カエル頭の王子様!?

作者:麻香水娜

 華やかなドレスの花がふわふわ踊る舞踏会。
 ピンクでフリルとリボンが沢山ついた可愛らしいドレスを着た少女は、憧れだったお姫様のような自分に瞳をキラキラ輝かせる。
「姫、踊って頂けますか?」
 童話に出てくるような格好良い王子様が、少女に手を差し伸べた。
「はい! よろこんで!」
 少女が笑顔で返事をすると、突然王子様の顔がカエルの顔に変わってしまい――、
「キャア!!」

 ――ガバ!
「……なんだ……ゆめかぁ……」
 飛び起きた少女は、そこが自分の部屋のベッドの上で、ほっと胸を撫で下ろした。
 すると、いきなり目の前に現れた鹿に乗った見知らぬ人物に、大きな鍵で心臓を貫かれてしまう。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 鹿に乗った見知らぬ人物――魔女・ケリュネイアは、そのまま何処かへ去っていった。
 カエル頭の王子様を残して――。
 
「夢でもお姫様になれちゃうのはいいなぁ……」
 明星・紫姫(夢色赤ずきん・e24614)が、予知の内容を聞いて小さく呟く。
「なりたいものになれるのが夢ですよね……しかし、子供の頃って、何であんなにビックリするような夢を見るのでしょう……」
「うん。起きてちゃんと考えるとそんな事はないってわかるのに、ビックリして起きちゃうんだよね」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が穏やかに口を開くと、紫姫にも思い当たる事があったようで、笑いながら同意した。
 そのビックリする夢を見た子供が襲われる事件が起こるようである。
「『驚き』を奪ったドリームイーターは姿を消してしまっているのですが――」
 少女の夢を元に現実化したカエル頭の王子様ドリームイーターを倒す事ができれば、『驚き』を奪われた少女は目覚めるだろう、と続けた。
 カエル頭の王子様は、深夜に少女の家がある住宅地を徘徊している。どうやら遭遇する人々を驚かせようとしているようだ。
「この王子様、誰かを驚かせたくてしょうがないようで……ですから、通りを歩いているだけで向こうから近づいてくるでしょう」
 最初は童話の王子様のようなイケメンが歩いているのだが、誰かが近付くとカエル頭になって驚かせるのだという。
 しかし、驚かなかった相手がいたら、どうにか驚かそうとして狙ってくるようだ。
「このドリームイーターですが、カエルが餌を捕食するように舌を伸ばしてきたり、口から水鉄砲のようにモザイクを飛ばしてきたり、モザイクの雨を降らせて傷を癒してきます」
 体は人間であっても攻撃方法はカエルらしい。
「夢でも憧れのお姫様になれたのに、その夢を奪われて眠り続ける事になってしまうなんて……どうか、少女を救って下さい……」


参加者
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
イスクヴァ・ランドグリーズ(楯を壊すもの・e09599)
メーリス・サタリングデイ(一斉送信完了しました・e10499)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
鳳・朱璃(紅き蜃気楼・e18714)
エルザート・ロッソ(ファントムソード・e24318)
明星・紫姫(夢色赤ずきん・e24614)

■リプレイ

●変な不審者にご用心
 ケルベロス達は予知のあった午前1時より30分ほど早く到着し、先に人払いをする事にした。
「すいませーん」
 仕事帰りであろうか、スーツを着たサラリーマン風の男性にマロン・ビネガー(六花流転・e17169)がにこりと笑いかける。
「こんな夜中にどうしたんだい? 危ないよ?」
 12歳の少女が深夜に歩いているのだ。普通の反応である。
「ボクらはケルベロスなんだ。この辺に不審者さんが出て危ないから早く離れて欲しいんだ」
「お願いできますか?」
 明星・紫姫(夢色赤ずきん・e24614)がマロンの横から話しかけると、まるで2人の保護者のように鳳・朱璃(紅き蜃気楼・e18714)が微笑みかけた。
 男性が足早に帰路に着くと、
「夜道には気を付けてね!」
 明るい笑顔を浮かべた紫姫が手を振って見送る。
 すると、マロンがキープアウトテープを取り出し、周囲の電柱同士の間や信号同士の間に貼っていった。

 3人が仕事帰りのサラリーマンに声をかけている所から少し離れた場所――。
「ごめんね、ちょっといいかな」
 アパートから出てきた女性に、エルザート・ロッソ(ファントムソード・e24318)が声をかける。
「この辺に変な奴が出るみたいだから、今夜は通りには出ない様にしてくれ」
 エルザートの隣にいた木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)が、隣人力を使いながら警戒されないように頼む。
「すまない」
 イスクヴァ・ランドグリーズ(楯を壊すもの・e09599)が一言だけ女性に謝罪した。
 女性はちょっとコンビニに行こうと思っていたようなのだが、『変な奴』が出るというのは流石に恐ろしいようで、素直にアパートの部屋に戻っていく。
 それを確認したイスクヴァがキープアウトテープを取り出し、周囲に張り巡らせた。

「カエル頭の王子など見たら気分もよろしくないな」
 街灯だけでは足元が死角になりやすいと、オルヴァー・エルフィウム(闇夜・e11749)が予知の内容を思い出しながら間隔をおいてライトを転がしていく。
「えー? ボクはカエル結構好きだよ! 食べられるからね! でも、今回のカエルさんは食べられなさそうかな?」
 オルヴァーの呟きに、メーリス・サタリングデイ(一斉送信完了しました・e10499)が明るく笑いながら、足元にライトを転がす手伝いをしていた。

●驚く者と驚かぬ者
 それぞれの事前準備を終えたケルベロス達は時間を確認。そろそろ現れる頃だろうと、8人で談笑をしながら歩く。
 歩いている8人の視界に、人影が映った。
 童話の王子様のような華やかなタキシードを着た美青年が近付いてくる。
 内心で警戒を高めつつも、気にしないように仲間達と会話をしていると――
「わぁ!? カエル!?」
 通りすがり様にカエルの顔になった王子様に紫姫が驚いて動きを止めた。
「うわー!! カエルになったー!!!」
「何……」
 メーリスも大袈裟に驚き、事前に聞いていても見たくないと思っていたエルザートも顔を歪める。
「わー、カエル頭の変態ですー!」
 マロンはあまり驚いた様子はなかったのだが、オルヴァーと朱璃の驚かない様子を際立たせる為に大声を出した。その声に抑揚はなく棒読みのようだが、大声というインパクトをつけて。
「……は?」
「あら、カエルの姿もお似合いよ?」
 オルヴァーは特に驚く事もなく、しれっとしており、朱璃もにこやかに笑いかけた。
『……ッ!!』
 2人の反応に頭に血を上らせた王子様――ドリームイーターは、大きく口を開けて長い舌でオルヴァーを殴りつける。
「……っ」
 右手を強く打ちつけられたオルヴァーは、想像以上の痛みに眉を顰めた。
「食べられなそうなカエルだなぁ……ともかく、女の子を助けるために頑張らなきゃねっ!」
 残念そうに呟いたメーリスは仲間達にタイミングを知らせるように大声を上げると、素早くドリームイーターに突撃する。武器を大きく振りかぶって大地まで断ち割るような一撃を叩き込んだ。
「おとぎ話の世界ならともかく、実際に目にすると何とも言いがたいものがあるな……」
 メーリスの声にタイミングを合わせたイスクヴァが高く跳躍し、ドリームイーターがよろめいた瞬間にスターゲイザーを撃ち込んで重力を圧し掛からせる。
「無事帰る、若返る、福帰る。カエルは縁起がいいって言うが……こいつは別だな」
 呟いたケイが、緩やかな弧を描いた月光斬で急所のみを的確に斬り裂いた。すかさず彼のサーヴァントであるボクスドラゴンのポヨンがオルヴァーに駆け寄り、属性インストールでその傷を癒しながら耐性を付与させる。
「すまんな」
 手の痛みが消え、武器を握る手に力が入るようになったのを確認したオルヴァーがポヨンに短く感謝を伝えた。
「びりっとばちばちいっちゃえー♪」
 光の翼を広げ、放出させた雷を腕に集めたエルザートが、そのまま猛突進する。
『!!』
 しかし、ドリームイーターは重い体に鞭打ってエルザートの拳からなんとか逃れた。
「王子様でカエル頭……童話みたいで魅力的なのです。でも残念ですがお引き取り願うのです!」
 リアルな蛙でも人形的な蛙でも大好きなマロンは、倒すべきドリームイーターである事に残念がりながらも稲妻を帯びた槍で突き進む。
『ゲコッ……!?』
 高く跳躍してかわそうとしたドリームイーターだったが、足の重さに飛び上がる事ができずに直撃してしまった。
「うふ、少し大人しくしてもらえる?」
 余裕の表情で微笑む朱璃が飛び上がってスターゲイザーを放とうと飛び込む。ドリームイーターに近付いた瞬間、
「驚かすなら、もっと頭使えよ、クソガエル」
 低く蔑む男声で小さく呟いた。
『ゲ!?』
 どこからどう見ても女性にしか見えない朱璃から低い男声。驚かす側であるドリームイーターも驚いて動きを止めてしまう。
『グエ!!』
 見事に流星の煌きと重力を宿した朱璃の飛び蹴りは決まり、ドリームイーターはふらふらとよろめいた。
 ドリームイーターが攻撃を受けている間にと、朱璃のサーヴァントであるボクスドラゴンの璃紅は、主人に自分の属性をインストールして異常耐性を高める。
「ふふ、ありがと。頼りにしてるわよ」
「驚きを奪うなど、よくわからぬな」
 朱璃が相棒に微笑みかけると、小さく呟いたオルヴァーが地面に守護星座を描いた。ディフェンダーである自分と朱璃にはボクスドラゴン達が耐性をつけてくれている。しかし、万が一自分達が間に合わない場合の為に、後衛の仲間達を守護の光で包んだ。
「女の人に手を出すなんて最低! 最低!」
 紫姫が非難の声を上げながらスターゲイザーを撃つべく飛び上がる。
『ゲコッ!』
 女じゃないだろアイツ! と言わんばかりに叫ぶドリームイーターは重く痺れる体を気合で動かして攻撃をかわしてしまった。

●眠り姫の為に
『ゲゲゲゲゲゲ!!』
 態勢を整えたドリームイーターは大きく口を開くと、驚かされたハライセに口からモザイクの塊を朱璃に向かって飛ばす。
「……っつー……」
 モザイクに包まれた朱璃は、目の前にモザイクがかかっているような感覚に陥り、何度か頭を振っていた。
「もっとしっかり動き鈍らせなきゃダメだね!」
 よし! と気合を入れたメーリスが助走をつけてスターゲイザーで腰に飛び蹴りを入れる。
「舞え光……宿せ光、紅き光の抱擁ここに……」
 エルザートが紅い光の翼を大きく広げ、光の粒子を広げて朱璃を癒した。更に前衛の仲間達に加護を与えて鼓舞する。
「助かったわ。視界もすっきり!」
「頑張ろ♪」
 朱璃がエルザートにスッキリした顔で笑いかけると、エルザートも笑顔を返した。
「次は更に当たり易くしてやろう」
 ケイがスッと刀に空の霊力を帯びさせると、絶空斬で正確に傷口を広げる。ポヨンは主人が攻撃して敵の注意を逸らしてくれている間にイスクヴァに属性インストールをかけて耐性をつけた。
「有り難い」
 表情を変えぬまま小さく礼を言ったイスクヴァは、地獄の炎を武器に纏わせて思い切りブレイズクラッシュを叩き込む。
『ギャッ!』
 体のあちこちが重く痺れて避ける事もできないドリームイーターは、潰れたような鳴き声を上げた。
「カエルと王子様のコラボ、至高なのに……願う人の元に出てこないのは! 許すまじです!」
 マロンは、どうして自分の夢には出てきてくれなかったのかと恨みを込めて古代語の詠唱と共に魔法光線を放つ。更に光線が直撃した瞬間、朱璃の鎌がドリームイータ-の肩を大きく斬り裂いて生命力を奪った。ドリームイーターの意識が逸れてるのを確認した璃紅がまだ耐性がついていない紫姫に駆け寄り属性インストールで耐性をつける。
「実物は本当に気分がよろしくない。さっさと倒させてもらおうか」
「璃紅ちゃんありがと! 乙女の敵はボクの敵! 起きられない女の子を助けるよ!」
 オルヴァーが武器に雷の霊力を帯びさせて神速の突きを繰り出すと、紫姫が電光石火の蹴りで急所を貫いた。
『グギャ、ア、アアアアアアアア!!!!!』
 夜空にドリームイーターの絶叫が響き渡る。
 全身がモザイクに覆われてモザイクの塊になったドリームイーターは周囲に四散して姿を消した。

●これからは楽しい夢を
「皆大丈夫? 怪我してない?」
 ドリームイーターが消え、朱璃の優しげな声が仲間達にかけられる。
「うん! 朱璃さんとオルヴァーさんが引きつけてくれたからボクは無傷!」
「ボクも! 2人に感謝なんだよ!」
 メーリスと紫姫が明るく元気良く笑顔を広げた。
「ボクも大丈夫だよ♪ でも、さすがにこんな夜中だし早くねたいなぁ……けど、壊れちゃった電柱とか壁とかちゃんとヒールしなきゃね♪」
 眠そうに目をこするエルザートは紅い光の翼を広げて、流れ弾に当たって傷つく周囲にヒールをかける。
「無事で何よりだ。ポヨンは回復させてくれてありがとうな」
 オルヴァーが引き受けた攻撃を癒してくれたポヨンに改めて礼を述べると、ヒールの手伝いをしていたポヨンが嬉しそうに尻尾を振って赤いスカートを揺らした。
「これで眠り姫は目を覚ましてくれるかな」
「うむ。今夜からは楽しい夢を見れるよう祈ろう」
 ケイが『驚き』を奪われた少女を思うと、イスクヴァも静かに祈る。
「悪夢は去った……」
 マロンは漫画や映画の決め台詞のようにキリっと顔を引き締めた。
「しかし諦めません。今度お洋服を着た可愛い蛙人形を探してみます!」
 引き締まった顔で真面目にグッ拳を握って固く決意する。
「さーて、夜更かしはお肌に悪いわ。早く帰って寝ましょ」
 璃紅と共に周辺をヒールしていた朱璃が明るく笑いかけると、ケルベロス達は帰路についた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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