夏の廃墟で捕まえて

作者:秋月きり

 静岡県富士宮市郊外。
 案外足音は響くなぁ、と妙に感慨深げに頷くと、耕太は撮影用のカメラに語りかけながらその建物の中に入っていく。
 不渡りを出して倒産し、買い取り手のつかないまま廃墟と化したこの工場に、『何か』が出ると聞いたのは何時だったか。
「えーっと。深夜0時を回りました。この廃棄された工場に幽霊が出るという噂の真相を確かめたいと思います」
 幽霊なんかいる筈もない。それが耕太の持論だが、その肝試しの様子を収めた動画を投稿サイトで流せば、多くの再生回数を稼ぐ事が出来るだろう。そうすれば一躍有名人。その程度の自己顕示欲は充分にあった。
 だが、さして広くない工場を回りきるのに10分も必要なく、その間に『何か』と遭遇する事はなかった。
 休憩室に使われたであろう机と椅子が散乱する部屋に到着すると、ふぅと息を吐く。
「特に何もなかったな」
 終わってしまえばどうと言う事はない。さぁ、撤収するかとカメラの電源を落としたその瞬間だった。
 声が聞こえる。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 胸を何かが貫くのは、それと同時だった。
 鍵だ。鍵のような何かが心臓を貫いている。痛みも出血もないものの、それを認識した耕太はがくりと意識を失ってしまう。掌から零れたカメラが床にぶつかり、鈍い音を立てた。
 鍵の主の名前は第五の魔女・アウゲイアス。見下ろす耕太から零れる靄はやがて、白い影を作り出す。
 白い和服――死に装束を思わせる和装に身を包んだその影の顔はモザイクに覆われており、それがゆらりと動き出す。
 幽霊。耕太が求めた『何か』の形を取ったドリームイーターの誕生に、アウゲイアスは「成る程」と頷くのだった。

「肝試し、幽霊。……夏の話題って言えば話題なのだけど」
 リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の第一声はそんな呟きだった。
 そしてヘリポートに集ったケルベロス達に言葉を向ける。ドリームイーターに関わる未来予知を見た、と。
「不思議な物事に強い『興味』を持ち、実際にその調査を行った人が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われる。そんな事件が起こってしまってるわ」
 今回、廃墟に現れる幽霊に興味を持った少年が、その『興味』をドリームイーターに奪われたのだと言う。彼を襲ったドリームイーターは既に姿を消しているようだが、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターが残されてしまっている。
「今は廃墟と化した工場の中にいるから直ぐに被害者が出る事はないだろうけど、工場の外に出るようになったら、新たな犠牲者を生む可能性は充分にあるわ」
 だから、それを撃破して欲しいと言う。
 なお、ドリームイーターさえ撃破すれば『興味』を奪われた少年の意識を取り戻すだろう。
「次にドリームイーターの情報なんだけど」
 白い死に装束に身を包んだ、典型的な幽霊の外見をしたドリームイーターは、工場内を徘徊し、出会った相手に「自身が何者か?」と問い掛ける行動に出る様だ。この問いかけに正しく対応できなければ、問い掛けた相手を殺そうとするので、その対応も必要になるだろう。もっとも、ケルベロス達の目的がドリームイーターの撃破なので、誤った対応をしても問題はない。
 また、戦いになれば様々な効果を持ったモザイクを飛ばしてくるものと思われる。配下も無く、単独で行動しているため、正面から戦えばデウスエクスとは言え、倒せない相手でもない。
「問題は、幽霊の性質を持ってる事なのよね」
 その性質とは、神出鬼没。それを利用したヒットアンドアウェイ、即ちゲリラ戦法はケルベロス達を苦しめる事になると推測される。
「でも、このドリームイーターには『自分の事を信じていたり、その噂をしている人がいると、そこに引き寄せられる性質』があるの。この場合、幽霊を怖がっている人の元に現れやすいみたいね」
 例え演技でも恐がり度合いが大きければ消える事よりも現れて脅かす事を優先するようだ。
「何に興味を持つかは人それぞれ。でも、知的好奇心を持つのは良い事よ。その興味を使って、化け物を生み出す行為は許せないわ」
 静かに呟いた後、リーシャはケルベロス達を送り出す。
「それじゃあ、いってらっしゃい」


参加者
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
近藤・美琴(想い人・e18027)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
柳楽・宗右助(鴉羽の隠し手・e23927)
八尋・豊水(イントゥーデンジャー鎌忍者・e28305)

■リプレイ

●好奇心が殺すもの
 こつりこつりと足音が響く。その数八つ。廃墟と化した工場内を歩くケルベロス達の表情は一様に強張ったものだった。その表情が演技なのか、それとも本心なのか推し量る術は無く。
 ライトで照らした通路は、目に見えて荒れ果てていた。埃が積もり、ゴミなのか瓦礫なのか判らない細かい欠片が点在する廊下は、手入れする人間がいないと、無言で訴え掛けている様でもあった。
 しんと静まった工場内を沈黙が支配する。それも、束の間の事。
「幽霊なんているわけないじゃないですか」
 沈黙に耐えきれず、近藤・美琴(想い人・e18027)が声を上げた。アハハとの笑いと共に零れる言葉は虚勢なのか否か。確かに言葉の上では幽霊を否定しているが、震える語尾を隠し切れていない。
 その瞳が違和感を覚える。視線の先には向かいの部屋。そこに映る白い影はまさしく――。
「気付いたか?」
 柳楽・宗右助(鴉羽の隠し手・e23927)の潜めた言葉にコクリと頷く。声高に口にしなかったのは、その存在に自分達を気取らせない為だろう。
 日本人形みたいな顔立ちだった。受ける印象は確かに『幽霊』。耕太少年から具現化した『興味』は彼の求めた幽霊の姿を取ったのだろうか。
「皆さん」
 注意を喚起する文言は最後まで紡がれなかった。ふっとそれが消えた為に。あれがヘリオライダーの言っていた『幽霊の特性』なのだろうか。
「な、なに、ちょっと止めてよ。美琴ちゃんも悪戯が過ぎるわよ」
 八尋・豊水(イントゥーデンジャー鎌忍者・e28305)が上げた声に気圧され「いえ……」と言葉を濁してしまう。
「ドリームイーターか?」
 アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)の言葉は小さく、だが鋭く響く。コクリと頷く彼女に、なるほどと頷き返すドラゴニアン。そして、次の行動は早かった。
 すぅっと息を吸う彼の様子に、美琴は思わず耳を塞いでしまう。
「ひ、ひぃっ。幽霊?!」
「なっ。……た、たいやき、こっちに来いよ!」
「や、やだー」
 突如響くアジサイの悲鳴に、霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)と神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)が同調し、声を上げる。カイトは己のサーヴァントであるボクスドラゴンを抱き寄せ、鈴に至っては仲間であるジェミ・ニア(星喰・e23256)の陰に隠れようと、その背にしがみつく。迎えるジェミも「だ、大丈夫、大丈夫だよ!」と彼女を励ますが、その声は震えていた。
「皆、安心召されよ」
 パニックに陥り掛けた仲間を樒・レン(夜鳴鶯・e05621) が一喝する。
「幽霊など、念仏を唱えれば一発よ。例えば、こんな話がある。月明かり星明かりの無い夜道、弥彦と言う少年が提灯片手に歩いて」
「いや、レンさんも落ち着いて!」
 怪談を語り始めたレンはどう見ても動揺していた。思わず零れた鈴のツッコミに、ハッとした表情を浮かべるレンは、誰にも見えない角度で彼女にウインクを送る。
 これが演技なのだから大したものだ、と頷く彼女の表情は、次の瞬間、凍る事になる。
 声が響いたのだ。
「ねぇ、私はだぁれ?」
 ハッキリと聞こえたそれは高く、確かに『女性の幽霊』を思わせた。

●幽霊の正体見たりドリームイーター
「ねぇ、私はだぁれ?」
 女性の声が静かに響く。どことなくヴァーチャルアイドルを彷彿させる合成音声に聞こえるのは、……まぁ、十中八九、耕太少年の趣味だろう。
 頭痛を堪える仕草をするケルベロスの背後に、青白い影が現れる。
 青白い肌に白装束。ご丁寧に天冠まで纏っている姿はまさしく典型的な幽霊だった。その顔を覆うモザイクが無ければ、ドリームイーターと誰も思わないであろう。
 白日の下に姿を現した幽霊――否、ドリームイーターはケルベロス達に再び問う。
「私はだぁれ?」
「んなもん自分で考えろよ、知るかぁ!?」
「知らん」
「そんなもん知るかぁぁぁ!」
 カイト、レン、美琴の口から、異口同音の回答が飛び交った。
 自身を問う問いかけに、問いかけそのものへの否定で返されたドリームイーターは、むっと鼻白む。
 一方で、違う答えも飛び出していた。
「お岩さん……かなぁ?」
「好奇心の具現化したもの……とか?」
 鈴は四谷怪談に出てくる幽霊の名を口にし、その彼女の前に立ち塞がるジェミは、そのものずばりの正体を告げる。
 小首を傾げるドリームイーターは、その言葉の意味を理解しているようには思えなかった。
「廃墟の幽霊じゃないのか?」
 逆に問いかける宗右助の言葉には、いやいやと手を払って応じる。モザイク越しの顔は「いや、そうなんだけど」と微妙な表情を浮かべている、そんな気がした。
「ゆ、幽霊だー!」
 だが、同時に上がったアジサイの悲鳴には喜色を浮かべる。表情は伺えないが、ニタリと笑んでいる様子は何となく理解できた。
 そして。
「こういうのは答えたら悪い事が起きるって相場が決まっているのよぉ。赤いちゃんちゃんことかさぁ……」
 着せて良いかと問われ、是と回答すると自身の血で血塗れにされる。そんな怪談の内容を仲間の陰に隠れてぶつぶつと呟く豊水の言葉に、ドリームイーターは身体を震わせて喜びを表す。
 青白いその身体が消失したのは、瞬く間の事だった。
「……あれ? 消えちゃった?」
 返答に満足したのかな? と鈴が周囲を見渡す。
 異変はその瞬間、発生した。
 足首を何かが触れる感触に、ひぃっと息を飲む。見下ろした先には、床から生えた青白い手が彼女の足首を掴む光景が広がっていた。
 今までの様子はドリームイーターを誘き寄せる為の演技だったが、この瞬間、彼女は本心から震えていた。怖がらせる系は問題ない、だが、これはドリームイーターの攻撃に他ならない。
 モザイクが侵食してくる。手と思われたそれは巨大な顎と転じ、鈴の足首に喰らい付いてきた。
「だりゃ!!」
 カイトの蹴りがモザイクに叩き込まれた。怯む間隙を縫って鈴が飛び退く。がしゃんと響く歯噛みの音は、その回避が間一髪だったと告げていた。
「問いかけに正しく答えなかった者は、か」
 奇襲に備え、身構える宗右助はぽつりと呟く。そもそも正答があるか判らない問いかけだ。しかし、彼女は具体的な名前を挙げていた。怪談で語られる幽霊の名ではあるが、抽象的に答えたジェミ、宗右助、アジサイと比べ、具体名で答えた分、『正しくない』との判断になったのだろう。
 ならば。
 嘴の意匠を施した仮面を纏いながら、宗右助は声を上げた。
「カイト、鈴のサポートを頼む!」
 ディフェンダーの役を担う仲間と、そして自身のサーヴァントにそれを告げ、自身は戦いのオーラを纏う。ヘリオライダーの言葉を信じれば、ドリームイーターの狙いは鈴の筈だ。
「大地に眠る祖霊の魂。……今ここに……千里を見通す大神の目を!」
 名を呼ばれたカイトの頷きと共に、鈴の可憐な詠唱が辺りに響き渡った。

●夏の廃墟で捕まえて
 銀光が夜闇の中、煌めく。
「こちらに来るなっ!」
 引き攣った声と共に放たれたアジサイの矢はドリームイーターの肩を抉り、勢いのまま壁に突き刺さる。
 ドリームイーターの視線がアジサイに突き刺さる。同時に放たれたモザイクの塊は、間に割って入った美琴のサーヴァント、エスポワールによって叩き落とされ、アジサイへ届く事はなかった。だが、反撃に放つ爪は虚空を切る結果に終わる。ドリームイーターの身体が壁に触れると、まるでしみ入るかのように掻き消えた為だ。
「幽霊の性質、か。厄介だな」
 消えた壁に視線を走らせたジェミがぽつりと呟く。
 既にケルベロス達は廊下から工場内に移動を済ませていた。稼働中はおそらく業務に使用していたと思わしき空間は戦闘に申し分なく、追ってきたドリームイーターを迎撃するには充分な広さを持っていた。
 ドリームイーターの持つ『幽霊の性質』が無ければ、だったが。
 天井、床、壁と、自在に消えるドリームイーターの捕捉は困難を極めた。ヒット&アウェイの言葉に相応しく、ドリームイーターはケルベロス達に攻撃を加えると、即座に離脱。建物の何処かに消えてしまう。
 ならば、と建物そのものへの破壊も考えたものの。
(「崩落の危険性があるもんな」)
 アジサイの危惧が的中すれば、奥にいる耕太少年の命に関わる。その手段は使えない。
「――皆、演技は最小限に」
 レンの声が鋭く響く。
 神出鬼没。捕捉困難。だが、対処方法はある。
 ドリームイーターが再び出現する。それが放つモザイクは一様に鈴を狙っていた。
「たいやき!」
「エスポワール!」
「トラ!」
 主人達が己のサーヴァントの名を呼ぶ。任されたと立ち塞がるサーヴァント達は自分の身を盾にして鈴へ飛来するモザイクを受け止めた。受けた傷は鈴のサーヴァントであるリュガが属性を注ぎ込み、治癒を行う。
 出現場所が不明であるが故の神出鬼没。だが、狙いが判っていればそれはもはや神出鬼没では無い。指向性を限定された不意打ちなど怖るるに足りないのだ。
 自身の攻撃の失敗を悟ったドリームイーターが息を飲む音が聞こえる。同時に。
「嫌ぁぁぁ! 悪霊退散! 悪霊退散んん!」
 飛び出した豊水の鋼の一撃が、ドリームイーターの纏う白装束を切り裂く。
 恐怖とは本能的な物だ。それを押さえ込むのは容易では無い。まして、彼は怖がっている演技をしている訳では無かった。本気で幽霊が怖い。怖いのだ。
 だが、百戦錬磨の忍びである矜持が、戦いからの逃亡を許さない。戦いを止める道理の理由も無かった。
 切り裂かれた衣服を押さえ、壁の中に逃げ込もうとするドリームイーターはしかし、その逃亡を遮られる。
「じ、人生は舞台、ならばお前に」
 壁から迫り出す歯車と空中に浮かんだ歯車。一対の歯車がその身体を挟み込み、更に白い衣服を奪っていく。
「相応しくない役……ってか、幽霊なのかデウスエクスなのかハッキリしろよ!」
 詠唱と共に零れた叫びは演技に見えなかった。涙目の彼を、自身に鯛焼き属性を注入するたいやきがきゅぅと慰める様に肩を叩く。
「今なら狙い放題、ですね」
 自身に憑依させた光狼の加護を右手に宿し、引き絞った矢を放つ。憑依を表す為か、付け耳と付け尻尾がふわりと揺れる様は獣人を思わせる。
 放たれたエネルギーの矢は寸分違わず、意外と豊満な胸に突き刺さった。心臓を射貫いたところでドリームイーターが死を迎える訳では無いが、溢れ出るエネルギーは心臓を、そして、それが象徴する心を揺さぶる。ドリームイーターが頭を振ったのはエネルギーに翻弄されるが故だろう。
 その機を逃すまいとドリームイーターにエスポワールが飛び掛かる。翻る光は彼女の爪撃。顔を引っ掻かれたドリームイーターは悲鳴を上げ、傷跡を残す顔を押さえる。
「二つの誓いよ! 想いと共に燃え盛れ!!」
 サーヴァントの攻撃に美琴の詠唱が重なった。
 燃え上がるゼラニウムの鎖はドリームイーターを貫き、その身体を縛り上げる。身じろぎするドリームイーターはしかし、その束縛から逃れる事は出来なかった。
 鎖を構成する力は『誓い』。興味本位で生まれたドリームイーターに、少女の想いを汚す力がある筈もない。
「好奇心、猫をも殺すと言うが、本当に好奇心を原因として一般人を殺させる訳にはいかない」
 そして宗右助の手刀がドリームイーターを割る。赤と白が入り交じったオーラを纏う彼の一撃は、空の霊力を伴ってドリームイーターに叩き付けられた。
 空の霊力を纏う一撃は宗右助だけでは無い。彼に続くジェミの鋭い蹴りも、ドリームイーターから装甲を剥ぎ取っていく。
 幾度の攻撃を受けながら、ドリームイーターの身体は拘束から逃れられなかった。動き封じられたドリームイーターに、更なる連撃が叩き付けられる。
「この世を照らす光あらば、この世を斬る影もあると知れ」
 螺旋の力が周囲を囲む。数多に分身をしたレンの放つ手裏剣はドリームイーターの身体に突き刺さり、梳る様に刻んでいく。
 そこに落ちたのは飛竜を模した鉄槌。仲間達の連撃を見届けたアジサイの、振り下ろしたグラビティの塊だった。
「墜ちろ!」
 振り下ろしの動作と共に自身を襲うそれをドリームイーターは耐える事が出来なかった。
 その身体はまるで霧散の如く、光の粒子と化して消失して行くのだった。

●信じるも信じないのも
 耕太少年を発見したのは、工場の最深部――休憩室だった。眠ったように気絶する彼の傍らに、気絶の拍子に落としたのであろう、レンズの砕けたハンディカメラが転がっていた。
「起きて下さいー」
 外傷が無い事を確認し、ついでとばかりにカメラにヒールを施した鈴がぺちぺちと少年の頬を叩く。
 う、うーと、唸り声と共に目を醒ました少年は次の瞬間、「うわぁ!」と情けない悲鳴と共に飛び跳ねた。
(「そうよねぇ」)
 豊水がクスリと笑う。
 ドリームイーターに襲われた記憶が彼に残っているか不明だが、目が覚めた自分を数人の男女が見下ろしている、と言う情景は、悲鳴の一つを上げても仕方ないだろう。
 自分達がケルベロスだと名乗れば、先程の態度は度去年吹く風。凄いと目を輝かせ、矢次に「どうしてここに?」「助けてくれたの?」「デウスエクスと戦ってるって本当?」と繰り返す。
「インタビューを行おうとする心意気は褒めるべき事かもしれんが、まずは落ち着いた場所に移動せぬか?」
『廃墟で気絶した俺がケルベロスに助けられた件』とカメラに録音する様子を目敏く見つけたレンが苦笑と共に呟く。流石ドリームイーターに利用される程の『興味』である。或いは自己顕示欲か。転んでもただでは起きない、と言う様子に笑うのはレンだけでは無い。宗右助もアジサイも相好を崩していた。
「だったらさー。焼きそばでも食いに行こうぜ」
 美味しい物を食べたい、とのカイトが提案する。富士宮市はB級グルメの焼きそばで有名な街だ。夜遅い時間であるが、遅くまで営業している居酒屋でも見つければその名物を堪能する事は可能だろう。
「そうですね。幽霊退治も終わりましたし」
 ジェミは呟くと、「好奇心が危険を呼び寄せる事もあります。余り危険な事をしては駄目ですよ」と諫めの言葉を口にする。
「幽霊、いたの?」
 頷く少年は次の瞬間、その問いを発していた。未だ溢れる好奇心の輝きに美琴が悪戯っぽく笑う。
「ええ、こんな大きい幽霊がいたんですよ」
(「ドリームイーターでしたけどね」)
 顔がモザイクに覆われていなければ、耕太少年の求める存在だっただろうけど。
 その呟きを飲み込み、帰路を促す。
「そっかー。いたのか、幽霊」
 そんな存在はいないと結論づけていた少年の、心底残念そうな呟きに、ケルベロス達は顔を見合わせ、そして笑い声を上げるのだった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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