうとした人間が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こった。俺もまだよく分からないんだけど、『魔女』の一人が関わってるみたいだな」
 一部のケルベロスの脳裏をよぎったと言う12人の魔女集団『パッチワーク』謎多き集団だが、その全容はまだ殆ど分かっていない。
「『興味』を奪った魔女は既に姿を消しているみたいだけど、奪われた『興味』を元にして現実化したドリームイーターを使って、事件を起こそうとしているみたいだ。このドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを倒して欲しい。このドリームイーターを倒せば、『興味』を奪われた被害者も目を覚ます筈だ」
 現在、朝の6時。
 まだ眠いのか、雄大にいつもの覇気が感じられない。
「今回実体化したドリームイーターってのは、被害者の少女が興味を持った、『4時44分44秒に学校の被服室の鏡から現れる4次元に住むピエロ』が具現化した様な姿をしている。学校に良くある七不思議とかの類いだな。どうも、被害者はこの噂話を確認しに行って、魔女に目を付けられたみたいだな」
 どこの学校にも一つや二つの噂話はあるし、その中でも鏡に関する噂話は多い。
「このドリームイーターは、人間を見つけると『自分が何者であるか?』を聞いてくるみたいなんだけど、正しく対応できなければ、殺してしまうみたいで、朝になって生徒達と出くわしてしまうと非常にまずい。正確な答えを出せる奴なんて殆どいないだろうからな。だから、えーと……今からだと7時には現着出来るから、生徒達が登校を始める7時半までには撃破込みで事件を解決して欲しい」
 答えが合っていようが、間違っていようが、撃破しなければならない事には違いないが、間違ってしまうと、ドリームイーターは罰ゲームと言って、その対象を集中的に狙って来るらしい。
「ドリームイーターは、自分の事を信じていたり、噂している人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質があるみたいだけど、今の所、被服室から動く様子は無いから、被服室を戦場としてもらって構わない」
 被害者も意識を失った状態で被服室内に居る為、まず被害者を廊下に出す等の避難をお願いしたいと雄大は付け加える。
「ドリームイーターの攻撃手段は、その手に持つ幾つもの鏡をジャグリングしながらぶつけてくる攻撃、鏡からモザイクをレーザーの様に出す攻撃、最後に鏡の魔力を解き放って相手を催眠状態にする攻撃の3つだ。それと4分に1回だけ4次元移動って言うのかな、見える範囲の場所に瞬間移動出来るみたいだから気を付けてほしい」
 少女の興味から沸いた想像のピエロがドリームイーターとして形作られた様だ。
「学校の七不思議とかに興味を持つのは普通の事だし、調べたくなる奴も居ると思う。だけど、それで誰かが本当に死んでしまう様な事になるのはダメだ。朝一で悪いけど、みんなしっかり頑張って来てほしい。頼むな」
『じゃ、俺、もう一回、顔洗って来るから』と言って、雄大はヘリポートを後にした。


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)
山之祢・紅旗(ヤマネコ・e04556)
グラム・バーリフェルト(撃滅の熾竜・e08426)
レフィス・トワイライト(宵闇の支敗者・e09257)
音無・凪(片端のキツツキ・e16182)
ヨルガ・オーギュスト(シャドウエルフのミュージックファイター・e20376)

■リプレイ

●笑うピエロ
 蝉の声が聞こえ始める、午前7時の中学校。
 普段なら、まだ人の声のしない廊下に8人のケルベロス達は潜入していた。
「学校なんざ、通ったこと無いんで学生の流す噂にゃ疎いんだが……火のない所に煙は立たん、何か噂の元になる話があるんだろうねぇ」
 音無・凪(片端のキツツキ・e16182)があくびを噛み殺しながら言う。
「しかし、こんな朝っぱらとは、随分な時間に呼んでくれるじゃないか。時間外勤務は高く付くぜ?」
 今回の事件の発端である、噂の『午前4時44分44秒のピエロ』が、形を成したドリームイーターとはいえ、依頼としては普段よりかなり早い時間だ。
 凪で無くても、愚痴の一つも言いたくなる。
「夜中に学校に忍び込むと言うのは感心はできないが、見捨てておくことも出来まい」
 深夜の学校に忍び込み、ドリームイーターを呼び出す事になってしまった少女を想い、ヨルガ・オーギュスト(シャドウエルフのミュージックファイター・e20376)が呟く
「自分が何者かなんて、面白い謎かけだよねぇ。わくわくするなぁ!」
 興味心をくすぐられるのか、穏やかな笑顔で言うのは、山之祢・紅旗(ヤマネコ・e04556)。
 そんな紅旗を見ながら、三和・悠仁(憎悪の種・e00349)が静かに口を開く。
「『興味』……そんなものまで、勝手に奪っていくのか……」
 今回の撃破対象であるドリームイーターの根源にあるモノは『興味』である。
『パッチワーク』の実態は殆ど分かっていないが、『興味』を埋めようとする魔女とは何者なのか……。
「都市伝説やオカルトに対する興味か。俺も噂話とかは好きだし、なんか分かる気がするぜ」
 そう口にするのは、エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)だ。
「怪談が現実になっちゃうって、ロマンと言えばロマンだけど、そこに殺しがあっちゃぁ良くないよねぇ」
 紅旗も同意しつつ、人を殺戮するドリームイーターの存在だけは否定する。
「好奇心がとんだ代物を呼び寄せたか。……此処の様だな」
 グラム・バーリフェルト(撃滅の熾竜・e08426)が一つの教室の扉の上に『被服室』の文字を見つける。
「……人に仇なす道化には、早々にご退場願うとしよう」
 扉に手をかけると、グラムは静かに扉を開ける。
 すると、教室の中には鏡を弄ぶピエロと、少し離れた場所にうつぶせに倒れる少女の姿が見える。
「……あの娘だな」
 横たわる少女の姿を確認し、ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)が仲間達に視線を送る。
「4時44分44秒のピエロはお前か?」
 その視線を受けて、悠仁がピエロの視線を自分に向けさせる。
「はて? 4時44分44秒のピエロ? 僕は僕だよ? じゃあ君達に質問だ。 僕は一体何者だろうね?」
 大きな姿見を背に『ケヒャ』っと笑いながら、ピエロはケルベロス達に聞いた。

●僕は一体何者だろうね?
(「この質問は無視ですね。答えとして思いつくものもありますが、答えられなかった者を攻撃すると言うのなら、答えずピエロの攻撃を誘導した方がいいですね」)
 レフィス・トワイライト(宵闇の支敗者・e09257)は、ピエロを見ながら、戦闘の有利を考える。
「見たまんま、ピエロ、じゃねーかなぁ」
 軽い口調で最初に答えたのは、エリオットだ。
(「他に思いつく答えもあるけど、外すことでこっちの狙い通りに攻撃してもらった方がいいからな」)
 いくつか思い当たる答えがあれど、どれが正しいか分からないのならば、あえて外して行くのも作戦だと、エリオットは考える。
「自分が何者かって聞くなら……『者』……人じゃないといけないかなぁ。『自分自身』かなぁ?」
『個人的な見解だけどね』紅旗はそう付け加え、緩やかな笑顔を湛えながらそう答える。
「お前が何者か……興味は無いが『視線』辺りか?」
 悠人は、ピエロをあくまでデウスエクスとして認識し、強い視線を向けながら答える。
「君は鏡が大好きみたいだから『鏡』かな?」
 ヨルガが口にした答えはケルベロス達が、最も答えではないかと想定していた答え。
 前を固める者達は、あえてこの答えを口にしなかったが、最高列であるヨルガの回答が正解であっても、作戦上は全く問題が無い。
 逆に言えば、合っていれば回復の要であるヨルガが狙われる危険性が減る事になる。
「ふむ、じゃあもう一歩進んでこいつは俺、ないしお前たち自身、というひねくれた解答もありじゃないか」
 鏡だと言うのなら、そこに映っているのは紛れもなく俺達だろうと笑うムスタファ。
 笑いながらもムスタファはいくつも思考を巡らせていた。
(「合わせ鏡の中の怪異、悪魔、というのは割とよくある話だが……さてこいつは一体なんなんだろうな……」)
 仲間達がピエロの興味を引き付けている間に、少女のすぐ側まで近寄っていたムスタファは、少女の腕を自分の方に回す。
「他には? 他には? 答えは無いかな?」
 凪とグラムは互いに視線を交わすと口を噤み、それぞれにグラビティ・チェインを高めていく。
「それじゃあ、答え合わせ♪」
 ピエロはニヤリと笑うと、弄んでいた鏡を一本手に取る。
「全員不正解♪」
「あはは、見たままそのままって答えも味気ねぇか」
 ピエロの言葉にエリオットは笑うが、次の瞬間放たれたモザイクを纏った閃光は、エリオット、グラム、そして凪を庇う形になった、紅旗を直撃する。
 だが、その攻撃を誘導した形になった、ケルベロス達はすぐに次の行動に移っていた。
「鏡じゃなかったか……まあいい」
 凪はそう言うと、ブラックスライムを解き放ち、周囲の鏡を破壊させながら、ピエロの身体を喰らわせる。
「貴様が何者であろうと興味は無い。いくぞ道化、引導を渡してやる」
 鉄塊剣『シェイドオブディサイダー』に地獄の炎を纏わせ、ピエロに向かって力の限り振り下ろす、グラム。
(「デウスエクスならば、ただ滅ぼすのみだ。少しでも意識がこちらに向くのなら貴様如きの罰、甘んじて受けてやるとしよう」)
「ムスタファ、彼女の避難よろしく頼むよ」
 紙兵を宙に飛ばしながら、ヨルガが意識の無い少女を避難させるムスタファに声をかける。
「すぐに戻る。カマル、お前は皆をサポートだ」
 ムスタファは、相棒のボクスドラゴンに声をかけると、扉に向かう。
「予想は外れましたが、問題はありませんね。そもそも、自分自身が何者だと思っているかが正解なんですから、こちらの推測が正解とは限りませんしね」
 煌めく星の聖域を形成しながら、レフィスが言う。
「興味から生まれたピエロか……」
 小さく呟き、一気にピエロに接敵する悠仁。
「……欲しいなら俺のをくれてやるから、さっさと直接姿を見せれば良いのに。……俺の『興味』は、お前らをどうすれば皆殺しに出来るか、それだけだがな!」
 叫びと共に、流星の如き蹴りがピエロに向かって放たれる。
「それじゃ……兄ちゃん、今回も頑張るからな」
 誰に言うでも無く呟くと、エリオットは地獄の炎を弾丸として撃ち出す。
「中々に楽しい攻撃をしてくれる。俺と遊ぼうか。そうだな、楽しいことしよう」
 笑顔も雰囲気すら変えず言うと紅旗は、正方形の変わった形の本『綴』を指でなぞり、凪へと攻撃力を高める魔法を施す。
「あそぶ、遊ぶは、ピエロの戯れ。楽しんでね♪」
 ピエロは不気味な笑みを浮かべながら、複数の鏡をジャグリングするとそれを雨の様にケルベロス達に降らす。
 すぐさま、ヨルガが紙兵を飛ばすが、紅旗とグラムに突き刺さった割れた鏡は、グラビティを纏ったまま消え去らない。
「カマル、紅旗を回復だ」
 その声を聞き、カマルは自らの属性を紅旗に注ぎ込む。
 次の瞬間には、グラムの身体からも鏡の欠片が霞の様に消えていく。
 声の主、ムスタファが自らのグラビティ・チェインをオーラとして送り込んだのだ。
「みんなお揃いだね♪」
 ピエロが楽しそうに言う。
「これからが本番だよ♪」
 エリオットには不気味に笑うピエロが、道化と言うより奇人に見えた……。

●少女が生んだピエロの正体
「次は何処からだろうね♪」
 悠仁の『凝骨斧セザルビル』の一撃を肩口に受けてもなお笑うと、ピエロは最初からそこに居なかった様に、姿を消す。
「鏡は殆ど割っちまったのに瞬間移動出来るのかよ……」
「当然だよ♪ 僕は鏡を通して移動している訳じゃないからね♪」
 凪が後ろを振り向いた瞬間にはピエロが、鏡を構え魔力を解き放っていた。
 凪は勿論、ムスタファ、紅旗、エリオットがその魔力の洗礼を受けてしまう。
 ムスタファの身体で庇われたグラムだけが、その魔力の奔流に呑まれずに済む。
「催眠にかかってしまいますよね……」
 レフィスが催眠の効果を打ち消す為に、紅旗にヒールを施す。
「全員の催眠を全部消し去るのは、中々に大変だね。ビハインド」
 幾度目かの紙兵を呼び出しながら、ヨルガはビハインドにピエロへの攻撃を命じる。
 戦闘開始から二度目の瞬間移動だった。
 一度目は、前衛のケルベロス達に囲まれると、笑って次の瞬間、ヨルガの後ろでモザイクを放っていた。
 二度見ても、ピエロの瞬間移動には、4分に一度と言うことしか規則性が感じられない。
「少女の想像から生まれたからって、自由すぎだよな。ピエロにも十分、バッドステータスは付いてるんだろうけど。……なら、早期決着だな」
 エリオットはそう言うと、地獄の炎を一つの生き物として形作る。
「味方には不死鳥の加護を、邪魔するやつには制裁を!」
 言葉と共に放たれた金色の炎を纏った不死鳥は、エリオットの意志を理解しているかのように、ピエロを地獄の業火で焼き尽くす。
「……4時44分44秒は何の時間か分かるかい?」
 炎に焼かれながらも、ピエロは楽しそうな口調で訊ねて来る。
「知るかよ! 起きろ、求煉」 
 凪が己が右腕を補う、戦用義骸機構の名を呼び、白と黒の地獄を灯せば、凪の身体機能は限界を超え向上される。
「その質問に意味はあるのかな? たとえば君の、最初の質問に繋がっているのかな?」
 漆黒のリボルバー銃『頌歌』に特別製の弾丸を詰め、照準を定めると、紅旗が笑顔のまま聞く。
「4次元の扉が開く時間だよ。この世界は3次元……」
「講釈の途中で悪いね。……噂話もお伽噺も夢のまま……影に住むなら、息を潜めなきゃ」
 この状況においても、笑顔を崩さない紅旗の銃から放たれた弾丸は、陽光にも似た紅の軌跡を描きながら、ピエロの胸を撃ち抜く。
「4次元が関係あるなら、何故お前は鏡を使うんだ?」
 ピエロに接敵し、偽りの一撃を決め、次の瞬間蠍の一針の様な本命の一撃をピエロの首筋に与え、ムスタファが聞く。
「……鏡は次元を歪めるのに最適なんだよ。1次元……線、2次元……面、3次元……立体を歪めるから」
「ふん、くだらんな。さあ、幕引きだ。カーテンコールは無いと思え!」
「グラム! 援護するぜ! 今更だけど、謎かけに答えておこうか。テメェは……」
 剣を構えたグラムが吐き捨てると、凪がその横を駆け抜け空をも断ずる斬撃をピエロに決める。
 少しだけ目を細めた凪と視線を交わすと、グラムが吠える。
「我が正当なる怒り! その身に刻め!」
 一度撃ち込んだ剣撃の反動を利用し二度三度と身体を反転させながら、グラムの苛烈な斬撃がピエロのグラビティ・チェインを削り取る。
「……僕が消える前に答えは分かったかな?」
「消えるお前に興味無い」
 自らの憎悪に侵した地獄の炎を黒竜の形で『凝血剣ザレン』に纏わせると、悠仁は黒竜に全てを喰らい尽くさせんとばかりに振り下ろす。
「力を寄越せ、この想いを果たす為に。傷を寄越せ、この想いを忘れぬ為に。罪を寄越せ、この想いを背負う為に」
「……ヒャヒャ、強いね♪ じゃあ答え合わせ♪」
 黒竜の炎に身を焼かれながらも楽しそうにピエロは笑う。
「……消えろ!」
 悠仁の憎悪を含んだ声で炎が一気に燃え上がる。
「3次元を4次元にするもの……つまり『時間』だよ♪」
 悠仁の声と対照的に、楽しげに最初の質問の答えを発表するとピエロは、炎に焼き尽くされ消えた。
「最後に答えを言ってから消えると言うのも、ボク達がどう反応するか、興味があったからですかね?」
 レフィスが、仲間達に問いかける様に言うが、その答えを知る者は居なかった。
 ピエロは消え、『興味』を埋める魔女の姿もこの場には無いのだから。
「テメェは『迷惑極まりないただの夢喰い』だったぜ」
 ピエロの答えを否定する様に、凪は最初に保留していた答えを口にするのだった……。

●『興味』は尽きる事無く
「あと10分もすれば、生徒達が来てしまいますね」
 壊れた被服室にヒールをかけながら仲間達を急かす様に言う、レフィス。
「あんまり、時間をかけられないと、正確な形にヒール出来ないぜ。あたしのセンスでいいよな?」
「…………凪」
 凪は、チャッチャッと室内にヒールを施して行くが、その様は同じくヒールをしていたグラムが絶句する程……よく言えば独創的で、率直に言うならば怪異めいたものになっていた。
「……あれ? ここは? 私?」
「どこも怪我は無い様だな」
 少女の様子を見ていたムスタファは、少女が不思議そうに目を覚ますと静かに言った。
 目を覚ました少女にエリオットや紅旗、ヨルガが事情を説明すると、少女は『そんな事が起こってたなんて! 気を失ってたなんてもったいない! 見たかったー!』と嘆くように叫んだ。
「……何事も程々にな」
『興味』が戻った少女には、グラムの一言が本当の意味で届いたかどうかは分からなかった……。
 少しずつ、校舎に生徒達の声が聞こえ始めると、ケルベロス達は朝の空気を吸いながら、その場を後にするのだった。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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