黙示録騎蝗~その身、引くことを知らず

作者:天木一

 夜の暗闇の中にぽつりぽつりと雨が降り注ぐ音が響く。
 雨は生い茂る木々を濡らし、その近くの岩場には多くの蠢く影があった。
「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
「否っ!」
 不退転侵略部隊リーダー、ヴェスヴァネット・レイダーが、声を張り上げると、隊員達はすぐさま声を揃えた。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
 その言葉に同意するように頷く。
「ならば、ゲートなど不要。このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
 一斉に隊員達が応と掛け声を響かせる。
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう。その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
 隊員達は微動だにしない。その強固な意志が表に現われているようだった。
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
 意気軒高な不退転ローカストに、指揮官ヴェスヴァネットも拳を振り上げて応える。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
 このヴェスヴァネットの檄を受け、不退転侵略部隊のローカスト達は、1体、また1体と移動を開始していく。
 不退転部隊の最後の戦いが始まろうとしていた。
 
「皆さん、ローカスト・ウォーではお疲れ様でした」
 ケルベロス達を労わるようにセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が頭を下げる。
「大きな戦いが終わったばかりですが、撤退した太陽神アポロンが、ローカストの軍勢を動かそうとしているのです。その中でも、まずはヴェスヴァネット・レイダー率いる不退転侵略部隊が動き出したようです」
 その言葉にケルベロス達の表情は真剣なものになる。
「太陽神アポロンは『黙示録騎蝗』の為に大量のグラビティ・チェインを求め、不退転侵略部隊をグラビティ・チェインを集める為に使い捨てようとしているようです」
 不退転侵略部隊は、1体ずつ別々の都市に出撃し、ケルベロスに殺される直前まで人間の虐殺を続ける。
「予知にあった場所の住民を避難させた場合、他の場所が狙われてしまいます。よって被害を完全に抑える事は不可能です」
 しかし、不退転侵略部隊が人間の虐殺を行うのは、太陽神アポロンのコントロールによるものであり、決して彼らの本意では無い。
「不退転侵略部隊のローカストに対し、正々堂々と誇りある戦いを申し込み、上手く説得する事が出来ればケルベロスと戦う事を優先してくれる可能性があります」
 説得に失敗すれば被害が広がり、多くの人間が殺されてしまう。
「不退転部隊のローカストは、絶対に降伏する事はありません。最後まで戦い続け、逃走する事もないでしょう」
 決して引くことのない相手との激しい戦いとなる。
「不退転部隊のローカストは京都の宇治に現われます。自然の多い場所でもありますが、観光に訪れる人も多くいます」
 敵は昼の人が多い時間に現われる。巻き込んでの戦いとなれば多くの人が犠牲になってしまうだろう。
「敵はカマキリ虫を人型メカにしたような見た目をしているようです」
 その鋭い両手の巨大な鎌を武器として戦う。死ぬ事を厭わぬ戦士は強敵だ。
「太陽神アポロンの思惑を阻止する為には、まずは先鋒である不退転侵略部隊を叩かなくてはなりません。決死の覚悟を持った敵は手強いと思います。ですが多くの人を助ける為にも、皆さんの力でこれを打ち破ってほしいのです。どうか、よろしくお願いします」
 セリカの言う通り、このままでは敵の大々的な攻勢に被害は甚大なものになるだろう。それを阻止してみせると、ケルベロス達は強い意思をその瞳に宿しヘリオンへと向かった。


参加者
夜桜・月華(まったりタイム・e00436)
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)
白波瀬・雅(サンセットガール・e02440)
月隠・三日月(月灯は道を照らす・e03347)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
勢門・彩子(悪鬼の血脈・e13084)
西院・織櫻(白刃演舞・e18663)
フィーユ・アルプトラオム(悪夢の少女・e27101)

■リプレイ

●京都
 宇治駅から人々が観光地へと向かう。そんな光景を上空を飛ぶヘリオンからケルベロス達が見下ろしていた。
「相手は絶対に撤退等しない兵(つわもの)と聞きますわ……戦えるのが楽しみですわね」
 戦いに逸る心を抑え、フィーユ・アルプトラオム(悪夢の少女・e27101)が地上を見下ろした。
「大丈夫なのです。私は負けないのです」
 隣では胸に手を当て、夜桜・月華(まったりタイム・e00436)は心を落ち着かせる。その時、地上で悲鳴が上がる。
「ぎゃぁあ!」
「化け物!?」
 逃げ惑う人々、その中心には人のように立つ両腕が鋭利な大鎌となったカマキリ型ローカストの姿があった。
 急行するヘリオンからケルベロス達が飛び降り、逃げる人々を追おうとする敵と対峙する。周囲には3名の人が真っ赤に染まり倒れている。見れば首が切断され、頭が無造作に転がっていた。
「何者か! 不退転部隊の使命を邪魔する者は容赦なく斬り捨てるぞ!」
 カマキリが大きな声で一喝する。痛ましい表情で亡骸を見た後、これ以上犠牲者は出させないと強い視線を敵に向ける。
「誇り高きローカストと見受けたのです。私のケルベロスとしての誇りとあなたの戦士としての誇りを賭けて勝負して欲しいのです。私は誇りにかけて絶対に撤退しないのです。お互いに不退転。同じ条件で勝負をしましょう」
 月華が戦士として戦いを申し込む。
「ローカストの不退転部隊か、だけど引けないのはこっちも同じなんだよね」
 カマキリの鋭い視線に笑みを返し、白波瀬・雅(サンセットガール・e02440)はヴァルキュリアの鎧を展開する。
「貴方達が命を賭して守りたい星があるように、私達の後ろには沢山の人達が居る。皆を守るためにも、ここを通す訳には行かない!」
 雅は人々の方へは行かせないと立ち塞がる。
「ケルベロスめ、我等の作戦を邪魔しにきたかっ」
「その不退転の称号が真実か偽りかは、あなた達がどうするかで決まる事。……それに、グラビティチェインが欲しいなら一般人より私達を殺す方が効率いいと思うけど」
 表情を変えぬまま、トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)は挑発的な台詞を投げかける。
「死を覚悟して狙うのが弱者とは、手当たり次第食い荒らす蝗そのものですね」
 莫迦にしたように西院・織櫻(白刃演舞・e18663)が惨劇の後を見渡す。
「最も、私の刃は相手を選びませんが。不退転の死に際を飾るか唯の虫けらとして死ぬか、お好きにどうぞ」
 軽い口調ながらもその眼光は殺意を放って敵の一挙一動を見通す。
「敵に背を向けて弱者を殺すのが、誇りある者の戦いか? このまま力無き人々を屠り続けて我々に背中から斬り斃されるか、それとも我々と正々堂々戦うか、好きな方を選べ!」
 正面から堂々と月隠・三日月(月灯は道を照らす・e03347)が真っ黒な忍装束に変身し勝負を挑む。その姿は周囲の人々の脅えた心を励ました。
「ローカストは10歳の子供にも背を向けてせせこましく稼いだ蟲”でした”って記録するよ?」
 自分に注意を向けるように、黒ビキニにケルベロスコートを羽織った峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)は挑発する。
「舐めた口を叩く。それだけ好き放題言うのだ。腕に自信はあるのだろうな?」
 カマキリの大きな目がケルベロス達を獲物として捉えた。
「私たちはお前を倒すために来た。そう此処のグラビティチェインを渡さないためだ。勝った方がこれを得る。シンプルだろ?」
 不敵な笑みを浮かべた勢門・彩子(悪鬼の血脈・e13084)は、地獄より生じた炎を宿す右腕を敵に向けて手招きした。
「来いよ」
「口だけは達者なようだな。まずはお前達のグラビティチェインから刈り取ってやろう!」
「貴方を屈強な戦士と聞きましたわ……ですがやってる事は力の無い者を襲う蛮族ですわね。自身を戦士と言うなら先ず私達ケルベロスを倒してみなさい!」
 鎌状の両腕を振り上げるカマキリに、フィーユは魔力の光を放った。

●蟷螂
「我が腕は全てを斬り裂く、必殺の刃なり!」
 光線を蟷螂は左腕で斬り払い、距離を詰めて右腕を振り下ろす。
「それでこそローカストの勇者だ」
 ローラーダッシュで割り込んだ彩子がその鎌を巨大な剣で受け止め、押し返す。切っ先が蟷螂の胸を裂いた。
「シンプルな相手で助かります。互いに敵なら、戦うだけでしょう?」
 蟷螂が一歩引いたところへ、跳躍したトエルが巨大な斧を振り下ろす。敵は鎌で受け止めるが、押し切られて額に深い傷が走る。
「ローカストと戦うのは初めてだけど、負けられないからね!」
 まだ暴走から復帰したばかりで体が本調子とはいえないが、雅は心を奮い立たせ地面を蹴り、空を駆けるように飛び蹴りを浴びせた。
「この程度か?」
 蟷螂が両腕に怨念を宿らせる。
「ではその命が燃え尽きるまでお相手しましょう」
 疾走する織櫻が黒鞘から瑠璃の象嵌が施された白刃を抜き放つ。刃には雷が宿り、駆ける勢いのまま突きが腹部に刺さる。
 更に背後から忍び寄ったフィーユは大鎌を振るい、刃が肩を抉った。
「この切り刻む感触……最高ですわ♪」
 笑みを浮かべてフィーユは間合いを開ける。
「ぬるい!」
 攻撃を受けながらも両腕の鎌が振り抜かれ、周囲に怨霊が放たれた。
「夜桜殿は後ろへ!」
 前に出て庇う三日月は、回復役である月華を分身させて敵の攻撃から守る。
「魔力を癒やしの力に変えて――波動を纏うのです」
 魔術回路を活性化させ月華が魔力の波動を纏う。そして波動を広げて三日月を包み、受けた傷を癒してゆく。
「ふんっ」
 追い討ちを仕掛けるように蟷螂は腕を振り上げた。
「退けないもの同士が真っ向から鉢合わせたら、あとは激突するだけだよっ」
 恵は路上駐車してある車を盾にしながら、銃弾を撃ち込む。弾丸はその腕を弾き体勢を崩す。
「私達の攻撃がぬるいかどうか、味わってみますか」
 そこへ踏み込んだトエルは槍のような形状の絡み合う茨で突き、刺さった腹から茨を伸ばして蟷螂の体を拘束する。
「これで俺を封じたつもりか!」
 鎌を操り茨を切り裂く。そしてトエルに向けて反対の鎌を振り上げた。
「仲間を傷つけさせない!」
 三日月がじっと蟷螂の腕に視線を集中すると、その鎌がいきなり爆発して仰け反る。
「私の前でもう誰も殺させはしない、絶対に!」
 雅が掌を向ける。するとドラゴンの幻が現われ、その大きく開いた顎門から炎を吐き出した。
「ぬぅっ」
 炎から逃れようとした蟷螂の足が止まる。見れば足が石と化していた。
「動きを止めたよっ」
 恵の放つ魔力が蟷螂を更に石化させようとする。
「小癪な!」
 それを鎌で斬り払い蟷螂は炎の渦から逃れる。
「貴方のその姿……石像にして差し上げますわ」
 そのタイミングでフィーユが光線を放つ。照射された蟷螂の胴が石と化していく。
「手数か! ならば一人ずつこの鎌で刈り取ってやるわ!」
 蟷螂はフィーユに狙いを定めて駆け出し、その鎌で首を掻き切ろうとする。
「此方の数が多くて悪いな。それはお前の力を評価した上でだ」
 その一撃を彩子は剣で受け止め、反動で体を回転させて後ろ回し蹴りを脇腹に叩き込む。蟷螂は息を漏らしながらも、鎌を押し切って彩子の肩を斬り薙ぎ倒した。
「ならばそれでも戦力が足りないと教えてやろう!」
 振り上げた鎌が首を狙って下ろされる。
「ならこちらはこの戦力で十分だと証明しましょう」
 踏み込み織櫻は霊力を帯びた刀を逆袈裟に振るって鎌を弾き、刀を返して袈裟に蟷螂の体を斬りつけた。
「戦士として堂々とあなたを超えるのです」
 月華が放つ魔力の波動が、彩子の傷を塞ぎ出血を止めた。

●不退転
「こうも俺の必殺の鎌を防がれるとはな、認めよう。お前たちが戦士であると……だが使命を果たす前に負けられぬ!」
 蟷螂の動きが鋭さを増し、瞬時に接近し鎌が振り下ろされる。それを割り込んだ雅がオーラを纏わせた腕で受け止めた。
「貴方にも守りたい物があるんだよね。でもそれは、他の星を侵略していいってことじゃないよ!」
 雅は降魔の力を足に宿し、回し蹴りを顔に叩き込む。
「鍵はここに。時の円環を砕いて、厄災よ……集え」
 トエルは髪を媒介にして白銀の茨を召喚して斧に纏わせ、駆け寄ると勢いを乗せ薙いだ。刃は胴を裂き、傷口を急速に悪化させていく。
「貴様はもう誰も殺せない!」
 更に背後に回りこんだ三日月が掌で軽く背中に触れる。すると螺旋の力が内部に伝わり内臓をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。
「ぐはっ」
 口から液体を吐きながら、蟷螂は振り返り鎌を振るおうとする。
「そんなもの振り回したら危ないよっ」
 恵が腕に銃弾を撃ち込み鎌の軌道を変え、刃はガードレールを切り裂いた。
「命を懸けたお前の力、味わわせてもらおうか」
 その隙に彩子は大剣を上段から振り下ろす。肩口に入った刃は腕を落とす程の威力がある。だがその刃は皮膚を裂いたところで止まった。
「この身、全てが鋼なり!」
 蟷螂の体が金属のように硬化していた。
「硬そうですわね。でも燃やされるのは平気かしら?」
 フィーユがドラゴンの幻影を生み出し、その口から放たれるブレスが蟷螂を焼く。
「ちぃっ」
 蟷螂は炎を嫌がり間合いを離し自らの傷を癒そうとする。
「休む間は与えません」
 影の弾丸を撃った織櫻はそれを追う様に間合いを詰め、蟷螂が弾丸を避けたところへ刀を突き入れた。
「ならばお前達全員を殺してからゆっくりと傷を癒そう! 掛かって来い!」
 両鎌から怨霊が周囲に放たれる。近くにいたケルベロスの体が石へ変わり始めた。
「相手も必死なのです、でも負けないのです!」
 月華の手元から伸びた植物が黄金の果実を実らす。輝き出した実は光を放ち、仲間の石化を止めた。
「状態異常は厄介だからね、早めに治療しておくよ」
 続けて恵が桃色の霧を放ち、石化からの治療を手伝う。
「こういうの、『体育会系のノリ』っていうんですかね」
 熱苦しい敵に対し、トエルは冷静に斧に地獄の炎を纏わせ叩き込む。
「ぜあぁっ」
 腰に斧が食いこみながらも、お返しとばかりに仁王立ちした蟷螂の鎌がトエルに左右から襲い掛かる。
「不退転部隊と名乗るだけはあるね!」
 飛び込んだ雅の手には赤い剣が具現化し、左右の鎌を弾き受け止める。もう一度攻撃しようとする蟷螂から間合いを離すと、赤い剣は霧散して消え去った。
「こちらもいくぞ」
 彩子は大剣に指輪を沿わす。そして光が宿った剣を横薙ぎに振り抜いた。刃は胸を抉り深く傷つける。
「不退転部隊に後退はない! 切り開くのみ!」
 どろりと胸から液体を垂れ流し、鬼気迫る様子で蟷螂は彩子の首へ凶刃を振るう。
「私だって貴様を倒すまで退く気はない!」
 刀に光を纏わせた三日月が円を描くように刀を振るうと、光の盾が展開され攻撃を受け止めた。だが刃は留まらず、盾を削り三日月の肩に食い込む。
 そこへフィーユが魔力を蟷螂の足に当てる。幾度にも重ねられた魔力がとうとう下半身を石にしてしまう。
「もう少しで完璧な石像になりそうですわ♪」
「おのれ邪魔立てを!」
 蟷螂は鎌に怨念を溜めてフィーユを睨む。
「どんな怪我もすぐに治すのです」
 その間に月華はすぐさま魔力の波動を放ち、三日月の肩から流れる血を止めた。
「そちらに攻撃の手番は与えません」
 織櫻が横から斬り掛かると、蟷螂は左の鎌で受け止め左の鎌で胴を薙ぐ。それを織櫻は左手で抜いた刃に桜の象嵌がある刀で受け止め、腕と太腿を斬りつけながら離れる。
「小賢しい真似を!」
 そこへ蟷螂は怨念を解き放とうとする。だがその胸に白銀の植物が突き出た。振り向けばトエルが手にした槍を背中に突き刺していた。
「あなた達にこれ以上のグラビティチェインは与えない」
 槍を捻り引き抜くと、空いた穴から濁った体液が吹き出た。
「おぉのれがぁ!」
 蟷螂は縦横無尽に鎌を振り回す。辺りにある車やガードレールが切り刻まれていく。
「最後の足掻きか? だが隙だらけだぞ!」
 三日月は地を蹴り、建物の壁を蹴り、電柱を蹴って敵の背後を取り刀を抜き放ち脇腹に突き立てた。
「間合いに入ったな?」
 ぐるりと上半身が反転し、鎌が横薙ぎに振るわれる。
「ここで倒すんだよっ」
 狙いをつけた恵が放つ銃弾が鎌の付け根に当たり、パキッと鈍い音と共に折れた右腕の刃が地面に刺さった。
「私の人形劇を最後まで堪能すると良いですわ!」
 フィーユは自らの腕に傷をつけると、血の雫に魔力を籠める。すると自らを模したレプリカが3体生まれ、四方から一斉に蟷螂に襲い掛かる。2撃まで蟷螂は鎌で防いだが続く3,4撃が胴と背中を斬りつけた。駆け抜けるように間合いを開けるとすぐにレプリカ達は幻のように消え去ってしまう。
「まだだ! この命が燃え尽きる前に、道連れにしてやる!」
 残った左腕を地面に引っ掻けて自らの体を飛ばす。そして大きく左の鎌を振りかぶる。
「貴方を止めるために、私も自分の全力でいくよ!」
 周囲に撒き散らされるオーラを雅はその手に集め光槍を生み出す。鎌と槍が交差し、鎌は雅の肩を裂き、カウンターの突きは正確に蟷螂の腹を貫いていた。
「ぐほっ」
「あなた一人で逝ってもらうのです」
 月華の蹴りが石化していた蟷螂の足を砕く。それでも蟷螂は体を引き摺って前に出た。
「不退転の名の通り、前のめりに死ぬか」
 間合いの離れたまま織櫻が左右の二刀を振るう。すると刃から衝撃波が放たれ蟷螂に霊体のみを切り裂いた。
「我等は……ただ前進するのみ!」
 満身創痍であっても戦意は衰えず、蟷螂はその腕を振り上げる。
「見事だ。ならこちらも全力で応えよう」
 彩子は大上段に大剣を構え、叩きつけるように振り下ろした。鎌も頭も地面にめり込ませ、蟷螂は絶命した。

●誇り
 周囲に逃げていた人々の姿が戻り始めた。
「とっても勇敢な戦士だったのです。私はあなたと戦った事を忘れないのです」
「不退転部隊の誇り高き死に様、確かに見せてもらった」
 月華と三日月は誇り高き敵と犠牲になってしまった人の冥福を祈る。
「貴方との踊りは楽しかったですわ、安らかに眠りなさい」
 フィーユはまるでダンスの相手と別れるように艶やかに微笑んだ。
「害虫駆除じゃなく、戦士との戦いだったよ」
 恵は壊れた周辺にヒールをかけていく。
「仲間だったら頼もしかっただろうな」
「人を襲う使命がなければ、誇り高き戦士だったのでしょう」
 真っ直ぐな生き様に、彩子は敵である事を惜しいと思う。その言葉に織櫻も頷く。
「貴方の力は私が受け継ぐね」
 雅がローカストの亡骸を光に変えてその手に掴み取った。
「何者であれ敵は倒すだけです」
 自分には戦う事しか出来ないとトエルは収容される犠牲者から視線を逸らした。
 犠牲者は最小限に抑えられたが、不退転部隊全体の出した被害を思うと安易には喜べない。ケルベロス達は他の情報を得る為、ヘリオンに戻るのだった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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