黙示録騎蝗～胡蝶への葬送曲

■リプレイ

●ネオン街の煌きの中で
　名古屋市中区錦三丁目。
　ここは同市でも有数の歓楽街であり、毎夜、多くのサラリーマン達でネオンに輝く街は賑わっていた。
　そんな人々が楽しそうに行き交う中、突如として、幾つもの悲鳴が上がる。
　その悲鳴の先にあったのは、銀色に輝く美しい金属状の羽根を持ち、優美な姿をした一体の胡蝶型ローカストが、道往く人々へと襲い掛かる姿だった。
　ローカストは、まるで甘い蜜を求めて花から花へと飛び移る様にしながら、周囲の一般人を無慈悲に殺め、その身を赤く染めていく。
　そしてローカストは、新たなる獲物、先程までほろ酔い気分で浮かれていた男性へと襲い掛かる。
　突然の出来事に男性は酔いも冷め、死に物狂いで抵抗する……が、すぐにそれもぐったりとして動かなくなる。
　その様子に、街にいた人々は揃ってパニック状態に陥ると、周囲は逃げ惑う人々の喧騒と血飛沫に包まれ、混沌とした景色と変貌した。
　だが、ローカストは楽しむでもなく、ただ淡々と殺戮を繰り返していく。。
　そんな断末魔の悲鳴と怒号が飛び交う街で、人々から絶望の色が浮かび上がったその時。
　突如として、上空から幾つもの人影が舞い降り、アスファルトを砕きながら着地する。
　そして彼ら、上空のヘリオンから降下したケルベロス達は、体勢をt整え直すや、ローカストの前へと立ち塞がった。
「そこまでだ！　これ以上は、やらせはしないッ！」
　その中でも、ボクスドラゴンのシュバルツと共に、いち早く早く降下したクーゼ・ヴァリアス（竜狩り・e08881）が、大きく翼を広げながらローカストに向かって声を上げる。
「俺はクーゼ！　九重流双剣術が師範代にして誇り高きケルベロスの一人だ！　お前が誇りある戦士なら、俺たちと戦え。お前が最後を覚悟しているなら、尚更な」
　一息に名乗りを上げた彼は、ローカストをキッと睨み付ける。
「君の同胞の金甲のフーガは、僕の親友達と堂々と戦う事を選び、最後まで武人の意地を貫いてみせたそうだ。僕もそんな、武人としての全てを賭した戦いを期待して此処へ来た。その矜持を違えぬ様に――先ずは僕等と手合わせ頂けるかい？」
　クーゼの横に降り立った高辻・玲（狂咲・e13363）が続くように紳士然とした態度でローカストに語り掛ければ、さらにライドキャリバーの黒雷を従えた真暗・抱（究極寝具マクライダー・e00809）が、ローカストを見据えながら言葉を紡ぐ。
「戦えぬ弱い者の血だけで染め上げた……己の死に誇りを……持てるのか？　もし強者の血をそこに添えたいのなら……相手になってやる……来い……」
　ケルベロス達の言葉に、ほう、という表情を見せたローカストは、ならばとばかりに彼らの方へ向き直る。
「武人としての矜持、か……面白い。では我に其方らの誇りを、その矜持を見せてみよ！」
　その言葉と共に、ローカストは銀色の羽根が羽ばたかせ、辺り一帯のネオンが一層煌くまでの鱗粉をまき散らす。
「私達はケルベロスよ！　みなさん、落ち着いて、振り返らないで逃げて！」
　突如現れたローカストと、続く様に現れたケルベロス達の登場に驚き、立ち止まった人々に、片白・芙蓉（兎頂天・e02798）が良く通る声で避難誘導を試みると、彼女の言葉を耳にした人々は、ハッと我に返ると、我先にとその場から逃げ出していく。
　そしてローカストの放った鱗粉が、抱達前衛へと降りかかる。
　その威力はすさまじく、更には強い眠気を誘われた前衛達は思わず膝をついてしまう。
　そんな中、ペインキラーで痛みを忘れた逆黒川・龍之介（剣戟の修練者・e03683）は裂帛の叫びを上げ、自身の頭から眠気を一気に振り払うと、刀を構え直す。
「皆さん、大丈夫ですか！」
　その様子に海東・雫（疫病神に憑かれた人形の復讐者・e10591）が、ライドキャリバーのライドの援護を受けながらドローンを展開して仲間の守護に当たるる。
　しかし、前衛達のダメージは重く、その傷のすべてを癒し切ることができない。
　そんなケルベロス達の状況を眺めながら、ローカストはつまらなさそうに嘯く。
「ケルベロスとと言えど、所詮はこの程度か……興が醒めたわ」
　まるで興味が無くなったかのように、また殺戮へと行こうとするその時、伊庭・晶（ボーイズハート・e19079）が叫ぶようにローカストへ言葉をぶつける。
「お前が、黄金装甲を纏ったあの５人……黄金ローカスト達と同じ誇りある戦士ってんなら、反撃してこない獲物だけをこそこそ刈り取るような情けない真似は本意じゃないだろ？」
　それに続くようにヴィルフレッド・マルシェルベ（路地裏のガンスリンガー・e04020）も言葉を発する。
「イエローシケイダは不退転の名に恥じない真剣勝負の果てに立派に散っていったけど、君はこそこそと一般人を殺すだけかい？先発の彼らに倣って勝負しようじゃないか」
　その挑発の言葉を聞いたローカストは、ぴくりと動きを止めた後、ゆっくりとケルベロス達の方に向き直り、高らかに宣言した。
「よかろう。そこまで我を愚弄するならば……相手になろう。互いに最期まで戦い抜こうではないか！」

●鱗粉の煌きと共に
　ローカストの宣言と共に、激闘の火蓋は切って落とされた。
「まずは、その小生意気な口を閉じるとしよう……」
　そう呟いたローカストは、銀色に煌く鱗粉を晶とヴィルフレッドに撒き散らす。
　二人の身体に降り注いだ鱗粉は、触れるか触れないかの距離まで来ると一気に猛烈な爆発を起こす。
「うわっ！」
「なっ！」
　その想像以上のダメージは二人の、特にヴィルフレッドの体力を根こそぎ持って行ってしまう。
　避難誘導から戻ってきた芙蓉が慌てて純白の帯を慰撫するも、その怪我を癒すには傷が深すぎた。
　誇り高き敵に対して挑発するのは悪くない選択のひとつだ。
　しかし、挑発をすれば相手の敵意をも自身へと引き寄せる事にもつながる。今回の場合、まさにそれであった。
　とはいえ、彼が狙われた事によって、仲間達の損耗を抑えられたのも事実。
　この結果に満足しつつ、ウィルフレッドの意識は闇へと飲まれていった。

「これは油断できないな」
　ウィルフレッドが倒れる様を目の当たりにしたクーゼは宵風と宵月を構え、九重流双剣術の終の型を繰り出すと、敵の羽根を少しだけ切り取る。
　玲も負けじと迅雷の如き紫電の一閃で敵を切り裂かんとするも、敵はその切っ先をまるで舞う様な動きでひらりと躱した。
「っ痛てえな！」
　晶は自分自身に分身の幻影を纏わせ、次なる攻撃への備えを固めていくが、その身に受けた傷は深く、思わずしかめ面を見せた。
「我が魂、今燃やす時！」
　そんな晶の傷の深さに気付いた雫が、自身の内部にあるエネルギーを過剰生成させて晶に与えると、やや晶の顔色が良くなっていった。
　ふと気づけば、戦場の周囲からは一般人の気配が消えている。
「毎日打ち込み続けたこの一撃、受けて見ろ！」
　これで周りを気にせず戦える、と判断した龍之介は両手に構えた刀を握りしめたかと思うと、構えすら見えない神速級の速さで、敵へと強烈な一撃を打ち込む。
　流石にその攻撃を避けきることができず、腕の一本に浅からぬ傷を付けた。
　それに続けとばかりに、抱がその拳から鋭き達人の一撃を繰り出すも、その拳はひらりと躱され、敵へは届かない。
「なかなか良い攻撃をする！　やはり戦いはこうでないと！」
　対するローkストは、求めていた戦いを手に入れたためか、不敵な笑みを浮かべてみせた。

●夜を舞い踊る胡蝶
　一進一退の攻防が続く。
　数の面ではケルベロス達が断然有利。だが、ローカストはそれを補うだけの実力がある。
　そのため現状は五分五分、いや、ローカストがやや有利な様相を呈していた。
「どうした？　其方らの攻撃はこんなものか？」
　執拗に晶を襲い続けるローカストは、半ば挑発をし返すかのようにしながら攻撃してくる。
　仲間からの援護と受け、時折前衛達が彼を庇いはするものの、晶は徐々に追い詰められていくのを感じていた。
「兎の本気を見せてやる！」
　そう叫ぶと同時に兎のオーラを纏い、一気に間合いを詰めると兎の牙を宿した手刀で敵を滅多切りにしようとする。
　しかし、ローカストはその攻撃の幾つかを受けるも怯むことなく、お返しとばかりにその羽根から黙示できない程の微小な鱗粉を晶へ吹きかける。
「くそっ、こんなところで……なんて……」
　その不可視の鱗粉を浴びた晶は、そのプレッシャーに耐え切れず遂に膝をつくと……そのままゆっくりと崩れ落ちていく。
「さあ、次に倒れるのは……誰だ？」
　そしてローカストは、そんな晶に目もくれず、残りのケルベロス達を見据え、優美に微笑んだ。
「このままじゃ……っ！」
　芙蓉がぎっと歯噛みするも、敵の攻撃は緩むことはない。
　次に狙われるのは誰か？　自分か？　それとも……？
　いや、悩んでるヒマはない。今は自分の出来ることをやるだけだ。
　そう自分に言い聞かせると芙蓉は仲間へ癒しの技を届けることに専念する。

「……まずいですね」
　気が付けば幾度かの攻防が続いていた。
　ケルベロス達はローカストの身体に少なからぬ傷を与えていた。が、ケルベロス側もサーヴァントが軒並み倒れてしまっていた。
　敵を追い込みながらも、こちら側の圧力は徐々に弱まっていく。
「このままだとジリ貧か。いや、最後まで諦める訳にはいかない！」
　クーゼが空の霊力を帯びた刀で敵の傷跡をなぞり斬ると、ローカストが僅かに苦悶の表情を浮かべる。
　その隙を突かんとばかりに、玲がさらに敵の傷口を広げんと日本刀で斬り付けると、その攻撃を危険と感じたのか、敵は身を捩って玲の攻撃を躱そうとする。
　さらに畳みかけるように、龍之介は冷静に敵の動きを見極めると、斬霊刀を非物質化して敵の霊体のみに斬りかかる。
　そして龍之介の付けた刀傷が、じわりと毒に染まっていく。
　そんな中、抱が電光石火の蹴りでローカストの急所と思しき場所を貫かんとする。
　ローカストはその蹴りを受け止めるも、本気かせ我慢なのかはわからない、余裕の表情を浮かべてみせる。
　そんなローカストを見やると雫は、自身も少なくない傷を負っていながら、そんなそぶりも見せず、芙蓉のカバーとばかりにドローンを展開し続ける。
　敵も味方も、お互いに満身創痍。
　それでも両者は一歩も引かず、最期まで諦めようとはしない。
　それが己の矜持とばかりに。

●夜空に消えた胡蝶
「さて、そろそろ終わりにしようか」
　果たしてそれはどちらが発した言葉なのか。
　もうそんなことはどうでもいい、とばかりに繰り出される攻撃、
「なかなかやるではないか。だが、我も不退転を名乗る者！　ここままでは終わらないっ！」
　その言葉と共に、ローカストが傷付いた芙蓉へと見えない鱗粉を浴びせかける。
「くっ……！」
「そうはさせない……っ！」
　そんな芙蓉の前に人影が割って入る。
　だが、とっさに芙蓉を庇った雫もすでに満身創痍であった。
　その鱗粉が身体に纏せながら、己の役割を果たしきった雫は半ば満足そうな微笑を浮かべながら、ゆっくりとその場へと崩れ落ちていく。
「諸々禍事罪穢を有らむをば――痛いの痛いのスポーンするがいいわ……！」
　常の笑顔が消えた芙蓉が、それでもと彼女から伸びた純白の帯で、仲間の受けた【穢れ】を拭い去らんとその身を撫でていく。
　その癒しの力を受けた抱は一気に間合いを詰め、達人級の蹴り技を敵へと浴びせる。
　傷を負い、それを避ける力はあまり残っていなかったのか、抱の攻撃を受けた敵の足がわずかに凍り付く。
　そんなローカストへと、さらにダメージを与えんとケルベロス達は攻撃を矢継ぎ早に繰り出していく。
　先刻まで繰り広げられていた惨劇を目の当たりにし、自分の故郷が滅ぼされた時のことを思い出して内心怒りに震えていた龍之介は、ここで敵に止めを刺さんと神速の一撃をローカストに打ち込み、連続で袈裟懸けに斬りつけんと、胡蝶の鱗粉の合間を縫うように切り裂いていく。
　金属の羽根が切り刻まれ、苦痛の余り叫び声をあげるローカスト。
「同胞達の……同胞達の為にもっ！　我は……っ！」
　キッとケルベロス達を睨み付けるその複眼に宿した光は、いまだ不退転の覚悟を物語っている。
　彼の者が最期まで武人らしく在れる様に、持てる全てを尽くし挑む事こそが、せめてもの手向け。
　そう心の中で呟くと、玲は剣を鞘に戻し、一片の護符を構える。
「来たれ雷公」
　刀に宿る霊力に雷神の御業を重ねると、紫電を帯びた刃を一閃する。
　雷を纏った刃は敵の身体を切り裂き、静かな戒めをその身に与えた。
「巡り巡りて、此処にて果てよ。終の型、終焉座標」
　クーゼが二振りの斬霊刀を構える。次の瞬間、暗闇を纏った斬撃の檻が胡蝶を取り囲む。
「もはや此処まで、か……許せ、同胞達よ……だがっ！　我、この戦いに斃れようが……悔いは無し！」
　胡蝶のローカストは、最期の叫びに上げると共に、その両腕と羽を大きく広げ、その連撃を受け止めた。
　そして、己の身体を切り刻まれ、どんどん細かく裁断されていく武人へと、クーゼ別離の言葉を口にする。
「さよならだ。お前のことは……俺が覚えておいてやるよ」
　そのの声に重なるように、胡蝶は笑みを浮かべ……次いで、バラバラになった身体が、ふわりと風に乗って、ネオン輝く闇の中へ散って消えていった。
　そんな、激しく、そして儚く散っていった、誇り高き胡蝶が消えた空へ向け……龍之介は小さく呟く。
「お前は強かった……だが、勝ったのは俺達だ」
　夜はいつしかより深まり、闇が一層濃くなる中、ケルベロス達は手早く事後処理を行うと、そっとその場を後にした。　
　

作者：鯨井琉可	重傷：ヴィルフレッド・マルシェルベ（路地裏のガンスリンガー・e04020） 伊庭・晶（ボーイズハート・e19079）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年8月1日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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