犬だよ(嘘)

作者:天枷由良


 学校からの帰り道。
 少年が歩いていると、向こうから老人に連れられた茶色い長毛の犬が近づいてきた。
「うわぁ、かわいいなぁ。……さわってもいいですか?」
 申し出に老人が頷いたのを見て、少年が犬の頭を撫で回そうとした瞬間。
 べろん。
 犬は、口元から四つに裂けて綺麗に裏返った。
「うわぁああああああああああ――」

「ああああ!! ……あ、あれ?」
 ハッと気がついた時、少年は自室のベッドに居た。
「……ゆめ、だったのか……」
 あの恐ろしい光景が現実のものでないと分かり、少年は心底安心したように息を吐く。
 全身汗びっしょり、心臓も飛び跳ねていて、暫く寝付けそうにない。
 水でも飲もう。
 そう思って立ち上がろうとした少年の心臓を、大きな鍵が貫いた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 白い鹿のようなものを連れた獣人風のドリームイーターは、そう言って鍵を抜く。
 深い眠りに落ちたように、こてんとベッドへ倒れこんだ少年の枕元からは、まさしく彼が夢で見た、裏返る犬が現れるのだった。


「ドリームイーターが、新たな事件を起こしたようだわ」
 ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)は、ケルベロスたちへ予知の説明を始めた。
「皆も一度くらいは、びっくりする夢を見た事があると思うの。特に子供の頃は、全く理屈が通っていないけれど、とにかく驚くような夢を見たりしなかったかしら?」
 今回起きる事件は、その『驚き』をドリームイーターが奪うことで起きるのだという。
「襲われるのは、驚くような夢を見た子供。その子供から『驚き』を奪ったドリームイーターはすぐに姿を消してしまうのだけれど、奪われた驚きからは怪物型のドリームイーターが現実化して、事件を起こしてしまうのよ」
 このドリームイーターを、被害が出る前に撃破して欲しいと言うのが、依頼の内容だ。
 現実化するドリームイーターは、少年の夢に出てきた裏返る犬の姿をしている。
 少年の家がある住宅街の路地を徘徊して、遭遇する人々を驚かせようとしているようだ。
「とにかく、誰かを驚かせようと躍起になっているようだから、通りを歩いているだけで向こうから近づいてくると思うわ」
 見た目は大型の茶色い長毛種で、対象に近づくと口元から上下左右に裂けて裏返る。
 裏返った姿は、人間の内臓と食虫植物をあわせたような、それはもうグロテスクなもの。
 ぬらりと照る赤い肌には所々モザイクが掛かり、何の器官だかよくわからないものが脈動して、牙や触手のようなものも生えているらしい。
「まぁ、そんなものが出てきたら驚くわよね。……もし驚かない人がいるとしたら、何とかして驚かそうと、その人を狙い続けるのじゃないかしら」
 攻撃方法は、裏返った際に出る牙での噛み付きと、触手による締め付け、さらに得体の知れない粘液を撒き散らすようだ。
「驚きを奪われた子供は意識を失っているけれど、犬を倒す事ができれば、目を覚ましてくれるはずだわ。しっかりと敵を倒して、事件を解決して頂戴ね」


参加者
岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)
クルス・カデンテ(紫電・e00979)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
陸野・梅太郎(太陽ハウリング・e04516)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
ノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)
ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)
アレス・アストレア(ヴァルキュリアの自称勇者・e24690)

■リプレイ


「うわあー……わあー、あー……わー」
「なにやってるの?」
「……驚く練習」
 夜の住宅街。路地の真ん中でオルトロスのアロンを連れた円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)が行っている予行演習を、姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)がきょとんと眺めていた。
 その後ろを通り過ぎていくのは、ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)に促されてクルス・カデンテ(紫電・e00979)が展開した殺界の影響で、部屋着や寝間着のまま街から遠ざかろうとしている半径300メートル内の住人たち。
 時折寝ぼけ眼の混じる彼らを見送りつつ、ノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)と岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)は口々に呟く。
「魔女集団……か。デウスエクスもいろいろだな」
「眠っている間に見る夢を狙う。そんなやり方もあるんだね……。
 なんにせよ、あまり好きじゃないな」
「あぁ、俺もだ」
 響に短く返した陸野・梅太郎(太陽ハウリング・e04516)は、燻ぶる怒りを魔女ではなく産み出された怪物……犬型のドリームイーターに対して向けていた。
 何故なら梅太郎も、金色もふもふの長い毛並みとふさふさ尻尾を自慢にする犬系ウェアライダーであるから。
「犬が皆裏返って化け物になるとでも思われちゃたまんねぇ。変な風評ばらまかれる前にぶっ飛ばしてやるぜ。……ウルフェン、お前も驚くんじゃねぇぞ」
 ぱんっ、と拳を片掌に叩きつけると、梅太郎の相棒ライドキャリバーのウルフェンも気合一発、空ぶかして唸る。
 その気合にあてられた……訳ではなく、此方は元からこのテンションだったのだろう。
「驚きを奪うドリームイーター! いったい、どのように驚かせてくれるのか……」
 まるでテーマパークのアトラクションにでも挑むかのように、アレス・アストレア(ヴァルキュリアの自称勇者・e24690)は両手を広げ目を輝かせていた。
「少し楽しみ……ではなく!
 コレは(自称)勇者として、一刻も早く少年を助けてやらねば!」
 灯りを手にして足取り軽く、路地へと踏み出すアレス。
「……狩りの時間だ。やろうか」
「獣狩りには絶好の夜で御座いますね。
 我ら地獄の番犬が務め、しっかりと果たしましょう」
 他の者たちも響とツェツィーリアの言葉に応じて、後方をキープアウトテープで封鎖してから進んでいく。


 無人となった路地は、所々に設置された街灯で薄ぼんやりと照らされていた。
 歩いていれば、敵は向こうから近づいてくるはず。
「犬だけど犬じゃない怪物……やっぱり、角から青黒い煙を上げてきたりするのかな?」
 ロビネッタは架空神話の生物を例えに上げながらきょろきょろと周囲を伺い、「あれ、全然違う?」と首を傾げる。
「まぁ、どこぞのホラーゲームになら出てそうなバケモノではあるな」
「あとは映画とかな」
 クルスの落ち着き払った声に答えて、ノーグは事前準備として鑑賞した映像作品の怪物たちを思い出す。
 それは人型であったが、口元を食虫植物のように開いて人を捕らえるなど、これから相見える犬と通ずる部分もあった。
 感想は……恐怖や驚愕といったものでなく、ただ不快になるだけだったのだが。
「あぁいうの見るとさ、なんつーか……臭い、とか、気になるよな?」
 裏返る犬もグロテスクな見た目をしているらしいが、果たして腐臭など漂わせていたりするのだろうか。
 そんな事を考えていると、神妙な面持ちで人一倍注意を払っていた梅太郎が歩みを止め、一同を制した。
「……来やがったぜ」
 ひた、ひた、ひた、ひた。
 梅太郎の指した街灯と街灯の合間、灯りの途切れた所から何かの音がする。
 押し黙り、身構えるケルベロスたち。
 やがて見えたのは――ふかふか毛並みの茶色い大型犬。
「ばうっ!」
 犬は人懐っこそうな顔で、大きくハッキリと吠えた。
 何も知らなければ撫でたくなる程度には可愛らしいが、正体を察しているケルベロスたちの表情は硬い。
 とはいえ近づかねば、化けの皮も剥がせない。
 一同の中からノーグが進み出て、犬と目線を合わせようと近づいていく。
「迷子か?」
「ばうっ!」
 また一つ吼えた犬も、とてとてと歩きながら距離を詰めてくる。
 双方の間は徐々に縮まっていき、手を伸ばせば犬の頭が撫でられるのではないかという所まで近づくと。
 ――べろん。
 犬は、口元から四つに裂けて裏返った。
「わー!!」「うわぁぁぁ!!」「うわあー」
 素直な悲鳴、やや演技がかった叫び、まるで平坦な声。
 様々な方向からのアプローチで、ケルベロスたちは裏返った犬に驚きを示す。
「わー、ムリムリ! こないでこないで、かえってあっちいって~!!」
「デウスエクスとの戦いには慣れてるつもりだったけど、こう、あからさまに怪物ってのは……ちょっと……」
 手で視界を遮り、しかし指の隙間からチラチラと様子を伺ってはまた悲鳴を上げるロビネッタと、引き気味で少し動揺を見せつつ後ずさる響。
「う、うわぁぁぁぁ! 来るな、近寄るなぁ!」
「……これは驚きました。想定以上の醜悪さに御座いますね」
 意外や意外、派手な悲鳴を上げて飛び退いていく――演技を見せたクルスと、言葉では驚愕を現したものの、潜めた眉からは嫌悪感の方を強く滲ませるツェツィーリア。
「なんだーこれはー、びっくりしたー……」
「な、なんということだ!
 今日日の犬は多芸と聞いていたが、まさか裏返ってしまうとは……!!」
 驚かなければならないと意識すれば余計に不自然な表現となり、けれども練習した成果をほんのりと発揮するキアリと、他の者と違って恐怖や嫌悪ではなく感嘆からくる驚きを見せるアレス。
 犬とは呼べない形へ完全に変化したドリームイーターはケルベロスたちの反応をじっくりと味わい、用途不明の臓器を脈動させて嬉しそうに触手を揺らした。
 しかし。
「何だそりゃ、そんなんで驚くか」
 まるで驚かないどころか鼻で笑う梅太郎と、黙って鋭い眼光を向けるノーグ。
 主人の命令に従って無反応を貫いたサーヴァント、ウルフェンとアロンの二人二体を認めると、怪物はぴたりと動きを止める。
 そして犬形態に戻ってから「お前らよく見んかい」とばかりにねっとりゆっくりと、或いは素早く威嚇するように幾度か裏返ってみせた。
 だが、裏返る犬の努力は報われない。
「へっ、バカかお前。何度やったって同じだぜ」
「……あまり寄るな、気持ち悪い」
 梅太郎は笑いの中に嘲りすら交えて明後日の方向を向いてしまい、ノーグは無表情の下から嫌悪感を吐き出す。
 それは怪物としてのプライド……と呼ぶべきか、ともかく裏返る犬の性質を焚き付けた。
「グヴォア!!」
 もはや犬の名残は全くない咆哮を上げ、怪物は梅太郎を驚かせようと牙を剥いて跳ねる。
 迫り来るグロテスクな肉塊から視線を逸らしたままの梅太郎は――もちろん慄く事などなく向き直り、黒い瞳に敵の姿をしっかりと捉えて言った。
「来たな。読み通りだ……!」


「てめぇが飛び込んで来るのを待ってたんだ!」
 梅太郎が叫びながら繰り出した拳撃を、肉球ハンド――犬の手を模した縛霊手もろとも、不定形の怪物が飲み込んでいく。
 牙が突き刺さり、焼けつくような痛みを感じても、梅太郎は怯むどころか更に勢いを付けて腕を振り抜いた。
 敵の体内を抉る犬拳。その鋭い爪が途中で何か固いものに触れて、怪物は元居た位置より遥か遠くにまで吹き飛ばされる。
 すかさず反応したのはウルフェン。
 けたたましい音を鳴らしてアスファルトを擦り上げると、主人のクロスカウンターで地を弾んだ怪物に炎を纏って突撃を仕掛けていく。
「……いってぇ。それに、ちょっと臭ぇ」
「私に任せろ。臭いまでは取れないと思うが」
 捨て身に近い攻撃を完璧に叩き込んで腕をズタズタに傷つけてしまった梅太郎に、アレスが駆け寄って魔術的緊急手術を始めた。
 傷はすぐさま塞がり、体内を侵食して梅太郎に幻覚を見せつけるはずだった成分も、効能を発揮する前に消える。
 臭いは……やはり、手術では取りきれなかったようだ。ダメージにはならないが、少々不快であるのは否めない。
 一方、残るケルベロスたちはウルフェンの体当たりを食らって路地の向こうへ追いやられた敵を追っていく。
 クルス、ロビネッタ、ノーグ、アレスらが手や頭、身体に付けておいたライトで先を照らすと、怪物は犬の目を一つ、全身に這い回らせていた。
 それが接近してくる敵の姿を捉えたのと同時に、路地を駆けるケルベロスたちをグラビティ中和弾が越えていく。
「撃ち貫くは黒き銃弾、牙砕きし衰弱の魔弾」
 唄うように囁くツェツィーリアが大型ブレードを下部に備えたライフル『ハティ』から放った一撃は、怪物の脈打つ臓器を圧迫して蠢く触手を萎びさせた。
「……古い映画で、こういうのを見たことがあったような……?」
「それってあたしたちが見たら年齢制限に引っ掛かったりしない? ……あ」
 キアリの呟きを拾い上げて、ロビネッタは何か閃いたように手を叩く。
「だったら、あれも見ちゃいけないよね。もう見ないでおこうかなー……」
「なに、そういうものだと思えばすぐ慣れる。
 ……まぁ、あまり近づきたくないのは変わらないが」
 提案を一瞬で打ち消して、クルスは敵の元へ最短距離で突っ込んだ。
「確実に弱らせていってやる」
 オウガメタルを鋼の鬼と化して拳に纏い、叩き込むクルス。
 次いで響とキアリが螺旋の力を込めた掌で触れると、怪物の身体は一部分が膨れ上がって弾けた。
 飛び散る肉片。その中を掻い潜ったアロンが咥える神器で斬りつけて抜け、ロビネッタが時空凍結弾を撃ちこむ。
 怪物は凝結していく傷口を物ともせず、治療を終えてやってきた梅太郎に目を向けるが。
「お前の相手はこの俺だ!」
 よそ見は許さんとばかりに、月の魔力で生み出した精神毒を爪に含ませたノーグが切り掛かる。
 すぱっと裂かれた肉からは得体のしれない液体が溢れだし、グロテスクさを倍増させた怪物はノーグ、梅太郎の二人を見やると、溢れた液体の粘性を強めて空中に撒き散らした。
 粘液は二人のみならず前衛のケルベロス、サーヴァント全てを巻き込まんばかりに降り注ぐ。
 しかし疾走するウルフェンと飛び上がったアロンが大部分を身代わりに引き受けて、それでも僅かに零れて梅太郎の金色を汚したものは、ノーグが路地に響かせた戦う者たちを癒やす歌と。
「洗浄作業も勇者にお任せだ!」
 アレスが撒いた薬液の雨で無害化され、毒性を失っていった。
「……汚らしいな。目障りだ、少し大人しくしてろ」
 敵の攻撃が止み、クルスは小さくとも気合の入った声で吐き捨ててバスターライフルを構える。
「痺れろ……ッ!」
 魔力を込めて撃ち出された弾丸は肉塊に食い込むと、雷雲を空から落としたように激しい光を放った。
 直後、煌めきを打ち消すほどの銃弾が雨の代わりに炸裂して、その終わりにR.H.のサインが記されたカードが投げつけられる。
「事件と隙は探偵ロビィが見逃さないよー!
 ……でも、あれにはサインなんて描けないよー……」
 弾痕で自らのイニシャルを描く得意技を――最も、ろくに成功したことがないのだが――繰り出したロビネッタは、げんなりとした声を漏らした。
 銃弾は一つ残らず命中したが、うねうねと蠢く不定形の怪物に固定された傷跡を残すことはほぼ不可能だ。
 ともあれ大事なのはダメージを与えること。その点は問題なく効果を上げていて、心なしか動きを鈍らせたような怪物を、今度は氷結の閃刃が襲う。
「続くは凍て付く光条、零下の煌めきにて咲き誇る氷結の華」
 詩の続きを奏でて、ツェツィーリアが放った光剣の如き凍結光線は肉塊を真一文字に薙ぎ払った。
 そこへキアリも氷結の螺旋を加えると、凝固した怪物を解凍するのは竜の炎。
「行けっ!」
 響が解き放つドラゴンの幻影が、怪物をまるごと喰らって彼方に消える。
 幾らか水分でも失ったか、一回り小さくなったような怪物だが、攻撃の手は緩めてもらえない。
 アロンの燻らす地獄の瘴気に紛れて、ウルフェンと共に突っ込んだ梅太郎が完治した腕で思い切り殴りつける。
 肉球ハンドの先からは網状の霊力が放出され、絡め取られた怪物は激しくタイヤを回転させるウルフェンに、これでもかと弄ばれた。


「確かにクルスくんの言うとおり見慣れてきたかな?
 でもこんな風にルーペでよく見ると……」
 怪物へ向けようとした小道具を「やっぱり暗いからやめとこ」と仕舞いこんで、ロビネッタは銃を構える。
「けど、た、探偵は真実から目を背けない……もんっ」
 言い終わる頃には完全にそっぽを向いて、撃ち出された弾丸は路地のあちこちを跳ねた後に肉塊へ辿り着いた。
 跳弾射撃を受けて、嘔吐するような音を漏らす怪物。
 それは数分前のやる気を何処へ霧散してしまったのか、すっかりしおらしくなってしまっていた。
「随分調子が悪そうだな。はしゃぎ疲れたか?」
 クルスに煽られると、怪物は余力をかき集めて牙を剥き出し、反攻の姿勢を見せる。
 その身体が飛びかかってくるよりも先にクルスのバスターライフルから光線が発射されて、線条に沿って踊るように接近したツェツィーリアは肉塊へ刃を突き立て真横に斬り裂いた。
「牙は折れ、動くが度に責め苛むは乱れ咲く凍結華。さぁ、汝を狩り立てし狼牙からいつ迄逃げ延びられて?」
 問いかけを名残と留めるツェツィーリア。だが怪物は、彼女を追いかけたりはしない。
 自身の性質に突き動かされて、梅太郎にばかり目を向けてしまう。
 何とかアイツを驚かせたい。それこそが己の存在する理由。
 一貫して我を突き通す怪物だが、しかしその目的を果たせるほどの力は無かった。
「――此れより我が身は雷。地を侵す神々よ。畏れよ」
 天駆ける雷神の力を美しく輝く衣のように纏って、響が路地に光跡を残しながら肉塊を斬り抜ける。
 続けざま、アレスに纏うオーラを分け与えられてほぼ全快状態のノーグが柄に手をかけ、抜刀。
 非物質化された刃は怪物が内包する驚きそのものを斬り捨て、抜け殻に等しくなったそれを梅太郎が蹴り飛ばすと、キアリの放ったブラックスライムが丸呑みにする。
 黒塊は暫く路地の中ほどに佇んで、やがて消え去った後には裏返る犬の欠片一つも残していなかった。

「勇者として、実にやりがいのある仕事でしたね!」
 怪物退治を確認して、アレスが言う。
 彼女は敵のグロテスク加減を全く気にしていないようだが、もちろん皆が皆、そうであるはずもない。
「今夜はちゃんと眠れるかなぁ……」
 眠れなかったら探偵アニメでオールナイトだ。
 決意しながらもとぼとぼと歩くロビネッタに続き、一行は夜の路地から帰還していった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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